結節性硬化症
(Tuberous Sclerosis Complex)

[同義語:Bourneville Disease]

Gene Reviews者: Hope Northrup, MD, FACMG, Mary Kay Koenig,MD, Deborah A Pearson, PhD, Kit-Sing Au, PhD
日本語訳者: 水上都(札幌マタニティ・ウイメンズホスピタル/札幌医科大学医学部遺伝医学)

Gene Reviews 最終更新日:2020.4.16.日本語訳最終更新日:2020.9.29.

原文: Tuberous Sclerosis Complex


要約

疾患の特徴 

結節性硬化症(TSC)には、皮膚の異常(低色素斑、散在性小白斑、顔面の血管線維腫、シャグリンパッチ、線維性の頭部プラーク、爪囲線維腫)、脳の異常(上衣下結節、皮質異形成、 および上衣下巨細胞性星状細胞腫(SEGAs)、痙攣、知的障害・発達遅滞 、精神病)、腎臓の異常(腎血管筋脂肪腫、嚢胞、腎細胞癌)、心臓の異常(横紋筋腫、不整脈)、および肺の異常(リンパ脈管筋腫症(LAM)、多巣性微小結節性肺細胞過形成)がある。本疾患の障害と死亡の主要な原因は中枢神経系の腫瘍であり、早期死亡の原因の第2位は腎疾患である。

診断・検査 

TSCの診断は以下の1つを満たす発端者においてなされる。

診断・検査

症状の治療
肥大するSEGAs:mTOR阻害剤。SEGAのサイズが、生命を脅かす神経学的症状を来す程大きい場合は脳神経外科手術を行う。てんかん発作:ビガバトリンや他の抗てんかん薬、また場合によってはてんかん手術。4cmを超えるもの、または3㎝以上で急速に増大傾向にある腎血管筋脂肪腫:第一選択治療としてmTOR阻害剤、また第二選択治療として塞栓術または腎保存術, または切除術。 顔面血管線維腫:mTOR阻害剤外用。症候性心臓横紋筋腫:外科手術による治療介入、またはmTOR阻害剤の使用を考慮。LAM:mTOR阻害剤。

二次的合併症の予防
ビガバトリンを投与する患者に対しては視野検査を治療開始後4週間以内に行ったあと、治療期間中は3か月毎に行う。更に治療終了の3~6か月後にも行う。

経過観察
25歳以下の無症状の患者には脳MRIを1~3年毎に施行し、SEGAsが新たに発現していないか観察する。小児期に無症候性のSEGAを認めた場合は、成人期にも定期的な画像検査を施行する。大きな、または増大傾向のSEGAを有する患者、もしくはSEGAのため脳室拡大を呈している患者は、より頻繁に脳MRIを施行する。TSC関連神経精神症状(TAND)のスクリーニング検査は少なくとも年に1度行う。また発達上重要な各時期において、TANDについて包括的に評価する必要がある。てんかん発作を認める、または疑われる個人には定期的な脳波検査(EEG)を施行する。腎血管筋脂肪腫および腎嚢胞性疾患の進行を評価するために1~3年毎に腹部MRIを施行する、また少なくとも年に1回は腎機能評価(糸球体濾過率および血圧)を行う。心臓横紋筋腫を有する無症状の乳児や小児には腫瘍が縮小消退するまで1~3年毎の心エコーを施行する。LAMの症状(労作時呼吸困難および息切れ)の有無を18歳以上の女性または呼吸器系症状を訴えた個人に毎回の受診毎に確認する。LAMのリスクがある無症状の個人(19歳以上の成人女性)に対しては、たとえベースラインの検査でLAMの徴候を認めない場合でも5~10年毎に高解像度CT(HRCT)を施行、HRCTで肺嚢胞が発見された個人には肺機能検査を年1回、およびHRCTを2~3年毎に施行する。年1回の皮膚科的 診察、6か月毎の歯科検診、過去に眼病変または視覚症状が確認された個人には年1回の眼科医による評価を実施する。

避けるべき薬剤・ 環境
喫煙、エストロゲンの使用、腎摘除術

リスクのある血縁者の評価
罹患している血縁者を同定すると、TSC関連病変を早期に診断するための定期検査が可能になり、早期治療と予後の改善につながる。

遺伝カウンセリング 

TSCの遺伝形式は常染色体優性遺伝である。罹患者の3分の2は新生突然変異の結果発症する。罹患者の子が病的遺伝子 バリアントを受け継ぐ確率は50%である。家系内の原因遺伝子 バリアントが同定されている場合は、リスクの高い妊娠に対する、出生前診断、着床前診断は可能である。


診断

TSCを疑うべき所見
結節性硬化症(TSC)に関し、下記の大症状を1つ満たす場合、または小症状を二つ以上満たす場合はTSCの罹患を疑う べきである

大症状

小症状

確定診断

結節性硬化症(TSC)の臨床診断基準は分子遺伝学的検査の結果を考慮したものに改訂された(Northrupら(2013年))。
TSCの確定診断可能になるのは以下のいずれかの場合である。

(*注 )LAMと腎血管筋脂肪腫が共に見られるが他の特徴を認めない場合は、確定診断の臨床的診断基準を満たさない。

分子遺伝学的検査には、 同時遺伝子検査マルチジーンパネル検査の使用などの方法がある。

TSC1, TSC2のシークエンス解析及び標的遺伝子の欠失/重複解析を行う。(注):もし病的 バリアントが同定されなかった場合は、病的 バリアントの体細胞モザイクの可能性も考えられる。(Qinら(2010年)、Nellistら(2015年))TSCの原因となる体細胞性モザイク現象に関してさらに情報を得るにはこちら(PDF)をクリック。

TSC1、TSC2、および 他の関連遺伝子(「鑑別診断」を参照)を含むマルチ遺伝子パネルは、コストが制限されていたり、VUSの同定や表現型と合わない遺伝子の病的 バリアントが同定され、TSCの診断が不確実な際に、遺伝学的原因を追究するために考慮されうる。(注)(1)マルチ遺伝子パネルに含まれる遺伝子や検査の感度は検査機関や時間経過により異なるものになる。(2)マルチ遺伝子パネルの中にはこのGenReviewで言及している症状と関連のない遺伝子が含まれているものもある。(3)検査機関の中には、その検査機関がデザインした独自のパネルや表現型に注目し臨床医によって絞りこまれた遺伝子を含んだエクソーム解析も含めたパネルオプションを提供しているところもある。(4)パネル検査で使用される方法はシークエンス解析、欠失/重複解析、そして/または その他の非シークエンス検査が含まれる。この疾患に関しては、欠失/重複解析も含んだマルチ遺伝子パネル検査が推奨される。
マルチ遺伝子パネルに関してさらに情報を得る場合はこちらをクリック。

