救急隊員との質疑応答

―「心肺蘇生法」篇―

救急 II 課程(1991年〜1998年 総集編)

市立砺波総合病院麻酔科 生垣 正


目 次

項目別 質問一覧(心肺蘇生法・篇)
年次別 質問一覧(心肺蘇生法・篇)
付録.全砺波消防署からの質問

心肺蘇生法・篇(質問と回答)

溺水・篇(質問と回答)


1998年 第13期 救急II 課程 質問書について


  1. 心肺蘇生について

    <質問内容> 当町では,観光地でホテル,旅館からの救急要請も多く,四,五階からの患者の搬送 で階段,エレベーターなどを利用した場合の適切な心肺蘇生の留意点をご教示願いま す

    回答: 心肺蘇生術の中断は,できるだけ短くするように工夫して移動する。 解説: 「心肺蘇生法の手引」の17ページを見て下さい。


  2. 心肺蘇生について

    <質問内容> 交通事故等による頭部外傷及び頚椎損傷の疑いのある負傷者の心肺蘇生を行う場合の 留意点についてご教示願います。

    回答: 心肺蘇生術の基本はどのような場合も変わらない。

    解説: 頚椎損傷が疑われる場合は,頭部後屈は好ましくはないので気道を開通させる方法( 気道確保)は顎先挙上ではなく,下顎挙上が望ましい。顔面の外傷がある場合には口 対口人工呼吸は困難であり,バッグマスク人工呼吸をマスターする必要がある。


  3. 119番受信時,口頭による心肺蘇生指導要領について

    <質問内容> 119番受信時,救護者が心肺停止状態に至っていると推測されるとき,直ちに救急隊 を出場させながら,細部にわたり情況を聴取し,関係者に心肺蘇生を実施するよう呼 びかけている現状であります。 従来から,鼻を塞いで息を2回大きく吹き込んで胸の中心を15回手で押して下さり ,救急隊が来るまで続けて下さい。又,よくわからないと言われた場合には,心臓マ ッサージのみを指導している現状です。 このような状況下の中で相手方に短時間で心肺蘇生法を理解して実施してもらうには ,どのような口頭指導方法が望ましいでしょうか。

    回答: 指導マニュアルを作り,電話の横に置き情況に応じた適切な指導を行う。

    解説: 119番受信時の具体的な状況を知らないので,正直言ってよくわかりません。非常に 大事なことだと思っていますので,是非充実した内容にしていただきたいと願ってお ります。

    1. 相手が興奮している場合が少なくないと思われます。「落ちつきなさい」とか「 あわてないで」とかをいうよりも,相手の興奮する気持ちを理解しながら,具体的な 状況をこちらの方で整理して聞き取りながら,情況を把握していくと同時に自然に相 手を落ちつかせていくように誘導することが大切でしょう。

    2. 基本的には,気道の開通(顎先挙上,頭部後屈),呼気吹き込み人工呼吸,心臓 マッサージの口頭指導となる。

    3. 情況によっては,心臓が最も問題であると判断される場合には心マッサージだけでもしてもらう。

    4. 窒息など呼吸が一番問題である場合には,人工呼吸が絶対必要であろう。

    5. はっきりと具体的に自信を持って指導する。


  4. CPRの実施時について

    <質問内容> CPR実施時,総頚動脈で心マッサージ毎に脈が触れない場合,正確な心マッサージが 行われていないと言うことでしょうか。

    回答: 正確な心マッサージが行われていない可能性がある。但し,もともと頚動脈が触れに くい場合がある。

    解説: 本番では,正しく行われているかいないかを吟味している余裕はあまりないでしょう 。普段しっかり練習しておくことが大切です。通常,CPRが正しく行われれば,散大 していた瞳孔が縮瞳してきます。


1997年 後期(第12期)救急II 課程 質問書について


  1. CPRのやり方について

    <質問内容> 病人は一般においてアシドーシスになり、これを改善するにはアルカローシスにすれ ば良いと聞く。

    アルカローシスの代表的なものに過換気症候群があるが、これから考えると病人が重 病・あるいはCPAの場合には過換気気味にCPRを実施すればより効果があると思われる が如何か。

    回答: ガイドラインに沿った手技を守るべきである。

    解説: 1)アシドーシスに傾く病気は多い(特に救急の場合は、特殊な中毒や、激しい嘔吐 の続く場合を除いて多い)。しかし、その場合アルカローシスにするのは必ずしも望 ましいとは限らない。一般的に「アシドーシスを改善するのにアルカローシスにすれ ば良い」という見解はむしろ誤りである。

    2)過換気症候群は確かに、呼吸性アルカローシスとなる。

    3)CPAの場合、炭酸ガスが蓄積しているので、気管内挿管がなされていれば、過換気 気味にすることは望ましい。しかし、挿管がなされていない場合は、過換気にすると 口腔内圧が上昇し、胃内へ空気を送り込む可能性が高くなる。従って気管内挿管がな されている場合以外は、過換気は推奨できない。


  2. 心肺蘇生について

    <質問内容> 救急車内に収容するまでに階段や狭い廊下等があった場合に適切な心肺蘇生を行うに は、どのような点に留意して行えばよいかご教示願います。

    回答: CPRは中断することなく行うよう努める。中断せざるを得ないときはその時間ができ るだけ短くなるよう工夫する。

    解説: 筆者の編集した「心肺蘇生法の手引」(第2版)(赤表紙)の17ページに掲載してあ るので読んでおいて下さい。


1997年 前期(第11期)救急II 課程 質問書について


  1. 心肺蘇生の実施の判断について

    <質問内容>: 人それぞれ頻脈、徐脈と個人差があり心肺蘇生の中止の判断として1分間に50回以 上触知できたときは、中止して良いと明記してあるが、救急隊が現着し、ハートスコ ープで20〜30回の脈拍が確認された場合では、直ちに心肺蘇生を実施して良いも のか、ご教示願います。

    回答: 人工呼吸をしても、心拍数の回復・血圧の回復や皮膚の色の改善が得られない場合は 、直ちに心肺蘇生術を実施する。

    解説: 心肺蘇生術の対象は、必ずしも心臓の完全停止ではない。重要臓器への循環が得られ ないと考えられる場合である。

     20〜30回の脈拍では心機能が極端に低下して、血圧も測定できない状態と考えら れる。従って、心肺蘇生術の対象となる。

     40台の心拍数は正常でもあり得る。

     40未満の時は血圧や、脈拍の触知具合を勘案して判断していく。但し、冷たい水の 中での溺水の場合などは、極端な徐脈と血圧の低下があっても、人工呼吸をすること によって心機能が回復することがある。この場合は、皮膚の色が改善していく。 以上の点から、まずは気道確保を行い、人工呼吸をする。それでも、脈が触れてこな かったり、皮膚の色が改善してこなかったら、直ちに心マッサージも行う。


  2. 心肺蘇生法について

    <質問内容>: お風呂場で浴槽におぼれていた人で、心肺停止状態の人にCPRを実施したところ、肺 より水が逆流してきた場合どうすればよいか。

    回答: 口の中の水や吐物を手早く吸引したり、掻き出したりしてCPRを続行する。気道から の水の排除などは不可能と考え、そのようなことに時間を浪費しないようにする。

    解説: 肺からの逆流と胃からの逆流の区別は難しいであろう。胃からの吐物は気管に入らな いように十分配慮する必要がある。おなかを押さえて、水を出すようなことはしない ように。胃の中の水はさし当たり、生命には関係ないのだから。

     気道内の少々の水は無視し人工呼吸を行う。気管から肺にかけて大量の水が詰まって いる場合は、もはや手遅れで絶望的であろう。

     以上から、口の中のものだけを処理し、心肺蘇生術を続行する。 間違った考えが広く伝搬しているので、正しい理解をするように留意する。 なお、温水での溺水は冷水の場合と比べ救命率がきわめて悪い。


  3. マウストゥマウスにおける感染(etc)の危険度について

    <質問内容>: 一般市民向けに、CPRの実技指導を実施するわけですが、その際マウストゥマウスに おける感染(etc)の危険度について質疑があるのですが、模範的な回答としてはど う応答すべきか?

