[Synonyms:AcrocephalosyndactylyTypeIII]
Gene Reviews著者: EmilyRGallagher,MD,MPH,ChootimaRatisoontorn,DDS,PhD,andMichaelLCunningham,MD,PhD.
日本語訳者: 佐藤康守(たい矯正歯科)、石川亜貴(札幌医科大学医学部遺伝医学)
GeneReviews最終更新日: 2023.5.16. 日本語訳最終更新日: 2023.7.17.
疾患の特徴
古典型Saethre-Chotzen症候群(SCS)は、冠状縫合の早期癒合(片側性あるいは両側性)、顔面非対称(特に片側の冠状縫合早期癒合を呈する例)、斜視、眼瞼下垂、独特の外耳形態(目立つ上部耳輪脚ないし下部耳輪脚を伴う小さな耳介)を特徴とする。ばらつきはあるものの、2,3本の手指の合指がみられる。ゲノムの大きな欠失を有する例については、知的な問題を有するリスクが高まるものの、通常、高次脳機能の発達は正常である。これらより低頻度のSCSの症候としては、上記以外の骨格所見(頭頂孔,脊椎骨分節障害,橈尺骨癒合,上顎骨低形成,眼間開離,外反母趾、拇趾末節骨の重複あるいは彎曲)、両眼隔離、口蓋の異常、睡眠時無呼吸、頭蓋内圧亢進、低身長、先天性心疾患などがある。
診断・検査
発端者におけるSCSの診断は、特徴的な臨床所見を有することに加え、分子遺伝学的検査でTWIST1にヘテロ接合性の病的バリアント(pathogenicとlikelypathogenicの両方を含む)が同定されることをもって確定する。
臨床的マネジメント
症状に対する治療:
きちんと確立された頭蓋顔面チームの手で継続的管理を行う。具体的には、満1歳未満の段階で行う頭蓋形成術、咬合異常・嚥下障害・呼吸障害に対応するため必要に応じ小児期に行う中顔面の手術などが考えられる。口蓋裂がある場合は、頭蓋形成術に続いて口蓋形成術を行う。必要に応じ行うものとしては、顔面の成長終了時点で行う矯正歯科治療ないし顎矯正手術、発達への介入、難聴に対する通常の治療、眼科的評価、ならびに、眼瞼下垂がみられる場合は弱視予防に向け必要に応じ小児期に行う外科的修復を伴う介入などがある。
定期的追跡評価:
乳頭浮腫に関する年に1度の眼科的評価、頭蓋内圧亢進を示すデータがあるときはより詳しい評価を行うための脳の画像診断、必要に応じ顔面非対称に関する臨床診査、口蓋裂を有する例については生後12ヵ月から始め年に1度の言語評価をそれぞれ行う。聴覚評価を6-12ヵ月ごと、睡眠時の呼吸障害や発達遅滞に関する臨床的評価を年に1度行う。
避けるべき薬剤/環境:
不安定性を伴う頸椎の異常がみられる場合は、脊椎にリスクが及ぶような活動を制限する必要がある。
遺伝カウンセリング
SCSは常染色体顕性の遺伝形式をとる。SCSと診断された例の多くは、片親からの継承例である。denovoの病的バリアントに起因して生じた例の割合については、よくわかっていない。SCSと診断された罹患者の中には、血族がこの疾患を有していることを見落としてしまったため(SCSについては、家系内における表現型のばらつきの幅が大きい)、あるいは、浸透率が低かったために家族歴陰性とみなされてしまうような例もみられる。SCS罹患者の子が病的バリアントを継承する可能性は50%である。家系内に存在する病的バリアントの内容が判明している場合は、高リスクの妊娠に備えた出生前検査や、着床前遺伝学的検査を行うことが可能である。
本疾患を示唆する所見
次のような症候を組み合わさった形で有する例については、Saethre-Chotzen症候群(SCS)を疑う必要がある。
注:合指の有無やその程度のばらつきの幅は非常に大きいものの、上に挙げた最初の3症候(頭蓋縫合の早期癒合,低い前頭部毛髪線云々,小さな耳云々)が揃えば、診断は十分可能である。
診断の確定
発端者におけるSCSの診断は、特徴的な臨床症候がみられることに加えて、分子遺伝学的検査にてTWIST1のヘテロ接合性病的バリアント(pathogenicとlikelypathogenicの両方を含む)が同定されることをもって確定する(表1参照)。
注:アメリカ臨床遺伝ゲノム学会(ACMG)/分子病理学会(AMP)のバリアントの解釈に関するガイドラインによると、「pathogenic」のバリアントと「likelypathogenic」のバリアントとは臨床の場では同義であり、ともに診断に供しうるものであると同時に、臨床的な意思決定に使用しうるものとされている[Richardsら2015]。本セクションで「病的バリアント」と言うとき、それは、あらゆるlikelypathogenicのバリアントまでを包含するものと理解されたい。
