宮田靖志
愛知医科大学
医学教育センター / プライマリ・ケアセンター
教授

Hinohara Fellowship 2004
2004年7月1日~2006年2月28日

プロフィール:

略歴(特に留学の前後)

  • 1988年自治医科大学卒業
  • 愛媛県立中央病院で初期研修後、愛媛県の診療所、町立病院にて地域医療に従事。
  • 2000年より札幌医科大学地域医療総合医学講座/総合診療科 助教、講師
  • 2002年よりJA北海道厚生連地域医療研修センター札幌厚生北野病院 主任医長
  • 2004年より留学
  • 2006年より札幌医科大学地域医療総合医学講座/総合診療科 講師、准教授
  • 2010年より北海道大学病院卒後臨床研修センター 特任准教授
  • 2014年より留萌市立病院診療部長(総合内科所管)
  • 同年    独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター卒後教育研修センター長・総合内科医長
  • 2015年より東海北陸厚生局健康福祉部医事課臨床研修審査専門員(兼務)
  • 2016年より現職

専門
総合診療、医学教育、地域医療

関心領域
医療プロフェッショナリズム教育、地域医療教育、診断推論およびその過程の認知心理

留学した期間

2004年7月1日~2006年2月28日

留学を志望した動機や経緯

かねてか欧米の総合診療、医学教育の実際に触れてみたいと考え留学先を探していたところ、たまたま本件の情報が所属医局に届けられ、教授からの留学希望の有無の連絡に二つ返事で応募を決意しました。

留学までの準備や関連情報

志望から決定までの期間が短かったため身の回りの生活移住の準備に追われ、留学先の研究・教育の概要や留学期間中のテーマなどをじっくり検討する余裕はほとんどありませんでした。渡航して1ヶ月間、ハーバードのサマースクールで語学研修をする予定でしたので、その期間に広く情報収集をしようと思っていました。しかし、実際にはサマースクールの課題に追われ、ここでも準備はできませんでした。結局の所、フェローの期間が始まってからバタバタと情報収集しながら1年間の計画を立てたというのが実際でした。

留学時の経験や活動

ある程度決まったスケジュールがあるのかと思っていましたが、2週に1回の1時間程度のリサーチミーティング以外に決められた行事はなく、全く自分の意思に任されていましたので、自由で良かった反面、自分で情報収集して活動していかないと何も得るものがないという状況の中で不安も大きかったのを覚えています。


私は医学教育、総合診療に関するものは何でも経験したいと思っていたので、まずは教育学部、他のハーバードの講義やパブリックスクールの講義に参加して見聞を深めました。また、BIDMCで行われるさまざまな臨床教育の見学も行いました。しばらくすると、ハーバードでは医学教育のフェローシップや短期コースがあることがわかり、BIDMCのRabkin フェローシップ、ハーバードの医学教育リーダーシップ・プログラムなどに参加を試みました。しかし、前者はクローズド、後者は定員枠の関係のため叶いませんでした。何としてもこれらのフェローシップ・プログラムで参加者が学んでいる内容を自分も修得したいと思いましたので、メンターの力を借りて両者で使われるテキストを手に入れ2年分をすべて自己学習して医学教育の基本的理解を深めることにました。積み上げると7~80cm程になる論文量でしたが、これを読破したお陰で医学教育に関する様々な知識を幅広く一通り頭に入れることができました。


これと並んで大きな収穫だったのは、留学期間中に開かれたボストン、ワシントンでのAAMC年次集会、またハーバードで開かれる月1回の医学教育グランドラウンドに参加し、医学教育の最前線の議論が聞けたことです。ここで現在の私の関心領域の医療プロフェッショナリズム教育に初めて触れることになりました。当初はその概念など、あまり深く理解できませんでしたが、おそらくこれから医学教育の最も重要なテーマになるだろうということは強く感じましたので、学会、グランドラウンド以外にもプロフェッショナリズム関連の行事に片っ端から参加してその議論を頭に入れ、さらには様々な情報にアンテナを張って知識を得るようにしました。


