[Synonyms:Apple Peel Syndrome with Microcephaly and Ocular Anomalies, Jejunal Atresia with Microcephaly and Ocular Anomalies]
Gene Reviews著者: Stephanie KL Ho, MD, Lai Ting Leung, MD, Ho-ming Luk, MD, and Ivan FM Lo, MD.
日本語訳者:吉村祐実(翻訳ボランティア)、重冨浩子(札幌医科大学医学部小児科学)
GeneReviews最終更新日: 2022.11.10. 日本語訳最終更新日: 2024.11.1.
原文: Strømme Syndrome
疾患の特徴
Strømme症候群は主に小腸閉鎖症(Apple-peel(リンゴの皮)型腸閉鎖症を含む),小頭症, 発達障害および/または知的障害,脳の構造的異常,ならびに眼球,泌尿生殖器および心臓の奇形を特徴とする臨床的に不均質な疾患である.患者は妊娠中期の致死から絨毛関連疾患を特徴とする多臓器における症状,発達障害を伴う非症候性の小頭症まで非常に様々な臨床的症状がみとめられる.Apple-peel型腸閉鎖症はトライツ靭帯に近い近位空腸における稀な小腸閉鎖症で,一部の患者に発症する.Strømme症候群患者の腸閉鎖症は,十二指腸,空腸,あるいは複数の部位に発症する.診断・検査
Strømme症候群は分子遺伝学的検査によって固有の特徴をもつ両アレル性のCENPF病的バリアントを特定された発端者で確定診断される.
臨床的マネジメント
症状に対する治療:
集学的チームによる個別化治療; 消化管閉鎖症の外科治療;発達および教育の支援; 眼奇形,視覚障害,腎奇形,および心奇形に対する標準治療; 必要に応じてソーシャルワーカーとの関与やケアの調整.
サーベイランス:
各来院時に成長,摂食,発達の評価.眼科医・ロービジョンクリニックの推奨に従って眼科学的症状・視覚障害のフォローアップ
遺伝カウンセリング
Strømme症候群は常染色体潜性形式で遺伝する.両親がCENPF病的バリアントのヘテロ接合体であることがわかっている場合,罹患者の同胞は受胎時に25%の確率で罹患し,50%の確率で無症状の保因者となり,25%の確率で罹患者にも保因者にもならない.罹患した家族でCENPF 病的バリアントが特定されると,リスクのある血縁者の保因者検査や出生前/着床前遺伝学的検査が可能になる.
本疾患を示唆する所見
以下の臨床的所見,画像所見,および家族歴を有する場合,Strømme症候群を疑うべきである.
臨床的所見
画像所見
確定診断
Strømme症候群の診断は,発端者の分子遺伝学的検査によってCENPF遺伝子に本疾患を示唆する所見および両アレル性の病的バリアント(または病的バリアントである可能性が高いこと)が同定されることによって確定される(表1参照).Option 1
単一遺伝子検査. 最初に小さな遺伝子内欠失/挿入,ミスセンスバリアント,ナンセンスバリアント,スプライスサイトバリアントを特定するためにCENPF遺伝子の配列解析が実施される.Option 2
包括的な遺伝子検査は,どの遺伝子が関連しているかを医師が決定する必要がない.エクソームシーケンシングが最もよく使用されているが,ゲノム解析も利用可能である.
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表 1.Strømme症候群で実施される分子遺伝学的検査
遺伝子1 | 方法 | この方法で特定される病的バリアント2の割合 |
---|---|---|
CENPF | 配列解析3 | 100%4 |
遺伝子を標的とした欠失/重複解析5 | 報告なし6 |
臨床像
当初,小腸閉鎖症はStrømme症候群の特徴であると考えられていた.しかし,現在,小腸閉鎖症は特徴的ではあるが必須の特徴ではないと考えられている.罹患者は妊娠中期の致死から絨毛関連疾患,発達障害を伴う非症候性の小頭症といった多系統の症状まで,非常に様々な臨床的症状が認められる.
