国際基準に基づく小奇形アトラス 形態異常の記載法 ―写真と用語の解説



顔(FACE)

幅広い顔(Face,Broad)
定義
頬骨弓間距離(顔面上部)と顎角点(ゴニオン,下顎体下縁と下顎枝講演が移行する部位のうち,最も外側の点)の両方が正常集団の 2 SD より大きい(客観的)(図 24)。幅広い顔顔面上部と顔面下部の両方の幅が大きい(主観的)。
コメント
顔の幅の測定には桿状計が用いられる。桿状計の先端は頬骨弓に当てる。顔面下部の測定も桿状計を用いて行われ,桿状計の先端は下顎角の下内側面に当てる[Farkas,1981]。幅広い顔は丸い顔(Round face)とは区別される。
図 24 幅広い顔
顔面上部と顔面下部の両方の幅が大きい。

粗な顔(Face,Coarse)
定義
顔は丸みを帯び,濃い皮膚のために,眉間や鼻,口唇,口,下顎などの構造物がはっきりとしなくなる。皮下組織や骨組織の肥厚を伴うこともある(主観的)(図 25)。
コメント
この用語は印象や形態を想起させるバンドル語である。しかしながら,きわめて有用な用語である。人によっては「粗な顔」という表現を軽侮的と感じる人もいるかもしれない。
同義語
Lineaments,coarse;Features,coarse
図 25 粗な顔
濃い皮膚・皮下組織・骨組織のために,顔面のこまかい構造は輪郭が不明瞭となり,顔は丸みを帯びている。
・延長した顔(Face,elongated):長い顔(Face, long)を参照

表情のない顔(Face,Expressionless)
定義
鈍い表情と同義である。ここでは解剖学的な所見というよりは機能的な所見として捉えられている。平坦な顔(Face,Flat)
定義
側面から見たとき凹凸の欠損(主観的)(図 26)。
コメント
有用なガイドは眉間と下顎の最も前面の部分を結んだ線が人中の最上部と交差する状態を想起することである。もし人中の上部が上記の垂直線よりも前にあれば,顔面は「凸」であるといえるし,この線よりも後ろであれば,顔面は「凹」であるといえる。
図 26 平坦な顔

筋緊張の低下した顔貌(Face,Hypotonic)
この用語は解剖学的というよりは機能的な用語である。この所見は,単一の客観的な所見というよりは,他の複数の所見が重なって得られる結論であるといえる。すなわち,鼻唇溝が浅い,外側の眼窩上縁の皮膚のたるみ,眼瞼下垂,常時の開口位,顔面の表情の低下などによる。

長い顔(Face,Long)
定義
顔面の高さ(長さ)が平均値の 2 SD 以上である(客観的)(図 27)。
コメント
顔の高さの測定は桿状計(ノギス)を用いて行われる。ナジオン(鼻根部の最も深い点)からグナシオン(下顎骨の下端)までを正中線上で測定する[Farkas,1981]。長い顔は狭い顔(Narrow face)とは区別される。
図 27 長い顔
顔の長さ(高さ)が顔の幅に比較して大きい。実際の計測をしないと,高さが増えているのか,幅が凹んでいるのかは判断が難しい。
同義語
Face,elongated

細い顔(Face,Narrow)
定義
顔面上部と顔面下部(ゴニオン間の距離)がともに 2 SD 未満(客観的)(図 28)。顔面の上部および下部とも狭い(主観的)。
コメント
桿状計(ノギス)で計測する。先端は頬骨弓を越えて最大長となる部分まで計る。 顔面下部の測定も桿状計を用いて行われ,桿状計の先端は下顎角の下内側面に当てる[Farkas, 1981]。細い顔は長い顔(Long face)とは区別される。
図 28 細い顔
実際の計測なしには顔面の高さが高いのか,顔の幅が狭いのかを判断することは難しい。

老人様顔貌(Face,Prematurely Aged)
この用語の使用は避けることとする。というのも,この所見は薄い皮膚,静脈の透見,皮下脂肪の欠如,皺の過剰,色素性の変化などの所見を総合したものだからである。

丸い顔(Face,Round)
定義
正面から見たときに通常より丸みを帯びた顔である状態(主観的)(図 29)。
コメント
幅の広い顔(Broad face)に丸みを帯びた頬がある場合には,丸い顔は長くかつ幅広く見える。
図 29 丸い顔
顔が通常より丸い。(客観的)(図 30)。顔面の高さが減った状態(主観的)。