分子遺伝学的検査のアプローチとしては、表現型に合わせて、遺伝子標的型検査(単一遺伝子検査,同時並行あるいは直列型で行う単一遺伝子検査,マルチ遺伝子パネル)と網羅的ゲノム検査(染色体マイクロアレイ解析,エクソームシーケンシング,エクソームアレイ,ゲノムシーケンシング)を組み合わせるやり方が考えられる。
遺伝子標的型検査の場合は、臨床医の側で関与が疑われる遺伝子の目星をつけておく必要があるが、ゲノム検査の場合、その必要はない。SCSは広い表現型の幅を示すため、「本疾患を示唆する所見」に記載した特徴的所見を有する例については遺伝子標的型検査(「方法1」参照)で診断がつくものと思われるが、表現型からはその他数多く存在する頭蓋縫合早期癒合を呈する遺伝性疾患と鑑別しにくいような例、あるいは、SCSを頭に入れるところにまで至らないような例については、ゲノム検査(「方法2」参照)で診断がなされることになろう。
方法1
表現型と検査所見からSCSが示唆されるようであれば、使用する分子遺伝学的検査のアプローチは、単一遺伝子検査、染色体マイクロアレイ解析(CMA)、あるいはマルチ遺伝子パネルといったものになろう。
TWIST1の配列解析を行うことで遺伝子内の小欠失/挿入や、ミスセンス・ナンセンス・スプライス部位バリアントが検出されるが、通常、エクソン単位あるいは遺伝子全体の欠失/重複については検出されない。番としては、まず配列解析を行う。そこで病的バリアントが検出されないようであれば、次いで、遺伝子内の欠失/重複を調べるための遺伝子標的型欠失/重複解析を行う。
CMAは、オリゴヌクレオチドアレイあるいはSNPアレイを用いて、配列解析では検出されないような大欠失/重複(TWIST1を含む)をゲノムワイドに調べようというものである。
注:TWIST1を含む領域の大欠失を有する例については、発達遅滞のリスクが90%と、遺伝子内に病的バリアントを有する例の8倍の頻度に上る[Caiら2003a,Fryssiraら2011]。そのため、SCSの症候に加えて発達遅滞も有する例については、CMAの利用を検討する必要がある。
現況の表現型と直接関係のない遺伝子の意義不明バリアントや病的バリアントの検出を抑えつつ、疾患の遺伝的原因の特定に最もつながりやすいのは、TWIST1その他の関連遺伝子(「鑑別診断」の項を参照)を含む頭蓋縫合早期癒合症用マルチ遺伝子パネルであるように思われる。
注:(1)パネルに含められる遺伝子の内容、ならびに個々の遺伝子について行う検査の診断上の感度については、検査機関によってばらつきがみられ、また、経時的に変更されていく可能性がある。
(2)マルチ遺伝子パネルによっては、このGeneReviewで取り上げている状況と無関係な遺伝子が含まれることがある。
(3)検査機関によっては、パネルの内容が、その機関の定めた定型のパネルであったり、表現型ごとに定めたものの中で臨床医の指定した遺伝子を含む定型のエクソーム解析であったりすることがある。
(4)ある1つのパネルに対して適用される手法には、配列解析、欠失/重複解析、ないしその他の非配列ベースの検査などがある。本疾患に関しては、欠失/重複解析を含むマルチ遺伝子パネルの使用が推奨される。
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注:SCSが強く示唆されるにもかかわらず、分子遺伝学的検査の結果には異常がみられない場合は、核型解析を検討する必要がある。それは、発達遅滞を含む非定型的所見を有するSCS罹患者で、TWIST1に影響を及ぼす染色体再構成(例えば、転座,逆位,7p21を含む環状7番染色体)が報告されているからである[Shettyら2007,Touliatouら2007]。
方法2
表現型からは、その他数多く存在する頭蓋縫合早期癒合を呈する遺伝性疾患と区別しにくいような場合であれば、網羅的ゲノム検査(この場合は、臨床医の側で疑わしい遺伝子の目星をつけておく必要はない)が最良の選択肢となる。エクソームシーケンシングが最も広く用いられているが、ゲノムシーケンシングを用いることも可能である。
エクソームシーケンシングで診断がつかないようであれば、臨床で利用可能なら、エクソームアレイも検討対象になりうる。
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表1:Saethre-Chotzen症候群で用いられる分子遺伝学的検査
