Shprintzen-Goldberg症候群
(Shprintzen-Goldberg Syndrome)

[Synonyms:OFD1,OrofaciodigitalSyndromeⅠ]

Gene Reviews著者: Marie T Greally, MD, MSc, FACMG.
日本語訳者:佐藤康守(たい矯正歯科)、櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)

GeneReviews最終更新日: 2020.4.9.  日本語訳最終更新日:  2023.12.15.

原文: Shprintzen-Goldberg Syndrome


要約


疾患の特徴

Shprintzen-Goldberg症候群(SGS)は、運動・認知の発達指標の遅延と軽度から中等度の知的障害、冠状縫合・矢状縫合・ラムダ縫合の早期癒合、特徴的頭蓋顔面形態、ならびに、くも状肢・くも指・屈指症・漏斗胸あるいは鳩胸・脊柱側彎・関節の過度可動性あるいは拘縮・扁平足・足の不良肢位・C1-C2の脊椎奇形等の筋骨格所見を特徴とする疾患である。心血管奇形としては、僧帽弁逸脱、二次孔心房中隔欠損、大動脈基部拡張などがある。その他、皮下脂肪量の低下、腹壁欠損、近視なども特徴的所見である。

診断・検査

発端者におけるSGSの診断は、分子遺伝学的検査にてSKIのヘテロ接合性病的バリアントが同定されることをもって確定する。

臨床的マネジメント

症状に対する治療:
発達遅滞については、特別支援教育に組み入れることを含めた早期介入、口蓋裂や頭蓋縫合早期癒合症については標準治療を行う。頸椎不安定性については、外科的固定が必要になる場合がある。脊柱側彎については通常の管理を行う。漏斗胸に関しては、ごく稀に外科的改善の適応になる場合がある。関節拘縮については理学療法を行う。内反足変形については、外科的改善が必要になることがある。大動脈拡張がみられる場合は、血行力学的負荷を軽減するため、βアドレナリン遮断薬をはじめとする投薬を検討する必要がある。動脈瘤については、外科的介入が必要になる場合がある。近視については眼科医による治療、腹壁ヘルニアについては、必要に応じ外科的修復を行う。

二次的合併症の予防:
心異常を有する例については、歯科治療その他の治療に際して、亜急性細菌性心内膜炎の予防処置を講じることが推奨される。

定期的追跡評価:
来院ごとに発達評価を行う。整形外科医の推奨に従って、頸椎の評価、ならびに脊柱側彎の臨床評価を行う。本疾患を熟知した心臓病専門医の手で、画像診断を行う。眼科医の推奨に従って眼科的検査を行う。

避けるべき薬剤/環境:
コンタクトスポーツ、心血管系を刺激する薬剤の使用、関節の疼痛や傷害につながるおそれのある活動を避ける。

遺伝カウンセリング

SGSはSKIのヘテロ接合性病的バリアントに起因して生じる疾患で、常染色体顕性の遺伝形式をとる。罹患者の両親は、大半の例で非罹患者であることから、疾患の原因となった病的バリアントが罹患者においてde novoのイベントとして生じたか、あるいは、片親の生殖細胞系列モザイクが原因で生じたかの、いずれかであることが示唆される。非罹患者である両親からSGS罹患同胞が生まれた例が数家系存在することから、生殖細胞系列モザイクが原因になりうることが裏づけられている。家系内に存在するSKIの病的バリアントが同定されている場合は、高リスクの妊娠に備えた出生前検査や着床前遺伝子検査を行うことができる。


診断

Shprintzen-Goldberg症候群(SGS)については、今のところ、正式な診断基準は確立されていない

本疾患を示唆する所見

以下に示すような臨床症候(図1参照)・X線写真症候を有する例については、SGSを疑う必要がある。

図1:Shprintzen-Goldberg症候群でみられる臨床症候
長頭症、眼球突出、眼間開離、耳介低位、下顎後退をはじめ、特徴的頭蓋顔面症候を伴う頭蓋縫合早期癒合症がみられることに注目されたい。手足の写真から、くも指や屈指症が見てとれる。
Schepersら[2015]より引用。