短い顔(Face,Short)
定義
顔の高さが平均の 2 SD 以下である状態
コメント
顔の高さの測定は桿状計(ノギス)を用いて行われる。ナジオン(鼻根部の最も深い点)からグナシオン(下顎骨の下端)までを正中線上で測定する[Farkas,1981]。短い顔は幅広の顔(Wide face)とは区別されるべきである。
図 30 短い顔
顔面の高さの減少は顔面の幅との比較によってなされるため,実際の計測をしないと評価が難しい。

小さな顔(Face,Small)
この用語は使用しない。というのは狭い顔(Narrow face)と短い顔(Short face)の両方があるとき,「小さな顔」となるからである。

四角い顔(Face,Square)
定義
正面から見たとき,この輪郭が顔面上部/頭蓋および顔面下部/下顎で広いとき,四角い顔貌に見える(主観的)(図 31)。
コメント
四角い顔のあるときは顔面下部のほうが広いことが多い(ゴニオン間の距離が正常群の 2 SD 以上)。幅広い下顎(Broad jaw)では顔面所下部の横幅が顔面上部の横幅より広い。
図 31 四角い顔
四角い顔正面から見たとき,この輪郭が顔面上部/頭蓋および顔面下部/下顎で広いとき,四角い顔貌に見える。

三角形の顔(Face,Triangular)
定義
正面から見たとき,両側頭を底辺とし,狭い下顎を頂点とする顔面が三角形に見える(主観的)(図 32)。
コメント
この特徴は狭い下顎(Narrow jaw)とは区別される。
図 32 三角形の顔
正面から見たとき,両側頭を底辺とし,狭い下顎を頂点とする顔面が三角形に見える。
・粗な顔面の印象(Features, coarse):Face, coarseを参照
・粗な顔面の形状(Lineaments,coarse):Face, coarseを参照
・前額部(FOREHEAD)・狭い両耳側間距離(Bitemporal narrowing):狭い前額部(Forehead,narrow)を参照
・目立つ眼窩上縁(Brows,prominent):Supraor-bital ridges,prominentを参照
・眼窩上縁の低形成(Brows,underdeveloped): Supraorbital ridges,underdevelopedを参照

幅広い前額部(Forehead,Broad)
定義
前額すなわち frontotemporales の距離が人口集団の 2 SD をこえる(客観的)(図 33)。前額の幅の増加(主観的)。
コメント
frontotempralis とは,眼窩上縁の側面の陥凹部を指す。本用語と「目立つ前額(promi-nent forehead) →訳注:上下方向の距離を論じている」を混同しないこと。
同義語
Forehead, wide
図 33 幅広い前額部
前額部の横径が増加している。
・突出した前額部(Forehead,bulging):目立つ前額部(Forehead,prominent and Frontal bossing)を参照
・高い前額部(Forehead,high):高い前頭毛髪線(Hairline,high anterior)を参照
・低い前額部(Forehead,low):低い前頭毛髪線(Hairline,low anterior)を参照

狭い前額部(Forehead, Narrow)
定義
前額部すなわち frontotemorales の距離が人口集団の 2 SD をこえる(客観的)(図 34)。水平方向に狭い前額を指す(主観的)。
コメント
前頭側頭は眼窩上縁の垂直な部分のすぐ外側で少しくぼんでいる。ノギスの先端をこの部分の最も凹んだ部分に当てて測定を行う[Farkas, 1981]。
同義語
Bitemporal narrowing, Intertemporal narrowing
図 34 狭い前額部
前額部の横径が減少している。

目立つ前額部(Forehead,Prominent)
定義
前頭骨の突出により,前額部全体が目立つ状態を指す(主観的)(図 35)。
コメント
本所見は Frontal bossingと同義ではない(後述)。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Forehead, bulging
図 35 目立つ前額部
前額部の横径が減少し,側頭部分でも幅が狭くなっている。
・短い前額部(forehead,short):低い前額毛髪線(Hairline,low anterior)を参照

Forehead, Sloping
定義
前額の前面の傾斜が一般集団の 2 SD よりも大きい(客観的)(図 36)。側面からの観察により明らかに前額が極端に傾斜している(主観的)。
コメント
計測のためには分度器が必要。頭部をフランクフルトの水平面に保った状態で,前頭正中部に分度器を置き,眉間と毛髪線を結ぶ線と垂線との角度を測定する[Farkas,1981]。
図 36 Forehead, Sloping
前額の前面が後方に向けて過剰に傾斜している状態。
・高い前額部(Tall forehead):前額部毛髪線高位(Hairline,high anterior)を参照
・幅広い前額部(Forehead,wide):幅広い前額部(Forehead,broad)を参照