表 2.
Strømme症候群: 特徴的な症状のみられる頻度(抜粋)
特徴 | 特徴を伴う患者の割合 | コメント | |
---|---|---|---|
腸閉鎖症 | 小腸閉鎖症 | 14/25 | 異常回転が高頻度にみられる |
十二指腸閉鎖症 | 8/161 | ||
空腸閉鎖症 | 4/161 | ||
複数の部位の閉鎖症 | 3/161 | ||
神経発達障害 | 小頭症 | 21/23 | |
発達障害/知的障害 | 13/14 | ||
脳の構造的奇形 | 9/15 | 脳梁欠損症,水頭症,脳回肥厚症,脳回欠損,全前脳症,大脳・ 小脳の低形成 | |
眼科学 | 前眼部奇形 | 9/14 | ピータース奇形,角膜混濁(水晶体の癒着を伴う場合と伴わない場合がある),強角膜/角膜硬化,虹彩毛様体(iris villi)の萎縮,角膜周辺の前癒着症,白内障,虹彩コロボーマ,小角膜,不整瞳孔および瞳孔散大 |
小眼 | 8/14 | 片側性または両側性 | |
泌尿生殖器の異常 | 低形成腎 | 6/16 | |
停留精巣 | 4/9 | ||
その他 | 先天性心疾患 | 5/182 | 中隔欠損,動脈管開存,大動脈縮窄,およびエブスタイン様三尖弁 |
多指症 | 2/25 | 軸前性 | |
副脾 | 2/11 |
消化管の特徴
小腸閉鎖症. Strømme症候群関連の小腸閉鎖症では,十二指腸が最も罹患するが,空腸・回腸の閉鎖症も報告されている[Waters et al 2015, Filges et al 2016, Ozkinay et al 2017, Alghamdi et al 2020, Caridi et al 2020, Cappuccio et al 2022].Strømme症候群関連の小腸閉鎖症は多くの場合,出生前の超音波検査での異常や,生後間もなく嘔吐を発現した乳児で特定される.非症候性腸閉鎖症と同様に,Strømme症候群関連の小腸閉鎖症は異常回転および早産を伴うことが多い. Apple-peel型腸閉鎖症は稀な型の小腸閉鎖症であり,Strømme症候群に非常に特異的にみられるが必ず伴う特徴ではないと考えられている.これはTreitz靭帯付近の近位空腸の閉鎖症として古典的に定義され,閉塞盲端とより遠位の機能しない腸管組織は右結腸動脈または回結腸動脈の枝に栄養され,腸間膜の欠損を伴う.遠位小腸は栄養血管に螺旋状に巻きついており,その形状はリンゴの皮に似ている.眼科学的特徴
前眼部の奇形として,罹患者にピータース奇形,角膜混濁(水晶体癒着を伴う場合と伴わない場合がある),強角膜症,虹彩毛様体(iris villi)の萎縮,角膜周辺の前部癒着症,白内障,虹彩コロボーマ,小角膜,不整瞳孔および瞳孔散大が報告されている[Filges et al 2016, Ozkinay et al 2017, Caridi et al 2020, Cappuccio et al 2022]. 他の眼科学的特徴 としてStrømme症候群患者では片側性または両側性の小眼症,内斜視なども報告されている[Filges et al 2016, Ozkinay et al 2017, Caridi et al 2020, Ho et al 2022].患者1名において,視神経乳頭の陥凹に関連する視覚誘発電位の異常が示されている[Cappuccio et al 2022].片側性の弱視および盲が患者3名で報告されている[Filges et al 2016, Ho et al 2022].神経発達的特徴
