心療内科とは
心療内科とは
・心療内科は「内科」の一部です。 ・ストレスが関連する「からだの病気(身体疾患)」である「心身症」を主な診療対象として、50年以上前に日本で誕生しました。「心身症」は特別な病気ではなく、生活習慣病などが含まれます。 ・「からだ(身体面)」だけでなく、「こころや環境(心理社会面)」を含めた「全人的医療」を実践し、特に、「こころ」と「からだ」がお互いに影響し合う「心身相関」の評価とアプローチを行うことが特徴的です。 ・薬物療法に加え、「心理療法」を併用するという特徴があります。 ・「心理療法を行う」という特徴がありますので、摂食障害の患者さんや、身体疾患を持つ患者さんのこころのケアも得意とします。 |
東京大学医学部附属病院の内科の一部門として、心療内科があります。
心療内科とはどんな科でしょうか。名前はよく聞くけれど、説明しろと言われると困る人が多いのではないでしょうか。また、よく精神科と混同されますが、その違いについても少し考えてみたいと思います。
まず、心療内科を一言で説明するなら「心身症を主な対象疾患として、心理療法も併用して診察および治療する内科」といったところでしょうか。
私たちの「こころ」と「からだ」は密接に関係しあっていて、切り離せません。不安や恐怖を感じると心臓がドキドキした経験は誰しもあると思います。また、空腹だとイライラしたり、痛みが長く続くと気持ちも落ち込んできます。このように、「こころ」と「からだ」は、神経系、内分泌系、免疫系などを介してお互いに影響しあっていて、これを心身相関と呼んでいます。心療内科の歴史は、心身相関の研究と診療の実践により始まりました。
私たちの生活では、さまざまなストレスが存在します。強いストレスを受けたり、慢性的なストレスにさらされて、それらをうまく処理できないと、さまざまな問題が出現します。これらをストレス反応と呼びます。ストレス反応には、頭痛や腹痛などの身体症状、気持ちの落ち込みや眠れないなどの精神症状だけでなく、場当たり的になったり、飲酒量や喫煙量が増加したり、不登校になったりと、行動面への影響もあります。身体、こころ、行動それぞれの側面が互いに影響を及ぼしあいます。それらを解決できないでいると、病気を発症したり、もともとかかっていた病気が悪くなってしまいます。これがまさに心身症です。同じ程度のストレスでも、平気な人もいれば、強いストレス反応が出る人もいます。遺伝要因や生育環境も重要な要素ですが、ソーシャルサポート(周囲からの支え)やストレス対処能力が、ストレスの影響の緩和や健康行動の維持に重要であることが注目されています。
心療内科では、身体診察や血液検査など一般の内科で行うアセスメントだけでなく、医療面接を十分におこない、心理テストも用いて、心理・社会的因子のアセスメントも行います。心理・社会的因子とは、そのひとの性格や行動パターン、社会的背景や家庭環境などのことを言います。からだの症状という一面だけを診るのではなく、心理面・社会面など様々な視点から、いわば全人的にアプローチを行います。
精神科との違いですが、私たち心療内科医は、精神科医ではなく内科医です。主な診療対象とする心身症は、「こころの病気(精神疾患)」ではなく、「からだの病気(身体疾患)」です。身体疾患があることが前提で、それがストレスによって発症や悪化をしている患者さんに対して、心身両面から治療していきます。精神疾患の場合は、精神科や神経科の治療対象となります。精神疾患のために身体症状が出現することもありますが、元となる精神疾患の治療が必要ですので、この場合も精神科や神経科が専門の科となります。
ただし、「心療内科」という名前でも、診療所や病院によって担当医が精神科医であったり、心療内科医であったりすることがありますので、予め、受診される前に、ご自身の病状で受診することが適切であるかを、その医療機関にご確認されることをお勧めいたします。
心身症
心身症は独立したひとつの病気の名前ではありません。日本心身医学会(1991)での定義では「病気の成り立ちや経過に心理社会的な因子が密接に関係している」一連の病気を心身症としています。また、「神経症やうつ病など、他の精神障害に伴っておこる身体症状は含みません」と定義しています。
例えば、ある気管支喘息の患者さんの発病した時やこれまでの病気の経緯を調べていった時に、明らかに心理社会的ストレスが関係していることがわかった場合、心療内科での治療の対象となります。
摂食障害
