[Synonyms:DNMT3A Overgrowth Syndrome]
Gene Reviews著者: Natasha Appelman-Dijkstra, MD, PhD, Antoon Van Lierop, MD, PhD, and Socrates Papapoulos, MD, PhD.
日本語訳者: 佐藤康守(たい矯正歯科)、櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
GeneReviews最終更新日: 2019.3.21 日本語訳最終更新日: 2023.1.31
原文: SOST-Related Sclerosing Bone Dysplasias
疾患の特徴
SOST関連硬化性骨異形成症は、硬化性骨症(sclerosteosis)とvan Buchem病を包含する疾患名である。両者はいずれも、骨形成の亢進により、進行性の骨過成長を呈する疾患である。
硬化性骨症の主要な臨床症候は、頭蓋骨と下顎骨に最も顕著に現れる進行性の骨格過成長、ならびに、第2-3指を中心に多様な現れ方をする合指である。罹患者は、出生時、合指以外は異常がないように見える。前額部の突出と下顎の過成長に起因する顔面の形態異常は、ほぼ全例でみられるものながら、これがみられるようになるのは幼児期からで、そこから成人期に向けて進行性の経過をとる。頭蓋骨に骨増殖症が生じることで孔の狭小化が生じ、第Ⅶ脳神経の絞扼(顔面神経麻痺につながる)が生じたり、これより頻度は少ないものの、視力喪失(第Ⅱ脳神経)、神経痛あるいは嗅覚脱失(第Ⅴ脳神経)、感音性難聴(第Ⅷ脳神経)といった神経絞扼症候群が生じたりする場合がある。硬化性骨症においては、頭蓋冠に骨増殖症が生じることで頭蓋内容積が減少し、死亡に至る可能性も孕む頭蓋内圧の亢進リスクが高まる。硬化性骨症罹患者が高齢まで生存することは少ないが、前例がないわけではない。
Van Buchem病の症候は、全般的に硬化性骨症より軽度で、合指はみられない。寿命は正常と思われる。
診断・検査
発端者におけるSOST関連硬化性骨異形成症の診断は、特徴的な臨床所見やX線写真所見がみられることに加えて、分子遺伝学的検査でSOSTに両アレル性の病的バリアントが同定されること(硬化性骨症)、あるいはSOSTの下流に両アレル性の52kbの欠失が同定されること(van Buchem病)をもって確定する。
臨床的マネジメント
現在のところ、特異的な治療法というものは存在せず、症状の軽減や合併症の予防といったことに主眼を置いた治療が行われる。
症候に対する治療:
合指に対する外科的改善、顔面神経を中心とした脳神経絞扼に対する減圧術、頭蓋内圧亢進に対応するための頭蓋骨切除術や脳室腹腔シャント、下顎骨過成長に対する縮小術、難聴の本態に従って行う中耳の手術と補聴器の使用や人工内耳手術、神経根症に対する脊髄除圧術、眼球突出や緑内障に対する眼窩減圧術などがある。
定期的追跡評価:
骨量、脳神経絞扼や頭蓋内圧亢進を示すデータ、視覚の問題、難聴、歯列の不整/咬合異常に関する評価を、乳児期から始め、数なくとも年に1度実施する。
避けるべき薬剤:
骨吸収を抑制する薬剤(例えば、ビスホスホネート,デノスマブ,選択的エストロゲン受容体調節薬)、ならびに骨形成を刺激することが知られている薬剤(例えばテリパラチド,アバロパラチド,ロモゾスマブ)の使用を避ける。
遺伝カウンセリング
SOST関連硬化性骨異形成症は、常染色体潜性の遺伝形式をとる。罹患者の同胞については、罹患者となる可能性が25%、無症状の保因者となる可能性が50%、罹患者でも保因者でもない可能性が25%である。家系内に存在する複数の病的バリアントが同定済の場合は、高リスクの妊娠に備えた出生前診断、ならびにSOST関連硬化性骨異形成症に関する着床前診断を行うことが可能である。硬化性骨症のリスクを有する胎児について、超音波検査で合指を確認できることもあろうが、超音波検査でこれがみられないからといって、胎児が罹患者でないということにはならない。
GeneReviewの視点
SOST関連硬化性骨異形成症:ここに含まれる表現型1 |
