クイズ

 

Q5

症例:関節リウマチ患者。考えられる疾患は。

 


Q5解説

慶應義塾大学 橋口明典

膜性糸球体腎炎(膜性腎症)およびIgA腎症

やや美しくない病変で恐縮であるが、メサンギウムへの粗大な沈着物と基底膜の変化に着目されたい。
関節リウマチ患者に生ずる腎病変について整理するのが、このクイズの目的である。
膜性腎症、IgA腎症、基底膜菲薄化症候群、他の膠原病の合併に伴う腎病変など。

 


Q4

症例:70歳代、男性。30年来の糖尿病。最近になって、ネフローゼ症候群を発症した。
どのように鑑別を進めるか。

 


Q4解説

慶應義塾大学 橋口明典

Amyloidosisを疑い、Cong red 染色を行う

糸球体は結節状を呈しているが、PAS淡染性である。PAM染色で銀をとらない(Spiculaを除く)。

クイズそのものは簡単であるが、生検診断に必要ないくつかの要素がある。

糖尿病性腎症の患者さんは、糖尿病性腎症で説明できない臨床症候がある場合、生検されることが多い。

高齢者のネフローゼ症候群における鑑別診断。

いわゆる"Nodular glomerulosclerosis"の鑑別診断。

アミロイドの確定は必ず偏光板を用いた観察を行う。
偏光板を回していくと角度によって、赤や緑を呈する部が変化する。光量は普段よりも強い方がよい。切片は厚めに作製することが重要である。

 

本症例は容易な鑑別であるが、糖尿病患者の生検は、特に「糖尿病性腎症らしくない」症例が多いことから、複雑な「応用問題」になることが多い。

臨床症候と組織形態学を対応させ、複雑に絡み合った病変を紐解いていくことが重要である。


Q3

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症例:透析患者の剖検腎
この結晶構造は?

(画像提供:立野 正敏先生 釧路赤十字病院病理診断科)


Q3解説

慶應義塾大学 橋口明典

透析患者、後天性多発性嚢胞腎でみられたシュウ酸塩結晶である。

HE 偏光

腎、尿細管・間質には様々な結晶構造みられる。直接の診断に関与することはない場合が多いが、整理して置くことが重要であろう。偏光板は、アミロイドの確定に重要であるが、確認を怠っている病理医も少なからずみかける。常に使えるよう準備してあると便利である。

 尿酸  Tamm-Horsfall蛋白 骨髄腫腎

 

 


Q2

画像

症例:29歳男性、Granulomatosis with polyangiitisを疑われ、生検となる。
壊死性糸球体腎炎を認め、同疾患と確定したが、背景にあった疾患は?


Q2解説

慶應義塾大学 橋口明典

答:Fabry病

 

画像

先入観を持たず、虚心坦懐に所見をとる、第三者的な姿勢が必要である。

上皮細胞の泡沫化が顕著であり、 電顕所見等から、最終的にFabry病の合併が確定した。

 

ANCA関連血管炎を疑い、半月体形成性・壊死性糸球体腎炎を認めるとそれで安心してしまいがちである。

患者の当面の予後には関係しないが、長期的に重要な情報を見落とすことになる。

確かにこのような合併は偶然ともいえ、つい、電子顕微鏡用の試料を採取するのも怠りがちであるが、故 田口 尚 先生のコラムにある通り、その必要性を改めて提起したい。

 


 

Q1

画像

症例:53歳男性、ネフローゼ症候群。血清補体値は正常。腎生検蛍光抗体法IgGの所見を提示する。
以下のいずれが最も適当か?

1.抗基底膜腎炎

2.膜性腎症

3.糖尿病性腎症

4.重鎖沈着症

5.膜性増殖性糸球体腎炎II型 (dense deposit disease)


Q1解説

筑波大学 長田道夫

IF一枚では診断できるわけがない、あるいは臨床情報が足りない、と叱られそうですが、病理診断は、先ずは病変と疾患分類の原則から考えるのが基本です。この一枚から何が考えられるのでしょう? 腎生検標本蛍光抗体法で、IgGが糸球体に陽性であることをしばしば経験しますが、私たちが知っているIgG陽性の糸球体疾患は多数あり、そのパターンは多様で、同じ疾患でも症例によって異なることから、IgGの染色パターンのみで診断名を付けることはほとんどできません。加えて、より大きな問題、すなわちIgG沈着が免疫複合体であるのか?についても、沈着パターンからだけでは判断が困難です(ここには、腎炎とは何か?というさらに大きな問題がありますが、これはまたの機会に)。よくあることですが、IgG陽性所見を認めるにもかかわらず、臨床像や光顕所見に合致しないという理由で非特異的と判断されることもあるなど、実はIgGの染色には、いろいろな問題が隠れています。 本問題では、IgGの染色パターン、背景の糸球体の構造などから、どの疾患であるのかを考えてみます。