    回答: 感染する率は極めて低いが、感染しないとは言えない。何の道具も持ち合わせていない場合は、これに代わる人工呼吸法は無い。

    解説: マウストゥマウスがいやな場合は、せめて気道確保を正しくしっかりと行う。心マッ サージの際ある程度の換気がなされる。 自分の子どもや、夫や妻にする場合のことを考えて、手技だけはしっかりマスターす るように。


1996年 後期(第10期)救急II 課程 質問書について


  1. 喘息発作について

    <質問内容>: 第4期救急II課程、”酸素吸入について”で救急隊の酸素吸入が禁忌の場合がないと 考えるべきと回答がありましたが、いぜん喘息発作の患者に酸素吸入をしながら搬送 、病院到着と同時に呼吸停止にいたった。

    @酸素吸入との因果関係
    A搬送時の体位
    B適切な応急処置
    Cこの様なケースはよくあるか

    解説:

    • 質問の症例の呼吸停止については、もう少し詳しい状況がわからないと何とも言え ない。すなわち、喘息による気道閉塞が進行して遂に停止状態になってしまったのか 、喘息用の症状を呈しているが、慢性閉塞性肺疾患の急性増悪で高濃度酸素吸入によ って呼吸停止になったのか、あるいは別の原因なのか。

      急性の喘息発作であれば、患者の最も楽な姿勢で、酸素吸入をしながらできるだけ早 く医療機関へ搬送しなければならない。

      ところで、呼吸不全患者の酸素投与に関してであるが、慢性閉塞性肺疾患、間質性肺 炎、パラコート中毒などでは、高濃度酸素投与は問題がある。それゆえ、救急隊の酸 素吸入が、禁忌の場合はないという主張には異議を唱えられることが充分予想される 。

      しかし、なぜあえて禁忌がないと断定したかを述べる。

      まず第1に考えることは、救 急現場という状況を想定するなら、そこでは医学書をひもといて調べるということも できない、しかも即座に正しい対処を迫られるので、あやふやな知識でのいい加減な 対処はできないし、考え込んで時間を過ごすこともできない、つまり、間違いが無く 、あれやこれやと迷うことのない明快な知識が要求されることである。

      第2に、患者 自ら「息が苦しい」とか「胸が苦しい」などと訴えたり、呼吸回数が多かったり、呼 吸が荒かったりするのが観察されたら、呼吸困難の症状ととらえるべきであり(特に 救急現場は一般的に「症状把握とそれへの緊急避難的対処の場」であって、「診断の 場」ではない)、呼吸困難は酸素の不足していることの現れと捉えて対処すべきであ る。

      第3に、通常は救急現場から、医療機関への搬送が10分前後で行われること。

      以上の3点を踏まえて考えると、まず慢性閉塞性肺疾患の場合であるが、このときは 低酸素が呼吸運動をさせる引き金になっているので、高濃度の酸素が与えられると呼 吸運動の命令が発令されないという事態が発生し、呼吸停止になってしまうという恐 れがあるということである。しかし、いま救急車が呼ばれたということは、一般的な 慢性呼吸不全の状態ではなく、慢性呼吸不全の急性増悪の状態であり、酸素が極端に 不足し緊急に酸素が必要とされていると考えられる。従って酸素は必須である。もし 高濃度酸素によって呼吸停止になったとしても、それは血液中に酸素が、呼吸運動を 発令する基準より多いことを示しているからであり、酸素投与が致命的になるとは考 えられない。医療機関へ搬送されてから、血液ガス分析などをして適切な酸素の投与 がなされればよい。

      次の問題であるが、酸素は細胞毒の一面もあり、特に肺は常にこ の危険にさらされている。間質性肺炎やパラコート中毒の場合、高濃度の酸素は肺の 障害を促進する可能性がある。従って、一般的には酸素投与は必要最小限にすべきで ある。しかし、呼吸困難の状態の時には、酸素は絶対に必要である。適切な酸素投与 量の決定は医療機関でなされるべきことであり、それまでは、酸素の不足を可能な限 り避けるべきである。

      以上述べた以外の場合は、酸素投与が必要でないことがあって も、やっていけないことはない。反対に、例えばショック状態の場合などでは充分な 酸素投与は絶対に必要で、投与しないということが無いようにしなければならない。 以上を総合的に考えれば、医療機関への搬送という限定の中では、酸素投与をしてい けない場合はないと考えるのが最も安全であると筆者は考える。

      ただ、現在ではパルスオキシメータがほとんど常備されているので、慢性呼吸不全の 場合は、特に医療機関への搬送に時間がかかる場合などでは、90%ないしは90%を少 し越える程度にとどめるように、酸素流量をたとえば毎分1〜2Lあるいはそれ以下 にとどめておいた方がよい場合がある(しかし酸素は投与すべきである)。

    • 呼吸不全の患者は座位のままに居続けようとするであろう。臥位になると腹部内臓 が横隔膜を押し上げて、呼吸が抑制され苦しくなるからである。従って座位で搬送す る。

    • 医療機関から吸入薬剤の投与を受けているなら、それを指示された用法で投与する 。冷たく乾燥した空気は状態を悪化させる。可能なら暖かい湿った空気を吸入させる 。

    • 喘息患者は、若年者に多いが、命に関わる重篤な場合もあるので、迅速に対処する 必要がある。慢性呼吸不全患者は、必ずしも少なくはない。特に社会の高齢化が進行 しているので、肺気腫や喘息などの慢性閉塞性肺疾患がだんだん多くなってきている と思われる。救急隊が呼ばれることは決して少なくはないであろう。


  2. 心肺蘇生法について

    <質問内容>: 心肺停止時には、A→B→C(エアウエイ・ブレス・サーキュレーション)に基づき心 肺蘇生法を行うが、C→A→Bの順で行うことも考えられると聞いたことがあります。 気道確保・人工呼吸をしないでの心臓マッサージの有効性についてご教示願いたい。

    解説: 1992年のアメリカ心臓協会が出している「CPRのガイドライン」によると、オランダ ではこれが通常の方法であり、アメリカの行っているABCと結果は変わらない。しか し、人間での比較研究がなされていないので、現在これをABCにとって代えるという ことにはならない。さし当たり、どちらも効果があるとする、というなことを記述し てある。

    筆者としてはこれ以上のことは、述べられない。ただ、心停止直後には、人工的な循 環の確保が何よりも大切であると考えられており、それを強調した手技であると思う 。


  3. 心肺蘇生法実施中の呼吸・脈拍の回復の確認について

    <質問内容>: 第5期の質問書(その5)で回答してありました。自発呼吸が戻ってきたり、次第に 顔色や四肢の皮膚の色がよくなってきた場合は、その時点で呼吸と脈のチェックをす ればよいと考えている。とありますが、数値を上げるとすると、例えば呼吸が10回/ minと脈拍が40回/min 以上回復すれば心肺蘇生法を止めてもよいという意見もあるよ うですが、それでよいのか、他にもっと詳しい回復確認方法があればご教示願いたい 。

    解説: 筆者の臨床上の実感からは、質問者の数値は全く妥当だと考える。内容を補足してい ただいて感謝する。

    その上で、実際の場面を想定すると、呼吸の確認はともかく、脈拍に関しては、全く 正常な人においてさえ、特に太った人などは頚動脈をはっきり触知する事の困難なこ とが、そう珍しいことではないように筆者は感じている。更に、パニック状態になっ ている場面である。冷静にしかも手早く正確に脈を確認するのは、かなり困難である ように思う。

    別の点から見れば、脈を確認するのは、自力で生存できるようになった ことを確認するための、1手段なのであって、触知自体が目的ではない。呼吸が再開 すれば、脈が触れないと思っても、まず心臓が動いていると考えてよいであろう。パ ニック状態であればあるほど、自分の本当の目的は何かを考えていかないと、致命的 な間違いをしでかしてしまうので十分注意する必要がある。