遺伝子1 | 方法 | その手法で病的バリアント2が検出される発端者の割合 |
---|---|---|
TWIST1 | 配列解析3 | 72%4 |
遺伝子標的型欠失/重複解析5,6 | 23%4 | |
CMA6,7 | 23%4,8 | |
核型解析 | 5%9 |
臨床像
TWIST1の病的バリアントが検出できるようになってきたことで、Saethre-Chotzen症候群(SCS)の表現型のスペクトラムは次第に広がってきている。軽症型表現型と重症型表現型の2つがあることがわかってきている。
古典型Saethre-Chotzen症候群
古典型Saethre-Chotzen症候群は、冠状縫合の早期癒合(片側性もしくは両側性)、顔面非対称(これは片側性の冠状縫合早期癒合を有する例で特に顕著にみられる)、斜視、眼瞼下垂、独特な形態の耳(目立つ上部耳輪脚・下部耳輪脚を伴う小さな耳介)を特徴とする。手の第2-3指の部分性皮膚性合指が多くみられるが、ごく軽微であることもある。
「遺伝型-表現型相関」の項を参照されたい。
現れ方にばらつきがみられる所見としては、次のようなものがある。
最近の研究によると、SCS罹患者の5%が軽度のOSA(その定義は、夜間の酸素飽和度の変化)と診断されている[deJongら2010]。
最近の研究で、術後1年超にわたって遺残する乳頭浮腫の所見を基準としてみたとき、SCS罹患者の21%に頭蓋内圧亢進がみられたとするものがある[deJongら2010]。
より重症型の表現型
Baller-Gerold症候群(BGS)(「鑑別診断」の項を参照)と表現型の点で区別が難しいような重症型表現型を呈する例が報告されている。この表現型においては、重度の頭蓋縫合早期癒合、橈側列の低形成/無形成、脊椎骨分節障害、その他の奇形がみられる[Grippら1999,Setoら2001]。BGSに一致した臨床症候を有する2例で、TWIST1の新規の病的バリアントが同定されている。
遺伝型-表現型相関
SCSを引き起こす病的バリアントの大多数は遺伝子内のバリアントであり、産物であるタンパク質、Twist関連タンパク質1のハプロ不全を惹起するものである。遺伝型-表現型相関として判明しているものは、以下の事項のみである。
1塩基バリアントを有する罹患者のほとんどは、正常な知能を有する。TWIST1を含む領域の欠失を有する罹患者については、発達遅滞に関するリスクが90%と、遺伝子内の病的バリアントを有する例の8倍に上る[Caiら2003a]。ただ、TWIST1の欠失例で、発達が正常であった例の報告も存在する[deHeerら2005,Kressら2006]。
浸透率
浸透率に関する正確なデータは得られていないが、表現型のばらつきの幅が大きいこと、ならびに不完全浸透であることを明確に示した報告がみられる[Dollfusら2002,deHeerら2005]。
疾患名
Robinow-Sorauf症候群は、現在ではTWIST1の病的バリアントに起因するものであることが判明しており[Caiら2003b]、SCSの表現型のスペクトラム内の軽症端にあたるものであると考えられている。
発生頻度
症候群性の頭蓋縫合早期癒合症の中で、SCSは最も多くみられるタイプの1つである。発生頻度は25,000人に1人から50,000人に1人の間と推定されている[Howardら1997,Paznekasら1998]。SCSの発生頻度はおおむねCrouzon症候群と同じというのが、多くの一致した見方である[Cohen&Kreiborg1992]。
ただ、SCSの場合は表現型のばらつきの幅が大きいため、診断のなされた数は実際より少ない可能性も考えられる。
高度に保存されたC末端のTWISTボックスは、RUNX2のトランス活性化に関し、これと結合して阻害する方向に働く。ここに生じた病的バリアントは、SCSではなく、単発性の矢状縫合早期癒合症あるいは片側性冠状縫合早期癒合症を生じさせる[Kressら2006,Setoら2007]。
眼瞼縮小-眼瞼下垂-逆内眼角贅皮症候群(blepharophimosis,ptosis,andepicanthusinversussyndrome;BPES)に類似した、時に頭蓋縫合早期癒合を伴うことのある眼瞼縮小あるいは眼瞼下垂が、TWIST1の病的バリアントに起因して生じることが報告されている[DeHeerら2004]。
表2:Saethre-Chotzen症候群(SCS)との鑑別診断を検討すべき疾患
疾患名 | 遺伝子 | 遺伝形式 | 臨床症候 | コメント | |
---|---|---|---|---|---|
重なる症候 | 異なる症候 | ||||
