日本版救急蘇生ガイドライン策定小委員会への意見書日本版ガイドライン暫定版への意見救急医療・情報研究会、CoSTRおよび関連資料翻訳ボランティアグループ・代表 越智元郎 (2006年3月24日) |
(2006年1月16日、3月3日) |
〇発見時の対応手順(成人)
GL案)"反応なし→助けを呼ぶ→緊急通報・AED→CPR 理由)従来法との整合性を重視 心停止の原因や発生状況による区別は非現実的 ★私共の意見1)GL案で「 → 助けを呼ぶ→緊急通報・AED→CPR」とあり 「助けを呼ぶ」と「緊急通報・AED」を分けておられます。これらは協 力者がいない場合、1人あるいは複数いる場合などで対応が変わっては 来ますが、一まとまりの(一連の)行為と考えるべきではないでしょう か。この項目への記載は「 → 助けを呼ぶ・緊急通報・AED → CPR」と するのがよいように思います。 ここで「助けを呼ぶ」はその救助者が傷病者のもとにとどまり評価・処 置を進める間に、119通報をしたりAEDを持って来てくれることを依頼し ます。緊急通報・AED取り寄せなどは傷病者1人のみでそれがすぐ可能 な場合、傷病者自身が行うこともあろうかと思います。 ★意見2)発見時の対応手順(成人)に関するCoSTRの記載として、Part 1 のアルゴリズムの図 http://circ.ahajournals.org/cgi/content/full/112/22_suppl/III-1#FIG1 について言及しておられないのはなぜでしょうか。この図では、気道開 放および生命の兆候を探すことをEMS/蘇生チームへの通報より優先させ ています。わが国のGL案でこれまで通り phone first の方針を取られ、 意識がなければ(気道開放などの処置・生命兆候確認に先立ち)まず119 番通報という手順にされたことに反対ではございませんが、一方で CoSTR のアルゴリズムに沿った対応(気道開放および生命の兆候を探した後に 119通報)を取ることも許容されるとするのがよいように思います。 〇呼吸の確認(=心停止の確認)(成人)GL案)呼吸が「正常かどうか」を確認する。 呼吸がないまたは喘ぎ呼吸なら心停止として取り扱う。 呼吸の確認は10秒以内で行う。 課題)一般市民に説明する場合の、最適な言葉使い(「正常な呼吸」「普通 の呼吸」「普段どおりの呼吸」など)はどれか? ★私共の意見:「課題」の項でも触れておられますが、「正常な呼吸」あ るいは(心停止状態でも発現しうる)「喘ぎ呼吸(gasping)」の特徴や 鑑別点について、明快な記載がないように思います。これはCoSTRおよび ERCやAHAの新GLでも共通の問題であろうと思います。今後の課題として 一般市民向け及び医療関係者向けにそれぞれ、「正常な呼吸」や「喘ぎ 呼吸(gasping)」に関する明確な記載をするために、十分な御論議・御 検討をお願いしたいと存じます。 〇CPRの開始手順(小児および成人)
GL案)「正常な呼吸」がない場合は、心停止とみなし、胸骨圧迫を開始す る。ただし、可能であれば胸骨圧迫の前に2回の人工呼吸を行う。(文 献引用:平出先生、太田先生) 理由) ERC方式(圧迫から開始)を支持する意見としては: ・CPR開始に対する精神的障壁が低い ・呼吸確認の後、人工呼吸を忘れて直ちに圧迫を始める(つまり、自然 とERC方式になっている)受講生が多い。 ・胸骨圧迫までの時間短縮 AHA方式(呼吸から開始)を支持する意見としては: ・小児と共通の手順 ・従来の手順を踏襲 ・人工呼吸に対する反応がなければ、心停止と判断する根拠の一つとなる ★私共の意見:ERCはCoSTR会議の合意から一歩踏み出し、胸骨圧迫からCPR を開始するGLとされました。ERC方式を支持する意見には説得力があり、 一方でCoSTRを踏襲するAHA方式にも理があると思います。今回のGL案では 両方式の折衷案として非常に合理的な文章を考えられたと思います。これ によって、救助者によっては直ちに胸骨圧迫から開始し、一方で人工呼吸 が可能な(技術的に可能、家族など感染に対する恐れが少ないなど)状況 では人工呼吸からCPRを開始することもできます。GL案を支持致します。 〇胸骨圧迫なしの人工呼吸
