本研究の特色と独創的な点
本研究の特色
本研究の特色は、@統合失調症患者の障害の中核である認知機能障害と社会適応の関係を、心理的個人差を考慮してきめ細かく分析する点、A生物学的基盤との関連が実証されているクロニンジャーのパーソナリティ理論に基づいた研究である点、Bパーソナリティ特性による認知機能リハビリテーションの効果の違いを具体的に検討し、エビデンスに基づいたテーラーメード医療を目指す点である。
本研究の独創的な点
統合失調症患者の認知機能と社会適応についての研究は、現在蓄積されつつあるが、いまだ議論の余地が残る分野である.また,統合失調症患者の心理的個人差に着目した研究自体は少なく、認知機能とパーソナリティ要因を両方考慮した研究にいたっては皆無である.本研究は、これまで生物学的研究が主だった統合失調症に対して、認知機能・パーソナリティという心理学的側面からアプローチする研究である.加えて、本研究は、遺伝的生物学的基盤と関連が明らかになっているクロニンジャーのパーソナリティ理論に基づいている.統合失調症への臨床心理学的アプローチを新たに開拓するだけでなく、生物学的研究との連携も視野に入れた研究である。
仮説と予想される結果
Fig.1
統合失調症患者におけるパーソナリティと
認知機能・社会機能の関連
Fig.2
パーソナリティによる認知機能リハビリ
テーションの効果
統合失調症患者におけるパーソナリティと認知機能・社会機能の関連は、以下のような結果になると予測される
(Fig.1参照)
。
@認知機能が悪いほど、社会機能が悪い。
Aクロニンジャーのパーソナリティ特性のうち、遺伝的生物学的基盤と関連が強い気質(Temperament)と、認知機能の間に関連がある.気質のうち、神経伝達物質であるドーパミン系との関連が深い新奇性追求(Novelty Seeking)と、認知機能の間の関連が特に強い。
B後天的な環境と関連が強い性格(Character)と社会適応の間に関連がある.性格のうち、他者を受容・共感し、適切な対人関係を築く能力である協調性と、社会機能の間の関連が特に強い。
また、統合失調症患者に対して認知機能リハビリテーションを行った時、その効果はパーソナリティによって以下のように異なると予測される
(Fig.2参照)
。
C自己志向性(SD)得点が高い患者ほど、認知機能リハビリテーションの介入直後の効果が大きい。
D自己志向性(SD)得点が高い患者ほど、6ヵ月後のフォローアップ時点でも、認知機能リハビリテーションの効果が持続している。
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