表1. 結節性硬化症(TSC)に用いる分子遺伝学的検査

遺伝子1、2 この遺伝子の病的バリアントが原因のTSCの割合 試験方法 遺伝子、家族歴、検査方法別の病原性変異2の発見頻度
家族例 孤発例3
TSC1 ~26% 5 シークエンス解析 6, 7 ~9.8% ~15.5%
標的遺伝子の欠失・重複解析 8 ~0.1% 9 ~0.5% 9
TSC2 ~69% 5 シークエンス解析6 13.8% ~53%
標的遺伝子の欠失・重複解析 8, 10 ~0.2% 9 ~2% 9
不明 ~5% 11,12 該当せず 該当せず
  1. 遺伝子はアルファベット順に並べている
  2. 染色体遺伝子座とタンパク質については「表A. 遺伝子とデータベース」を参照
  3. 本遺伝子で検出されるアレル バリアントに関する情報は「分子遺伝学」を参照。
  4. 孤発例とは 一家族に一例のみの発症した場合である。
  5. 病 的バリアントが確認された10,000人以上のTSC患者とその家族のうち、発端者の26% にTSC1に、 74% にTSC2に病 的バリアントを認めた(Jonesら(1999年)、Daboraら(2001年)、Auら(2004年)、Sancakら(2005年)、Auら(2007年))(表A「TSCのデータベース」参照)。
  6. シークエンス解析では, benign, likely benign, 病的意義不明, likely pathogenic, pathogeni cの バリアントが検出される。病的 バリアントには, 遺伝子内の小さな欠失/挿入, ミスセンス, ナンセンス, スプライス部位 バリアントが含まれる. 通常はエクソン, または 遺伝子の全欠失/重複は検出されない。シークエンス解析結果の解釈に関する記事はこちらをクリック。
  7. TSC1の 病的バリアントは主にシークエンス解析で検出される小さな欠失や挿入、およびナンセンスバリアント である。
  8. 標的遺伝子の欠失/重複解析では、遺伝子内の欠失/重複を検出する。使用される 方法 は定量的PCR、long-range PCR, MLPA 、更に単一エクソン欠失および重複を検出するため の標的遺伝子マイクロアレイ検査 である。
  9. TSC患者65名において大きな(複数の) エクソン /遺伝子 の欠失を検出する方法を比較すると、Rendtorffら(2005年)はMLPA法がサザンブロット法及びlong-range PCR法と比較してより感度が高いという結論を出した。MLPA法を使用するとシークエンス解析やサザンブロット法で病的 バリアントが検出されなかった15家系のうち4家系においてTSC2 エクソンの大欠失または 遺伝子全欠失を同定した。
  10. TSC2の病的 バリアントには、エクソンのシークエンス解析では検出できない重要な多数の大きな(エクソンまたは全遺伝子の)欠失や再配列が含まれるため、それらの発見には標的遺伝子の欠失・重複解析の実施が必要となる。
  11. Sancakら(2005年)、Auら(2007年)、Kwiatkowski(2010年)、TableA,  TSC変異のデータベース

12. シークエンス解析によりTSC1またはTSC2に病的変異が同定されなかったTSC患者の15%のうち, 体細胞性モザイクが5%であった(Kozlowskiら(2007年)、Qinら(2010年))ことから推測すると、著者は、TSC患者の少なくとも1%は、TSC1またはTSC2
病的 バリアントの体細胞モザイクであると結論付けた(著者の個人的な観察)。


臨床像

臨床症状に関する説明

結節性硬化症(TSC)は家族間、および家族内で多様な臨床所見を示す。女性は男性より軽症な傾向がある(Sancakら(2005年)、Auら(2007年))。TSCでは全ての臓器系に疾患が発現する可能性がある。

皮膚

TSC患者のほぼ100%に皮膚の疾患が現れる。皮膚病変には、低色素斑(~90%)、散在性小白斑(発生頻度は子供では3%、患者全体では58%と大幅に異なる)、顔面血管線維腫(~75%)、シャグリンパッチ(~50%)、頭部の結合識よりなる局面、および爪囲線維腫(患者全体では20%だが、高齢では80%までの患者に見られる)(Northrupら(2013年))がある。皮膚病変の中でも顔面血管線維腫は最も 外見上の問題となる。いずれの皮膚病変も重篤な医学上の問題はもたらさない。

中枢神経系(CNS

中枢神経系の腫瘍はTSCによる障害と死亡の主要な原因である。TSCの脳病変には脳室上衣下結節(SENs) 、大脳皮質異形成、および脳室上衣下巨細胞性星状細胞腫(SEGAs)などがあり、いずれも神経学的画像検査で評価が可能である。SENsは患者の80%、皮質異形成は約90%に 認める。SEGAsは全TSC患者の5%~15%に 認める(Northrupら(2013年))。このような巨細胞性星状細胞腫は増大し、周辺組織を圧迫、閉塞し重大な障害や死亡につながる可能性がある。

てんかん発作

患者の80%以上がてんかん発作を発症すると報告されているが、ただし、この割合にはより重症な患者の情報が収集される確認バイアスがかかっている可能性がある。TSCは点頭てんかんの原因となることが知られている。少なくとも50%の患者に発達遅滞や知的障害が見られる。TSC患者に生じる若年死亡(32.5%)の主な原因は、重度の知的障害による合併症(例:てんかん重積状態および気管支肺炎)である(Shepherdら(1991年))。

TSC関連神経精神症状(TAND)

TANDは、TSC患者によく見られる脳機能障害の、相互に関連する機能的および臨床的な所見を指し、行動、精神、知能、学業面の、そして神経精神学的、心理社会的な障害が含まれる(de Vries(2010年a))。TSCに罹患した90%以上の子供や成人がその後の生涯でTANDの発症を懸念することが一度またはそれ以上あるにもかかわらず、これまでに評価や治療介入を受けたのはそのうちわずか20%にとどまっている(Krueger(2013年)de Vriesら(2015年))。

自閉症スペクトラム障害(ASD)