発達障害および/または知的障害. Strømme症候群患者では軽度~中等度の発達障害/知的障害がよく報告されているが,正常な発達で学習障害がない成人患者1名が報告されている[Ho et al 2022]. また,IQテストを受けた患者のスコアは40~83の範囲であった [Filges et al 2016, Kahrizi et al 2019, Alghamdi et al 2020, Cappuccio et al 2022]. 神経画像検査で水頭症,脳梁欠損症,脳回肥厚症,脳回欠損症,全前脳胞症,大脳萎縮症および小脳萎縮症など様々な構造的奇形が明らかになる. 小頭症 (頭囲が性別・年齢平均値に比し,-2SD以下) は出生前または出生時に発見されることが多い.泌尿生殖器の特徴
Strømme症候群でみられる腎症状は,極めて変化に富む.構造的な腎奇形として単腎症,低形成腎,馬蹄腎,水腎水尿管症が含まれる.透析や腎臓移植が必要となる末期腎不全が患者1名で報告されている[Caridi et al 2020].他の特徴
成長. 罹患者の多くは早産児として生まれており,それは腸閉鎖症と羊水過多に起因すると考えられている.Strømme症候群に関連した小腸閉鎖症は,吸収障害および体重増加不良を引き起こす.しかし,腸閉鎖症を伴わない患者においても体重増加不良が報告されている[Filges et al 2016, Ozkinay et al 2017, Cappuccio et al 2022]. 先天性心疾患.心房中隔欠損症,心室中隔欠損症,動脈管開存,二尖大動脈弁,エプスタイン様三尖弁異形成,大動脈縮窄を含む先天性心疾患が報告されている [Filges et al 2016, Ozkinay et al 2017, Alghamdi et al 2020, Cappuccio et al 2022]. 筋骨格系の奇形. 軸前性多趾症,扁平椎,二分剣状突起(xiphoid cleft)が本疾患の患者で報告されている,[Filges et al 2016, Ho et al 2022].遺伝型と表現型の関連
遺伝型と表現型の関連は特定されていない.病名
Strømme症候群は原発性綿毛機能不全31 (CILD31)ともよばれる. 有病率GeneReviewに記載されている表現型以外で,CENPF病的バリアントと関連している表現型は知られていない.
Strømme症候群 は非常に様々な臨床症状を呈するため,表現型の特徴だけでは疾患の診断に不十分であることが多々ある.絨毛関連疾患のスペクトラムに分類される疾患は全て鑑別診断において検討する必要がある.
腸閉鎖症の鑑別診断に関連する症候群を表 3に要約する.表 3.
腸閉鎖症の鑑別診断に関連する症候群
遺伝子 | 疾患 | MOI | 固有の特徴 |
---|---|---|---|
MYCN | Feingold症候群 1 (FS1) | AD | Strømme症候群とは異なり,FS1は
|
PI4KA | PI4KA関連多発性腸閉鎖症±免疫不全症(PI4KA-Related Disorderを参照) | AR | Strømme症候群とは異なり, PI4KA-関連疾患は免疫不全症に関連している可能性がある. |
RFX6 | Mitchell-Riley 症候群 (OMIM 615710) | AR | Strømme症候群とは異なり,Mitchell-Riley症候群に関連性があるのは
|
TTC7A | 胃腸障害・免疫不全症候群 1 (GIDID1) (OMIM 243150) | AR | Strømme症候群とは異なり,関連性があるのは
|
Strømme症候群の臨床的診断ガイドラインは公表されていない.
最初の診断に続いて行う評価
Strømme症候群と診断された患者の疾患の拡がりとニーズを把握するため,(診断につながる評価の一部として実施されていない場合),表 4に要約した評価を行うことが推奨される.
表 4.
