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日本家庭医療学会会報 第47号 |
発行日 : 2003年1月15日
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特集/第17回家庭医療学研究会記録 |
主催者からの総括
聖マリアンナ医大 亀谷 学
はじめに、第17回家庭医療学研究会における最大の成果は、総会におきまして、本研究会が「日本家庭医療学会」に昇格したことであります。この貴重な機会に大会長を拝命し、皆様のご支援とご協力のもとに、無事に学術集会を終えることが出来ましたことを、この場をお借りして御礼申し上げます。
さて今回は、メインテーマを『家庭医の教育を考える』といたしました。第1日目には、一般演題36席とポスター演題15席の大半が、卒前卒後生涯教育と研修プログラム紹介に関するもので、何れも熱心な討論が行われ、教育に対する会員各位の関心の高さを窺い知ることができました。反省点は、第二会場が狭く、聴衆が廊下に溢れていたことです。また、シンポジウム『臨床研修ニュービジョン−臨床研修の資源について−』では、「プライマリ・ケア」を志す六団体の代表者が一堂に会し、研修医必修化問題への取り組みにつき、フロアーを交えて熱のこもった討論が行われました。プログラム構成上、十分な時間が割けなかったことが反省点になりました。 総会では、通例の議題の審議及びワーキンググループの報告が行われた後に、重要付議であります「日本家庭医療学会会則(案)」が満場一致で承認され、平成14年11月11日より本研究会は上記の名称で学会に昇格することになりました。懇親会では、総勢200名ほどが、終宴を惜しむかのごとくいつまでも語り合っておられました。 第2日目は、8時30分から12時45分までを、前半・後半と2時間ずつに分け、18テーマのワークショップ(WS)が行われました。『家庭医療』の主役は『開業医』であるとの視点に立ち、翌日の診療に即、役立つテーマを幅広い領域に求めました。また他にも会員の関心の高い『外来教育』『女性医師』や『研究』などを題材にテーマを設定いたしました。今回は、8月末に、会報及び研究会のWeb 上に各テーマの抄録をご紹介し、事前参加登録制としましたところ、既に10月初旬に200余名の方が登録され、定員枠が満席になりました。コーディネーター(CN)の先生方には、資料のご準備や会場への機器搬入、さらには参加者への事前アンケート調査などと、WSに熱心に取り組んでいただき、それにより参加者のモチベーションも高められた印象があり、総力の結果として当日のWSは活気溢れるものになりました。係わってくださいました皆様に心より感謝申し上げる次第でございます。しかし反省点として、メインホール(MH)内の設定に無理があり、隣接するWSの討論の声が競合し聴き取りにくかったことや、当日の参加希望者がMHのWSにフリーで加わり、CNの進行に支障を来たしたことなどが挙げられます。 午後の特別講演では、ミシガン大学のマイク・フェターズ先生に、米国STFM学会における『プライマリ・ケア医の卒前教育への参加』の方略についてご教示いただき、TFC管理者の田坂佳千先生には、生涯教育の一環としての『TFC−ML』の成果などを紹介していただきました。どちらも聴衆を魅了する素晴らしいご講演でした。 事前の準備から当日の進行までのすべてにいつもながら一方ならぬご尽力を賜りました『学習研究社』の鈴木敏行様、『開業医』の視点からご助言をいただきました内山富士雄先生、座長を務めてくださいました諸先生、裏方としてボランティアで手伝って下さいましたMRの方々と聖マリアンナ医大の学生諸氏、会場と設備の面で会の運営に大きく貢献してくださいました建築会館の方々、研究会事務局及び世話人各位、そして最後に第17回家庭医療学研究会事務局の榎本 誠本部長及び諸兄に、深甚なる謝意を表して、本会の総括とさせていただきます。 座長 名古屋大学 伴 信太郎
亀谷氏の講演は、昭和63年にデンマークに航空宇宙医学に留学して研究していた氏が、どのように家庭医を目指すに至ったかという経緯から始まった。
聖マリアンナ医大で総合診療の立ち挙げの命を受けた氏は、米国アイオワ州のアイオワ大学で(1)地域に密着した医師が、(2)個人とその家族の健康について、(3)責任をもって、(4)年齢、性別、臓器別を問わず、(5)包括的かつ継続的に、(6)生物心理社会的診療を行なっている「家庭医」に強い印象を受けた。氏の“アイオワショック”である。 その後氏は、日本に本格的な養成システムのないプライマリ・ケアの専門医=家庭医を育てることを目指す。 後半は、日本で家庭医をする場合に必要な臨床能力について総合診療医学会とプライマリ・ケア学会の参加者に対して行なったアンケートを報告した。American Academy of Family PracticeがRecommended Core Education Guidelines for Family Practice Residentsに掲げている32研修課題に、わが国の実情に即した課題を加え、(1)診療行為に関する教育、(2)臨床技能教育、(3)健康管理面の教育、(4)その他の教育、の各領域の35項目について尋ねた。その結果、医療遺伝子(42%)、病院管理(61%)、HIV感染症の診療(62%)、産婦人科の診療(70%)以外の全ての課題について、80%以上の医師が“プライマリ・ケアの教育”に必要であると回答していた。これは、日本の地域医療の現場での診療ニーズが、一部を除いて日米で共通していることを示している。 このことを踏まえて、『家庭医』のニーズを明確にし、『家庭医療を専門とする医師』への教育として内容と方法を吟味する真摯な取り組みが必要であると提言した。 [ ← プログラム掲載位置へ ]
口演発表(1)卒前教育
座長 札幌医大 木村眞司
このセッションでは、主として医学生に関する研究発表がなされました。
名古屋大学総合診療部の宇田哲也先生らは「総合診療」についての認識度の調査を名大の学生に対して行い、質的研究の手法を用いて結果を解析されました。6年生と1年生の間の認識の違いが明らかになりました。 国立病院東京医療センターの木村琢磨先生らは、医学生・研修医にとって望ましい外来研修の指導方法がどのようなものかについての探索研究の結果を発表されました。外来研修における異なる指導方法の利点・欠点が示されました。 札幌医大の東一先生らは、医学生が臨床実習で患者に接して心理社会的問題に何を感じるかを発表されました。その結果、心理社会的な問題を抱えた患者の対応について、学生は負担感よりも重要性を感じていることなどが示されました。 国立病院東京医療センターの中村明澄先生らは、学生・研修医のための夏期セミナーが参加者にどのような影響を与えたかを調べ発表されました。家庭医になるために勉強しておきたいことがら(家庭医マインド等)に関する意見が明らかにされました。 活発な質疑応答がなされていました。 [ ← プログラム掲載位置へ ]
座長 亀田メディカルセンター 岡田唯男
今までは外側から日本の家庭医教育を見ていた立場から、この秋実際に家庭医の教育を預かる立場になって、自分自身にとって非常に現実感を持って聞けるセッションでした。
大田病院の高橋晃さんによる、入院病棟での指導医のアセスメントを隠して研修医に白紙の状態から患者の診断、治療計画を立てさせることによる問題解決能力の養成、評価の試み。この試みは発表者自身で考案したとのこと。すばらしいとおもいます。英文の総説を日本語に訳す努力にも頭が下がりました。ぜひこれから、他の指導医も巻き込んで行って欲しいと思います。 北海道家庭医療学センターより2題。古川倫也さん他の臨床講議プログラムの質向上の試み。一旦継続が困難となった臨床講義プログラムに関して、「なぜ」の究明から、再開するまでの過程を興味を持って聞くことができました。良い教育を続けて行くためには「組織としての理解、サポート」がやはり必要なのだ、と感じさせられた発表でした。 同施設より草場鉄周さんらの「家庭医療ローテート研修」の価値を評価する試み。ハーフデイ・バックとは別に1ヶ月間行なうローテーションとしての家庭医療学。対象が2名と少ない、ということでしたが、今までと比べて良くなったのであれば、その人にとっては意義のあった教育、ということになりますので、普遍性(外的妥当性)についてはそれほど気にする必要はないのではと思います。 東京ほくと医療生協、北部東京家庭医療学センターより平山陽子さん。診療所で1研修医が診た健康問題のICPCによる分析。非常に価値のある研究だと思いました。眼科、耳鼻科領域の主訴が少ないことについての原因は簡単に証明することの出来ない問題だと思いますが、同様の研究が様々なセッティングでなされることで、明らかになってくるのだと思います。 教育の質の向上には医療の質の向上(CQI: Continuous Quality Improvement)に使用されるDemingのモデル、Plan-Do-Study-Actのサイクルで捕らえることで実現可能です。口演発表をされた施設の皆さんは、引き続きこのサイクルを続けて行って欲しいと思います。 当セッションでは4発表者中3名が研修中の皆さん。指導医不足の現状に負けず、自ら教育の質を向上しようとする皆さんには本当に頭が下がります。皆さんが研修を終えて指導医になる日が待ち遠しいです。私自身も負けていられないと思いました。 [ ← プログラム掲載位置へ ]