TSC患者はASDの高いリスクがあり、その発症率は16%~61%であると推計されている(Gillbergら(1994年)、Boltonら(2002年)、Wong(2006年)、de Vriesら(2007年)、Chungら(2011年)、Numisら(2011年)、Spurling Jesteら(2014年))。これに対して一般集団でのリスクは2%未満となっている(米国疾病管理予防センター、自閉症スペクトラム障害データおよび統計資料を参照)。TSC患者のASDの徴候は生後9か月頃に出てくる。脳室上衣下巨細胞性星状細胞腫を有するTSC患者では、ASDを発症する可能性はほぼ2倍になり(Kothareら(2014年))エベロリムスによる治療はSEGAのサイズ、てんかん、ASDの症状を改善することがわかっている。言語経路の障害(Lewisら(2013年))や顔認識異常(Spurling Jesteら(2014年))等の、ASDと密接に関連する神経機能障害がTSCに罹患した人々に認められてきた。TSCに罹患し、さらにASDを発症している子供は、ASDの発症がない子供に比べ全般的な認知機能障害を生じるリスクが高くなる(Jesteら(2008年))。TSCの幼児で見られるASDの側面は、非症候性ASDの子どもに認めるものと完全に一致するということがわかってきている(Jesteら(2016年)。

注意欠陥多動性障害(ADHD)

ADHDも、TSCに密接に関わる 症状でよく見られる(そして潜在的に重篤な衰弱を来す)ものである。TSC患者のADHDの発病率は21%から50%と推計される(Gillberら (1994年)、Pratherとde Vries(2004年)、Muzykewiczら(2007年)、Koppら(2008年)、Chungら(2011年))。TSCを有する子供および成人の神経心理学的検査では、注意力(特に二重課題の遂行場面)、認識の柔軟性、および記憶における障害も認められた(Ridlerら(2007年)、de Vriesら(2009年)、 Tierneyら(2011年) Curatoloら(2015年)、de Vriesら(2015年))。

学習および認知機能障害

TSC患者は知的障害を生じるリスクが高く、その発病率は44%~64%と推計されている(Joinsonら(2003年)、Gohら(2005年)、van Eeghenら(2012年))。
 〇TSCに罹患している子供の約36%-58%には、介入を必要とする深刻な学業上の困難さ(学習障害)を抱えている(Curatoloら(2015年)、de Vries(2010年b)、Kingswoodら(2017年))。
 〇てんかん発作がコントロールされていない場合、学習および認知機能の障害のリスクは顕著に増加する。点頭てんかん(IS)の既往、および/またはてんかん発作のコントロール不良は、一般に知能の低下を伴うことが数多くの調査により立証されている(Joinsonら(2003年)、Gohら(2005年)、Boltonら(2015年)、Capalら(2017年))。Humphreyら(2014年)は小規模なサンプル(n = 6)による調査で、てんかん発作と知 的障害との間に劇的な用量依存関係があることを証明した。推定される知能指数(IQ)は92(IS以前)から、73(ISの持続期間が1か月 未満)、そして62(ISの持続期間が1か月以上)へ低下した。これらの所見は、TSC患者において適切なてんかんのコントロールが重要であることを示している。

破壊的行動障害および情緒障害

破壊的行動障害と情緒障害は、TSCに関連 し状態を悪くする症状の1つである。攻撃性は多くのTSC患者(13%~58%)に認められ(de Vriesら(2007年)、Koppら(2008年)、Staleyら(2008年)、Chungら(2011年)、Edenら(2014年)、Kingswoodら(2017年)、Wildeら(2017年))、自傷行為(27%~41%)などとして現れる(de Vriesら(2007年)、Edenら(2014年)、Wildeら(2017年))。TSC患者には不安(13%~48%)(de Vries (2007年)、Muzykewiczら(2007年)、Koppら(2008年)、Chungら(2011年)、Kinvswoodら(2017年))やうつ病( 6%~43%)(de Vriesら(2015年)、Kingswoodら(2017年))などの高いリスクがある。

評価

TANDの有無は患者の臨床的転帰や生活の質と密接に関連して いるため、全てのTSC 患者で 評価を実施する必要がある(Krueger、(2013年))。TANDチェックリスト(de Vriesら(2015年))は、無料で利用できるスクリーニング用の簡素な筆記式アンケートであり、TANDに伴う臨床ニーズと、そのニーズを受けて治療介入が実施される患者との間の大きな隔たりに対処するツールとして期待できるものである(de Vriesら(2015年)、Leclezioとde Vries(2015年))。TANDへの懸念に対処しないことは予後不良の大きな原因となり、またTSC患者が医療支援を受ける割合は非常に高いことを考えると、TANDに対する懸念を認識し対処すること が重要ということは決して言い過ぎではない。

腎臓

腎疾患はTSC患者における 早期死亡の2番目に大きな原因(27.5%)である(Shepherdら(1991年))。TSCに罹患した子供の推定で80%が、平均年齢で10.5歳までに腎病変の発現を 認める(Ewaltら(1998年))。
TSC患者には以下の5つの異なる腎病変の発生が考えられる。

腎嚢胞

腎嚢胞は肥大した過形成の好酸球に裏打ちされた上皮層を伴う。
TSC患者には、TSC2の欠失により生じたTSCと、PKD1の欠失により引き起こされた常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の両方の特徴を認める場合がある。その場合、嚢胞が徐々に増大し、機能する腎実質を圧迫してESRDをもたらす場合がある(Martignoniら(2002年))。 TSC2/PKD1隣接遺伝子欠失症候群を有する患者はADPKDの合併症を発症するリスクもあ り、その合併症には他臓器(例:肝臓)の嚢胞性病変や桑実状動脈瘤 などが含まれる。

悪性腎血管筋脂肪腫および腎細胞癌(RCC)

悪性腎血管筋脂肪腫とRCCは 死に至る可能性がある。これら二つの腫瘍はまれにしか見られないが、一般集団に比べTSC患者ではるかに多く発現する(Peaら(1998年))。TSC患者の2%~5%がRCCへ進行すると推定されている 。患者がRCCと診断される年齢は28~30歳であり、散発性腎細胞癌の診断年齢よりはるかに若年である(Crinoら(2006年)、Borkowskaら(2011年))。(注)一般的な画像検査の技術では、脂肪に乏しい腎血管筋脂肪腫 とRCCと見分けられない場合がある。免疫染色検査を実施し、HMB-45陽性の場合は腎血管筋脂肪腫、サイトケラチン陽性の場合はRCCと診断することが推奨される。

心臓

心臓横紋筋腫はTSC患者の47%~67%に存在する(Jonesら(1999年)、Daboraら(2001年)、Sancakら(2005年))。この腫瘍は時間と共に縮小し、最終的には消失する 。心臓横紋筋腫は新生児期に最も大きい場合が多い。心臓から流出する血液の通過障害を出生時に認めなければ、その後この腫瘍による健康上の問題を抱える可能性は低い。しかし少数の患者は、横紋筋腫が縮小後に残存した細胞によって不整脈を起こす。閉塞性病変の治療選択肢に関する情報は、「管理」を参照。


リンパ脈管筋腫症(LAM)

