メンバー
東京大学医学部附属病院薬剤部 講師
池淵 祐樹 Yuki IKEBUCHI
Tel |
03-3815-5411 ext. 35297 |
E-mail |
yikebuchi1213@ |
連絡先は@→@g.ecc.u-tokyo.ac.jpに変えてください(※@半角)
略歴
2007年 3月 |
東京大学 薬学部薬学科 卒業 |
2009年 3月 |
東京大学 大学院薬学系研究科 修士課程修了 生命薬学専攻 臨床薬物動態学講座・薬剤部(鈴木洋史教授) |
2009年 4月 |
日本学術振興会特別研究員DC1 |
2012年 3月 |
東京大学 大学院薬学系研究科 博士課程修了(薬学博士) 生命薬学専攻 臨床薬物動態学講座・薬剤部(鈴木洋史教授) |
2012年 8月 |
東京大学大学院医学系研究科・薬理動態学講座 特任助教 |
2015年 1月 |
東京大学医学部附属病院 薬剤部 助教 |
2024年 11月 |
東京大学医学部附属病院 薬剤部 講師(現職) |
研究テーマと抱負
骨・軟骨代謝を中心に、加齢とともに生じる細胞老化がどのように代謝や動態バランスを変容させ、疾患形成に関わっているかを解析し、効果的な治療法を創出することを目指しています。また、病院薬剤師としては、TDM部門(薬物動態解析部門)の責任者を務めており、臨床的な疑問を基礎研究から明らかにするトランスレーショナルリサーチを志向しています。
骨代謝疾患に対する新たな治療標的の探索
日本における骨粗鬆症の患者は既に1,000万人を超えており、高齢化に伴って患者数はさらに増加していくと予測される一方で、臨床における治療満足度は必ずしも高くはないのが現状です。そこで私達は骨代謝バランスを中心的に制御するシグナルであるRANKL-RANK経路に着目し、骨粗鬆症治療の新たな標的分子を見出す可能性を探っています。
破骨細胞に発現し、その成熟・活性化に中心的に関与する受容分子であるRANKに関しては、その下流伝達経路に着目して膨大な研究がこれまで行われてきています。一方リガンド分子であるRANKLに関しては、シグナル入力強度を決定する主要因であるにも関わらず、その細胞内挙動と制御機構に関して十分な研究が行なわれていませんでした。私達はこの点に着目した分子論的研究を進めてきた結果、骨芽細胞において、通常RANKLの大部分は細胞内の分泌型リソソームに蓄積されており、細胞膜表面には僅かに発現しているのみであること、およびこの細胞膜表面に局在する少量のRANKLは、破骨前駆細胞内にシグナルを入力するリガンド分子としてだけでなく、RANKとの相互作用に伴って骨芽細胞内に逆シグナルを伝達する受容分子としても機能し、この逆シグナルによって分泌型リソソームからのRANKL放出がトリガーされること、などを見出してきました。
2011年には、骨芽細胞が骨基質中に埋め込まれて最終分化に至った骨細胞が、破骨細胞の分化制御におけるRANKLの主要な供給源であることが報告されたことに着目し、骨芽細胞に発現するRANKLのシグナル受容体としての機能は骨吸収から骨形成への円滑なカップリングを形成する機構の一つである可能性を明らかにしました。成熟した破骨細胞からはRANKを搭載した100nmほどの細胞外膜小胞がさかんに分泌され、骨芽細胞表面のRANKLとの相互作用によって骨芽細胞の分化・石灰化が促進されます。骨粗鬆症治療薬である抗RANKL抗体デノスマブは、破骨細胞へのRANKL順シグナルの入力を遮断することで過剰となった骨吸収を低下させ骨量を回復させます。一方で、長期的なデノスマブの使用は骨代謝回転を低下させて脆弱な骨が蓄積され、生命予後を低下させる非定型性骨折のリスクを上げることが問題とされています。私達の研究で見出したRANKL逆シグナルに対しても、デノスマブは骨芽細胞表面のRANKLを覆い、シグナル入力を遮断してしまうことが骨代謝カップリングの円滑な移行を妨げている可能性が想定されたため、破骨細胞へのRANKL順シグナルは遮断しつつ、骨芽細胞へのRANKL逆シグナルの入力活性を持つバイファンクショナル型抗体の開発を試みました。閉経後骨粗鬆症モデルである卵巣摘出術マウスを用いた解析から、この改変型RANKL抗体は破骨細胞の分化を抑制しつつ、骨芽細胞による骨形成を保つ作用が確認されており、分子構造の最適化等から新しい創薬へと繋げるために研究を進めています。
現在は、骨芽細胞の後期の分化段階の制御に関わるWntシグナルの活性化プロファイルの包括的な解読を通じて、RANKL逆シグナルとWntシグナル間の相互作用を明らかにすることで、より効果的な骨粗鬆症治療薬の開発に繋がるのではないかと期待して、研究を続けています。また、RANKL分子はT細胞等の免疫細胞にも発現が認められることから、関節リウマチ等の自己免疫疾患や癌免疫への関与も検証を進め、今後の医療の発展に繋げられればと考えています。
キーワード
骨・軟骨代謝、細胞老化、Wntシグナル、特異体質性薬物副作用、トランスポーター
主要業績
- Ikebuchi Y. Comprehensive analysis on Wnt signaling pathway to develop a novel signal modifier. Impact. 2024;2:47-49.