座長 北部東京家庭医療学センター 藤沼康樹
まず、北海道家庭医療学センターより、3演題の報告がされた。いずれも家庭医養成をめざす施設における、医療の質確保や研修の充実にむけた様々な取り組みに関する報告であった。
西川氏は生活習慣病指導管理料の算定が可能になったことをきっかけに、診療の継続性を確保しつつ、患者の行動変容を成功させるために開発したツールの評価を報告した。 安藤氏は、北海道家庭医療学センターの研修システムの特徴の一つである、継続的な診療所研修において、研修医が直面した臨床問題に関するcritical appraisal topicsの作成と発表のセッションを立ち上げたことを報告した。研修医自身、満足度の高い教育活動として定着しているようであった。 細田氏はやはり北海道家庭医療学センターにおける革新的な試みである研修初期からの在宅診療研修に関して、研修医の満足度を中心とした評価の結果を報告した。改善すべき問題点はあるものの、おおむね今後も継続して取り組むべき研修内容であるとの評価であった。この3つの演題は、研修医自身が主体的に診療の質の改善や研修内容の評価や向上に取り組んだ実践の報告である。これは、1999年にACGMEが卒後研修における到達目標として設定した6つのコンピテンスの一つであるPractice-based learning and improvementの達成をめざしたものであろう。今後もこうした実践を期待したい。 また、みなと診療所の矢田氏は、電子カルテを使用した診療が、医師患者コミュニケーション にあたえる影響を、模擬患者を用いたシミュレーションにより検討した結果を報告した。模擬患者自身の評価では、電子カルテの影響は少なかったが、観察者の評価では、特に非言語的なコミュニケーションのパターンに影響がみられた。電子カルテの診療への影響に関する多方面からの検討が今後必要となると思われた。 [ ← プログラム掲載位置へ ]
座長 三瀬村国保診療所 白浜雅司
今回の一般演題の13〜16席、生涯教育、臨床倫理のセッションを担当したので、その内容の一部を報告する。
13席は、北海道家庭医療学センターの山田先生による「Patient Centered Case Presentation(PCCP)を用いたテレビ会議による家庭医の教育と評価」という演題であった。テレビ電話を用いる理由が今ひとつはっきりしなかったが、PCCPという考え方、疾患Diseaseだけでなく、患者像、患者の心配、嗜好、病気Illness、コンテクスト、患者医師関係などを検討してから、対応を決定していくやり方は家庭医の研修だけでなく診療にも大変役立つと思われた。 14席15席は、琉球大学総合診療部の武田先生による連続の発表で、田坂先生が主催されているTFCMLの評価アンケートの分析報告であった。一人診療所など代診がいないようなプライマリケアの設定でも、経済的負担や時間・場所の制約無く続けられる生涯教育のツールとしてのTFCMLの役割が改めて認識された。フロアーからの質問は、MLを用いている医者とそうでない生涯教育との比較、TFCの教育効果(実際にどれくらい診療に影響を及ぼしたか)などがあったが、インフルエンザワクチン接種などで教育効果があったようで、今後のより詳細な検討と報告を期待したい。 16席は、弘前健生病院の坂戸先生による病院内にできた臨床倫理研究会(私的サークル)の活動報告であった。このような活動の中で、医師・看護師の合同カンファレンスが始まったこと、医療スタッフによるアンケートから、DNR指示についての理解がバラバラであることがわかり、今後DNRについて、スタッフの理解統一へ向けての提言をはじめたとう報告であった。参加者の固定などの問題もあるようだが、今後病院全体の取り組みとして広がることを期待したい。 [ ← プログラム掲載位置へ ]
座長 奈義ファミリークリニック 松下 明
このセッションでは患者教育に関する報告が4つ行われました。
筑波大学医学部生の寺澤富久恵さんによる報告は、小学校で禁煙教育を授業参観授業という形で行ったもので、非常に参考になるものでした。ミミズを使った実験について質問が集中しましたが、小学生のみならずその親と学校教師に同時に喫煙についての問題点を提起でき、その後に家庭内で話し合いがなされたという点が特筆すべき点でした。 次の聖マリアンナ医大総合診療内科の林潤先生による報告は、地域医療現場で患者が食事指導に望むことを調査したものでした。結論として、大学病院の医師より地域の医師に栄養指導を希望するが、ツールが不足しているとのことでした。 続く聖マリアンナ医科大学附属病院栄養部の戸田和正先生による報告は、この患者からの要望を受けた形で行われた研究で、情報機器を用いた地域医療連携を介する食事指導法についてのものでした。貸し出したデジタルカメラで撮影した食事内容を、コンピューターで転送し、それを大学病院の管理栄養士が評価した上で指導内容を患者と地域の主治医に伝送するというものでした。非常に画期的なシステムで、今後地域での栄養指導を改善する方向性を示唆していました。 最後の発表は富士健診センターの北條信子先生による、健診時に指摘された不整脈の1年後の再出現性と受診者への説明の意義についての報告でした。不整脈の再出現性で最も問題となるものは心房細動で、その他の不整脈については問題になりにくいという結果でした。家庭医の立場で、心房細動に対する患者教育を充実させる必要性を強く感じました。 [ ← プログラム掲載位置へ ]
座長 琉球大学 武田裕子
藤田亜紀先生(大田病院)の「月経に関するカルテへの記載についての研究−医師はどの程度月経に関する情報を聴取しているか−」では、北部東京家庭医療学センター・浮間診療所を訪れた初診女性患者(12歳−55歳)の診療録を調査した結果、女性医師に比べて男性医師は月経に関する情報収集を行っていなかったという報告がなされた。対象となった医師数が少なかったものの、この調査から、男性医師は意識して月経に関する問題を取り上げる必要があることが示唆された。
北村和也先生(名古屋大学医学部附属病院総合診療部)は、家庭医療学研究会会員を対象に行ったアンケート調査から、「日本の家庭医の避妊ケアに関する知識、態度、診療の実際」と「日本の家庭医の妊娠前ケアに関する知識、態度、診療の実際」の2演題を発表された。避妊ケア、妊娠前ケアの卒前・卒後教育の不十分さが指摘された。 津田潤子先生(名古屋大学医学部附属病院総合診療部)は、「名古屋大学医学部附属病院総合診療部外来における家族アプローチの実態調査」を発表された。1年間の外来初診患者の診療録を用い、家族図の記載や家族面接実施の有無、家族問題を有する患者数やそれらの患者のもつ疾患を調べたものである。家族問題を有する患者は初診患者(740例)の27.2%(201例)にのぼり、これらの患者の多くがうつ病性障害、不安障害/不安状態、めまい(感)、筋緊張型障害、身体化障害など、精神神経疾患・身体症状を有していた。家庭医にとって「家族アプローチ」を積極的に行うことが患者マネジメントに有用であり、「家族アプローチ」の教育の必要性が示された。「家族アプローチ」は新しい領域であり、どのような症例に有効か、家族図に含める家族の範囲は、など多数の質問がフロア−から寄せられ関心の高さが伺われた。 [ ← プログラム掲載位置へ ]
座長 名古屋大学 鈴木富雄
