杏林大学脳神経外科 初期研修プログラム

脳神経外科選択研修プログラム2024
(1)脳神経外科の診療と研修の概要

 脳神経外科の初期研修では、主に脳血管障害と頭部外傷の診療を通して、神経系救急疾患の診療を体得すると共に、脳腫瘍などその他の脳神経外科診療の一端を学ぶ事を目的とする。

  平成22年度からのカスタムメイド型研修(現「一般コース」)においては、将来の専攻科にかかわらずcommon diseaseである脳卒中や外傷診療などの神経疾患診療経験の修得を希望する者と、脳神経外科を将来の専攻科目としている者のいずれも、本研修内容にて教育を行う。後者については、日本脳神経外科学会研修医会員となり、学会指定のカリキュラムに従って研修を行う。

 

(2) 研修期間

 このプログラムの研修期間は428週間(4週間単位)である。なお、6週間の研修期間にも対応している

(3) 研修目標

A.医師としての基本的価値観(プロフェッショナリズム)

1.社会的使命と 公衆衛生への寄与

 社会的使命を自覚し、説明責任を果たしつつ、限りある資源や社会の変遷に配慮した公正な医療の提供及び公衆衛生の向上に努める。

2.利他的な態度

 患者の苦痛や不安の軽減と福利の向上を最優先し、患者の価値観や自己決定権を尊重する。

3.人間性の尊重

 患者や家族の多様な価値観、感情、知識に配慮し、尊敬の念と思いやりの心を持って接する。

4.自らを高める姿勢

 自らの言動及び医療の内容を省察し、常に資質・能力の向上に努める。

5.社会人としての常識と研修態度

 社会人としての常識を身につけ、指導者の指示に従って積極的に研修を行うことにより、院内での自らの責任を果たす。

B医師としての資質・能力

 19は、プログラム全体に共通する目標のうち、当科において研修可能なものを示す。また、10には当科に特有の目標を示す。

1.医学・医療における倫理性

診療、研究、教育に関する倫理的な問題を認識し、適切に行動する。

@      人間の尊厳を守り、生命の不可侵性を尊重する。

A      患者のプライバシーに配慮し、守秘義務を果たす。

B      倫理的ジレンマを認識し、相互尊重に基づき対応する。

C      利益相反を認識し、管理方針に準拠して対応する。

D      診療、研究、教育の透明性を確保し、不正行為の防止に努める。

2.医学知識と問題対応能力

最新の医学及び医療に関する知識を獲得し、自らが直面する診療上の問題について、科学的根拠に経験を加味して解決を図る。

@      頻度の高い症候について、適切な臨床推論のプロセスを経て、鑑別診断と初期対応を行う。

A      患者情報を収集し、最新の医学的知見に基づいて、患者の意向や生活の質に配慮した臨床決断を行う。

B      保健・医療・福祉の各側面に配慮した診療計画を立案し、実行する。

3.診療技能と患者ケア

臨床技能を磨き、患者の苦痛や不安、考え・意向に配慮した診療を行う。

@      患者の健康状態に関する情報を、心理・社会的側面を含めて、効果的かつ安全に収集する。

A      患者の状態に合わせた、最適な治療を安全に実施する。

B      診療内容とその根拠に関する医療記録や文書を、適切かつ遅滞なく作成する。 

上記の目標を達成するために、以下の臨床手技の修得*を必須とする(当科で研修が可能なもの)。

医療面接(病歴聴取)

基本的な身体診察(婦人科の内診、眼球に直接触れる診察を除く)

導尿法

採血法(静脈血、動脈血)

動脈血ガス分析(採血、計測)

細菌培養の検体採取(耳漏、咽頭スワブ、体表の分泌液、血液、尿)

穿刺法(腰椎、ただし薬剤の注入は除く)

心電図(12誘導)

人工呼吸(バッグ・バルブ・マスクによる徒手換気を含む)

胸骨圧迫

除細動(AEDの操作を含む)

