Gene Reviews著者: Hermann-Josef Lüdecke, PhD and Dagmar Wieczorek, MD.
日本語訳者: 佐藤康守(たい矯正歯科)、水上都(札幌医科大学医学部遺伝医学)
GeneReviews最終更新日: 2022.5.12 日本語訳最終更新日: 2022.12.3.
原文: TXNL4A-Related Craniofacial Disorders
疾患の特徴
TXNL4A関連頭蓋顔面疾患は、表現型に大きな幅がみられる疾患で、表現型としては、単発性の後鼻孔閉鎖、小奇形を伴う後鼻孔閉鎖、Burn-McKeown症候群(BMKS)の3型ある。
BMKSは、特徴的頭蓋顔面症候(両側性の後鼻孔閉鎖/狭窄,短い眼瞼裂,下眼瞼コロボーマ,眼間開離を伴う目立つ鼻梁,短い人中,薄い上赤唇,目立つ耳)を呈する。
難聴が多くみられ、心奇形や低身長の報告もみられる。
知的障害は稀である。
診断・検査
発端者におけるTXNL4A関連頭蓋顔面疾患の診断は、これを示唆する所見を有することに加えて、分子遺伝学的検査でTXNL4Aの両アレルの病的バリアントが確認されることで確定する。
今日までに報告されている発端者はすべて、一部、領域が重なるTXNL4Aプロモーター部の34bpにわたる2種類の欠失を、少なくとも1コピー有している例である。
臨床的マネジメント
症候に対する治療:
分娩時に気道障害を呈する新生児に対しては、挿管や、後鼻孔閉鎖/狭窄に対する外科的改善が必要になるようなこともある。
角膜露出にいたるような下眼瞼の欠損を有する例については、眼科医の手で角膜瘢痕化リスクを低減するためのケアを行う必要がある。
難聴の治療は、個々の状況に合わせて行われるが、補聴器が使用されることもある。
頭蓋顔面症候(例えば、口唇裂口蓋裂、耳前部副耳、目立つ耳)に対する治療は個別の状況に合わせて多職種チームの手で行われる。
心奇形に対しては、通常の方法での対応が行われる。
定期的追跡評価:
眼科医、聴覚医、頭蓋顔面チームによるモニタリングが推奨される。
遺伝カウンセリング
TXNL4A関連頭蓋顔面疾患は、常染色体潜性遺伝の遺伝形式をとる。
受胎の段階で同胞の有するリスクは、罹患者となるリスクが25%、無症候の保因者となるリスクが50%、家系内にあるTXNL4Aの病的バリアントを一切継承しない可能性が25%である。
家系内に存在するTXNL4Aの病的バリアントの内容が同定されている場合は、リスクを有する妊娠に備えた出生前検査や着床前遺伝子検査を行うことが可能である。
GeneReviewの視点
TXNL4A関連頭蓋顔面疾患:ここに含まれる表現型1 |
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別名ならびにかつて使用された名称については、「命名法について」の項を参照。
本疾患を示唆する所見
次のような臨床症候や家族歴を有する例については、TXNL4A関連頭蓋顔面疾患を疑うべきである。
臨床症候
両側性の後鼻孔閉鎖/狭窄。
これに以下のものが伴うこともあれば、伴わないこともある。
図1:
TXNL4A関連頭蓋顔面疾患罹患者にみられる頭蓋顔面の表現型。
短い眼瞼裂(すなわち、内眼角-外眼角間距離の狭小化)、突出した鼻梁、立ち気味の大きな耳、短い人中に注目。
Elsevior社の許諾を得て、Wieczorekら[2014]より転載。
家族歴
常染色体潜性遺伝に合致する家族歴(例えば、罹患同胞の存在や両親の血族結婚)。
ただ、家族歴がないからといって、本疾患ではないということにはならない。
診断の確定
発端者におけるTXNL4A関連頭蓋顔面疾患の診断は、これを示唆する所見がみられることに加え、分子遺伝学的検査でTXNL4Aの両アレルの病的バリアントが同定されることで確定する(表1参照)。
現在までに報告されている罹患者はすべて、TXNL4Aのプロモーター領域の34bpの欠失を少なくとも1コピー有している。
欠失領域が一部重なる次の2種類の34bpの欠失が報告されている。
報告されている発端者の大多数は、片アレルの1型のプロモーター欠失と、もう一方のアレルの機能喪失型病的バリアントという組合せである。
注:TXNL4Aの両アレルに意義不明のバリアント(あるいは、既知のTXNL4Aの病的バリアント1つと意義不明のTXNL4Aのバリアント1つ)が検出された場合、それにより本疾患の診断が確定するわけでも除外されるわけでもない。