診断の確定

発端者におけるSGSの診断は、分子遺伝学的検査においてSKIのヘテロ接合性病的バリアントが同定されることをもって確定する(表1参照)。

分子遺伝学的検査のアプローチとしては、遺伝子標的型検査(単一遺伝子検査やマルチ遺伝子パネル)と網羅的ゲノム検査(エクソームシーケンシング,エクソームアレイ,ゲノムシーケンシング)とを、表現型に合わせて組み合わせて用いるやり方が考えられる。

遺伝子標的型検査の場合は、臨床医の側で関与が疑われる遺伝子の目星をつけておく必要があるが、ゲノム検査の場合、その必要はない。SGSは、大きな表現型の幅を示す。そのため、「本疾患を示唆する所見」にある特徴的所見を有する例については、遺伝子標的型検査(「方法1」参照)で診断がつくものと思われる一方で、表現型からは、その他数多く存在する頭蓋縫合早期癒合症その他の先天奇形を有する遺伝性疾患と区別が難しいような例については、ゲノム検査(「方法2」参照)で診断がつく可能性が高いように思われる。

方法1

表現型や臨床検査所見からSGSが疑われる場合の分子遺伝学的検査のアプローチとしては、単一遺伝子検査、あるいはマルチ遺伝子パネルの使用が考えられる。

SKIの配列解析では、遺伝子内の小欠失/挿入、ならびにミスセンス・ナンセンス・スプライス部位の各バリアントが検出される。

現況の表現型と直接関係のない遺伝子の意義不明バリアントや病的バリアントの検出を抑えつつ、疾患の遺伝学的原因の特定に最もつながりやすいのは、SKIその他の関連遺伝子(「鑑別診断」の項を参照)を含むマルチ遺伝子パネルであるように思われる。
注:(1)パネルに含められる遺伝子の内容、ならびに個々の遺伝子について行う検査の診断上の感度については、検査機関によってばらつきがみられ、また、経時的に変更されていく可能性がある。
(2)マルチ遺伝子パネルによっては、このGeneReviewで取り上げている状況と無関係な遺伝子が含まれることがある。
(3)検査機関によっては、パネルの内容が、その機関の定めた定型のパネルであったり、表現型ごとに定めたものの中で臨床医の指定した遺伝子を含む定型のエクソーム解析であったりすることがある。
(4)ある1つのパネルに対して適用される手法には、配列解析、欠失/重複解析、ないしその他の非配列ベースの検査などがある。
マルチ遺伝子パネル検査の基礎的情報についてはここをクリック。
遺伝学的検査をオーダーする臨床医に対する、より詳細な情報についてはここをクリック。

方法2

表現型からは、その他数多く存在する頭蓋縫合早期癒合症を呈する遺伝性疾患と区別が難しい場合は、網羅的ゲノム検査(この場合、臨床医の側で関連が疑われる遺伝子の目星をつけておく必要はない)が最良の選択肢となる。エクソームシーケンシングが最も広く用いられているが、ゲノムシーケンシングを用いることも可能である。
エクソームシーケンシングで診断がつかない場合で、特に常染色体顕性遺伝を示唆するデータがある場合は、もし臨床で利用可能なようであれば、配列解析では検出できないようなエクソン単位の欠失や重複を検出するためのエクソームアレイも検討対象になりうる。
網羅的ゲノム検査の基礎的情報についてはここをクリック。
ゲノム検査をオーダーする臨床医に対する、より詳細な情報についてはここをクリック。

表1:Shprintzen-Goldberg症候群で用いられる分子遺伝学的検査

遺伝子1 方法 その手法で病的バリアント2が検出された発端者の数
SKI 配列解析3 444
遺伝子標的型欠失/重複解析5 報告例なし6
  1. 染色体上の座位ならびにタンパク質に関しては、表A「遺伝子とデータベース」を参照。
  2. この遺伝子で検出されているアレルバリアントの情報については、「分子遺伝学」の項を参照のこと。
  3. 配列解析を行うことで、benign、likely benign、意義不明、likely pathogenic、pathogenicといったバリアントが検出される。バリアントの種類としては、遺伝子内の小さな欠失/挿入、ミスセンス・ナンセンス・スプライス部位バリアントなどがあるが、通常、エクソン単位あるいは遺伝子全体の欠失/重複については検出されない。配列解析の結果の解釈に際して留意すべき事項についてはこちらをクリック。
  4. Carmignacら[2012],Doyleら[2012],Auら[2014],Schepersら[2015],Saitoら[2017],O’Doughertyら[2019],Zhangら[2019]
  5. 遺伝子標的型欠失/重複解析では、遺伝子内の欠失や重複が検出される。具体的手法としては、定量的PCR、ロングレンジPCR、MLPA法、あるいは単一エクソンの欠失/重複の検出を目的に設計された遺伝子標的型マイクロアレイなど、さまざまなものがある。
  6. SGSとは異なる表現型を示す複数の例で、SKIと隣在の遺伝子を含む隣接遺伝子欠失が確認されたとの報告がみられる(「遺伝子の上で関連のある疾患」の項を参照)。

