■ はじめに Introduction (原文) |
成人の一次救命処置 Adult BLS (原文) |
二次救命処置の共通アルゴリズム Universal Algorithm (原文) |
早期除細動 Early Defibrillation (原文) |
小児の心肺蘇生法 Pediatric Resuscitation (原文) |
個々の状況での蘇生 Special Resuscitation (原文) |
Richard O. Cummins, MD; Douglas A. Chamberlain, MD,
Cochairsはじめに(Introduction)
国際蘇生法連絡委員会(ILCOR)は1992年に世界中の主な蘇生組織間が連携するための公開討論の場として組織された。加入規準は厳密に定義されている
わけではないが、メンバーとなる組織は、蘇生ガイドラインの策定を行う権限
を有するとされる組織であること、そして、一ヶ国に限らず、かつ様々な学問
分野からの参加であることが望まれる。目下、ILCORはアメリカ心臓学会(AHA)、
ヨーロッパ蘇生会議(ERC)、カナダ心臓・脳卒中財団(HSFC)、オーストラ
リア蘇生会議(ARC)、南アフリカ蘇生会議(RCSA)そして最近参加したラテ
ンアメリカ蘇生会議(CLAR)から成る。
AHAは1974年に蘇生のための基準を発表した。これらは1980年、1986年、 1992年に新しい指針を基に改訂されて、より目的に適うものとなった。アメリ カに続いて、多くのヨーロッパ諸国の会議も自ら定めたガイドラインを導入し た。これらは最終的に、1992年にERCによって統合された。これは、ヨーロッ パ諸国のニーズにより適合すると考えられる蘇生法が、ヨーロッパ全体で広く 利用されるようにするためであった。というのも、ヨーロッパの多くの国では、 蘇生のためのシステムが北アメリカほど発展していなかったからである。 それまでの薬剤の使用法や入手可能性には差異が認められたこともあり、新た なアプローチが必須となった。これらは適切な手本として、次第にヨーロッパ 内で認められるようになり、やがて確固たるものとなった。オーストラリアや 南アフリカでも同様の変遷を経た。
蘇生に関する権限を持つ新たな組織が次々に創設され、関心が高まり専門性 が高められる一方で、明らかなデメリットも生じた。特に問題となったのは、 蘇生行為に関する様々な勧告は、アプローチの仕方が違うだけで実質的には似 たようなものであった点である。外見上の矛盾は、主に表現方法の違いによる ものであった。たとえば、アメリカのガイドラインは包括的であるがゆえに、 複雑なアルゴリズムを用いるものであった。これに対し、ヨーロッパのガイド ラインはより簡潔さを重視するものであった。どの組織も自らのアプローチの 優位性にこだわりつつも、一方では、共通する核心部分を強調することが望ま しいという点では認識が一致していた。
AHAは、1992年のAHAのガイドライン会議の際に、国際協力を推進するための 機会を設けた。招待者のうちアメリカ以外からの参加者は28%に達し、42ヶ国 を代表した。国際的な問題に関するセッションが設けられて、12名のパネリス トが参加した。翌月には、国際連絡委員会を正式に創設する計画が策定されて、 同年末にイギリスの ERCシンポジウムで発足会議が開催された。
他にも、国際的に新しい動きが同時に発生し、中でも蘇生結果に関する表現 方法を共通化する動きからは、報告の様式としてウツタイン様式(The Utstein System of Reporting)が生まれた。こうして国際協力は深まり、より確実なものとなった。
委員会は、通常 ILCORという略語で知られる「国際蘇生法連絡委員会 International Liason Committee on Resuscitation」という名称を採択した。 本会の目的は以下の通りである。
LCORの主要な目的は治療ガイドラインの策定であるが、教育訓練の方法の有 効性や、組織形成に関する話題や、救急心治療の実施に関する問題も取り扱う。 ILCORは各国の蘇生会議が合同で行うガイドラインの策定や会議のための日程 調整をも促す。これらの国際的なガイドラインは、BLS、PLS、そして ALSに対 して、科学的に裏付けられた共通性を持たせることを目的としている。
ILCORに出席することは、個人というよりはむしろ ILCORを構成している各会 議に与えられた特権である。財源が限られている中で、継続的に参加して いただく必要があるので、会議に参加できるのは限定された人数のみとなる。 これらは、 1992年から毎年2回、たいていはアメリカおよびヨーロッパの開催 地で、交互に開催される。参加者は、AHAから6名、ARCから3名、 RCSAから3名、 そしてHSFCからは1名の代表者に制限される。 CLARは、将来、3名の代表者ま での参加となる。全ての会議の中心となるのは、全参加者が出席する総会で あるが、詳細に至る作業は BLS、ALS、PLS(新生児を含む)の各ワーキン ググループである。
ILCORの目的は、共通の(世界的な)ガイドラインの確立に向けて努力する ことである。この目的のために、各会議では、既存の勧告の拠り所となって いる論拠を審査し、AHAが採用しているシステムを用いて格付けした。
クラス I 勧告のみの使用を奨励したいところだが、これは現実的ではないと 思われる。なぜなら、蘇生の際に利用される治療法のうち、このカテゴリーに 分類されるのは非常に少数であるからだ。実際は、ILCORは実用的なアプロー チを採用する。新たな科学的根拠が得られるまでは、正当な理由がない限り、 標準的処置の変更はないだろう。しかし、勧告は全て確固たる科学的根拠に 基づくべきであるということは、十分に認識されているし、目標とされている。
ILCORは各国の蘇生委員会の自律性を否定するものでは決してない。ILCORの発表は、勧告声明として、注意深く吟味された普遍的な科学 に基づいた資源として、尊重されるべきである。各国の委員会が過去に採用し ていた様々な方法については、様々な角度から議論された。そして、ILCORの 勧告声明は、少なくとも数名の国際的なオピニオンリーダーにより起草された。 声明は、長い時間をかけて、何度もの改訂が行われた。この結果、現在の医学 的水準に相応しい、とても素晴らしい蒸留物が得られたと考えてよい。
ILCORに参加する各組織(および蘇生に関する勧告の作成に責任を持つ他の 組織)がこの資料を活用することによって、将来の全てのガイドラインが、 ILCORにおける合議の過程で発展してきた共通の見解を反映したものとなるこ とが望まれる。いくつかの相違点が残るのは仕方がないだろう。世界の 各地域において、使用する薬剤の種類や用法には違いがあり、また一夜にして 除去することが不可能なしきたりも存在するからである。しかし、意見が分かれる 部分ではなく、意見が似ている部分を反映させた上で、アルゴリズムが 公表されることが望まれる。
世界的なガイドラインの確立は実現可能な目標であり、我々がこのように主 導性を発揮することで、目標に向かって大きく前進することができたと信じて いる。継続的な国際協力には、他にもメリットがある。世界の他の地域で実施 され、異なる言語により記述された蘇生調査に対して、より正当な評価を行う ことが出来る。また、自分たちの現在の知識基盤がどれほどの欠点を持つもの かより鋭く感じ取ることができる。そして、蘇生科学を向上させようとする決 意がより強まり、多施設研究に世界中から参加できるようになって、より迅速 に結果を出せるなどといったことがあるからだ。
この報告書はILCORの初めての勧告声明である。これは各国の、あるいは国 際的な専門家集団が蘇生に関する検討を行う際の基盤として利用されることを 意図したものであるが、具体的な内容については、必ずしもこの報告書の通り に従わなければならないという性質のものではない。