圧迫止血法

創部消毒とガーゼ交換

包帯法

簡単な切開・排膿

軽度の外傷・熱傷の処置

皮膚縫合法

局所麻酔法

注射法(皮内、皮下、筋肉、静脈確保)

胃管の挿入と管理(注入を除く)

*「修得」とは、指導医や上級医の直接の指導・監督下ではなく、単独または看護師等の介助の下で実施できるようになることを意味する。ただし、小児や協力の得られない患者での単独実施まで求めるものではない。

4.コミュニケーション能力

患者の心理・社会的背景を踏まえて、患者や家族と良好な関係性を築く。

@      適切な言葉遣い、礼儀正しい態度、身だしなみで患者や家族に接する。

A      患者や家族にとって必要な情報を整理し、分かりやすい言葉で説明して、患者の主体的な意思決定を支援する。

B      患者や家族のニーズを身体・心理・社会的側面から把握する。

 5.チーム医療の実践

医療従事者をはじめ、患者や家族に関わる全ての人々の役割を理解し、連携を図る。

@      医療を提供する組織やチームの目的、チームの各構成員の役割を理解する。

A      チームの各構成員と情報を共有し、連携を図る。

 6.医療の質と安全の管理

患者にとって良質かつ安全な医療を提供し、医療従事者の安全性にも配慮する。

@      医療の質と患者安全の重要性を理解し、それらの評価・改善に努める。

A      日常業務の一環として、報告・連絡・相談を実践する。

B      医療事故等の予防と事後の対応を行う。

C      医療従事者の健康管理(予防接種や針刺し事故への対応を含む)を理解し、自らの健康管理に努める。

 7.社会における医療の実践

医療の持つ社会的側面の重要性を踏まえ、各種医療制度・システムを理解し、地域社会と国際社会に貢献する。

@      保健医療に関する法規・制度の目的と仕組みを理解する。

A      医療費の患者負担に配慮しつつ、健康保険、公費負担医療を適切に活用する。

B      地域の健康問題やニーズを把握し、必要な対策を提案する。

C      予防医療・保健・健康増進に努める。

D      地域包括ケアシステムを理解し、その推進に貢献する。

E      災害や感染症パンデミックなどの非日常的な医療需要に備える。

 8.科学的探究

医学及び医療における科学的アプローチを理解し、学術活動を通じて、医学及び医療の発展に寄与する。

@      医療上の疑問点を研究課題に変換する。

A      科学的研究方法を理解し、活用する。

B      臨床研究や治験の意義を理解し、協力する。

 9生涯にわたって共に学ぶ姿勢

医療の質の向上のために省察し、他の医師・医療者と共に研鑽しながら、後進の育成にも携わり、生涯にわたって自律的に学び続ける。

@      急速に変化・発展する医学知識・技術の吸収に努める。

A      同僚、後輩、医師以外の医療職と互いに教え、学びあう。

B      国内外の政策や医学及び医療の最新動向(薬剤耐性菌やゲノム医療等を含む)を把握する。

 10.当科に特有の目標

脳神経外科疾患の患者を診療する上で基本となる臨床能力を身につける。

@      脳卒中急性期における適切な初期対応を身につける。

A      急性期脳卒中外科治療を学ぶ。

B      軽症頭部外傷の診察、診断、処置を行うことができる。

C.基本的診療業務

コンサルテーションや医療連携が可能な状況下で、以下の各領域において、単独で診療ができる。当科で研修可能な項目のみ示す。

 1.一般外来診療

頻度の高い症候・病態について、適切な臨床推論プロセスを経て診断・治療を行い、 主な慢性疾患については継続診療ができる。

2.病棟診療

急性期の患者を含む入院患者について、入院診療計画を作成し、患者の一般的・全身的な診療とケアを行い、地域連携に配慮した退院調整ができる。

3.初期救急対応

緊急性の高い病態を有する患者の状態や緊急度を速やかに把握・診断し、必要時には応急処置や院内外の専門部門と連携ができる。 

(4) 研修方略

T 経験すべき症候および疾病・病態

研修目標を達成するために、以下の各項目を経験することを必須とする。

※経験すべき症候及び経験すべき疾病・病態の研修を行ったことの確認は、日常業務において作成する病歴要約に基づくこととし、病歴、身体所見、検査所見、アセスメント、プラン(診断、治療、教育)、考察等を含むこと。

