[Synonyms:Otopalatodigital Spectrum Disorders (OPDSD)]
Gene Reviews著者:Stephen Robertson, FRACP, DPhil.
日本語訳者: 佐藤康守(たい矯正歯科)、櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
GeneReviews最終更新日: 2019.10.3. 日本語訳最終更新日: 2023.1.31.
原文: X-Linked Otopalatodigital Spectrum Disorders
疾患の特徴
X連鎖性耳口蓋指スペクトラム障害は、骨格異形成を主たる特徴とする疾患で、以下のものを包含する。
OPD1については、大多数の症候が出生の段階ですでに存在する。女性の場合は、男性と同程度の重症度を示す例もあれば、ごく軽度の症候しか有しない例もみられる。
OPD2については、女性のほうが血縁者の男性に比べ、症候が軽度である。OPD2の男性は、多くが満1歳に達する前に死亡する。死因は胸郭低形成に起因する肺機能不全であることが多い。1年を超えて生存する男性は、通常発達遅滞を有し、呼吸補助や摂食支援が必要である。
FMD1も、女性のほうが血族の罹患男性に比べ症候が軽度である。男性は、進行性の骨格異形成を示すことはないものの、関節拘縮や手足の形態異常を呈することがある。進行性の脊柱側彎は、男女ともにみられる。
MNSは表現型のばらつきの幅が大きく、成人期に至って初めて診断される例がある一方、呼吸補助が必要になったり、早期に死亡したりといった例もみられる。MNSの男性は、報告にあるすべての例が周産期に死亡している。
TODPDは、女性のみにみられる。その特徴は、指趾に最も顕著に現れる骨格異形成、皮膚の色素異常、反復性の指趾の線維腫である。
診断・検査
男性発端者におけるX-OPDスペクトラム障害の診断は、特徴的な臨床症候やX線症候に加えて、X連鎖性の継承パターンを示す家族歴を有することで確立する。臨床症候、X線症候、家族歴で断定しにくい場合は、分子遺伝学的検査でFLNAの病的バリアントのヘミ接合を同定することで、診断の確認が可能である。
女性発端者におけるX-OPDスペクトラム障害の診断は、通常、特徴的な臨床症候やX線症候に加えて、X連鎖性遺伝の家族歴を有することで確立する。臨床症候、X線症候、家族歴で断定しにくい場合は、分子遺伝学的検査でFLNAの病的バリアントのヘテロ接合を同定することで、診断の確認が可能である。
臨床的マネジメント
症候に対する治療:
手足の形態異常に対しては外科手術が必要になることもある。脊柱側彎については、モニタリングと、必要に応じて外科的介入、拘縮に対しては理学療法、前頭-眼窩部の変形に対しては、時に美容外科での改善、小下顎症関連の気道の問題に対しては、持続陽圧呼吸療法(CPAP)や下顎骨延長術で改善可能なことがあり、難聴に対しては補聴器の使用、喉頭狭窄のため挿管や換気が必要な場合は、麻酔科的評価を行う。
定期的追跡評価:
拘縮や側彎などの整形外科的合併症については、年に1度の臨床評価、頭蓋縫合早期癒合症については、臨床評価の際に併せて頭部の大きさ・形のモニタリング、必要に応じ睡眠ポリグラフも含めて行う無呼吸に関する年に1度の評価、年に1度の聴覚評価を行う。
リスクを有する血縁者の評価:
リスクを有する血縁者に対しては、その家系に特異的な病的バリアントを調べる分子遺伝学的検査を検討する。
遺伝カウンセリング
X-OPDスペクトラム障害は、文字通りX連鎖性の継承を示す。OPD1、OPD2、FMD1を有する発端者の片親がFLNAの病的バリアントを有していた場合、その後の妊娠に際してそのバリアントを子に伝達する可能性は50%である。
家系内に存在する病的バリアントの内容が判明している場合は、出生前検査や着床前遺伝子検査を行うことが可能である。
X連鎖性耳口蓋指スペクトラム障害:ここに含まれる表現型1 |
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別名、ならびに過去に用いられた名称については、「命名法について」の項を参照のこと。
X連鎖性耳口蓋指(X-OPD)スペクトラム障害は、さまざまな重症度の骨格異形成を主たる特徴とし、異質性を有する疾患群である。具体的には次のものが含まれる。
本疾患を示唆する所見
次のような臨床症候(表1)やX線症候(表2)を有する例については、X-OPDスペクトラム障害を疑う必要がある。
表1:X連鎖性耳口蓋指スペクトラム障害:臨床症候
表現型 | 頭蓋顔面症候 | 骨格症候 | その他 |
---|---|---|---|
OPD1(男性の表現型) | 口蓋裂と特徴的顔貌(眼窩上隆起の突出,眼瞼裂斜下,眼間開離,幅広の鼻梁と鼻尖,部分性無歯症) | 指趾:短く近位付着の拇指,末節骨低形成,第1趾低形成,長い第2趾,サンダルギャップ(訳注:第1趾と第2趾の間の空隙が広い状態をいう) 関節可動域制限,四肢の軽度彎曲 |
