杏林大学脳神経外科 初期研修プログラム

脳神経外科選択研修プログラム
(1)脳神経外科の診療と研修の概要

脳神経外科は、神経系疾患のうち特に外科的治療の対象となりうるものについて診療・研究する基本診療科のひとつであり、杏林大学においては脳血管障害、脳腫瘍、頭部外傷を中心に高い実績を挙げている。初期臨床研修においては、誰もが医師として経験を積むことが求められているcommon diseaseである脳血管障害や頭部外傷などの診療を通して、神経救急の診療と神経疾患の診察、診断を体得すると共に、意識障害の診断・初期治療を行うことができることを、その目的とする。
脳神経外科は、決して稀な疾患に対する特殊な手術だけを行っている診療科ではない。脳神経外科の一端を学ぶ事は、神経系症状に悩む患者との診療経験から得られる全人的医療の第一歩でもあり、将来の専攻する診療科にかかわらず、初期臨床研修期間中の履修を強く勧めるものである。
脳神経外科は杏林大学初期臨床研修プログラムでは選択科となっており、本プログラムは、Aプログラムの1年目外科選択研修ないし2年目選択研修、Bプログラムの2年目外科選択研修ないし選択研修のいずれかにおいて、脳神経外科を選択する研修医のためのものである。
杏林大学脳神経外科は、従来より教育も重んじる教室の方針を掲げており、選択した研修医の意欲と外科領域の研修歴、実力に応じて、最大限の手術手技修得の機会を与えている。人の生命や神経機能に直接関係する疾患が多いので、深い知識と確かな技術が要求されるが、やりがいが大きいことも確かである。

(2) 研修期間

このプログラムの研修期間は1か月である。将来、脳神経外科を専攻する可能性のあるものは2ヶ月以上を選択することが望ましい。また、特に脳血管障害に関心を持つものは、別に脳卒中センターの履修も推奨する。

(3) 研修目標

T.職業倫理

2年間の臨床研修を通じて修得すべき重要な目標で、各科共通である。「臨床研修全体の目標」を参照のこと。特に脳神経外科は生命予後に影響する疾患も多く、かつ侵襲的治療を日常的に行っているので、患者(しばしば意識障害あり)やその家族と強い信頼関係を構築する必要があり、高い職業倫理が求められる。

U.患者―医師関係

【到達目標】
1. 患者、家族と良好な関係を築くことができる。
2. 患者、家族のニーズを身体的・心理的・社会的側面から把握できる。
3. 患者のプライバシーに配慮し、守秘義務を果たす。
【具体的目標】
(1) 個々の診療場面(病棟・外来・救急外来)において適切な医療面接を行える。(技能)
(2) 患者、家族の訴えをよく聴き、苦痛や不安について共感的に理解する。(態度)
(3) 検査や治療について適切に説明し、インフォームド・コンセントを得ることができる。(技能)(2年目)
(4) 患者の個人情報の管理に留意する。(態度)
(5) 守秘義務を遵守する。(態度)

V.安全管理

【到達目標】
1. 常に安全な医療を心がけ、安全確認を実施する。
2. 医療安全に関するルールを理解し、遵守する。
3. 個々の場面において自分のできることとできないことを判断し、適切な行動をとることができる。
【具体的目標】
(1) 医療安全マニュアルに基づいて個々の医療行為を行う。(態度)
(2) 個々の医療行為に際して、定められた確認(患者確認、指差確認)の手順を確実に実施する。(態度)
(3) 医療現場における確実な情報伝達に留意する。(指示を明確に。口答指示は手順を守り、確実に伝わったことを確認する。)(態度)
(4) スタンダード・プリコーションを理解し、実施する。(態度)
(5) 不確実なこと、自己の能力を超えることを強行せず、指導者に援助を求める。(問題解決、態度)