<救急システム> 〇電話を通じての心停止確認GL案)「呼吸なし=心停止」となったため、必然的に廃止 ★私共の意見: この項にはCoSTR、AHA、ERCとも「ただし、状況によって例外あり」と書 かれていると思いますが、日本版GL案ではこれが削除されています。私共 も例外を残していただきたいと思います。以下、私共のグループにおける 意見交換の発言内容を引用します。御検討宜しくお願いいたします。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 私は現在ダイビング指導団体のCPR教育に関わっておりますが、岸やボ ートまで距離がある水面で呼吸停止を発見した場合、人工呼吸のみを続け ながら曳行し、上陸次第CPRに切り替えるという手順を行うことがあります。 溺水の場合発見が早ければ人工呼吸のみで蘇生が成功する場合も(私自身 ではありませんが)経験しています。 また私自身の経験ですが、ダイビング初心者が水面移動中に溺れ、80m 沖合から水面人工呼吸を実施されながら着岸、私はその時点で協力者とし て加わり心マッサ−ジを担当しましたが、約40分後心拍および呼吸が微弱 ながら現場で再開し、救急隊に引き継いだことがあります。その方は現在 も生きています。これは水面からの早期人工呼吸開始が奏功したのではな いかと思っております。 このように溺水などにおいては、人工呼吸のみ(しかできない)状況が ありうることを御勘案いただければ有り難いです。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 〇胸骨圧迫の位置
GL案)胸骨圧迫の位置の目安は以下のいずれかである。必ずしも衣服を 脱がせて確認する必要はない。 ・胸の真ん中 ・乳頭と乳頭を結ぶ(想像上の)線の胸骨上 「乳頭」の位置はあくまでもおおよその目安に過ぎない。 理由)従来法と「真ん中」方式に正確度の差はない。従来法は時間がか かる。 ★私共の意見1:肋骨縁(rib margin)法でなく、「胸の中央」あるい は「乳頭と乳頭を結ぶ(想像上の)線の胸骨上を圧迫する方法により、 多くの場合、時間のロスなく、許容できる部位を圧迫することにつな がるものと思います。本GLを通じて「胸骨圧迫心臓マッサ−ジ」を 「(前)胸部圧迫」でなく「胸骨圧迫」と表記して下さいましたこと も、心臓の真上(やや左寄より?)ではなく、左右の真ん中の硬い部 分(胸骨上)を圧迫するのだということをより明確に伝えることにつ ながるものと思います。 ★意見2:プールサイドや直ちにAEDを装着できる場合を除き、心停止傷 病者の大部分が着衣で倒れており、「衣服を脱がせずに」胸骨圧迫の 部位を決めることに自信を持てない救助者も少なくないものと思いま す。その意味で「<必ずしも>衣服を脱がせて確認する必要はない」 と、着衣を脱がせることを絶対的に禁止されていない表現に好感を持 ちます。同様に、乳房の垂れた人などでは、胸骨圧迫の最初の位置決 めの際に肋骨縁(rib margin)法を行うことも許容することにより、 より速く胸骨圧迫を開始できる場合もあるのではないかと考えます。 ★意見3:胸骨圧迫の部位の表現として「胸骨の下半分を圧迫」「胸骨 の下1/3の部を圧迫」などの表現があります。これらの表現において 圧迫の中心となる部分を一定の面積を持つ範囲で指しているのか、圧 迫の中心を点で示しているのかを区別する必要があります。また、救 助者と傷病者の身体サイズの組み合わせが様々であり(大きな救助者 が小児あるいは小さな成人傷病者に胸骨圧迫を行う場合など)、ある 程度の安全性を加味した表現が必要になるものと思います。