肺のLAMは主に女性に影響を及ぼし、TSCを有する女性の約30%~40%に 認めると推定されている。しかしながら、近年の研究により LAMの診断は年齢依存的であり、TSCの女性患者の80%は40歳までにLAMと診断されることが示唆されている。TSCの女性の約5-10%は症候性のLAMを呈する。LAMに一致する嚢胞性病変はTSCを有する男性の10%~12%に認められる(Northrupら(2013年))。

多巣性微小結節性肺細胞過形成(MMPH)

多巣性微小結節性肺細胞過形成(MMPH)は2型肺胞上皮細胞の多発性 結節性増殖を特徴とし、TSCとの関連で最初に報告されたのが1991年であった(Popperら(1991年))。MMPHが患者の予後や生理学的側面に与える影響は分かっていないが、MMPHに伴う呼吸不全は少なくとも2例で報告されている(Cancellieriら(2002年)、Kobashiら(2008年))。TSC 罹患者のMMPH の正確な罹病率は不明だが、40%~58%に達している可能性がある(Franzら(2001年)、Muzykewiczら(2009年 ))。性別による発症の差異はなく、TSCであれば、 MMPHはLAMの有無にかかわらず発現する 可能性がある。MMPHは、TSCとの明確な関連がない前癌病変である異型腺腫様過形成と混同される 場合がある。

TSCにおける網膜病変には過誤腫(隆起した桑実状病変、または斑状病変)があり、TSC患者の30%~50%に認められる。この病変の発生は一般集団では比較的まれであり、最近実施された正期産新生児3,573人に関する調査では網膜 過誤種が 同定されたのはわずか2人であった(Liら(2013年))。TSC患者の39%に無色斑(脱色素性病変に類似)の発生が見られるが、 一般集団での発現率は20,000人に1人である(Northrupら(1993年))。これらの病変は通常無症候であるが、TSC患者の少数に、全滲出性網膜剥離および血管新生緑内障を伴う、徐々に肥大する網膜星状膠細胞過誤腫を認める場合もある(Shieldsら(2004年))。

腎外血管筋脂肪腫(AMLs)

まれではあるが、腎外血管筋脂肪腫の発現が報告されている(Elsayesら(2005年))。超音波およびCTによる画像検査が用いられた後ろ向き研究で、Frickeら(2004年)はTSC患者62名(13%)に8個の肝臓AMLを確認した。

神経内分泌腫瘍(NETs)

DworakowskaとGrossman(2009年)はNETを有するTSC患者の症例報告をまとめた。腫瘍の大部分は、下垂体腺腫(ACTH産生下垂体腺腫および成長ホルモン産生下垂体腺腫)、副甲状腺腫および 過形成、 そして膵腺腫(インスリノーマおよび膵島細胞腫瘍)であった。より最近 では、ガストリノーマ、褐色細胞腫、およびカルチノイド を発症した単一症例報告もでてきた。 膵島細胞腫瘍を発症した患者の中には、 TSC2病 的バリアント、および/またはヘテロ接合性の 消失が認められた患者がいた。

遺伝子による表現型との関連

TSC2の病的 バリアントによる症状はTSC1の病的 バリアントによる症状と比較し重症となる。より重症なTSC患者はTSC1de novoの病的バリアントよりTSC2のde novoの病的 バリアント を持っていることが多い(Auら(2007年))。孤発例(家系内に他に患者がいない場合)はよりTSC2の病的 バリアントをもっている可能性が高いが、家族例ではTSCTSC2の 病的バリアントの割合は同等である(Auら(2007年))。

TSC2の病的 バリアントをもつ人は、下記のリスクがより高くなる

遺伝子型と表現型との関連

TSC

浸透率

TSC1, TSC2の病的 バリアントをもつ患者の詳細は後述するが、TSCの浸透率は100%と考えられている。明らかな無表現型はまれにしか報告されていない。しかしながら、2つの異なる病 的バリアントが存在する 家系や、生殖細胞系列 モザイクがある 家系などが分子検査で明らかになっている(Connorら(1986年)、WebbとOsborne(1991年)、Roseら(1999年))。

用語

従来、結節性硬化症の所見の説明に使用されていた用語は現在の状況に合わないか不適切となっている が、以下に示す用語は医学文献からまだ削除されていないものである。

有病率

TSCの発現率は出生児5,800人に1人に達している(Osborneら(1991年))。高い突然変異率が推定されている(ある集団では一世代で遺伝子250,000個に1個)(Sampsonら(1989年))。


遺伝子学的に関連する(アレル)障害

隣接遺伝子欠失症候群

PKD1、および隣接するTSC2が欠失した隣接遺伝子欠失症候群が報告されて いる( Consugarら(2008年))。本症候群を有する個人では、結節性硬化症の表現型、および重度の多発性嚢胞腎が一般に胎児期、または乳児期に診断される。

散在性腫瘍

散在性腫瘍(肺リンパ脈管筋腫症、血管周囲類上皮細胞腫瘍、尿路上皮癌、および肝細胞癌を含む)は、TSCの所見を他に認めない場合に単発性の腫瘍として発現し、TSC1TSCの生殖細胞系列変異ではなく、体細胞変異が見られる。したがって、これらの腫瘍が生じやすい素因は遺伝性のものではない。詳細はがんと良性腫瘍を参照。


鑑別診断

TSCの特徴の多くはTSCに特異的なものではなく、また単独の所見として、あるいは他の疾患の特徴として見られる可能性がある。

皮膚

脱色素斑

ある調査では新生児の0.8%に脱色素斑が認められているが、ほとんどの場合では医学的に重要なものではない(AlperとHolmes(1983年))。Vanderhooftら(1996年)が実施した調査では、3個以上の脱色素斑を認める個人では、その後TSCと診断される可能性がはるかに高くなることが判明した。他の疾患で表現型の一環として脱色素斑を伴うものには、尋常性白斑、色素性母斑、貧血母斑、限局性白皮症、およびフォークト・小柳・原田症候群がある。関連する所見により、通常はこれらの疾患とTSCを鑑別することが可能である。

血管線維腫

顔面血管線維腫

顔面血管線維腫が単独で、または二か所に見られる場合であってもTSCとは診断されない(「示唆的な所見」参照)。診察において、尋常性ざ瘡、酒さ性ざ瘡、または多発性毛包上皮腫(CYLD皮膚症候群を参照)は血管線維腫と誤診される可能性があるが、生検によりこれらを容易に見分けることができる。
シャグリンパッチ
TSC患者のシャグリンパッチは発生部位と外見が非常に特異的であり、TSCの主要な診断基準として用いられてきた。しかしながら、「結合織母斑」という用語が、必ずしもTSC患者に見られるわけではない皮膚結合組織過剰形成を伴う多様な皮膚病変まで網羅することから、診断基準の改訂により「結合織母斑」の用語が削除された。