臨床的特徴

臨床像

Doughertyら2019,Zhangら2019]。以下に述べる本疾患関連の表現型としての症候は、これらの報告に基づくものである。

表2:Shprintzen-Goldberg症候群の代表的症候

症候 その症候を有していた罹患者数/その症候の有無を調査した罹患者数
発達遅滞/知的障害 41/44
筋緊張低下 16/19
頭蓋縫合早期癒合症1 31/41
長頭症/舟状頭蓋 36/39
眼間開離 42/43
眼瞼裂斜下 38/41
眼球突出 34/42
頰骨の平坦化 24/24
高く狭い口蓋 23/23
小下顎症 36/40
低位で後方に傾いた耳介 23/34
くも指 43/44
屈指症 24/38
胸の変形 32/40
脊柱側彎 29/39
関節の過度可動性 18/22
関節拘縮 32/36
足の不良肢位/内反尖足/内反足/凹足 23/31
C1-C2の脊椎奇形 7/10
大動脈基部拡張 14/41
僧帽弁逸脱/弁の奇形 12/38
腹壁ヘルニア 14/23
皮下脂肪量の低下/Marfan症候群様体型 9/20
  1. 通常は、冠状縫合、矢状縫合、ラムダ縫合のいずれかに生じる。

神経発達
運動・認知の発達指標に遅延がみられる。知的障害のレベルは、通常、軽度から中等度である。SKIの病的バリアントが確認済のShprintzen-Goldberg症候群罹患者で、正常な知能を有する例が、これまでに3例報告されている[Doyleら2012,Schepersら2015,Zhangら2019]。

頭蓋縫合早期癒合症
頭蓋縫合の早期癒合は、通常、冠状縫合、矢状縫合、ラムダ縫合のいずれかに生じる。縫合の癒合は、出生時には生じており、頭蓋骨の形状に異常がみられることがきっかけで、これが疑われるというパターンがふつうである。早期癒合は、1つの縫合だけに生じることもあれば、複数の縫合にわたってみられることもある[Auら2014]。SGS罹患者で、頭蓋縫合早期癒合症の手術を受けた例に関しては、情報が得られていない現状である。
特徴的頭蓋顔面症候の内訳としては、眼間開離、眼瞼裂斜下、眼球突出、高く狭い口蓋、小下顎症、低位で後方に傾いた耳介などがある。口蓋裂は、SGS罹患者17人中3人で報告されている[Doyleら2012,Schepersら2015,O’Doughertyら2019]。幅広の口蓋垂/二分口蓋垂が、12人中2人で報告されている[Doyleら2012, O’Doughertyら2019]。

筋骨格
多くみられる症候として、くも指、屈指症、胸の変形、内反足があり、これらは出生の段階で認められる。関節拘縮は、出生時、もしくは新生児期に認められ、足関節に最も高頻度に生じる[Auら2014,Saitoら2017]。SGS罹患者には、関節の過度可動性も多くみられ、通常は出生の段階ですでにそれが認められる。O’Doughertyら[2019]は、関節の脱臼と不安定性を報告しており、その具体的部位として、左側の膝蓋骨・拇指・足、ならびにC1-C2不安定性を挙げている。また、Auら[2014]は、膝蓋骨亜脱臼を報告している。扁平足は、その後、小児期になって明らかになるが、これは片側性のこともあれば両側性のこともある。
脊柱側彎は、時に重度となる例がみられる[Auら2014]。

