国際基準に基づく小奇形アトラス 形態異常の記載法 ―写真と用語の解説



鼻と人中

割れた鼻翼(Ala Nasi,Cleft)
定義
鼻翼の端の切込み(主観的)(図 4)。
コメント
鼻翼は鼻の左右の一部あるいは外鼻孔を部分的に取り巻く翼にあたる部分である。鼻翼はたいてい鼻柱の幅とほとんど同じであるが,外鼻孔の形に大きく左右される。症例によっては切れ込んだ鼻翼と記述されることもあるが,著しく未発達な鼻翼であることもあるので注意する。未発達の鼻翼では,外鼻孔を取り巻く組織の連続性は乱れない。一方で,鼻翼裂ではその連続性は保たれていない。生理的に起きた組織の裂け目の遺物が coloboma であるので,coloboma ともいいかえることもできるかもしれないが,鼻翼ではこのような裂け目はもたない。
図 4 割れた鼻翼
図 6 の発育不全の鼻翼との違いに注意。(左と中央の写真は, Dr. Jenneke van den Ende と Dr. Yolande van Bever のご厚意による。)
同義語
切込みの入った鼻翼(ala nasi, notched)
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
鼻翼欠損(ala nasi,coloboma)
・Ala nasi,coloboma:Ala nasi,cleftを参照
・Ala nasi,hypoplastic:Ala nasi,underdevel-opedを参照
・Ala nasi,notched:Ala nasi,cleftを参照
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
低形成鼻翼(Ala nasi,hypoplastic)
・鼻翼下方にのびた鼻柱(Columella below alae nasi):columella,low hangingを参照

厚い鼻翼(Ala nasi,Thick)
定義
鼻翼の容積が大きい(主観的)(図 5)。
図 5 鼻翼の肥厚のバリエーション
a:正常,b:やや厚い,c:厚い,d:著しく厚い。鼻翼が人中隆起に向かって伸びると,ますます鼻翼が厚くなることに注意。

未発達な鼻翼(Ala nasi,Underdeveloped)
定義
薄く,不完全あるいは非常に弓状に曲った鼻翼(主観的)(図 6)。
コメント
鼻翼は鼻の外側部あるいは鼻孔の翼で,鼻孔の周囲を部分的に取り囲んでいる。たいがいはおおよそ鼻柱の幅であるが,鼻孔の形に大きく左右される。症例によっては cleft ala nasi があると記載されていることもあるが,それは著しく発育不全の鼻孔をもつ。発育不全の鼻翼では,鼻孔周囲の組織は異常をきたさないが,裂けていれば形に影響する。
図 6 発育不全の鼻翼
この特徴は,側面像が一番評価しやすい。

広い鼻柱(Columella,Broad)
定義
鼻柱の幅が大きい(主観的)(図 7)。
コメント
鼻柱は下方から観察する。この特徴は,狭い鼻孔(narrow nares)と区別するべきだが,両者は合併することがある。
同義語
幅広い鼻柱(Columella,wide)
図 7 広い鼻柱
右の写真では,鼻柱が広いだけでなく,鼻柱の両側の軟組織が増大していることに注意。

高く付着した鼻柱(Columella,High Insersion)
定義
鼻底(nasal base)より上方に鼻柱後方が挿し込まれた状態(客観的)(図 8)。
図 8 鼻柱の高位付着
鼻翼の顔への付着が通常より低いのか,鼻柱が高い位置に付着しているのかを判断するのは通常不可能である。
・Columella,low:Columella,low hangingを参照

低くぶら下がった鼻柱(Columella,Low Hanging)
定義
横からみて,鼻柱が鼻底(nasal base)の位置より下に伸びている状態(主観的)(図 9)。
コメント
この特徴は,鼻柱が低く付着していてもしていなくても起きる。 Overhanging nasal tipと混同されることがあるが,この 2つは区別して記載されなくてはならない。両者が合併することもある。
同義語
Columella below alae nasi;Columella low
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
丸く湾曲した鼻柱(columella rounded)
図 9 低く垂れた鼻柱
左の写真は,鼻柱が低位置に付着していることにも注意。

低く付着した鼻柱(Columella,Low Insertion)
定義
鼻柱の後方部が nasal base よりも下に付着している状態(客観的)(図 10)。
コメント
この特徴は,付着部位が正常な凸の low hanging columellaとは異なっている。短い人中(short philtrum)と関係がある場合があるが,これとは区別記載する。 low insertion は横から観察されたときに最もよくわかる。
図 10 鼻柱の低位付着
右側の写真では,正面像で低く垂れた鼻柱とこれを見分けるのは困難であることに注意。
・Columella,rounded:Columella,low hangingを参照

短い鼻柱(Columella,Short)
定義
外鼻孔の前境界と鼻下との距離が小さい状態(主観的)(図 11)。
コメント
これはしばしば押しつぶされた鼻尖(depressed nasal tip)と合併するが,これらは区別して記載する。鼻柱は,単鼻孔(single naris)と長鼻(proboscis)を除いて,常に存在すると考えられているため,鼻柱欠損(absent colu-mella)という用語は削除された。
図 11 短い鼻柱
右側の 2 つの写真は同じ児であるが,一番右の写真だけがこの特徴が明らかであることに注意。
・Columella, Wide:Columella,broadを参照
・Laterally built up nose:Paranasal tissue, fullnessを参照

