脊髄小脳失調症6型
(Spinocerebellar Ataxia Type 6)

[Synonym:SCA6]

Gene Reviews著者: Hannah L Casey, BS and Christopher M Gomez, MD, PhD
日本語訳者:寺川千晴、升野光雄、山内泰子(川崎医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 遺伝カウンセリングコース)

GeneReviews最終更新日: 2019.11.21.  日本語訳最終更新日:  2023.11.20.

原文: Spinocerebellar Ataxia Type 6


要約


疾患の特徴

脊髄小脳失調症6型(SCA6)は、成人発症、緩徐進行性の小脳性運動失調、構音障害および眼振によって特徴づけられる。発症年齢は19歳から73歳で、発症の平均年齢は43歳から52歳である。初期症状は歩行の不安定、つまずき、および平衡異常(約90%)、並びに構音障害(約10%)である。最終的には全員が失調性歩行、上肢の協調運動障害、企図時振戦および構音障害を呈する。嚥下障害と窒息はよくみられる。視力障害は、複視、移動対象の固視の困難、水平性注視誘発眼振および垂直性眼振に起因することがある。反射亢進と伸展性足底反応は最大40%~50%までに生じる。ジストニアおよび眼瞼痙攣を含む、大脳基底核の徴候は、最大25%までに生じる。精神状態は一般的に保持される。

診断・検査

SCA6の診断は、CACNA1Aにおける異常なCAGトリヌクレオチドリピートの伸長を検出するための分子遺伝学的検査によって行われる。罹患者は20~33回のCAGリピートを有する。

臨床的マネジメント

症状に対する治療:
運動失調発作をなくすためのアセタゾラミド;転倒を防止するための杖、ステッキ、歩行器;安全性と利便性のための住宅改修;重みのある食事用器具(訳者注:振戦に対して)およびリーチャー(dressing hooks);バランスと体幹の強化を図る理学療法および運動;特にカロリー摂取量が減少した場合のビタミン補給;摂食療法士/作業療法士による栄養法の推奨;肥満が歩行および移動障害を悪化させるため体重管理;前庭症状はジフェンヒドラミン、バクロフェンおよびガバペンチンを含む薬剤で管理できる場合がある。4-アミノピリジンは前庭症状および眼振の抑制に有効である。複視に対しては眼科医による屈折矯正または外科的管理、構音障害に対しては言語療法およびコミュニケーション機器、REM睡眠障害に対してはクロナゼパム、睡眠時無呼吸に対しては持続気道陽圧を行う。

サーベイランス:
神経内科医による年1回または半年に1回の評価;運転能力は定期的に専門家に評価されるべきである。リハビリテーション医、並びに理学療法士および/または作業療法士による年1回の受診;歩行補助具および自宅での適応の必要性を検討する。必要に応じて栄養評価、ビデオ食道造影法、および摂食評価。プリズムや手術のために必要な眼科学および/または検眼法の評価。

避けるべき薬剤/状況:
協調運動障害を増加させる、鎮静の睡眠薬(エタノールやある一定の薬物)。

遺伝カウンセリング

SCA6は常染色体顕性の遺伝形式をとる。罹患者の子は、50%の確率でCACNA1Aの異常なCAGトリヌクレオチドリピートの伸長を受け継ぐ。一旦、罹患家族構成員においてCACNA1AのCAGリピートの伸長が確認されれば、SCA6の出生前検査および着床前遺伝学的検査が可能である。


診断

脊髄小脳失調症6型(SCA6)の正式な診断基準は確立されていない。

本疾患を示唆する所見

以下のような臨床・画像所見がある場合は、SCA6を疑うべきである:

診断の確定

CA6の診断は、分子遺伝学的検査によりCACNA1Aのヘテロ接合性CAGリピートの伸長を有する発端者で確立される(表1

アレルサイズ

分子遺伝学的検査のアプローチには、単一遺伝子の検査と多遺伝子パネルの使用がある。

多遺伝子パネルの導入は、こちらをクリックすること。遺伝学的検査を発注する臨床医向けのより詳細な情報は、こちらで見られる。

表1. 脊髄小脳失調症6型において用いられる分子遺伝学的検査

遺伝子1 検査方法 検査方法により検出できる病的バリアントを持つ発端者の割合2
CACNA1A 病的バリアントに対する標的解析3 100%
  1. 染色体座位とタンパク質は、表A. 遺伝子とデータベースを参照。
  2. この遺伝子に検出されたアレルバリアントの情報については、分子遺伝学を参照。
  3. PCR増幅により、最大100リピートまでのCAGトリヌクレオチドリピートの伸長を検出できる。