分子遺伝学的検査の手法としては、プロモーターの欠失を検出するための標的型アッセイ、単一遺伝子検査、染色体マイクロアレイ解析(CMA)、マルチ遺伝子パネルの使用、網羅的ゲノム検査といったものがある。
推奨される検査
第1段階の検査
最初に、1型、2型のプロモーター欠失を検出するための標的型アッセイ(例えば、TXNL4AプロモーターのPCRと配列解析、アレル特異的PCR、その他の標的型アッセイ)を実施する。
注:すでにCMAでTXNL4Aを含む領域の欠失が検出されている場合は、1型ないし2型のプロモーター欠失が同定されるだけで、TXNL4A関連頭蓋顔面疾患の診断が確定する。
第2段階の検査
第1段階の検査で1型、2型のプロモーター欠失が1コピー検出された場合、残ったアレルのバリアントを検出するための追加の検査を行う。
大きな欠失については、配列解析や遺伝子標的型欠失/重複解析では検出することができない。
検討すべきその他の検査
マルチ遺伝子パネル検査
TXNL4Aのプロモーター欠失用アッセイ、ならびにその他の検討を要する遺伝子(「鑑別診断」の項を参照)の検査を含むマルチ遺伝子パネルも、検討の対象になりうる。
注:
(1)パネルに含められる遺伝子の内容、ならびに個々の遺伝子について行う検査の診断上の感度については、検査機関によってばらつきがみられ、また、経時的に変更されていく可能性がある。
(2)マルチ遺伝子パネルによっては、今このGeneReviewで取り上げている状況と無関係な遺伝子が含まれることがある。
(3)検査機関によっては、パネルの内容が、その機関の定めた定型のパネルであったり、表現型ごとに定めたものの中で臨床医の指定した遺伝子を含む定型のエクソーム解析であったりすることがある。
(4)ある1つのパネルに対して適用される手法には、配列解析、欠失/重複解析、ないしその他の非配列ベースの検査などがある。
マルチ遺伝子パネル検査の基礎的情報についてはここをクリック。
遺伝子検査をオーダーする臨床医に対する、より詳細な情報についてはここをクリック。
網羅的ゲノム検査
網羅的ゲノム検査の場合、どの遺伝子の関与が疑われるかという点について、臨床医の側で事前に検討しておく必要はない。
最も広く用いられているのはエクソームシーケンシングであるが、ゲノムシーケンシングを行うことも可能であり、TXNL4A関連頭蓋顔面疾患が疑われる場合に推奨されるのはゲノム検査のほうである。
というのは、こちらであればTXNL4A関連のコーディング領域とノンコーディング領域の両方について、病的バリアントの検出が可能だからである。
網羅的ゲノム検査の基礎的情報についてはここをクリック。
ゲノム検査をオーダーする臨床医に対する、より詳細な情報についてはここをクリック。
表1:TXNL4A関連頭蓋顔面疾患で用いられる分子遺伝学的検査
遺伝子1 | 手法 | その手法で病的バリアント2が検出される割合 |
---|---|---|
TXNL4A | プロモーター欠失用アッセイ3 | 17/174 |
配列解析5 | 7/176 | |
遺伝子標的型欠失/重複解析7 | 4/178 | |
CMA9 | 4/178 |
注目すべきは、単発性後鼻孔閉鎖の2家系で、プロモーター欠失のホモ接合が報告されていることである[Goosら2017]。
バリアントの種類としては、遺伝子内の小さな欠失/挿入、ミスセンス・ナンセンス・スプライス部位バリアントなどがあるが、通常、エクソン単位あるいは遺伝子全体の欠失/重複については検出されない。
配列解析の結果の解釈に際して留意すべき事項についてはこちらをクリック。
具体的手法としては、定量的PCR、ロングレンジPCR、MLPA法、あるいは単一エクソンの欠失の検出を目的に設計された遺伝子標的型マイクロアレイなど、さまざまなものがある。
現在のところ、TXNL4Aの部分重複ないし全重複は報告されていない。
検出する欠失/重複の大きさを決定づける要素は、使用するマイクロアレイの種類、ならびに18q23領域のプローブの密度である。
現在、臨床で使用されているCMAのデザインは、18q23領域を標的としたものとなっている。
臨床症状
TXNL4A関連頭蓋顔面疾患は、単発性の後鼻孔閉鎖から、小奇形を伴う後鼻孔閉鎖、さらにはBurn-McKeown症候群(BMKS)に至るまで、表現型の幅を有する。