伝音性・感音性難聴 正常な知能 |
ヘテロ接合の女性1:症候のばらつきが大きい。 中には血族の男性罹患者と同程度の症候を示す女性もいる。 |
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OPD2(男性の表現型) | Pierre Robin sequence; 特徴的顔貌(OPD1より重度) |
指趾:低形成の拇指趾,拇趾欠損,屈指趾 胸郭低形成,大泉門閉鎖遅延,四肢の彎曲,低身長 |
伝音性・感音性難聴 心臓:心室中隔欠損,右室流出路閉塞性病変 臍ヘルニア 腎尿路生殖器系:水腎症を伴う尿管閉塞,尿道下裂 発達遅滞,新生児期での死亡 |
ヘテロ接合の女性1:不顕性であることも多い。 特徴的顔貌(眼窩上隆起の突出,幅広の鼻梁と鼻尖)が最も多くみられる所見。 時に伝音性難聴,口蓋裂,骨格や指趾の奇形がみられる。 |
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FMD1(男性の表現型) | 特徴的顔貌(OPD2より重度) | 指趾:末節骨低形成,手の進行性拘縮 関節可動域制限(手首・肘・膝・踝), 脊柱側彎,四肢の彎曲 |
伝音性・感音性難聴 筋の低発達(肩甲帯,手の内在筋) 先天性喘鳴を伴う声門下狭窄 腎尿路生殖器系:尿管・尿道狭窄,水腎症 正常な知能 |
ヘテロ接合の女性:男性罹患者と同様の特徴的顔貌 | |||
MNS(女性の表現型) | 眼窩上隆起外側縁の突出,眼球突出,膨らんだ頰,小下顎症,部分性無歯症,顔面非対称 | 指趾:末節骨の軽度低形成を伴う長い指 胸郭低形成,四肢の彎曲、関節亜脱臼,低身長 |
伝音性・感音性難聴,水腎症を伴う尿管閉塞,コロボーマ,正常な知能 |
ヘミ接合の男性:表現型は重度のOPD2類似で致死性のものから軽度のものまで幅がみられる(訳注:本文では軽度型の男性の存在については述べられておらず、この表のほうに誤りがあるものと思われる)。 | |||
TODPD(女性の表現型) | 眼間開離,口腔の小帯,側頭部の高色素性病変,脱毛 | 指趾:乳児期の線維腫,屈指趾症,四肢の彎曲,低身長 | 心臓:心室中隔欠損 正常な知能 |
ヘミ接合の男性:男性の表現型に関する報告はみられない。 |
表2:X連鎖性耳口蓋指スペクトラム障害:X線症候
表現型 | 頭蓋骨 | 脊椎 | 胸郭 | 長骨 | 手/足 | 骨盤 |
---|---|---|---|---|---|---|
OPD1(男性の表現型) | 頭蓋底硬化,厚い頭蓋冠,前頭洞低発達,低含気の乳様突起 | 椎弓後部の癒合不全(特に頸椎) | 軽度の彎曲,橈骨頭の脱臼 | 幅広で短い中手骨を伴う拇指,末節骨の低形成,第2中手骨近位の過剰骨化中心,中手骨・中足骨の癒合 | 狭骨盤,腸骨翼フレアの欠如 | |
OPD2(男性の表現型) | OPD1に同じ,大きな大泉門 | OPD1に同じ,分節奇形 | 低形成の薄い肋骨 | 彎曲,横に広がった骨幹端,腓骨欠損 | 幅広で形態不整の指節骨・手根骨・足根骨。 これに末節骨重複が加わることあり。 |
OPD1に同じ |
FMD1(男性の表現型) | OPD1に同じ,時に頭蓋縫合早期癒合症 | C2-3-4の癒合,椎弓後部の癒合不全 | 時にハンガー形肋骨がみられる。 | 軽度の彎曲, 長骨の低管状化(undertubulation) |
手根骨・足根骨の癒合,その後に生じる手根骨の侵食,指節骨・中手骨・中足骨の延長や形態形成不全,末節骨低形成(拇指趾) | |
MNS(女性の表現型) | OPD1に同じ | 腰椎を中心とした椎体の高さの増加 | 胸郭低形成,不揃いの肋骨,近位端の拡大を伴う波打った鎖骨 | 時にリボン状を呈する彎曲,皮質の凹凸不整 | 指節骨・中手骨・中足骨の延長や形態形成不全 | 寛骨臼上部狭窄,腸骨翼フレアの狭窄 |
TODPD(女性の表現型) | 正常 | 脊柱側彎 | 一貫して生じる異常なし。 | 不規則な骨化,骨端近傍の嚢胞性病変,彎曲,橈骨頭の脱臼 | 手根骨・中足骨の低形成・短小化・不規則な骨化・癒合,皮質の凹凸不整 | 狭い腸骨, 内反股 |
診断の確定
男性の発端者
男性発端者におけるX-OPDスペクトラム障害の診断は、特徴的な臨床症候(表1)とX線症候(表2)に加え、X連鎖性継承パターンの家族歴がみられることで確定する。臨床症候、X線症候,家族歴で断定しにくいような場合は、分子遺伝学的検査でFLNAの病的バリアントのヘミ接合を同定することで、診断の確認が可能である(表3参照)。
女性の発端者
女性発端者におけるX-OPDスペクトラム障害の診断は、特徴的な臨床症候(表1)とX線症候(表2)に加え、X連鎖性継承パターンの家族歴がみられることで確定できることが多い。臨床症候、X線症候,家族歴で断定しにくいような場合は、分子遺伝学的検査でFLNAの病的バリアントのヘテロ接合を同定することで、診断の確認が可能である(表3参照)。
分子遺伝学的検査
