メタ倫理学

(めたりんりがく meta-ethics)

The meta-ethical philosopher may far too readily forget that ordinary ethical thinking is frequently muddled, or else mixed up with questionable metaphysical assumptions. In the clear light of philosophical analysis some ethical systems may well come to seem less attractive. Moreover, even if there can be clear-headed disagreement about ultimate moral preferences, it is no small task to present one or other of the resulting ethical systems in a consistent and lucid manner, and in such a way as to show how common, and often specious, objections to them can be avoided.

---J.J.C. Smart

実質的倫理学とメタ倫理学の相違は、 「一次段階」と「二次段階」の議論の相違として要約することもできよう。 一次レベル、つまり実体的倫理学レベルにおいては、 我々の議論は直接に行為の実践的問題に関わるが、 我々は議論を二次レベルへと移して、 そこから以前の一次レベルを振り返り、 我々があの一次レベルでなしていたことは何であったかと、 問題を提起することができるのである。

---リチャード・ノーマン

哲学のうちで第一の、そして一番必要な部分は、 例えば嘘をつくなというような、原理の実行に関する部分である。 第二の部分はその証明に関する部分で、 例えばどこからして嘘はつくべきでないかというようなものである。 第三はそれら自身に関する確実にして明瞭に説明する部分で、 例えばこれが証明であるのはどこからしてであるか、 一体証明とは何であるか、帰結とは何であるか、 矛盾とは何か、真とは何か、偽とは何かという如きである。 ところで第三の部分は必然第二の部分に基づき、 第二の部分は第一の部分に基づいている。 しかし最も必要にして、そこにとどまるべきものは第一の部分だ。 だがわれわれはあべこべなことをしている。 なぜかというとわれわれは第三の部分の中で時を費しているし、 またわれわれは全くそれに夢中になっているからだ。 だがわれわれは第一のものをまるでおろそかにしている。 だからわれわれは嘘はいうけれども、 嘘をつくべきでないという証明は準備ができてるわけなのだ。

---エピクテートス


道徳的判断の内容ではなく形式を研究する学問のこと。 倫理学における認識論、言語分析、存在論などの総称。

[英語ではしばしばstudy of ethicsではなくstudy about ethicsであるというように説明される。 わかったようなわからないような説明だが、言わんとするところは、 「(個々の)倫理を研究するのではなく、倫理(そのもの)について研究する」 ということである。]

たとえば、「死刑を廃止すべきだ」とか「それ自体として善いものは快だけだ」 といった主張に対して、メタ倫理学では、 「死刑を廃止すべきかどうか」とか「それ自体として善いものは快だけかどうか」 という内容を議論するのではなく、道徳判断に特有の文や言葉に注目し、 「その主張は『外は雨が降っている』という主張と同じように真とか偽とか 言うことができるだろうか」とか、 「『すべき』とか『善い』というのは、発言者の主観的な意見に過ぎないのか、 それとも何か客観的な事実に基づいているのか」といった問題を検討する。

メタ倫理学は20世紀前半に主流であった分析哲学、言語哲学、分析法理学といった 運動と連動しており、 基本的には「概念の分析」という手法を倫理学に適用したものである。 道徳判断の性質について多様な見解が打ち出されたが、 70年代にロールズがより実践的な 倫理学(規範倫理学)を復興させて以来、結論のつかないまま下火になっている。 (下火になったのではなく、 メタ倫理学と規範倫理学との境界があいまいになったと言う人もいる)

「現在は下火になっている」という風に以前は理解していたが、 実はそうではなく、 70年代後半に 「言語分析だけじゃだめで、存在論をやる必要がある」 と主張したマッキーや、 科学的説明と倫理的説明の違いを論じたハーマンらの議論が刺激となり、 80年代以降は倫理学における認識論や実在論の議論がまた活性化している。

倫理学ムーアスティーヴンソンエアヘアブラックバーンの項も参照せよ。

06/Jun/2001; 15/Jul/2001; 13/Oct/2003


上の引用は以下の著作から。


KODAMA Satoshi <kodama@ethics.bun.kyoto-u.ac.jp>
Last modified: Sat Jul 3 18:21:16 JST 2004