    とにかく、現在頚動脈の拍動触知が最も現実的な方法と考えられているので、基本手 技となっている。


  4. 人工呼吸法について

    <質問内容>: 喉頭癌により頚部に気道が増設されている者への人工呼吸法について

    解説: 気管切開口から人工呼吸をする。気管カニューレが挿入されていることが多いと思わ れる。カニューレにカフが付いていれば、カフをしっかり膨らませ、人工呼吸をする 。カフが付いていないものや、カフが付いていても洩れがひどいときには、鼻と口か ら送り込んだ空気が洩れないようにしっかり鼻と口を塞がなければならない。


1996年 前期(第9期)救急II 課程 質問書について


  1. 感染症について

    <質問内容>: 
    1. 感染症の症状について
    2. 救急を要する主な感染症について
    3. 感染症の救急処置について
    4. 感染予防について

    回答: 感染症一般については、ここではとても回答できない。 ただ、救急隊員自身のHBV、HCV、HIVなどの血液や体液などからの感染の予防に関し てはすでに記述してあります。


  2. 交通事故に伴う外傷性気胸の留意点について

    <質問内容>: 外傷性気胸の症状の特徴と搬送時における傷病者の体位および酸素吸入の投与量等 に対する応急処置の方法を御教唆願います。

    回答:

    1. 症状は、呼吸困難、頻脈

    2. 酸素投与量は5L/分以上。酸素マスクをするので、一般に仰臥位。気胸でない方 を上にした側臥位でも良い。人工呼吸はしない(自発呼吸にまかせる)。

    3. 医療機関へできるだけ早く搬送し、胸腔ドレーンを入れる

    解説:

    1. 肋骨は、左右それぞれ12本あり、ちょうど鳥かごのようになっていて、胸部にし っかりした空間を作っております。肺は風船のようでそれ自身では膨らみません。風 船は周りの空気(1気圧)より、高い圧の気体を吹き込んで膨らませますが、肺は胸 の中の圧が陰圧になっていることにより、口→気管→気管支→肺へと大気が吸い込ま れることによって、膨らみます。従って、胸の中の肺を取り囲んでいる周りの気圧が 1気圧またはそれ以上になるとたちまち縮んでしまいます。この状態を気胸といいま す。このとき、筋肉を使って、胸を膨らませたり、縮めたりする事はできますが、空 気は吸い込まれません。つまり息ができなくなります。

    2. 一生懸命息をしようともがきます。また、心臓は全身へできるだけ酸素を補給し ようと、全力で働きます。

    3. 気胸には、外部と空気の交通がある場合と、肺の空気が胸腔内に漏れているが、 外部と空気の交通がない場合、の2つがあります。外部と交通がある場合は、アンビ ューバッグで人工呼吸をしてもかまわないが、外部と空気の流通がない場合は人工呼 吸をすると一層悪化します。従って一般的には人工呼吸をせずに、自発呼吸にまかせ 、医療機関へ早く搬送します。

    4. 治療は、胸腔の中へ管(胸腔ドレーン)を入れ、胸腔の中の空気を吸い出し陰圧 を作り、それによって肺を膨らませます。ドレーンを挿入して、吸引が開始されたら 、人工呼吸をしても良い。

    5. 酸素はできるだけたくさん投与するようにする。リザーバーバッグの付いたマス クの場合は、8〜10L/分を流し、必ず、リザーバーバッグを膨らませた状態にする。 通常のマスクの場合は、コルベンの水が吹き出たり、接続のチューブがはずれたりす ることのない最大の量にする。


  3. 心肺蘇生の奏効性と弊害について

    <質問内容>: 傷病者が、呼吸・心停止状態でかつ交通事故等で胸腹部に損傷が認められ、気・血胸 又は腹腔内出血が予想される場合に心肺蘇生法を実施し考えられる二次的弊害と奏効 性について。

    回答:

    1. 通常通りの心肺蘇生法を行う。

    2. 出血や止血のことを考える必要はない。

    3. 効果は極めて悪いことが予想されるが、医療機関へ運ばれるまでは心肺蘇生法を 実施し最善を尽くす。

    解説:

    1. 気・血胸、肋骨骨折などがある場合は、心肺蘇生法の効果は極めて悪いが、それ 以外またはそれに代わる方法は無い。そしてそのやり方も、どのような状態どのよう な傷害であっても、いつも同じである。

    2. また出血によって心肺停止になった場合も、循環血液量を何らかの方法で補わな い限り、心肺蘇生法の効果は期待できない。

      しかし現場では、本当に出血の原因によって、心肺停止にいたったのか?、あるいは 循環血液量はどれだけ残っているのか?、心肺停止になってからの時間は?、という ことはわからない。従って、主観や先入観で判断してはならず、即座に心肺蘇生法を 実施し、早急に医療機関に運ぶことが必要。

    3. 心肺停止状態では、一般に出血しない。従って止血を試みたりして時間を浪費し てはならない。


1995年 後期(第8期)救急II 課程 質問書について


  1. 心肺蘇生法普及のあり方について

    <質問内容> 各種機関の活動により、心肺蘇生法の普及率も増していると思われる。しかし、あい まいな知識で実施された場合により、症状を悪化させる事態も考えられる。たとえば 、呼吸および脈の確認、気道確保(異物除去)、また、実施に当たり、呼気吹き込み の量、回数、心マッサージの圧迫度合い、また、回復度合いの確認等の誤りにより、 どのような悪影響が生じるのか、あるいは単に呼気吹き込み、胸の圧迫の知識により 実施されても効果は望めるのか疑問に思う。

    回答:

    1. あいまいな知識で実施された場合、病態を悪化させることは考えられることであり 、指導者は正しく指導教育する必要があります。

    2. 心肺蘇生法の対象になるような場合の救命率は客観的に言えば、大変悪いと考えら れます。しかし、現場から医療機関へ運ばれる間に、心肺蘇生法が実施されたならば 、救命できただろうと考えられる例も少なくは無いのです。しかも命という取り返し の絶対できない問題であるが故に、一般的な病気などとは区別して考えなければなら ない一面があることを理解していかねばなりません。

    3. たとえば、溺水や心筋梗塞などの場合現場ですぐに心肺蘇生法が実施されれば、救 命率はかなり高いと考えられます。他方、呼吸停止や、心停止に対し心肺蘇生法を実 施しないで単に医療機関へ運ばれただけの場合は、どんなに早くても大脳の回復まで はきわめて困難になります。


1995年 前期(第7期)救急II 課程 質問書について


  1. 救急出動における感染防止対策

    <質問内容> 最近、感染症(HIV,MRSA,肝炎等)が国内外で話題となっているが、私たちも救急現 場で感染症患者に救急処置等の対応をしていかなければなりません。この場合の感染 防止、感染したと疑われる場合の処置、また、病院での感染症患者への対応をご教授 願います。

    回答: 患者の血液を含む体液に接しないように努める(手袋の着用、予防衣の着用など)。 接した可能性が考えられる場合は、流水でよく洗う。 針刺事故等の感染の可能性が生じた場合は、医療機関で検査のための採血を行う。


  2. 感染防止対策について

    <質問内容> 感染防止対策として当署はB型肝炎のワクチンの接種、救急隊員はグローブ等の着用 を行ってまいりましたが、もし救急隊員が感染したとしたらたとえばB型肝炎、C型肝 炎ではB型肝炎の免疫グロブリン、C型肝炎の場合インターフェロンで慢性化の予防が できるのか、またどれくらいで劇症肝炎はどれくらいで発症するのでしょうかご教示 願いたい。

    回答: B型肝炎について、成人での感染では慢性化することはほとんどない。 C型肝炎について、急性感染の場合50〜80%と高率に慢性化する。 激症肝炎の発症は1%以下で、C型肝炎よりB型肝炎の方が多く、死亡率はだいたい 70%といわれている。