分子遺伝学的検査としては、遺伝子標的型検査(単一遺伝子検査,マルチ遺伝子パネル)と網羅的ゲノム検査(エクソームシーケンシング,ゲノムシーケンシング)を、表現型に応じて組み合わせて用いるやり方が考えられる。
遺伝子標的型検査の場合、臨床医のほうで候補遺伝子の目星をつけておく必要があるが、ゲノム検査の場合、そうした必要はない。X-OPDスペクトラム障害の表現型は広いばらつきの幅を有しているため、「本疾患を示唆する所見」にある明確な症候を有している例については、遺伝子標的型検査(「方法1」参照)で診断がつく可能性が高く、一方、X-OPDスペクトラム障害の診断を検討しにくい例については、ゲノム検査(「方法2」参照)が必要になる可能性が高い。
方法1
表現型と検査所見からX-OPDスペクトラム障害の診断が示唆される場合は、分子遺伝学的検査として、単一遺伝子検査とマルチ遺伝子パネルのいずれかが使用されることになろう。
遺伝子内の微小欠失/挿入やミスセンスバリアントを検出するためのFLNAの配列解析を行う。
注:遺伝子全体の欠失の場合、女性では脳室周囲結節状異所性灰白質が生じ、男性では胚性致死と思われる。遺伝子の部分欠失の場合は、X-OPDスペクトラム障害という形では現れない。遺伝子全体の重複(隣接遺伝子も含めた重複)では、知的障害や癲癇発作が現れる(「遺伝子の上で関連のある疾患」の項を参照)。
TODPDと思われる表現型を有する例についてはc.5217G>Aのバリアントを標的にした解析を最初に行うという方法もある。ただし、この検査で陰性だったとしても、それでTODPDの可能性が排除されるわけではない。
意義不明のバリアントや、現状の表現型と無関係な遺伝子の病的バリアントの検出を抑えつつ、最も安価に疾患の遺伝的原因を同定できるのは、おそらく、FLNAその他の関連遺伝子(「鑑別診断」の項を参照)を含むマルチ遺伝子パネルであろうと思われる。
注:(1)パネルに含められる遺伝子の内容、ならびに個々の遺伝子について行う検査の診断上の感度については、検査機関によってばらつきがみられ、また、経時的に変更されていく可能性がある。
(2)マルチ遺伝子パネルによっては、このGeneReviewで取り上げている状況と無関係な遺伝子が含まれることがある。
(3)検査機関によっては、パネルの内容が、その機関の定めた定型のパネルであったり、表現型ごとに定めたものの中で臨床医の指定した遺伝子を含む定型のエクソーム解析であったりすることがある。
(4)ある1つのパネルに対して適用される手法には、配列解析、欠失/重複解析、ないしその他の非配列ベースの検査などがある。
マルチ遺伝子パネル検査の基礎的情報についてはここをクリック。遺伝子検査をオーダーする臨床医に対する、より詳細な情報についてはここをクリック。
方法2
表現型が典型的なものでないため、それだけではX-OPDスペクトラム障害の診断を検討するところまではいかないといった場合であれば、網羅的ゲノム検査(この場合は、どの遺伝子の関与が考えられるかという目星を、臨床医の側で事前につけておく必要はない)が最良の選択肢となろう。ゲノム検査の手法としては、エクソームシーケンシングが最も広く用いられるが、ゲノムシーケンシングを選択することも可能である。
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表3:X連鎖性耳口蓋指スペクトラム障害で用いられる分子遺伝学的検査
遺伝子1 | 手法 | 表現型 | その手法で病的変異2が検出される発端者の割合 |
---|---|---|---|
FLNA | 配列解析3 | OPD1 | 94%(n=154. |
OPD2 | 100%(n=19)4 | ||
FMD1 | 71%(n=47)5 | ||
MNS | 100%(n=27)4 | ||
c.5217G>Aの標的型解析 | TODPD | 100%(n=6)6 | |
遺伝子標的型欠失/重複解析7 | 0%8 |
臨床像
FLNAの病的バリアントが同定されたX-OPD症候群スペクトラム障害罹患者の数は、現在までに150例を超える[Robertsonら2003,Robertsonら2006a,Robertsonら2006b]。
以下に述べる表現型は、こうした報告をもとにまとめたものである。
表4:X連鎖性耳口蓋指スペクトラム障害でみられる症候
疾患名 | 症候 | その症候を有する例の割合 |
---|---|---|
OPD1男性 | 指趾の奇形 | 100% |
難聴 | 100% | |
軽度の四肢の彎曲 | 不明 | |
口蓋裂 | 75% | |
OPD2男性 | 胸郭低形成 | 100% |
口蓋裂 | 80% | |
FMD1男性 | 眼窩上部骨肥厚 | 100% |
尿路閉塞 | 不明 | |
MNS女性 | 小下顎症 | 100% |
四肢の彎曲 | 100% | |
低身長 | 100% | |
胸郭低形成 | 100% | |
TODPD女性 | 指趾の線維腫 | 100% |
X線写真でみられる凹凸不整 | 100% | |
四肢の彎曲 | 不明 |