- Sone E, Noshiro D, Ikebuchi Y, Nakagawa M, Khan M, Tamura Y, Ikeda M, Oki M, Murali R, Fujimori T, Yoda T, Honma M, Suzuki H, Ando T, Aoki K. The induction of RANKL molecule clustering could stimulate early osteoblast differentiation. Biochem Biophys Res Commun. 2019;509:435-40.
- Ikebuchi Y, Aoki S, Honma M, Hayashi M, Sugamori Y, Khan M, Kariya Y, Kato G, Tabata Y, Penninger JM, Udagawa N, Aoki K, Suzuki H. Coupling of bone resorption and formation by RANKL reverse signalling. Nature. 2018;561:195-200.
◆骨芽細胞に発現するRANKLは、破骨細胞から放出されるRANKを認識する受容体として機能し、骨芽細胞分化促進・骨形成上昇に寄与していることを明らかにしました。
◆本成果は、骨芽細胞における役割が不明瞭であったRANKLに関して、その生理的な役割を解明した初めての研究となります。
◆骨芽細胞に発現するRANKLが、骨形成を促進する創薬標的となり得る事も示しており、骨粗鬆症に対する新規治療薬の開発に繋がると期待されます。
(本論文は東京大学によりプレスリリースされました。)
- Honma M, Ikebuchi Y, Kariya Y, Suzuki H. Establishment of optimized in vitro assay methods for evaluating osteocyte functions. J Bone Miner Metab. 2015;33:73-84.
- Honma M, Ikebuchi Y, Kariya Y, Hayashi M, Hayashi N, Aoki S, Suzuki H. RANKL subcellular trafficking and regulatory mechanisms in osteocytes. J Bone Miner Res. 2013;28:1936-49.
- Matsuo H, Takada T, Ichida K, Nakamura T, Nakayama A, Ikebuchi Y, Ito K, Kusanagi Y, Chiba T, Tadokoro S, Takada Y, Oikawa Y, Inoue H, Suzuki K, Okada R, Nishiyama J, Domoto H, Watanabe S, Fujita M, Morimoto Y, Naito M, Nishio K, Hishida A, Wakai K, Asai Y, Niwa K, Kamakura K, Nonoyama S, Sakurai Y, Hosoya T, Kanai Y, Suzuki H, Hamajima N, Shinomiya N. Common defects of ABCG2, a high-capacity urate exporter, cause gout: A function-based genetic analysis in a Japanese population. Sci Transl Med. 2009;1:41-48.
受賞等 (本人のみ)
- 最優秀発表賞. 新学術領域研究「統合的多階層生体機能学領域の確立とその応用」若手ワークショップ2013 (2013年9月愛知)
- 優秀発表者賞. 日本薬学会第4回次世代を担う若手医療薬科学シンポジウム (2010年11月東京)
- 最優秀発表者賞. 日本薬剤学会第24回年会 (2009年5月静岡)
- Best Poster 2nd Prize. Falk Symposium 165 XX International Bile Acid Meeting (Amsterdam, Jun. 2008)
研究費
2022〜2025年度 基盤研究(B)(研究代表)
Wntシグナルの包括的な解読に基づいた新規シグナル修飾分子の創出
2022〜2023年度 基盤研究(B)(研究分担)
RANKL逆シグナルが自己免疫疾患の病態に及ぼす影響の解析
2021〜2024年度 基盤研究(B)(研究分担)
骨細胞由来膜小胞と生活動作下での破骨細胞活性化の関連性解析
2021〜2022年度 挑戦的研究(萌芽)(研究代表)
骨細胞の細胞老化による骨リモデリング制御機構の解析
2019〜2020年度 挑戦的研究(萌芽)(研究代表)
膜小胞分泌に基づいた骨細胞による骨質維持機構の解析
2018〜2021年度 基盤研究(B)(研究代表)
強力な軟骨細胞分化能を示すペプチドW9の作用機序解明とそれに基づく新規薬剤の創製
2018〜2021年度 基盤研究(A)(研究分担)
がん分子標的薬の合理的投与設計手法の構築
2015〜2016年度 挑戦的萌芽研究(研究代表)
骨細胞アポトーシスに伴う成熟破骨細胞形成の時空間的な制御機構の解析
2014〜2017年度 若手研究(A)(研究代表)
RANKL逆シグナルの発見に基づいた関節リウマチ発症機構の解析
2013〜2014年度 挑戦的萌芽研究(研究代表)
RANKL逆シグナルを介したSOST分子の経時的な発現制御機構の解析
所属学会等
日本薬学会、日本医療薬学会、日本薬物動態学会、日本薬剤学会、日本生化学会、日本骨代謝学会、日本骨免疫学会
その他