Gene Reviews著者: effrey S Dome, MD, PhD, Vicki Huff, PhD
日本語訳者: 福島久代(埼玉医科大学国際医療センター)、櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
AMED「医療現場でのゲノム情報の適切な開示のための体制整備に関する研究」班(研究開発代表者:小杉眞司)
Gene Reviews 最終更新日: 2016.10.20. 日本語訳最終更新日: 2018.8.22
原文: Wilsm Tumor Predisposition
目的
本GeneReviewは医師が、ウィルムス腫瘍患者の遺伝的な根拠を同定することで、家族に自然経過と再発リスクに関する情報を提供できるかどうかを判断する際に役立つことを目的としている。
ゴール1: ウィルムス腫瘍の臨床的特徴の簡潔な説明
ゴール2: ウィルムス腫瘍に対する易罹患性の機序のレビュー
ゴール3: 以下に向けた評価戦略の策定
ゴール4: 遺伝形式、再発リスク、リスクのある血縁者の評価などの遺伝カウンセリングに関する問題の根本的な遺伝的機序に基づいた検討
ゴール5: ウィルムス腫瘍の遺伝的易罹患性を有する人に推奨される管理(腫瘍スクリーニングなど)についての検討
ウィルムス腫瘍(腎芽細胞腫)は腎臓の胎生期がんで、小児期にもっともよくみられる腎腫瘍である。通常、他に症状のない小児に腹部腫瘤として現れる。腹痛、発熱、貧血、血尿、および高血圧が罹患小児の25%~30%にみられる。
およそ5%~10%のウィルムス腫瘍患者は両側性あるいは多発性腫瘍を呈する。両側性腫瘍の発生率は、ウィルムス腫瘍の遺伝的素因がない人に比べて素因がある人で高い(「ウィルムス腫瘍の易罹患性の機序」の項を参照)。
ウィルムス腫瘍は、腫瘍の組織学的評価でのみ確定診断可能である。
胎児期の腎臓細胞由来の良性の病巣が出生後まで例外的に遺残した、造腎組織遺残nephrogenic restは、ウィルムス腫瘍の前駆細胞と考えられている。病的変異をもつ個体は造腎組織遺残になりやすい。二つめの病的変異によって造腎組織遺残がウィルムス腫瘍に悪性化する[Dome & Coppes 2002]。
ウィルムス腫瘍の10%~15%は、生殖細胞系列の病的バリアントあるいは胚形成初期に生じるエピジェネティック変異(「11p15関連ウィルムス腫瘍」の項を参照)に起因すると考えられている。これらは既知の先天奇形症候群あるいは遺伝性腫瘍症候群と関わりがあることもあれば、ないこともある。
およそ1%~2%のウィルムス腫瘍患者には、ウィルムス腫瘍と診断された血縁者が少なくとも1人いる(家族性ウィルムス腫瘍)が、病的変異である可能性が高い生殖細胞系列変異が数家系で同定されているものの、大多数については不明である。
ウィルムス腫瘍患者でもっとも多く報告されている生殖細胞系列およびエピジェネティック変異はWT1と11p15.5遺伝子座である。他の遺伝子においても多数の遺伝子変異が報告されている。一部の症例では、これらの変異を有するヒトにおいてウィルムス腫瘍のリスクが上昇することが推定されているが、遺伝子変異または症候群は一般集団では極めてまれで、ウィルムス腫瘍患者はわずかしか報告されていない。例えば、多彩異数性モザイク症候群で生殖細胞系列の片アレルのBUB1B変異を有する8名中、7名(87.5%)にウィルムス腫瘍が報告されている。しかし、異数性モザイク症候群でウィルムス腫瘍の症例が報告されているのはこれまでに約10名に過ぎない。以下の項では、WT1-および11p15関連ウィルムス腫瘍について詳述する。表1に、ウィルムス腫瘍に関連する他の変異および症候群を要約した。
WT1関連ウィルムス腫瘍