爪囲線維腫

爪囲線維腫は外傷により生じることがあるが、一般的には外傷性の爪囲線維腫は単一病変であり、その発生理由は説明が可能である(例:ゴルフクラブの特定の握り方による等)。現在、TSCの主要な臨床診断基準では2か所以上に爪囲線維腫が存在することが必要とされている。爪囲線維腫は上皮封入嚢胞、尋常性疣贅、および乳児指趾線維腫症と鑑別される必要がある。

腎臓

腎嚢胞は一般集団にもよく見られる(1%~2%)が、30歳以下の患者にはまれにしか発生しない(Northrupら(1993年))。
腎血管筋脂肪腫(AMLsは、他に医学上の問題を何も抱えていない個人に見られることがある、まれな腫瘍である。散在性のAMLsは、TSC2のヘテロ接合性の欠失(LOH)を伴うと調査で示されていることから、散在性のAMLsは結節性硬化症を発病していない個人のTSC2の機能喪失の結果であると結論付けられる。

リンパ脈管筋腫症(LAM)を有する女性が腎血管筋脂肪腫を発症し、かつTSCの他の所見が見られないことがある。これらの人々では、TSCやリンパ脈管筋腫症は次世代に伝わらない。リンパ脈管筋腫症および腎血管筋脂肪腫を有し、 他のTSCの特徴を認めない場合は、TSCの臨床診断基準を満たさない(Northrupら(2013年))。

心臓

心臓横紋筋腫を有する幼児がTSCに罹患 している可能性は75%~80%である。まれに、心臓横紋筋腫が単独の所見として認められる場合がある。散在性の心臓横紋筋腫の作用機序は散在性AMLsで説明される作用機序と潜在的に類似する可能性がある(「腎臓」参照)。


管理

TSC患者の 推奨される臨床的管理および経過観察については公開されている。 (Kruegerら(2013年a))(全文)。

初期診断後の評価

TSCと診断された個人の病気の範囲とニーズを明らかにするために、表2にまとめられた評価が(もし診断に結びつく評価の一部として行われていない場合には)、国際TSCコンセンサス会議によって推奨されている。(Northrupら(2013年))

表2
TSC患者の初期診断後に推奨される評価

組織 評価
上皮 詳細な皮膚科的、歯科的検査
  • 血圧
  • 腎機能:GFRレベルをみるために血清クレアチニン値を測定
  • 腹部MRI:AMLsと腎嚢胞の存在を評価する
CN
  • 脳MRI:結節、SENs, 皮質形成異常, SEGAsの評価
  • TANDの評価
  • EEG:異常を認めた場合、TANDがある場合:潜在性てんかん活動を評価するために24時間ビデオEEG
  • 乳児期は最初の診断時に症状がなくとも、両親に乳児スパスムについて教育する
網膜病変、視野欠損を評価するため、眼底検査も含めた眼科的評価
心臓 小児期には心エコー(特に3歳未満)
ECG: すべての年代で、伝導障害を評価
  • 基礎肺機能検査(肺機能検査と6分歩行試験)とHRCT:LAMのリスクのある人は無症状でも行う(典型的には18歳以上の女性)
  • 成人男性は、症状があれば肺機能検査を行う
その他 臨床遺伝医、遺伝カウンセラーへ相談

症状の治療

上衣下巨細胞性星状細胞腫(SEGAs)

増大傾向の上衣下巨細胞性星状細胞腫の 早期発見はmTOR阻害剤による治療を可能にし( Kruegerら(2010年))、多くの人々に対する脳神経外科的な治療介入 を不要にする可能性がある。しかし、SEGAが 増大し生命を脅かす神経症状をもたらす場合には、やはり神経系外科手術の適応となる場合がある。

てんかん発作

てんかん発作の早期管理はその後のてんかん性脳症を予防し、認知や行動への影響を低下させる(Bombardieriら(2010年))。点頭てんかんに対する様々な治療の効果は個人により異なるが、後ろ向き検討において、TSCを有する小児 の73%がビガバトリンでコントロールされることが判明した(Camposanoら(2008年))(「二次的合併症の予防」参照)。また、現在、TSC関連の点頭てんかんを発症した乳児に早期にビガバトリンを使用することでの発達予後について前向き検討が行われているところである。

TSC患者のてんかん発作は、抗けいれん薬による多剤療法に耐性を示す場合がある。てんかん手術による良好な結果が数多くの小規模試験により報告されている。

先の症例報告により、TSCの難治性てんかんに対し、mTOR阻害剤の有効性が示唆された(Kruegerら(2013年b)。EXIST-3臨床試験(Frenchら2016年)はこれらの治療の有効性を確認し、EXIST-3はTSC関連部分発作に対する補助的治療としてFDAに承認された。

腎血管筋脂肪腫

無症候性の 血管筋脂肪腫で、増大傾向にある直径4 cm以上のものまたは3 cm以上で急速に増大傾向にあるものは、mTOR阻害剤の投与が短期的に最も有効な第一選択治療として現在推奨されている(Daviesら(2011年)、Bisslerら(2013年))。長期的な 効果と安全性を確認する試験が依然として必要ではあるが、これまでに実証されている忍容性は、血管筋脂肪腫の進行または塞栓・切除療法により生じる腎障害に比べはるかに望ましいものである(Kruegerら(2013年b))。
・無症候性の血管筋脂肪腫に対しては、選択的塞栓術、およびそれに続くコルチコステロイド投与、腎温存切除術、または外側増殖病変に対する切除療法が第二選択治療として容認 されている(Bisslerら(2002年))。
・急性出血の治療では、塞栓術とその後のコルチコステロイド投与がより適切である(Mourikisら(1999年))。腎摘除術は、 高い合併症のリスク、将来の腎不全と末期腎不全のリスクの増加、および慢性腎不全がもたらす予後不良などのため避けるべきである。

顔面血管線維腫

mTOR阻害剤の外用が顔面血管線維腫の治療に有効であることが示されている。

心臓横紋筋腫

生命を脅かす合併症(すなわち、流出路閉塞)を来す心横紋筋腫を有する新生児への標準的治療は以前は外科手術であった。TSCに罹患する幼児の心臓横紋筋腫の治療としてmTOR阻害剤の適応外使用が現在、数例で報告されており、その結果は希望が持てるものである( Doganら(2015年)、Goyerら(2015年)、Mlczochら(2015年))。これらの報告はmTOR阻害剤が臨床的に重症な心横紋筋腫に対し外科的治療に代わる治療となりうることを示している。