〈経験すべき症候〉

外来又は病棟において、下記の症候を呈する患者について、病歴、身体所見、簡単な検査所見に基づく臨床推論と、病態を考慮した初期対応を行う。

経験できる可能性:○はほぼ全員経験可能、△はチャンスがあれば経験可能

項目

研修期間

4

8

12週以上

@ ショック

A 体重減少・るい痩

D 発熱

E もの忘れ

F 頭痛

G めまい

H 意識障害・失神

I けいれん発作

J 視力障害

L 心停止

M 呼吸困難

P 嘔気・嘔吐

腰・背部痛

運動麻痺・筋力低下

排尿障害(尿失禁・排尿困難)

興奮・せん妄

抑うつ

終末期の症候

〈経験すべき疾病・病態〉

外来又は病棟において、下記の疾病・病態を有する患者の診療にあたる。

経験できる可能性:○はほぼ全員経験可能、△はチャンスがあれば経験可能

項目

研修期間

4

8

12週以上

@ 脳血管障害

A 認知症

C 心不全

E 高血圧

G 肺炎

高エネルギー外傷・骨折

U 当科の研修で経験できる項目

研修目標B-10「当科に特有の目標」の達成に関連し、当科の研修で経験できる項目を示す。

経験できる可能性:○はほぼ全員経験可能、△はチャンスがあれば経験可能

項目

研修期間

4

8

12週以上

《臨床検査》

単純X線検査(頭部)

CT検査(頭部)

MRI検査(頭部)

髄液検査

神経生理学的検査(脳波・筋電図など)

《手技・手術》

ドレーン・チューブ類の管理

気管挿管

《疾病・病態》

脊髄血管障害

脳・脊髄外傷(頭部外傷、急性硬膜外・硬膜下血腫)

《経験できる可能性のある手術、検査》

穿頭術(術者)

開頭術(第一助手)

血管撮影(第一助手)

脳室腹腔シャント術(第一助手)

V.指導スタッフ

氏名 職位 専門領域
中冨 浩文 教授・診療科長 血管障害、良性脳腫瘍、頭蓋底手術
永根 基雄 教授 悪性脳腫瘍、化学療法
野口 明男 准教授 血管障害、良性脳腫瘍、頭蓋底手術、頭痛、認知症
丸山 啓介 准教授 脳血管障害、良性脳腫瘍、神経内視鏡手術、
定位放射線治療、臨床統計学
小林 啓一 講師 悪性脳腫瘍、定位放射線治療、臨床試験、集学的治療
齊藤 邦昭 講師 悪性脳腫瘍、覚醒下手術、集学的治療、神経内視鏡手術
藤井 照子 助教 脳卒中、虚血性脳血管障害の治療、血管内治療害
岡田 啓 助教 脳神経外科全般、血管障害、血管内治療
佐々木 重嘉 助教 脳神経外科全般、悪性脳腫瘍、覚醒下手術、集学的治療
久ヶ澤 一葉 助教 脳神経外科全般、悪性脳腫瘍、高次脳機能
小野田 凌 助教 脳神経外科全般

W.診療体制

当科は、血管障害・良性脳腫瘍チーム、悪性脳腫瘍・化学療法・定位的放射線手術チーム、および救命センターチームの3つに大別されており、一般病棟4チームと救命センター1チームで診療している。各チームに日本脳神経外科専門医が主治医として配属され、その主治医のもと担当医らがチーム診療を行っている。

 