上向きの鼻孔(Nares,Anteverted)
定義
外鼻孔が前方に向いている状態。観察者の頭部はフランクフルト水平面で,被観察者の眼と同じ高さで観察する(主観的)(図 12)。
コメント
鼻尖は上向きで,鼻底(nasal base)の上方に位置する。鼻堤と鼻尖の成熟と発育に伴って,外鼻孔はたいてい下向きになる。
同義語
Nasal tip,upturned
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
しし鼻(Pug nose)・Naris,broad:Naris,enlargedを参照
図 12 上向きの鼻

大きな外鼻孔(Naris,Enlarged)
定義
外鼻孔の穴が大きい状態(主観的)。(図 13)
コメント
外鼻孔は典型的には対称的に開いている。安静時に評価されるべきであり,苦しいときに,鼻翼が張り出している状態のときは避ける。外鼻孔は年齢によって変わり,乳児期には丸く,年齢が経つにつれ長くなるということに注意する。
同義語
Naris,broad Naris,flared:張り出した鼻翼(flared naris)という用語は,機能的性質を表すので,ここでは定義されない(Naris,enlargedを参照)。
図 13 大きな外鼻孔
左側の写真はわずかに大きいことに注意。この特徴は,普通の表情でみられる。

狭い外鼻孔(Naris,Narrow)
定義
外鼻孔が薄く,スリット上に開いている状態(主観的)(図 14)。
コメント
外鼻孔の形は,Paul Topinard(1830 ~1911)(図 15)により 4 つのタイプに分けられてきた。この分類は一般的には使われない。
同義語
Naris,thin,slit-like
図 14 狭い外鼻孔 2 つの写真では,鼻孔の長軸が異なった方向であることに注意。
図 15 Topinard の外鼻孔分類 2 型が一般的な人種で最もよくみられる形である。

単外鼻孔(Naris,Single)
定義
鼻が外側にひとつ開口している状態(客観的)(図 16)。
コメント
ひとつの孔が正中に開いている場合と,一側に開いている場合とがある。すなわち,対称性である場合と非対称性である場合がある。鼻柱は常に欠損しているが,このことは当然ながら切り離せない。
図 16 単鼻孔
中央と左側の写真では,正中に位置しているが,右側の写真では,左に寄っている。右側の写真の患者は,片鼻無形成である。
・Naris,slit-like:Naris,narrowを参照
過剰鼻孔(Naris,Supernumerary)
定義
2 つ以上の鼻がある状態(客観的)(図 17)。
図 17 過剰鼻孔
右の写真は,完全な過剰鼻である。
・Naris,thin:Naris,narrowを参照
・Nasal base,broad:Nasal base,wideを参照

狭い鼻底(Nasal Base,Narrow)
定義
鼻翼が顔面に付着する部位の距離が短い状態(客観的)(図 18)。
コメント
人種によって nasal base の幅は異なる。
図 18 狭い鼻底

広い鼻底(Nasal Base,Wide)
定義
鼻翼が顔面に付着する部位の距離が短い状態(客観的)(図 19)。
コメント
人種によって nasal base の幅は異なる。
同義語
Nasal base,broad
図 19 広い鼻底
右の写真は,やや上方から撮られているため,垂れた鼻尖によってほぼ完全な広い鼻底がわかりにくくなっていることに注意。
・Nasal bridge,broad:Nasal bridge,wideを参照
・Nasal bridge, decreased protrusion:Nasal bridge depressedを参照

低い鼻梁(Nasal Bridge,Depressed)
定義
横顔全体に対して,鼻根が後方に位置している状態(主観的)(図 20)。
コメント
depressed という形容詞は,ここでは活動的な過程ではなく,ある状態をさす。低い鼻梁は,鼻梁の幅とは関係なく起こる。また,その幅は独立して評価されるべきである。乳児期は,鼻梁は大人より比較的後ろにある。低い鼻梁という用語は,年齢や人種の典型より後方にあるときのみに使う。
同義語
Protrusion of nasal bridge,decreased; Nasal bridge,retruded;Nasal bridge,recessed; Nasal root,deperssed;Nasal root,recessed
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
しし鼻(Snub nose);Nasal bridge, low;Nasal bridge,flat
図 20 低い鼻梁
乳幼児では鼻梁は小児や成人よりも後方に位置しているが,ここでは同年代の子と比較して鼻梁が“低い(depressed)”とした。
・Nasal bridge, flat:Nasal bridge, depressedを参照
・Nasal bridge,high:Nasal bridge,prominentを参照
・Nasal bridge, low:Nasal bridge, depressedを参照