X連鎖性耳口蓋指(X-OPD)スペクトラム障害の自然経過については、ほとんどわかっていない。男女とも、症候はすべて小児期には始まっているようである。
男性については、重症度のスペクトラムは、軽度型の耳口蓋指症候群1型(OPD1)から、より重度型の前頭骨幹端異形成症1型(FMD1)や耳口蓋指症候群2型(OPD2)までである。Melnick-Needles症候群(MNS)男性については、出生前致死例としての報告があるのみである[Spencerら2018]。
女性については、表現度に大きなばらつきがみられる。OPD1では、男性罹患者と同程度の重症度を示す例がみられる一方で、ごく軽微な症候がみられるのみといった例もみられる[Gorlinら1973]。OPD2とFMD1では、女性罹患者は男性罹患者より重症度が低い[Robertsonら1997,Mouttonら2016]。
OPD1
症候のほとんどは、出生段階で認められる。晩発性の整形外科的合併症、短命、受胎能力の低下といったものは報告されていない。
OPD1の男性には、以下のような症候がみられる。
OPD1の女性については、表現度に大きな幅がみられる。女性の中には、血縁の男性罹患者と同様の表現型を呈する例もみられる。また、女性においても伝音性ないし感音性難聴が現れることがある。
注:家系内に罹患男性がおらず、女性1人のみの罹患例の場合は、OPD1であるかOPD2であるか、確実に鑑別することは困難である[Mouttonら2016]。
OPD2
OPD2の男性には、以下のような症候がみられる[Andréら1981,Fitchら1983]。
OPD2の女性は、通常、表現型としては無症候性である。中で最も多くみられるのは、特徴的頭蓋顔面症候(眼窩上隆起の突出,幅広の鼻梁と鼻尖)である。時に、伝音性難聴の報告がみられる。また時に、女性でも男性と同程度の重症度の表現型(頭蓋顔面の形態異常,口蓋裂,伝音性難聴、骨格・指趾の奇形)を示す例がみられる。
注:血縁者に男性罹患者がおらず、家系内で1人だけの女性罹患者の場合は、OPD1とOPD2を、確信をもって鑑別することはできない。
前頭骨幹端異形成症1型
前頭骨幹端異形成症1型は、OPD1と多くの特徴を共有し、中には両者を同一疾患とみなす向きもある[Superti-Furga & Gimelli 1987]。
FMD1の男性には、以下のような症候がみられる。
FMD1の女性は、特徴的頭蓋顔面症候については罹患男性と同様の形でみられる[Gorlin & Winter 1980]。FMD1の男性でみられる指趾、声門下、泌尿器の奇形は、女性ではみられないか、もしくはきわめて軽微な形でみられるに過ぎない。
Melnick-Needles症候群
女性については、かなり大きな臨床像のばらつきがみられる。成人に達した後に、血縁者の罹患が確認されたことで、初めて診断に至るような例もみられる[Kristiansenら2002]一方で、呼吸補助を要するような例もみられる。呼吸補助の開始年齢はふつう10歳以降であるが、通院での酸素補給療法を要した例も数例存在する。こうした例は短命となる。
女性において従来型のMNSをもたらすに至ることがわかっている病的バリアントを有していた4人の男性例の示した表現型が報告されている。この4人については、以前から報告されていた骨格症候(上肢の屈曲,拇指低形成,軸後性多指趾,下肢の彎曲,内反足,脊柱後側彎,拇趾低形成)、頭蓋顔面症候(開大した大泉門,平坦な頰骨,両側性の口蓋裂,舌裂,重度の小下顎症)、内臓症候(膵・脾の線維症,閉塞性尿路疾患に伴って二次的に生じる両側性の嚢胞性異形成腎,臍ヘルニア)、眼科的異常(眼球突出,眼間開離,強膜化角膜,白内障,網膜血管腫症,両眼前房の劈開)がみられた[Santosら2010,Naudionら2016,Spencerら2018]。
MNSの男性は、通常OPD2と区別が難しいながら、より重度の表現型を呈する。典型的なMNSを有する女性が男児を妊娠し、OPD2の重度型を思わせる致死性表現型と子宮内で診断された例が数例存在する[Santosら2010,Naudionら2016,Spencerら2018]。
MNSの女性には、以下のような症候がみられる。
皮膚色素異常を伴う末端骨異形成症
皮膚色素異常を伴う末端骨異形成症(TODPD)の女性の自然経過が、ある大家系で報告されている[Brunetti-Pierriら2010]。TODPDの男性の示す症候については報告例がない。
女性については、顔、手、皮膚に顕著な異常がみられる。
遺伝型-表現型相関
X-OPDスペクトラム障害を引き起こす病的バリアントでは、翻訳の際の読み枠が維持されて、タンパク質が最終的な長さまで産生されるものと予測されている。これらのバリアントは、遺伝子内の互いに離れた複数の領域に固まって存在する。強い遺伝型-表現型相関がみられる。現在までに2つの大規模研究の報告がみられる[Robertsonら2006a]。
OPD1の診断を受けた男性はすべて、エクソン3,4,5のいずれかに病的バリアントを有していた。
