第1章 救急救命士の現状と課題及び処置範囲拡大の動向等


1 救急救命士の現状と課題等

○ 平成14年4月1日現在、救急救命士の資格を有する消防職員数は1万 2,068人であり、このうち862消防本部1万823人が救急救命士 として運用されている(
資料1参照)。現在(財)救急振興財団において年 間約1,000名、政令指定都市の養成所等において年間約400名の計 1,400名が救急救命士として養成されているところである。

○ 平成14年4月1日現在、全国には4,596隊の救急隊が配置されてお り、このうち62.8%を占める2,884隊が救急救命士運用隊となって いる。しかしながら、全国的には地域間格差が相当みられるのが現状であ る(資料2参照)。救命効果の一層の向上を図るためにも、すべての救急隊 に救急救命士が常時1名以上配置されるよう、計画的な救急救命士の養成 を図るとともに、養成が遅れている団体においては、既資格者の採用等に ついても配慮すべきである。

○ 平成13年中における救急救命士の特定行為の実施件数については、除 細動が4,860件、器具を用いた気道確保が26,715件、静脈路確保 が7,882件となっている(資料3参照)。この実施件数は年々増加して おり、国民の救命効果の向上に貢献している。

○ 救急救命士の導入効果についてみると、救急救命士により処置された傷 病者と救急救命士の資格を有していない救急隊員により処置された傷病者 について、心肺停止の時点を目撃された症例の1ヶ月生存率の比較により 試算すると、平成13年中、救急救命士制度の導入により、1,097人が 救命されると推計されるというデータが出ている(資料4参照)。

○ 救命率の更なる向上を図るため、救急救命士の養成促進、処置範囲の拡 大、メディカルコントロール体制の整備等を図るとともに、バイスタンダ ーによる救命手当、搬送時の救急救命処置、医療機関の専門的治療の各段 階で最善の措置が講じられることに加え、関係者相互の緊密な連携の下に 一刻も早く次段階への橋渡しを行っていくことが必要である。


2 救急救命士の処置範囲拡大に係る過去の経緯

○ 救急救命士制度は、救急に対する国民のニーズの高まりを背景に、心肺 機能停止患者の救命効果の向上を図るため、平成3年に創設された。救急 救命士法により、救急救命士は医師の具体的な指示の下に以下の3つの特 定行為を実施することが認められた。

  1. 半自動式除細動器による除細動

  2. 乳酸リンゲル液を用いた静脈路確保のための輸液

  3. 食道閉鎖式エアウェイ及びラリンゲアルマスクを用いた気道確保

○ 制度創設の際も、気管挿管や一定の薬剤の使用についても救急救命士に 認めるべきとの議論もあり、その後も各方面において救急救命士の処置範 囲の拡大についての検討がなされてきた。以下その例を紹介する。


3 救急救命士の処置範囲拡大の動向

○ 前述のとおり、救急救命士の処置範囲の拡大については、いわば制度創 設当時から各方面において議論されてきた経緯があり、メディカルコントロ ール体制の確立など環境整備の問題などから具体的検討には至らなかった が、平成14年4月17日に消防庁と厚生労働省が共同で「救急救命士の業 務のあり方等に関する検討会」を設置し、救急救命士の処置範囲の拡大を前 提に、どのような業務を追加すべきか、そのために必要な条件は何かについ ての具体的な検討が開始された。

○ 平成14年の7月22日には、「救急救命士の業務のあり方等に関する 検討会」中間報告が取りまとめられた。中間報告の概要については以下の とおりである(全文は資料5参照)。

  1. 総論

  2. 除細動

  3. 気管挿管

  4. 薬剤投与

○ この他、中間報告においては各項目について、当面の検討・作業課題が 示されており、それらをより専門的観点から検討・研究するため、消防庁 と厚生労働省ではそれぞれ研究班等を設置した。

○ 本委員会においては、平成12年度にメディカルコントロール体制の整備 方策等について検討を行った経緯があることから、事後検証体制の充実を 図るため、標準的な事後検証票について検討を行うこととなった。

○ 「救急救命士の業務のあり方等に関する検討会」では、平成14年12 月11日、4月の検討会設置以降、計4回の検討会及び5回のワーキング チームでの議論を経て、また、各研究班等での検討も踏まえた報告書が取 りまとめられた。報告書の概要は以下のとおりである(全文は資料6参照)。