生坂医院の馬杉綾子先生の発表「総合外来における“振り分け”は適切か」は、聖マリアンナ医科大学病院総合診療内科外来における各専門科への振り分けの概要について、頻度、依頼先の適切性、正診率などを検討したものである。2年間の初診患者数17668人中、各専門家への振り分け率は3.0%であり、日本の他の病院でのデータと比較すると非常に低く、米国家庭医療学グループの振り分け率とほぼ一致しているということであった。大学病院における今後の総合診療外来の役割を考えていく上でも非常に示唆に富む発表であった。
生坂医院の生坂政臣先生の発表「総合初診外来からの他科依頼頻度と医師側要因の関連」は、聖マリアンナ医科大学病院総合診療内科において初診時他科依頼頻度に影響を与える要因について、幾つかの指標との相関関係などを検討したものである。他科依頼率と最も強い相関関係を示した医師側の要因は非総合診療医としての経験年数であり、臓器専門医として長く経験し、総合医としての経験が少ない医師ほど他科依頼率が高いという結果が示されていた。非常に納得できる結果ではあるが、なぜそうなるのか、どんな医療環境でもそのような結果になるのか、この結果にどんな意味があるのかなどについて、今後は質的研究などを用いながら明らかにしていくとさらに面白いのではないかと思われた。 勤医協中央病院総合診療病棟の武田雄太先生の発表「勤医協中央病院総合診療病棟開設から3ヶ月で経験した症例について」は、3ヶ月間に総合診療病棟所属の医師・研修医が担当した症例297例を疾患別に分類して紹介したものである。症例数の豊富さとともに疾患の幅広さに驚かされたが、研修医がどのくらいまで深く関わって診ているのか、直接の指導医は専門医なのか総合医なのか、総合診療病棟としての研修到達目標をどこに置いているのか、その辺りをもう少し知りたく思われた。 医療法人社団カレスアライアンス北海道家庭医療学センターの富塚太郎先生の発表「時間外電話相談から見た受療行動の分析」は、時間外電話相談を利用した患者の記録用紙及び診療録からデータを採取し、主訴、診断、治療、診療にかかった時間などを調査したものである。日本では今まであまりこのような方面の発表がなかったので非常に興味深く感じられた。今後Telephone medicineの可能性と意義について、さらなる継続的な調査研究をしていただきたく思われた。 [ ← プログラム掲載位置へ ]
座長 生坂医院 生坂政臣
「総合診療科受診患者の心理社会的問題の分析(八木田一雄氏)」は、大学病院を受診した患者の約半数に心理社会的な問題が関与しており、その内容が病気に対する過度の心配などの個人的なものであれば、傾聴などの手法で比較的容易に解決するが、家族、職場に端を発するものは完全解決が難しいという、深くうなずける研究結果であった。文化や国家レベルでの葛藤は、さらに解決困難な問題との考察があり、このところ紙面を賑わしている北朝鮮拉致被害者の永住帰国問題が脳裏をよぎった。個人レベルを超えた心理社会的な問題に対しては、家族療法などを含め、どのあたりまでが総合診療の守備範囲となるのかなど、さらなる研究の発展を期待したい。
「心因精神疾患診断における問診票愁訴数の有用性(金信浩氏)」は、愁訴の多い患者に精神疾患の有病率が高いという、日常診療での印象を、層別尤度比で示した点で臨床的に有益な報告である。同様の報告は国外からの1論文のみであるが、人種を問わず精神疾患患者では愁訴が多くなる傾向を認めるようだ。文化比較論的な観点からも興味深いので、是非活字にして世に出して頂きたい。 「Patient Centered Methodに基づく患者分析、対応により多訴を改善した一例(伊達純氏)」は、臓器別に細分化された医療では解決困難と思われる、在宅酸素施行中の74歳男性患者の問題を、家庭医療学の十八番ともいえるPatientCentered Methodにより、ケアチームが一丸となって見事に解決できたという興味深い症例報告である。それだけに質疑応答も非常に活発に行われ、討論の時間も不足気味であった。今後もこのような本研究会ならではの報告が活発になることを期待する。 「プライマリ・ケアにおけるうつ病の有病率調査(山田健志氏)」は、わが国のこれまでのうつ病の有病率は大病院での調査結果に基づいており、疾患分布の異なる診療所でのデータを明らかにした点で、本研究はプライマリケア医にとって価値のある報告である。また、とかく時間を取られがちな精神疾患の診断に、近年その簡便性によりプライマリケア領域でも注目されているMini-Interventional Neuropsychiatiric Interview (M.I.N.I.)を、多忙な外来で実際に用いて、うつ病以外にも様々な精神疾患を診断している点も参考になった。その中で、アルコール関連障害の頻度が、これまでの報告より低いことが討論されたが、スクリーニングメソッドの違いによってもたらされた可能性が指摘され、アルコール問題の多様性の一端を覗かせていた。 [ ← プログラム掲載位置へ ]
座長 聖マリアンナ医大 松田隆秀
臨床研究・症例(セッション9)での4演題の口演発表について報告させて頂く。
原田唯成ら(奈義ファミリークリニック他/当クリニックにおける糖尿病フローシート導入の試み)は人口6,500人の岡山県の町にある無床診療所での、糖尿病診療において、特に網膜症、腎症など合併症の評価を含めた糖尿病診療の向上を目的にフローシートの導入を試み、その効果について報告した。フローシートの内容は体重・血圧・HbA1c・血糖・肝機能・脂質・腎機能・尿蛋白(微量Alb含む)・眼底・足病変などで、各項目の検査の間隔は病状に応じて決定し、眼底・尿蛋白の評価は最低年に1回である。その結果、2年間の調査期間において、フローシート採用前後での眼科受診率は27.7より70.8%、尿蛋白検査実施率は63.1より90.8%へ上昇した。討論ではフローシート導入による効果についての要因分析について議論されたが、今後は糖尿病のコントロール、合併症の併発等をエンドポイントとして設定した長期の調査が望まれる。 稲垣良子ら (生坂病院他/中心静脈カテーテルによる外来での気胸治療の試み)は自然気胸初発例に3例、針治療後気胸1例計4例に対し、外来にて中心静脈カテーテル(30cmアーガイル16Gまたは18G)を用いて、胸腔ドレナージを行った。うち1例の自然気胸では2時間後に再虚脱を認めたものの、3例では再発がなかったことを報告し、中心静脈カテーテルによる脱気療法は手技が容易で疼痛が軽く、挿入部瘢痕がほとんどないなど外来管理下で優れた点が多く、外来での脱気療法の1法として可能性を示した。中心静脈栄養用のカテーテルを胸腔内に留置し、脱気を行う訳であるが、脱気手技についての質問や一般的な脱気療法における合併症などの追加発言があった。 堀江典克ら(名古屋大学医学部/漢方の証に則した治療が奏功した慢性疲労症候群患者の一例)は漢方が奏功した慢性疲労症候群(CFS)の女性例を紹介した。前医にて既に補中益気湯と苓姜甘湯が処方されていたが、改善は認められず、改めて漢方医の診療を受けたところ、また上熱下寒証、気滞於血証であり、それに対し温清飲、加味逍遥散が処方され、上熱が改善された後に補中益気湯、小柴胡湯に変更され、著明な改善を示した経過が示された。CFSは病因、病態が明らかにされておらず、おそらく病期と共に複雑な因子が絡み合って症状が出現しているものと思われるが、漢方療法を行う際は「証」に従った治療を行うべきことが示された。 土田正一郎ら (倶知安厚生病院/精神障害者グループホーム設立の経験)は精神障害者グループホーム(GH)の概念について概述し、運営母体は小樽市の社会福祉法人であり、地元住民が組織した運営委員会が実際の運営を行うGHの紹介が行われた。その活動には、入居者への生活支援だけではなく、地域で生活する精神障害者への生活支援も含まれている。また、医療従事者を中心とした運営だけではなく、地域住民も参加する 地域での中核的な生活支援活動、社会資源活用機能を持つなど、精神障害者生活支援センターへ向けての構想も紹介された。精神障害者の自立生活の質の向上を目的としたソフト事業として新しいモデルであり、討論においては主として運営方針や入居者の基底疾患に関する質疑応答が行われ、本学会員からもGHに対し大きな関心が示された。 [ ← プログラム掲載位置へ ] |
座長 三重大学 津田 司