臨床的特徴

臨床像

現在までに、脊髄小脳失調症6型(SCA6)を持つ人は10,000人未満であることが確認されている。本疾患に関連する表現型の特徴に関する以下の記述は、これらの報告された個人に基づいている。

表2.脊髄小脳失調症6型の特徴

特徴 特徴を持つ人の割合
歩行の不安定性、上肢の協調運動障害、企図時振戦および構音障害    100%
水平性注視誘発眼振 70%-100%
垂直性眼振 65%-83%
複視 50%
反射亢進および伸展性足底反応 40%-50%
ジストニアおよび眼瞼痙攣 <25%

脊髄小脳失調症6型(SCA6)は、成人発症、緩徐進行性の小脳性運動失調、構音障害および眼振によって特徴づけられる。発症年齢の範囲は19歳から73歳である。発症の平均年齢は43歳から52歳の間である。発症年齢と臨床像は同じ家系内でさえも異なる;同じサイズの完全浸透のアレルを持つ同胞は、発症年齢が12年程度まで異なることがあり、または少なくとも初期は挿間的な(時折起こる)経過を示すかもしれない [Gomez et al 1997, Jodice et al 1997]。

初期症状は、およそ90%の人で歩行の不安定性、つまずき、および平衡異常である;残りは構音障害を呈する。症状は緩徐に進行し、最終的には全員が失調性歩行、上肢の協調運動障害、企図時振戦および構音障害を呈する。嚥下障害と窒息はよくみられる。

複視は、ほぼ50%の人に生じる。他の人の視覚障害の経験は、水平性注視誘発眼振(70%-100%) [Moscovich et al 2015]と垂直性眼振(65%-83%)ばかりでなく、移動対象の固視の困難に関連しており、それらは別の種類のSCAでは10%より少ない人で観察される [Yabe et al 2003]。周期性交代性眼振と反跳眼振を含む、他の眼球運動の異常もまた記述されている [Hashimoto et al 2003]。

反射亢進と伸展性足底反応はSCA6を持つ人の最大40%-50%に起こる。

ジストニアおよび眼瞼痙攣のような大脳基底核徴候は、最大25%の人に認める。

精神状態は一般的に保持される。1つの(症例)シリーズにおける公式な神経心理学的検査は、有意な認知障害を明らかにしなかった [Globas et al 2003]。

SCA6を持つ人は、感覚の愁訴、むずむず脚、こわばり、片頭痛、原発性の視覚障害または筋萎縮はない。

寿命は短縮されない。

その他.

レム睡眠行動障害がまれに報告されている [Boesch et al 2006, Howell et al 2006]。

妊娠.

疾患の重症度は妊娠中に増加する。胎児の生存可能性への影響は報告されていない。

神経病理学.

SCA6を持つ人の神経病理学の研究は、選択的なプルキンエ細胞の変性、もしくはプルキンエ細胞と顆粒細胞の複合した変性のどちらかを示している [Gomez et al 1997, Sasaki et al 1998]。

遺伝型-表現型相関

ヘテロ接合性の人.SCA6の発症年齢は、伸長したCAGリピートの長さと逆相関があるけれども、疾患に関係する最も一般的なアレルである22回のCAGリピートを持つ人で、同様に発症の幅広い範囲が知られている [Gomez et al 1997, Schöls et al 1998]。CAGリピートを30回もしくは33回持つ、少数の人の発症は、CAGリピートが22回および23回の人より遅い [Matsuyama et al 1997, Yabe et al 1998]。最近の後向き研究では、2つのアレルサイズの総計と発症年齢との、さらに緊密な相関が示されている [Takahashi et al 2004]。

ホモ接合性の人CACNA1A内の異常な伸長のホモ接合性が、数名で報告されている [Geschwind et al 1997, Ikeuchi et al 1997, Matsuyama et al 1997]。3名では、ヘテロ接合性の人より発症が早く、症状がやや重症であった [Geschwind et al 1997, Ikeuchi et al 1997];1つの研究では発症年齢が、2つのアレルサイズの総計と相関していた [Takahashi et al 2004]。