    解説: B型肝炎の場合は激症肝炎にならなければ、慢性化という点に関しては問題がない( 急性B型肝炎は発症する)。C型肝炎は高率に慢性化するが、感染してからの期間が 短ければ、インターフェロン療法は効きやすいと言われている。現在のところ急性C 型肝炎に対してインターフェロン療法は保険適応になっていない。


  3. 救急隊員の感染防止について

    <質問内容> 感染症には多々ありますが、日頃からどのようにすれば最も効果的に防止できるでし ょうか。

    回答: 問題となる感染症、例えば、C型肝炎ウィルス、B型肝炎ウィルス、HIV感染症は 、主として血液を介して感染するので、血液が傷などを介して体内に入らないような 対策を講じる。

    解説: 効果的な防止策に関しては、前の説明と同じ。


  4. 訴える症状と違った疾患がある場合について

    <質問内容> 訴える症状と違った疾患があった症例として胃痛を訴えている傷病者が心筋梗塞だっ た例がありましたが、他にもこのような症例はありますか。

    回答: 予想と違う疾患であることは珍しくありません。症状を先入観無しに、聞くことが大 切です。一般的には現場では診断はできません。

    解説: 診断は通常、いろいろな医療器械や診断技術を駆使して客観的な評価をして下されま す。それまではいろいろな場合を想定して症状への対処を行います。

    たとえば、過呼吸症候群だと思っていたのが、自然気胸であることがあります。呼吸 困難を訴えていれば、診断がつくまでは無条件に酸素を十分与えることが大切です。 「胃痛」というのは、医療関係者は使うべきではありません。内臓の痛みは特定でき ませんし、まして「胃の痛み」という特別のものはありません。どこの場所がどのよ うに痛いのか、いつからか、ずうっと続くのか、などを正確に聞いて把握してくださ い。

    心筋梗塞は上腹部が痛いと訴えることは、大いにあります。胸はもちろんのこと、肩 であったり、背中であったりすることもあります。また胆石の場合の痛みも、痛みの 場所としては同様なことが言えます。


  5. MRSAについて

    <質問内容> 感染症のうち、肝炎、エイズは血液などを介して感染しますが、MRSAはどのように感 染するのか、又、MRSA患者を搬送した後、隊員および救急車の消毒はどのようにすれ ばよいか。

    健康者には発症しないが、隊員が保菌していた場合、重傷患者に感染させることにな らないか教えて欲しい。

    回答: 感染経路には、手指による感染、医療器具を介する介達感染、くしゃみ、咳などによ る飛沫感染などがあげられる。

    MRSA患者搬送後の処置として、隊員に関しては、石鹸と流水による手洗いで十分で、 可能であればディスポーザブルなガウンの着用も良いと考えられる。救急車に関して は、一般的清掃を確実に行うことが基本で、薬物による清拭は必要に応じ、次亜塩素 酸ナトリウム、テゴ、ハイアミン、オスバンを用い行う。

    隊員が保菌者の場合、感染させる可能性はあるものの、基本的衛生事項を守れば救急 活動に従事することに問題はないと考えられる。

    解説: 鼻腔、咽頭に保菌している場合は適切な処置(ポピヨンヨードの鼻腔塗布、ポピヨン ヨードによるうがい)が望まれる。


  6. 心肺蘇生について

    <質問内容> 頭部外傷および頚椎損傷の疑いのある負傷者の心肺蘇生を行う場合の留意点について ご教示願います。

    回答: 心肺蘇生法のやり方は、基本的にいつも同じです。ただ頚椎を捻ったり、ゆすったり しないように十分注意してください。


  7. 救急車内での心臓マッサージについて

    <質問内容> 救急車内で心臓マッサージを行いながら病院へ搬送途中、急ブレーキ等の振動、ゆれ で力の入れ方で患者の肋骨が折れる場合がありますが、この様な場合、通常の心臓マ ッサージを行ってもよいでしょうか?

    回答: 心臓マッサージでは、圧迫する部位、および力のかけ方に注意することが大切です。 従って、揺れや、急ブレーキでそれが乱れることは、大変まずいことです。できるだ け創意工夫して、正しく行われるようにしてください。


  8. 応急処置について

    <質問内容> 老齢者や癌の様な慢性病の末期的状態で心停止を起こした場合は、心マッサージを行 ってはならないと聞いたことがあるが、このような傷病者を搬送する場合、医師がい る場合は指示を仰ぐことができるが、家族しかいない場合はどうすべきか?

    回答: 医療機関へ来て、癌による心停止と診断されるまでは、心マッサージを行うべきです。

    解説: 癌患者本人が、延命のための医療をしないで欲しいという意思を示していた場合は、 難しいのですが、もし心肺停止が癌とは全く無関係の場合は、一層ややこしくなりま す。原則として、診断をつける医療機関へ搬送する間は、一律に心マッサージをすべ きでしょう。特に、ここではかかりつけの医師ではなく、救急車が呼ばれたときのこ とを想定しているので、なおのことです。


  9. 胸部外傷の応急処置について

    <質問内容1>交通事故などにより、胸部を強打し、肋骨骨折又は胸骨を骨折し、さらに呼吸停止を 呈した場合の応急処置(心肺蘇生法など)について

    回答: 通常の心肺蘇生法を行う。

    <質問内容2> 開放骨折の場合、受傷初期の汚染創の処置は感染防止のため重要であるため、その実 際の応急処置についてご教示願いたい。

    回答: 骨折部位が動かないように、固定する。汚染創の処置は基本的には医療機関に運ばれ てから行う。現場では清潔なガーゼ等で、圧迫止血などの最小限の処置にとどめる。


  10. CPRの実施について

    <質問内容> CPRは一人で行う場合、2回の人工呼吸と15回の心マッサージを1サイクル、二人で 行う場合は1回の人工呼吸と5回の心マッサージを1サイクルと成っているが、この 回数の根拠と一人二人の回数の違い、回復の確認について知りたい。

    回答: できるだけ正常の換気量と循環血液量を確保するために人工呼吸と心マッサージの回 数が考えられている。

    一般の人を対象にした場合は、一人で行う心肺蘇生法だけを教える。

    救急隊員の場合は二人心肺蘇生法を覚える。やりやすさと疲労度から言った場合は二 人心肺蘇生法の方が有利。

    回復の確認は、最初の4サイクルをしたあと、頚動脈で行う。回復していなければ、 医療機関に到着するまで続ける。


  11. CPRの実施について

    <質問内容> 交通事故などによる胸部骨折及びその疑いのある患者が心肺停止をしている場合、心 肺蘇生法をどのように行えばよいか?

    回答: 状況によって心肺蘇生法が変わることはない。ただ、心肺蘇生法は原則として移動さ せずにその場で行うが、道路状況などで危険な場合は、安全な場所へ速やかに移動さ せて行う。


  12. CPRの実施について

    <質問内容> 交通事故やその他の事故などにより、頭部に外傷があり、心肺停止状態にある傷病者 に対する処置として、はじめに出血部位の止血を行い、その後CPRを実施するのが正 しいと思われるが心肺蘇生法を行う度に外傷部位からの出血を伴うと思われる。この 様な場合における最も効果的な止血方法及びCPRとはどのような方法でしょうか?