  1. 除細動

  2. 気管挿管

  3. 薬剤投与

  4. その他


4 処置範囲の拡大とメディカルコントロールの必要性

○ 救急救命士の行う処置範囲の拡大に伴い、より高度な医療行為を実施す ることとなるため、救急現場で実施する救急救命士の応急処置等の質につ いて、医学的観点から担保する仕組みであるメディカルコントロールシス テムの導入が必要である。なお、 「救急救命士の業務のあり方等に関する検 討会」報告書においてもメディカルコントロール体制の構築が、救急救命 士の処置範囲の拡大の前提として指摘されている。

○ メディカルコントロール体制は救急救命士の処置範囲の拡大のみならず、 救急業務の高度化全体の基盤となる制度であり、実効性のある体制の早期 構築が必要である。


第2章 メディカルコントロール体制の構築


1 メディカルコントロール体制の意義・具体的内容

○ プレホスピタル・ケアにおけるメディカルコントロールとは、医学的観 点から救急救命士を含む救急隊員が行う応急処置等の質を保障することを 指す。そのためには、以下の 1)常時指示体制、2)事後検証体制、3)再教育 体制の3点を重点的に、かつ相互に連携を図りながら、体制の整備に努め ることが必要である。

  1. 救急隊が現場から24時間いつでも迅速に救急専門部門の医師等に指 示、指導・助言が要請できること。

  2. 実施した応急処置等の医学的判断、処置の適切性について医師による 事後検証を行い、その結果を再教育に活用すること。

  3. 救急救命士の資格取得後の再教育として医療機関において定期的に病 院実習を行うこと。

○ 救急救命士は、救急救命士法に基づく医療職として位置づけられており、 医師の指示の下に救急出場現場において、診療補助行為にあたる救急救命 処置を実施することとなっている。しかし、その業務の場が医療機関内で はないことから、他の医療従事者とは異なり、充分な医学的観点からの経 験を積むことが、通常の業務をとおしてのみでは難しいのが現状である。

○ このような状況の下、医師からの指示、指導・助言体制、救急活動の医 学的観点からの事後検証、就業後の再教育のための病院実習は、救命効果 の向上を目指し、救急救命士を含む救急隊員が行う応急処置等の質を向上 させ、これからの救急救命士の業務の高度化を推進するためには、不可欠 である。

○ メディカルコントロールは、応急処置等の質を保障することと同時に、 救急救命士が安心して業務に従事できる体制づくりを目指すものである。 ○ 事前のメディカルコントロール及び事後検証にあたっては、プロトコー ルが重要な役割を果たすことから、地域メディカルコントロール協議会で 十分に協議するとともに、救急救命士等に周知徹底することが必要である。


2 メディカルコントロール体制の整備

本委員会報告書(平成13年3月)を踏まえて、総務省消防庁では「救 急業務高度化の推進について」(平成13年7月4日付け消防救第204 号消防庁救急救助課長通知)を発出し、メディカルコントロール体制の構 築を積極的に進め、救急隊員の資質を向上し、地域における救命効果の更 なる向上を図るよう格段の配慮を要請した。概要は以下のとおりである(通 知全文は資料7参照)。

○ また、「救急業務の高度化の推進に係る実施計画の作成及び報告につい て」(平成13年7月19日付け消防救第218号消防庁救急救助課長通 知)においては、都道府県及び消防機関が行う救急業務の高度化の取組を 早急に促進することを踏まえ、「メディカルコントロール体制構築の実施 計画作成・報告要領」を定め、定期的な実施状況の報告を都道府県、消防 機関に対して要請した(資料8参照)。

○ しかし、地域のメディカルコントロール体制構築を協議する出発点とな る都道府県メディカルコントロール協議会の設置が遅れている状況にあっ たこと、また、前述のとおり、「救急救命士の業務のあり方等に関する検討 会」中間報告において、メディカルコントロール体制の重要性が改めて指 摘されたことから、総務省消防庁は厚生労働省とともに、各都道府県及び 各地域におけるメディカルコントロール協議会の設置の促進について、格 段の配慮をお願いする「メディカルコントロール協議会の設置促進につい て」(平成14年7月23日付け消防救第159号消防庁次長、医政発第0 723009号厚生労働省医政局長連名通知)を発出した(資料9参照)。

○ 重ねて、総務省消防庁では「メディカルコントロール体制の整備促進に ついて」(平成14年7月23日付け消防救第160号消防庁救急救助課 長通知)をとおして、都道府県メディカルコントロール協議会及び地域メ ディカルコントロール協議会の早期設置、常時指示体制の早急な体制整備、 事後検証体制の充実、再教育体制の充実を改めて各都道府県に対し要請し た(資料10参照)。