ヘテロ接合性生殖細胞系列のWT1病的バリアントが、症候群の特徴のない一部のウィルムス腫瘍患者、ウィルムス腫瘍の家系、WAGR症候群(ウィルムス腫瘍、無虹彩、生殖器の奇形、精神遅滞)、フレイジャー症候群患者、デニス・ドラッシュ症候群(DDS)患者、腎不全のみられない泌尿生殖器奇形を有する患者で同定されている。
症候群の特徴のないウィルムス腫瘍
生殖細胞系列のWT1遺伝子の病的バリアントは性決定や男性の生殖管の発達に大きな影響を及ぼすことから、WT1遺伝子の生殖細胞系列の病的バリアントを有する女性が泌尿生殖器奇形を呈する可能性は低い。WT1遺伝子の生殖細胞系列の病的バリアントを有する人は両側性または多発性腫瘍を生じることが多く、若年で腫瘍を発症しやすい[Royer-Pokoraら2004]。泌尿生殖器奇形や腎メサンギウム硬化症、または両側性腫瘍がない場合、ウィルムス腫瘍の小児がWT1遺伝子に生殖細胞系列の病的バリアントを持つ可能性は低く、頻度は0%~5%であると報告されている[Huff 1998、Littleら2004、Segersら2012]。
家族性ウィルムス腫瘍
ウィルムス腫瘍の易罹患性を持つほとんどの家系においてWT1遺伝子の病的バリアントと病気との関連は示されていないが、少数の家系にヘテロ接合性のWT1遺伝子の生殖細胞系列の病的バリアントが認められている[Grundyら1988、Huffら1988、Dillerら1998、Huff 1998]。
WAGR症候群
WAGR症候群(ウィルムス腫瘍、無虹彩、生殖器の奇形、精神遅滞)には、ウィルムス腫瘍、無虹彩、片側肥大、泌尿生殖器奇形、生殖器形成不全、性腺芽腫、および知的障害という特徴がある。
遺伝子変異
WT1とPAX6遺伝子のいずれも含む11p13におけるヘテロ接合性の隣接遺伝子欠失症候群が原因となる。無虹彩症は、WT1遺伝子からおよそ0.6 Mb内に位置するPAX6遺伝子の欠失が原因となる。
ウィルムス腫瘍のリスク
WAGR症候群患者のウィルムス腫瘍のリスクは、45%~60%であると推定されている[Mutoら2002、Fischbachら2005]。散発例(家系内で一人のみの無虹彩)におけるウィルムス腫瘍のリスクはWT1遺伝子を含む領域である11p13の欠失がみられる場合で40%~50%である。無虹彩症およびPAX6遺伝子変異がみられる患者を対象にした2件の大規模研究では、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)でWT1遺伝子欠失が検出されていない場合、ウィルムス腫瘍は報告されていない[Grønskovら2001、Mutoら2002]。
WAGR症候群患者は、他のウィルムス腫瘍患者に比べて若年でウィルムス腫瘍と診断され、両側性病変を呈することが多い。ウィルムス腫瘍およびWAGR症候群患者のうち、90%が4歳までに、98%が7歳までにウィルムス腫瘍を発症する[Beckwith 1998b]。また、肺葉内造腎組織遺残が高率で生じ、腫瘍の組織所見は常に良性である。WAGR症候群患者はWAGR症候群がみられない患者に比べて生存期間が短い[Breslowら2003]。しかし、生殖細胞系列にWT1遺伝子の病的バリアントを有する患者は、胎児性横紋筋腫型腎芽細胞腫と呼ばれる、組織学的に間質細胞から成るウィルムス腫瘍を発生する可能性が高い[Royer-Pokoraら2004]。この組織学的サブタイプは、化学療法に反応して縮小することがなく時としてかえって増殖することがあり、外科的切除を妨げることがあるため、臨床的な意義がある。
他の所見
WAGR症候患者群は、思春期あたりで末期腎不全(ESRD)を生じることが多く、生存率低下につながる。米国ウィルムス腫瘍スタディ(NWTS)の患者集団を用いた試験では、ウィルムス腫瘍で死亡しなかったWAGR症候群患者の34%~40%は最終的にESRDを生じる。この患者集団で、ウィルムス腫瘍と診断された患者の27歳時点の生存率は48%(±17%)と推定されている[Breslowら2000、Breslowら2003、Breslowら2005]。