Muenke症候群 | FGFR31 | AD | 片側性/両側性冠状縫合早期癒合 | SCSでは:2
|
SCSの疑われた例でTWIST1に病的バリアントが検出されないときは、FGFR3のp.Pro250Argに関する検査を検討する。 |
単発性片側性冠状縫合早期癒合症(IUCS)3,4(OMIMPS123100) | ALX4 ERF MSX2 SMAD6 TCF12 TWIST1 ZIC1 |
AD | 治療がなされない、あるいは不完全だった場合、IUCSはSCSに似た顔面非対称を引き起こす可能性あり。 | 名の示す通り、IUCSではSCSでみられるその他の臨床症候がみられない。 |
|
Baller-Gerold症候群(BGS) | RECQL4 | AR | 両側性の冠状縫合早期癒合により、眼球突出を伴う短頭症と前額部の平坦化をきたす。 | GBSでは:
|
同じくRECQL4の病的バリアントに起因するRothmund-Thomson症候群とRAPADILINO症候群(OMIM266280)は、BGSと臨床症候の重なる疾患である。 |
最初の診断に続いて行う評価
Saethre-Chotzen症候群(SCS)と診断された罹患者については、疾患の範囲やニーズを把握するため、診断に至る過程ですでに実施済でなければ、表3にまとめた評価を行うことが推奨される。
表3:SCS罹患者の最初の診断後に行うことが推奨される評価
器官系 | 評価 | コメント |
---|---|---|
体格 | 身長と成長速度の計測 | 低身長ないし線的成長の減速がみられるようであれば、内分泌内科医による評価を行う。 |
眼 | 眼科的評価 | 頭蓋内圧亢進を示唆する眼瞼下垂,斜視,弱視,鼻涙管狭窄,乳頭浮腫に関し、評価を行う。 |
耳鼻咽喉/口 | 口蓋裂に関する評価 | 口蓋裂があるようなら、摂食能力や成長に関し評価を行う。 |
難聴に関する聴覚学的スクリーニング | 難聴があるようなら、補聴器の使用に向けた評価を行う。 | |
心血管 | 定常的な心臓検査 | 心疾患が疑われる場合は、紹介を行う。 |
呼吸器 | 睡眠時無呼吸に関する評価 | 睡眠時無呼吸が疑われる場合は、睡眠ポリグラフ検査に向けた紹介を行う。 |
筋骨格 | 頭蓋縫合早期癒合と顔面非対称に関する評価 | 臨床的にこれが疑われるような場合は、CT撮影を行う。 |
脊椎(特に頸椎)奇形に関するスクリーニング |
|
|
上肢・下肢に奇形がみられないか確かめるための診査 | 何らかの疑いがある場合は、放射線的・整形外科的評価を行いつつフォローアップを行う。 | |
雑/その他 | 発達評価 | 特に、TWIST1を含む染色体欠失を有する例。 発達遅滞が疑われる場合は、早期介入サービスに向けた紹介を行う。 |
臨床遺伝医ないし遺伝カウンセラーとの面談 |
症状に対する治療
表4:SCS罹患者の症候に対する治療
症候 | 治療 | 考慮事項/その他 |
---|---|---|
頭蓋顔面の変形 | 頭蓋顔面チームによる継続的管理 |
|
口蓋裂(これがある場合) | 外科的治療 | 口蓋形成術は、ほとんどの場合、頭蓋形成術の後に行われる。 |
眼科的異常 | 眼科医の推奨に従った標準治療 | 眼瞼下垂や斜視については、弱視予防の観点から、幼児期に遮眼用眼帯あるいは手術による矯正が必要となる。 乳頭浮腫が確認された場合は、頭蓋形成術を検討する。 |
難聴 | 標準的な手法での治療 | |
発達遅滞 | 必要に応じ、早期介入ないし特別支援教育 |
定期的追跡評価
表5:SCS罹患者で推奨される定期的追跡評価
医学的懸念事項 | 評価 | 実施頻度 |
---|---|---|
頭蓋内圧亢進 |
|
|
頭蓋顔面の非対称 |
|
必要に応じて。 |
口蓋裂 | スピーチの評価 |
|
斜視ないし眼瞼下垂 | 眼科的評価 | 斜視あるいは眼瞼下垂がみられる場合は、必要に応じて。 |
難聴 | 聴覚評価 |
|
睡眠障害の呼吸 | 臨床的評価 | 年に1度(病歴から必要と判断されれば、睡眠ポリグラフ)。 |
発達遅滞 | 臨床的評価 |
|
避けるべき薬剤/環境
不安定性を伴うような頸椎の異常を有する罹患者については、脊椎に対するリスクを伴うような活動を制限する必要がある。
リスクを有する血縁者に対して行う遺伝カウンセリングを目的とした検査関連の事項については、「遺伝カウンセリング」の項を参照されたい。
研究段階の治療
さまざまな疾患・状況に対して進行中の臨床試験に関する情報については、アメリカの「ClinicalTrials.gov」、ならびにヨーロッパの「EUClinicalTrialsRegister」を参照されたい。