3 メディカルコントロール体制の現状と課題

(1)都道府県における取組

○ 「救急業務高度化の推進について」(平成13年7月4日付け消防救第2 04号消防庁救急救助課長通知)に基づき、都道府県はその協議の場とな る都道府県単位の協議会を設けることが第一歩であったが、通知発出直後 は、都道府県メディカルコントロール協議会及び地域メディカルコントロ ール協議会の設置状況は必ずしも順調ではなかった。

○ 協議会設置が当初進まなかった原因として、メディカルコントロールに ついては、都道府県において消防機関の施策と捉えられてしまったため、 消防防災主管課では、メディカルコントロール自体の認識はされているが、 日常的に救急医療機関と連携を図っている救急医療担当主管課においては、 メディカルコントロール体制構築の必要性が認識されていない状況が続い ていたこと等が考えられる。

○ しかしながら、救急救命士の処置範囲の拡大の議論が進展すると同時に メディカルコントロールについての都道府県レベルの認識が徐々に浸透 していった。

表 都道府県メディカルコントロール協議会及び地域メディカルコントロ ール協議会設置状況

 平成14年4月7月9月12月15年2月
都道府県メディカルコントロール 協議会設置済都道府県数818233135
地域メディカルコントロール協議会設置済都道府県数39101725

(平成15年3月末を目途に全ての都道府県において設置される見込み)

○ 消防本部と救命救急センター等救急医療機関を、メディカルコントロー ルという観点から協議の場を設けることが出来るのは都道府県であり、か つ、これは都道府県が果たさなければならない役割である。

○ また、都道府県メディカルコントロール協議会が設置された団体でも、 メディカルコントロールを担当する救急医療機関の担当範囲の区域割り (以下、区域割り)が、なかなか進まない状況にあった。

○ 区域割りについては、救命救急センター等中核的な救急医療機関を中心 として行うものとし、その際には二次医療圏又は複数の二次医療圏の単位 によりその設定を行うこととなっていたが、実際、区域割りは二次医療圏 単位で行わなければならないという認識を持つ団体が当初多かった。

○ 日常的な業務のつながり等から、二次医療圏単位で区域割りを行うこと は、容易ではあるものの、二次医療圏単位で区域割りされた地域に中核的 な救急医療機関が存在しない場合があり、区割りはしたものの実効的なメ ディカルコントロールが行われるとは言い難い状況が想定された。

○ また、救命救急センターを核とした区域割り又は二次医療圏単位での区 域割りが、なかなか関係者の理解が進まない地域もあり、区域割りが決ま らず、地域メディカルコントロール協議会が設置されない状況が見られた。

○ 実効的なメディカルコントロール体制を構築するための区域割りについ て、早急に検討するとともに、実際にメディカルコントロール体制の運用 を開始し、不都合が生じた場合には、都道府県メディカルコントロール協 議会において適宜、区域割りの見直し作業を行うことが望ましい。

○ 消防、医療が一つとなり、ともにメディカルコントロール体制構築に取 り組むことは実質的に初めてのことであり、これらの機関が意志疎通を十 分に図り、地域の実情を踏まえた都道府県全体のメディカルコントロール 体制について真剣に議論し、将来像を提示していくことが求められる。ま た、メディカルコントロール体制構築と同時に、救急医療施設、救急医の 確保等の救命救急センターの充実、救急患者の搬送の適正化をも図れるよ うな方向に進むことが望ましい。


(2)消防本部における取組

○ 各消防本部におけるメディカルコントロール体制の構築状況は表のとお りである。

表 消防本部単位でのメディカルコントロール体制構築状況

 H13.10.1H14.10.1
全消防本部数902900
うち、救急救命士運用本部数842862
救急救命士に対する常時指示体制の構築済本部数778821
救急活動の医学的観点からの事後 検証体制の構築済本部数149204
消防本部における再教育病院実習 時間(年64時間以上)の確保済 本部数165501

○ 救急救命士に対する常時指示体制については、821本部(95%)が 体制構築済みである。メディカルコントロール体制でいう常時指示体制と は、24時間、迅速に、指示を出す医師に対して直接連絡がとれる体制を 意味する。しかし、実態としては、救急隊からの指示要請があった場合に 必ずしも直接医師につながる体制になっておらず、看護師や事務員が初回 対応する場合があることが指摘されている。実質的に常時指示体制が未構 築の消防本部では、迅速な指示を得られず、特定行為を実施することがで きないこととなるので、指示を行う医療機関と連携を図り、早急に体制整 備を図ることが必要である。

