頭蓋 (CRANIUM)
短頭 (Brachycephaly)
定義
頭長幅指数 (cephalic index)が 81%以上である場合 (客観的) (図 5)。 または前後径が幅に比較して短い場合 (主観的)。
コメント
cephalic index とは頭長に対する頭幅の百分率である。正常値は 76~80.9%とされる。頭長は眉間と正中線上で後頭部最も突出している部分の距離である。棹状計 (ノギス)により測定する。頭幅は頭頂骨の外側で最も突出した部分の距離である。桿状計により測定する。上記の正常値は白人を対象として得られた値であり,他の人種における有用性は限定的である。また近年,うつぶせ寝が推奨されなくなったことから,頭蓋の形態に変化が生じている可能性があり,現行の標準値の妥当性も不明である。新たな標準値の検討が必要である。短頭は,後頭部の平坦化 (Flat occiput)とは異なるが,両者は併存することがあり,別々に記載されるべきである。
図 5 短 頭
頭蓋骨の前後径が短縮し,頭部の後面の曲率半径が低下している。
長頭 (Dolichocephaly)
定義
頭長幅指数 76%以下 (客観的) (図 6)。明らかに頭の前後径が横径に比較して増加している状態 (主観的)。
コメント
(短頭のコメントと同様。以下,相違点)長頭 (Dolichocephaly)は著明な後頭部 (Prominent occiput)とは区別されるべきである。長頭と著明な後頭部は併存することもあり,別々に記載されるべきである。舟状頭とは,長頭の亜型であり,前頭部分と後頭部分が尖っている状態を指す (小舟の形)。
図 6 長 頭
頭蓋骨は前後方向に延長している。右側に舟状頭を示す。舟状頭は長頭の亜型であって,前方方向に船のように尖っているのが特徴である。横径に比較して,前後径が大きい状況
・頭囲拡大 (Head circ umference,enlarged):巨頭症 (Macrocephaly)を参照
・頭囲減少 (Head circumference,reduced):小頭症 (Microcephaly)を参照
・クローバー様頭蓋 (Kleeblattschadel):Clover-leaf skullを参照
巨頭症 (Macrocephaly)
定義
後頭前頭を結ぶ周囲径が年齢や性別を合わせた標準値の 97%より大きい (客観的) (図 7)。明らかに頭が大きい (主観的)。
コメント
頭囲は眉間 (鼻根部より上部で前頭骨上,最も前に突出している部分)から後頭部の後頭骨上,最も後ろに突出している部分を巻き尺で測定する。標準値の表としてはパーセンタイル値にもとづいて編纂されたもの[Hall ら,2007]や標準偏差値に基づいて編纂されたものがある。いずれの基準を使用するにしても,標準に比較してどの程度,頭囲が大きいかということを数値化して表現することが重要である。巨頭症というのは原則として絶対的な基準にもとづいて定義される数値である。頭囲が身長におけるパーセンタイル値をこえるとき「相対的大頭症」という用語が用いられることがある。たとえば,頭囲が 75%タイルであるのに,身長が 5%タイルであるとき。
同義語
頭囲の拡大 (Head circumference, enlarged;OFC,large)
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Macrocranium
・Macrocranium:巨頭症 (Macrocephaly)を参照
図 7 巨頭症
頭蓋の大きさが拡大している。全体的な大きさの拡大はわかりにくいこともあるが本患児においては顔面が相対的に小さいため頭部が大きいことがわかる。
小頭症 (Microcephaly)
定義
後頭前頭を結ぶ周囲径が年齢や性別を合わせた標準値の 3%より小さい (客観的) (図 8)。明らかに頭が大きい (主観的)。
コメント
頭囲は眉間 (鼻根部より上部で前頭骨上,最も前に突出している部分)から後頭部の後頭骨上,最も後ろに突出している部分を巻き尺で測定する。標準値の表としてはパーセンタイル値にもとづいて編纂されたもの[Hall ら,2007]や標準偏差値に基づいて編纂されたものがある。いずれの基準を使用するにしても,標準に比較してどの程度,頭囲が小さいかということを数値化して表現することが重要である。小頭症というのは原則として絶対的な基準に基づいて定義される数値である。頭囲が身長におけるパーセンタイル値をこえるとき「相対的小頭症」という用語が用いられることがある。たとえば,身長が 75%タイルであるとき頭囲が 3%タイルである。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Microcranium
Microcranium:Microcephaly (小頭症)を参照