注:現時点で本疾患に関する臨床試験が行われているとは限らない。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
Saethre-Chotzen症候群(SCS)は、常染色体顕性の遺伝形式をとる。
家族構成員のリスク
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の同胞の有するリスクは、発端者の両親の遺伝学的状態によって変わってくる。
ただ、それでも、臨床的にみて両親とも非罹患者と目される場合の同胞のSCSに関するリスクは、やや高まるものと考えられる。それは、不完全浸透の可能性、あるいは片親の生殖細胞系列モザイクの可能性が理論上、残っているからである。
発端者の子
CS罹患者の子は、50%の確率で病的バリアントを継承する。
他の血縁者が有するリスクは、発端者の両親の状態によって変わってくる。仮に、片親が罹患者であったということになれば、その片親の血族にあたる人はすべてリスクを有することになる。
遺伝カウンセリングに関連した問題
見かけ上、denovo の病的バリアントと思われる家系についての注意事項
常染色体顕性遺伝疾患を有する発端者の両親いずれからも発端者のもつ病的バリアントが検出されない、あるいは、両親ともその疾患の臨床症候を有しないといった場合、その病的バリアントはdenovoのものである可能性が高い。ただ、代理父、代理母(例えば生殖補助医療によるもの)、もしくは秘匿型の養子縁組といった、医学とは別次元の理由が潜んでいる可能性も考えられる。
家族計画
出生前検査ならびに着床前遺伝学的検査
家系内に存在するTWIST1の病的バリアントが同定されている場合は、高リスクの妊娠に備えた出生前検査ならびに着床前遺伝学的検査を行うことが可能となる。
出生前検査の利用に関しては、医療者間でも、また家族内でも、さまざまな見方がある。
現在、多くの医療機関では、出生前検査を個人の決断に委ねられるべきものと考えているようであるが、こうした問題に関しては、もう少し議論を深める必要があろう。
GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報については、ここをクリック。
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Saethre-Chotzen Syndrome
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Email:info@deafchildren.org
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UnitedKingdom
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www.nad.org
分子遺伝学
分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。
表A:Saethre-Chotzen症候群:遺伝子とデータベース
遺伝子 | 染色体上の座位 | タンパク質 | Locus-Specificデータベース | HGMD | ClinVar |
---|---|---|---|---|---|
TWIST1 | 7p21.1 | Twist関連タンパク質1 | TWIST1 database | TWIST1 | TWIST1 |
データは、以下の標準資料から作成したものである。遺伝子についてはHGNCから、染色体上の座位についてはOMIMから、タンパク質についてはUniProtから。リンクが張られているデータベース(Locus-Specific,HGMD,ClinVar)の説明についてはこちらをクリック。
表B:Saethre-Chotzen症候群関連のOMIMエントリー(内容の閲覧はOMIMへ)
101400 | SAETHRE-CHOTZEN SYNDROME; SCS |
601622 | TWIST FAMILY bHLH TRANSCRIPTION FACTOR 1; TWIST1 |
分子レベルの病原