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別名、ならびに過去に用いられた名称については、「命名法について」の項を参照。
1.これらの表現型をもたらすその他の遺伝的原因については、「鑑別診断」の項を参照されたい。
硬化性骨症とvan Buchem病はともに、骨形成の亢進に伴って進行性の骨過成長が生じる疾患である。両者ともSOSTに生じる病的バリアントに起因するもので、臨床的にもX線写真上も類似している[Balemansら2001,Brunkowら2001,Balemansら2002,Staehling-Hamptonら2002]。両者の違いは、その重症度と、分子遺伝学的にみたときのバリアントのタイプである。
本疾患を示唆する所見
以下のような所見を呈する例については、SOST関連硬化性骨異形成症を疑う必要がある。
臨床所見
(注:van Buchem病については、合指はみられない。)
X線写真所見
祖先系集団ならびに新生児期の所見
硬化性骨症罹患者の大多数は、南アフリカのアフリカーナー(オランダ起源の白人)である。この集団については、合指あるいは変動性の顔面神経麻痺を呈する新生児は、すべてこの疾患を疑う必要がある。
Van Buchem病は、ほぼオランダ国内でのみみられる疾患である。Van Buchem病罹患新生児については、顔面神経麻痺こそ出生段階で認められることがあるものの、他に特異的所見はみられない[van Egmondら2012]。
診断の確定
発端者におけるSOST関連硬化性骨異形成症の診断は、特徴的な臨床所見、X線写真所見を有することに加え、分子遺伝学的検査でSOST関連の両アレル性の病的バリアントが確認されることをもって確定する(表1参照)。
分子遺伝学的検査のアプローチとしては、表現型に合わせて、遺伝子標的型検査(単一遺伝子検査,マルチ遺伝子パネル)と網羅的ゲノム検査(染色体マイクロアレイ解析,エクソームシーケンシング,エクソームアレイ,ゲノムシーケンシング)とを組み合わせるやり方が考えられる。
遺伝子標的型検査の場合は、臨床医の側で関与している遺伝子の目星をつけておく必要があるが、ゲノム検査の場合、その必要はない。SOST関連硬化性骨異形成症は表現型の幅が広いため、「本疾患を示唆する所見」にある特徴的所見を呈する例については、遺伝子標的型検査(「方法1」参照)で診断がつく可能性が高いように思われる一方、SOST関連硬化性骨異形成症にまでは思い至らない非定型的所見を呈する例については、ゲノム検査(「方法2」参照)で診断がつく可能性が高いように思われる。
方法1
表現型ならびに検査所見から、SOST関連硬化性骨異形成症が示唆されるような場合であれば、分子遺伝学的検査のアプローチとして、単一遺伝子検査、マルチ遺伝子パネルのいずれかが用いられることになる。
SOSTの配列解析を行うことで、遺伝子内の小欠失/挿入、ならびにミスセンス・ナンセンス・スプライス部位バリアントが検出される。ただ、エクソン単位あるいは遺伝子全体の欠失/重複については、検出されない。
最初に配列解析を行う。そこで病的バリアントが全くあるいは1つしか検出されなかった場合は、次に、遺伝子内の欠失/重複を検出するための遺伝子標的型欠失/重複解析を行う。
現況の表現型と直接関係のない遺伝子の意義不明バリアントや病的バリアントの検出を抑えつつ、疾患の遺伝的原因の特定につながる可能性が高いのは、SOSTならびにその他の関連遺伝子(「鑑別診断」の項を参照)を含むマルチ遺伝子パネルである。
注:(1)パネルに含められる遺伝子の内容、ならびに個々の遺伝子について行う検査の診断上の感度については、検査機関によってばらつきがみられ、また、経時的に変更されていく可能性がある。
(2)マルチ遺伝子パネルによっては、このGeneReviewで取り上げている状況と無関係な遺伝子が含まれることがある。
(3)検査機関によっては、パネルの内容が、その機関の定めた定型のパネルであったり、表現型ごとに定めたものの中で臨床医の指定した遺伝子を含む定型のエクソーム解析であったりすることがある。
