[Synonyms:ADPKD]
Gene Reviews著者: V Reid Sutton, MD and Hans van Bokhoven, PhD
日本語訳者: 佐藤康守(たい矯正歯科)、水上都(札幌医科大学医学部遺伝医学)
GeneReviews最終更新日: 2021.4.1. 日本語訳最終更新日: 2022.10.1.
疾患の特徴
TP63関連疾患には、互いに重なり合う6つの表現型が存在する。
罹患者は、通常、外胚葉異形成(乏汗症、爪の異形成、疎な毛髪、歯の異常)、口唇裂口蓋裂、裂手-裂足奇形/合指趾、鼻涙管閉塞、低色素沈着、乳房/乳頭低形成、尿道下裂をさまざまな組み合わせで有している。
1つの表現型だけに現れるものとしては、先天性索状眼瞼癒着症(上下眼瞼間の全体ないし一部が索状組織で繋がっている状態)や、皮膚の瘢痕部、特に頭皮の瘢痕部に生じる糜爛、それに脱毛症、開口障害、過剰な雀斑がある。
診断・検査
発端者におけるTP63関連疾患の診断は、これを示唆する所見を有することに加え、分子遺伝学的検査でTP63の病的バリアントのヘテロ接合が検出されることによって確定する。
臨床的マネジメント
症状に対する治療:
臨床遺伝学、皮膚科学、眼科学、耳鼻咽喉科学、聴覚学、歯科学ならびに歯科補綴学、形成外科学、栄養/消化器学、心理学の専門家から成る多職種共同医療チームによる管理が推奨される。
皮膚の糜爛については、繊細な創傷ケア、ならびに二次的感染症予防のため、希釈漂白液での定期的洗浄を行う。
皮膚の糜爛が重度の乳児については、モニタリングを行いながら、脱水、電解質平衡異常、栄養不良、感染症に対する治療を積極的に進める。
疎な毛髪や脱毛症に対してはかつら、歯については小児期初期には義歯、ティーン世代から成人初期にはインプラントの使用が選択肢となろう。
口唇裂口蓋裂については、通常のプロトコルに従って治療が行われる。
四肢奇形に対しては、機能を最良の状態にもっていくため、必要に応じて作業療法や手術が行われる。
定期的追跡評価 :
歯科的なニーズと難聴の状況に関して、定期的に注視していく。
遺伝カウンセリング
TP63関連疾患は、常染色体顕性の遺伝形式をとる。
TP63関連疾患の診断を受けた罹患者の約30%は、罹患者である親からの継承例で、新生のTP63の病的バリアントに起因する罹患者の割合は約70%である。
発端者の片親のほうも、罹患者である、ないし発端者で同定された病的バリアントを同様に有しているということが判明している場合は、同胞への再現危険率は50%である。
家系内に存在するTP63の病的バリアントが同定されている場合は、出生前、着床前の遺伝子検査が可能となる。
TP63関連疾患:ここに含まれる表現型1 |
---|
|
別の呼称や、かつて用いられた呼称については、「命名法」の項を参照
1.これらの表現型を惹起する他の遺伝的原因に関しては、「鑑別診断」の項を参照のこと。
本疾患を示唆する所見
以下のような所見を、組み合わさった形で有する例については、TP63関連疾患を疑うべきである。
臨床的所見
家族歴
家族歴は、常染色体顕性遺伝に一致した形で現れる(複数世代にわたり男女両方に罹患者が現れる状態)。
調べた範囲で家族歴がないからといって、本疾患の可能性が否定されるわけではない。
注:TP63関連疾患には、非症候群性口唇裂口蓋裂に加えて、互いに重なり合う5つの表現型が含まれる(各表現型の詳細については、「臨床像」ならびに表2を参照)。
診断の確定
発端者におけるTP63関連疾患の診断は、本疾患を示唆する所見を有することに加え、分子遺伝学的検査でTP63の病的バリアントのヘテロ接合が同定されることで確定する(表1参照)。
注:TP63に意義不明のバリアントのヘテロ接合が同定された場合、それは本疾患の診断を確定させるものでも否定するものでもない。
分子遺伝学的検査としては、表現型に合わせて、遺伝子標的型検査(単一遺伝子検査ならびにマルチ遺伝子パネル)、網羅的ゲノム検査(エクソームシーケンシング、ゲノムシーケンシング)を組み合わせて用いることが考えられる。
遺伝子標的型検査を行う場合は、あらかじめ臨床医のほうで関与している遺伝子の目星をつけておく必要があるが、ゲノム検査の場合、そうした必要はない。
「本疾患を示唆する所見」の項に記載したような所見が明確にみられる罹患者については、単一遺伝子検査(「方法1」参照)で診断が可能であろうし、外胚葉異形成、口唇裂口蓋裂、裂手/裂足形態異常など、それだけでは他の遺伝性疾患と区別しにくい表現型を有する罹患者については、ゲノム検査(「方法2」参照)で診断を行うことになろう。
方法1
単一遺伝子検査
遺伝子内の小欠失/挿入、ミスセンス・ナンセンス・スプライス部位バリアントを検出したいときは、最初にTP63の配列解析を行う。
注:使用する配列解析の手法によっては、1エクソン、複数エクソン、あるいは遺伝子全体の欠失・重複が検出できないようなこともある。
使用した配列解析の手法でバリアントが検出できなかった場合、次のステップとして行うべきものは、エクソン単位あるいは遺伝子全体の欠失や重複を検出するための遺伝子標的型欠失/重複解析である。
マルチ遺伝子パネル
意義不明のバリアントや、今ある表現型と直接関連のない遺伝子の病的バリアントの検出を抑えつつ、最も安価に疾患の原因遺伝子を特定できるのは、TP63その他の関連遺伝子(「鑑別診断」の項を参照)を含むマルチ遺伝子パネルである。