W.チーム医療

【到達目標】
1. 診療チームのメンバーと良好な関係を築く。
2. 診療チームにおける自己の責任を認識し、それを果たす。
3. チームのメンバーや、他施設の人と適切に情報交換を行う。
【具体的目標】
(1) チーム医療における自己の責任を果たす。(態度)
(2) チーム医療のメンバーに社会的常識と思いやりを持って接する。(態度)
(3) チーム医療のメンバーと適切にコミュニケート(報告、連絡、相談)する。(態度)
(4) 場面(回診・カンファレンスなど)に応じて適切に症例呈示を行うことができる。(技能)
(5) 診療録、退院サマリーを遅滞なく、適切に記載する。(問題解決、態度)
(6) ルールに従って指示(オーダリングシステム、口頭)を適切に行う。(問題解決、態度)
(7) 紹介状、他科紹介、返事を適切に作成できる。(解釈)
(8) コメディカル、後輩医師、学生に対して教育的配慮をする。(態度)(2年目)

X.医学知識

【到達目標】
1. 頻度の高い疾患や病態(厚生労働省の定める経験目標「B 経験すべき症状・病態・疾患」)のうち、脳神経外科領域に関連の深いものについての知識を身につける。
2. 基本的な検査法(厚生労働省の定める経験目標「A(3) 基本的な臨床検査」)および基本的な治療法(同「A(5) 基本的治療法」)のうち、脳神経外科領域に関連の深いものについての知識を身につける。
3. 個々の患者について、病歴、診察所見、検査所見を適切に解釈・評価できる。
4. 個々の患者について、プロブレムリストの作成、鑑別診断、検査・治療計画の立案ができる。
5. 根拠に基づく医療(EBM =Evidence Based Medicine)の考え方を理解し、個々の患者の問題解決に応用できる。(2年目)
【具体的目標】
★個別の病態・疾患については、「[.経験目標」を参照のこと。
(1) 個々の患者について、病歴・身体診察所見に基づいて、プロブレムリストの作成、鑑別診断、および検査・治療計画の立案ができる。(問題解決)
(2) EBMを個々の患者の問題解決に応用することができる。(問題解決)
(3) 療養指導(安静度、体位、食事、入浴、排泄、環境整備を含む)を適切に行うことができる。(問題解決)
(4) 薬物の作用、副作用、相互作用について理解し、薬物治療(抗菌薬、副腎皮質ステロイド薬、解熱薬、麻薬、血液製剤を含む)を適切に行うことができる。(問題解決)
(5) 処方箋を適切に記載できる。(問題解決)
(6) 基本的な輸液療法を行うことができる。(問題解決)

Y.診療技能

【到達目標】
1. 医療面接(病状説明等を含む)を適切に実施できる。
2. 基本的な身体診察を適切に実施できる。
3. 基本的な検査手技(厚生労働省の定める経験目標「A(3) 基本的な臨床検査」のA項目)および治療手技(同「A(4) 基本的手技」)を適切に実施できる。
4. 基本的な外科手技を習得する(Bプログラム)。
5. 患者の不安・羞恥心・苦痛に配慮しつつ手技を行う。
【具体的目標】
★個々の検査手技、治療手技については、「[.経験目標」を参照のこと。
(1) 個々の診療場面(病棟・外来・救急外来)において適切な医療面接を行うことができる(U.患者−医師関係にも記載)。(技能)
(2) 成人の基本的な身体診察(バイタルサイン、全身状態、頭頸部、胸部、腹部、四肢、神経系)を適切に実施できる。(技能)
(3) 小児の基本的な身体診察(バイタルサイン、全身状態、頭頸部、胸部、腹部、四肢、神経系)を適切に実施できる。(技能)
(4) 神経所見を適切にとることができる。(技能)
(5) 以下の検査手技を適切に実施できる。(技能)。
[1] 血液型判定・交差適合試験
[2] 心電図(12誘導)
[3] 動脈血ガス分析
(6) 以下の治療手技を適切に実施できる。(技能)。
[1] 気道確保
[2] 人工呼吸(バッグマスクによる徒手換気を含む)
[3] 注射法(皮内、皮下、筋肉、点滴、静脈確保、中心静脈確保)
[4] 採血法(静脈血、動脈血)
[5] 穿刺法(腰椎)
[6] 導尿法
[7] ドレーン・チューブ類の管理
[8] 胃管の挿入と管理
[9] 局所麻酔法
[10] 創部消毒とガーゼ交換
[11] 皮膚縫合法
[12] 気管挿管