ちなみに、 「胸骨の下半分を圧迫」は一定の面積を持つ範囲で指す表現であり、 CoSTRで「胸骨下1/3」を推奨する場合には圧迫の中心点を表現してい るものと考えられます。これらの用語の混乱を避けるためには圧迫の 中心となる点の位置を表記(あるいは併記)する必要があり、成人に おいて「胸骨の下半分(圧迫の中心点は胸骨下1/4)を圧迫」するの は、救助者・傷病者の身体サイズによっては末梢過ぎる場合もあるの ではないかと考えます。その意味では圧迫の中心点を胸骨下1/3ある いは胸骨の上下1/2の所に置く方が、効果はやや劣るとしても剣状突 起損傷の危険性は少なくなるのではないかと思います。このあたりの 表現につきましては、日本版救急蘇生ガイドライン策定小委員会にお かれましては今後の課題としてご検討いただけましたら幸甚と存じま す。 なお、胸骨圧迫の圧迫部位につきましては先日、追加の意見書とし て送付させていただき、一方、私共のグループの交換交換をウェブ資 料として収載しておりますので、ご参照いただけましたら幸いです。 http://plaza.umin.ac.jp/~GHDNet/06/q3-cpr.htm http://plaza.umin.ac.jp/~GHDNet/06/q1-iken.htm#q32 〇圧迫の方法(成人)
GL案) ・胸骨圧迫の速さは1分間に約100回とする。 ・圧迫の強さ(深さ)は4〜5cmとする。 ・ただし、圧迫の強さ(深さ)が不十分になりやすい(特に、疲労時) ので、注意すべきである。 ・圧迫を解除するときには、掌が胸から浮き上がらないように注意し ながらも、胸が元の位置に戻るようにすることが重要である。 ・利き腕は上にしても下にしても良い。 理由)ただし、(特に一般市民が行う場合)には、圧迫の深さが不十分 なことが多いとの過去の報告には注意すべきである。また、胸骨圧迫 の回数増加に伴う疲労の影響にも注意が必要である。 ・利き腕に言及すると、覚えるべき項目が増える。 ・「利き腕を下に」との研究はLOE6:麻酔科医19人での研究 ★私共の意見:胸骨圧迫の際「利き腕を下に」という考え方はCoSTRを 読んで初めて知ったものです。確かにその登場は唐突で麻酔科医19人 でのLOE6研究に過ぎないというご意見もよく理解できます。実際、わ が国の蘇生指導者の中にも「利き腕を下に」胸骨圧迫を行うのは実際 上やりにくいと思われる方も少なくないものと思います。しかし何の データも示さずに、「覚えるべき項目が増える」として一言のもとに 切り捨てることには少し疑問を持ちます。今後の検討課題として、わ が国でも追試が行われることを待つというスタンスではいかがでしょ うか。 〇圧迫の速さ
GL案)なし 理由) ・「最低」との表現がより良好な圧迫につながるとのエビデンスがない。 ・「最低」という表現はわかりにくい、あるいは「それ以下ではまずい」 との印象を与える可能性がある。 ・数値の表記はできるだけ少ない方がよい(「1秒に2回弱」の表記は行 わない)。 ★私共の意見:圧迫の「速さ」という表現はやや不正確で誤解を招きうる 表現だと考えています。「単位時間あたりの胸骨圧迫の回数」というよ うな説明あるいは注釈を付記していただくことは可能でしょうか。 〇AEDプロトコル
GL案) ・ショックは1回のみ ・ショック後は直ちに胸骨圧迫を開始 ・2分(または5サイクルのCPR)後にリズムチェック 単相性AEDを用いる場合のエネルギー量:初回は200〜360J 初回に360J未満を使用した場合、2回目以降のエネルギー量は漸増(200J で始めた場合、200→200(300)→360J)とする。 1歳以上8歳未満の小児の場合は小児用のパッドを用いる。ただし、小児用 のパッドがない場合は緊急避難として成人用を使用する。(2006年3月 の時点で小児用パッドの薬事上未承認である。) 