デニス・ドラッシュ症候群
デニス・ドラッシュ症候群(DDS)は、腎不全早期発症につながるびまん性メサンギウム硬化症、XYとXXのいずれにおいても生じる性別不明から外見正常な女性に及ぶ性分化異常、およびウィルムス腫瘍発症の高リスクを主徴とする。
遺伝子変異
DDS患者の大半では、WT1遺伝子のエクソン8または9に、ヘテロ接合性の生殖細胞系列のミスセンス病的バリアントがみられる[Royer-Pokoraら2004]。文献的に少数の罹患患者においてWT1遺伝子における他の種類の病的変異を有することが報告されているが、多くの場合腎不全はみられないDDSと診断された患者である[Royer-Pokoraら2004]。
ウィルムス腫瘍のリスク
1件の大規模研究では、74%のDDS小児患者がウィルムス腫瘍を発症した。DDSと診断された患児は腎移植を受けるか、または(潜在的な)腫瘍発現前に末期腎不全で死亡することが多いため、DDS患者におけるウィルムス腫瘍のリスクは報告よりも高い可能性がある[Eddy & Mauer 1985、Mueller 1994]。
他の所見
DDS患者の腎不全は早期に発現する傾向がある。NWTSは、DDS患者におけるウィルムス腫瘍の診断から20年後における腎不全の累積発現率は74%であると報告した[Breslowら2005]。
フレイジャー症候群
フレイジャー症候群(FS)は、46,XY核型を持つ人に見られる性別が不明瞭なものから女性であることが明確なものまでの女性型(低男性化)外性器、巣状分節性糸球体硬化症、および性腺芽腫を主徴とする。当初はDDSと異なると考えられていたが、従来DDSおよびFS療法原因とされていた表現型を呈する患者(ウィルムス腫瘍および性腺芽腫と診断された生殖細胞系列のWT1遺伝子欠失がみられる1名の小児を含む)の観察により、DDSおよびFSは表現型スペクトラムの両端に位置することが示唆された[Koziellら2000、Finkenら2015]。
遺伝子変異
WT1遺伝子イントロン9のスプライスドナー部位のヘテロ接合性一塩基変異は、FSと診断された患者で認められる主要な変異である[Barbauxら1997]。
ウィルムス腫瘍のリスク
ウィルムス腫瘍は、WT1遺伝子イントロン9に変異体を有する人には通常認められない。しかし、DDSおよびFSは多様な表現型を示す単一の症候群であることが示唆されることから、FSと診断された患者はウィルムス腫瘍のリスクがある。
腎不全のみられない泌尿生殖器(GU)奇形
WT1遺伝子の生殖細胞系列変異を有する人の一部はGU奇形およびウィルムス腫瘍を有するが、早期腎不全はみられない。ウィルムス腫瘍またはウィルムス腫瘍関連表現型の診断を通してWT1遺伝子の生殖細胞系列変異が判明した117名をまとめた結果では、ウィルムス腫瘍診断時に、3分の1に腎不全のエビデンスがみられなかった[Royer-Pokoraら2004]。しかし、腎不全は遅い年齢で発現することがあるため[Breslowら2000]、WT1遺伝子の生殖細胞系列変異を有する人で腎不全を最終的に発現しない人の割合は少ないことが予期される。
遺伝子変異
これらの所見は主にWT1遺伝子の欠失およびナンセンスおよびフレームシフト変異体と関連している。
11p15.5関連ウィルムス腫瘍
ベックウィズ・ヴィーデマン症候群
ベックウィズ・ヴィーデマン症候群(BWS)は、巨人症、巨大舌、半身過形成、内臓巨大症、胎児性腫瘍(ウィルムス腫瘍、肝芽腫、神経芽細胞腫、および横紋筋肉腫など)、臍帯ヘルニア、新生児低血糖、耳たぶのシワ/穴、副腎皮質巨大細胞、および腎臓の異常を特徴とする。