(4)ある1つのパネルに対して適用される手法には、配列解析、欠失/重複解析、ないしその他の非配列ベースの検査などがある。
本疾患に関しては、欠失/重複解析を含んだマルチ遺伝子パネルが推奨される(表1参照)。
マルチ遺伝子パネル検査の基礎的情報についてはここをクリック。遺伝学的検査をオーダーする臨床医に対する、より詳細な情報についてはここをクリック。
注:Van Buchem病については、その全例が、コーディング領域を含まないSOSTの下流の52kbの欠失のホモ接合であることが報告されている[Balemansら2002,Staehling-Hamptonら2002]。このタイプの欠失は、単一遺伝子検査やマルチ遺伝子パネルでは検出されない。ただ、van Buchem病はほぼオランダ国内に限ってみられるものであるため、オランダ人以外についてこのタイプの欠失を調べるのは、マルチ遺伝子パネルで異常が発見できなかった場合のみとすることが推奨される。
方法2
表現型が非定型的なものであるため、SOST関連硬化性骨異形成症の診断までは検討しにくいといった場合であれば、網羅的ゲノム検査(この場合、臨床医の側で疑わしい遺伝子の目星をつけておく必要はない)が最良の選択肢となる。エクソームシーケンシングが広く用いられているが、ゲノムシーケンシングを使用することも可能である。
エクソームシーケンシングで診断に至らないような場合は、利用可能なようなら、配列解析では検出できないエクソン単位の欠失や重複を検出するためのエクソームアレイも検討対象になろう。
網羅的ゲノム検査の基礎的情報についてはここをクリック。ゲノム検査をオーダーする臨床医に対する、より詳細な情報についてはここをクリック。
表1:SOST関連硬化性骨異形成症で用いられる分子遺伝学的検査
遺伝子1 | 方法 | その手法で病的バリアント2が検出される割合 |
---|---|---|
SOST | 配列解析3 | 報告されている全例4 |
遺伝子標的型欠失/重複解析5 | 脚注6,7参照 |
臨床像
硬化性骨症とvan Buchem病は、同一アレル疾患ではないかと考えられていた[Beightonら1984]が、2002年になって、両疾患が同一遺伝子の病的バリアントに起因して生じるものであることが確認されるに至った[Balemansら2002,Staehling-Hamptonら2002]。
両疾患は、ともにスクレロスチンの遺伝的欠損に起因して生じるきわめてよく似た表現型を呈するが、一般に、硬化性骨症よりvan Buchem病のほうが症候が軽度で、合指もみられない(表2)[Beighton 1995]。これらの疾患は、両者を合わせて、SOST関連硬化性骨異形成症の名で知られている。
硬化性骨症の臨床症候
合指
出生段階で罹患者の66%に、軟組織の水かき形成から指節骨の骨癒合に至るまで、幅をもった合指がみられる。最も多いのは第2-3指に現れるものであるが、他の指趾にみられることもある。
指趾については、さらに軽微な異常、例えば、指節骨の橈側偏位や爪無形成といったものがみられることもある[Itinら2001]。
顔面の形態異常
前額部の突出と下顎骨の過成長による顔面の形態異常が罹患者の90%にみられ、中には、眼球突出、眼間開離、中顔面の低形成を呈する例もみられる。こうした顔面所見は幼児期に認められるようになり、成人期にかけて進行していく[Hamersmaら2003,van Lieropら2017]。
高身長
学齢期には高身長がみられるようになる。身長の伸びは思春期には停止するが、その頃には身長が2メートルを超えるところにまで達していることがある。
反復性顔面神経麻痺
反復性顔面神経麻痺は、硬化性骨症に特徴的な合併症で、罹患者の93%にみられる。初発は幼児期であるが、中には生後数ヵ月のうちに現れる例もみられる。麻痺は、頭蓋骨の過成長によって神経孔の狭小化が生じることに起因するものである。
これよりは少ないものの、硬化性骨症でみられるその他の神経絞扼症候群として、視力障害(第Ⅱ脳神経)、神経痛や嗅覚脱失(第Ⅴ脳神経)、感音性難聴(第Ⅷ脳神経)がある[van Lieropら2017]。