理由)1128例(単相性;753例、二相性;375例)のAED使用例(東京消防庁) の解析に基づく推奨 課題)小児用パッドの薬事認可 2006年3月の時点で小児用パッドの薬事上未承認である。 ★私共の意見:「単相性AEDを用いる場合のエネルギー量:初回は200〜360J」 とするのは推奨エネルギ−量が幅広すぎるように思います。CoSTRの趣旨 に合わせ、初回から360Jとするのを主とし、初回エネルギ−量を200J、 300Jなどで行うことも許容する表現にされてはいかがでしょうか。なお 東京消防庁のデータはどのような論文として報告され、またCoSTR会議で はどのようなエビデンス評価だったのでしょうか。 〇気道異物 (反応あり)
GL案)背部叩打と腹部突き上げを併用する。その順序は問わず、異物が取 れるか反応がなくなるまで続ける。胸部突き上げと側胸下部圧迫は推奨 しない。 (反応なし)
GL案)反応がない場合、成人では119番通報後にCPRを開始し、小児ではCPR を5サイクルまたは2分間行った後に119番通報する。 気道確保をするたびに、口の中を覗き、異物が見えれば取り除く。 盲目的指拭法および側胸下部圧迫法は行わない。" 理由) ・特定の手法を推奨する根拠がない。 ・背部叩打は従来から行われており、感覚的にも理解しやすい方法である。 ・複数の方法の組み合わせが有効であることを示唆する非常に弱い根拠がある。 ・側胸下部圧迫法も有効かもしれないが、覚えるべき手法が増えすぎる。 課題)側胸下部圧迫法の取り扱いは? ★私共の意見:胸骨圧迫の「利き腕を下に」の項でも書きましたが「覚え るべき手法が増える」との理由(のみ)で、(CoSTRで推奨されたり) 前GLで推奨された側胸下部圧迫法を切り捨てるのは割り切れない感じも 致します。これまでわが国で行われた側胸下部圧迫法による異物除去処 置の効果などを判定(レトロスペクティブな研究)し、他の方法と比較 した上で(将来)最終的な結論を出すのが妥当ではないかと思います。 ただし反応のない気道異物傷病者にはCPR(胸骨圧迫)を行うのが異物 除去法としても最も有効という方針には問題はございません。
■2.日本版 GL 暫定版への意見2.BLS
(日常的に蘇生を行う者、ACLSを習得する者)GL案)通信指令は、通報者が喘ぎ呼吸を「呼吸あり」と誤認する可能性が あることに充分注意する必要がある。通信指令は適切な問いかけによっ て、通報者が喘ぎ呼吸を正常な呼吸と混同しないように導くべきである。 理由)口頭指導で、通報者にCPRの必要性を聞きだすための言葉使いつい ては、今後の研究が必要である。 ・「普段どおりの息をしていますか?」 ・「すやすやと息をしていますか」 ・「苦しそうな息ではありませんか?」 ★私共の意見1:誤植・・理由 言葉使いついては → 言葉使いについて ★意見2:電話を通じて心停止の確認は難しいですが非常に重要であると 思います。しかし一応の呼吸運動はあるが「普段通りの息でない」「す やすやと(安静に)息をしていない」「苦しそうな息をしている」場合 に喘ぎ呼吸と判断し、CPRの口頭指導をするというのはなかなか難しい のではないかと思います。まさに今後の研究が必要ではないでしょうか。 〇口頭指導の質管理
GL案) ・通報内容から心肺停止状態が疑われる場合、通信指令は適切な表現方法 を用いて、通報者が正確な状況を把握できるよう導くべきである。 ・メディカルコントロール協議会は心肺停止状態および気道異物に対する 口頭指導の手順をマニュアル化すべきである。通信指令はその使用法に ついて定期的に訓練を行うべきである。 ・メディカルコントロール協議会は、口頭指導が行われた症例について、 その音声記録に基づいて指導内容を検証すべきである。" " ★私共の意見:これらの推奨はきわめて重要であると思います。強く支持 いたします。 〇ACSへの対応
