第2に、通報から二次救命処置までの時間を比較しました。Pittsburgh では約6分でパラメディックが到着し、除細動・蘇生薬の投与をはじめと する高度な蘇生治療を開始します。わが国では通報から7〜9分で救急車 が到着しますが、当時、救急車に救急救命士が乗車していたのは4分の1 にも満ちませんでした。救急救命士が乗車していても、彼らの活動は医師 に連絡した上で除細動などを行う必要があること、気管挿管や薬物投与が 許されていないなどの点で、限界がありました。
なお、カバーする地域の広い米子市については、すべての心肺停止例に おいて、救急救命士が乗車している救急車が現場などで合流する形をとっ ていました。
除細動や医療機器を用いた二次救命処置の開始が10分以上になった場合、 生存退院できる率はほぼゼロになると考えられています。Pittsburghでは 80%以上の患者で10分以内に二次救命処置が開始されていたのに対し、日 本の3地区ではおよそ30%にとどまっていました。
病院外で二次救命処置を実施した頻度をみると、特に除細動と静脈路確 保について、日米で大きな差が認められました。
Pittsburghでは気道確保の方法として気管挿管が標準となっています。 また無線での指導やドクターカーで出動した医師の協力のもとに、各種の 薬剤投与、ぺーシングなども積極的に行われています。米国では1994年当 時から、日本の救急外来で行われている蘇生治療が現場で開始されている と考えることができます。
特に除細動について注目してみますと、Pittsburghでは除細動の適応の ある患者の約30%が、「発症から」4分以内に初回の除細動が実施されて います。これらの例では高い救命率が期待できることは言うまでもありま せん。
Pittsburghにおいて1994年当時から早期に除細動が実施されていたこと の理由に、ファーストレスポンダー(第一応答者)というシステムがあり ます。米国では消防士や警察官といった、心肺停止患者に遭遇する可能性 のある医師やパラメディック以外の職種の人を訓練し、自動体外式除細動 器(AED)を用いた除細動を実施できる資格を与えています。Pittsburgh の心肺停止例の一部はパラメディックの現場到着に先立ち、消防士などに よる除細動が実施されているのです。
このファーストレスポンダーによる除細動の例をビデオで見ていただき ます。このビデオでは救急隊に先立ち現場に到着した警察官が除細動を実 施しています。
さらに米国では現在、訓練を受けておれば市民でも除細動を実施できる 体制を整え、空港やカジノなど多数の人が集まり、心停止患者が発症する 可能性の高い場所には自動式体外除細動器を配置しようとしています。
次は高度化の前提となるMC体制が未整備である現状について述べさせて いただきます。