第135回
2018年9月19日

死後の診療情報の扱いについて

上尾中央総合病院
特任副院長 長谷川剛先生

Ai学会では、死因究明の重要性がしばしば議論されるため、当然のことであるが警察との親和性が高い。救急医は臨床医の中では最も警察とのお付き合いがある診療科であろう。また犯罪の見逃し事例や虐待の問題なども警察との連携を強化しなくてはならないということを考える契機となっている。

一方で警察に情報提供を求められたとき安易に診療情報を伝えてはならないということも私たちは忘れてはならない。この根拠は刑法134条に記載されている守秘義務である。「医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、6か月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する」というものだ。刑法上の規定で、しかも職名を明記されていることから、これは医師にとってかなり厳しい規定であると認識すべきである。他にも個人情報保護の規定も現場ではしばしば議論になる。規定上は個人情報とは生存しているものの情報なのだが、厚生労働省のガイドラインにおいては個人情報は死後も生存する個人のものと同等の扱いをすることを求めている。

高齢化社会の中で身寄りのない来院時心肺停止であったり、高齢世帯で双方とも認知症で親族の連絡がつかないケース、認知症を有する高齢者とその世話をする息子の二人暮らし世帯で息子が意識不明の重症患者の場合など、現場では診療情報や死後の情報の取り扱いに苦慮する場面が増えている。

Ai学会においては、今まで情報の守秘性やプライバシーの問題はあまり言及されず、どちらかというと情報共有が円滑になされ死因究明に資する情報が拡散することが善と考えている節がある。多くの場合は、警察への情報提供も含めて適切な情報共有は有益なことが多いしそのことによってトラブルになることはない。

だが刑法上の守秘義務や個人情報保護の問題は、実は警察をはじめとする国家権力と個人との関係という観点からは軽視してはならない問題が含まれている。

おそらく現場に近いところで活動している学会員の方々は、情報の扱いに関して様々な経験と悩みをお持ちのことだと思う。私たちは学会という場でもよいし、学会とは別の研究会的な場やメーリングリストの場でもよいと思うが、画像情報を含む死後の情報の扱い方について今一度検討する場をもってもよい時期に来ているように思う。