GL案) メディカルコントロールはACSの疫学や地域としての対応を把握、検証 し、ACSが疑われる患者を迅速に治療できる体制を構築すべきである。 病院前救護における12誘導心電図の導入については、メディカルコント ロール協議会がそれぞれの地域の救急医療体制に基づいて考慮する。 理由) ・救急隊員によるアスピリン投与は違法だが、将来の法改正を見込んで、 AHAと同様の勧告が必要 ・救急指令によるアスピリン服用の口頭指示は違法かつ非現実的(アスピ リンがある家庭が少ない) 課題)病院前救護における12誘導心病院前におけるアスピリンの投与の是 非等については心肺蘇生委員会において再検討する必要がある。 ★私共の意見1:本GLでの「メディカルコントロールはACSの疫学や地域 としての対応を把握、検証し、ACSが疑われる患者を迅速に治療できる 体制を構築すべきである」との御記載を、改訂版「救急蘇生法の指針 (医師用)」などにおいて、ぜひ具体的な御推奨、御提案をお願いし たいと存じます。 ★意見2:「病院前救護における12誘導心電図の導入については、メディ カルコントロール協議会がそれぞれの地域の救急医療体制に基づいて考 慮する。」の「考慮する」はかなり弱い推奨という響きです。「12誘導 心電図を導入(を考慮)する価値がある」というような表現はいかがで しょうか。 ★意見3:誤植 → 課題「病院前救護における12誘導心病院前に」を「病 院前救護における12誘導心電図や病院前に・・」 〇応答時間その他
GL案) ・心肺停止に対する応答時間をできるだけ短縮するための努力と工夫を継 続すべきである。 ・ウツタイン方式に関わる覚知やバイスタンダーCPRの定義は正しく統一さ れるべきである。 ・時計の同調管理、秒単位での記録など、時刻を正確に把握する体制が必 要である。 理由)覚知やバイスタンダーCPRについて、ウツタインによる定義に忠実に 従っていない例が多い。 課題)応答時間分布は中央値およびパーセンタイルで表記すべきである (平均にあらず)。 ★私共の意見:いずれも極めて重要な推奨内容だと思います。GL案を強く 支持致します。 〇病院内Medical Emergency Team
GL案)病院内の心停止件数、死亡数、予期せぬICU入室を減少させるために、 院内救急蘇生チームを運営することが望ましい。 ★私共の意見:病院内Medical Emergency Team(MET)の意義についてCoSTR は明確なエビデンスを示していないと思います。もう少し推奨の程度を弱 めた記載の方がよいように思います(例:院内救急蘇生チームの設置は有 益である可能性がある)。 〇心停止の確認
GL案)反応と正常な呼吸がなければ心停止の可能性が高い。脈が確実に触 知できる場合を除いてはCPRが必要である。呼吸を観察している間、同時 に頚動脈を触知する。ただし、脈拍の確認に10秒以上をかけてはならな い。10秒以内に脈の触知を確信できない場合は心停止と判断してCPRを開 始する。脈が確実に触知できれば人工呼吸のみを開始する。 理由)HCPであっても脈拍の評価は不正確、一刻も早いCPR開始が必要 ★私共の意見1:医療関係者であっても脈拍触知に自信を持てない者も少な くないものと思います。その場合、あえて10秒まで呼吸と脈拍を同時に確 認させる必要はなく、呼吸観察のみに専念させてもよいようにも思います。 注釈などに「脈拍確認に自信を持てない者は呼吸観察に専念し、反応と正 常な呼吸がないことをもってCPRを開始することも許容される」と記載し ていただけませんでしょうか。 ★意見2:今回のGL案で呼吸と脈拍の同時確認を推奨しておられますが、こ れは現段階では(特に病院関係者の間では)一般的ではないのではないで しょうか。救急隊の活動では、2人かかりで呼吸と脈の確認(気道確保は 1人が両手で下顎挙上して)をして実施しておられるのではないかと推察 します。1人の救助者が呼吸と脈拍の同時確認を行うとすれば、片手で傷 病者の額を押さえて(一応の)気道確保をし、もう片手で頸動脈を触知し ながら、呼吸確認というやり方になるものと思います。これらの方法は広 く普及しているとは言えないように思います。それゆえ、呼吸と脈拍の同 時確認については十分な訓練を受けた者が行う方法として、緩やかな推奨 にとどめるのが妥当ではないかと考えます。 〇胸骨圧迫の位置