難聴
難聴も、罹患者の94%と、高頻度にみられる。難聴は、小児期に伝音性難聴の形で始まり、その後、伝音性と感音性の両方を含む混合性難聴へと進行していくことが多い[Hamersmaら2003,van Lieropら2017]。
頭蓋内圧亢進
頭蓋内圧亢進は、頭蓋冠の肥厚により頭蓋腔が小さくなることに起因して生じるもので、多くが思春期後期に始まる。最近の研究では罹患者の71%にこれがみられるとされ、アフリカーナー起源の死亡例33人中12人の死因がこれであったと考えられている。さらに、これ以外に6人が周術期の合併症で死亡している[van Lieropら2017]。
臨床経過
硬化性骨症は、出生時にみられる症候こそ合指のみであるものの、幼児期にはその他複数の症候が現れてくる。そして、成人期に向かって症候が進行していくことになるが、硬化性骨症罹患者の大多数においては、20歳代には症候が安定化するようである[van Lieropら2011,van Lieropら2013]。
van Buchem病の臨床症候
合指はみられないものの、上記いずれの症候も現れる可能性がある。
全体としては、硬化性骨症より表現型は軽度である。例えば、頭蓋内圧の亢進は、van Buchem病罹患者では稀である[van Lieropら2010,van Lieropら2013]。
Van Buchem病もまた、成人期には安定化する傾向にある[van Lieropら2013]。
表2:硬化性骨症とvan Buchem病とで相違がみられる症候
硬化性骨症 | van Buchem病 | |
---|---|---|
報告のあった症例数 | 96 | 31 |
予後 | 致死性となる可能性あり | 比較的良好 |
体型 | 巨人症 | 身長は正常 |
顔貌 | 顕著な変形 | 目立つ下顎骨 |
歯 | 配列不整,咬合異常 | 正常 |
脳神経の麻痺 | きわめて高頻度 | 多い |
頭蓋内圧 | 亢進 | 常にではないものの亢進 |
合指 | しばしば出現 | なし |
爪低形成 | しばしば出現 | なし |
頭蓋骨増殖症 | 顕著 | 中等度 |
手足の管状骨の変形 | 顕著 | 軽度 |
Beighton [1995],p234より改変
臨床検査
スクレロスチン
硬化性骨症においては、血清スクレロスチン値は検出限界以下である[van Lieropら2011]が、van Buchem病罹患者については、低レベルながら検出される[van Lieropら2013]。
骨形成マーカー
Ⅰ型プロコラーゲンアミノ末端プロペプチド(P1NP)、アルカリホスファターゼ、オステオカルシンといった骨形成マーカーの値は、硬化性骨症でもvan Buchem病でも上昇する。年齢とともに値は下がっていくものの、罹患者の大多数においては、正常上限を上回る状態が続く[Wergedalら2003,van Lieropら2011,van Lieropら2013]。
骨吸収マーカー
骨吸収マーカーである血清Ⅰ型コラーゲン架橋Cテロペプチド(sCTX)の値は、小児期には上昇するものの、年齢とともに低下し、成人期には基準値下限に向かう[van Lieropら2011,van Lieropら2013]。Van Buchem病罹患者6人において、尿中架橋Nテロペプチド(uNTX)の上昇がみられた[Wergedalら2003]。
異常がみられないもの
血清カルシウム・リン濃度、ならびに副甲状腺ホルモン値は正常である[Epsteinら1979,van Lieropら2011]。
骨の所見
DXAで測定した骨密度は、硬化性骨症罹患者のZ値が、脊椎で+7.7から+14.4、股関節で+7.8から+11.5[Balemansら2005,Pitersら2010,Powerら2010,van Lieropら2011]、van Buchem病罹患者のZ値が、脊椎で+5.4から+12.3、股関節で+5.2から+12.1[van Lieropら2013]と、大幅な上昇を示す。
組織学的評価では、骨量ならびに皮質・骨梁の厚みの上昇、骨芽細胞による骨形成の上昇と正常ないし低下した破骨細胞による骨吸収、骨組織の正常な石灰化といった所見が明らかになっている[Steinら1983,van Lieropら2017,Hasslerら2014]。