注:
(1)パネルに含められる遺伝子の種類、ならびに個々の遺伝子について行う検査の診断上の感度については、検査機関によってばらつきがみられ、また、経時的に変更されていく可能性がある。
(2)マルチ遺伝子パネルによっては、今このGeneReviewで取り上げている状況と無関係な遺伝子が含まれることがある。
(3)検査機関によって、パネルの内容が、その機関の定めた定型のパネルであったり、表現型ごとに定めたものの中で臨床医の指定した遺伝子を含む定型のエクソーム解析であったりすることがある。
(4)ある1つのパネルに対して適用される手法には、配列解析、欠失/重複解析、ないしその他の非配列ベースの検査などがある。
マルチ遺伝子パネル検査の基礎的情報についてはここをクリック。
遺伝子検査をオーダーする臨床医に対する、より詳細な情報についてはここをクリック。方法2
網羅的ゲノム検査
網羅的ゲノム検査の場合、臨床医のほうで事前に原因遺伝子の目星をつけておく必要はない。
最も広く用いられているのはエクソームシーケンシングである。
ゲノムシーケンシングを用いることも可能である。
網羅的ゲノム検査の基礎的情報についてはここをクリック。
ゲノム検査をオーダーする臨床医に対する、より詳細な情報についてはここをクリック。
表1:TP63関連疾患で用いられる分子遺伝学的検査
遺伝子1 | 手法 | その手法で病的バリアント2が検出される発端者の割合 |
---|---|---|
TP63 | 配列解析3 | 99%4 |
遺伝子標的型欠失/重複解析5 | 稀4,6 |
バリアントの種類としては、遺伝子内の小さな欠失/挿入、ミスセンス・ナンセンス・スプライス部位バリアントなどがあるが、通常、エクソン単位ないし遺伝子全体の欠失や重複は検出されない。
配列解析の結果の解釈に際して留意すべき事項についてはこちらをクリック。
具体的手法としては、定量的PCR、ロングレンジPCR、MLPA法、あるいは単一エクソンの欠失ないし重複の検出を目的に設計された遺伝子標的型マイクロアレイなどがある。
また、TP63の部分欠失が、口蓋顔面裂の複数の家系(TP63関連疾患にみられる他の症候を伴う例と伴わない例の両方が含まれる)で報告されている[Khandelwalら2019]
臨床像
TP63関連疾患には、表2に概要を示したような、互いに症候の重なる複数の表現型が存在する。
詳しくは表の後に続く本文で述べる。
表2:TP63関連疾患:症候ごとにみた表現型の比較
症候 | TP63関連疾患 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
AEC症候群 | ADULT症候群 | EEC症候群3型 | 四肢-乳房症候群 | 裂手-裂足形態異常4型 | 口腔顔面裂8 | ||
先天性索状眼瞼癒着 | X | ||||||
外胚葉異形成 | X | X | X | ※(訳注) | 稀 | ||
乏汗症1 | X | X | X | ||||
爪の異形成 | X | X | 軽度 | X | |||
疎な毛髪 | X | X | X | ||||
歯の異常 | X | X | X | X | |||
口唇裂口蓋裂 | X | X | X | X | |||
裂手-裂足形態異常/合指趾 | X | X | X | X | X | ||
鼻涙管閉塞 | X | X | X | X | |||
皮膚の糜爛 | X | ||||||
低色素症 | X | X | X | ||||
尿道下裂 | X | X | |||||
開口障害 | X | ||||||
過剰な雀斑 | X | ||||||
乳房の低形成 | X | X | |||||
乳頭の低形成 | X | X |
1.多くの場合、主観的評価
訳注:原文では※の部分に「X」のマークが入っていないが、乏汗症、爪の異形成、歯の異常がみられる以上、ここに「X」の印が入れられるべきであるように思われる。
【AEC症候群】
眼瞼癒着-外胚葉異形成-口唇口蓋裂(AEC)症候群の各症候は、通常、出生時にすでに存在する。
眼瞼癒着
眼瞼癒着は、新生児の70%にみられる。
上下眼瞼間の癒着は、かなりはっきりした形でみられるものがある一方、ごくわずかな部分的癒着にとどまり、それと認識される前に索状組織が自然に分離してしまうようなこともある。
涙点は欠損することが多く、しばしば慢性の結膜炎や眼瞼炎を惹起する。
これは、乳児期にはそれとはっきりわからないようなことも多いが、小児期初期には見てわかるようになる[Suttonら2009]。
外胚葉異形成
ほぼ100%の罹患児に表皮の糜爛がみられる。
その程度は、ごく限定的なものから、全身に広がり生命を脅かすほどのものまで、さまざまである。
糜爛は、出生時から乳児期にかけて、頭皮に現れるのが最も一般的である。
重度の頭皮糜爛により、しばしば瘢痕性の脱毛症や減毛症が生じる。
これは、TP63関連疾患の中の他のタイプにはみられない特徴である。
皮膚の糜爛は、小児期から成人期にかけて、再発性、間歇性に出現する傾向がみられ、頭頸部、手掌、足底、皮膚の谷間部分に多くみられる。
先天性紅皮症(すなわち、瀰漫性の紅斑とそれに伴う糜爛)が、乳児の70%-90%にみられる。
また、皮膚は、コロジオン膜を伴って光る(赤く、光沢をもった膜状の皮膚変化を呈する)ようなこともある[Siegfriedら2005]。
