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第2回 北見地域のがん患者さん支援の充実に向けたセミナー 2023
【グループワーク】
症例の提示

上林 実さん(北見赤十字病院 副院長・患者支援センター長)

関:グループワークの流れを概略的にご説明申し上げます。まず、ナビゲーターの上林先生から症例の提示をしていただいたあと、1つ目のグループワーク「治療の導入と経過について」ということで、この症例の課題や強みについて10分ほどで話し合います。その後、追加の情報なども入れていきながら、メインとなる2つ目のグループワーク「退院支援と在宅支援に向けた地域での多職種連携について」ということで、支援上の大切にしたい視点や社会資源等の活用について45分ほどかけて話し合いをして、最後、各グループに発表いただき、コメントをいただく、こういった流れで進めてまいりたいと思っております。
では、症例の提示を、北見赤十字病院の副院長で患者支援センター長の上林実先生からお願いしたいと思います。先生、よろしくお願いします。

背部痛で受診された肺がん患者さんの事例

講演の画面01

上林:皆さんの手元にもハンドアウト(事前資料)があると思いますが、症例は50歳代男性で、肺がんで肝転移、骨転移があります。経過は、X年に背部痛で受診し、CTで肺に肋骨(ろっこつ)と胸椎に浸潤する腫瘍が認められ、精密検査で肺がんと診断されました。腹部CTで肝臓にも転移があります。
臨床病期はステージ4Bと一番進行していて、抗がん剤治療と局所の放射線療法を併用する方針となりました。放射線治療をして、抗がん剤治療はその後、約半年間行ったのですが、CTで転移の増大が認められました。治療法を変更したのですが、アナフィラキシー症状(アレルギー様の過敏症)が出現したため、抗がん剤治療を中止しておりました。その後、両下肢のしびれが強くなりました。

講演の画面02

翌年から歩行が困難になって、転倒して手をつき、痛みのために腕を動かせなくなりました。上腕骨に骨転移、病的骨折を認めて入院することになりました。入院していろいろ検査をすると、MRIで胸椎にも転移が認められ、側胸部にビリビリとしびれるような痛み、腰には持続する痛み、体動時には背中から腰にズキッとした痛みがあります。痛みの程度は、安静時にはNRS(Numerical Rating Scale:数値的評価スケール)で4~5、動作時には8~9です。ひと晩に数回、寝返りをするたびに痛みで目が覚め、上腕を動かすと痛みがあって、両下肢の知覚障害は進行し、残尿もあり便秘がつらく、ロキソプロフェンとモルヒネの徐放性製剤(薬の有効成分がゆっくり溶け出すようにした製剤)を投与されています。

症例の社会的背景ですが、妻がキーパーソンの2人暮らしで、2人のお子さんがいらっしゃいます。

入院時点の病状説明および見通し

講演の画面03

入院時点の病状説明と現時点の見通しですが、主治医からは本人と妻に病名と進行具合、治療経過について説明されています。本人は、これ以上抗がん剤治療を行えないと理解していますが、「妻には有効な治療法がないことを知らせてほしくない」と主治医に伝えています。主治医は2~3か月ぐらいの予後と想定していますが、まだ話してはいません。入院時点の本人と妻の意向ですが、本人は「家に帰りたい、もう一度趣味も楽しみたい、家族に会えるのが楽しみだ」と思っています。また、下肢の症状が進行し、排せつも思うようにできなくなったことに不安を訴えています。一方、妻は、「もう少し動けるようになるまで病院に置いてほしい」と思っています。

入院後の経過ですが、患者さんの痛みについては放射線治療と麻薬の増量で対応しました。痛み以外の身体症状として、両下肢のしびれや、膀胱(ぼうこう)直腸障害などがあります。膀胱直腸障害については、レスキュー(疼痛(とうつう)管理において、徐放性製剤に追加して即効性の高い速放性製剤を投与すること)をうまく使ったり、姿勢の工夫をしたり、コルセットを巻いたり、いろいろな対処を入院してから進めているという状況にあります。

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掲載日:2023年12月04日
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