OPD2の診断を受けた男性はすべて、エクソン3,4,5のいずれかに病的バリアントを有していた。典型的なOPD2の男性と同様の表現型を有する女性は、エクソン28,29のいずれかに病的バリアントを有していた。
MNS罹患者の大多数(90%超)は、FLNAのエクソン22に病的バリアントを有する。
圧倒的に多いのは、p.Ala1188Thr、p.Ser1199Leuという2つのバリアントである。
稀ながら、エクソン6,23に病的バリアントを有する例も同定されている。
浸透率
X-OPDスペクトラム障害を引き起こすFLNAの病的バリアントを有する男性では、浸透率は100%である。
OPD1を引き起こすFLNAの病的バリアントに関し、絶対ヘテロ接合者にあたる女性の中には、臨床的に特に異常がないように見える例も存在する。
ヘテロ接合の女性で、OPD1のX線症候を有する例の割合については、よくわかっていない。
命名法について
Melnick-Needles症候群は、もともとは骨異形成症(osteodysplasty)と呼ばれていた。
OPD1は、1963年に最初に報告されて以降、Taybi症候群とも呼ばれていた。
Verloesら[2000]は、X-OPDスペクトラム障害を構成するそれぞれの疾患が同一アレル疾患の関係にあるのではないかとの予想(この予想の正しさが後に実証された)のもとに、「前頭-耳口蓋指骨異形成症(fronto-otopalatodigital osteodysplasia)」という名称を提唱した。ただ、この名称は広く受け入れられるには至らなかった。それは、ここに含まれる疾患のいくつかは臨床的にみて別疾患であり、これらを1つの名称で一括りにすることは、診断、治療、予後判定の上で役立たなかったからである。
発生頻度
発生頻度を評価できるような一般集団ベースの研究は、今のところ行われていない。
FLNAの生殖細胞系列病的バリアント関連のその他の表現型を、表5にまとめた。
表5:FLNAの同一アレル疾患
疾患名 | コメント | 参考文献 |
---|---|---|
脳室周囲結節状異所性灰白質,X連鎖性(X-PVNH) |
|
「FLNA関連脳室周囲結節状異所性灰白質」のGeneReview, Zenkerら[2004], Hehrら[2006], Gargiuloら[2007], Kapurら[2010] |
X連鎖性脳室周囲結節状異所性灰白質のバリアント |
|
Sheenら[2005], Gomez-Garreら[2006] Reinsteinら[2013] |
粘液腫性心臓弁膜異形成 |
|
OMIM 300048 Kyndtら[2007] |
先天性腸閉塞症,X連鎖性 | FLNAの選択的転写産物の5’コーディング領域に原因となる病的バリアントが存在する場合、消化管運動障害が主要症候として出現する。 | OMIM 300048 Kapurら[2010] Jenkinsら[2018] |
表6:耳口蓋指スペクトラム障害との鑑別にあたって注目すべき他の遺伝子
遺伝子 | 疾患名 | 遺伝形式 | 鑑別診断対象疾患の臨床症候 | |
---|---|---|---|---|
X-OPDスペクトラム障害と重なる症候 | X-OPDスペクトラム障害と異なる症候 | |||
AMER1 | 頭蓋骨硬化を伴う骨線条症 | XL | 男性については、OPD2と同様の骨格異形成。 時に、OPD2でみられるものと同様の骨格以外の奇形。 |
女性では、長骨に現れる線条,大頭症,難聴。 男性では、OPD2の男性にみられるものに類似した骨格症候。 |
FLNB | Larsen症候群(LS)ならびに骨発生不全Ⅲ型(AOⅢ)(「FLNB関連疾患」のGeneReviewを参照) | AD | OPD1やFMD1と同様の顔面症候,口蓋裂,難聴,へら状の指趾。 | 大関節の脱臼(LS,AOⅢとも),ならびに種々の程度の骨化の乱れ(AOⅢ)。 |
MAP3K7 | 前頭骨幹端異形成症2型 | AD | FMD1に酷似。 | FMD1に酷似するものの、MAP3K7関連FMDのほうが口蓋裂,脊柱側彎,頸椎癒合,難聴,ケロイドを有する例がより多い。 |
NOTCH2 | 蛇行腓骨-嚢胞腎症候群(Haijdu-Cheney症候群)(OMIM 102500) | AD | 長骨、特に腓骨に顕著にみられる彎曲。 | 先端骨溶解症,骨減少症,頭蓋底の窪み。 MNSでは嚢胞腎疾患はみられない。 |
SH3PXD2B | Frank-ter Haar症候群(OMIM 249420) | AR | MNSに類似するものの、これよりかなり軽度な骨格異形成。 | Frank-ter Haar症候群では、緑内障を伴うことのある巨大角膜がみられる。 |
SKI | Sprintzen-Goldberg症候群(SGS) | AD | MNSやFMD1に類似した骨格異形成(例えば、縦長で正方形に近い脊椎,腓骨の彎曲,時に上部頸椎の癒合も)。 | SGSでは知的障害や頭蓋縫合早期癒合症がみられる。 |