小児期には、通常、皮膚の脱色素や瘢痕化を呈するが、その原因の多くは、以前にあった紅皮症やその背後にあった糜爛(これは臨床でわかることもあればわかりにくいこともある)に関連して生じた炎症後の色素変化にある。
アフリカ系アメリカ人の乳児の場合、仮面状の顔面低色素が生じることがあるものの、これは年齢とともに改善していく。
白人系の肌の色をもつ罹患者の場合は、通常、頸部や間擦部に網状の色素沈着が生じ、年齢とともに篩状、網状、星状、点状の瘢痕へと移行する。
これは肩、背中の上部、胸部に最も多くみられる。
皮膚生検の病理組織学的特徴としては、表皮の萎縮、色素失調、リンパ球浸潤の少ない盛り上がった表在性の脈管叢などがある[Dishopら2009]。
毛髪の変化は、年齢とともに、より顕著になる。
毛髪は、通常、淡色で、粗く、ごわごわして、脆く、まるでガラスか金で紡いだ糸のような外観、あるいは「櫛通りの悪そうな」外観を呈する。
眉や睫毛は疎である。
光学顕微鏡や走査顕微鏡の診査では、捩れ、裂溝、不連続な色素沈着といった毛髪の構造や色調の変化がみられることがある。
爪の変化は、程度の差こそあれ、すべての罹患者にみられ、年齢とともにより顕著になる。
大多数の罹患者の爪は、異栄養(爪甲のテクスチャー異常)で、爪甲は凸彎を示す。
小爪(異常に小さい爪甲)、爪甲の吸収を伴う遠位端の擦り切れ、爪の欠損なども多くみられる[Julapalliら2009]。
小児期や思春期には、形態異常歯(切縁-咬合面側がすぼんだ円錐形状)や部分性無歯症(歯数の減少)も顕在化する。
罹患成人の平均第二生歯数は4.75本である[Farrington & Lausten 2009]。
中には汗腺数の減少のため発汗が低下する例もある[Ferstlら2018]が、乏汗性外胚葉異形成症にみられるような形で、熱中症や発熱に至るようなことはない。
裂
裂は全例に現れる。
裂型には、粘膜下口蓋裂のみ、硬口蓋裂のみ、軟口蓋裂のみ、硬軟口蓋裂のみ、口唇裂のみ、唇顎口蓋裂などがある[Coleら2009]。
その他
その他の所見としては、次のようなものがある。
四肢奇形は、もともと本症候群の一部とはみなされていなかったが、合指趾や手の屈指症(伸ばすことのできない永続性の指の曲がり)がこれまでに報告されている。
AEC症候群の17例中2例(12%)に裂手/裂足形態異常がみられたという[Suttonら2009]。
AEC症候群男性の78%に尿道下裂が確認されている[Suttonら2009]。
顔貌の特徴は、年齢とともにより顕著になる。
よくみられるものとしては、上顎の低形成、小下顎症、広い鼻根、鼻翼の低発達、薄い上赤唇、短い人中などがある。
AEC症候群罹患者の35%に開口障害が報告されている[Suttonら2009]。
罹患児の90%超に伝音性難聴がみられ、これによりしばしば二次性の言語発達遅延が生じる[Coleら2009]。
体重増加不良と成長障害が予期される。
適切な形で栄養補給を行えば、体重増加不良は年齢とともに改善する。
小児期初期においては、身長の伸びの異常もみられる。
同年齢の集団を基準として比較したとき、身長は有意に低い値を示す。
AEC症候群の成長は、乏汗性外胚葉異形成において報告されているものと類似したパターンを示す[Motil & Fete 2009]。
AEC症候群の表現型に伴う心理的影響としては、子どもと家族の両方にみられるQOLの低下がある。
ある研究によると、心理面での影響の現れ方には大きな幅があり、悪影響はほとんどなしとする家族もいれば、重大な悪影響ありとする家族もみられたという[Laneら2009]。
【ADULT症候群】
肢端-皮膚-爪-涙腺-歯(ADULT)症候群の症候は、通常、皮膚の雀斑を除き、すべて出生時に認められる。
そして、それらの症候は、年齢とともにより顕著になる。
四肢奇形
合指趾が最も多くみられる。
外胚葉異形成
皮膚は、乾燥の傾向がみられるものの、糜爛はみられない。
毛髪の変化は、年齢とともにより顕著になる。
通常、毛髪は淡色で細い。
眉や睫毛は疎である。
爪の異形成が多く報告されている。
小児期や思春期には、歯の形態異常(切縁-咬合面側がすぼんだ円錐形状)や部分性無歯症(歯数不足)も顕在化する。
主観的評価ながら、乏汗が常にみられ、温熱に対する不耐症が報告されている。
ただ、乏汗性外胚葉異形成症にみられるような形で、熱中症や発熱に至るようなことはない。
鼻涙管閉塞
鼻涙管閉塞が多くみられ、しばしば慢性結膜炎や眼瞼炎に至るが、小児期初期になって初めてそれに気づくことが多い[Suttonら2009]。
乳房/乳頭低形成
乳房や乳頭の低形成が多くみられ、女性でそれが顕著にみられる。
この症候は、ADULT症候群と四肢-乳房症候群に特徴的なもので、TP63関連疾患の他のタイプのものには現れない。
過剰な雀斑
ADULT症候群の中の1つのサブセットとして、日光曝露部位に過剰な雀斑が現れるタイプのものがある。
これは、年齢とともに、また日光への曝露が増えるとともに悪化していく。
この症候は、TP63関連疾患の他のタイプのものではみられない。
【EEC3】
欠指-外胚葉異形成-口唇口蓋裂症候群3型(EEC3)の各症候は、通常、出生時に認知される。
四肢奇形
罹患者の68%-90%に四肢奇形がみられ、60%は四肢すべてに異常が及ぶ。