硬化性骨症でみられる骨密度の上昇は、大理石骨病でみられるような石灰化の亢進に起因するものではなく[Hasslerら2014]、骨の生体力学的特性はむしろ高まり、骨折に対して抵抗性が高まる。
骨折、骨髄炎、骨髄不全といったものに関するリスク上昇はみられない。
寿命
硬化性骨症
硬化性骨症罹患者が高齢まで生存することは少ないものの、前例がないわけではない[Barnardら1980,van Lieropら2011,van Lieropら2013]。脳幹のヘルニアに起因する突然死や、頭蓋内圧亢進を改善する手術の周術期合併症により、平均寿命は低下する。平均死亡時年齢は33歳である[Hamersmaら2003]が、早期に頭蓋切除術が行われるようになるにつれ、より長期にわたって生存できるようになるものと思われる。硬化性骨症の自然経過については、Beighton [1988]、Beighton [1995]、Hamersmaら[2003]、van Lieropら[2017]といったレビューが存在する。
van Buchem病
Van Buchem病の平均寿命は正常と思われ、罹患者にみられた重大な併存疾患の報告もみられない。Van Buchem病に関しては、これまでに脳幹のヘルニアに起因した突然死の報告はみられない。調査しえた範囲での最高齢者は81歳で、2型糖尿病、軽度の心不全、非転移性の前立腺癌など、高齢者集団で多くみられる併存疾患を有していた[van Lieropら2017]。
遺伝型-表現型相関
既知のSOSTの病的バリアントについては、いずれも表現型に明らかな違いはみられない。Van Buchem病は、SOST自体の病的バリアントではなくSOSTの下流にある52kbの欠失に起因して生じ、その表現型は硬化性骨症より軽度である。
命名法について
硬化性骨症やvan Buchem病は、以前、他の高骨密度疾患とまとめられて、「marble bone」、「osteopetrosis」、「Albers-Schönberg disease」(訳注:これらはいずれも日本語でいう「大理石骨病」の意)という非特異的名称である一般グループ名で呼ばれていた。その後、診断の精度が上がり、症候群の概要が正確に把握されるようになって、「硬化性骨症」という病名が確立されるに至った。これと同じ形で、van Buchemらは、現在「van Buchem病」という名で知られる疾患について、「家族性全身性皮質骨増殖症(hyperostosis corticalis generalisata familiaris)」と呼んだ。
高骨密度疾患の分類において、硬化性骨症やvan Buchem病は、「頭蓋骨管状骨増殖症(craniotubular hyperostosis)」の中に分類されてきた。ここに含まれる疾患群の分子的基礎が明らかになったことで、両疾患は現在、SOST関連硬化性骨異形成とまとめて分類されるようになった。
頻度
硬化性骨症は、主として南アフリカのアフリカーナー(オランダ人起源)コミュニティの間でみられ、そこにおける保因者頻度は100人に1人、発生頻度は60,000人に1人と推定されている[Beighton & Hamersma 1979]。ただ、アフリカーナー集団以外の発生例も報告されている[van Lieropら2017]。2017年までに全世界で96例が報告されており、うち66例が南アフリカである。南アフリカ以外では極度に稀な疾患である。
Van Buchem病のこれまでの報告例は31例で、うち29例がオランダ、2例がドイツである[van Lieropら2017]。
頭蓋骨幹異形成症(Craniodiaphyseal dysplasia;CDD)