TAB2 | 前頭骨幹端異形成症3型 | AD | FMD1に酷似。 | FMD1に酷似するものの、TAB2関連FMDのほうが口蓋裂,脊柱側彎,頸椎癒合,難聴,ケロイドを有する例がより多い。 |
AD=常染色体顕性遺伝,AR=常染色体潜性遺伝,XL=X連鎖性遺伝
常染色体潜性耳口蓋指症候群1型の可能性について
耳口蓋指症候群1型と同じ表現型で、常染色体潜性遺伝の可能性がある例の報告が1つだけ存在するものの、分子レベルの解析はなされていない[Zaytounら2002]。顔貌や手の状態を見る限り、この疾患は、今ここで述べているフィラミン関連疾患とは臨床症候が全く異なっている。
最初の診断に続いて行う評価
X連鎖性耳口蓋指(X-OPD)スペクトラム障害と診断された罹患者については、疾患の範囲やニーズを把握するため、診断に至る過程の評価項目の一部としてすでに実施済でなければ、表7にまとめたような評価を行うことが推奨される。
表7:X連鎖性耳口蓋指スペクトラム障害罹患者において最初の診断後に行うことが推奨される評価
系/懸念事項 | 評価項目 | コメント |
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筋骨格系 |
|
拘縮,関節亜脱臼,側彎の評価のため。 |
頭蓋顔面 | 顔面成長や頭蓋成長の非対称性に関する臨床診査 | 頭蓋縫合早期癒合症の評価のため。 |
聴覚検査 | 伝音性,感音性難聴の評価のため。 | |
口蓋の臨床診査、ならびに必要に応じ耳鼻科医への紹介 | 口蓋裂と声門下狭窄の評価のため。 | |
呼吸器系 | 必要に応じ呼吸器科医への紹介 | 胸郭低形成関連の呼吸器合併症の評価のため。 |
心臓 | 心エコー | 中隔欠損と右室流出路の閉塞性病変の評価のため。 |
歯 | 歯科的評価 | 部分性無歯症の評価のため。 |
腎尿路生殖器系 | 尿路の超音波検査 | 尿管閉塞,尿道閉塞,水腎症の評価のため。 |
眼 | 眼球突出に関する臨床評価 | 眼球突出のモニタリング |
その他 | 臨床遺伝医や遺伝カウンセラーとの面談 |
症候に対する治療
表8:X連鎖性耳口蓋指スペクトラム障害罹患者の症候に対する治療
症候/懸念事項 | 治療 | 考慮事項/その他 |
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手足の奇形 | 外科的治療を要する場合あり。 | |
脊柱側彎 | モニタリングと、必要に応じ外科的介入 | 側彎の手術で満足すべき結果が得られた例が数例みられる。 |
拘縮 | 理学療法 | |
四肢の彎曲 | 四肢の彎曲を外科的に修正した報告はみられない。 | |
前頭-眼窩の変形 | 美容外科手術 | 数例で外科的修正が試みられている。 術後の再成長はみられない模様[Kung & Sloan 1998]。 |
胸郭低形成 | 胸郭拡大術 | MNSの数例で胸郭拡大術が試みられているが、臨床上の効果は微妙。 |
無呼吸 | ・持続陽圧呼吸療法(CPAP)[Lanら2006] ・下顎骨延長術 |
MNSの最重症例で、いったん気道虚脱や睡眠時無呼吸が良好に改善されたとしても、重度罹患者で小下顎症と気管気管支軟化症がみられる場合は、再発の可能性がある。 |
難聴 | 補聴器 | 癒合や形態異常の耳小骨に対する離断術は奏功しないことが多く、外リンパガッシャ―を形成してしまう可能性がある。 |
喉頭狭窄 | 喉頭狭窄により挿管や換気が必要な場合は、麻酔科的評価 | 喉頭狭窄で外科的介入が必要になるようなことはほとんどなく、成長に伴う進行もみられない。 |
定期的追跡評価
表9:X連鎖性耳口蓋指スペクトラム障害罹患者で推奨される定期的追跡評価
系/懸念事項 | 評価法 | 実施頻度 |
---|---|---|
整形外科的症候 | 以下の悪化状況に関する臨床的評価
|
年に1度 |
頭蓋縫合早期癒合症 | 頭の大きさと形に関するモニタリングが必要。 | 乳児期の臨床評価のたびごとに行う。 |
無呼吸 | 病歴聴取と、必要に応じ睡眠ポリグラフ検査 | 年に1度 |
難聴 | 聴覚評価; 感音性の要素があるときは進行性の場合あり。 |
リスクを有する血縁者の評価
側彎をはじめとする整形外科的合併症や難聴に関して、早期に評価を行うことで利益が得られる人をできるだけ早く特定することを目的として、罹患者の血縁者でリスクを有する人については、見かけ上、無症状であっても、また罹患者より年上か年下かにかかわらず、その遺伝的状態を明らかにしておくことが望ましい。
リスクを有する血縁者に対して行う遺伝カウンセリングを目的とした検査関連の事項については、「遺伝カウンセリング」の項を参照されたい。
研究段階の治療
さまざまな疾患・状況に対して進行中の臨床試験に関する情報については、アメリカの「Clinical Trials.gov」、ならびにヨーロッパの「EU Clinical Trials Register」を参照されたい。