これまでに、合指趾、欠指、裂手/裂足形態異常、過剰指趾など、多様な四肢異常が報告されている。
152人のEEC症候群コホートにて、裂手/裂足形態異常が68%に、合指趾が43%に認められている[Rinneら2006a]。
外胚葉異形成
皮膚は乾燥傾向があるものの、糜爛はみられない。
毛髪の変化は、EEC症候群罹患者の60%-80%にみられ、年齢とともにより顕著になる[Rinneら2006a]。
通常、毛髪は銀色がかった金髪で、粗く、乾燥している。
また、疎な毛髪が20%にみられる。
EEC症候群の毛髪は、光学顕微鏡上は異常なしと報告されている[Pashayanら1974]。
眉や睫毛は疎である。
爪の異形成が多く報告されている。
小児期や思春期には、形態異常歯(切縁-咬合面側がすぼんだ円錐形状)や部分性無歯症(歯数の減少)が明らかになる。
EEC3では、乏汗症はあまりみられない[Ferstlら2018]。
口唇裂や唇顎口蓋裂
口唇裂や唇顎口蓋裂が60%-75%にみられ、その半数は両側性である。
裂型は、粘膜下口蓋裂のみ、硬口蓋裂のみ、軟口蓋裂のみ、硬軟口蓋裂のみ、口唇裂のみ、唇顎口蓋裂などがある[Bussら1995]。
涙点の欠如
涙点の欠如が罹患者の90%にみられると報告されており、その結果、流涙、眼瞼炎、涙嚢炎、角結膜炎、羞明が生じ、しばしば角膜潰瘍、瘢痕形成に至る[Bussら1995]。
泌尿生殖器系奇形
泌尿生殖器系奇形が45%で報告されており、具体的には、尿道下裂、ならびに腎や集尿系の発生異常がある。
【四肢-乳房症候群】
四肢-乳房症候群の各症候は、通常、出生時には存在する。
四肢の奇形
裂手/裂足形態異常や合指趾などの四肢の奇形が、罹患者の75%-85%で報告されている。
乳房ないし乳頭の低形成
乳房や乳頭の低形成が多くみられ、乳頭の無形成ないし低形成はほぼすべての罹患者に、乳腺の無形成ないし低形成は女性の90%にみられる。
この症候は、ADULT症候群と四肢-乳房症候群に特有のもので、他のタイプのTP63関連疾患では通常みられないものである。
鼻涙管閉塞
鼻涙管閉塞は罹患者の約半数にみられ、慢性結膜炎や眼瞼炎の原因となるが、小児期初期までは、その存在が認識されないことが多い[van Bokhovenら1999]。
外胚葉異形成
爪の異形成が罹患者の30%にみられる。
小児期や思春期には、部分性無歯症(歯数の不足)も明らかになる。
これは10%-15%にみられる。
注:他のタイプのTP63関連疾患と異なり、皮膚や毛髪については、ふつう異常がみられない。
口唇裂や唇顎口蓋裂
口唇裂や唇顎口蓋裂が罹患者の25%-30%にみられる。
裂型としては、粘膜下口蓋裂のみ、硬口蓋裂・軟口蓋裂・硬軟口蓋裂のみ、口唇裂のみ、唇顎口蓋裂がある。
【SHFM4】
単独型裂手-裂足形態異常4型(SHFM4)の各症候は、通常、出生時に認められる。
四肢の奇形
四肢の奇形の具体的内容は、手足の中央列の裂、指節骨・中手骨・中足骨の無形成/低形成、合指趾である。
外胚葉異形成と口唇裂口蓋裂
外胚葉異形成や口唇裂口蓋裂の存在は、SHFM4の診断上は、むしろ除外基準であるとみなされている。
【非症候群性口唇裂/口蓋裂(口腔顔面裂8)】
明らかに非症候群性口唇裂/口蓋裂と思われる3人の罹患者(4歳女児、ならびに3歳男児とその父親)でTP63の病的バリアントが同定された例が、それぞれ、Leoylangら[2006]とBashaら[2018]によって報告されている。
これらの罹患者については、さらに詳しい評価を行ったものの、TP63関連疾患の他の症候は何も見出されていない。
Khandelwalら[2019]は、口腔顔面裂もしくは部分性無歯症と、皮膚・爪の小奇形とを併せもつ3家系の罹患者において、TP63の部分欠失がみられたことを明らかにしている。
遺伝型-表現型相関
注:TP63の2つのアイソフォーム、NM_003722.4でコードされるTAp63αアイソフォームと、NM_001114982.1でコードされるΔNp63αアイソフォームについて、これまでに病的バリアントが報告されている。
後者は前者よりアミノ酸39個分短く、選択的N末端トランス活性化ドメインを有している。
詳細については図1を参照されたい。
図1:
カラーキー(訳注:図の右下に「KEY」とある、色と疾患との対応関係を示したものを指す)で示した各疾患において、多く検出されているTP63の病的バリアントを示す。
「*」で示した病的バリアントは、ΔNp63αアイソフォームにのみ現れるもので、そこに振られている番号は、参照配列(NM_001114982.1,NP_001108454.1)をもとにした番号である。
それ以外の病的バリアントに振られた番号は、TAp63αの参照配列(NM_003722.5,NP_003713.3)をもとにした番号である。
#をつけた(R97C)の変異については、TAp63αにのみ現れることに注意。
EEC=欠指-外胚葉異形成-口蓋裂症候群
LMS=四肢-乳房症候群
ADULT=肢端-皮膚-爪-涙腺-歯症候群
AEC=眼瞼癒着-外胚葉異形成-口唇口蓋裂症候群
SHFM4=単独型裂手-裂足形態異常4型
NSCL=非症候群性口唇裂/口蓋裂
AEC症候群
AEC症候群関連の病的バリアントは、すべて、sterileαmotif(SAM)ドメイン(82%)か、ΔNp63特異的N末端ドメイン(18%)のどちらかに生じる。
