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研究の学術的背景
本研究の特色と独創的な点
本研究の意義
研究代表者略歴

研究の学術的背景

本研究に関連する国内・国外の研究動向及び位置づけ

 近年の研究から、統合失調症患者の障害の中核は、認知機能障害であることが明らかになってきた.統合失調症の認知機能障害は、陽性症状や陰性症状よりも、社会適応と強く関係しており(Green et al., 2000)、統合失調症患者では、認知機能の改善が社会適応の改善につながるとされている。
 欧米では、認知機能を改善するリハビリテーション技法の開発(Medalia et al., 2001; van der Gaag et al., 2002; Wykes et al., 2002; Wexler et al., 2005)や、認知機能を改善する薬剤開発プロジェクト(MATRICS)が進んでいる.わが国でも、認知機能が社会適応に及ぼす影響について、池渕らを中心に研究が進んでおり、@どのような認知機能が、社会適応に強い影響を及ぼすのか、A認知機能リハビリテーションが社会適応にどのような効果をもたらすのかが明らかになりつつある。
 しかしながら、臨床場面では、@同レベルの認知機能障害を持っていても、社会適応が良い患者と社会適応が悪い患者が存在する.また、A同じ治療介入プログラムを実施しても、介入後の社会適応が良い患者と悪い患者が存在する.このような個人差が生じる要因については、未だ良く分かっていない。

着想に至った経緯

 応募者はこれまで、統合失調症患者を対象に、パーソナリティやコーピングスキルの個人差と精神症状の関連について研究を進めてきた(Yamasaki et al 2005).近年では、クロニンジャーのパーソナリティ理論が注目されており、応募者もクロニンジャーのパーソナリティと妄想的観念の関連について研究してきた(Yamasaki et al 2003, Yamasaki et al 2005)。
 クロニンジャーの理論では、パーソナリティを遺伝的生物学的基盤と関連が強い気質(temperament)と後天的な環境と関連が強い性格(Character)に分けて記述する.近年の行動遺伝学研究から、神経伝達物質の関連遺伝子と、気質との関連が分かってきた(Ebstein et al 1996, Benjamin et al. 1996, Katsuragi et al 1999)。
 応募者はこれまでの研究で、クロニンジャーのパーソナリティ理論に基づいた質問紙(Temperament and Character Inventory)を用いて、パーソナリティと精神症状や認知機能の横断的な関係について検討してきた.しかしながら、パーソナリティの違いが、どのように認知機能リハビリテーションの効果に影響するかは未検討である。
 パーソナリティの違いが、認知機能リハビリテーションの効果にどう影響するかが分かれば、@支援者側の障害理解の促進、A効率的な個別的支援、Bパーソナリティを考慮した新たな治療介入技法の開発ができるようになる.@障害理解の促進は、スティグマの軽減につながる.A効率的な支援が出来るようになれば、治療・支援のコスト軽減につながる.B新たな治療介入技法が開発できれば、これまで就労や自立生活の可能性が乏しかった重度の精神障害者への支援が可能になると考えた。
 応募者はこれまで、健常者についてクロニンジャーのパーソナリティ特性と、クレペリン検査成績の関連について検討した(清野ら 2006).その結果、クレペリン検査成績と、行動を統制し、調整し、調節する能力である自己志向性(Self-Directedness;SD)得点との関連が確かめられた.また、統合失調症患者については、クレペリン検査成績と社会適応度の関連について検討した(清野ら;投稿中).その結果、統合失調症患者のクレペリン検査成績(動揺率)と、検査1年〜5年後の社会適応度との関連が認められた。
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