図 8 小頭症
頭部の大きさが小さく,また前額の前面の傾斜が大きい。
後頭部扁平 (Occiput,flat)
定義
後頭部の曲率半径の減少 (主観的) (図 9)。
コメント
後頭部の曲率半径の増大により頭蓋骨の背面が平坦化した印象を与える。後頭部の曲率半径に関する客観的な指標は存在ぜず,評価は観察者の経験に依存する。
「後頭部扁平」という所見は短頭 (Bra-chycephaly)と併存する場合がある (別々に記載されるべきである)。乳児が仰向けに寝かされていたときに「平坦な後頭部」になりやすい。
「後頭部扁平」という所見は短頭 (Bra-chycephaly)と併存する場合がある (別々に記載されるべきである)。乳児が仰向けに寝かされていたときに「平坦な後頭部」になりやすい。
図 9 後頭部扁平
後頭部の曲率半径の減少により頭蓋骨の背面が平坦化した印象を与える。
後頭部突出 (Occiput,Prominent)
定義
後頭部の曲率半径の減少 (主観的) (図 10)。
コメント
後頭部の曲率半径の減少により頭蓋骨の背面が平坦化した印象を与える。後頭部の曲率半径に関する客観的な指標は存在ぜず,評価は観察者の経験に依存する。「後頭部突出」という所見は長頭 (Dolichocephaly)と併存する場合があるが,異なる所見として別々に記載されるべきである。
図 10 後頭部突出
頭蓋の後面の曲率半径が減少している。
・頭囲拡大 (OFC,enlarged):巨頭症 (Macro-cephaly)を参照
・頭囲縮小 (OFC, reduced):小頭症 (Micro-cephaly)を参照
・尖頭症 (Oxycephaly):塔状頭 (Turricephaly)を参照
斜頭 (Plagiocephaly)
定義
非対称な頭蓋の形態。多くの場合,片側性の後頭部の平坦化と対側の前頭部の突出により菱形の頭蓋となる (主観的) (図 11)。
コメント
斜頭により後頭骨のみが影響を受ける場合もありうる。
・舟状頭 (Scaphocephaly):長頭 (Dolichoceph-aly)を参照
図 11 斜 頭
頭蓋の形態が非対称である。片側性の後頭部の平坦化と対側の前頭部の突出により菱形の頭蓋ないし,後頭骨の非対称性が認められる。 (John Graham Jr. 氏のご厚意による。)
クローバー様頭蓋 (Skull,Cloverleaf)
定義
正面ないし後方から見たときに,頭蓋が三葉構造に見える状態 (主観的) (図 12)。
同義語
Kleeblattschadel
図 12 クローバー様頭蓋
正面ないし後方から見たときに,頭蓋が三葉構造に見える状態。
三角頭 (Trigonocephaly)
定義
楔形あるいは三角形の頭蓋。三角形の頂部は前頭の正中部で,三角形の底辺は後頭部である (主観的) (図 13)。
コメント
この形態は観察者が上方より観察したときに明確になる。
図 13 三角頭
楔形あるいは三角形の頭蓋。三角形の頂部は前頭の正中部で,三角形の底辺は後頭部である。
塔状頭 (Turricephaly)
定義
前後径や横径に比較して高さが高い場合を指す (主観的) (図 14)。
コメント
この所見は「高い前額部 (tall forehead)」という所見とオーバーラップするか,または,「高い前額部」という所見を含むと考えられていた。塔状頭は,頭が高い (主観的)うえに,前後径と横径の両方が減じている (客観的)ときに使われる用語である。頭長は眉間 (鼻根部より上部で前頭骨上,最も前に突出している部分)と正中線上で後頭部最も突出している部分の距離である。桿状計により測定する。頭幅は頭頂骨の外側で最も突出した部分の距離である。桿状計により測定する。上記の正常値は白人を対象として得られた値であり,他の人種における有用性は限定的である。尖状頭 (acrocephaly)という用語は塔状頭 (turricephaly)があり,かつ頭蓋骨の頂部が円錐型になっている場合につかう用語である。
・毛髪 (SCALP HAIR)・逆毛 (Cowlick):上向きの毛髪 (Hair,frontal upsweep)を参照
・Crown,double:旋毛の異常 (Hair whorl,abnor-mal position)を参照
図 14 塔状頭
前後径や横径に比較して高さが高い場合を指す。塔状頭 (turricephaly)があり,しかも頭蓋の先端が円錐形に見えるとき,尖頭症 (acrocephaly or oxycephaly)という用語を用いる。
前頭部禿頭 (Frontal Balding)
定義
前面正中部および後頭部の毛髪の欠損 (主観的) (図 15)。
図 15 前頭部禿頭
前頭部の禿頭前面正中部および後頭部の毛髪の欠損。
上向きの毛髪 (Hair,Frontal Upsweep)
定義