○ 事後検証体制については、平成14年10月の時点で、未だ204本部 (24%)しか実施されていない状況である。その要因は、事後検証票の 策定がなかなか進まないことがあげられ、国に標準的な事後検証票の作成 を要望する声が強かった。本委員会では、このような状況を踏まえ、標準 的な事後検証票の策定について検討を進めた。今後、各地域で標準的な事 後検証票を最大限活用し、早急に事後検証体制を構築することが必要であ る。

○ 再教育病院実習については、501本部(58%)が実施している。全 ての本部において、再教育としての病院実習については取組を実施してい るが、消防庁では、2年間で128時間以上を基準に設定しているため、 そこまでの病院実習時間を確保できているのは約半数の本部にとどまって いるという状況である。今後、実習病院との連携を図り、ワークステーシ ョン方式の活用等も含め効果的な病院実習に努めるとともに、必要時間数 を確保することが救急救命処置等の技術の維持・向上を図るために必要で ある。


4 メディカルコントロール協議会の実施状況等

○ 主に、区域割りとしては下記の4通りの考え方が見られた。

  1. 二次医療圏単位

    今までの医療行政のつながりを考慮し、二次医療圏単位でメディカル コントロールを担う医療機関を確保し、メディカルコントロール体制を 構築する。

  2. 複数の二次医療圏を統合した単位

    二次医療圏だけではメディカルコントロールを担う医療機関を確保 することが困難であり、二次医療圏を統合した単位でメディカルコント ロール体制を構築する。

  3. 全県を一区にする単位

    救命救急センターが県内に1カ所程度しかなく、また県の面積などを 考慮し、全県を一区とする単位でメディカルコントロール体制を構築す る。

  4. 救命救急センターを核とするメディカルコントロール体制の構築 二次医療圏にかかわらず、救命救急センターを核として区割りされた 単位でメディカルコントロール体制を構築する。

○ また、協議会構成員については、主として下記のとおりであった。

  1. 都道府県メディカルコントロール協議会

    都道府県担当部局・課、都道府県内消防機関代表、救急医療機関、都 道府県医師会、都道府県看護協会、保健所等

  2. 地域メディカルコントロール協議会

    都道府県担当課、地域消防機関、救急医療機関、郡市医師会、保健所 等

○ 都道府県メディカルコントロール協議会及び地域メディカルコントロー ル協議会の事務局設置場所については、主として下記のとおりであった。

  1. 都道府県消防主管課

    消防における救急業務について今回の協議会を設置するに至った経緯 やメディカルコントロール協議会開催経費、事後検証に係る報償費など が「消防防災費」として地方交付税措置されていることを考慮し、消防 主管課が事務局をつとめる。また、消防本部が持ち回りで事務局への協 力をすることを検討している団体もある。

  2. 都道府県救急医療主管課

    医療機関、医師会などとの調整を考慮し、救急医療主管課が事務局を つとめる。

  3. 都道府県消防防災主管課、救急医療主管課の共管

    消防機関と医療機関の双方の調整を考慮し、共同で事務局をつとめる。


5 メディカルコントロール体制の推進、財政支援措置

○ 消防庁では、救命効果の更なる向上を図るため、救急救命士を含む救急 隊員の応急処置等の質を医学的観点から保障するメディカルコントロール 体制の構築に要する経費について、地方交付税措置を講じることとしてい る。具体的には、普通交付税の単位費用※にメディカルコントロール協議会 の運営経費が都道府県に、また医師に対する報償費が市町村分に算入され ている。

※単位費用:地方団体が標準的な行政を行う場合に必要な一般財源の金額を、測定単位 1単位当たり(例えば市町村の消防であれば人口1人当たり)で示したもの。

○ 都道府県分については、平成15 年度普通交付税において、協議会の高度 化に要する経費として、標準団体(人口170 万人)あたり約310万円が算 入されており、その内訳は、都道府県メディカルコントロール協議会の運 営費として約60万円、地域メディカルコントロール協議の運営費として約 250万円である。

○ また、市町村分については、標準団体(人口10 万人)あたり約490万円 が算入されており、その内訳は、常時指示体制の構築に要する経費として 約280 万円、再教育としての病院実習に要する経費として約200万円、事 例研究・症例研究に要する経費として約10万円である。なお、事後検証に 要する経費については、特別交付税措置を講ずるよう検討されている状況 である。