    回答: 心肺停止している場合は、出血しないと考えられる。直ちに心肺蘇生法にとりかかる べきである。


  13. DOA患者のCPRと脳の蘇生について

    <質問内容> 救急隊現着時の観察結果「生命徴候無し」患者の場合、救急車内ではCPRの実施は原 則であると思われるが、その結果が成功し、植物人間状態となることもあると思われ る(一般的に脳に10分以上酸素が無い)が、その場合の脳の蘇生はあるのかどうか 。

    また、現実、救急車内に家族及び関係者などがいない場合、CPRを実施すべき傷病者 とそうでない傷病者はいるのではないだろうか。

    回答: 心肺停止の場合は直ちに心肺蘇生法を行うべきである。結果を考えてや患者家族の状 況によって変わることはない。

    解説: 一般に脳に4分以上酸素が行かなければ、不可逆性の変化をきたすと言われている。 しかし、循環が止まってどれだけ経つかは普通判定できない。また体温によって酸素 需要は大きく変わる。従って、医療機関に運び、人工呼吸をし、点滴をとり、薬剤を 投与した上で、心電図などの客観的なデータのもとで始めて、死の判定ができる。


  14. 胸骨付近(肋骨含む)の骨折患者へのCPRに対する留意点について

    <質問内容> 交通事故等により胸骨付近の骨折及びその疑いのある患者が心肺停止をしていた場合 のCPRは可能か。できるとすれば留意点を聞かせてもらいたい。

    回答: 心肺蘇生法はいつも同じである。


  15. CPR実施患者の搬送可能時間について

    <質問内容> 呼吸停止後の生存率は、ドリンカー曲線として示されていますが、CPRの実施におい ては輸液等の体液管理を行わなかった場合、血液の酸素搬送能力低下、各臓器不全等 が発生し、長時間に渡った場合蘇生不能になると思われますので適切な搬送を行うた めに、限界時間及び有効な処置方法を教えてください。

    回答: 心肺蘇生法を行いながら、速やかな搬送を行うだけです。


1994年後期(第6期)救急II 課程 質問書について


  1. 胸部外傷のある患者のCPRの実施について

    <質問内容> 交通事故等による胸部骨折およびその疑いのある患者が心肺停止をしている場合、心 肺蘇生法をどのように行なえばよいか留意点を伺います。

    回答 肋骨骨折があっても心肺蘇生法が必要な場合はガイドライン通りにしてください。 解説 第5期の質問1の回答・解説を参照してください。


  2. CPRの実施方法の回数について

    <質問内容> CPRは一人で行なう場合、2回の人工呼吸と15回の心マッサージを1サイクル、二 人で行なう場合は、1回の人工呼吸と5回の心マッサージを1サイクルと成っている が、この回数の根拠と、一人と二人の回数の違い、回復の確認について知りたい。 救急講習会で住民からの質問が多いため。

    回答

    • 一般市民を対象とした講習会では、一人で行なう心肺蘇生法のみを教えます。

    • 1回1.5〜2秒かけての人工呼吸を続けて2回し、次いで1分間に80〜100回の割 合で15回の心マッサージを行なうのを1サイクルとして行ないます。

    • 最初の4サイクルをしたら呼吸と脈拍のチェックをします。その後は呼吸が出て きたり、顔色が改善してきたらその時点でチェックし、そうでなかったら医療機関へ 引き渡すまで中断することなく続行します(但しこれは筆者の独断的見解です)。

    解説: 1分間に60〜80回の心マッサージと12回前後の呼吸が効果的に行なわれること が望まれますが、それを満たすことは不可能で、ぎりぎりの条件として上記の回数が 割り出されたのだと筆者は理解しています。

    一人CPRと二人CPRでは、二人CPRの方がより効果的に行なうことができ(気道確保、 スムーズな手技の実行)、かつ疲れも少ないと考えられますが、一般の方には複数の やり方を覚えてもらうのは避けるべきなので二人いても一人CPRを交代で行なうよう に指導して下さい。他方救急隊の方は3人一組で出動すると思いますので、二人CPR を行なって下さい。


  3. 頭部外傷のある傷病者に対するCPRの実施について

    <質問内容> 交通事故や転落などにより、頭部に外傷があり、心肺停止状態にある傷病者に対する 処置として、まず初めに出血部位の止血を行ない、その後CPRを実施するのが正しい と思われるが、心臓マッサージを行なう度に外傷部位からの出血を伴なうと思われる 。このようなケースにおける最も効果的な止血方法及びCPRとは、どのような方法で しょうか。

    回答: 心肺蘇生法を必要とする場合は、止血処置を考えることなく、心肺蘇生法を行ないま す。

    解説: 心停止に至っている場合は、出血はしません。もし心マッサージのたびに出血するよ うな傷ならば、現場では止血できないだろうと考えられます。心マッサージをしなが ら、医療機関へ速やかに搬送します。


  4. 小・中学生の心肺蘇生法指導について

    <質問内容> 当消防本部は、一般住民・事業所従業員等の応急手当等の普及啓発に努めているところ 鼻ですが、将来は、学校の授業での応急手当等の指導が考慮され、水泳教室等の一部 では既に実施しています。そこで、小・中学生の医学的理解での心肺蘇生法指導は、 下記の通りでよろしいかご教示下さい。

    ○中学生----------------------高校生と同様で心マッサージまで
    ○小学生(高学年)------------人工呼吸まで
    ○   (中学年)------------気道確保まで
    ○   (低学年)------------止血等の応急手当に止どめる

    回答: 小・中学生の心肺蘇生法指導のガイドラインがあるのか知りません。できるだけ調べ てみます。

    解説:その場の状況で判断したほうが最もよいかもしれません。非常に興味を持てば子供は どんどん吸収するし、逆におもしろくないとどんなに良いことを話しても聞いてくれ ないのではないでしょうか。

    追記:金沢大学麻酔科の山本助教授にお聞きしたところ、アメリカの事情をいろいろ聞いて いただきました。 アメリカは州によっていろいろで、決まってはいないけれど、高校生以上は人形をつ かって訓練するけれど、中学生以下は人形をつかって訓練することは無いとのことで した。


  5. 心肺蘇生法実施中についての注意点

    <質問内容> 心肺蘇生法を実施したところ、胃内にも酸素が入り腹部がふくらんでいたので中止し た。この場合どのような対応をすべきか。

    回答

    • 胃膨満を理由に心肺蘇生法を中止してはならない。

    • きちんと気道確保をし、ゆっくりと呼気を吹き込むことによって胃膨満をできる だけ防止する。

    • 原則として、腹部圧迫による胃内空気の押し出しはしてはならない。

    解説: 「胃内にも酸素・・・」とあるから、アンビューバッグ使用中のことかも知れません 。アンビューバッグを使って、一人で人工呼吸するのは大変難しく、胃内へ空気を送 り込むことになりがちです。アンビューバッグを使うときは、一人は下顎挙上法によ り気道を確保し、同時に両手でマスクを口の周囲に密着します。もう一人がバッグで 空気(または酸素)を送ります。つまり二人で人工呼吸を行うようにすべきであると 筆者は考えております。

    胃内に空気が送り込まれる原因は、気道がうまく確保されていないのにむりやり人工 呼吸をしたり、呼気吹き込みが早すぎる場合です。

    胃内に空気が入り、腹部が膨満すると横隔膜が押し上げられ、呼吸がしにくくなりま す。しかしだからといって、上腹部を圧迫して胃から空気を押し出すと嘔吐の危険が あります。胃液や胃内容物が気管に入り込むと重篤な肺炎を引き起こします。従って 腹部圧迫は原則としてしてはなりません。


  6. 住民に対する救命技術の普及について

    <質問内容> 119番通報を受けてから、救急隊が現場に到着する前に的確な応急手当が速やかに 実施されれば、現在運用されている救急救命士の高度な救命処置と相まって救命率が 向上することは明らかです。住民等による応急手当、特に救命に最も重要な心肺蘇生 法の修得の必要性及びその理解がいまだ十分でなく、その普及方策に積極的に促進す べきで消防機関の住民等への普及方法等について特に注意すべき点は?