本年7月にプライマリ・ケア教育連絡協議会が発足した。この会は本研究会や日本プライマリ・ケア学会、日本総合診療学会、日本外来小児科学会、地域医療振興協会、在宅かかりつけ医を育てる会などプライマリ・ケア関連団体が集まって、プライマリ・ケア教育に関する連携をとるための協議会である。手始めに、卒後臨床研修必修化に向けて、研修施設の整備と研修プログラムを作成する予定にしている。その後は、共同の専門医認定などに発展することが期待されている。
今回のシンポジウムでは、上記に示す会の主旨が周知徹底されること、および研修資源が現在どの程度あるのかを明らかにすることを目的として開催された。当研究会からは、藤崎氏が卒後臨床研修制度の必修化に向けた動きを紹介し、少なくとも今年度中に地域医療の研修施設を明らかにしなければならないことを述べた。日本プライマリ・ケア学会からは、石橋氏が自学会の認定研修施設数や現在の認定医数を発表した。その他の団体からの発表もあり、今後早急に研修施設を公表すること、および研修プログラム作りを開始することが確認されてシンポジウムを終了した。 [ ← プログラム掲載位置へ ]
筑波大学3年 津田修治
筑波大の学生サークル、プライマリケア研究会での取り組みをポスターで発表しました。プライマリケアに興味を持つ学生が、医療面接・身体診察・EBMなど8つの勉強会を自主的に開催し、それを継続していくために、「各勉強会の担当者を決めていること」「メンバーは勉強会を自由に選べること」「各勉強会は月1回の頻度にしていること」の3点を工夫していることを発表しました。そして、メンバーは研究会について、主体的・継続的・自由に勉強できるが、学生中心で講師がいないため内容が浅くなりがちだ、という感想を持っていることを報告しました。
当日のポスターセッションの会場では、朝から懇親会終了時まで一日中ポスターを掲示することができたので、空いた時間や懇親会の間にも多くの方々に見ていただくことができました。そして、より幅広くメンバーを集めるためのアドバイスを戴くことができ、同様のサークルを作ろうとしている他大の学生と勉強会の内容の深め方について意見交換をすることもできました。 ポスターセッション全体では、研修プログラムの紹介を中心に15の発表がありました。家庭医養成のため長期的な研修プログラムや、研修の中で取り入れているカンファレンス等の紹介、研修医の指導や評価の方法の発表など、それぞれに個性的な発表であり、どのポスターの前でも演者と参加者の間での熱心な質疑応答が見られました。また、オーストラリアのGPの研修の様子を紹介する演題や、プライマリ・ケア卒前教育に対する医学生の意識を調査した報告もあり、研修プログラムの紹介とあわせて、これからのプライマリ・ケアの教育システムについて考える良い機会になりました。 [ ← プログラム掲載位置へ ] |
家庭医のための患者教育
コーディネータ 奈義ファミリークリニック 松下 明
患者教育ワークショップには26名の方が参加されました。医学生から卒後20年目以上の医師まで、幅広い参加者でした。3グループに分かれて寝たきりの妻を抱える、コントロール不良の糖尿病男性にどう関わっていくか、どんな事を聞きたいかを話し合い、全体で内容を共有しました。この際、模擬患者役を兼ねているワークショップ担当者(松下)が患者として、皆さんの質問に答えました(インスリンはうちたくない、体調は絶好調だなど)。
次にLEARNのアプローチを理解してもらいました。文化的背景が異なる医師・患者の間で用いると良いとされるこのモデルは頭文字を取ってLEARNとされています。1. Listen(傾聴) : まずは相手を知ろう 2. Explain(説明) : 共通語でしゃべろう 3. Acknowledge(相違の明確化) : 同じ土俵に立ったか確認しよう 4. Recommend(推奨) : 患者にあったプランを勧めよう 5.Negotiate(交渉) : ケンカせずに患者をいかに支援できるか考えよう というプロセスを意識してみることで、患者のニーズにあったプランを提案(押しつけでなく)できるようになるといわれています。3人1組でこれについてロールプレイをやってもらいました。まずは相手を知ろうという点については皆さん既に意識されておられたので、感心しました。 次に行動変容のステージ分類について理解していただきました。無関心期→関心期→準備期・行動期・維持期→再発期→上へ戻る という流れで人の行動変容のプロセスを理解することで、無関心期・再発期の対応方法が容易になるようでした。最後に関心期の患者さんに対し、ある行動を変えることの自信度と重要度を分けて聞くモデルをロールプレイで練習してもらいました。1から10のスケールで聞いてもらいましたが、もう少し練習がしたいという意見が多かったです。 この3つのテクニックに加え、患者の感情面に十分対応することが患者の行動変容に必要だとお話ししたところ、皆さんの経験からもそうだと納得していただきました。幅の広い層に対するワークショップでしたが、参加者の意識が高いためか非常に熱気のこもったものとなり、主催した側としては嬉しいかぎりでした。 [ ← プログラム掲載位置へ ]
コーディネータ 三瀬村国保診療所
白浜雅司
臨床倫理のWSには事前に20人、当日10人ほどの方が参加された。
最初に、事前登録をされている参加者にメールで送っていた胆嚢癌疑いで黄疸の出ているが強く退院を希望している高齢者の事例について、問題点と対応を話してもらう形の自己紹介でWSをはじめた。さすがに往診などの経験もある家庭医志向の参加者が多かったためか、患者の希望をかなえて在宅で対応したらいいという反応が多く興味深かった。 その後、臨床倫理の4分割法について私がスライドをもとに自分の経験した事例などをもとに講義した後、4つのグループに分かれて2つの事例を検討していただいた。事例は事前に参加者に募集していたもので、ひとつは桜井先生の提示された横紋筋肉腫の高校生の事例で、ある教祖の教えを両親が信じていて、通常の医学的な治療を拒否するケースであり、もうひとつは溝岡先生が出された、痴呆がある短腸症候群の患者のIVHをどうするかという事例で、それぞれのグループで熱心な意見交換がされた。 残念ながら進行のまずさからグループ発表後の討議やコメントが不十分であったことを申し訳なく思うが、WSが終わった後、事例提示者の桜井先生から、「面白かった。学生さんから、何で先生は直接教祖さんと交渉しなかったって言われたよ。」と嬉しそうに話されたのが印象的だった。固定観念のない学生さんの意見は貴重です。そしてこういう様々な世代の人が一緒に意見交換できるのが、この家庭医療学研究会の良さなのだろうと思った。 [ ← プログラム掲載位置へ ]
コーディネータ 亀田メディカルセンター 岡田唯男
何を隠そう今回初参加であった家庭医療学研究会総会に大会長よりWSの大役をお願いされいろいろと不安もあったものの、ロールプレイをお手伝い頂いた皆様、参加者の皆様の協力あって無事大勢の皆様に「教育の本質」に触れて頂けることができたのではないかと感じています。今回は事前登録の参加者を対象に事前アンケートを行ないましたが、(これも学習者のニーズ評価です)「ふだんの指導で困っていること」「WSに期待すること」への自由記載による部分は16人の回答だけで3−4枚にわたるほどの回答があり、いかにこのようなWSへのニーズが高く、かつそれを解決する場が設けられていないか、を物語っているのではないかと思います。直後のフィードバックの中で「質問のフリータイムがもっとあれば良かった」というコメントがあったのですが、本当はこの大量の要望をWS中に皆さんにお見せして、「とても全部はカバーできません」というお断りをしようと思っていたのに忘れてしまったことと、また時間配分の不手際により、十分な練習の時間がとれなかったことなど、参加者の多くのニーズが満たされなかったことは自分への改善課題としてとらえ、また、今後のWSのテーマとして取り上げることで解決して行きたいと思っています。