GL案)胸骨の下半分(剣状突起は避ける)を圧迫する。胸骨圧迫の位置の 目安は以下のいずれかである。必ずしも衣服を脱がせて確認する必要は ない。 ・胸の真ん中 ・乳頭と乳頭を結ぶ(想像上の)線の胸骨上 「乳頭」の位置はあくまでもおおよその目安に過ぎない。 理由)従来法と「真ん中」方式に正確度の差はない。従来法は時間がかか る。ただし、乳頭間線上の圧迫では剣状突起にかかることがあるとの報 告もある。 ★私共の意見1:「胸骨の下半分(剣状突起は避ける)を圧迫」は適切な 記載だと思いますが、剣状突起を避けるために、傷病者によっては(乳 房が垂れている場合など)胸骨圧迫の最初の位置決めに肋骨縁法を用い ることも許容してはどうでしょうか。 ★意見2:「乳頭間線上の圧迫」あるいは「胸骨の下半分(圧迫の中心点 は胸骨の下1/4)」では剣状突起にかかることもあるということを注釈な どで記載する価値があるのではないかと思います。 〇胸骨圧迫の中止基準(蘇生努力の放棄以外で)
GL案)充分な循環が戻る、または専門家チームに引き継ぐまで。橈骨動脈の 脈拍数で評価するのは適切ではない。 ★私共の意見:賛成です。他国でも橈骨動脈の脈拍数で胸骨圧迫の中止を判 断しているところはないと思います。
〇除細動とCPR 究極の組み合わせ ■4 除細動
GL案) ・早期除細動は突然の心停止(SCA)から蘇生するために極めて重要である。 ・除細動が実施されるまでの時間は様々であるが、CPRが行なわれた場合 にはほとんど、生存率が2倍から3倍引き上げられている。 ・バイスタンダーがすぐにCPRを実施することで、成人の心室細動の多く が神経学的機能が損なわれることなく蘇生できる。除細動が心停止後、 約5分以内に行なわれた場合は特に予後が良い。 理由) 除細動の必要性、CPRの有効性をそれぞれ整理し、除細動をCPRの組み 合わせが重要であることを説いている。 CoSTRには記載がないが、AHAの掲げる本概念はAEDの普及過程にある日 本においては特に重要な項目であり、採用する。 ★私共の意見:GL案 最終行の「予後」は「転帰」の方がよいかも知れ ません。 〇1回ショック 対 3回連続ショック
GL案)心室細動/無脈性心室頻拍を確認した場合には、直ちに除細動を1 回行ない、その後はすみやかに胸骨圧迫から開始してCPRを5サイクル (約2分間)実施する。 理由)CoSTRによれば、人でも動物実験でも心室細動/無脈性心室頻拍に よる心停止の治療として、一回除細動と三連続ショックを比較した研 究は今のところない。 しかし、1回目の除細動で心拍が再開する率が高い。 1回ショック戦略は胸骨圧迫の中断を減らすことにより転帰を改善す る可能性がある。3回連続通電については、リズムに関係なく初回通 電後すぐに有効な胸骨圧迫を再開し、波形解析に要するCPR中断時間 を最小限にすることによりその効果を最大限にできる。 今回のガイドラインにおいては、絶え間ない胸骨圧迫を推奨している 点も鑑みて、除細動を3回連続するのではなく、除細動を1回施した 後すぐに胸骨圧迫を再開することに統一する。 課題)G2005日本版ガイドラインは「1回除細動」を推奨するが、国内 にて販売されている、また販売が予定されているAEDに関しては薬事 法の問題があり、またメーカー・販売会社の対応によっても異なるの で、移行期においては「器械に従って操作」せざるを得ない。指導方 法も上記を考慮して作成する。メーカー・販売会社には速やかな対応 が望まれる。 ★私共の意見:当分の間、様々な設定・プロトコルのAEDが混在するこ とは予想できますが、日本蘇生協議会(JRC)や日本救急医療財団心 肺蘇生法委員会として、切り替え期日の一定の目安を示すことは重要 であろうと思います。可能であれば「救急蘇生法の指針(一般市民用)」 の改訂版が出版される6月上旬をめどに、AEDの設定についても全国 的に切り替えていただけるよう、メーカーへの情報提供をお願いした いと思います。 〇初期(初発)の電気ショック