遺伝子変異
BWSは染色体11p15.5のインプリンティングドメインにおける遺伝子転写の異常制御と関連している(「ベックウィズ・ヴィーデマン症候群」の項を参照)。
ウィルムス腫瘍のリスク
ウィルムス腫瘍は、BWS小児患者のおよそ7%で生じる。11p15.5の片親性ダイソミーまたはインプリンティング・センター1(IC1)でのメチル化獲得によってBWSにおけるウィルムス腫瘍リスクがもっとも高くなり、これらの変異がみられる小児の4分の1がウィルムス腫瘍を発症する。BWSおよびウィルムス腫瘍患者のうち、81%が5歳までに、93%が8歳までに腫瘍を発現する[Beckwith 1998a、Rumpら2005、Weksbergら2010]。
症候群の特徴のないウィルムス腫瘍
症候群の特徴がみられないウィルムス腫瘍は、IC1でのメチル化獲得、11p15.5の父性の片親性ダイソミー、微小欠失や微小挿入などの遺伝子異常を含む染色体11p15.5の変異と関連していることがある[Scottら2008]。
表1.ウィルムス腫瘍易罹患性のまれな原因
遺伝子 | 症候群 | 予想され鵜ウィルムス腫瘍リスク | 参考文献 |
---|---|---|---|
BLM | ブルーム症候群 | ∼3% | Moreiraら[2013] |
BRCA2 | ファンコニ貧血(FA-D1) | ∼20% | Reidら[2005]、Scottら[2006] |
BUB1B | 多彩異数性モザイク(MVA)(OMIM) | ∼25%(MVA全体) >85%(BUB1B病的変異保持者) |
Callierら[2005]、García-Castilloら[2008] |
CDC73 | 副甲状腺機能亢進症顎腫瘍症候群(OMIM) | ∼3% | Kakinumaら[1994]、Szabóら[1995] |
CTR9 | 家族性ウィルムス腫瘍 | 3家系の報告 これらの家系のCTR9病的変異保持者6/9名がウィルムス腫瘍を発現 |
Hanksら[2014] |
DICER1 | DICER1関連疾患 | ほとんどのDICER1変異保持者では低リスク Gly803Arg変異保持者では高リスク (2/11; 18%) |
Foulkesら[2011]、Palculictら[2016] |
DIS3L2 | パールマン症候群(OMIM) | ∼30% | Scottら[2006]、Astutiら[2012] |
GPC3、GPC4 | シンプソン・ゴラビ・ベーメル症候群1型 | 4%~9% | Lapunzina [2005]、Scottら[2006] |
PALB2 | ファンコニ貧血(FA-N) | ∼40% | Reidら[2007] |
PIK3CA | PIK3CA関連セグメンタル過増殖 | 1%~2% | Grippら[2016] |
REST | 家族性ウィルムス腫瘍(OMIM) 別の臨床的特徴が数名の罹患患者で報告されている |
4家系の報告 これらの家系の7/14名のREST病的変異保持者でウィルムス腫瘍を発現した。 9名の非家族性ウィルムス腫瘍 |
Mahamdallieら[2015] |
TP53 | リ・フラウメニ症候群 | 低いが、数症例が報告されている | Birchら[2001]、Schlegelbergerら[2015] |
TRIM37 | マリブレー低身長症(OMIM) | 6% | Scottら[2006]、Karlbergら[2009] |
不明 | トリソミー18 | 12名でウィルムス腫瘍が報告されている1 | Scottら[2006]、Shanske [2006] |
不明 | トリソミー13 | 2名でウィルムス腫瘍が報告されている1 | Olsonら[1995]、Sweeney & Pelegano [2000] |