LAM

LAMに対するmTOR阻害剤の効果は治験により示され 、mTOR阻害剤のTSCの肺疾患の治療としての使用がFDAにより承認された(2015年5月28日)。LAMに対する診断と管理の公的ガイドラインが発行された。(McCormackら2016年、Guptaら2017年)

二次的合併症の予防

ビガバトリンで治療を受ける患者は周辺視野が制限されるリスクがあるため、視野検査を治療の開始後4週間以内、および治療期間中は3か月毎、そして治療後3か月~6か月に受けることが推奨される( SABRIL 処方情報)。

経過観察

TSCを有する個人には以下の所定のモニタリングを実施することが推奨される(出典:Kruegerら(2013年a)、表3)。

避けるべき薬剤・状況:

以下を避ける必要がある。

リスクのある血縁者の評価:

罹患者の血縁者で、一見したところ無症状だがリスクのある全ての人々を評価することは、 可能な限り早くサーベイランス、治療を受けることでの利益を得ることができるため適切である。
評価には以下の方法が考えられる。

妊娠管理

一般的にてんかんまたはあらゆる原因によるけいれん発作を有する女性は一般の妊娠女性 と比較し、妊娠中の死亡率が明らかに高くなるが、妊娠中の抗てんかん薬の使用はこのリスクを下げる。しかし、抗てんかん薬の暴露は胎児への影響(使用薬物、使用量、使用時の妊娠週数による)のリスクを増大させる可能性がある。しかし、抗てんかん薬暴露による胎児への副作用のリスクは未治療の母体のけいれん発作による影響のリスクよりは小さい。従って、母体のけいれん発作に対する妊娠中の抗てんかん薬の使用は通常推奨される。妊娠中の抗てんかん薬の使用のリスクとベネフィットに関する議論は理想的には妊娠前になされるべきである。妊娠に対しよりリスクの低い薬物に変更することも可能である。
妊娠中の薬物使用に関する更なる情報はMother To Babyを参照

試験が進行中の治療法

多くの治験においてTSCの症状に対する薬物療法の効果の評価が行われている。(ClinicalTrials.gov参照)。
アメリカではClinical Trials.govで、ヨーロッパではEU clinical Trials Registerにて広範囲の 疾患の臨床試験に関する情報の入手が可能である。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

結節性硬化症(TSC)は常染色体優性遺伝性疾患である。

患者家族のリスク

発端者の両親

(注)親の病 的バリアントが家族に最初に発生したものである場合、その バリアントは体細胞性のモザイク現象であり、軽度またはわずかな症状を伴う場合がある。

発端者の同胞

発端者の子

結節性硬化症罹患者の子はTSC1またはTSC2の病的バリアントを受け継ぐ可能性は50%である 。

発端者の他の家族

他の血縁者へのリスクは発端者の両親の状態による。発端者の親が 罹患しているか、または家族性の 病的バリアントを有する場合、 その親の血縁者にはリスク がある。

遺伝カウンセリングに関する事項

早期診断と治療を目的とした、リスクを有する親戚の評価に関する情報は、「リスクのある血縁者の管理と評価」を参照。

発症前診断

リスクがある無症状の成人血縁者に対する発症前診断では、家族にTSC1またはTSC2の病 的バリアントが存在するか否かを事前に特定することが必要になる。

明らかに新規の 病的バリアントを有する家族に関する留意事項

発端者の両親のいずれにも 病的バリアントやTSCの臨床徴候を認めない場合、TSC1またはTSC2の 病的バリアントは新規発生のものである可能性が高い。しかしながら、代理父や代理母(例:生殖医療による)、または養子の事実が明かされていない場合など、医学では説明されない他の理由を調査することが可能な場合もある。

家族計画

DNAバンク

DNAバンクでは、DNA(一般的には白血球から抽出されたもの)が将来利用される可能性に備えて保管されている。遺伝子、アレル変異、および疾患の検査方法や、これらへの私たちの理解は将来向上する可能性があるため、罹患者のDNAをバンキングしておくことを考慮すべきである。

出生前検査と着床前遺伝子診断

リスクの高い妊娠

分子遺伝学的検査

家族内の罹患者にTSC1またはTSC2の 病的バリアントが一旦確認されれば、リスク の高い妊娠に対し出生前検査やTSCに関する着床前遺伝子診断を実施することが可能である。

胎児の画像検査

病的バリアントが確認されなかった家族については、腫瘍の高解像度超音波検査の施行が可能である。しかしながら、この検査の感度は不明である。50%のリスクがある胎児にTSCの評価を行う場合は、胎児MRIが有用である。
 (注)心臓腫瘍は妊娠末期になるまで一般的には発見されない。

リスクの低い妊娠

胎児超音波検査で横紋筋腫に一致する心臓の病変が特定された場合、TSCに関する既知の家族歴がない胎児がTSCを発病するリスクは75%~80%である(Northrupら(2013年))。


情報源

本疾患の罹患者とその家族に益するため、GeneReviewsのスタッフが本疾患に特化した、および/または統括的な支援団体、および/または登録制度を選定した。GeneReviewsは下記以外の組織から提供された情報について責任を負わない。選択の基準に関する情報はこちらをクリック。


分子遺伝学

「分子遺伝学」、およびOMIMから抜粋した表は、GeneReviewにある他の内容とは異なっているかもしれません。表にはより最近の情報も含まれているからです。-編者

表A. 結節性硬化症:遺伝子およびデータベース

遺伝子 染色体遺伝子座 蛋白質 遺伝子座特異的 HGMD ClinVar
TSC1 9q34.13 ハマルチン 結節性硬化症データベース(TSC1) TSC1 TSC1
TSC2 16p13.3 ツベリン 結節性硬化症データベース(TSC2) TSC2 TSC2

以下の標準的な基準から引用してデータをまとめた。ヒューゴ遺伝子用語委員会(HGNC)の遺伝子、オンライン・ヒトメンデル遺伝形質(OMIM)カタログの染色体遺伝子座、遺伝子座名、責任領域、相補性グループ、UniProtの蛋白質。データベース(遺伝子座特異的、HGMD)の説明についてはこちらのリンクをクリック。

表B. 結節性硬化症に関するOMIMの見出し語(OMIM内の「全てを表示」)