Z.医療の社会性

【到達目標】
1. 保健医療法規・制度を理解し、遵守する。
2. 医療保険、公費負担医療を理解し、コスト意識を持って適切に診療する。
【具体的目標】
(1) 保健医療法規にのっとり適切な診療をする。(態度)
(2) 医療保険、公費負担制度を理解する。(想起)
(3) 疾患に応じて適切なクリニカルパスを適応できる。(2年目)(問題解決)
(4) 症状詳記を記載できる。(解釈)
(5) 医療材料を無駄遣いしないように留意する。(態度)

[.経験目標

当科研修中に以下の疾患・病態や検査および処置を経験することを目標とする。ただし、すべての項目が必須事項というわけではない。また、他科で経験できる項目もある。*は必修項目。#は必修項目でレポート作成を要する。
《基本的な臨床検査および専門的検査》
[1] 単純X線検査(頭部)*
[2] X線CT検査(頭部)*
[3] MRI検査(頭部)*
[4] 髄液検査*
[5] 神経生理学的検査(脳波・筋電図など)*
《基本的手技および専門的手技》
[1] 気道確保*
[2] 人工呼吸(バッグマスクによる徒手換気を含む)*
[3] 穿刺法(腰椎)*
[4] ドレーン・チューブ類の管理*
[5] 胃管の挿入と管理*
[6] 局所麻酔法*
[7] 創部消毒とガーゼ交換*
[8] 皮膚縫合法*
[9] 気管挿管*
《頻度の高い症状》
[1] 頭痛#
[2] めまい#
[3] けいれん発作
[4] 視力障害、視野狭窄#
[5] 四肢のしびれ#
《緊急を要する症状・病態》
[1] 意識障害*
[2] 脳血管障害*
[3] 頭部外傷*
《疾患・病態》
[1] 脳血管障害(脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血)#
[2] 外傷(頭部外傷、急性硬膜外・硬膜下血腫)
[3] 脳腫瘍(悪性腫瘍、良性腫瘍)
《経験できる可能性のある手術》
[1] 開頭術(第一または第二助手)
[2] 穿頭ドレナージ術(術者)
[3] VPシャント術(第一助手)

(4) 研修方略

T 指導スタッフ

氏名 職位 専門領域
塩川 芳昭 教授・診療科長 血管障害、良性脳腫瘍
永根 基雄 教授 悪性脳腫瘍、化学療法
佐藤 栄志 准教授 血管内手術
野口 明男 講師 脳卒中、頭痛、頭蓋底
丸山 啓介 学内講師 脳血管障害、良性脳腫瘍、神経内視鏡手術、
定位放射線治療、臨床統計学
小林 啓一 学内講師 脳腫瘍、定位放射線治療
脊山 英徳 助教 血管障害、血管内手術
山口 竜一 助教 血管障害、神経内視鏡
岡村 耕一 助教 脳卒中、虚血性脳血管障害の治療
鳥居 正剛 助教 脳神経外科全般
田中 雅樹 助教 脳神経外科全般
齋藤 邦昭 助教 悪性脳腫瘍、エピジェネティクス
小松原 弘一郎 助教 脳神経外科全般
熊切 敦 助教 脳神経外科全般

U.診療体制

当科は、血管障害・良性脳腫瘍チーム、悪性脳腫瘍・化学療法・定位的放射線手術チーム、救命センターチームおよび脳卒中センターチームに大別されており、一般病棟3チームと救命センター1チーム、脳卒中センター1チームで診療している。各チームに日本脳神経外科専門医が主治医として配属され、その主治医のもと担当医らがチーム診療を行っている。

V.週間予定

7 朝カンファランス 朝カンファランス 朝カンファランス 朝カンファランス 朝カンファランス 朝カンファランス
8 手術 病棟業務 手術 病棟業務 病棟業務
9 病棟業務
10
11
12
13
14 回診
15
16 病棟業務
17
18
19
20