なお、BMKSは、両側性の後鼻孔閉鎖/狭窄、短い眼瞼裂、下眼瞼のコロボーマ、眼間開離を伴う突出した鼻梁、短い人中、薄い上赤唇、目立つ耳といった特徴的頭蓋顔面症候を特徴とする。
難聴が多くみられ、心奇形や低身長の報告もみられる。
知的障害はほとんどみられない[Wieczorekら2014]。
TXNL4Aの両アレルの病的バリアントが確認されている罹患者は、現在までに20例存在する[Wieczorekら2014,Goosら2017,Narayananら2020,Woodら2022]。
以下に述べる本疾患の症候に関する内容は、これらの報告をまとめたものである。
表2:TXNL4A関連頭蓋顔面疾患:代表的症候の出現頻度
症候 | その症候を有する罹患者の数 /評価した罹患者の総数 |
コメント |
---|---|---|
両側性後鼻孔閉鎖/狭窄 | 20/20 | うち3人は単発性後鼻孔閉鎖[Goosら2017] |
短い眼瞼裂 | 11/19 | |
下眼瞼の欠損 | 12/20 | |
眼間開離 | 12/17 | |
突出した鼻梁 | 17/18 | |
短い人中 | 14/17 | |
薄い上赤唇 | 10/17 | |
目立つ耳 | 13/17 | |
耳前部副耳 | 10/16 | |
難聴 | 12/19 | |
小下顎症 | 12/19 | |
粘膜下口蓋裂ないし口唇裂口蓋裂 | 10/20 | |
心奇形 | 5/16 | |
低身長 | 3/17 | |
正常知能 | 16/18 |
両側性の後鼻孔閉鎖/狭窄
これは生命を脅かす可能性をもつものである。
下眼瞼の欠損
これにより角膜露出、角膜乾燥に至る可能性がある。
難聴
難聴の重症度や臨床経過に関する詳細を報告したものはまだみられない。
口唇裂/口蓋裂
粘膜下口蓋裂の報告、片側性/両側性口唇口蓋裂の報告がみられる。
心奇形
動脈管開存と卵円孔開存の報告がみられる
低身長
低身長は均衡型で、軽度である。
知的障害
軽度の学習障害を有する女性の1例、ならびに重度の知的障害を有する女性の1例が報告されている[Strang-Karlssonら2017]。
遺伝型-表現型相関
遺伝型-表現型相関として明らかになっているものはない。
命名法について
当初、Hingら[2006]により、近縁度の非常に高いアラスカ人の1家系で、眼-耳-顔異形成症(oculootofacial dysplasia;OOFD)という名の独立疾患として報告されたものが、その後、この家系内の罹患者において、Wieczorekら[2014]が2型のTXNL4Aのプロモーター欠失のホモ接合を同定した際に、Burn-McKeown症候群(BMKS)として再分類した経緯がある。
発生頻度
TXNL4A関連頭蓋顔面疾患の発生頻度は不明である。
現在までに20例のTXNL4A関連頭蓋顔面疾患が報告されている。
TXNL4Aの生殖細胞系列の病的バリアントに関連して生じる表現型としては、このGeneReviewで述べたもの以外のものは知られていない。
表3:後鼻孔閉鎖/狭窄を有し、TXNL4A関連頭蓋顔面疾患との鑑別を要する遺伝性疾患
遺伝子 | 鑑別を要する疾患名 | 遺伝形式 | その疾患の主要症候 | コメント/ 鑑別のポイントとなる症候 |
---|---|---|---|---|
CHD7 | CHARGE症候群 (「CHD7疾患」の GeneReviewを参照) |
AD | 眼内コロボーマ,心奇形,後鼻孔閉鎖,成長障害,発達障害,生殖器低形成,耳の奇形 | CHARGE症候群とTXNL4A関連頭蓋顔面疾患とは、後鼻孔閉鎖をはじめ、一部症候が重なるものの、CHARGE症候群ではTXNL4A関連頭蓋顔面疾患ではみられない臨床症候(眼内コロボーマ,生殖器奇形,特徴的な耳の奇形)がみられる。 注:TXNL4A関連頭蓋顔面疾患でみられるコロボーマは、眼瞼のみに現れ、眼内構造物には現れない。 |
EFTUD2 | 小頭症を伴う下顎顔面異骨症(MFDM) | AR | 下顎顔面異骨症(眼瞼裂斜上,小下顎症,耳の奇形など),出生前の(通常、進行性の)小頭症,中等度から重度の知的障害 | MFDMとTXNL4A関連頭蓋顔面疾患とは一部症候が重なるものの、MFDMでは重度の小頭症や中等度の知的障害がみられることと、両疾患の特徴的顔面症候の違いが、両者の鑑別上、有用である。 |