心血管
Carmignacら[2012]の報告した18例中3例に、大動脈基部拡張が認められている。Doyleらの報告では、SKIの病的バリアントが確認されたSGS罹患者10人中、8人に大動脈基部拡張がみられたといい、その一部は僧帽弁逸脱/閉鎖不全を伴っていた。分子レベルでの確認がなされた16歳のSGS罹患者に対し、大動脈拡張(大動脈基部の拡張レベルを示すZ値が7.014)に対する手術を行ったとの報告がみられる[Carmignacら2012]。なお、この例については、椎骨脳底動脈と内頸動脈の蛇行、ならびに肺動脈拡張も合併していた。Doyleら[2012]の報告した分子レベルでの確認済のSGS罹患者群では、1人に動脈蛇行、2人に脾動脈瘤(うち1人は自然破裂)が認められている。


19人中10人に近視が認められている[Carmignacら2012,Auら2014,O’Doughertyら2019]。評価を行った16人のSGS罹患者では、水晶体偏位はみられなかった[Doyleら2012,Schepersら2015]。

皮下脂肪量の低下/Marfan症候群様体型
20人中9人に皮下脂肪量の低下やMarfan症候群様体型がみられたと報告されている[Carmignacら2012,Auら2014]。
腹壁欠損
23人中14人に腹壁欠損が報告されている[Carmignacら2012,Auら2014,Schepersら2015,Saitoら2017,O’Doughertyら2019]。

その他

遺伝型-表現型相関

確認のなされた遺伝型-表現型相関は存在しない。

命名法について

Goldberg-Shprintzen症候群、ならびにShprintzen-Goldberg臍帯ヘルニア症候群という疾患が存在するが、これらはSGSとは無関係の別疾患である。

SGSを表すこれまで使われたことのある名称としては、次のようなものがある。

頭蓋縫合早期癒合、SGSの各種症候、正常な知能、大動脈拡張を呈する1例について、かつてFurlong症候群という用語が用いられたことがある。Adèsら[2006]は、このFurlong症候群類似の表現型を呈する2例を報告している。この2例は、いずれも同じTGFBR1の病的バリアントを有していたことから、Loeys-Dietz症候群1型だった可能性が高いものと考えられる[B Loeysとの個人通信]。Furlong症候群として報告されたオリジナルの1症例について、病的バリアントに関する解析が行われていないため、Furlong症候群という疾患が独立した1疾患として存在するかどうかについては、依然としてよくわかっていない。

発生頻度

SGSは稀な疾患であるが、その発生頻度についてはよくわかっていない。現在までに、SKIの病的バリアントが確認されたSGSの例が44人知られている。


遺伝学的に関連のある疾患(同一アレル疾患)

SKIの生殖細胞系列の病的バリアントに関連して生じるものとしては、本GeneReviewで述べたもの以外の表現型は知られていない。
1p36欠失症候群(OMIM 607872)
SKIは、1p36欠失症候群のクリティカル領域に座位している。隣接領域である1p36の欠失に関連して生じる表現型の形成に、SKIのハプロ不全が関与しているか否かに関しては、今のところよくわかっていない。SKIPRKCZPEX10などを含む1p36の小欠失を有する1例について言うと、SGSとは明らかに異なる表現型がみられたという[Zhuら2013]。


鑑別診断

Loeys-Dietz症候群(LDS)ならびにMarfan症候群(MFS)

Shprintzen-Goldberg症候群(SGS)の表現型は特徴的ではあるものの、それでも、LDSやMFSといくぶん重なる部分がみられる(表3参照)。これら2つの症候群と異なるSGSの症候としては、次のようなものがある。

LDSの大きな特徴の1つは、大動脈以外の動脈に、蛇行や動脈瘤がみられることである。
SGSでは、2例に動脈蛇行が、これとは別の2例に脾動脈瘤が認められている[Carmignacら2012,Doyleら2012]。

表3:SGS,TGFBR1/TGFBR2関連LDS,MFSの臨床症候の比較

臨床症候 SGS TGFBR1/TGFBR2関連LDS1 MFS2
発達遅滞 ++
水晶体偏位 +++
口蓋裂/二分口蓋垂 ++
眼間開離 ++ ++
頭蓋縫合早期癒合 +++ ++
高身長 +++
くも指 ++ ++ +++
胸の変形 ++ ++ ++
内反足 ++ ++
変形性関節症
基部大動脈瘤 ++ +++
動脈瘤 ++
動脈の蛇行 稀にみられる ++
早発性解離 +++
大動脈二尖弁 ++
僧帽弁閉鎖不全 ++
皮膚線条 ++
硬膜拡張

+=その症候がみられる;++=その症候がより多くみられる;+++=その症候が非常に多くみられる;-=その症候はみられない;LDS=Loeys-Dietz症候群;MFS=Marfan症候群