○ 国は、都道府県分及び市町村分のメディカルコントロール体制の構築に 必要な経費について、来年度以降においても確保するようよう努力すべき である。

○ 都道府県及び市町村においては、メディカルコントロールに必要な予算 措置を講じるよう努めるべきである。


第3章 事後検証体制の充実


1 事後検証体制の現状と課題等

○ メディカルコントロール体制構築の中で、平成14年10月1日現在の 調査の結果によれば、事後検証体制について消防本部における対応が遅れ ている状況である。

○ しかしながら、救急救命士を含む救急隊員の応急処置等の質を保障し、 地域におけるプレホスピタル・ケアの一層の向上を図るためには、現在、 十分に実施されていない医学的観点からの事後検証を実施し、その検証結 果について当該救急活動を実施した救急救命士を含む救急隊員に対しフィ ードバックし、再教育することが必要である。

○ 救急救命士の処置範囲が拡大し、除細動が医師の具体的指示から、包括 的指示に移行するに際しては、実施した処置等が適切であったかどうかに ついて、事後に医学的な観点から検証を実施することが必要である。

○ このため、本委員会において、事後検証が円滑かつ効果的に行われるよ う、標準的な事後検証票の策定について検討した。

 なお、平成13年度「事後検証マニュアル作成検討委員会(委員長:前 川和彦東京大学名誉教授)」において、度重なる検討の結果「事後検証の考 え方」がとりまとめられており、このたびの救急救命士の処置範囲の拡大 も視野に入れ、本委員会でも議論し、若干追加等を行ったものを参考資料 として添付しているので、参考にしていただきたい。


2 標準的な事後検証票の策定

(1)標準的な事後検証票の策定の必要性

○ 現在各消防機関において用いられている救急活動記録は、必ずしも事後 検証を行うために必要な項目が記載されるものとはなっていない。

○ このため、医学的判断・処置に関して客観的な検証を行うために必要な 項目が盛り込まれるとともに、医師による検証結果が記載されるような検 証票を策定することが必要である。

○ 検証票については、各地域メディカルコントロール協議会において定め ることが適当であるが、その参考に供するために、標準的な事後検証票を 策定することとした。

(2)標準的な事後検証票の考え方

○ 標準的な事後検証票の策定にあたっては、救急活動記録票と重複する部 分が多いことから、4枚綴りの複写式とし、救急救命士等の便宜を考慮し た。1枚目は搬送確認書(医療機関控え)、2枚目は搬送確認書(救急隊控 え)、3枚目は救急活動記録票、4枚目を検証票とした。

○ 初診医に搬送の際、できるだけその場で救急救命士等が実施した救命処 置等の状況を引き継げるよう、搬送確認書に必要な救命処置等を盛り込む こととした。

○ 検証医師が属さない他の医療機関に搬送された傷病者について、検証医 師は検証票の救急活動記録部分だけを見て検証を行うことが必ずしも容易 でないことがある。このため、検証票に初診医の所見欄を設けることとし た。

○ 検証医師による検証結果の記載については、傷病者本人等から、各市町 村の個人情報保護条例又は情報公開条例に基づき、記載内容の開示請求が あった場合も想定し、客観的な記載内容とすることが必須であり、かつ、 救急救命士等の教育に必要と思われる事項について記載することが適当で ある。

○ 検証票においては、個人情報の保護の観点から、氏名・住所等検証に必 要ないと思われる個人情報については、記載しないように配慮した。

○ 検証票の公開等の取扱いについては、各団体ごとに定められている個人 情報保護条例や情報公開条例に配慮しつつ、担当部局とも事前に十分に確 認をすることが必要である。

○ 救命処置欄については、ドクターカー等医師同乗による処置が行われる 可能性のある地域については、医師ないし救急救命士のいずれが処置した か判別できる救命処置欄の形式が望ましい。

○ 標準的な事後検証票の策定にあたっては、東京消防庁や日本医科大学附 属千葉北総病院で使用する検証票等も参考に、事後検証に必要な項目を盛 り込むこととし、救急救命士等が記載する時間・負担等も考慮し、できる だけ簡便にすることとした。また、チェック項目をできるだけ多くすると ともに、ウツタインスタイルにも配慮した。

○ 事後検証の対象症例については、当面の間、心肺機能停止症例(心肺機 能停止に準じる症例を含む。)を中心とする。なお、検証対象症例について は、地域メディカルコントロール協議会において、十分議論することが必 要である。また、初診医において検証が必要であると判断した事例につい ては、その意向を反映できるような仕組みとすることが必要である。