こういった問題では、疾患を除外していくと整理しやすいと思います。 糸球体基底膜に沿って、IgGが陽性です。まず、DDDは、現在では補体制御の異常によって、補体の活性が亢進し、糸球体基底膜にC3が線状あるいはリボン状に沈着することが知られ、IgGをはじめとした免疫グロブリンは基本的には陰性ですので、除外可能です。基底膜は厚く正常のループパターンを描いてはいないことがまず目に入ります。これは、管内に病変があることを反映しています。染色パターンは線状かつ連続性で、顆粒状ではありません。顆粒状の場合は、膜性腎症の他、感染関連腎炎やMPGN3型などがまず考えられます。本例では同時に拡大した、あるいは結節を形成するメサンギウム基質にもやや薄く、しかし明らかな染色性が見られます。さらにボウマン嚢基底膜や尿細管基底膜にも陽性像を認めます。このIgGがcirculating immune complexであれば、このようなびまん性で、均一感のある沈着は呈しにくく、in situ immune complexなら、これだけの部分に同様(量)に抗体が結合する共通の物質が存在するはずであり、糸球体構造からすると考えにくいと思います。このような基本をまず踏まえて、この写真を見ます。抗基底膜抗体腎炎は、糸球体基底膜に存在するIV型collagenのa3鎖NC1domainに対する自己抗体がin situ immune complexを形成する機序で沈着します。したがって、沈着は線状になりますが、ボウマン嚢基底膜にはほとんど染まりません( 写真1 )。メサンギウム基質にも陰性であり、本問題の沈着パターンとは異なることがわかります。 また、背景の糸球体病変からは、糖尿病、重鎖沈着症(MPGNも)が鑑別に上がります。5時方向にはドーナッツ病変、11時方向にはKW結節が見られます。 さて、こからが、本問題のねらいです。今回はIgGだけを提示していますが、光顕では鑑別が難しい重鎖沈着症(HCDD)、糖尿病性腎症をIFで鑑別するために、何を調べればいいのか?これがポイントです。 HCDDは、稀な疾患ですが、IFで単クローン重鎖を証明することが必要になります。単クローン重鎖はIgGであればサブクラス(IgG1-4)がクロナリティーを持ち、軽鎖が欠損していることを、サブクラス染色、kappa, lambda染色に加えて、重鎖と軽鎖が結合する重鎖のCH1部、あるいはヒンジ部が欠損していることを、特異的抗体を用いて証明する必要があります。詳しくはOe et al, Clin Exp Nephrol. 2013 Dec;17(6):771-8.参照のこと。HCDDは、重鎖の種類によっては(IgG1、IgG3にそれが強い)補体結合部位を持つため( 表1 )、糸球体にC3が沈着し、低補体を呈することが知られています(サブクラスを特定する意義がここにあります)。また、電顕所見は特徴的なpowder-like沈着がみられることも鑑別点としては重要です ( 写真2 )。 本例は、糖尿病性腎症の患者のIF IgG所見であり、ネフローゼ症候群、補体正常、基底膜肥厚IgG線状沈着、メサンギウムや尿細管にも沈着していることなどから、いわゆる免疫複合体ではなく“染み込み様変化”として、透過性の高まった基底膜を中心にIgGが沈着しているものと考えられます。ただし、IgM, IgA,C3の沈着パターンも参考にすべきであり、できればkappa, lambdaが両方同様に陽性であることなどを確認できれば、診断はほぼ確定できると考えられます。この場合の軽鎖はIgGや他の免疫グロブリンの多クローンの軽鎖を一括して検出していると判断されます。糖尿病の際の電顕所見では、基底膜に沿って、高電子密度沈着物は認められず、傍メサンギウム領域に、密度のやや低い沈着が、なんとなく認められる、というのが一般的です。ただし、これも症例によって異なりますから、電顕写真を見ながら多様性を認識することも面白いと思います。 蛍光抗体法は、腎臓病の診断には非常に重要ですので、その質と信頼度は高くなくては診断に役立ちません。そう言う意味でも、IF標本の質が何より重要であることは言うまでもありません。

画像 画像
写真1.抗基底膜抗体腎炎のIgG染色パターン http://kidney2.blogspot.jp/2012/06/glomerulonephritis-quiz_22.html 写真2.LCDD, HCDDでは、特徴的なpowder-likeな沈着が、lamina lala internaに帯状にみられる。

 

 

表1.重鎖沈着症では、約60%に低補体がみられるが、それは単クローンの重鎖によって補体結合能が異なるためと考えられる。γ1、γ3にその傾向が強いため、サブクラス染色を行い、補体活性とサブクラスの関連について調べると参考になる。(Oe et al, Clin Exp Nephrol. 2013 Dec;17(6):771-8.)