  1. Loeys-Dietz症候群の約75%-85%は、TGFBR1もしくはTGFBR2の病的バリアントに起因するものとされる。同時に、SMAD2SMAD3TGFB2TGFB3のヘテロ接合性病的バリアントによってもLDSが生じることが知られている。LDSは、常染色体顕性の遺伝形式をとる。
  2. Marfan症候群は、FBN1の病的バリアントに起因して生じ、常染色体顕性の遺伝形式をとる。

その他の疾患

表4:Shprintzen-Goldberg症候群との鑑別を検討すべき疾患

遺伝子 鑑別対象疾患 遺伝形式 鑑別を要する疾患でみられる臨床症候
GSと重なる症候 SGSと異なる症候

FBN2

先天性拘縮性くも状指趾症(CCA)

AD

  • くも状肢,くも指
  • 脊柱後彎/側彎1
  • 大動脈拡張(時にみられる)

CCA罹患者の大多数は、外耳の上部耳輪が襞状に折れ込んだ耳介を呈する。

FLNA

前頭骨幹端異形成症(FMD)とMelnick-Needles症候群(MNS)(「X連鎖性耳口蓋指スペクトラム障害」のGeneReviewを参照)

XL

高く、正方形状の椎骨;脛骨の彎曲;時にみられる上部頸椎の癒合

SGSでみられる知的障害と頭蓋縫合早期癒合が、MNSやFMDとの鑑別のポイントになることが多い。

B3GAT3

B3GAT3関連疾患2

AR

頭蓋縫合早期癒合,中顔面低形成,脊柱後側彎,関節拘縮,長い指,足の変形,心血管異常

新生児期の多発性骨折、鼻骨低形成、大腿骨の彎曲、折り重なり指がみられることが、SGSとの鑑別の一助となる。

HNRNPK

Au-Kline症候群

AD

  • 大動脈拡張
  • 矢状縫合の早期癒合,浅い眼窩,口蓋の異常ないし二分口蓋垂
  • 知的障害(軽度から中等度)
  • 骨格奇形
  • Marfan症候群様体型
  • くも指と屈指症
  • 先天性心疾患
  • 水腎症
  • 難聴
  • 癲癇発作

AD=常染色体顕性;AR=常染色体潜性;XL=X連鎖性

  1. CCA罹患者の50%近くに脊柱後彎/側彎がみられる(乳児期に始まり、進行性で、これがCCAで最も重大な問題になる)。
  2. Yauyら[2018]

臨床的マネジメント

最初の診断に続いて行う評価

Shprintzen-Goldberg症候群(SGS)と診断された罹患者については、疾患の範囲やニーズを把握するため、診断に至る過程ですでに実施済でなければ、表5にまとめた評価を行うことが推奨される。

表5:Shprintzen-Goldberg症候群罹患者の最初の診断後に行うことが推奨される評価

系/懸念事項 評価 コメント
神経発達 発達障害に関する評価 早期介入サービスに向けた紹介;神経発達の専門医への紹介を検討
頭蓋顔面
  • 身体の診査
  • 頭蓋縫合早期癒合が疑われるときは、縫合の状態を評価するための頭部CT
口蓋裂や頭蓋縫合早期癒合を調べることを目的として行う。
筋骨格 必要に応じ、整形外科医への紹介、ないしX線写真の撮影 C1/C2の異常,脊柱側彎,重度の胸の変形,関節可動性の異常,足の不良肢位に関する評価を目的として行う。
心血管 心エコー 大動脈基部拡張の評価を目的として行う。
MRAもしくはCTの撮影と、頭部から骨盤までの3D再構築を検討する。 動脈樹全体を通した動脈瘤と動脈の蛇行の特定を目的として行う。
結合組織疾患に関する専門知識を有する眼科医による診査 近視、ならびに眼球突出の合併症に関する評価を目的として行う。
神経 脳MRI Chiari 1型奇形の評価を目的として行う。
その他 臨床遺伝医ないし遺伝カウンセラーとの面談  