N末端のドメインに生じる未成熟終止コドンに至る病的バリアントにより、代替開始コドンが使用されることになり[Rinneら2008]、N末端ドメインを欠いたΔNp63アイソフォームが作られることになる。
こうしたものはAEC症候群に特異的なものである。
このp63アイソフォームは、成熟表皮内で多く現れ、ZNF750(訳注:ジンクフィンガータンパク質750)を抑制して表皮の分化障害を引き起こすことが明らかになっている[Zarnegarら2012]。
ADULT症候群
ADULT症候群は、通常、DNA結合ドメインの病的バリアントに伴って生じる。
ADULT症候群類似の症候を有する複数の孤発例で、それ以外の部位の病的バリアントが報告されている。
ΔNp63α(代替TAドメイン)、TAドメインとDNA結合ドメインの間のTAp63α[Rinneら2006b,Rinneら2007]、ならびにTAp63αの他の部位[van Zelst-Stams & van Steensel 2009]の病的バリアントについては、他のタイプのTP63関連疾患類似の症候を有する孤発例でも報告されている。
EEC3
EEC3を引き起こす病的バリアントは、すべてDNA結合ドメインのミスセンスバリアントで、これによりDNAとの結合が阻害されることが明らかになっている[Rinneら2006b]。
EEC3を引き起こすスプライシングの変化やフレームシフトの報告もみられる[Celliら1999,van Bokhovenら2001,Barrowら2002,Montiら2013]。
四肢-乳房症候群
四肢-乳房症候群は、トランス活性化ドメインとDNA結合ドメインの間に位置する部分の病的ミスセンスバリアント(TAp63αのp.Gly115,p.Ser129,p.Gly173残基)、もしくはTP63のSAMドメインにトランケーションを引き起こすバリアントによって生じる[van Bokhovenら2001,Rinneら2007]。
SHFM4
トランス活性化ドメインやDNA結合ドメインにおける病的ミスセンスバリアントにより、SHFM4が生じるとされている[Rinneら2007]。
口腔顔面裂8
口腔顔面裂8は、TP63のDNA結合ドメインのバリアントに伴って生じるとされている[Leoyklangら2006,Bashaら2018]。
浸透率
数は少ないながら、浸透率が低くなっているか、あるいは生殖細胞系列モザイクの可能性が考えられる罹患者、罹患家系の例が報告されている。
これは、浸透率の低下によるものである可能性ももちろんあるが、それよりもっと可能性が高いのは、片親の体細胞・生殖細胞系列のモザイクであろうと思われる。
1家系で、二卵性双生児にみられたTP63の病的バリアントが、表現型の上で異常のない母親にもあることが確認された例がある。
このデータから判断して、おそらくその母親は体細胞モザイクで[van Bokhoven,未発表データ]、生殖細胞系列モザイクも有しているのであろうと推察される。
命名法について
眼瞼癒着-外胚葉異形成-口唇口蓋裂(AEC)症候群は、1976年にこの疾患を最初に報告した医師に因み、Hay-Wells症候群の名でも知られている。
Rapp-Hodgkin症候群(RHS)は、かつてはこれとは別の疾患と考えられていたが、両疾患の臨床症候が重なること、ならびに両疾患ともTP63に病的バリアントがみられることから、現在ではどちらもAEC症候群のスペクトラムの一部と考えられている[Cambiaghiら1994,McGrathら2001]。
遺伝的観点から言うと、EEC3はEEC1(こちらは7q11-q21にマッピングされている)とは無関係と考えられている。
EEC2呼ばれている疾患は、当初、19番染色体にマッピングされた[O‘Quinnら1998]が、最終的にはTP63の病的バリアントが同定されるに至った[Celliら1999]。
発生頻度
TP63関連疾患の発生は稀である。
ここに含まれる各タイプの発生頻度も、全体としてのTP63関連疾患の発生頻度も、不明である。
TP63の生殖細胞系列の病的バリアントのヘテロ接合に伴って生じる表現型としては、このGeneReviewで述べられたもの以外のものは知られていない。
表3:TP63関連疾患において鑑別診断の対象となる遺伝子群
TP63関連疾患 | 鑑別診断 | 遺伝子/ 遺伝的メカニズム |
遺伝形式 | 重なる症候 | 鑑別のポイントとなる症候 |
---|---|---|---|---|---|
AEC症候群 | 単純型表皮水疱症(EBS) | EXPH5 KRT5 KRT14 TGM5 |
AR AD |
出生時の皮膚の糜爛 |
|
常染色体潜性先天性魚鱗癬 | ABCA12 ALOX12B ALOXE3 CASP14 CERS3 CYP4F22 LIPN NIPAL4 PNPLA1 SDR9C7 SLC27A4 TGM1 |
AR | 新生児期におけるコロジオン膜を伴う紅皮症1 | AEC症候群は、コロジオン膜や魚鱗癬を伴わない。 (訳注:本文や左隣の記載と矛盾しているように思われる) |
|
巻き毛-眼瞼癒着-爪異形成症候群 (CHANDS) (OMIM 214350) |
RIPK4 | AR | 眼瞼癒着と毛髪の変化 | 実質的にAEC症候群の全例にみられる口腔顔面裂や皮膚の糜爛が、CHANDSでは、通常みられない。 | |
Cocoon症候群2 | CHUK | AR AD |