注:現時点で本疾患に関する臨床試験が行われているとは限らない。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
X連鎖性耳口蓋指(X-OPD)スペクトラム障害 ― 耳口蓋指症候群1型(OPD1)、耳口蓋指症候群2型(OPD2)、前頭骨幹端異形成症1型(FMD1)、Melnick-Needles症候群(MNS)、色素異常を伴う末端骨異形成症(TODPD)― は、X連鎖性の遺伝形式をとる。
家族構成員のリスク
男性発端者の親
注:1人の女性の子に複数の罹患者がいて、なおかつ、他に血族の罹患者がいない、あるいは女性の白血球DNAでFLNAの病的バリアントが検出されないといった場合は、その女性が生殖細胞系列モザイクである可能性が高い。X-OPDスペクトラム障害でみられた生殖細胞系列モザイクの例が実際に報告されている[Robertsonら2006b]。
女性発端者の親
注:女性発端者の父親が無症候の場合、父親のほうは体の一部の細胞に病的バリアントを有している可能性が考えられる(体細胞モザイク)。実際に、病的バリアントの体細胞モザイクによりX-OPDスペクトラム障害に至った例の報告がみられる。体細胞モザイクにより、本疾患の表現度に修飾が生じる可能性がある[Robertsonら2006b]。
男性発端者の同胞
同胞の有するリスクは、母親の遺伝的状態によって変わってくる。
注:発端者がMNSあるいはTODPDで、男性同胞がその病的バリアントを継承した場合、その男性同胞は、ふつう出生前あるいは周産期に死亡する。
女性発端者の同胞
同胞の有するリスクは、両親の遺伝的状態によって変わってくる。
注:発端者がMNSあるいはTODPDで、男性同胞がその病的バリアントを継承した場合、その男性同胞は、ふつう出生前あるいは周産期に死亡する。
男性発端者の子
女性発端者の子
FLNAの病的バリアントをヘテロで有する女性が、子に対してその病的バリアントを伝達する可能性は50%である。
他の血縁者
他の血縁者の有するリスクは、発端者の両親の遺伝的状態によって変わってくる。片親がFLNAの病的バリアントを有していた場合、その血縁にあたる人はリスクを有することになる。
関連する遺伝カウンセリング上の諸事項
リスクを有する血縁者に対して、早期診断、早期治療を目的として行う検査関連の情報については、「管理」の中の「リスクを有する血縁者の評価」の項を参照されたい。
家族計画
DNAバンキング
DNAバンキングとは、将来の利用に備えてDNA(通常、白血球から抽出したもの)を保存しておくことをいう。検査の手法であるとか、遺伝子・アレルのバリアント・疾患等に対するわれわれの理解が、将来はより進歩していくことが予想される。そのため、罹患者のDNAについては、保存を検討すべきである。
出生前検査ならびに着床前遺伝学的検査
分子遺伝学的検査
家系内に存在するFLNAの病的バリアントが同定されている場合は、妊娠に際してのリスクの高まりに備えた出生前検査や、X-OPDスペクトラム障害の着床前遺伝学的検査を行うことが可能である。
超音波検査
超音波検査を行うことで、本疾患の症候の多くは、出生前の段階で可視化が可能である。
ただ、検出可能となる妊娠週齢は、異常の種類によってまちまちである。臍ヘルニア、あるいは閉塞が原因で拡張した尿路といったものは、第2三半期のごく初期の段階で確認することができる。一方、四肢の彎曲や胸郭の低形成といった骨格異形成は、妊娠20週を過ぎないと確認することができない[Naudionら2016]。
注:妊娠週齢は、最後の正常月経の初日を起点として算出した月経週齢、もしくは超音波の計測値に基づいて算出した月経週齢をもって表すことになっている。
出生前検査の利用に関しては、医療者間でも、また家族内でも、さまざまな見方がある。
早期診断を目的とするのではなく、堕胎を目的としてこれを利用しようという場合は、特にそれが言える。現在、多くの医療機関では、出生前検査を個人の決断に委ねられるべきものと考えているようであるが、こうした問題に関しては、もう少し議論を深める必要があろう。
GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報については、ここをクリック。
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United Kingdom
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分子遺伝学
分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。
表A:X連鎖性耳口蓋指スペクトラム障害:遺伝子とデータベース
遺伝子 | 染色体上の座位 | タンパク質 | Locus-Specificデータベース | HGMG | ClinVar |
---|---|---|---|---|---|
FLNA | Xq28 | フィラミンA | FLNA @ LOVD | FLNA | FLNA |