症候に対する治療

SGSの管理は、臨床遺伝医、心臓病専門医、眼科医、整形外科医、心胸郭外科医、頭蓋顔面チームなどから成る多職種チームの協力体制の下で進めるのが最善である。

表6:Shprintzen-Goldberg症候群罹患者の症候に対する治療

症候/懸念事項 治療 考慮事項/その他
発達遅滞 早期介入サービス 発達小児科医あるいは神経発達専門医との面談を検討する。
頭蓋縫合早期癒合と口蓋裂 頭蓋顔面チームによる管理 同様の症候を有する他の疾患にならった治療。
頸椎不安定性 整形外科医による治療 外科的固定が必要になる場合あり。
脊柱側彎 整形外科医による治療  
漏斗胸 整形外科医による治療 重度であることもあるが、医学的理由から外科的改善の適応になるような例は、ほとんどみられない。
関節拘縮 理学療法で可動性が改善する可能性あり。  
内反足変形 整形外科医による治療 外科的改善が必要になる場合あり。
大動脈拡張 心臓病専門医によるβアドレナリン遮断薬その他の薬剤を用いた治療 血行力学的負荷の軽減を目的として、これを検討する必要あり。
動脈瘤 外科的介入が適応になる場合あり。
血管外科医がこれを行う。
 
近視 眼科医による治療  
腹壁ヘルニア 外科的修復が適応になる場合あり。  

二次的合併症の予防

心臓の合併症を有する罹患者については、歯科治療その他、循環系の血液が細菌に汚染するおそれのある処置に際して、亜急性細菌性心内膜炎の予防処置を行うことが推奨される。

表7:Shprintzen-Goldberg症候群罹患者で推奨される定期的追跡評価

系/懸念事項 評価 実施頻度
神経発達 発達評価 来院ごと
筋骨格
  • 頸椎の評価
  • 脊柱側彎に関する臨床評価
整形外科医の手で行う。
心臓 大動脈壁異常,僧帽弁奇形,動脈瘤に関するスクリーニングを目的とした心臓病専門医による画像診断 心臓病専門医の手で行う。
視覚の問題 眼科検査 眼科医の手で行う。

避けるべき薬剤/環境

以下のものを避ける必要がある。

心血管系の問題や頸椎奇形/不安定性を有する罹患者については、これにより破局的合併症が生じる可能性がある。

リスクを有する血縁者の評価

リスクを有する血縁者に対して行う遺伝カウンセリングを目的とした検査関連の事項については、「遺伝カウンセリング」の項を参照されたい。

研究段階の治療

さまざまな疾患・状況に対して進行中の臨床試験に関する情報については、アメリカの「Clinical Trials.gov」、ならびにヨーロッパの「EU Clinical Trials Register」を参照されたい。
注:現時点で本疾患に関する臨床試験が行われているとは限らない。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

Shprintzen-Goldberg症候群(SGS)は、SKIのヘテロ接合性病的バリアントに起因して生じる疾患で、常染色体顕性の遺伝形式をとる。

家族構成員のリスク

発端者の両親

発端者の同胞 

発端者の同胞の有するリスクは、発端者の両親の遺伝学的状態によって変わってくる。

発端者の子

SGS罹患者の子は、50%の確率で病的バリアントを継承し、SGS罹患者となる。

他の家族構成員

他の血縁者の有するリスクは、発端者の両親の状態によって変わってくる。仮に、片親が病的バリアントを有していれば、その片親の血族にあたる人はすべてリスクを有することになる。

関連する遺伝カウンセリング上の諸事項

見かけ上de novoと思われる病的バリアントを有する家系についての考慮事項

常染色体顕性遺伝疾患を有する発端者のいずれの親も、発端者で同定された病的バリアントを有していない、あるいは、その疾患の臨床症候も有していないということであれば、発端者のもつその病的バリアントはde novoのものである可能性が濃厚である。ただ、代理父、代理母(例えば生殖補助医療によるもの)、もしくは秘匿型の養子縁組といった医学とは別次元の理由が潜んでいる可能性についても、併せて調べてみる必要がある。

家族計画

出生前検査ならびに着床前遺伝子検査

家系内に存在するSKIの病的バリアントが同定されている場合は、高リスクの妊娠に備えた出生前検査ならびに着床前遺伝学的検査を行うことが可能である。
出生前検査の利用に関しては、医療者間でも、また家族内でも、さまざまな見方がある。現在、多くの医療機関では、出生前検査を個人の決断に委ねられるべきものと考えているようであるが、こうした問題に関しては、もう少し議論を深める必要があろう。