191092 TSC2遺伝子;TSC2
191100 結節性硬化症1;TSC1
605284 TSC1遺伝子;TSC1
613254 結節性硬化症2;TSC2

分子遺伝学的発症機序

ハマルチンとチュベリンがヘテロ二量体を形成していることは、これらが細胞の成長と増殖を共同で調節する役割を果たしていることを示唆する(Plankら(1998年)、van Slegtenhorstら(1998年)、HanとSahin(2011年))。ハマルチンとチュベリンは、AKT/mTORシグナル伝達経路の主要な制御因子であり、またこの他にもMAPK、AMPK、b-カテニン、カルモジュリン、CDK、オートファジー等のいくつかのシグナル伝達経路や、細胞周期経路に関与することが明らかになっている(KozmaとThomas(2002年)、Astrinidisら(2003年)、El-Hashemiteら(2003年)、HarrisとLawrence(2003年)、Yeung(2003年)、Auら(2004年)、Birchenall-Robertsら(2004年)、Liら(2004年)、MakとYeung(2004年)、Zhangら(2013年))。ハマルチンとチュベリンの複合体はまた、細胞骨格の形成とAKTの活性化に影響を与えるmTORC2複合体の調節も行っている可能性がある(HanとSahin(2011年))。このような見解は、シグナル伝達経路キナーゼを制御するハマルチンよりチュベリンが多いことと整合性が取れており、このことがチュベリンとハルマチンの複合体を不安定化し、さらにmTORの機能の抑制を除去し、蛋白質が翻訳され、細胞の成長と増殖へつながる。TSC1病的 バリアントの大多数とTSC2の病的 バリアントの70%は機能喪失したタンパク質を産生すると予測される。この続発する機能喪失は、制御されない細胞の成長と増殖の原因となり、過誤組織(解剖学的領域に通常は存在する組織型の無秩序な配列から成る限局性の奇形)や過誤腫を形成する(Auら(2004年))。
さらに、チュベリンとハマルチンは多数の細胞シグナル伝達経路により制御されるため、それらの体細胞性の 病的バリアントの量と質及び、これらの経路を標的とした環境要因の双方が、生殖細胞系列にTSC1またはTSC2の正常コピーをただ一つしか持たない人の疾患発現を修飾することが予期される。
病 的バリアントとは、TSC1またはTSC2 蛋白 の機能を明らかに不活性化(すなわち、out-of-frame欠失・挿入 バリアント、またはナンセンスバリアント )する、または蛋白質の合成を阻害する バリアントと定義されるもの、または病原性のミスセンス バリアントが蛋白質の機能に影響を及ぼしていることが機能評価により明らかになったものである(LOVDデータベース – TSC1、LOVDデータベース– TSC2、Hoogeveen-Westerveldら(2012年)、およびHoogeveen-Westerveldら(2013年)を参照)。蛋白質の機能への影響があまり明白でない他のTSC1TSC2の バリアントは、TSCの診断基準を満たさない。

TSC1

遺伝子構造

TSC1はサイズが約50 kbであり、最も長い転写 バリアント(NM_000368.4)は23のエクソンから成る 。初めの2つはノンコーディングエクソンである。エクソンの5と12は選択的にスプライスされ、より短い転写 バリアントが産生される。遺伝子と蛋白質に関する情報のより詳細な概要は、「表A. 遺伝子」参照。

病的バリアント

SC1の 病的バリアントの ほぼ全てが蛋白質ハマルチンの切断をもたらすと推測される。TSC1病 的バリアントの発生部位は疾患の重症度に関連しないと考えられている。TSC関連のTSCに罹患する1,950を超える個人または家族に、650個を上回る固有のTSC1 病的バリアントが特定された(表A)。ほとんどの病的バリアント は固有のものであるが、エクソン15の特定コドンに見られるバリアント のように繰り返し生じることが知られるものも一部にある。他の 病的バリアントはエクソンやスプライス部位の至るところに散発する。少数の病 的ミスセンス バリアントは、その発生の大部分がハマルチンのN末端をコードする領域で特定される(Choiら(2006年)、Leeら(2007年)、Mozaffariら(2009年)、Nellistら(2009年)、Hoogeveen-Westerveldら(2012年))。

病的バリアントの 型毎の割合を表4に示す。

表4. TSC1に見られる 病的バリアントの型

全TSC1 病的バリアントにおける割合1
小さな欠失および挿入 57.8%
ナンセンス 22.7%
スプライス 10.9%
大きな欠失および再構成 2.9%
ミスセンス2 5.7%
  1. LOVDによる推定割合
  2. 機能の喪失が明らかとなっていたTSC1の in vitro試験で、少数のミスセンス バリアントが同定された(Choiら(2006年)、Leeら(2007年)、Mozaffariら(2009年)、Nelhstら(2009年)、Hoogeveen-Westerveldら(2012年))。

更なる情報は、表Aを参照。

正常な遺伝子産物

TSC1が、他の既知の遺伝子ファミリーとの間で構造的相同性を有するかについては分かっていない。
遺伝子産物である蛋白質ハマルチンには、膜貫通領域1つとコイルドコイル領域が2つある。1つ目のコイルドコイル領域は、ハマルチンとチュベリンの蛋白質間の相互作用に必要となる。2つめのコイルドコイル領域ペプチドはエクソン17から23までにコードされているが、チュベリンと相互作用し、チュベリンとハマルチンの複合体を安定化させる。他の領域は、細胞骨格系ERM蛋白質、低分子G蛋白のRho、細胞分裂促進蛋白質キナーゼ、およびIカッパキナーゼβ(IKK-β)との相互作用に関与する。ハマルチンの結晶構造に関する最近の研究では、大部分の病原性ミスセンス バリアントが折り畳まれたハマルチンN末端の球状構造の内側に位置していることが判明し、これらの バリアントがハマルチンの球状構造を不安定化し、チュベリンとハマルチンの複合体の解離をもたらすことが示唆された(Sunら(2013年))。

ハマルチンの主な機能は、ハマルチンとチュベリンの複合体におけるチュベリンのGTPase活性化機能を促進するために複合体を安定させることにある(HanとSahin(2011年))。さらに、ハマルチンはアクチン結合蛋白質 のエズリン,ラディキシン,モエシンからなるERM 蛋白質ファミリーと相互作用し(Lambら(2000年))、またハマルチンは、CDKとの相互作用により細胞分裂も制御する(Floricelら(2007年)、Knoxら(2007年))。ハマルチンは、アミノ酸残基Ser511においてTNFαにより活性化されるIKK-βリン酸化反応に抑制を受け、これにより チュベリンとハマルチンの複合体が解離し、S6KinaseとVEGFの産生が活性化される。最近の研究ではハマルチンが分子シャペロンheat-shock protein90(Hsp90)が正しくチュベリンをフォールディングするのを助けチュベリンがユビキチン化し、プロテアソーム分解されるのを防いでいるということが報告された(Woodfordら(2017年))。