プロフェッショナリズムについて勉強していくうちにわかったことは、当時はBIDMCの指導医の中でさえ、プロフェッショナリズムについて充分な知識がある人はあまりおらず、実際の臨床現場や卒前教育で指導医は実際の教育に難渋していること、積極的にプロフェッショナリズム教育を取り上げられているようには思われなかったことでした。というわけで、プロフェッショナリズムに関する指導医の意識の日米比較をしてみてはどうかと思いつき、これが研究のテーマとなりました。留学期間の終わりに近づいた頃にやっと研究計画を立てることができ、帰国直前の時期に研究計画が仕上がりIRBへ駆け込み申請したところで帰国となりました。帰国後、IRBの審査が通り、BIDMCのメンターの協力を得て日本とボストンでメールのやりとりをしながらアンケート調査を実施し、その後研究結果を論文化することができました。これが私のプロフェショナリズムに関する初めての論文、そして留学期間中の一番の形に残るプロダクトとなりました。

業績(特に留学時の活動と関連するもの)

日本での教育、研究活動を留学期間中にまとめたもの

  • Miyata Y, Yamamoto W, Kimura S, Kawabata H, Morisaki T, Sasaki N.
    Patients’ perception of core values of a general medicine department in a Japanese university hospital.
    Primary Care Japan
    2005; 3: 40-48.
  • Miyata Y, Yamamoto W.
    How does students’ motivation for their future images as physician change during their undergraduate medical education.
    The Japanese Journal of Family Practice
    2006; 1: 16-23.
  • Miyata Y, Yamamoto W.
    A qualitative evaluation of medical students` perceptions of their rural medicine clerkship experience.
    Jan J Prim Care
    2006; 29: 168-175.
  • Miyata Y, Yamamoto W.
    The 6 Cs Approach for Narrative Based Primary Care. A Case Report.
    Jan J Prim Care
    2006; 29: 295-301.
  • Miyata Y, Higashii H, Yamamoto W.
    A qualitative study of first-year medical students: Why do students want to become physicians? What kind of physicians do they want to become?
    General Medicine
    2006; 7: 39-44.
  • Miyata Y, Morisaki T, Yamamoto W.
    Factors Influencing Primary Care Career Choice of Japanese Medical Students Graduating in 2004.
    Medical Education (Japan)
    2007; 38: 231-238.
  • Miyata Y, Yagita K, Yamamoto W.
    Student perception of SPs’ feedback during communication sessions.
    Medical Education (Japan)
    2007; 38: 251-257.

留学中に計画した研究をまとめたもの

  • 宮田靖志, 岩田勲, 山本和利.
    医療におけるプロフェッショナリズムの日米医師の意識の違い.
    医学教育
    2008; 39: 161-168.

留学してよかったこと困難を感じたこと

よかったこと

医学教育の重要なテーマをみつけることができたこと(プロフェッショナリズム)
医学教育の幅広い知識を身につけることができたこと

困難を感じたこと

語学力に難があり、細かな議論ができず様々な課題の理解が浅いままに終わってしまった可能性が高いこと
留学期間の前半の半年間は適応するのにかなり苦労し、ほとんど身になる活動ができなかったように思うこと。このため、留学期間を延長してもらえないか、と当時の主任教授だったRuss Phillips先生にお願いし自分で勝手に交渉したところ、Russ Phillips先生は快く了承してくれたものの、この奨学金の日本側の選考委員の先生には事後報告となってしまい、選考委員の先生から教育的指導(?)を受けてしまったこと。きちんと手続きを踏まないといけませんね、、、。

後輩へのアドバイス

1年という非常に短い期間なので、事前に研究、活動計画を明確にしておくべきです。これは当然のことなのですが、実際にその計画が上手くいくかどうかは、そのときのメンター、指導者や施設の状況にもよって大きく左右されると思います。前年、前々年に留学した先輩から詳しく情報収集して置かれると良いと思います。

教育的なアドバイスではないかもしれませんが、1年ではそれほど大したことはできない、とある程度割り切って、あせらず小さなテーマだけを達成することで満足するということも重要かもしれません。そうすれば、あまり焦りや不安を感じることなく、楽しく1年を過ごせるように思います。

その他

留学で得たことをぜひ帰国した後に積極的にアウトプットして皆に還元し、新たな風、刺激を与えて欲しいと思います。よろしくお願いします。