POLR1B POLR1C POLR1D TCOF1 |
Treacher Collins症候群(TCS) | AD AR1 |
表現度の幅の大きな下顎顔面異骨症。 諸奇形(眼瞼裂斜下,頰骨低形成,下眼瞼のコロボーマ,小耳症,小下顎症など、通常は頭蓋顔面領域に限定した奇形) |
眼瞼裂斜下、頰骨低形成、小耳症は、TXNL4A関連頭蓋顔面疾患では報告されていない。 心奇形や低身長はTCSではあまりみられない。 |
AD=常染色体顕性 ; AR=常染色体潜性
常染色体潜性型のTCSは、POLR1C,POLR1Dの両アレルの病的バリアントに起因して生じる。
最初の診断に続いて行う評価
TXNL4A関連頭蓋顔面疾患と診断された罹患者については、疾患の範囲やニーズを把握するため、診断に至る過程における評価の一部としてすでに実施済ということでないようなら、表4にまとめたような評価を行うことが推奨される。
表4:TXNL4A関連頭蓋顔面疾患罹患者に対し、最初の診断後に行うことが推奨される評価
系/懸念事項 | 評価項目 | コメント |
---|---|---|
後鼻孔閉鎖/狭窄 | 上気道閉塞の有無を確かめるための気道評価 | 新生児では特に重要 |
下眼瞼の欠損 | 生じうる角膜の問題に対応するための眼科的評価 | |
難聴 | 聴覚評価 | |
粘膜下口蓋裂ないし口唇裂口蓋裂 | 口蓋裂チームによる評価 | |
心臓の器質的異常 | 心臓の評価 | 心エコーを含む |
遺伝カウンセリング | 遺伝の専門職1の手で行う。 | 医学的、個人的決断の用に資するよう、罹患者本人やその家族に対し、TXNL4A関連頭蓋顔面疾患の本質、遺伝形式、そのもつ意味に関する情報提供を行うことを目的とする。 |
家族への支援,情報資源 | 以下のニーズに関する評価
|
表5:TXNL4A関連頭蓋顔面疾患罹患者の症候に対する治療
系/懸念事項 | 治療 |
---|---|
後鼻孔閉鎖/狭窄 | 挿管、ないし外科的改善 |
下眼瞼の欠損 | 眼科医の指導に基づき、角膜瘢痕のリスク低減を目的として行うケア |
難聴 | 必要に応じ、補聴器の使用 |
頭蓋顔面症候 | 多職種チーム1による個別ケアと管理 |
心奇形 | 心臓病専門医の指示に準拠 |
定期的追跡評価
表6:TXNL4A関連頭蓋顔面疾患罹患者に推奨される定期的追跡評価
系/懸念事項 | 評価 | 実施頻度 |
---|---|---|
下眼瞼の欠損 | 角膜に焦点を当てて行う眼科的評価 | 眼科医の指示に従う。 |
難聴 | 聴力評価 | 出生後早期に行い、その後は聴覚医の指示に従った頻度で行う。 |
頭蓋顔面症候 | 頭蓋顔面チームへの定期受診 | 頭蓋顔面チームの指示に従う。 |
リスクを有する血縁者の評価
リスクを有する血族に対して行う遺伝カウンセリングを目的とした検査関連の事項については、「遺伝カウンセリング」の項を参照されたい。
研究段階の治療
さまざまな疾患・状況に対して進行中の臨床試験に関する情報については、アメリカの「Clinical Trials.gov」、ならびにヨーロッパの「EU Clinical Trials Register」を参照されたい。
注:現時点で本疾患に関する臨床試験が行われているとは限らない。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
TXNL4A関連頭蓋顔面疾患は、常染色体潜性の遺伝形式をとる。
家族構成員のリスク
発端者の両親
発端者が病的バリアントをホモ接合で有している(すなわち、両アレルの病的バリアントが同一である)と思われた場合は、次のような可能性も頭に入れておく必要がある。
発端者の同胞
発端者の子
TXNL4A関連頭蓋顔面疾患罹患者の子はすべて、TXNL4Aの病的バリアントのヘテロ接合者(保因者)となる。
他の家族構成員
発端者の両親の同胞はいずれも、TXNL4Aの病的バリアントの保因者であることに関し、50%のリスクを有する。
保因者の検出
リスクを有する血縁者に対し、保因者か否かの検査を行うためには、家系内に存在するTXNL4Aの病的バリアントの内容を事前に同定しておくことが必要となる。
遺伝カウンセリングに関連した問題
家族計画
出生前検査ならびに着床前の遺伝子検査
家系内に存在するTXNL4Aの病的バリアントの内容が同定された場合は、高リスクの妊娠に備えた出生前検査や着床前遺伝子検査を行うことが可能となる。