WS自体はロールプレイを通じて学習者自身に問題解決をさせることの重要性、その過程から明らかになる学習者のニードを見い出して、そこを解決することでまた学習者が前へすすめるように手助けする指導医の役割、それを短時間で実現する5つのmicroskills、そしてその技術が効果的に機能するための前提としての教育の場でのsafetyについて体験しながら学べるように設定しましたがいかがだったでしょうか。当日まで知らなかったのですが、Fetters先生の特別講演でも5つのmicroskillsが取り上げられたことは、この技術がいかに簡単で効果的なものであるかの証しだと思います。 2年間ピッツバーグで指導医としての研修を受けましたが、自分の教育に対する見方を大きく変えたのは教育の場におけるsafetyの概念と、preceptingの概念でした。ですからWSに参加された方は僕の2年間の一番大事なエッセンスをたったの2時間で聞けたことになります。 生まれつきの医師、スポーツ選手、政治家、などがごく稀にしか存在しないのと同様、生まれつきの素晴らしい指導医、というのはほとんど存在しません。そのかわり適切な研修を受けることで、誰もが優れた指導医になる可能性を秘めています。今後その手助けに引き続き関わっていけたら、と思っています。 [ ← プログラム掲載位置へ ]
発表者 自治医大 高屋敷明由美
亀谷大会長からのご提案で今回から設けたセッションでしたが、20名の予定を大幅に上回る約40名の参加者が集う大盛況となりました。そのほとんどが女性であったためでしょうか、会場の一角に周囲とは少し異なる熱気が漂っていました。WSでは1)総論(家族のライフサイクル、育児をめぐる法律、女性医師の現状など)の説明、2)4人の女性医師による自分史・体験談、3)
全参加者からの自己紹介・感想発表を行いました。参加者は将来の家庭生活について漠然とした不安を抱えている医学生・若手医師など独身の方が多い一方で、現在妊娠中で産後の仕事について考えているという方、まさに子育て奮闘中の方などもいらっしゃいました。
それぞれ立場の異なる4人の女性医師の体験談では、「バリバリ働けないけどだらだらしない」「家族の一員としての時間が家庭医としてのキャリアになる」「それぞれの状況で自分にできることをやる」「その時にしかない子供との時間を大切に」など実生活に基づいた言葉一つ一つに、参加者の皆さんはうなづきながら聞き入っていました。将来(今)のご自分の姿を思い描きながら聞いていらしたのかもしれません。 後にいただいた感想では「単なる“苦労”話ではなくむしろ楽しくやっている様子を知り、前向きな気持ちになれた」との声が多く聞かれ、企画者も励まされる思いがします。今回は時間的制約もあり、討論の時間を十分にとれませんでしたが、メーリングリストの立ち上げなど今後の支援ネットワーク作りの第一歩になりました。このような率直な気持ちを語り合う場を継続して欲しいとのニーズが明らかになり、来年度の総会での託児所設置なども含めて支援の輪を広め、今後男性医師も含めて討論を深めていきたいと考えています。 [ ← プログラム掲載位置へ ]
コーディネータ 禁煙マラソン主宰 高橋裕子
まず、二重にいすを並べる盛況であったことを参加くださった先生方に深謝申し上げます。さて日本人においては、成人の3人に1人、未成年も含めると4人に1人が喫煙者と推定される。喫煙関連疾患の日本における死亡者数は年間9万5千人と推定され、受動喫煙による死亡者数も1万人以上とした試算も出ています。しかしながら喫煙はニコチン依存と心理的依存など、強固な依存状態を作り出し、禁煙は容易には達成されないことも多く、禁煙支援は家庭医にとって欠かすことのできない重要な支援のひとつとなっているとの認識をまず共有いただきました。そしてこうしたことを踏まえ、家庭医として支援していただくときの要点を述べました。
(1) 喫煙の健康影響についてきちんとした知識を提供すること (2) 受動喫煙を防止するための動きについて紹介すること (3) 禁煙が困難な理由と禁煙方法について提示すること ここで特記すべきは、ニコチン依存が未成年では、成人に比べて早期に形成されることです。とくに15歳以下の子供たちにおいては、数回の喫煙でニコチン依存が形成されることがあることがわかってきています。禁煙支援は、ニコチン依存がもたらすニコチン切れ症状に対処する「禁煙開始支援」と、心理的依存(記憶)に対処する「禁煙継続支援」の二段階にわかれますが、ニコチン代替療法は未成年においても著効を奏することも多く、未成年の喫煙の増加に対して、ニコチン代替療法の正しい使用が重要であるとの指摘は多くの参加者の共鳴をいただきました。一方禁煙継続に関しては、記憶の塗り替えのために行動を変更することが必要となり、禁煙マラソンなど、インターネットメールを利用した長期禁煙支援が有効な効果を発揮することになることも実例を挙げてお伝えしました。 無関心期と呼ばれる、禁煙しようと思わない人たちへの働きかけ、とくに職域の禁煙化においては、マーケッティング理論に基づいての長期計画を立てて遂行することの必要性もお伝えしました。日本における禁煙の普及は受動喫煙の概念の定着を期に新たな段階に入ってきています。禁煙は成人においてはもちろん、喫煙未成年においてもマイナスをゼロにするのみならず、人生のリセットなどプラスももたらしうるものであり、21世紀を担う子供たちのためにも喫煙禁煙に関しての正しい理解の普及を家庭医のみなさまにお願いしました。 [ ← プログラム掲載位置へ ]
参加者 内山クリニック 内山富士雄
20名の参加者の内訳は開業医、勤務医、研修医と様々であったがWS4と同じ時間帯だったためか女性医師は2名のみであった。
前半は疫学、検診の目的、効果、他の検査方法との比較・組合わせ、実際の症例などについて講義形式、後半はダミーを使っての実習形式で行われた。 わが国では乳がんの罹患率は年々増加し、女性30人に一人の割合で罹患していること、発症年齢は米国より若く40歳台後半にピークがあること、マンモグラフィーと超音波検査はともに弱点があるので相補的に選択するのがよいことなどが強調された。ダミーを使っての実習では実際の触診のタッチ、触れ残しをなくすための方法(触る密度)、どの位時間をかけるか、など非常に具体的な説明があり参加者からも多くの質問があった。 また福田先生が力を入れているブレストケア運動(ピンクリボン運動)についての説明もあり、ピンクにライトアップされた東京タワーやエッフェル塔などの写真が印象的だった。 今回の参加者で日常診察で実際に乳房触診を行っているのは一人だけあった。WS参加後の行動変容が望まれる。 [ ← プログラム掲載位置へ ]
コーディネータ 名古屋大学 佐藤寿一
本ワークショップでは、家庭医学の研究者が出会う障壁を明らかにし、それを乗り越えるための方略を見つけることを目的とした。参加者は19名。まずこれまでに行ってきた研究経験を中心に自己紹介を行った。次に家庭医学の研究を行う際の障壁について思いつくまま文殊カードに記載し、全員で記載内容の分類作業を行った結果、7つのテーマに分類された。
○ 7つのテーマと具体的内容 1)家庭医療学における研究の具体的なイメージが湧かない : テーマを見つけるのが困難、個別性・多様性をどのように扱うのかわからない、臨床への応用を考えると難しい 2) 研究計画の立案が難しい : 研究の具体的な方法がわからない、参考文献の収集が困難 3) データ収集が難しい : 対象者数の確保・追跡が困難、患者の協力が得られない 4) 結果の解釈・まとめが難しい : 結果の評価が難しい、統計学的処理方法がわからない、論文の作り方が分からない 5) 研究に対する評価が低い : 同僚の理解不足 、医学界・世間一般の理解不足 6) 物理的な環境の問題 : 時間がない、研究費がない 7) 研究者同士の連携が不十分 : 指導してくれる人がいない、共同研究者を確保できない 次に各テーマごとに個人、大学、学会その他の組織が行うべきアクションプランについて各自が壁に貼った模造紙に思いつくことを書き込んだ。各テーマ毎に担当者を決め、ポスター発表形式でプレゼンテーションを行った。最後に必要性および緊急性の観点から最も重要性の高いアクションプランを5つリストアップした。 ○ 重要性の高いアクションプラン 1) 研究に関する相談に応じる窓口をつくる 2) 研究の具体的な方法を学習するためのワークショップを開く 3) 日本家庭医療学会の中に倫理委員会を設立する 4) 研究に対する評価の一つとして学会賞を設ける 5) 研究を金銭面でサポートする財団を設立する 6) その他 : リサーチネットワークをつくる、文献サービスを行う、家庭医療学の分野における研究者のリストを作成し公開する これらのアクションプランは、日本家庭医療学会への期待を表しており、本ワークショップから日本家庭医療学会への提言とすることとした。 今回のワークショップで行った文殊カードを用いたKJ法は参加者全員が自分の意見や考えを十分に述べるのに有用であった。また、今回新たな試みとして行った壁紙への自由書き込みおよびそれをポスターに見立てたプレゼンテーションは、学術集会の発表および討論をシミュレートしたものであり、参加者の参加意識を高め満足感を得ることに寄与したと考えられた。 [ ← プログラム掲載位置へ ]