W.研修の場所


脳神経外科病棟:外科病棟4階
脳神経外科外来:外来棟4階
救命センター:救急外来、病棟

X.研修医の業務・裁量の範囲

《日常の業務》

  1. 新入院患者に面接し、病歴を聴取する。
  2. 新入院患者の診察を行う。
  3. 新入院患者のプロブレム・リストを作成する。
  4. 朝と夕方に受け持ち患者を診察し、診療録の記載を行う。
  5. 定時採血は看護師が行うが、採血の手技に十分習熟するまでは研修医が行う。
  6. 検査計画・治療計画を立案する。
  7. 手術予定患者の術前検査施行と評価を行う。
  8. 手術の助手と術後管理を行う。
  9. 血管撮影、血管内手術の助手と術後管理を行う。
  10. 各カンファレンスへ参加する。(朝カンファレンス開始時刻は月、水、木曜日午前7時30分、火、金曜日午前8時15分、土曜日午前9時で、3-3A病棟脳神経外科カンファレンスにて行う)毎週木曜日午後1時30分よりカンファレンスルームにて、フィルムカンファレンス後教授回診がある。
  11. 入院患者の点滴などの処置を行う。
  12. 退院患者の入院時サマリーを作成する。(提出は退院後2週間以内の水曜日朝カンファレンスで教授のサインを受ける)

《当直・休日》

  1. 4週間に4〜5回の当直がある。
  2. 当直の業務は急患と入院患者への対応である。(緊急手術の介助を含む)
  3. 当直時間は午後4時30分から翌日朝カンファレンスの引継(休日は翌日午後0時交代)までである。
  4. 当直翌日は午後1時でduty offとする。

《研修医の裁量範囲》

  1. 「研修医が単独で行ってよい医療行為」の範囲内で、単独で行うことを指導医が認めたものについては、指導医の監督下でなく単独で行ってもよい。ただし、通常より難しい条件(全身状態が悪い、医療スタッフとの関係が良くない、1〜2度試みたが失敗した、など)の患者の場合には、すみやかに指導医・上級医に相談すること。
  2. 指示は、必ず指導医・上級医のチェックを受けてからオーダーすること。
  3. 診療録の記載事項は、かならず指導医・上級医のチェックを受け、サインをもらうこと。
  4. 重要な事項を診療録に記載する場合は、あらかじめ記載する内容について指導医・上級医のチェックを受けること。
  5. 救急外来で患者を見た場合は、帰宅させてもよいかどうかの判断を指導医・上級医にあおぐこと。

Y.その他の教育活動

1. 3か月に1回(木曜日)神経内科との合同カンファレンスがある。
2. 皮膚の縫合については、習熟するまでシミュレーション・ラボにて練習すること。毎週木曜日の18:00〜19:00には指導医が交代で指導に当たる。
3. CPCやリスクマネージメント講習会などの院内講習会には、当直であっても積極的に出席すること。その間の業務は指導医・上級医が行う。
4. 珍しい症例などを受け持った場合、地方会などで報告する。

(5) 研修評価

研修目標に挙げた目標(具体的目標)の各項目のうち評価表に挙げてある項目について、自己評価および指導医による評価を行う(総括的評価)。また、日々の研修態度についても評価する。なお、指導医が評価を行うために、コメディカル・スタッフや患者に意見を聞くことがある。
評価は「観察記録」、すなわち研修医の日頃の言動を評価者が観察し、要点を記録しておく方法により行い、特に試験などは行わない。研修終了時に診療科長が研修医と面談し、指導医の記載した評価表に基づいて講評を行う。また、評価表は卒後教育委員会に提出され、卒後教育委員会は定期的に研修医にフィードバックを行う。
上記以外に、研修目標達成状況や改善すべき点についてのフィードバック(形成的評価)は、随時行う。

(6) その他

当科の研修に関する質問・要望がありましたら下記の臨床研修担当責任者に御連絡ください。
臨床研修担当責任者
kyorinn-adm@umin.ac.jp
主任教授 塩川 芳昭
医局長  山口 竜一