出生前検査の利用に関しては、医療者間でも、また家族内でも、さまざまな見方がある。
現在、多くの医療機関では、出生前検査を個人の決断に委ねられるべきものと考えているようであるが、こうした問題に関しては、もう少し議論を深める必要があろう。
GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報については、ここをクリック。
分子遺伝学
分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。
表A:TXNL4A関連頭蓋顔面疾患:遺伝子とデータベース
遺伝子 | 染色体上の座位 | タンパク質 | HGMD | ClinVar |
---|---|---|---|---|
TXNL4A | 18q23 | Thioredoxin-like protein 4A | TXNL4A | TXNL4A |
データは、以下の標準資料から作成したものである。
遺伝子についてはHGNCから、染色体上の座位についてはOMIMから、タンパク質についてはUniProtから。
リンクが張られているデータベース(Locus-Specific,HGMD,ClinVar)の説明についてはこちらをクリック。
表B:TXNL4A関連のOMIMエントリー(閲覧はすべてOMIMへ)
608572 | BURN-MCKEOWN SYNDROME;BMKS |
611595 | THIOREDOXIN-LIKE 4A;TXNL4A |
分子レベルの病原
TXNL4Aは、U4/U6-U5トリ核内低分子リボ核タンパク質の集積と細胞周期進行に不可欠であるU5スプライソソーム複合体の、高度に保存された構成要素をコードしている。
TXNL4Aの完全欠損は致死性であると考えられており、TXNL4Aの機能低下によりTXNL4A関連頭蓋顔面疾患が生じるとされている。
TXNL4Aのプロモーター領域における2種類の34bpの欠失(1型と2型)がこれまでに報告されている。
この1型と欠失と2型の欠失には部分的に重なりがあり、一般集団において比較的高頻度にみられる。
健康に問題のない3,343人中、45人に1型プロモーター欠失のヘテロ接合が、1人にホモ接合がみられ、1人に2型プロモーター欠失のヘテロ接合が確認されている[Wieczorekら2014]。
現在までに同定済の発端者は、1型プロモーター欠失と機能喪失型アレルとの複合ヘテロ接合、もしくは、2型プロモーター欠失のホモ接合であり、まれに1型プロモーター欠失のホモ接合がみられる[Goosら2017]。
疾患の発症メカニズム
1型、2型のプロモーター欠失により、結果的にプロモーターの活性低下を招き、TXNL4Aの発現低下に至る[Wieczorekら2014]。
したがって、こうしたものはhypomorphicバリアントアレルとみなすことができそうである。
注目すべきは、1型プロモーター欠失より2型プロモーター欠失のほうが、転写活性の低下幅が有意に大きいということである。
酵母におけるオーソログ遺伝子DIB1のヌルバリアントのホモ接合は致死性である[Lieら2006]。
したがって、ヒトにおけるTXNL4Aの機能喪失型バリアントのホモ接合も致死性であるように思われる。
これは、現在までに報告されているTXNL4A関連頭蓋顔面疾患罹患者においてみられる所見と合致する。
TXNL4A特異的な検査手法上の考慮点
TXNL4A関連頭蓋顔面疾患の診断を行う上では、TXNL4Aのプロモーター領域に生じている1つないし2つの欠失を検出する臨床分子遺伝学的検査を担う機関の能力が重要となる。
臨床診断の確認は、Sangerシーケンス解析、MLPA法、染色体マイクロアレイ解析といったものを提供できるすべての分子的検査機関で行うことができる。
ゲノムシーケンシングでも、プロモーター欠失、より大きな欠失、機能喪失型病的バリアントといったものが検出可能である。
Gene Reviews著者: Hermann-Josef Lüdecke, PhD and Dagmar Wieczorek, MD.
日本語訳者: 佐藤康守(たい矯正歯科)、水上都(札幌医科大学医学部遺伝医学)
GeneReviews最終更新日: 022.5.12 日本語訳最終更新日: 2022.12.3.[in present]