眼瞼癒着,口唇裂口蓋裂,外胚葉異形成 | Cocoon症候群は、低ガンマグロブリン血症や反復性感染症を伴う(これらの症候はAEC症候群ではみられない)。 | |
SHFM4 | SHFM1 (OMIM 183600) |
DLX5 | AD | 裂手/裂足形態異常 |
|
SHFM3 (OMIM 246560) |
10q24隣接遺伝子重複 | AD | SHFM3では、鼻涙管・歯・外胚葉の異常はみられない(指趾の発生異常に伴う爪の異常を除く)4。 | ||
SHFM6 (OMIM 225300) |
WNT10B 5 | AR | SHFM6では、鼻涙管・歯・外胚葉の異常はみられない。 | ||
TP63関連疾患一般 | 低汗性外胚葉形成不全症(HED) | EDA EDAR EDARADD WNT10A |
AD AR XL |
|
AD=常染色体顕性,AR=常染色体潜性,XL=X連鎖性
遺伝的原因が未解明の遺伝疾患の中で、TP63関連疾患との鑑別を要するもの
EEC1(OMIM 129900)については、一連の罹患者の細胞学的に視認可能な染色体異常の結果から、7q21-q22にある遺伝子の病的バリアントが原因として疑われている。
また、EEC1ともEEC3とも座位の異なる他のタイプのEEC類似表現型の存在が報告されている。
SHFM2(OMIM 313350)は、Xq26にマッピングされている。
これは男女ともに出現するが、男性のほうが重度の表現型を呈する傾向にある。
この疾患では、口唇裂口蓋裂や外胚葉異形成はみられない。
TP63関連疾患については、今のところ臨床的管理のガイドラインは公表されていない。
最初の診断後の評価
TP63関連疾患と診断された罹患者については、疾患の範囲やニーズを把握するため、診断に至る過程ですでに実施済ということでないようなら、表4に概要を示したような評価を行うことが推奨される。
表4:診断に続いてTP63関連疾患の罹患者に行うことが推奨される評価
系/懸念事項 | 評価 | コメント |
---|---|---|
眼組織 | 眼科的評価 | 眼瞼癒着,鼻涙管閉鎖/閉塞,ドライアイ,眼瞼炎の評価 |
皮膚,毛髪,爪組織 | 皮膚科的評価 | |
歯の異常 | 歯科的・補綴的評価 | インプラントの必要性の評価 |
口唇裂/口蓋裂 | 多専門口蓋裂チームによる評価 | |
難聴 | 耳鼻科的評価ならびに聴性誘発反応 | |
乳房/乳頭の非対称 | 形成外科的評価 | |
成長遅延 | 栄養学的評価 | 左記に加えて消化器内科医の評価も必要なことがある。 |
発達遅滞 | 発達評価 | |
四肢の奇形 |
|
|
遺伝カウンセリング | 遺伝医学の専門家1により行われる。 | 医学的、個人的な決断の助けとするために、罹患者やその家族に対して、TP63関連疾患の本質、遺伝形式、そのもつ意味について説明を行う。 |
家族の支援/情報資源 | 以下について検討を行う。
|
1.臨床遺伝医、認定遺伝カウンセラー、認定上級看護師をいう。
症候に対する治療
臨床遺伝学、皮膚科学、眼科学、耳鼻咽喉科学、聴覚学、歯科学ならびに歯科補綴学、形成外科学、栄養学/消化器内科学、心理学などの多職種連携医療チームによる管理が推奨される。
表5:TP63関連疾患罹患者の示す症候に対する治療
症候/懸念事項 | 治療 | コメント/その他 |
---|---|---|
先天性索状眼瞼癒着 | 上下眼瞼間の索状組織は、細いものでは自然に切れて無くなることが多い。 太いものについては眼科医による外科的分離術が必要になる。 |
|
鼻涙管閉鎖/閉塞 | 眼科医の判断によっては、プロービングや外科的介入が必要になる。 | |
ドライアイ/眼瞼炎 | 水分を与えるための点眼液ないし点眼ゲル | |
皮膚の糜爛 | 創傷ケアを慎重に行う。 二次感染予防のための希釈漂白液(Dakins溶液)での定期的洗浄 |
肉芽組織を刺激しがちなので、密封療法は行わない。 |
二次感染に対しては、必要に応じ、抗生剤や抗真菌薬の外用ないし内服を行う。 | 経験に基礎を置いた治療(培養での確認を行わない状態での抗生剤の使用)は推奨されない。 | |
重度の皮膚糜爛を呈する乳児に対しては、脱水・電解質異常・栄養不良・二次感染と敗血症に対して監視と積極的治療を行う。 | ||
疎な毛髪/脱毛 | 要望に従ってかつらを使用する。 | |
部分性無歯症 |
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|
口唇裂口蓋裂 | 多専門の口蓋裂チームによるケア | |
難聴 | 慢性中耳炎に起因する難聴に対しては、鼓膜切開術を行う。 | |
乳房/乳頭非対称 | 乳房の重度の非対称については、形成手術での改善が可能である。 | |
成長遅延 | 経口でのカロリー摂取の最適化 | 胃瘻造設も検討に値する。 |
発達遅滞 | 発達小児科医ないし小児神経心理医による評価と治療 | |
四肢の奇形 | 機能改善の必要に応じ、作業療法ないし手足の外科手術 | |
症候の及ぼす心理的問題 | 必要に応じ、心理支援やカウンセリングへの紹介 |
定期的追跡評価
表6:TP63関連疾患罹患者に推奨される追跡評価
系/懸念事項 | 評価 | 頻度 |
---|---|---|
部分性無歯症 | 補綴的評価 | 専門歯科医の判断に従って行う。 |