    解説

    I. 市民がCPRを習得する必要性の理解のためのポイント

    • 心停止後4分以内に血液の全身的循環が戻らないと、脳の完全な回復が得られない 。従って突然の心停止に至る事故があった場合、その場に居合わせた人が対処しなけ れば間に合わない。

    • 上記の対処ができた場合命が助かる可能性がある。

    • 上記の如き事故が、誰にでも出会う可能性がある。

    II. 一般市民への普及方法に関して

    • 指導者の育成、指導内容の統一と、国や地方公共団体やその他関連機関の組織的、 統一的、計画的な普及活動が考えられるべきであろう。さしあたり、われわれは各種 団体の要請に積極的に応じていくべきであろう。

    • 個人的には、プールでの水死事故を限りなく0に近づけることは可能ではなかろう かと考えている。

      1. 呼吸停止から発見までの時間が比較的短い場合が多い。他方、呼吸停止から心停 止までに数分から十数分かかる場合も考えられ、プールから引き上げられた時点で人 工呼吸または心肺蘇生法を実施すれば救命率は高いし、脳にも何らの障害を残さない ですむ場合が多いと考えられる。

      2. プールでの溺水者は比較的若く、心臓、肺を含む全身状態に問題はなく健康で ある場合が多いと考えられる。

      3. 他方、プールには通常監視者が常駐しており、この人達を定期的に教育するこ とは、比較的容易と考えられる。

    以上の点を考慮して、所轄のプール施設の職員にたいして毎年プール開きの前 に、全員に対し、実技を含む講習会を実施することを計画できないものであろうか。 (その際に、設置または常備してある酸素ボンベや救命器具の点検や使い方および消 防署への正確な情報伝達の仕方なども必ず行う)


  7. 心肺蘇生及び酸素投与について

    <質問内容> 交通事故等で頭部外傷及び頚椎の外傷の疑いのある負傷者に心肺蘇生を行なう場合 、心肺蘇生法のラインにそった蘇生法でよいのか、頭部後屈により外傷部の悪化とい うことはないのか対処の方法をお願いします。また低酸素に陥っている患者に酸素を 投与する場合の酸素量についての留意点を詳しく教示願います。

    回答

    1. 心肺蘇生法はガイドライン通りに行う。ただし、身体を揺すったり頚を屈局しない ようにできるだけ注意する。気道確保のため頭部後屈するのは止むを得ない。

    2. 酸素は十分に。低酸素の患者には十分な酸素を投与する以外に留意点はありません。

      解説

      1)に関して: 頚椎損傷があっても、気道確保のほうが優先されます。基本的には心肺蘇生法はただ 一つと覚えてください。いろいろな状況で別なやり方があるわけではありません。た だ、救急隊員の場合は、一人が下顎挙上法をすれば必ずしも頭部後屈をしなくても気 道確保ができます。

      2)に関して: 第4期の質問2の解説を参照してください。


    1994年前期(第5期)救急II 課程 質問書について


    1. 肋骨骨折患者への心マッサージについて

      <質問内容> 先般「歩行中の男性が乗用車にはねられた」との通報で出動した。現着時意識レベル 300、脈無し、瞳孔散大の状態だったので、ただちに心肺蘇生を開始した。ところが 、心マッサージをすると胸部が異常に沈み込み、骨折しているのがわかった。そこで 手加減しながら搬送した。適切な処置を教えて頂きたい。

      回答: 多発性の肋骨骨折患者の場合でも、心停止の場合にはガイドライン通りに手加減する ことなく、心マッサージしてください。

      解説: 心マッサージの効果は、心臓を直接圧迫することによる効果と、圧迫解除の時に末梢 の静脈の血液を胸に吸い込み、胸を圧迫することによって胸腔内の圧を上げ、それに よって胸の中の血管の血液を動脈の方へ絞り出すという効果の二つの効果があわさっ たものと考えられています。多発性肋骨骨折の場合は、後者の効果は激減しますので 、心臓マッサージの効果も極めて悪くなります。しかしそれに対しては対処の手段は 有りません。それ以上の骨折を避け、できるだけの効果を発揮するように、正しい手 の位置と正しい力の掛け方を修得して下さい。


    2. 胸部外傷のある患者のCPRの実施について

      <質問内容> 交通事故等による胸部骨折、およびその疑いのある患者が心肺停止をしている場合、 心肺蘇生法をどのように行なえばよいか留意点をご教示願います。

      回答: 他の心肺蘇生法を必要としている場合と同様にガイドライン通りに行なって下さい。


    3. 蘇生率について <質問内容> 心肺蘇生法による救命率は、ドリンカー曲線によるところですが、心疾患、たとえば 心筋梗塞により心停止した場合、蘇生の確率はかなり悪くなると考えますがどうでし ょうか。

      回答: 心肺蘇生法による救命率は一般に悪いけれども、心筋梗塞によるものが他の場合より も悪いということは言えない。

      解説: むしろ外傷などによる心肺停止の方が、救命率が悪い場合が多いでしょう。 アメリカ心臓協会が編集している心肺蘇生法のガイドラインが、現在世界の教科書と なっているが、これはどちらかといえば、心臓が原因の心肺停止をターゲットにして いるように思えます。


    4. 脳挫傷で心肺機能停止の負傷者に対するCPRの効果はあるのか。

      <質問内容> 交通事故等により脳挫傷で心肺機能停止状態の負傷者にCPRを施した場合の蘇生は可 能なのか。

      回答: 脳挫傷のみが原因で心肺停止になった場合は、蘇生は極めて困難であろうと思われる が、現場ではその判定ができないはずです。

      一般に蘇生が可能か否かの判定は、明らかな死(頭が切断されているとか、死後硬直 など)でないかぎり、たとえ専門の救急医であろうが、現場ではできないはずです。


    5. 心肺蘇生法実施中の呼吸、脈拍の回復確認法について

      <質問内容>  CPRの実施方法は詳しく説明してあるが、回復の確認方法については、ほとんど明記 してない。

       CPRを「数回実施後」や「1分間実施後」などと聞くこともあるが、単に「回復す るまで」と記るしてあるものが多い。

       応急手当法講習会などで住民から質問されることもあるので明確な方法が知りたい。

      回答: 最初、2回の人工呼吸と15回の心マッサージを1サイクルとして4サイクルをした ら(約1分間)、頚動脈をチェックする。もし脈が戻らなければ、心肺蘇生法を続け 、2〜3分毎にチェックする。

      解説: 筆者の全く個人的な考えですが、最初に4サイクルした後にチェックしたあとは、時 計で測定することはないので、むしろ中断を避けるために救急隊員に引き渡すまでは 休まずに続ける方がよいように思う。ただ、自発呼吸が戻って来たり、次第に顔色や 四肢の皮膚の色がよくなってきた場合は、その時点で呼吸と脈のチェックをすればよ いと考えています。


    1993年後期(第4期)救急II 課程 質問書について


    1. 心臓マッサージについて

      <質問内容> 救急車内で心臓マッサージをしながら病院へ搬送途中、力の入れ方によって患者の 骨がボキ、ボキと折れるような音がする場合があります。このような場合、いかに対 応すれば良いかご教示願います。

      回答解説: 心臓マッサージは、特に高齢者の場合肋骨の骨折は避けられないことがあります。肋 骨骨折を恐れて心臓マッサージを躊躇したり、あるいは必要十分な力を出さなかった りすることは好ましくありません。肋骨骨折を恐れず、しっかりマッサージをしてく ださい。

      とは言え、肋骨骨折により、肝臓、脾臓、肺を損傷したりして、それが致命的である 場合もあります。従ってそれをできるだけ避けるように、正しい手技をマスターして ください。

      何よりも正しい位置に手を置くことです。両側の乳頭を結ぶ線よりも下の、正中線上 (胸骨上)で、決して剣状突起に手が掛からないように、また必ず正中であって、決 して左側を圧迫するようなことが無いようにしてください。

      また指をできるだけ肋骨に掛けない方が好ましいけれど、疲れるとそれは不可能に近 いです。その場合、指が肋骨の上に掛かっても、少なくとも力を掛けるのは胸骨の上 にある手根部だけにしてください。