額部の垂直な皺(Forehead Creases,Vertical)
定義
前額正中部の軟部組織の垂直の皺。しばしば毛髪線から眉毛まで伸びており,表情に依存して出現する場合がある(主観的)(図 37)。
図 37 額部の垂直な皺
前額正中部の軟部組織に垂直な皺が存在する。これらの皺はしばしば毛髪線から眼窩上縁まで達する。

前額部の突出(Frontal,Bossing)
定義
前頭骨側方の両側性の前方への突出。正中部の突出はあまり目立たない(主観的)(図 38)。
コメント
この所見は目立つ前額(Prominent forehead)とは区別して使用される。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Forehead, bulging
図 38 前額部の突出
前頭骨側方の両側性の前方への突出。正中部の突出はあまり目立たない。

眉間の陥凹(Glabella,Depressed)
定義
両側の眼窩上縁の間の前額正中部の後方への変位(主観的)(図 39)。
図 39 眉間の陥凹
両側の眼窩上縁の間の前額正中部の後方への陥凹。
コメント
眉間は両側の眼窩上縁の間の正中線上の領域で,鼻根部の上方である。ここでいう「陥凹した」というのは能動的に陥凹したという意味ではなく,「陥凹して見える」状態を指す。

目立つ眉間(Glabella,Prominent)
定義
眉間の前方への変位(主観的)(図 40)。
コメント
眉間とは両側の眼窩上縁の間の正中線上の領域で,鼻根部の上方の領域のことである。
図 40 目立つ眉間
眉間(両側の眼窩上縁の間の正中線上の領域で,鼻根部の上方の領域)が目立つことに着目されたい。
・両側側頭間の狭小化(Intertemporal narrowing):狭い前額部(Forehead,narrow)を参照

前額正中部の陥凹(Metopic Depression)
定義
前額正中部の線状の垂直な溝を指す。毛髪線から眉間まで伸びる(主観的)(図 41)。
コメント
皮下の骨には異常はない(meto-pism)。
図 41 前頭正中部の陥凹(前額正中部の陥凹)
前額正中部の線状の垂直な溝を指す。毛髪線から眉間まで伸びる。

目立つ前頭隆起(Metopic Ridge,Prominent)
定義
前額部正中部の垂直な骨性の隆起(主観的)(図 42)。
コメント
骨性の隆起は毛髪線から眉間まで達することもあるが,部分的なこともある。
同義語
目立つ前頭縫合(Metopic suture, prominent)
図 42 目立つ前頭隆起
前額部正中部の垂直な骨性の隆起に注目されたい。
・目立つ前頭縫合(Metopic suture,prominent):目立つ前頭隆起(Metopic ridge,prominent)を参照
・平坦な前頭縫合(Supraorbital ridges,flattened):眼窩上縁の低形成(Supraorbital ridges,underdeveloped)を参照
・眼窩上縁の低形成(Supraorbital ridges,hypo-plastic):Supraorbital ridges, underdevel-opedを参照
・眼窩上縁の過形成(Supraorbital ridges,hyper-plastic):Supraorbital ridges,prominentを参照

目立つ眼窩上縁(Supraorbital ridges,Prominent)
定義
前頭骨の眼窩上縁部分が前方または側方に突出し,目立つ状態(主観的)(図 43)。
コメント
前頭骨の眼窩上縁部分が肥厚している必要はない。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
眼窩上縁の過形成(Supraorbital ridges,hyperplas-tic;Brows,prominent)
図 43 目立つ眼窩上縁
前頭骨の眼窩上縁部分が前方および側方の突出。

眼窩上縁の低形成(supraorbital ridges,Under-developed)
定義
前頭骨の眼窩上縁が平坦な状態(主観的)(図 44)。
同義語
平坦な眼窩上縁(Supraorbital ridges, flattened) 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Supraorbital ridges,hypoplastic;Brows,underde-veloped
上顎骨と顔面中部(MAXILLA AND MIDFACE)・平坦な頬骨部(Cheekbone,flat):Cheekbone, underdevelopedを参照
図 44 眼窩上縁の低形成
前頭骨の眼窩上縁が通常より目立たない。