Strømme症候群患者で初回診断後に推奨される評価
統/問題 | 評価内容 | コメント |
---|---|---|
消化器/摂食 | 消化器内科/消化器外科医/ 栄養士/摂食チームの評価 | 腸閉鎖症および摂食困難な患者の評価を含める |
神経学 | 神経学的評価 | 神経学的異常または発達障害のエビデンスがある場合,構造的脳障害の可能性を排除するために脳MRIを検討する. |
発達 | 発達の評価 |
|
眼科学 | 眼科学的検査 | 眼の構造的異常および視覚障害の評価を含める |
泌尿生殖器の奇形 |
|
|
先天性心疾患 | 心エコー検査 | 心臓弁・解剖学的異常の評価 |
遺伝カウンセリング | 遺伝学の専門家によるカウンセリング1 | 罹患者とその家族にStrømme症候群の病態,遺伝形式および合併症について情報を提供し,医学的および個人的な意思決定を促進する. |
家族の支援・情報源 |
|
症状の治療
QOLを改善し,機能を最大限に,そして合併症を減らすための支持療法が推奨される.支持療法には,神経学,言語病理学,作業療法,物理療法,摂食,眼科,外科,腎臓学,発達小児科,および臨床遺伝学の専門医による集学的医療が含まれる( 表5を参照).
表5.
Strømme 症候群患者の症状の治療
症項 | 治療 | 考察/その他 |
---|---|---|
腸閉鎖症 | 消化管閉鎖症に対する手術治療 | 消化器内科/消化器外科医 |
発達遅延/知的障害 | 発達遅延/知的障害の管理に関する問題を参照 | |
眼科学 | 眼科医による治療 | |
腎奇形 | 腎臓専門医による治療 | |
心奇形 | 心臓専門医による治療 | |
家族/地域社会 |
|
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発達遅滞/知的障害の管理に関する問題
以下の情報は,米国における発達遅滞/知的障害をもつ人に対する典型的な管理上の推奨事項を示したものであり,標準的な推奨事項は国によって異なる場合がある.運動機能障害
粗大運動機能障害
サーベイランス
表6.系列/問題 | 評価項目 | 頻度 |
---|---|---|
成長/食事 |
|
各来院時 |
発達 | 発達の進捗・教育のニーズのモニタリング | |
眼科学 | 眼の構造異常の評価 | 担当眼科医による治療 |
視力の変化の評価 | ロービジョンクリニック | |
家族/コミュニティ |
ソーシャルワーカーによる支援のニーズを評価(緩和療法/呼吸器ケア,訪問介護,他の地域のリソースなど),ケアの調整,または家族計画など新たに疑問が生じたらフォローアップの遺伝カウンセリング | 各来院時 |
リスクのある血縁者の評価
遺伝カウンセリングを目的としたリスクのある血縁者の検査に関連する問題については, 遺伝カウンセリングの項を参照のこと.
研究中の治療法
広範な疾患や症状の臨床研究に関する情報は,米国については ClinicalTrials.gov を,欧州ではEU Clinical Trials Registerを参照されたい.
注:本疾患に関する臨床試験は実施されていない可能性がある.
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
Strømme症候群は常染色体潜性形式で遺伝する.
家族構成員のリスク
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の子
Strømme症候群の患者の子はCENPF 病的バリアントの絶対的ヘテロ接合体(保因者)である.
他の家族構成員
発端者の親の同胞がCENPF 病的バリアントの保因者である確率は50%である.
保因者診断
発症リスクを有する血縁者の保因者診断は,家系内のCENPF 病的バリアントが同定されていれば可能である.
関連する遺伝カウンセリング上の諸事項
家族計画
出生前検査ならびに着床前遺伝学的検査
罹患者の家系内でCENPF 病的バリアントが同定されれば,本疾患に対する出生前診断や着床前遺伝学的診断が可能になる.
医療の専門家間や家族内においても,出生前診断に対する考え方の相違が存在しうる.多くの専門機関は出生前診断については自己決定の問題だと考えているが,この問題については議論することが適切である.
Gene Reviews著者: Stephanie KL Ho, MD, Lai Ting Leung, MD, Ho-ming Luk, MD, and Ivan FM Lo, MD.
日本語訳者:吉村祐実(翻訳ボランティア)、重冨浩子(札幌医科大学医学部小児科学)[in present]
原文: Strømme Syndrome