    2. 酸素吸入について

      <質問内容> 低酸素症に陥っている状況下(酸欠、各種中毒、溺水、肺炎、眼部外傷、各種ショッ ク、心不全、発熱等)では酸素の投与が非常に有効な処置だと思いますが、CO2ナル コーシス等酸素濃度が高すぎたり酸素を投与してはいけない患者の症状等を詳しくご 教示願います。

      回答解説: 低酸素状態にあるときは、酸素は必ず必要であると理解してください。またショック の場合も必須であります。慢性呼吸不全の患者に、不用意な高濃度の酸素投与は避け るべきではありますが、そうした患者ですら急性増悪期には酸素を投与する必要があ ります。

      また間質性肺炎の長期的な呼吸管理では、必要最小限の酸素濃度で管理していかなけ ればなりませんが、その場合でも何らかの事態で低酸素状態になったときには、ただ ちに十分な酸素を投与しなければなりません。

      いま救急隊の方が、緊急出動したという場合を想定するならば、酸素吸入が禁忌の場 合は無いと考えるべきでしょう。


    1993年前期(第3期)救急II 課程 質問書について


    1. 心肺蘇生について

      <質問内容> 救急車までの収容途上、階段等に遭遇した場合、適切な心肺蘇生をするための留意点 について

      解説:「特殊な状況のもとでの心肺蘇生」に関して

      □場所の移動 (Changing Location)

      効果的な心肺蘇生法 (CPR) が開始され、脈が戻るまでは、あるいは助けが到着して 、心肺蘇生 (CPR) が中断無く行うことができるようになるまでは、窮屈な場所とか 人混みの場所から、やりにくいからといって、被災者を動かしてはならない。燃えて いる建物のような、安全でない場所ならば、安全なところへ移動し、それから直ちに 心肺蘇生 (CPR) を開始しなければならない。

      □階段 (Stairways)

      場合によっては、階段を上か下へ被災者を移動させなければならない。階段の上か下 で心肺蘇生 (CPR) を行うのが最もよい。そこで、あらかじめ決めておいた合図で心 肺蘇生 (CPR) を中断し、できるだけ早く次の階へ移動し、再び心肺蘇生 (CPR) を再 開する。中断は短くすべきであり、可能なら避けるべきである。

      □担架 (Litters)

      救急車や、救急の介護のための車に移動する間、心肺蘇生 (CPR) を中断してはなら ない。丈の低いストレッチャーだと、横に立って手の肘を真っ直ぐにしたまま心マッ サージをすることができる。丈の高いストレッチャーやベッドでは、被災者の胸骨の 上に充分な高さを確保するために、横にひざまずくのがよい。

      一般的に、心肺蘇生 (CPR) は、熟練者によって気管内挿管が行われるときか、移動 に問題があるときのみ以外は、中断されてはならない。救助者が一人ならば、救急車 へ連絡するために、心肺蘇生 (CPR) が一時的に遅延するのは仕方がない。


    2. 高齢者の心肺蘇生について

      <質問内容> 高齢者の全義歯での義歯が無い場合、口から酸素が漏れる時には有効な心肺蘇生を どのようにすればよいか。

      解説:「マスクの密着」について

      (1)義歯の無い人にマスクを密着させるためには、マスクの種類を各種用意して適 切なものを選ぶ。経験的にはサイズのやや小さめが、比較的良いように思う。

      (2)口の中へガーゼ片を入れて、頬部を膨らませるのも良い。

      (3)マスクでの人工呼吸で、大事なことは気道を開通させることです。一人でアン ビュウバッグを扱うことは、気道の開通とマスクの密着を、同時に片手で行わなけれ ばならないので意外に難しい。複数のメンバーがいれば、マスクは一人が専念すべき である。心肺蘇生を3人で行うときは、マスク、バッグ、心マッサージとそれぞれ分 担するのがよい。


    1992年(第2期)救急II 課程 質問書について


    1. B型肝炎およびエイズ患者にたいする取り扱いの留意点について

      救急隊の収容した傷病者の自己申告により、B 型肝炎患者を搬送する事例がありま した。このような自己申告による把握はごくまれなことと思われます。

      <質問内容> 使用した救}資材等の、その後の取り扱いはどうすればよいのか。例えばどのような 消毒(薬品等)方法が望ましいか。

      また、上記患者を処置した場合に救急隊員は、直ちに病院で検査を受ける必要がある のか伺います。


    2. AIDSについて

      <質問内容>近年エイズ患者が全世界および日本国内でも感染爆発が予想される中、我々救急隊員 の患者に対する対処の方法をお願いいたします。


    3. 救急隊員の感染について

      <質問内容>凝固した血液および乾燥した血液の感染力はあるのか(白衣および制服・作業服に付 着した前記の血液)。また、付着した血液の処理方法について。

      回答:以上に関して私は専門家ではありませんので、「救急救命士標準テキスト」、「救急 隊員標準課程テキスト」を参照してください。さしあたり、私の編集した「心肺蘇生 法の手引」の中の「心肺蘇生 (CPR) 中および訓練中の感染を予防するために」を参 照してください。


    4. 出血によるショック・心肺停止について

      <質問内容1> 多量の出血が原因で心肺停止に至り、心肺蘇生を実施する際に、下半身を挙上させ た体位、または、ショックパンツを使用し、実施したほうが効果があると思うのです が。

      <質問内容2> 内出血によるショック患者にショックパンツを使用することは、内出血を促進する ことになるのではないか。支障がない場合、早期断定方法について伺いたい。

      解説:「ショックパンツ」に関して

      (1)「救急隊員標準課程テキスト」P. 241〜242 を見て下さい。

      (2)「CPRガイドライン」(アメリカ1986)の「ショックパンツ」の項の要旨

      108 mmHg まで圧をかけることができる構造である。
      血圧の上昇と、パンツの部分の出血を減少させる。
      一番の適応は下半身の出血によるショック。
      心停止の生存率を改善したという報告は現在までのところ無い。
      欝血性心不全や肺鬱血の患者は悪化する。
      パンツを装着して状態が改善したら、十分な輸液がなされるまで、圧を維持し、輸液 の開始後徐々に減圧する。
      パンツへの加圧で状態が悪くなったら、直ちに減圧する。
      ショックパンツはその生理学的な効果についてと起こりうる合併症について熟知して いる者によってのみ使用されるべきである。

      (3)以上の点からの私の感想:

      下肢の、骨折や外傷に最もよい適応のように思われます。(この場合でも、上半身に さらに止血されていない出血源がある場合は、現場においてはあまり血圧を上げない ほうがよいかもしれない。)

      一旦装着したら、十分な輸液輸血がなされるまでは、圧を下げたりはずしてはいけま せん。(従って医療機関に早急に搬送する必要があります。)


    付録1.平成3年12月25日 全砺波消防署からの質問


    1. 酸素吸入について

      (1)幼児の熱性痙攣後の酸素吸入の必要性について

      (2)救急傷病者に対する酸素吸入およびどのような傷病者に対して行なっていけな いか、また酸素量について解説して欲しい

      (3)過呼吸症候群以外に酸素吸入してはいけないものがあるか(病名)

      (4)現在救急車に流量計付加湿酸素吸入装置の低・中濃度酸素マスクを接続して心 筋梗塞およびショック等の疾患傷病者に酸素吸入を行なっています。酸素吸入を行な う場合は酸素流量を毎分4〜6l に設定していますが、傷病状態に適応した酸素吸入 量の判断をご教示願います。

      回答
      (1)救急傷病者に酸素吸入をしていけない場合はない。
      (2)一般に酸素流量は毎分4〜5Lとする。

      解説

      (1)熱性痙攣後の酸素吸入について

      一般に痙攣は呼吸抑制を伴い、他方低酸素は脳への障害を及ぼす。従って酸素吸入は 望ましいが、小児の熱性痙攣は通常時間も短いので、必ずしも必要ではないでしょう 。しかし痙攣が長引く様な重症の場合は、酸素吸入をしながらすみやかに病院へ搬送 すべきである。

