靈蘭之室 茶餘酒後

   ……休息している閑な時間

入則抵深

 『太素』巻27耶伝に「是故虚耶之中人也,始於皮膚,皮膚緩則腠理開,從毛髮入,入則柩深。」とあり、楊上善注に「柩,久也。」とあることになっていて、銭超塵教授は「就是唐初楊上善亦偶有誤辨誤訓者」の例に挙げられるが、必ずしもそうでは無いのかも知れない。原鈔の傍らの「ヒ ク」はさておき、鼇頭に「丁礼反久也」とある。そこで、古字書を漁ってみると、『玉篇』に「觝 丁礼切觸也 或作抵」とあった。してみると原鈔者は、この字が「柩」ではなくて、「抵」あるいはその俗字「𢪔」であると、正しい判断をしていた可能性が高い。つまり、楊上善は誤ってなかったわけであり、原鈔者もそれを正しく読んでいたことになる。それでは「久也」はどうしたことか。あるいは「及也」であれば、大過ないのではなかろうか。
 臆解として、『太素』にはもともと「𢪔」はさらに「柩」に近い形にくずして書かれていて、楊上善の注は「及也」であった。それを、内容的には正しく判読していたはずの原鈔者が、誤って模写してしまった。そいう字形も有りうる、そういう字義も有りうる、と思ったのかも知れない。乃ち罪は楊上善にではなく、我らがご先祖さまに在る。オリエント出版社が影印した模写には鼇頭の注と旁書は無い。

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