第25回
2005年8月31日

Autopsy imaging (Ai)名称問題

筑波メディカルセンター病院
塩谷 清司

剖検前に画像を撮影するアイデアにAutopsy imagingという名前が付けられた日(1999 年11月6日)から約3年3ヵ月後(2004年1月24日)、第1回オートプシー・イメージング学会設立総会が開催されました。後日、放医研の神立先生が、放射線科専門医メーリングリストに学会参加記を投稿されました。その際内容と共に反響があったのが名称についてでした。以下にそれらの意見を例1-4として集約し、それらに対する私の考えを述べます。

例1 Autopsy imagingはすでにinternationalに人口に膾炙したtermなのか?(英語のニュアンスに不自然さがあるとすればJapanese Englishと言われるのではないか?) →これはnative speakerに直接尋ねるのが一番と思いますが、放医研の江沢先生がヨーロッパ、中東、オーストラリアなど複数の国々でAutopsy imagingという名称を使って講演や学会発表をされており、多少の不自然さがあるにしても誤解なく受け入れられているようです(「walkman」という単語と同様に慣れてしまうのかもしれません)。

Postmortem CT (PMCT) という看板をAutopsy imagingに上書きすることに私は大賛成でしたが、それは以下の二つの理由からでした。・数年前まではpostmortemという言葉を使うたびに「死後の(検死の)」と説明しなければならず、同時にえっ?という顔をされていました。死後に画像を取得するという考え方があることをまず日本中に広めていくためにAutopsy imagingという名称は秀逸だと考えたこと ・戦略、システムとしてのAutopsy imagingの概念は、戦術としてのPMCTを包括しており、Autopsy imagingの名称の方が、より多くの学会に関連付けができ、賛同者も得られやすいだろうと考えたこと。

例2  Aiという言葉はわれわれ工学の分野ではArtificial Intelligence(人工知能) として非常に有名なので、Ai学会というのは紛らわしいので、何か別の略号を使って頂けないでしょうか?(放医研名誉研究員 飯沼 武先生より)

例3 Autopsy imagingを逆さにしてImaging autopsy(IA)とすると、既存のArtificial intelligenceとの混同も避けられるのではないか?

例4 名称は略さなければまったく問題ないのではないか? 頭文字だけとった略語がやたら多く、辞書を引かなければ何を言っているのかが判らない社会はどこか間違っている。

→これらは、DM(糖尿病)、DM(皮膚筋炎)と同じような関係と思っています。一般的に有名なのは糖尿病のDMですが、膠原病を専門としている方々の間ではDMと言えば皮膚筋炎を指すという具合です。ただAutopsy imagingをそのまま略すとAiになってしまい人工知能と区別がつかなくなってしまうのは指摘通りなので、略すときにはimagingの頭文字は小文字としています。文章で略号を記載する場合、論文の作法にのっとって、Autopsy imaging (以下Aiと略)とすれば誤解は生じないと思っています。 余談ながら、インターネットの検索サイトでAiを検索単語として入力すると、1億5千万件ヒットします。これらを見ると、人工知能以外にも多数がAi、Aiを略号として使用しており、略号に関してはあまり神経質になる必要はないのかなと感じています。またPMCTで検索すると、1万2千7百件ヒットしますが、そのほとんどはPercutaneous Microwave Coagulation Therapy (経皮的マイクロウエーブ凝固療法)に関するものです。

Autospy imagingというネーミングには上記例のような指摘を受けていますし、今後もこれに関した話し合いを続けていくことは必要とは思っていますが、種々の学会でAutopsy imagingという用語、概念の認知度が高まっているようです。名前を変更することは得策ではないと思いますし、社会に認知された後では変更もできないだろうと予想しています。サイトクロムP-450の発見者が、講演の最後で次のように述べられていたのを覚えています。「450 nmに吸収極大を示す色素という意味でP-450と仮に命名したが、そのままポピュラーなものとなってしまい、われわれが新しい名前を提唱しても今更変わらないのですよ。」

Autopsy imagingの日本語訳に関しては、「画像解剖」という訳は誤解を招くようです。画像解剖アトラス(X線、CT、MRI画像で描出される構造物に対して、それぞれの解剖名が記載されているような、画像から見た解剖アトラス)なども以前から複数出版されています。Autopsy imagingはあえて訳さず、その意味を尋ねられたときに、「死亡時画像病理診断」と答えられるようにしておくことは一つの方法と考えています。これは、informed consentという言葉が日本語に訳される機会がほとんどない状態でそのまま使用されていることと同じではないでしょうか。