GL案) ・二相性除細動器を用いる場合,初回通電のエネルギー量は,二相性切 断指数波形では150〜200J,二相性矩形波では120Jとする。 ・単相性除細動器を用いる場合,初回通電のエネルギー量は200〜360Jが 妥当である。 理由) 現在のところ、本邦においては初回のエネルギーレベルを決定できる に至っておらず、CoSTRでもエビデンスはないとしている。 しかし、今回、CoSTRの推奨基準において、初期エネルギーの値が変更 になっている(単相性:360J、ニ相性:波形により二種類)ため、これ に準ずることとした。 初回または2回目以後の二相性波形による通電において,特別なエネル ギーレベルに肯定的なエビデンスも否定的なエビデンスも現時点ではない. 課題) 移行期においては、薬事法の問題やメーカー・販売会社の対応によって も異なるので、器械に従って操作せざるを得ない。メーカー・販売会社 には速やかな対応が望まれる。 一方で、国際的にもエビデンスが乏しい分野であるため、今後の研究成 果が期待される。 ★私共の意見:単相性除細動器を用いる場合の初回通電の推奨エネルギー 量を200〜360Jとするのは幅が広すぎると思います。CoSTRにならに、 360Jを主な推奨量とし、200Jや360Jも「許容される」とするのがよいの ではないでしょうか。 〇二相性波形の除細動器
GL案) ・二相性波形のうち、特定の波形が優れていることを示すデータはない ので、特定の機種は推奨しない。 " 理由)欧米・本邦どちらにおいても、複数の二相性波形間における直接比 較は行なわれていない。 本邦ではAEDを普及することが第一義であり、また、複数の二相性波形 のいずれが転帰を良くするのかに関するエビデンスもないため、現状で は、二相性波形の除細動器のうち、どれがよいかを選択をする段階では ない。 従って、CoSTR,AHAの推奨基準に準ずることとするが。 但し、本ガイドラインが単相性から二相性への移行を促すものではない。 課題)単相性、二相性どちらの波形に関しても、今後本邦症例における予 後の検討・検証が必要である。 ★意見:誤植 理由の最後から2行目。「推奨基準に準ずることとするが」 → 「推奨基準に準ずることとする」 〇AEDの院内使用
GL案) ・病院内の早期除細動(目標は虚脱から3分以内)を実現にするために、 AEDの病院内設置が推奨される。スタッフの技能が不足している施設や、 除細動器がめったに使われない部署では特にAEDの設置が望まれる。 ・早期除細動を実現するためには、第一応答者がAED使用の訓練を受け、 その使用を許可されているべきである。 ・病院は病院内心停止の発生状況を把握し、AEDの配備計画を立て、そ の効果を検証することが重要である。 理由) 今回の2005コンセンサス会議では、病院内におけるAEDと手動除細動 器の比較は全く発表されいない。 院内における通電適応の成人心停止例において、手動式除細動器を用 いた場合よりAEDプログラムにそって除細動された場合の方が、生存 退院率が高かったことを示す研究がある。 入院中の患者や、外来患者、診断検査中の患者に突然の心停止が起き た時は、対応チームが除細動器を持って集結し通電するまでに数分か かるかもしれない。 本邦において、市中のみならず院内AEDを広く設置することは急務で あるため、本項についてはCoSTR,AHAの推奨基準に準ずる 課題) 本邦において、院内では看護師には講習を行なった上で包括的指示下 でプロトコールに則ってAEDを用いることが認められるようになって きた。 