異常な遺伝子産物

「分子遺伝学的発症機序」参照。

TSC2

遺伝子構造

TSC2はサイズが約50 kbであり、最も長い転写 バリアント(NM_000548.3)は42のエクソンから成る。非コード型エクソンであるlaは最近少なくとも6つの選択的スプライスを受ける転写物であることがわかっている。エクソン25と31は選択的にスプライシングされる。TSC2およびPKD1の3’末端同士は塩基対3個が重複するが、このことは、大きな欠失が両方の遺伝子に及んでいる場合にTSC2-PKD1 隣接遺伝子症候群が発現する理由を説明している。遺伝子および蛋白質の形成に関する詳細な概要は、「表A遺伝子」を参照。

病的バリアント

TSC関連のTSCに罹患した5800を超える個人または家族に、1,900個を上回る固有の 病的バリアントがTSC2の全域にわたり確認された。TSC2の 病的バリアントの約33%が、いくつかの重要な機能モチーフ(例:GAP領域、エストロゲン受容体およびカルモジュリン結合領域、および複数のシグナル伝達経路キナーゼの標的)から成るチュベリンのカルボキシ領域をコードする、エクソン32から41まで(および関連するスプライス部位)に位置する。
病的バリアントの型毎の割合を表5に示す。
ミスセンス バリアントはTSC2の全 病的バリアントの約26%を占め、その約50%がカルボキシ領域に集中している。ミスセンス バリアントがキナーゼの直接の標的となることはまれである が、Tyr1571残基の2つのミスセンス バリアントの みがチロシンキナーゼの標的になると推測される(Hoogeveen-Westerveldら(2013年))。

表5. TSC2に見られる 病的バリアントの型(n = 1,947)

TSC2病的バリアントにおける 割合1
小さな欠失および挿入 ~37.7%
ミスセンス ~25.7%
ナンセンス ~14.5%
スプライス ~16.6%
大きな欠失および再配列2 ~5.4%
  1. LOVDによる推定割合
  2. TSC2 病的バリアントの約 5%が大きな欠失または再配列であり、4. 5%が部分的な遺伝子欠失、 0.5%が遺伝子の全欠失である。 大欠失全てのうち約半数はTSC2PKD1の両方が 含まれている。

情報をさらに得る場合は、表Aを参照。

表6. GeneReviewで議論されるTSC2の 病的バリアント

DNAヌクレオチドの変化 予測される蛋白質の変化 基準配列
c.1864C>T p. Arg622Trp1   NM_000548.3
NP_000539.2
c.2714G>A p.Arg905Gln1
c.3106T>C p.Ser1036Pro1
c.3598C>T p. Arg1200Trp1
c.4508A>C p.Gln1503Pro1
c.4735G>A p.Gly1579Pro1
c.5138G>A p.Arg1713His1

表中の バリアント は著者により提供されたものである。GeneReviewのスタッフは バリアントの分類を単独で検証してはいない。
GeneReviewはヒトゲノム変異協会(varnomen.hgvs.org)の標準的な命名の慣例に従った。用語の説明については「クイックリファレンス」を参照。

  1. 「遺伝子型-表現型の相関」を参照。

正常な遺伝子産物

遺伝子産物であるチュベリンは、低分子G蛋白質のRheb、および蛋白質の翻訳や細胞の成長と増殖に関わるmTORC1の、下流のシグナル伝達経路の主要な制御因子として、GTPase活性化蛋白質の機能を持つ(Inokiら(2003年))。チュベリンもまた、Rap1aやRab5などの他の低分子G蛋白質を制御する機能を有する(Xiaoら(1997年))。チュベリンの活性はAKTやERK2により抑制され、GSK2やAMPKにより活性化される(HanとSahin(2011年))。「分子遺伝学的発症機序」を参照。

異常な遺伝子産物

「分子遺伝学的発症機序」を参照。

癌および良性腫瘍

肺リンパ脈管筋腫症(LAM)

散発性のLAMを有する数名の個人の肺組織から抽出したDNAに、生殖細胞系列には見られなかったTSC2またはTSC1の 病的バリアントを見出した(Smolarekら(1998年)、Carsilloら(2000年)、Satoら(2002年))。チュベリンはLAM組織において強く発現する(Johnsonら(2002年))。最近の研究では散発性LAM結節のすべてに病的なTSC1, TSC2の バリアントが含まれるわけではなく、4-60%であることが報告された(Badriら(2013年))。

血管周囲類上皮細胞腫瘍(PEComa)

PEComaを有する症例でTSC2またはTSC1のいずれかの喪失が報告されれば(Panら(2008年))、TSCにおける血管筋脂肪腫およびPEComaの癌化細胞の系譜が存在することを裏付ける徴候となる。PEComa 11例を対象とした最近の調査で、6例がmTOR阻害剤に対し部分奏功から完全奏功までの結果を示した(Dicksonら(2013年))。

尿路上皮癌

尿路上皮癌に罹患するかなりの患者がTSC1に機能の喪失した体細胞性 病的バリアントを持つことが判明し、また一部の患者にはTSC2にも 病的バリアントが確認された(Pymarら(2008年)、Sjodahlら(2011年))。こうした所見は、かなりの割合の尿路上皮癌がmTORC1阻害剤に反応を示す可能性を示唆している。

肝細胞癌

近頃実施された調査により、肝細胞癌の10-20%でTSC2に機能の喪失した体細胞性 病的バリアントを伴うことが示され、これらの癌がmTORC1阻害剤に反応する可能性を示唆する結果となっている(Huynhら(2015年)。


更新履歴

  1. Gene Reviews著者: Sara Huston Katsanis, MS and Ethylin Wang Jabs, MD
    日本語訳者: 江田 肖(瀬戸病院 遺伝診療科),石川亜貴(札幌医科大学医学部遺伝医学)
    Gene Reviews 最終更新日: 2012.8.30 語訳最終更新日: 2015.1.6
  2. Gene Reviews著者: Hope Northrup, MD, FACMG, Mary Kay Koenig,MD, Deborah A Pearson, PhD, Kit-Sing Au, PhD
    日本語訳者: 水上都(札幌医科大学医学部遺伝医学)
    AMED「医療現場でのゲノム情報の適切な開示のための体制整備に関する研究」班(研究開発代表者:小杉眞司)
    Gene Reviews 最終更新日: 2015.8.3. 日本語訳最終更新日: 2018.8.31
  3. Gene Reviews者: Hope Northrup, MD, FACMG, Mary Kay Koenig,MD, Deborah A Pearson, PhD, Kit-Sing Au, PhD
    日本語訳者: 水上都(札幌マタニティ・ウイメンズホスピタル/札幌医科大学医学部遺伝医学)
    Gene Reviews 最終更新日:2020.4.16.日本語訳最終更新日:2020.9.29. [in present]

原文: Tuberous Sclerosis Complex

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