○ 検証の際には、心電図波形記録紙を同時に提出することが必要である。

○ 検証票については、メディカルコントロールが行われる区域ごとに統一 されることが望ましい。


3 事後検証の手順

○ 事後検証については、メディカルコントロール協議会において決定した 対象範囲(心肺停止症例等)に該当する事例について、検証票を検証医師 あるいは検証医師を含む検証のための組織(例:委員会等)に定期的に送 付し、検証を依頼する。

○ 検証票の検証医師への提出については、帰署後各所属で検討し、所属内 の指導者が確認の上、後日提出することが望ましい。

○ 検証医師が検証を行うにあたり、搬送先医療機関での医療情報が必要な 場合、消防機関に照会があれば、消防機関が搬送先医療機関に確認した上 で、検証医師に連絡する窓口機能の体制を、消防機関で整備することが望 ましい。

○ 事後検証については、より客観的かつ的確な検証を行うことができるよ う、救急救命士等が行う各種処置に係るプロトコール、病院選定に関する プロトコールを作成することが必要である。


4 事後検証結果の活用

○ 消防機関においては、事後検証の結果を記録、保管するとともに、当該 救急活動を行った救急隊員に対し、その結果を伝えることが必要である。

○ 当該結果については、当該救急救命士等の教育訓練に役立てることがで きるよう、個人単位で記録するよう努めることが適当である。

○ 事後検証の結果を踏まえ、病院実習等の際に重点的な研修を実施するこ とが適当である。

○ 検証票は標準的なものとして示したものであり、各地で運用される検証 票の作成等にあたっては、標準的な検証票の考え方を踏まえ積極的な活用 を図るべきである。

○ 検証結果については、定期的に地域メディカルコントロール協議会へ報 告し、協議会は消防機関に対して、その協議内容をフィードバックさせる ことが必要である。


5 事後検証体制の整備

○ 消防機関において適切な事後検証を行える体制整備を図る必要がある。 そのためには、消防機関において救急隊を総括し、救急活動の指導、事後 検証を行う救急業務に精通した消防機関の指導者的存在が必要である。

○ しかしながら、救急専任の管理職が置かれていない消防本部も多く、救 命救急センター等の医療機関との連携についても必ずしも十分でない状況 である。当面は、救急隊を管理する職にある者が医療機関と緊密な連携を 図りつつ、事後検証を実施するべきである。

○ 検証医師は、指示を行い、研修を受け入れる役割を担うことも併せ考え ると、地域の中核的な救急医療機関の救急専門部門の責任者及びそのスタ ッフが担うべきである。

○ 事後検証を行うために必要な資質を備えた検証医師が不足しており、早 急にその養成・確保を図ることが必要である。

○ 事後検証の確実な実施を担保するため、消防機関と救急医療機関との契 約の締結等を行うことが適当である。

○ 事後検証の実施に当たっては、傷病者のプライバシーの保護が十分に図 られるよう、消防機関と救急医療機関との事後検証に係る契約において、 守秘義務について定める等必要な措置を講じることが必要である。


資料集


資料1 救急救命士の運用推移 (準備中)


資料2 都道府県別の救急救命士運用状況 (準備中)


資料3 特定行為実施状況の推移 (準備中)


資料4 救急救命士の導入効果 (準備中)


資料5 「救急救命士の業務のあり方等に関する検討会」中間報告

http://www.fdma.go.jp/html/new/140723_kyu.htm


資料6 「救急救命士の業務のあり方等に関する検討会」報告書

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/12/s1211-5.html


資料7 救急業務の高度化の推進について(通知)
 消防救第204号平成13年7月4日救急救助課長

http://plaza.umin.ac.jp/~GHDNet/01/shobo.htm


資料8 救急業務の高度化の推移に係る実施計画の作成及び報告について(通知)
 消防救第218号平成13年7月19日救急救助課長(準備中)


資料9 メディカルコントロール協議会設置促進について(通知)
 消防救第159号医政発第0723009 号平成14年7月23日
 消防庁次長厚生労働省医政局長(準備中)


資料10 メディカルコントロール体制の整備促進について(通知)
 消防救第160号平成14年7月23日救急救助課長(準備中)


参考 事後検証の考え方(準備中)


■ 救急業務高度化推進委員会・報告書/ □ 救急・災害医療ホームページ