X.週間予定

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Y.研修の場所

脳神経外科病棟:外科病棟4階(S4病棟)
脳神経外科外来:外来棟4
救命センター:救急外来、病棟
中央手術室

Z.研修医の業務・裁量の範囲

《日常の業務》

1.        新入院患者に面接し、病歴を聴取する。

2.        新入院患者の診察を行う。

3.        新入院患者のプロブレム・リストを作成する。

4.        朝と夕方に受け持ち患者を診察し、診療録の記載を行う。

5.        定時採血は看護師が行うが、採血の手技に十分習熟するまでは研修医が行う。

6.        検査計画・治療計画を立案する。

7.        手術予定患者の術前検査施行と評価を行う。

8.        術中術者の助手と術後管理を行う。

9.        各カンファレンスへ参加する。(朝カンファレンス開始時刻は月〜金曜日午前730分、土曜日午前9時で、S4病棟脳神経外科カンファレンスにて行う)

10.    入院患者の点滴などの処置を行う。

11.    退院患者の入院時サマリーを作成する。(提出は退院後2週間以内の水曜日朝カンファレンスで教授のサインを受ける)

 《当直・休日》

1.        4週間であれば2回、6週間であれば3回の当直がある。

2.        当直の業務は急患と入院患者への対応である。(緊急手術の介助を含む)

3.        当直時間は午後430分から翌日朝カンファレンスの引継(休日は翌日9時交代)までである。

4.        当直翌日は、入院患者の状態によるが、duty offを検討する。

 《研修医の裁量範囲》

1.        「修得を必とする臨床手技」(研修目標B-3)の範囲内で、修得できたことを指導医が認めたものについては、指導医あるいは上級医の監督下でなく単独で行ってもよい。ただし、通常より難しい条件(全身状態が悪い、医療スタッフとの関係が良くない、12度試みたが失敗した、など)の患者の場合には、すみやかに指導医・上級医に相談すること。

2.        指示は、必ず指導医・上級医のチェックを受けてからオーダーすること。

3.        診療録の記載事項は、必ず指導医・上級医のチェックを受け、サインをもらうこと。

4.        重要な事項を診療録に記載する場合は、あらかじめ記載する内容について指導医・上級医のチェックを受けること。

5.        救急外来で患者を見た場合は、帰宅可否の判断を指導医・上級医に仰ぐこと。

[.その他の教育活動

1.        4か月に1回(木曜日)神経内科、脳卒中科、リハビリテーション科との合同カンファレンスと、月1回(木曜日)病理学教室との合同カンファレンスがあるので出席すること。

2.        皮膚の縫合については、習熟するまでシミュレーション・ラボにて練習すること。適宜指導医が交代で指導に当たる。

3.        CPCやリスクマネージメント講習会などの院内講習会には、当直であっても積極的に出席すること。その間の業務は指導医・上級医が行う。

4.        珍しい症例などを受け持った場合、脳神経外科学会関東地方会などで報告する。

5.        関連学会、研究会へも積極的に参加する。

(5) 研修評価

研修目標に挙げた目標(具体的目標)の各項目のうち評価表に挙げてある項目について、自己評価および指導医による評価を行う(総括的評価)。また、日々の研修態度についても評価する。なお、指導医が評価を行うために、コメディカル・スタッフや患者に意見を聞くことがある。

評価は「観察記録」、すなわち研修医の日頃の言動を評価者が観察し、要点を記録しておく方法により行い、特に試験などは行わない。研修終了時に診療科長または医長が研修医と面談し、指導医の記載した評価表に基づいて講評を行う。また、評価表は卒後教育委員会に提出され、卒後教育委員会は定期的に研修医にフィードバックを行う。

上記以外に、研修目標達成状況や改善すべき点についてのフィードバック(形成的評価)は、随時行う。

(6) その他

当科の研修に関する質問・要望がありましたら下記の臨床研修担当責任者に御連絡ください。

診療科長  中冨浩文   hirofumi-nakatomi@ks.kyorin-u.ac.jp

臨床研修係 佐々木重嘉   sasakinobuyoshi0308@gmail.com

医局長   小林啓一  kyorinn@ksot.kyorin-u.ac.jp