以下のアプローチを用いて、ウィルムス腫瘍の発端者がウィルムス腫瘍の易罹患性を有しているかを判定し、ウィルムス腫瘍の遺伝的またはエピジェネティック機序を同定し、さらなる合併症リスクを判定することができる。ウィルムス腫瘍の易罹患性の遺伝的機序を確立するためには、病歴や家族歴を調査し、身体検査や分子遺伝的検査を行う
WT1遺伝子関連ウィルムス腫瘍を示唆する身体的特徴として、無虹彩、泌尿生殖器奇形(生殖器形成不全など)、腎機能障害または腎不全、知的障害が挙げられる。ベックウィズ・ヴィーデマン症候群(BWS)を示唆する特徴には、巨人症、耳たぶのシワ/穴、巨大舌、臍帯ヘルニア、内臓巨大症、他の胚芽腫(肝芽腫、神経芽細胞腫、および横紋筋肉腫など)、半身過形成、副腎皮質巨大細胞、および腎臓の異常がある。身体的特徴はウィルムス腫瘍の素因となる他の症候群でも見られることがある(表1参照)。
身体的特徴に加えて、放射線画像検査の所見または組織学的所見がウィルムス腫瘍の遺伝的素因を示すことがある。両側性または多発性ウィルムス腫瘍の存在は遺伝的素因を示唆する。造腎組織遺残によりウィルムス腫瘍の素因の裏付けとなるエビデンスが得られるが、片側性で、一見すると散発性ウィルムス腫瘍のうち25%超の人は、腎組織内に腫瘍ではない造腎組織遺残がみられる[Beckwith 1993]。したがって、造腎組織遺残があっても他の特徴がない場合は、分子遺伝的評価を支持できない。組織学的に胎児性横紋筋腫型腎芽細胞腫がみられることによって生殖細胞系列または腫瘍組織に限られているWT1遺伝子の変異を発見する契機が高まる高。
家族例
ウィルムス腫瘍がまれであることを考えると、ウィルムス腫瘍の血縁者の存在は遺伝的素因を示唆する。
分子遺伝学的検査
分子遺伝学的検査は、身体検査や放射線画像検査、組織学的特徴から遺伝的素因が示唆されるウィルムス腫瘍患者に対して検討すべきである。罹患者の家族にウィルムス腫瘍患者がいれば、検査を考えるべきである。分子遺伝学的検査には、単一遺伝子検査、遺伝子欠失/重複解析、メチル化検査、マルチジーンパネルの使用、染色体マイクロアレイ(CMA)がある。検査の種類は臨床的特徴に基づいて選択する。
症候群の特徴のないウィルムス腫瘍患者
WT1遺伝子。WT1遺伝子のシーケンス解析をまず行う。遺伝子内欠失を検出するために遺伝子欠失/重複解析を行うこともできる。
11p15.5。WT1遺伝子の生殖細胞系列の病的変異が同定されない場合、11p15.5インプリンティング・センター1(IC1)のメチル化検査を実施する。ベックウィズ・ヴィーデマン症候群(BWS)およびウィルムス腫瘍患者では、IC1(IGF2/H19遺伝子)にのみ(IC2ではない)、変異が認められた[Rumpら2005、Weksbergら2010]。
WT1、REST、DICER1遺伝子および他の遺伝子(表1参照)を含むマルチジーンパネルも考慮することがある。注:(1)パネルに含む遺伝子は検査施設によって異なり、時間とともに変化することがある。(2)一部のマルチジーンパネルには、本GeneReviewで検討している病態に関連しない遺伝子を含むことがある。そのため、医師は、偶発的所見を抑え、もっとも合理的な費用で遺伝的原因を同定するにはどのマルチジーンパネルが最良かを判断する必要がある。(3)パネルに使用された方法には、シーケンス解析、欠失/重複解析、他のシークエンス解析ではない方法の検査を含むことがある。(4)マルチジーンパネルには11p15.5変異の検出に用いたDNAメチル化解析を含まないことがある。
ウィルムス腫瘍患者および泌尿生殖器奇形または腎不全
WT1遺伝子。WT1遺伝子のシーケンス解析をまず行い、病的変異が同定されなければ、次にWT1の遺伝子欠失/重複解析を行う。
