非医師の医科研修問題

【救急医療メーリングリストでの論議のまとめ】

ウェブ資料作成:県立新居浜病院麻酔科 越智元郎 (関連資料


目次

1.市立札幌病院の件

a) 判決が意味するもの

 [意見1] 法改正などを行わずに、今後も医師以外の職種の病院での研修、実習は可能

 [意見2] 医師以外の職種の、病院での研修、実習は今後、法改正などを行わずには不可能

意見2-1意見2-2

b) 改善すべき項目はなかったか?

c) 行政に対し是正してほしいと考えるポイント

2.救命士研修について考えないといけないポイント

3.参考ウェブ


1-a. 市立札幌病院事件判決が意味するもの


【意見1】 法改正などを行わずに医師以外の職種の、病院での研修、実習は可能

 判決文では明確に定義されていないが、検察論告(厚生労働省の判断)と、その主張を大筋で認めた札幌地裁判決を理解し、救急救命士の病院実習の法的 位置づけを明らかにするためには、次のように考える必要がある。

研修:有資格者による資格取得後の研鑽
  →行為の主体は実施者本人
  =研修者の能力向上に伴って指導監督の程度を緩めることが可能
  (通信による遠隔指導なども認められる)

修練:有資格者と同等の知識と技能を有していると厚生労働大臣によって認定
   された無資格者による、資格取得を目的としない(他資格に資するため
   の)研鑽
  →行為の主体は実施者本人
  =実習者の能力にかかわらず常に指導者による実地指導監督が必要
  (通信による遠隔指導などは認められない)
      (*意見2-2にある「修練」はここに位置づけされる)

実習:無資格者による資格取得前もしくは資格取得を目的としない(他資格に
   資するための)訓練
  →行為の主体は指導者であり、実施者は手足に過ぎない
  =実習者の能力にかかわらず常に指導者による実地指導監督が必要
  (通信による遠隔指導などは認められない)

 つまり、歯科医師が歯科医療における知識と技術の向上を目的として医科患者 を対象とする訓練は「研修」ではなく「実習」ととらえる必要がある。

 この立場に立てば歯科医師による「医科研修」では有資格者と無資格者の取り 扱いを明確に区別していないことになる。歯科医師による「医科研修」は 法的には許容されないのであって名実ともに「医科実習」とすべきであったいえる。

 医科研修は行為の主体が研修者自身にあるために無資格者がこれを行うことは できないが、医科実習(行為の主体となる医師は当然にその場にいて直接指導 しなくてはならない)であれば合法的に可能であると考えることができる。 救急救命士の病院実習もこれと同様に捉えれば(というよりも、そのように捉 えられているはずだが)法改正は不要であり、専門家集団の見解表明とそれ に基づく行政裁量によって充分に対応が可能であると考えられる。


【意見2】 医師以外の職種の、病院での研修、実習は今後、法改正などを行わずには不可能


意見2-1:

 しかし、札幌地裁判決後、行政や関連学会などからコメントなどは出ておらず、以下 の解釈がなりたつ可能性もある。

  • 札幌地裁判決は、歯科医師が救命救急センターなどで医科患者に医行為を行うことは医師のもとで行う「実習」であっても違法であると裁定したのではないか。
    (医師のもとで行っても医行為は違法である上に、本事例の多くは医師の立ち会いなしに行われた。)

    とすれば、

  • 歯科医師が手術室などで医科患者に麻酔を行うことは医師のもとで行う「実習」であっても違法ではないか

  • 救急救命士が手術室などで医科患者に特定行為を行うことは医師のもとで行う「実習」であっても違法ではないか



意見2-2:

 「外国医師又は外国歯科医師が行う臨床修練に係る医師法第十七条及び歯科医師法第 十七条の特例等に関する法律」というものがある。 http://wwwhourei.mhlw.go.jp/~hourei/cgi-bin/t_docframe.cgi?MODE=hourei&DMODE =CONTENTS&SMODE=NORMAL&KEYWORD=&EFSNO=222

| (趣旨)
|第一条 この法律は、医療に関する知識及び技能の修得を目的として本邦に入国した
|外国医師又は外国歯科医師が医業又は歯科医業を行うことができるように、医師法(
|昭和二十三年法律第二百一号)第十七条及び歯科医師法(昭和二十三年法律第二百二
|号)第十七条の特例等を定めるものとする。
 日本では外国人医師あるいは歯科医師が国内で医業に従事するためには、国家試験 を受験し、合格する事が原則だ。つまり、本来、法は外国での医師資格は日本国内 では無資格に等しいと定めているが、これについての特例法が上記になる。

 すなわち、「無資格者による資格取得前もしくは資格取得を目的としない(他資格の 研鑽に資する)訓練」を法的に可能にするための「法律」が現に存在しているわけで ある。

 無論、この「修練」は法の主旨としては hands on 研修が行われる事が目的とされて おり、上記の定義から言えば「実習」に当たる。

 であれば、この特例法がわざわざ制定されている事を考えると、実習についての厚 生労働省医政局医事課の「お墨付き」は逆に全く無力であると考えられる。まして、今 回の判決が確定すれば、医師法第17条について公訴に持ち込むか否かを決めるとい う医事課の裁量は温存されますが、通知・通達などによって特例を認めるという裁量 権は全く奪われてしまう事になるのではないか。


1-b. 改善すべき項目はなかったか?

1)インフォームドコンセントが充分なされていたか、身分(歯科医師であること)を患者サイドに明示していたか

2)患者として研修に協力していただく患者さん納得してもらうには

(イ)「歯科医」の「研修」である事の明示
  1. 名札着用
  2. 院内(玄関)での掲示
  3. 実施行為を伴う場合、研修として行なう事の説明と同意
    (見学では1&2のみでよいと思われる。ただし救急研修では事実上困難)

(ロ)指導体制

  1. 研修プログラムの公示
  2. 「**病院で研修修了」した証

(ハ)その他

  1. 歯科医に限れば、研修以後に遭遇した事例で研修が役立った事例の収集と公表
  2. 上記のため、各施設の上部で研修を統括/情報管理する組織


1-c. 行政に対し是正してほしいと考えるポイント


2.救命士研修について考えないといけないポイント


参考ウェブ


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