狭い鼻梁(Nasal Bridge,Narrow)
定義
鼻の骨梁の幅が小さい状態(主観的)(図 21)。
コメント
狭小化は,鋭く,龍骨型の外観を生じさせる。鼻梁は,年齢とともに狭くなりうる。
同義語
Nasal bridge,thin
図 21 狭い鼻梁
中央の写真のように鼻梁だけが狭いときと,右の写真のように鼻梁と鼻堤の両方が狭いときがある。

突出した鼻梁(Nasal Bridge,Prominent)
定義
年齢に比し,鼻根が前方に位置している状態(主観的)(図 22)。
コメント
突出した鼻梁は,鼻梁の幅とは関係なく起こりうる。その幅は別々に評価されなければならない。鼻梁は年齢とともに突出してくる。鼻根は眼と眼のスペースが増えなくても前方へ位置することがあるが,鼻梁の突出は内眼角開離(telecanthus)や両眼間開離(hypertelorism)[Hall ら,2009]と合併することがある。このような所見があるときは,区別して記載する。くぼんだ眼(deep-set eyes)[Hall ら,2009]は突出した鼻梁の印象を与えるが,この所見は区別して記載する。
同義語
Nasal bridge,high
図 22 突出した鼻梁
両眼陥凹も合併しているかどうかは判断が難しい。
・Nasal bridge, recessed:Nasal bridge, depressedを参照
・Nasal bridge, returned:Nasal bridge, depressedを参照
・Nasal bridge,thin:Nasal bridge,narrowを参照

広い鼻梁(Nasal Bridge,Wide)
定義
鼻梁の幅が広い状態(主観的)(図 23)。
コメント
鼻骨の幅が広い状態と傍鼻組織が豊富な状態を注意深く区別する。広い鼻梁は内眼角開離(telecanthus)や両眼間開離(hypertelo-rism)と区別する[ Hall ら,2009](図 2)。広い鼻梁は,突出しているか平坦かのどちらかで,これらは分けて記載する。
同義語
Nasal bridge,broad
図 23 広い鼻梁

無鼻軟骨(Nasal Cartilage,Absent)
定義
触知できる鼻軟骨が欠失している状態(客観的)(図 24)。
コメント
この特徴は,鼻骨の欠如と合併することがある。鼻軟骨がないと,平らな鼻尖(depressed nasal tip)になることがあるが,これらは区別する。
図 24 無鼻軟骨
これは通常,全前脳胞症にみられるが,必発ではない。
・Nasal cartilaged:Nasal tip,bifidを参照
・Nasal ridge,broad:Nasal ridge,wideを参照

凹んだ鼻堤(Nasal Ridge,Concave)
定義
鼻根から鼻尖につながる線が後方に曲っている鼻堤(客観的)(図 25)。
コメント
Depressed nasal bridgeとの違いに注意。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
鞍鼻(Saddle nose);Ski jump nose
図 25 凹型の鼻堤
左の 2 枚の写真では凹型の鼻梁と上向きの鼻孔が合併しているが,右の 2 枚の写真では合併していない。

凸の鼻堤(Nasal Ridge,Convex)
定義
鼻根から鼻尖につながる線が前方に曲っている鼻堤(客観的)(図 26)。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
わし鼻(Nose,beaked);かぎ鼻(Nose,hooked)
図 26 凸型の鼻堤
鼻はしばしば突出して見え,鼻柱は低くみえる。

平らな鼻堤(Nasal Ridge,Depressed)
定義
鼻堤が後方に位置している状態(客観的)(図 27)。
コメント
平らな(depressed)という形容詞は,これは動的な過程ではなく,ある状態をさす。この特徴は横顔で評価する。この所見は,典型的には短い鼻柱(short columella)と関係しているが,区別して評価する。
同義語
Nasal ridge,retruded;Nasal ridge, recessed
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Nose,flat
図 27 平らな鼻堤
どの症例も,鼻梁も平坦なことに注意。

狭い鼻堤(Nasal Ridge,Narrow)
定義
鼻堤の幅が減っている状態(客観的)(図 28)。
コメント
狭い鼻堤は鋭い外観であることがあるが,必須ではない。幅について客観的な計測値はない。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
つままれたような鼻(Nose,pinched)
図 28 狭い鼻堤
鼻梁と鼻底も狭く,そのために鼻全体が狭くみえることに注意。
・Nasal ridge,recessed:Nasal ridge,depressedを参照
・Nasal ridge,retruded:Nasal ridge,depressedを参照

広い鼻堤(Nasal Ridge,Wide)
定義
鼻堤の幅が増えた状態(客観的)(図 29)。
コメント
この特徴は,正面から評価されるべきである。幅について客観的な計測値はない。この特徴は平らな鼻堤(depressed nasal ridge)の印象を与えるが,これは横顔で評価され,区別す
図 29 広い鼻堤 3 症例とも鼻堤と鼻梁が鼻底にかけて広がっている。
る。著しく鼻堤の幅が大きい場合は,鼻裂(bifid nose)と区別するのが難しいことがある。
同義語
Nasal ridge,board
・Nasal root, depressed:Nasal bridge, de-pressedを参照
・Nasal root,recessed:Nasal bridge,depressedを参照