関連情報

GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報についてはここをクリック。


分子遺伝学

分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。

表A:Shprintzen-Goldberg症候群:遺伝子とデータベース

遺伝子 染色体上の座位 タンパク質 HGMD ClinVar
SKI 1p36​.33-p36.32 Skiがん原遺伝子タンパク質 SKI SKI

データは、以下の標準資料から作成したものである。遺伝子についてはHGNCから、染色体上の座位についてはOMIMから、タンパク質についてはUniProtから。
リンクが張られているデータベース(Locus-Specific,HGMD,ClinVar)の説明についてはこちらをクリック。

表B:Shprintzen-Goldberg症候群関連のOMIMエントリー(内容の閲覧はOMIMへ)

164780 SKI PROTOONCOGENE; SKI
182212 SHPRINTZEN-GOLDBERG CRANIOSYNOSTOSIS SYNDROME; SGS

分子レベルの病原

SKIは、トリ肉腫ウイルス(v-ski)がん遺伝子の、核内がん原遺伝子タンパク質ホモログをコードしている。このタンパク質は、TGF-βシグナル伝達に対し抑制方向に作用する。SKIファミリーのタンパク質は、受容体活性化型SMAD(R-SMAD)-SMAD4複合体の核内移動を阻害する形で、そしてまた、SMADとの結合に関してp300/CBPと競合したり、mSin3AやHDAC1などの転写抑制タンパク質をリクルートしたりすることにより、TGF-βの標的遺伝子の発現を阻害する形で、SMAD依存性のTGF-βシグナル伝達に対し、負の調節を行う。
SKIがん遺伝子タンパク質は、あらゆる細胞内に存在し、発生に際して広く活動する。これは728のアミノ酸から成り、複数のドメインを有するタンパク質で、細胞の内外でともに発現する。各ドメインは、SMADタンパク質との相互作用をはじめとして、それぞれ別々の機能を有している。

疾患の発症メカニズム

分子レベルでの確認がなされたSGS罹患者由来の培養皮膚線維芽細胞は、TGF-βシグナル伝達カスケードの活性化促進を示すとともに、対照細胞に比べ、より高いTGF-β反応性遺伝子の発現を示した。その上で、Doyleら[2012]は、TGF-βシグナル伝達の亢進が、SGSの背景にあるメカニズムであると結論づけている。
TGF-βシグナル伝達は、血管系をはじめとするさまざまな器官の正常発生や維持に、きわめて重要な役割を果たしている。SKIは、SMADタンパク質や転写の共調節因子をはじめとする他の細胞内パートナーと相互作用することで、TGF-βシグナル伝達に対して負の調節作用を発揮する。SKIでみられる病的バリアントは、すべてエクソン1内に局在し、R-SMAD結合ドメインとダックスフントホモロジードメイン(DHD)という2つのドメイン内でクラスターを形成している。ゼブラフィッシュの研究で、SKIが大動脈の形態形成や恒常性維持に決定的に重要な役割を果たしていること、ならびに、Marfan症候群やLoeys-Dietz症候群でみられる大動脈壁異常と同様、SGS罹患者でみられる大動脈瘤形成についてもTGF-βシグナル伝達の亢進の結果であることが明らかとなっている[Takedaら2018]。健康ならびに疾患の中で、転写共役因子Ski(Sloan-Kettering Institute)とSnoN(Ski novel)がTGF-βシグナル伝達経路に対して及ぼしている調節作用に関するレビューについては、Tecalco-Cruzら[2018]を参照されたい。

SKI特異的な臨床検査上の留意事項

病的バリアントの大部分はミスセンスバリアントで、SKIのエクソン1内に位置する[Carmignacら2012]。変異のホットスポットは、互いに血縁関係のない33例中24例(73%)で、エクソン1のR-SMADドメイン内の連続する5つのアミノ酸残基(Ser31からPro35)にあることがすでに特定されている。少数ながら、DHDドメイン内に病的バリアントを有する罹患者も報告されており、このドメイン内に第2の変異のホットスポットがあることを示唆するものとなっている[Zhangら2019]。


更新履歴:

  1. Gene Reviews著者: Marie T Greally, MD, MSc, FACMG.
    日本語訳者:佐藤康守(たい矯正歯科)、櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
    GeneReviews最終更新日: 22020.4.9.  日本語訳最終更新日:  2023.12.15.[in present]

原文: Shprintzen-Goldberg Syndrome

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