参加者 みすまい診療所 黒川 健
講演が終わり、拍手喝采の後、突然仲田先生から、どなたか感想を書 いてほしいと言われ、たまたま前に座っていた私は気楽に「はい!」と手をあげてしまい、紙を渡されました。
よく見てみると、会報に掲載する原稿の執筆依頼ではないでしょうか!こんな“のり”で講演会に参加していました。米国AAFPの年次集会で、整形外科的な手技のミニ講座がよく行われますが、仲田先生の講義は、それらと比べてもわかり易く、また実践的でした。 具体的には (1) 手書きの絵が上手い事 (2) スーツ姿で自分の膝を出して教えて下った事 (3) 先生は関節液貯留の所見を見せようと、事前にトイレで自分の関節に生食を注射され、しかもみんなの前で追加された事(これはちょっと気合いが入りすぎ?) (4) 整形外科医のためではなく、家庭医のためにを意識して内容を集約して下さった事など。私は今後、患者さんの膝を見るたびに先生の膝を思い出すことになるでしょう。次は肩のみかたをやって欲しいな!と思いました。 [ ← プログラム掲載位置へ ]
参加者 札幌医大 八木田一雄
平本先生のインパクトある自己紹介から始まったセッションは、終始ユーモアに富んだ内容盛りだくさんのものでした。全体を通して、家庭医の立場としての診療に基づいたお話で、詳細でありながらかつ非常に分かりやすく説明していただきました。
セッションの内容は、皮疹の成立、診療の手順、皮疹の見方、治療方法など、基本的な知識から実践的な部分に至るまで、家庭医が外来診療する上での重要なポイントやちょっとしたコツなどまでも盛り込まれており、非常に勉強になりましたし、個人的には、外用剤の使い方の部分が印象深く、とても参考になりました。「軟膏空間」を考慮した処方の決定の仕方、軟膏作用の基本的知識、特にステロイド軟膏の選択方法については、治療の基本となるものから診療所で準備した方がよいもの、また、顔に使用する軟膏基準から、部位別の軟膏の塗布回数など、翌日からすぐに実践可能で役立つ内容が多かったですし、その他、外来でのフォローアップの方法や、改善しない場合の専門医への紹介のタイミングなどについても教えて頂き、日頃の疑問がかなり解消されたような気がしました。 最後は、現場で遭遇するであろう症例を数十枚に渡ってスライドを提示して頂き、様々な皮疹の見方と診断に至る根拠の詳細な説明もあり、非常に分かりやすく、一つ一つが自然に吸収されていくような感じで、90分という時間があっという間でした。 平本先生が申されたように、「皮膚疾患の一次診療を明日から、自信を持って行える」(ような)気がしましたし、参加して得をしたような感じがしましたし、そして、記憶に残るセッションでした。 [ ← プログラム掲載位置へ ]
参加者 大田病院 大川 薫
ワークショップの目標は、(1) 「AHA 心肺蘇生と救急心血管治療のための国際ガイドライン2000」の理念や変更点を理解すること、(2) 誰もができなくてはならない一次救命措置(basic life support, BLS)を修得して指導できるようになること、(3) 医師にとって重要な二次救命処置(advanced cardiac life support, ACLS)のアルゴリズムや薬剤使用の原則を理解して、正式なコース受講の意義を考えることであり、20数名の方々が参加されました。
スライドを使った 30 分の講義が終わると、さっそく小グループに分かれて、BLSの実技が始まりました。自動体外式除細動器(automated externaldefibrillator, AED) を使いながら、声を出して手順を確認することを一人ずつ全員が行いました。AED は、一部の国では訓練を受けた医療従事者ではない人にも使用が認められていて、今後は日本でも普及していく可能性のある道具とのことであり、参加者の方々は熱心に触って操作を覚えていました。立場を変えてインストラクターとして一般市民に教えるときは、ハイリスクグループ患者の家族、家族が入院した直後の市民を対象に、ビデオを使いながら、実技を単純化して指導すると効果的であるというお話がありました。 最後に、カジノでの心肺停止患者に AED を使って蘇生に成功する実例ビデオ、箕輪先生が実際に指導にあたられている ACLSコースのビデオを見せていただきました。 講義、実技、ビデオと密度が濃く、本当にあっという間の2時間でした。インストラクターとして患者・家族・市民に救命処置を教えるために、更に正式なACLSコースにも参加したくなりました。 [ ← プログラム掲載位置へ ]
コーディネータ ミシガン大学 佐野 潔
今回のワークショップでは家庭医は小児科医と如何に異なる視点で小児疾患を診察治療するかについて強調して行った。例えば母乳授乳のため夜も眠られない母親にどんなアドバイスをして授乳期の母親と子供両方の健康を維持するかとか、いかにして子供を野菜好きな子供に育てるかとか、葉酸の重要性、出産前胎児小児科学、如何に抗生物質を使わないで風邪の治療をするか、母親を納得させるだけでなくさらに医療教育をするにはどうしたらよいかなどにも触れた。また如何に遊びを入れて小児診察を行い子供にまた来たくなるようにするにはどうしたらいいかとか、普通の小児科医でもしない小児科診療のアイデア・コツについての話をした。また座薬の乱用、熱性痙攣にたいするジアゼパム・フェノバール乱用に注意を呼びかけ正しい熱に対する処置も理解いただけたものと思う。とかく日本の医療の常識が世界のそれとずれていることを知っていただきエビデンスに基づく正しい医療を海外の文献を読むことから身に付けていただきたいとも思っている。一つだけ、疾患としても非常に幅の広い分野をカバーしたためワークショップというより講義に終始してしまった点が悔やまれる。今後も家庭医として小児科医とは異なる家庭医療の視点での小児診療を理解して実行していただきたいと思っている。
参考文献 : Pediatric Clinical Examination(3rd Edition), Denis Gill/Niall O'Brien, Churchill Livingston社 [ ← プログラム掲載位置へ ]
コーディネータ 聖マリアンナ医大 信岡祐彦
今回14人の先生方のご参加を頂き、また装置その他については、GE YOKOGAWA Medical Systemsのご協力を頂きました。
超音波検査は術者の技量によるところが大きく、限られた時間内で不十分な点もあったかと思いますが、このワークショップが参加された先生方の今後の診療や、実技習得についてのモチベーションを高めるために少しでもお役にたつことができれば幸いです。一方、参加された先生方ひとりひとりで聞きたいことや、ここを知りたいということが違っていること、これに適切に答えることの難しさを痛感いたしました。また良い画像を得るために、被験者(聖マリアンナ医科大学5年生学生)に深呼吸を繰り返してもらっているうちに、消化管内にガスが蓄積され、ワークショップ後半では、画像がみえにくくなってしまったことなど、思いもよらなかった反省点も明らかになりました。 できればいずれどこかで同様の企画を持つことができればと考えておりますが、1)同時に心臓と腹部とを行うのは少し無理があるように思えるので、できれば心臓と腹部は別々に行う、2) あらかじめ参加者の方から、とくに希望する内容を聞いておく(すべてに答えるのは無理としても)、3) 被験者は最低でも2人以上必要、4) 進行手順についてのマニュアルの整備、などが必要課題と考えられました。 [ ← プログラム掲載位置へ ]
参加者 東町ファミリークリニック 武田伸二
内服薬ではもう限界、インスリンを使いたいのだけれどなかなか使えない。外来で糖尿病患者さんを診ていると、誰もが感ずるジレンマです。インスリンの注射を始めることは、医師にとっても患者にとっても決意の要ることかもしれません。