頭蓋冠の縫合の維持には、TWIST1,TCF12,ERF,FGF,FGFR群,MSX2,ALX4,EFNB1,EFNA4,NELL1,RUNX2,BMP群,TGF-β群,SHH,IGF群,IGFR群,IGFBP群などの遺伝子や遺伝子ファミリーが、おそらくは相互に作用し合いながら、調節の役割を果たしているように思われる。Saethre-Chotzen症候群は、臨床的には他の頭蓋縫合早期癒合症候群と表現型が重なるが、中でも、FGFR3のp.Pro250Argの病的バリアントに起因して生じるMuenke症候群とは表現型の重なりが顕著にみられる[Muenkeら1997]。この2つの遺伝子は、臨床的には頭蓋冠の縫合の早期癒合という同一の一次奇形をもたらすが、頭蓋冠の発生過程において、両遺伝子が同一の経路で働いているのか、並行する経路で働いているのか、あるいはまた全く別の経路で働いているのかといった点については、よくわかっていない。
遺伝子構造
TWIST1は2つのエクソンと1つのイントロンから成る。最初のエクソンは、202のアミノ酸から成るタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含み、その後、45bpの非翻訳領域、536bpのイントロン、2つ目のエクソンである非翻訳エクソンが続く(参照配列NM_000474.3ならびにNP_000465.1)。
病的バリアント
SCSは、塩基性ヘリックス-ループ-ヘリックス(HLH)転写因子の1つであるTwist関連タンパク質1の機能的ハプロ不全によって生じる疾患で、このSCSを引き起こすTWIST1のバリアントは、現在までに209を超える種類が報告されている。その大部分は、ミスセンス・ナンセンス・フレームシフト(すなわち、欠失/挿入/重複/インデル)の各バリアントであるが、大きな欠失、あるいは染色体再構成の報告もかなりの数に上る[Grippら2000,Caiら2003a,deHeerら2005,Kressら2006,Fooら2009,Roscioliら2013,Paumard-Hernándezら2015,TheHumanGeneMutationDatabase(要登録)]。TWIST1でみられる病的バリアントは、いずれも機能的ハプロ不全をきたすものである。
本疾患に関連するバリアントは、すべてコーディング領域に生じたもので、スプライス部位バリアント、イントロンのバリアント、2番目のエクソン内に生じた変化は報告されていない。特段の変異の「ホットスポット」のようなものもみられない。
なお、RUNKS2は骨芽細胞の分化・活性に関し、「マスタースイッチ」の役割を果たすものと考えられている。
正常遺伝子産物
Twist関連タンパク質1は、1つの大きなファミリーを形成する塩基性ヘリックス-ループ-ヘリックス(bHLH)転写制御因子のメンバーである。bHLHモチーフは、以下の構成をとる。
異常遺伝子産物
TWIST1の病的バリアントは、ハプロ不全を引き起こす[ElGhouzziら2000]。Twist関連タンパク質1のハプロ不全により、二量体のバランスが変化し、結果として、下流のシグナル伝達分子の発現が変化することになる。
これらのデータの示唆するところは、SCS罹患者の異常アレルから生じた機能喪失型のTwist関連タンパク質1の本質が、タンパク質の質的変化と細胞内局在にあるということである。こうしたモデルは、SCSで主として冠状縫合に癒合が生じるという所見と合致するものとなっている。というのは、Twist-1ヌル/+マウスモデルで、冠状縫合において、下流の活性化因子の遺伝子発現が高レベルでみられることが実証されているからである[elGhouzziら1997,Bourgeoisら1998,Carvarら2002,Connerneyら2008,Miraoui&Marie2010]。
Gene Reviews著者: PEmily R Gallagher, MD, MPH, Chootima Ratisoontorn, DDS, PhD, and Michael L Cunningham, MD, PhD.
日本語訳者: 佐藤康守(たい矯正歯科)、櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
GeneReviews最終更新日: 2019.1.24 日本語訳最終更新日: 2023.5.7
Gene Reviews著者: EmilyRGallagher,MD,MPH,ChootimaRatisoontorn,DDS,PhD,andMichaelLCunningham,MD,PhD.
日本語訳者: 佐藤康守(たい矯正歯科)、石川亜貴(札幌医科大学医学部遺伝医学)
GeneReviews最終更新日: 2023.5.16. 日本語訳最終更新日: 2023.7.17.[in present]