摂食障害は難しい病気にもかかわらず、専門的な治療を行うことのできる施設が少ないのが現状です。当科では、日本でも有数の、摂食障害の専門的な医療機関として、診断から入院による治療まで力を入れています。
摂食障害は、神経性やせ症(anorexia nervosa、AN)と神経性大食症(bulimia nervosa、BN)と過食性障害(Binge eating disorder、BED)の3つに大きくわけることができます。患者さんはやせていても、自分は太っていると確信していて、体重が増えることを極端に恐れます。また、自己評価が体重や体形によって大きく影響されるという特徴あり、日常生活に大きな支障が出ます。女性に多い病気ですが、全体の約5%は男性患者です。
著しいやせや低栄養によって身体的な合併症をきたすため、厳重な身体管理が必要となるときには入院での治療を行います。詳細はこちら(PDF)をご参照ください。
サイコオンコロジー・緩和ケア
サイコオンコロジー(Psycho-Oncology)は、「心」の研究をおこなう心理学(サイコロジー=Psychology)と「がん」の研究をする腫瘍学(オンコロジー=Oncology)を組み合わせた造語で、「精神腫瘍学」と訳され、1980年代に確立した新しい学問です。サイコオンコロジーでは、がん患者さんとご家族の心理・社会・行動的側面など幅広い領域での研究・臨床実践・教育を行います。(日本サイコオンコロジー学会のHPより)
がんは、日本人の死因で最も多い病気で、現在、3人に1人ががんで亡くなっています。がん患者さんは、がんそのものによる症状や、治療の副作用などによる身体的な苦痛を経験するだけでなく、うつや不安などのさまざまな心理的な苦痛を経験します。また、経済的な問題や仕事上の問題といった社会的苦痛など、さまざまな種類の苦痛が存在し、全人的に治療する必要があります。複数の研究で、全がん患者の15~25%が抑うつを伴うことが示されていますが、患者さん自身だけでなく一般医療者も、心理的問題を過小認識してしまっていて、適切な介入が行われることが少ないという現状があります。
「緩和ケア」と言うと、終末期に行うものというイメージがあるかも知れませんが、今は、がんと診断されたときから行うケアだと考えられるようになっています。
当科では、サイコオンコロジーや緩和ケアについての治療や研究も積極的に行っています。
治療法
身体面だけでなく、心理面や行動面も含めて、全人的に治療していきます。このような治療を「心身医学療法」と呼びます。当科で行われている心身医学療法の代表的なものについて、順に説明していきます。
生活指導(心理教育)
不規則な生活習慣は、生活習慣病の発症や悪化の原因となるだけでなく、疲労や睡眠障害も引き起こします。規則正しい生活は、健康を増進し、生活習慣病の発症の予防に重要です。ましてや体調を崩しているときには、ライフスタイルの改善は基本となります。
薬物療法
内科的疾患に対する薬物療法のほか、抗不安薬、抗うつ薬、睡眠薬などの向精神薬も適宜使用します。
認知行動療法
当科では主に心身症や摂食障害の患者さんに対して行っています。
患者さんの感じ方、考え方の歪みを検証してものの見方と行動変容をうながし、物事に対して上手に対処できるようにすることを狙った心理療法です。
行動療法
当科では摂食障害の患者さんに対して、食事訓練のほか、行動療法を行うこともあります。行動療法は観察できる不適応行動に焦点を当て、学習理論に基づく条件付けによって行動を直接変更させようとするものです。
自律訓練法
「公式」と呼ばれる決まった語句を心の中で繰り返し唱えて、その内容へ注意を集中することによって、全身の緊張を解いてゆくリラクセーション法です。身体的な痛みや精神的苦痛の緩和、疲労回復、自己統制力の向上などの効果があると言われています。当科では背景公式(安静練習)を基本に、第1公式(四肢重感練習)、第2公式(四肢温感練習)までの指導、練習を行っています。
交流分析
アメリカの精神科医であるエリック・バーンが1950年代に提唱した、交流分析理論に基づく心理療法です。人間関係の改善、本人の自律性の獲得、さらには自己実現を目指します。最初に、当科で開発・作成した質問票の「新版TEG II」で、自我状態(エゴグラム)をアセスメントします。交流分析の理論は非常に奥が深いので、詳細に関してはここ省略しますが、その基本哲学は次のようなものです。「人は誰でもOKである」「人は誰もが考える能力を持ち、自分の行動・思考・感情、さらには人生に責任を持つ」「人は自分の運命を決め、その決定は変えることが出来る」