前頭部毛髪が上向きないし横向きに生えている状態 (主観的) (図 16)。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Cowlick (状況によっては軽侮的な表現となる)。
図 16 上向きの毛髪
前頭部毛髪が上向きないし横向きに生えている。
旋毛の数の異常 (Hair Whorl,Abnormal Number)
定義
3 個以上の右回りの旋毛 (客観的)。
コメント
多くの場合,頭皮上,正中部を少し離れたところに 1 か所に 1 個の右向きの旋毛がある。ときに頭頂にある場合がある。人口の 5%に2個の旋毛がある (図 17)。人口の 10%で旋毛の向きが左向きである。
図 17 2個の旋毛
旋毛の位置異常 (Hair Whorl,Abnormal Position)
定義
旋毛が,頭頂近傍,傍正中部という正常の位置とは異なる部位からに存在する (客観的) (図 18)。
コメント
旋毛の位置については,後頭・頭頂が中心を外れているなどの表現で記載される。旋毛の位置についても記載される。人口の5%が2つの旋毛をもつ。
図 18 旋毛の位置の異常
旋毛は頭頂近傍,傍正中部という正常の位置とは異なる部位から後方かつ下方に変位している。
毛髪線高位 (Hairline,High Anterior)
定義
毛髪線と眉間の距離が正常の 2 SD 以上である (客観的) (図 19)。明らかに毛髪線と眉間の距離が長い (主観的)。
コメント
この計測は桿状計 (ノギス)を用いて行われる[Farkas,1981]。 この特徴を有すると前額が高く見える (tall forehead)。側頭部の毛髪の減少を伴うこともある。高い前額は,男性における禿頭と区別が可能な場合がある。毛髪線は筋を含む前額部より高位にあるためである。筋を含む部分は表情の動きにより皺ができるが,頭皮には皺が出ない。また,頭皮の皮膚を前額部の皮膚は質感が異なる点から区別が可能である。
同義語
高い前額 (Forehead,tall)
図 19 前頭毛髪線高位
毛髪線が高い場合,「高い前額部」との印象を与える。
低い前頭毛髪線 (Hairline,Low Anterior)
定義
毛髪線と眉間の距離が正常の-2 SD 以下である (客観的) (図 20)。明らかに毛髪線と眉間の距離が短い (主観的)。
コメント
この計測は桿状計 (ノギス)を用いて行われる[Farkas,1981]。
この所見は前額部が狭い印象を与える。前額部の多毛と区別されるべきである。後者では,毛髪は側方に生えている。また,この場合に生えている毛髪の質感と密度は頭皮の毛髪とは異なる。
この所見は前額部が狭い印象を与える。前額部の多毛と区別されるべきである。後者では,毛髪は側方に生えている。また,この場合に生えている毛髪の質感と密度は頭皮の毛髪とは異なる。
同義語
短い前額 (Forehead,short)
図 20 低い前頭毛髪線
前頭毛髪線の位置が低く,前額部が狭い印象を与える。
後頭部毛髪線低位 (Hairline,Low Posterior)
定義
後頸部の皮膚が通常よりも下方に伸びている (主観的) (図 21)。
コメント
この所見は小児期後期によく認められる。後頸部の皮膚にたるみのあった小児の頸部が延長するにつれて目立つようになるためである。後頭部毛髪線低位と後頸部の皮膚のたるみは区別して記載されるべきである。
図 21 後頭部毛髪線低位
後頸部の皮膚が通常よりも下方に伸びている (とくに側方部)。
疎な頭髪 (Scalp Hair,Sparse)
定義
単位面積当たりの毛髪数の減少 (主観的) (図 22)。
コメント
Hypotrichosis という記載法は推奨されない。語義として毛髪の低形成を示すが,実際に低形成であるかどうかは不明だからである。単位面積当たりの毛髪数の正常値は存在しない。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
薄い頭髪 (Scalp hair,thinning;Scalp hair,thin)
・薄い頭髪 (Scalp hair,thinning;Scalp hair, thin):疎な頭髪 (Scalp Hair,Sparse)を参照
図 22 疎な頭髪
毛髪の密度が減少し,薄く見える。
Widow's Peak (いわゆる富士額)
定義
前額正中部で左右の弓状の前額毛髪線が交わり,さらに下方へ向かう (主観的) (図 23)。
コメント
毛髪を後ろにたくし上げると,この所見はわかりやすいかもしれない。18 世紀の英国では,寡婦 (widow)は黒い帽子を被ることになっており,帽子には 3 角形が付いており,その頂点は正中線上で下方を向いていた。
図 23 Widow’s peak
前額正中部で左右の弓状の前額毛髪線が交わり,さらに下方へ向かう。