データは、以下の標準資料から作成したものである。遺伝子についてはHGNCから、染色体上の座位についてはOMIMから、タンパク質についてはUniProtから。リンクが張られているデータベース(Locus-Specific,HGMD,ClinVar)の説明についてはこちらをクリック。
表B:X連鎖性耳口蓋指スペクトラム障害関連のOMIMエントリー(閲覧はすべてOMIMへ)
300017 | FILAMIN A; FLNA |
304120 | OTOPALATODIGITAL SYNDROME, TYPE II; OPD2 |
305620 | FRONTOMETAPHYSEAL DYSPLASIA 1; FMD1 |
309350 | MELNICK-NEEDLES SYNDROME; MNS |
311300 | OTOPALATODIGITAL SYNDROME, TYPE I; OPD1 |
分子レベルの病原
FLNAは、幅広い生物種において、細胞の安定性、突出、運動性を制御するアクチン結合タンパク質のクラスのメンバーであるフィラミンAをコードしている[Gorlinら1990,Cunninghamら1992]。フィラミンは、細胞のシグナル伝達と、それに続いて起こるアクチン細胞骨格のリモデリングとの間の調整役、統合役を果たしている。フィラミンAは、インテグリンと結合することで、細胞接着、神経細胞の遊走といった細胞活動の制御を行う[Meyerら1997,Looら1998,Durabonら2000]。これらの間の相互作用はきわめて複雑であるため、それぞれの機能がどのような形で連携し合って疾患の病原形成に至っているのかを理解することは難しい。そうした状況下で、フィラミンの立体構造を変化させるとともに、おそらく結合による相互作用やフィラミンの翻訳後修飾にも変化を及ぼすと思われる構造上のメカニズムが報告されている。
フィラミンAは、中枢神経系内での皮質の発生過程において、細胞骨格との相互作用を通じて神経前駆細胞の分化や遊走に影響を及ぼしている可能性がある。そして、このプロセスが阻害されることで、脳室周囲異所性灰白質の形成へとつながっている可能性がある[Carabalonaら2012]。同様に、フィラミン類は、膜貫通受容体や二次伝達物質を介してシグナル伝達を制御しており、これが破綻することで、X連鎖性耳口蓋指(X-OPD)スペクトラム障害の各表現型でみられるような発生障害につながっている可能性がある。
疾患を引き起こすメカニズム
機能喪失型バリアント(これにより脳室周囲結節状異所性灰白質が生じる)や、クラスターを形成して存在する病的ミスセンスバリアント(これによりX-OPDスペクトラム障害が生じる)が、疾患の発症にどのような機構で係わっているのかという点については、まだよくわかっていない。
X-OPDスペクトラム障害を引き起こす複数の病的ミスセンスバリアントが狭い範囲にに固まって分布していることは、フィラミンの中のごく特殊な機能に変化が生じているということを示すものである。こうした病的バリアントによって、フィラミン、もしくはフィラミンの中にあって制御機能を有するドメインとの相互作用に変化が生じている可能性が考えられる。一部のミスセンスバリアントでは、フィラミンAがアクチンと結合する際の親和性が高まり[Clarkら2009]、また別のミスセンスバリアントでは、フィラミンの機械的感受性の高さに変化が生じる[Ithychandraら2017]。
表10:X連鎖性耳口蓋指スペクトラム障害:FLNAにみられる注目すべき病的バリアント
参照配列 | DNAクレオチドの変化 | 予測されるタンパク質の変化 | コメント |
---|---|---|---|
NM_001110556.1 NP_001104026.1 |
c.3552C>A | p.Asp1184Glu | Melnick-Needles症候群 |
c.3562G>A | p.Ala1188Thr | ||
c.3596C>T | p.Ser1199Leu | ||
c.5217G>A1 | p.Val1724_Thr1739del | 皮膚色素異常を伴う末端骨異形成症 |
表中のバリアントは、著者の提供したものをそのまま載せたもので、GeneReviewsのスタッフが独立した立場でバリアントの分類を確認したものではない。GeneReviewsは、Human Genome Variation Society(varnomen.hgvs.org)の標準命名規則に準じた表記を行っている。命名法の説明に関しては、「Quick Reference」を参照されたい。
Gene Reviews著者:Stephen Robertson, FRACP, DPhil.
日本語訳者: 佐藤康守(たい矯正歯科)、櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
GeneReviews最終更新日: 2019.10 .3. 日本語訳最終更新日: 2023.1.31.[in present]