靈蘭之室 茶餘酒後

   ……休息している閑な時間

金屈卮


勸君金屈卮 滿酌不須辭 花發多風雨 人生足別離

 この于武陵の勧酒の詩、井伏鱒二の訳が名訳なのか迷訳なのか、そっち方面ばかり気になって、金屈卮とは何ぞや、なんて考えたことなかったですね。考えてみればこれは当然ながら酒器である。卮というのは『漢辞海』によると、「木を円筒状に曲げ、漆をぬった酒器」で、ジョッキのように持ち手がつくことが多く、ふたがつくものもあって、容量はビヤホールに喩えて言えば、大きければピッチャー以上、普通のものでも中ジョッキに近いそうです。ちょっとイメージと違うなあ。

 青木正児先生の『中華飲酒詩選』の解説では、「つまりコーヒイ茶碗のやうに取手の有る杯」ということで、そこにも引かれている宋・孟元老『東京夢華録』によれば、宮中の宴会に用いる盞はみな屈卮であって、殿上では純金、廊下では純銀のものを用いた。勿論、民間でもこの手の物は用いられたはずで、少なくとも青木先生の経験では「此の式の物は現今も行われてゐる。」

 そういえば、京劇の舞台に登場する酒杯にも取手が有って、金属製のようですね。それから想像しても、まあコーヒーカップ並みの大きさというのが妥当じゃなかろうか。

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