ウィルムス腫瘍およびBWSの身体的特徴を示す患者
11p15.5。BWS の特徴がみられる場合、11p15.5 IC1のメチル化検査をまず行う(他の検査の問題については「ベックウィズ・ヴィーデマン症候群」の項を参照)。
ウィルムス腫瘍患者および無虹彩
WAGR(ウィルムス腫瘍、無虹彩、生殖器の奇形、精神遅滞)が疑われる場合、染色体マイクロアレイ(CMA)をまず行う。CMAにより、欠失のサイズに関する詳細な情報が得られるだけでなく、WT1およびPAX6遺伝子を含む11p13欠失が検出できる。CMAにより、残りのゲノムの欠失および重複の情報も得られる。CMA-SNPアレイでは、同型接合性の長いストレッチがみられる症例では11p15.5の片親性ダイソミーの検出も可能である。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
遺伝的素因(両側または多発性ウィルムス腫瘍、症候群の特徴またはウィルムス腫瘍に伴う先天奇形、あるいはウィルムス腫瘍の家族歴)を示唆する特徴を有するウィルムス腫瘍患者は遺伝カウンセリングを受けるべきである。遺伝的素因を示唆する特徴を有さない片側性ウィルムス腫瘍患者は分子遺伝学的検査または遺伝カウンセリングを受ける必要がない。片側性、非家族性ウィルムス腫瘍と診断された96名の長期生存者の179名の子にウィルムス腫瘍はみられなかった[Liら1988]。
症候性ウィルムス腫瘍
WT1遺伝子の生殖細胞系列の病的変異に関連する非症候性ウィルムス腫瘍
WT1遺伝子の生殖細胞系列変異体は常染色体優性遺伝の形式で遺伝するが、その表現度には差異があり浸透率は低い[Zirnら2005]。
WT1遺伝子の生殖細胞系列変異体保因者の大半では、病的変異は新生突然変異によって生じ、両親がウィルムス腫瘍またはWT1遺伝子の生殖細胞系列の変異を有している可能性は低い。
発端者で同定されたWT1遺伝子の病的変異がどちらかの親のDNAで検出されない場合、発端者の同胞に対するリスクは低い可能性があるが、親の生殖細胞系列モザイク率は不明である[Huff 1994]。
発端者の子は50%のリスクでWT1遺伝子の生殖細胞系列の病的変異をうけつぐ。WT1生殖細胞系列の変異を持つ小児でウィルムス腫瘍を発現するリスクはその変異の浸透率によって異なる。
WT1遺伝子の病的変異に関連しない非症候性ウィルムス腫瘍
非症候性ウィルムス腫瘍と診断されたほとんどの患者の親は罹患していないが、一部では他の家族が罹患している(家族性ウィルムス腫瘍など)。
両側性または多発性非症候性ウィルムス腫瘍
遺伝カウンセリングに関連する問題
早期診断および治療を目的としたリスクのある血縁者の評価に関する情報については「管理、ウィルムス腫瘍の素因のリスクのある血縁者の定期検査」の項を参照のこと。
遺伝的がんリスク評価およびカウンセリング。リスク評価(分子遺伝子検査実施の有無にかかわらず)を通したリスクのある人の同定の医学的、心理社会的、および倫理的な派生問題に関するがん包括的な説明については、がん遺伝的リスク評価およびカウンセリング–医療従事者向けを参照のこと(PDQ®の一部、米国国立がん研究所)。
DNAバンクは将来使用する可能性に備えてDNA(通常白血球細胞から抽出する)を保管する機関である。検査方法および我々の遺伝子、アレル変異体、および疾患に対する理解が今後進歩する可能性が高いため、罹患者DNAのバンクへの寄託を考慮すべきである。
出生前検査および着床前遺伝子診断
病気の原因となる遺伝子変異(WT1病的バリアント、11p15.5の変異、DICER1、またはREST病的バリアントなど)が罹患者の家族の一員に同定されれば、リスクがある妊娠における出生前検査および着床前遺伝子診断は実施可能な選択肢である。