韓国とポーランドの常染色体顕性型CDD(OMIM 122860)の2小児例で、SOSTのヘテロ接合性病的バリアントが報告されている[Kimら2011]。なお、ポーランドの小児例は、それより前の段階で表現型の詳しい報告がなされている[Bieganskiら2007]。その主たる症候は、頭蓋顔面骨の進行性過成長と、神経絞扼に起因して生じる聾、顔面神経麻痺、視覚障害である。また、後鼻孔狭窄が臨床上、重要な合併症である。X線写真では、頭蓋顔面骨に骨増殖がみられ、四肢の骨幹は拡大して皮質が菲薄化する。CDDにおいては、病的バリアントはSOSTの分泌シグナルの部分にあり、おそらくドミナントネガティブの形でスクレロスチンの分泌を阻害しているものと思われる[Kimら2011]。この報告以降、新たな症例の報告はみられない。
SOST関連硬化性骨異形成症は、カテゴリーとしては頭蓋管状骨増殖症群の中に入る疾患である。この疾患群については、硬化性骨異形成症群に属するその他の疾患群と鑑別する必要がある。硬化性骨異形成症群に含まれるものとしては、次のようなものがある。
頭蓋管状骨増殖症群にみられる大きな特徴は骨の過成長であり、これにより骨格の外形やX線密度の上昇が生じる。骨は、しばしば外力に対して非常に強い抵抗性を示す。このグループに属するSOST関連硬化性骨異形成症以外の疾患を表3にまとめて示した。
表3:頭蓋管状骨増殖症群に属し、SOST関連硬化性骨異形成症との鑑別を検討すべき疾患
疾患名 | 遺伝子 | 遺伝形式 | 臨床症候 | |
---|---|---|---|---|
SOST関連硬化性骨異形成症と重なる症候 | SOST関連硬化性骨異形成症と異なる症候 | |||
骨内膜性骨増殖症,Worth型 (OMIM 144750) |
LRP5 | AD |
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Camurati-Engelmann病(CED;進行性骨幹異形成症) | TGFB1 1 | AD |
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頭蓋骨幹異形成症(CDD) (OMIM 122860) |
脚注2参照 | AD |
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硬化性骨症様表現型(硬化性骨症2) (OMIM 614305) |
LRP4 | AD AR |
|
血清スクレロスチン値は正常あるいは上昇 |
AD=常染色体顕性;AR=常染色体潜性
最初の診断に続いて行う評価
SOST関連硬化性骨異形成症と診断された罹患者については、疾患の範囲を把握するため、診断に至る過程ですでに実施済でなければ、表4にまとめた評価を行うことが推奨される。
表4:SOST関連硬化性骨異形成症罹患者の最初の診断後に行うことが推奨される評価
系/懸念事項 | 評価 |
---|---|
骨格 | ・X線写真検査、ならびに骨密度測定を含む画像検査 ・合指がみられる場合は、外科的改善の必要性に関する評価 |
神経 | 脳神経絞扼の影響が現れているかどうかに関する神経学的評価 |
眼 | 頭蓋内圧亢進ないし眼球突出がみられるかどうかに関する眼科的評価 |
聴覚 | 正式な聴覚評価 |
その他 | 臨床遺伝医ないし遺伝カウンセラーとの面談 |
症状に対する治療
現在のところ、硬化性骨症あるいはvan Buchem病に対して特異的な治療というものは存在せず、治療は、専ら症状の軽減や合併症の予防を目標とする形で行われることになる。したがって、両疾患に対する具体的治療は、合併症の軽減を目的とした外科的介入となる。
重度のvan Buchem病を有する1成人例において、骨形成や疾患の進行を抑え込む上でグルココルチコイドを用いた治療が奏功した[van Lieropら2010]ものの、この症例はその後もなお何度かの手術を要した[Datemaら2015]。Van Buchem病の2人の子どもに対して、顔面神経麻痺の悪化時に、プレドニゾロンの短期投与が行われている。その治療期間中、生化学的骨代謝マーカーに低下はみられたものの、これらの2例についてはステロイドによる臨床的改善は得られなかった[van Egmondら2012]。硬化性骨症やvan Buchem病に対するこうした治療の長期的成果に関する研究は、今のところなされていない。