今回は病院と診療所の両方を経験された矢倉先生に、小回りの利くクリニックだからこそかえってインスリン導入をするメリットがあるのだと言う視点で、お話を伺いました。 導入のポイントは、(1) 一日一回朝食前にNあるいは30R型のインスリン6〜8単位で始める。(2) SU剤は無理に中止せず、半量ぐらいを継続した後で漸減して行く。(3) 最初注射器の種類は一つとし、医師もスタッフもそれに慣れる。(4) できるだけ自己血糖測定をし、それを判断材料とする。これらができるようなってから、注射器やインスリンの種類を増やしたり、頻回注射法による導入なども考える。と言うものでした。 実際には臨機応変に患者さんの生活パターンに合わせて、夜1回の注射から始めたり、指導回数も患者さんの理解度に応じて増減するなど、できる範囲でいろいろな工夫をすることが大切。加えて看護婦さんや患者さん同士の情報交換や糖尿病教室など、きめ細かな指導や配慮で注射という不安を軽減できることを実感しました。 できるだけスムーズにインスリンの導入ができるよう、外来でのインスリン治療の導入を始めたいと思います。 [ ← プログラム掲載位置へ ]
参加者 北海道家庭医療学センター 大崎美恵
講義内容 :
[総論]薬物相互作用を理解して処方するための基礎知識/薬物情報の収集法(EBM) [各論]患者の嗜好・ライフスタイルなどを考慮した、柔軟性のある処方/そのための情報(食物-薬物の相互作用など) 本講座では、共立薬科大学生涯教育センターの工藤三恵子薬剤師により、上記の内容の講義が行われました。会場には十数名の参加者が集まり、現場の薬剤師としての視点や、患者の素朴な疑問・切実な声を基にした話題、そして豊富な情報に、興味深く聴き入っていました。患者の声として強調されたものの一部をご紹介します(<>は講師のコメント)。「私一生グレープフルーツ食べられないの?<少量もしくは果汁の少ないジュースで>」「タクシー運転手で朝は不規則<長時間作用型の降圧薬・HMG-CoA阻害薬などは朝夕変更可>」「血に良いっていうから一日三食納豆食べてたんですけど<納豆やビタミンK添加クロレラを摂取していても主治医は知らない>」等々・・・。 個人的な感想となりますが、今回の講義全体から、薬剤師である講師の先生が、医療の現場で医師に対して感じておられるもどかしさが、強く伝わってきた気がしました。次のようなメッセージに集約されるかと思います。 「医師は薬を知って使ってほしい」「医師は患者ともう少し話してほしい」「薬剤情報も患者の訴えも、薬剤師に分かっていることがあるのに立場上医師に伝えづらい」 薬剤師側が情報を持ちつつ介入しかねている一方、医師の方は、時間と情報が不足しがちなのが現状ではないでしょうか。今後、個人として・システムとしての医師-薬剤師の情報交換と協働が、家庭医の診療・教育の面でもますます重要になってくるものと思われました。 時間の関係で参加者全体でのディスカッションがあまり深められず残念でしたが、豊富な情報を得ることができ、また今後の臨床での処方の工夫や、医師-薬剤師の協働を考える意味で、非常に有意義な講義となりました。講師の工藤先生に深く感謝申し上げます。 [ ← プログラム掲載位置へ ]
参加者 聖マリアンナ医大 清水裕美
加齢による廃用性変化や脳血管循環障害後遺症などで活動量が低下してしまった患者さんに対して、リハビリを行ってなんとかADLを維持、改善したいと望む患者さんや家族は少なくない。日常の地域医療業務の中で、家族から自分たちでできるリハビリとしてはどんなことがあるか質問された時、自分でもこれでいいのかなと思いつつ、臥位でできる筋肉トレーニングをさらっとお薦めするか、リハビリの先生にすべてお任せしてしまうのみで、きちんとした勉強を後回しにしていた私にとって、そのコツを短時間にまとめて直接ご指導いただくことは、まさに渡りに舟といったところであった。
先ず、筋力がどれだけあるかをきちんと調べる方法について。MMTは知っているつもりであったが、寝たきりの方の場合の具体的な方法をわかりやすく教えていただいた。 次に、関節のリハビリテーション。従来の関節の動きとは別にある、ねじれなど、わずかな動きである“あそび”をほぐすことによって、痛みを軽減し、関節可動域を拡げるということであった。これは二人で一組になって実践しながらまさに手取り足取り、教えていただいた。(実際、うっとりするほど気持ちよかった!!!) 最後に、立ち上がるという動作に向けての、体重移動やバランスを養う方法の具体的なプランニングについてを教えていただいた。受講者全員の姿勢や立つまでの動作をチェックしあうことで、普段何気なくしている立つという動作にもたくさんの要素が入っていることを身をもって理解することができ、とてもわかりやすかった。 全員が動きながら、体験しながらのワークショップであったため、終始なごやかに質問をしやすい雰囲気であった。ほんの一部分ではあったが、今日からでも実践できる内容であり、更に興味を拡げるきっかけとなるものであった。 [ ← プログラム掲載位置へ ]
司会 亀田総合病院 豊島 元
定員16名の予定でしたが、希望者が多く19名の方に参加していただくということでWSを設定しました。参加者の多くは、痴呆の問題の重要性を認めておられるものの、これまで実際に地域のなかでの痴呆老人のケアの経験が少なく、痴呆と地域医療の実態を学んでゆきたいと希望してこられていました。医学生、医師に加えて、看護師、薬剤師、東京で区の在宅サービス課に勤務しておられる方にも参加していただきWSの内容を広がらせることができました。最初に、これまで地域での痴呆老人のケアを実践してこられたコーディネータの天本先生から、痴呆老人のケアについて先生の経験に基づいた話をしていただきました。その話のなかで在宅介護=家族介護ではないということ、患者さん本人だけでなく介護をされる方もふくめた視点から、しかも医療面だけでなく生活全体に気を配りながら見ていくことが必要があること、発病から死亡までの長い期間に廃用症候群を含む様々な問題がでてくること、残存能力を(ポジティブに)評価していくことが大切であること、痴呆のケアの特徴として見えない(内面の)障害に対する見えないケアであることの難しさがあること、そこでは介護者である家族への配慮が重要になってくること、痴呆高齢者への支援のためには行政と連携して地域ケアシステムを作っていく必要があること、そのために個々の医師が行政等へ働きかけて支援システムを作っていくことが大切であるといったことが示されました。
その後、参加者からの意見、質問に対して、天本先生に答えていただく形でWSを進めていきました。そのなかでは、患者さんとご家族との間での希望が異なることがあるといった問題もだされました。また、痴呆ではないだろうかという家族の訴えを医師に十分聞いてもらえなかったというご自身の経験を紹介された方もおり、医療者として反省させられるところでした。実際のケア現場の限られた時間のなかで、どのようにして満足のいくケアをしていくことができるのか、介護度の程度とケアの大変さが(特に痴呆の場合には)一致しないことが多いといった問題についても話し合われました。在宅サービス課の方からは地区医師会と東京都老人研究所が協力して痴呆予防対策に取り組んでいるという、現在進行中の地域での痴呆老人ケアの一つを紹介していただくこともできました。 時間が足りず、参加者全員から発言していただくことはできませんでしたが、今後WSの参加者でインターネットを使って意見の交換をしていこうということにしてWSを終了しました。 [ ← プログラム掲載位置へ ]
コーディネーター 聖マリアンナ医大 中村丁次
今回のワークショップでは、臨床栄養学の理論に基づいた栄養指導法を中心に解説した。食習慣は、栄養素、食品、料理、献立、さらに食事回数、時間等の食べ方から構成され、患者様個人に適した内容と指導方法が必要である。とくに薬物療法と比べて、栄養指導法は患者様やご家族にも栄養の知識や料理の技術の修得が必要になるという特徴がある。