難聴 | 聴覚検査 | 聴覚訓練士/耳鼻科医の判断に従って行う。 |
避けるべき薬剤/環境
以下の事由により、長時間の日光への曝露は避けるべきである。
リスクを有する血縁者の評価
歯科的なニーズや生じうる難聴に留意しながら疾患の症候を定期的に評価することが、結果として利益につながる人々が確実に存在する。
そうした人々を可能な限り早期に特定するためには、リスクを有しつつも一見無症状の血族について、その遺伝的状態を明らかにしておくことが大切である。
遺伝カウンセリングを目的として、リスクを有する血族に対して行う検査関連のことについては、「遺伝カウンセリング」の項を参照のこと。
研究段階の治療
さまざまな疾患・状況に対して進行中の臨床試験に関する情報については、アメリカの「Clinical Trials.gov」、ならびにヨーロッパの「EU Clinical Trials Register」を参照されたい。
注:現時点で本疾患に関する臨床試験が行われているとは限らない。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
TP63関連疾患は、常染色体顕性の遺伝形式をとる。
家族構成員のリスク
発端者の両親
これは、他のタイプのTP63関連疾患にも当てはまるように思われる[H van Bokhoven,AF Bree,VR Suttonの未発表データ]。
これは、他のタイプのTP63関連疾患にも当てはまるように思われる[H van Bokhoven,AF Bree,VR Suttonの未発表データ]。
注:(1)発端者のもつ病的バリアントが両親のDNA中に検出されない
(2)親子鑑定の検査で、生物学的な親子関係が確認されている
という2つの条件を満たしたとき、報告書には「新生」と記載される。
親子鑑定の検査が行われていない場合、報告書には「新生(仮)」と記載される[Richardsら2015]。
注:親の白血球DNAを検査することで、体細胞モザイクの例を漏れなく検出できるというわけではない。
*TP63の病的バリアントを体細胞モザイク、生殖細胞系列モザイクの両方で有している片親については、罹患の程度が軽度ないしごくわずかである可能性がある。
したがって、発端者で検出された病的バリアントのヘテロ接合を両親のどちらも有していないということが分子遺伝学的検査で証明されない限り、家族歴なしということの確定はできない。
発端者の同胞
発端者の同胞の有するリスクは、発端者の両親の遺伝的状態により変わってくる。
罹患血族に現れる臨床症候には、大きな幅がある可能性が考えられる。
それは、親が生殖細胞系列モザイクを有している可能性が考えられるからである[Enriquezら2016,van Bokhovenの未発表データ]。
ただそれでも、臨床的に非罹患者と思われる両親をもつ発端者の同胞は、TP63関連疾患に関して、依然として高リスク状態と考えることができる。
それは、片親がヘテロ接合をもっていても浸透率が低いためにそれが症候として現れなかったという可能性、ならびに、親の生殖細胞系列モザイクの可能性が考えられるからである。
発端者の子
TP63関連疾患罹患者の子に、病的バリアントが継承される可能性は50%である。
他の家族構成員
他の血族の有するリスクは、発端者の親の状態によって変わってくる。
片親がTP63の病的バリアントを有している場合、その血族に当たる人はすべてリスクを有することになる。
遺伝カウンセリングに関連した問題
リスクを有する血族に関して、早期に診断を確立し、治療につなげることを目的とした各種情報については、「臨床的マネジメント」の中の「リスクを有する血縁者の評価」の項を参照されたい。
家族計画
出生前検査ならびに着床前の遺伝子検査
家系内に存在するTP63の病的バリアントが同定済の場合は、出生前検査ならびに着床前遺伝子検査を行うことが可能となる。
出生前検査の利用に関しては、医療者間でも、また家族内でも、さまざまな見方がある。
現在、多くの医療機関では、出生前検査を個人の決断に委ねられるべきものと考えているようであるが、こうした問題に関しては、もう少し議論を深める必要があろう。
GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報については、ここをクリック。
分子遺伝学
分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。
表A:TP63疾患:遺伝子とデータベース
遺伝子 | 染色体上の座位 | タンパク質 | Locus-Specificデータベース | HGMD | Clin Var |
---|---|---|---|---|---|
TP63 | 3q28 | 腫瘍タンパク質63 | TP63@LOVD | TP63 | TP63 |
データは、以下の標準資料から作成したものである。
遺伝子についてはHGNCから、染色体上の座位についてはOMIMから、タンパク質についてはUniProtから。
リンクが張られているデータベース(Locus-Specific,HGMD,ClinVar)の説明についてはこちらをクリック。
表B:TP63疾患関連のOMIMエントリー(閲覧はすべてOMIMへ)
103285 | ADULT SYNDROME |
106260 | ANKYLOBLEPHARON-ECTODERMAL DEFECTS-CLEFT LIP/PALATE; AEC |