その他の院内職員も一定頻度者と考え、講習を受講した者は包括的指 示下でプロトコールに則ってAEDの使用が促進されるように推進してい くべきである。 上記プロトコールが円滑に進むように、院内で運用プログラムを作成 し講習や事後検証を進めていく必要がある。 ★私共の意見1:GL案第2項で「第一応答者」という語が出て参ります が、この語はわが国ではまだ定着していないと思います。注釈などの 形で定義をお願いできませんでしょうか。 ★意見2:GL内で用語「プロトコル」と「プロトコール」が混在してい ます。私共は「プロトコル」を使用して下さいますことを希望致しま す。 http://plaza.umin.ac.jp/~GHDNet/06/q1-iken.htm#3e-5
<Ethics> 〇DNAR ■6.倫理とトレーニング
GL案)病院内および病院外のDNARについて、組織的に対応することの必 要性を明記する。 理由)DNARに関しては、医師以外の者に諮問する機会を設ける必要がある ★私共の意見:DNARは通常、患者の「事前指示(advance directives)」 の一種であり、心停止にあたって蘇生治療を試みないことを医療従事者 に求めるものです。治療不能な疾患の末期などの状況で、心停止の後の 蘇生処置を求めないことは世界的にも確立された、患者の権利と考える ことができます。しかし、わが国ではDNARの概念が医療関係者や救急医 療システムに十分に浸透しておらず、患者の要請との間で混乱を生じる 場合があります。改訂版「救急蘇生法の指針(医師用)」においては、 DNARは一定の条件下では当然尊重すべき患者の権利であること、DNARが 成立するための条件(文書化することの必要性や、医師の関与が望まし いことなど)、DNARの有無を確認するよりも蘇生処置が優先されるべき 状況(窒息やVF心停止発症が目撃された場合など)を含め、明記してい ただきたいと思います http://plaza.umin.ac.jp/~GHDNet/06/q1-iken.htm#3a-3
〇喘ぎ呼吸の教育 GL案)CPR教育では、喘ぎ呼吸とは何かについて説明し、それがが「正常な 呼吸」ではないこと、また、喘ぎ呼吸が認められた患者では胸骨圧迫が 必要な点を充分に指導すべきである(Class-IIa) ★私共の意見:賛成です。加えて何をもって「喘ぎ呼吸」と考えるかに ついてもっと明確・具体的な基準(現在、わが国でも世界的にも曖昧) が必要ではないかと思います。今後の御論議、御検討をお願い致しま す。 ●国内における蘇生訓練プログラムの分類とこれに関するデータ収集について (私共の意見) わが国では近年、以前から実施されて来た消防機関や日本赤十字社の心 肺蘇生法コースや受講認定制度、日本蘇生学会の認定医制度などに加え、 日本救急医学会や日本医師会のICLSコースや認定制度、そしてAHAの一次、 二次救命処置コースなどが入り交じる形で実施されています。また国内外 において、一般市民や企業、病院職員などを対象に有償で応急処置教育を 行うプログラムもあります。このように、様々な系列の認定制度(プロバ イダあるいはインストラクタ認定など)が混在し、活発に活動している状 況はある意味で好もしいものです。しかしさらにわが国の蘇生教育の発展 をはかるためには、各指導コースを分類・整理し、できれば様々な系列の 講習会を受けた受講者数を把握することを可能にすることなどが望まれま す。 http://plaza.umin.ac.jp/~GHDNet/06/q1-iken.htm#3f このような作業をお願いできるのは日本救急医療財団心肺蘇生法委員会 や日本蘇生協議会(JRC)をおいてはなく、改訂版「救急蘇生法の指針 (医師用)」にもぜひ一覧を設けて御記載をお願いしたいと存じます