GeneReviewsのスタッフは、この疾患患者およびその家族の便益のために、以下の疾患特異的および/またはアンブレラサポート組織および/またはレジストリを選択した。GeneReviewは他の組織から提供された情報についてその責を負わない。選択条件関する情報についてはここをクリック。
生殖細胞系列の病的バリアントを有するまたはウィルムス腫瘍関連症候群の小児の定期検査
一般的検討事項。ウィルムス腫瘍に対する遺伝的素因を有する人の定期検査の目的は、早期に、また進行後のステージよりも少ない治療のみを必要とする段階での腫瘍の検出である。定期検査は1回限りではなく、リスクがある間継続すべきである。その期間はおそらく5歳から8歳くらいまでと推定されているが、根拠となる遺伝条件によって異なる。ウィルムス腫瘍は1週間の間に倍の大きさになることがあり[Beckwith 1998a]、著者らは腹部超音波検査を3カ月ごとに実施することを推奨する。定期検査は、休業や検査に伴う不安、不要な治療を要する擬陽性結果などの経済的および心理社会的負担に関連することから、検査継続の決断には慎重な検討を要する。定期検査のリスクと有益性を秤にかけて、Scottら(2006)は、腫瘍発現リスクが5%を超える場合は定期検査を継続することを提言している。
生殖細胞系列WT1病的バリアントを有する患者。腹部超音波検査によるスクリーニングは、5歳まで3カ月ごとに実施することが推奨される。ウィルムス腫瘍およびWAGR症候群患者のうち、90%が4歳までに、98%が7歳までに腫瘍を発現する[Beckwith 1998b]。
11p15.5変異、ベックウィズ・ヴィーデマン症候群(BWS)、または孤発性半身過形成の患者は5%~7.5%のリスクでウィルムス腫瘍または他の悪性腫瘍(おもに、肝芽腫、副腎皮質がん、神経芽細胞腫、および横紋筋肉腫)を発症する。しかし、ウィルムス腫瘍のリスクはBWSの特定のサブタイプに制限されている。
11p15データが入手可能な400名を超えるBWSを対象としたRumpら(2005)によるメタ解析では、以下のことが示唆されている。
そのため、定期検査は、11p15で片親性イソダイソミーやインプリンティング・センター1でのメチル化獲得がみられる場合、遺伝的または後天的異常がみられないBWSに限られることがある。インプリンティング・センター2の孤発性チル化変化またはCDKN1Cの病的バリアントがみられる小児にはウィルムス腫瘍の定期検査は不要である。定期検査を継続する場合、腹部超音波検査を8歳まで3カ月ごとに実施することが推奨される。BWSおよびウィルムス腫瘍患者のうち、81%が5歳までに、93%が8歳までに腫瘍を発現する[Beckwith 1998a]。
ウィルムス腫瘍の素因のまれな原因のうちの1つを有する患者。遺伝的な病的バリアントに関連するウィルムス腫瘍のリスクが5%を超える場合、著者は定期検査を推奨する。推奨は、家族や治療を行う医師の個々の好みによって調整される。リスク期間が定まっていない場合は、腹部超音波検査による定期検査を8歳まで3カ月ごとに実施することが推奨される。
原因分子が同定されていない両側性または多発性ウィルムス腫瘍患者。ウィルムス腫瘍に対する治療終了後、8歳まで3カ月ごとに腎超音波検査によって異時性腫瘍のスクリーニングを行うべきである。両側性ウィルムス腫瘍患者のほとんどは、ウィルムス腫瘍の素因となる遺伝子に生殖細胞系列変異体を有していると想定されており、異時性腫瘍リスクを増大している。
ウィルムス腫瘍の易罹患性のリスクがある血縁者の定期検査
複数のウィルムス腫瘍および両側性または多発性のウィルムス腫瘍患者がいる家系では、治療および予防措置が効果的である患者をできるだけ早くに同定するためのリスクのある血縁者の評価は適切である。評価には以下が含まれる。