今回は高コレステロール血症のコントロールをテーマに進めた。第一に必要なことは摂取エネルギーの制限で、同時に運動量を増加することでTCAサイクル回転が促進し、結果としてコレステロール合成の起点となるアセチルCoAの生成が抑制されること、また体重の減少はインスリン抵抗性を軽減すること、などを基調として説明した。また従来から、多価不飽和脂肪酸(P)/飽和脂肪酸(S)比を高くすることが、高コレステロール血症の食事管理に重要とされてきた。最近の知見では、同じ飽和脂肪酸でもステアリン酸にはコレステロール上昇作用がないこと、植物性油に多いリノール酸のコレステロール低下作用は総エネルギー摂取量に占める比率が15%以上ではなくなり、かつHDL−コレステロール低下が大きくなること、などなど、リポタンパクへの各種脂質の影響が議論されている。 その他に、卵類、内臓類に多く含まれるコレステロール摂取量を300r/日以下にすること。果物に多いペクチンや海草に含まれるアルギン酸など水溶性の食物繊維は担汁酸と結合し、排泄を促進し、コレステロールから胆汁酸への分解が増すこと。また、大豆の植物性タンパク質、植物ステロールなどに特有のコレステロール作用があり、これらの成分を多く含んだ特別保健用食品(トクホ。市販品)を活用することにより、患者様への指導内容はより具体的になる。 総括として、高コレステロール血症の栄養指導法10ヶ条を提示した。(1)標準体重の維持、(2)肉の脂身、バター、ラードなど動物性食品の制限、(3)揚げ物、炒め物、サラダのような油料理の制限、(4)内臓類、魚卵、小魚の制限、(5)海藻、きのこ、野菜、果物、豆類の積極的な摂取、(6)海の物、特に青身の摂取、(7)ご飯を中心とした和食の選択、(8)トクホの活用、(9)抗酸化成分の多い食品の摂取、(10)食事全体のバランスの考慮。日常診療に活用する方法を中心に質疑応答が進められた。 [ ← プログラム掲載位置へ ]
参加者 柳原病院 福島智恵美
スウィートとビターのチョコの差し入れをいただき、ほっとした雰囲気の中、さだまさしの「転宅」を歌う前沢先生を囲み、WSは参加者約15名ではじまった。私は紅一点(?)ということで、原稿依頼を受けたようである。WSの内容は、歌詞の中で述べられていた、「人生は来たかと思うと去っていく。行ったかと思うと戻っている。」という言葉に象徴されていた。紹介されたケースは、これでよくなる、とか、これがいいという指針のような提示ではなく、流れてはかえす波のように、これでいいのかな?これでいってみようかな?という、迷い、漂う、すべての状況から逃げもせず、追いたてもしない、受け入れていく,付き合っていく、という先生のスタイルが伝わる内容であった。参加した方からの質問、励ましの中には、日頃の自分達の姿勢が自然とにじみ出ているようで、自分自身を振り返るよい機会であった。どのような方とも逃げないで付き合っていく前沢先生の姿勢を強く感じた2時間であった。
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座長 内山クリニック 内山富士雄
アメリカで診療所でのプライマリ・ケア卒前教育の普及の原動力となったプリセプター教育プロジェクト(preceptor education project, 2nd edition: PEP2)についての講演であった。
当日参加者全員にフィルムコートされた葉書大のカードがFetters氏からプレゼントされた。その中にある1分間プレセプティング法を参加されなかった方のために解説したい(演者もそれを望んでいると思うので)。 例えば喘息の初診患者を学生が診察したあと 1. 学生に評価(診断)・計画を述べさせる 2. それを支持する根拠を確認する(「なぜ喘息だと考えるの?」) 3. 一般的な原則を教える(「喘鳴の聴こえる疾患には他にも・・・」決して欲張らないで一つのポイントをミニレクチャー) 4. よかった点を伝える 5. 誤りを訂正する 講演中に氏は実際に例を示したが、本当に1分以内で上記のことが可能であった。参加者も「これなら忙しい外来の最中にもやれそう」との印象をもったことと思われる。 Fetters氏は、アメリカも8年前(PEP導入前)までは現在の日本のように診療所での卒前教育に消極的な医師が多かったがPEP導入により状況が好転したことを強調し、今後の日本の課題として実際にPEPを診療所で使いながら日本版PEPを作成することが必要でそのためには協力を惜しまない、と結んだ。 流暢な日本語での講演、力作のスライド、上記の参加者へのプレゼント、改めてここでFetters氏に感謝の意を表したい。 [ ← プログラム掲載位置へ ]
座長 北海道大学 大滝純司
生(ナマ)の田坂氏を見ようと参加した、TFC-ML(田坂氏が管理・運営しているメーリングリスト : TFCはTotal Family Careの略)参加者も多かったのではないでしょうか。閉会直前にもかかわらず、大勢の聴衆が田坂氏の、(自己紹介どおりの)早口であちこちに話がひろがる、そして熱く語りかける講演に引き込まれていきました。
自己紹介では御自分の専門領域を「無し」と言い、「万年研修医」と自称。そしてTFC-MLの基本理念となっている「当事者に直接聞いてみなければ、直接話して見なければわからない」ということを聴衆に実感させるために、「点滴を受けている患者さんが考えることは?」「弁当の宅配サービスを受け取る独居のお年寄りが希望することは?」といった、家庭医なら誰でも答えてみたくなるクイズを出して、一気にエンジン全開。電子メールを利用していない聴衆にも配慮して、メーリングリストという用語や、TFC-MLの由来についても解説していただきました。 海外在住者22名を含め参加者数が937名(現在も増え続けている)であることなどをはじめ、TFC-MLの現状分析を中心とした講演内容後半の詳細は、学会誌でお読みいただける予定です。田坂氏が「勤務医と開業医」「専門医と家庭医」の間にあるギャップを埋められるのではないかと始めたこの情報網が、多くの医療者に支持され、新しい流れが作られている様子が、そして田坂氏の類まれな臨床能力と感性と情熱が、強烈に伝わってきた特別講演でした。 [ ← プログラム掲載位置へ ]
(研究会の記録ここまで)
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第11回家庭医の生涯教育のための
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第18回日本家庭医療学会学術集会は, 2003年11月15-16日 東京 早稲田大学国際会議場で開催します。 |
家庭医のためのCME
要約 コメント
提供者 : 名古屋大学総合診療部 向原 圭(むこうはら けい) |
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家庭医療学研究会世話人会議事録 (11/09/2002)
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議 題
(世話人会議事録 ここまで) |
家庭医療学会学術集会での託児所設置 に関するアンケート |
会員の皆様 第18回日本家庭医療学会学術集会会長 藤沼康樹
第17回家庭医療学研究会「女性医師のキャリアとしての家庭医」担当 武田裕子、前野貴美、高屋敷明由美、大野毎子、西村真紀 昨年11月の第17回家庭医療学研究会学術集会において実施した表記のアンケート調査では、多くの御回答をありがとうございました。今回は、学術集会に参加できなかったなどの理由でアンケートに回答していただけていない会員の方を対象に、追加調査を実施いたします。 |
今年度日本公衆衛生学会(3日間)の例
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事務局からのお知らせ |
会費納入のお願い メーリングリストの加入について |
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入会手続きについて 異動届をしてください 〒514-8507 三重県津市江戸橋2-174 三重大学医学部附属病院 総合診療部内 電話 059-231-5290(総合診療部) FAX 059-232-7880(学会専用) E-mail jafm@clin.medic.mie-u.ac.jp ホームページ http://www.medic.mie-u.ac.jp/jafm/ |
編 集 後 期 新しい年になり、皆様いかがお過ごしでしょうか。 |
発行所 : 家庭医療学研究会事務局 編集担当世話人 : 大滝純司(勤務先が変わりました) 〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1 東京大学医学教育国際協力研究センター E-mail jo-tky@umin.ac.jp |
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