      (2)救急傷病者への酸素吸入について

      (3)酸素吸入の適応、非適応について

      一般に救急患者で酸素吸入が必ずしも必要でないことはあっても、いけない場合はな いと考えてよい。酸素も十分量を投与すべきである。

      過呼吸症候群には酸素は必要ではないが、していけないということはない。むしろ自 然気胸など急性呼吸不全との鑑別がただちにつかない場合も多いと考えられるので、 酸素吸入をしながら病院へ搬送するほうがよい。

      肺気腫や肺気腫を伴う喘息や、以前に肺結核や肺癌の手術を受けている場合など、慢 性的に呼吸困難を訴えているような慢性呼吸不全(「救急救命士標準テキスト」P .248 表1-6を見よ)だけは不用意な酸素吸入を避けねばならない。しかしこのよ うな場合でも、呼吸困難が高度となった緊急の場合は(119番されるのはこのよう な場合が多いと考えられる)、酸素投与は必須である。酸素吸入によりそれまで見ら れたチアノーゼが消失したにもかかわらず、発汗や顔面紅潮が見られ、意識レベルの 低下を認める例では酸素流量を1〜3L/分に減らす(「救急救命士標準テキスト」P .255を見よ)。

      (4)酸素流量について

      酸素は通常水を入れたコルベンを通して,使うと考えられます。毎分8〜10Lにする と水が吹き出すと思います。従ってそれ以下の流量を使わざるを得ないでしょう。慢 性呼吸不全の場合を除いては、けちけちしないで使いましょう。


    2. エアウェイの使用について

      <質問内容> 現在の救急隊は、舌根押下型(口咽頭エアウェイ)は使用できないものと聞いていま す。(Dr 説)

      ただし、救急II 課程(135 h + 115 h )修了者に限って鼻咽頭エアウェイを使用 できるものとされています。I 課程( 135 h )修了者がたとえ舌根押下型のエアウ ェイを使用できるとしても挿入の際、非常に注意しないと危険を伴う(咽頭痙攣、嘔 吐・窒息)と医師からも聞いています。以上のことなど考慮しますと救急車に積載の 有無またはエアウェイについての消防の見地について、ご教示願います。

      気管内挿管も救急救命士は、認められなくなると聞いています。

      回答:エアウエイの使用について(「救急救命士標準テキスト」P.200 およびP.381〜 382を見よ)

      (1)気道の開通は原則として用手的に行ない、そのための技術を修得する。

      (2)エアウエイを試みるときは吸引の準備を必ずしておく(嘔吐の危険性を常に考 えておく)

      (3)エアウエイは経口、経鼻各種サイズを常備しておく

      解説

      (1)エアウエイが問題になる状況について

      気道が何らかの原因で閉塞状態になっていると考えられるが、異物や、吐物によるも のなら、まずそれを掻きだしたり、吸引したりしなければならない。特に吸引ができ るように準備することがまず第一であることを強調したい。

      (2)舌根が落ち込んで呼吸困難になっているときに適応となる。挿入するときはエ アウエイで舌を押し込まないように、場合によっては舌を引っ張りだしながら挿入し たほうがよいかもしれない。エアウエイを挿入したら息が通るようになったかどうか 必ず確かめる。

      (3)エアウエイを吐き出すような場合や、吐き出すようになった場合は挿入しない 、あるいは抜去する。従ってエアウエイを絆創膏で止めるようなことは絶対にしては ならない。

      (4)全くの私見であるが、エアウエイの使用はいろいろ問題が多いように思われる 。

      第一に、救急傷病者の場合胃内容が空虚であるほうが少ないと考えられるし、さら に状況として血圧低下や、強いストレスが加わっているなど、嘔吐を来たしやすい状 態になっている場合が多いと思われる。そのような傷病者にエアウエイを使うと、容 易に嘔吐を誘発するであろうこと。

      第二にエアウエイは以外とうまくいかないことが 多く、そのためにいたずらに時間を浪費することは避けなければならない(経口エア ウエイより、経鼻エアウエイの方がまだ良いかなとは思いますが、大量鼻出血を来た さないように細心の注意が払われなければならない)。

      なお手術室では、エアウエ イの使用は皆無ではないがあまり多くはない。手術室での気道の開通は一般に頭部後 屈、顎先挙上法、下顎挙上法などが取られる。エアウエイが必要になるのは、病室へ の搬送時が多く、病室へ着くまで用手的に気道確保ができなくなるからである。その ときにエアウエイを挿入して病室へ帰すことがある。

      救急傷病者の場合は病院までの搬送時には、つきっきりで、頭部後屈、顎先挙上法、 下顎挙上法などで気道の開通をはかるのが一番安全で確実であろうと思われる。(頭 部後屈、顎先挙上法、下顎挙上法については「救急救命士標準テキスト」P.198〜 200 およびP.376〜378を見よ)

      (5)救急車へのエアウエイの準備について

      いろいろ問題があるが、小さくて、高価なものでもないので揃えておくべきである( 各種サイズ、経口および経鼻)。

      註(訂正―1998年11月記す)

      これまで筆者は,ポーテックスのエアウェイを使っていて,あまりフィットしないと いう印象を抱いていました。しかし,最近五十嵐医科工業KKのものを使うようになっ て,かなりフィットするものだという印象を持ち,よく使うようになりました。ヨー ロッパ人と日本人の違いなのでしょうか?従って上記の記載を少し訂正します。 なお,エアウェイには断面が楕円形のゲデル・エアウェイと断面がH型をしたバーマ ン・エアウェイがあり,バーマン・エアウェイは口腔内を傷つける可能性があるので ゲデル・エアウェイを揃えることをお勧めします。


    3. DOA患者搬送対策について

      <質問内容> 救急隊は「死亡判定」というものはできず、しかし観察結果からして「生命徴候無し 」(バイタルサイン)の場合があり、救急搬送中「家族の手前」あるいは「周囲の手 前」により、CPRは実施すべきか。むろん心停止、呼吸停止から数十分の時間経過が ある場合である。

       一般的に、脳が10分以上酸素無しでいたことが確実な場合は、心臓マッサージは試 みるべきではないと言われており、心臓マッサージにより鼓動の再開が成功し、呼吸 、心臓が回復しても傷病者は重大な脳の損傷を受けており、結果「植物状態」となる 。このことから果たしてCPR は実施すべきか。

      回答:CPRの実施の可否について

      DOA患者は原則として必ずCPRを行なう。

      解説

      1. 救急医療にたずさわるものにとって、植物状態の患者を見るとき心が痛みます 。患者の家族まで悲惨な事態に陥ることもあるということも事実です。

        しかし、救命できないとか、植物状態になるといったことを、最初に判定することは 不可能で、それはあくまでも結果なのです。脳へ10分以上酸素が行っていないという ことの判定も不可能の場合も少なくありません。たとえ呼吸が10分以上停止していて 、見た限りでは死んでいる状態でも心臓が動いていて、わずかながらでも脳へ酸素が 運ばれている場合もありえます。また体が冷やされている場合は、酸素の必要量が少 なくなっており、低酸素によく耐えているかもしれません。従って現場では死の判定 はできないし、すべきでもありません。

        救命処置を医療機関へまで継続し、そこで更に、二次救命処置に移行し、各種モニタ ーを装着しその他各種診断手段を駆使した後に死の判定がはじめてなされることにな ります。

        「植物状態」の患者およびその家族の悲惨さはわかりますが、それは社会的問題とし て別個の問題であり、それはそれとして別の次元で論じていく問題です。

      2. 少なくとも、身体(躯幹)がまだ温かいとき、身体が冷たくとも溺水や冷たい 環境下に置かれていたときは、必ずCPRをすべきである。一般的には、脳、肺、心臓 のいずれかが原状を留めていないほど破壊されているか、屍斑、死後硬直がみられる 時以外は原則としてCPRを実行し、医療機関まで継続されるべきである。(「救急救 命士標準テキスト」P.77 およびP.119〜120を見よ)


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    □生垣の救急II課程・質疑応答集