129400 | RAPP-HODGKIN SYNDROME; RHS |
603273 | TUMOR PROTEIN p63; TP63 |
603543 | LIMB-MAMMARY SYNDROME; LMS |
604292 | ECTRODACTYLY, ECTODERMAL DYSPLASIA, AND CLEFT LIP/PALATE SYNDROME 3; EEC3 |
605289 | SPLIT-HAND/FOOT MALFORMATION 4; SHFM4 |
618149 | OROFACIAL CLEFT 8; OFC8 |
子レベルでの病原
TP63のコードする転写因子p63は、上皮の系列決定や発生に係わる主要な制御因子である。
TP63は、多数のp63アイソフォームをコードしており、これらは二量体や四量体の複合体を形成して、外胚葉構造物の発生に重要な役割を果たす遺伝子群のネットワークを制御している[Khandelwalら2019]。
p63のアイソフォームはそれぞれ、さまざまな細胞や組織、例えば表皮、卵母細胞、筋、蝸牛などにおいて役割を果たすことがわかっている。
そして、TP63は、胚発生や外胚葉の細胞分化における大元の制御因子となっている[Shalom-Feuersteinら2013]。
それに加え、TP63は、シグナル伝達分子であるFGF8との協働で、肢芽の外胚葉性頂堤(AER)の発生に決定的な役割を果たしている[Restelliら2014]。
皮膚・口腔組織・乳腺など多くの上皮細胞においては、表皮の重層化の全過程を通じて表皮内で検出されるものとして、ΔNプロモーター(訳注:p63は2種類のプロモーターから発現し、N末端にトランス活性化ドメインを有するTAp63と、これを欠くΔNp63の2種類のアイソフォームが存在する。Δは欠失を意味する記号。)が唯一の活動性プロモーターで、3’のエクソンが最重要のエクソンとなっている[Sethiら2015,Soares & Zhou 2018]。
これに対し、TAアイソフォームは、さまざまな非上皮細胞において低レベルで広く発現する。
卵母細胞ではTAp63が発現し、DNAの損傷に反応する形で生じるアポトーシスの制御に重要な役割を果たしている[Deutschら2011]。
蝸牛においてもTAアイソフォームが発現して、蝸牛の適切な発生に必要なNotchシグナル伝達経路を制御している[Terrinoniら2013]。
これに加え、筋発生の後期[Cefalùら2015]、心筋細胞の発生[Rouleauら2011]においてもTAp63が発現していることが明らかになっている。
疾患の発生メカニズム
TP63の各種バリアントにより、外胚葉異形成、口腔顔面裂(OFC)、裂手/裂足形態異常(SHFM)という3つの主要な表現型が生じる[Celliら1999]。
TP63の各種バリアントのヘテロ接合により、症候の重なる5つの別々の症候群、すなわち、欠指-外胚葉異形成-口唇口蓋裂症候群(EEC症候群)、眼瞼癒着-外胚葉異形成-口唇口蓋裂症候群(AEC症候群)、Rapp-Hodgkin症候群(RHS)、肢端-皮膚-爪-涙腺-歯症候群(ADULT症候群)、四肢-乳房症候群(limb-mammary症候群;LMS)が生じる。
また、TP63に現れる稀なバリアントにより、さまざまな軽度の外胚葉症候を伴う口腔顔面裂(OFC8)[Leoyklangら2006]や非症候群性のSHFM4が生じる。
TP63には、広いスペクトラムをもつ異なる種類のヘテロ接合性バリアントが現れることが報告されており、前述したような発生障害を引き起こす。
バリアントの大半は、アミノ酸の置換を引き起こすタイプのものである。
EEC症候群やAEC症候群/Rapp-Hodgkin症候群では、TP63のミスセンスバリアントごとに、明確な遺伝型-表現型相関がみられる[Rinneら2006a,図1]。
EEC症候群やAEC症候群/Rapp-Hodgkin症候群の背景となっているバリアントは、正常では二量体・四量体を形成しているp63タンパク質を障害してドミナントネガティブ効果を発揮する。
LMSを生じさせるバリアントは、p63タンパク質のさらに別の領域に影響して、おそらくドミナントネガティブ効果を及ぼしているものと思われる。
一方、ADULT症候群の原因となっているバリアントは、通常、DNA結合ドメイン(DBD)の337アルギニンのアミノ酸置換を引き起こすものであるが、EEC症候群でみられるミスセンスバリアントがドミナントネガティブのDBDミスセンスバリアントであるのに対し、こちらのほうは異常機能獲得効果を及ぼしているように思われる。
また、TP63の大きな部分にまたがる各種欠失は、機能喪失アレルを作り出す形で、OFC8の発症に係わっている[Khandelwalら2019]。
TP63に現れる注目すべき各種バリアント
各表現型で多くみられるTP63の代表的な病的バリアントは、図1に示した通りである。
Gene Reviews著者: V Reid Sutton, MD and Hans van Bokhoven, PhD
日本語訳者: 佐藤康守(たい矯正歯科)、水上都(札幌医科大学医学部遺伝医学)
GeneReviews最終更新日: 2021.4.1. 日本語訳最終更新日: 2022.10.1.[ in present]