重要な注意事項:硬化性骨症においては、骨が分厚く、また密である。そして、外科的介入は困難かつ長期にわたる場合がある。脳神経外科で用いる標準的な器具類では不十分な場合がある(つまり、ドリルビットが短すぎたり、骨が密であるため動力工具のほうが損傷したりといったこと)[du Plessis 1993]。それに加え、骨の再成長により症状の再発が生じるようなこともある。
表5:SOST関連硬化性骨異形成症罹患者の症候に対する治療
症候/懸念事項 | 治療 | 考慮事項/その他 |
---|---|---|
合指 | 外科的改善 | 機能と審美性を考慮し、幼児期の施行が必要な場合あり。 |
Bell麻痺類似の反復性顔面神経麻痺や顔面痛の原因となりうる脳神経絞扼 | 外科的減圧術 | 2歳以降。 |
頭蓋内圧亢進 | ・頭蓋切除術 ・脳室腹腔シャント |
|
下顎骨過成長 | 外科的縮小術 |
|
難聴 |
|
|
神経根症 | 脊髄除圧術 | 成人期 |
眼球突出と緑内障 | 眼窩減圧術 | 成人期 |
定期的追跡評価
表6:SOST関連硬化性骨異形成症罹患者で推奨される定期的追跡評価
系/懸念事項 | 評価 | 実施頻度1 |
---|---|---|
骨量 | 骨密度の測定と、骨代謝の生化学的マーカーのチェック | 未成年は年に1度、成人は2年に1度 |
神経 | 脳神経絞扼の影響に関する検査 | 年に1度 |
眼 | 眼球突出、眼圧、ならびに視神経乳頭の評価 | 年に1度 |
聴力 | 聴覚評価 | 年に1度 |
歯 | 歯列の不整や咬合異常に関する歯科的、矯正歯科的評価 | 未成年は年に1度、成人については歯科的ケアを定期的に |
避けるべき薬剤/環境
骨吸収を抑制することが知られている薬剤
骨形成を刺激することが知られている薬剤
リスクを有する血縁者の評価
リスクを有する血縁者に対して行う遺伝カウンセリングを目的とした検査関連の事項については、「遺伝カウンセリング」の項を参照されたい。
研究段階の治療
さまざまな疾患・状況に対して進行中の臨床試験に関する情報については、アメリカの「Clinical Trials.gov」、ならびにヨーロッパの「EU Clinical Trials Register」を参照されたい。
注:現時点で本疾患に関する臨床試験が行われているとは限らない。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
SOST関連硬化性骨異形成症は常染色体潜性の遺伝形式をとる。
家族構成員のリスク
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の子
他の家族構成員
発端者の両親の同胞は、SOSTの病的バリアントの保因者であることに関し、50%のリスクを有する。
保因者の検出
リスクを有する血縁者に対して保因者の検査を行うためには、家系内に存在する病的バリアントを事前に同定しておくことが必要となる。
遺伝カウンセリングに関連した問題
早期診断・早期治療を目的としてリスクを有する血縁者に対して行う評価関連の情報については、「臨床的マネジメント」の「リスクを有する血縁者の評価」の項を参照されたい。
家族計画
遺伝的リスクの確定、保因者であるかどうかの明確化、出生前/着床前遺伝学的検査を受けるかどうかの話し合いに最も適しているのは、妊娠前の時期である。
・罹患者、保因者、あるいは、保因者であるリスクを有する若い成人に対しては、遺伝カウンセリング(子に生じる可能性のあるリスクや、子を儲ける上での選択肢についての説明を含む)を提供することが望ましい。
出生前検査ならびに着床前遺伝学的検査
分子遺伝学的検査
家系内に存在するSOSTの病的バリアントが同定済の場合は、高リスクの妊娠に備えた出生前検査や、着床前遺伝学的検査を行うことが可能である。
胎児超音波検査
硬化性骨症のリスクを有する胎児の超音波検査で、合指が検出可能な場合がある。硬化性骨症の超音波検査所見には幅がみられる。そのため、硬化性骨症のリスクを有する胎児でこれがみられる場合は、硬化性骨症であることの指標になるが、仮に合指がなかったからといって、必ずしも胎児が硬化性骨症でないということにはならない。
GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報については、ここをクリック。
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分子遺伝学
分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。
表A:SOST関連硬化性骨異形成症:遺伝子とデータベース
遺伝子 | 染色体上の座位 | タンパク質 | Locus-Specificデータベース | HGMD | ClinVar |
---|---|---|---|---|---|
SOST | 17q21.31 | スクレロスチン | SOST @ LOVD | SOST | SOST |
データは、以下の標準資料から作成したものである。
遺伝子についてはHGNCから、染色体上の座位についてはOMIMから、タンパク質についてはUniProtから。
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表B:SOST関連硬化性骨異形成症関連のOMIMエントリー(閲覧はすべてOMIMへ)
239100 | VAN BUCHEM DISEASE; VBCH |
269500 | SCLEROSTEOSIS 1; SOST1 |
605740 | SCLEROSTIN; SOST |
分子レベルの病原
疾患の発症メカニズム:機能喪失型
表7:SOSTにおける注目すべき病的バリアント
参照配列 | DNAヌクレオチドの変化 | 予測されるタンパク質の変化 | コメント[参考文献] |
---|---|---|---|
NM_025237.2 NP_079513.1 |
c.69C>T | p.Gln24Ter | 南アフリカにおける創始者バリアント[Brunkowら2001]。 |
c.79C>T | p.Gln27Ter | 1人のモロッコ人のホモ接合罹患者が報告されている[Belkhribchiaら2014]。 | |
c.87dupC | p.Lys30GlnfsTer3 | 複数のエジプト人のホモ接合罹患者が報告されている[Fayezら2015]。 | |
c.220+1G>C | 複数のドイツ人のホモ接合罹患者が報告されている[Kimら2008]。 | ||
c.220+3A>T | 1人のセネガル人のホモ接合罹患者が報告されている[Balemansら2001]。 | ||
c.296dupC | p.Val100fsTer128 | 1人のインド人のホモ接合罹患者が報告されている[Bhadadaら2013]。 | |
c.371G>A | p.Trp124Ter | 1人のトルコ人のホモ接合罹患者が報告されている[Yagiら2014]。 | |
c.372G>A | p.Trp124Ter | ブラジルにおける創始者バリアント[Balemansら2001,Kimら2008] | |
c.376C>T | p.Arg126Ter | アメリカにおける創始者バリアント(メリーランド州の混血の1家系)[Balemansら2001]。 | |
c.444_445delinsAA | p.Cys148Ter | 1人の中国人のホモ接合罹患者が報告されている[Heら2014]。 | |
c.499T>C | p.Cys167Arg | トルコにおける創始者バリアント[Pitersら2010] |
Gene Reviews著者: Natasha Appelman-Dijkstra, MD, PhD, Antoon Van Lierop, MD, PhD, and Socrates Papapoulos, MD, PhD.
日本語訳者: 佐藤康守(たい矯正歯科)、櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
GeneReviews最終更新日: 2019.3.21 日本語訳最終更新日: 2023.1.31[in present]