浸透率

浸透率はほぼ100 %であるが、症状は60歳代まで現れない可能性がある。

表現促進

CACNA1Aの伸長は、通常、親から子への伝達の中では観察されない;従ってSCA6では表現促進は見られない。発症年齢、重症度、特異的な症状および病気の進行は多様で、家族歴またはCAGリピートサイズによって予測できない。

命名法

かつては小脳皮質変性症のホームズ型として、および後には常染色体顕性の小脳性運動失調Ⅲ型(純粋小脳性運動失調)として知られた遺伝性運動失調症の型は、SCA6を含んでいたかもしれない。

有病率

SCA6の有病率は、地理的地域によって異なるようで、おそらく創始者効果が関係している。常染色体顕性遺伝の脊髄小脳失調症を持つすべての家系での割合としての推定では、SCA6の割合はスペインとフランスでは1%-2%、中国では3%、米国では12%、ドイツでは13%、そして日本では31%である。

常染色体顕性の運動失調の全体の有病率は、10万人あたり1人と推定されている。SCA6の有病率は10万人あたり0.02-0.31人と推定される [Geschwind et al 1997, Ikeuchi et al 1997, Matsumura et al 1997, Matsuyama et al 1997, Riess et al 1997, Stevanin et al 1997, Schöls et al 1998, Pujana et al 1999, Jiang et al 2005]。現在までの最も正確な評価では、Craigら [2004]がゲノムDNAの無選択な検体の大規模な収集物を使用し、イギリスでのCACNA1A の病的な伸長の有病率は、10万人に5人と推定した。

家族歴が知られていない運動失調を持つ人の中で、CACNA1A の伸長の頻度は、1つの研究 [Schöls et al 1998]では5%と、もう1つ [Geschwind et al 1997a]では43%と割りだされた;しかしながら親の早期の死は、完全な確認の妨げとなったかもしれない(遺伝性運動失調症概説を参照)。


遺伝学的に関連のある疾患(同一アレル疾患)

ヘテロ接合性のCACNA1Aの病的バリアントは、発作性運動失調症2型、進行性小脳性運動失調および家族性片麻痺性片頭痛との関連も知られている(表3参照)。 。

表3. 脊髄小脳失調症6型の鑑別診断に考慮すべき常染色体顕性アレル疾患

疾患 関連するCACNA1Aの病的バリアント 臨床的特徴 SCA6との臨床的重なり

発作性運動失調症2型(EA2)
(OMIM 108500)

ミスセンス、ナンセンス、スプライス部位、フレームシフト、およびエクソン/多エクソンの欠失

  • 典型的には小児期か青年早期の発症
  • 数時間から数日間続く、運動失調、めまい、および吐き気の発作
  • 発作は構音障害、複視、耳鳴り、ジストニア、片麻痺、および頭痛を伴うことがある。
  • 発作の間欠期には最初は正常であっても、やがて眼振や運動失調などの発作間欠期所見が出現することがある。
  • 発作性運動失調が何年も続いた後、SCA6と区別のつかない発作間欠期運動失調の状態になることがある1
  • SCA6を持つ人は、EAを呈することがある2
  • CACNA1Aのミスセンスバリアントを持つ1家族は、SCA6とEA2の両方の表現型を持っていた3
  • CACNA1A のCAGリピート伸長を持つ2家族は、SCA6とEA2の両方の表現型を持っていた4

進行性小脳性運動失調

ミスセンスバリアントには、
第1ドメインのPループのp.Gly293Arg、
I-IIループのp.Ala454Thrおよびp.Arg1664Glnが含まれる5

  • 重度の進行性運動失調
  • 小脳萎縮
  • CAGリピート伸長を伴うSCA6と非常に類似した表現型6

家族性片麻痺性片頭痛 (FHM) 7

ミスセンス、ナンセンス、およびエクソン/多エクソンの欠失

  • 片麻痺の前兆と、少なくとも1つの他の前兆症状(例えば、半盲、片側の感覚障害、失語症)の後、中等度から重度の頭痛がある。
  • 昏睡と痙攣(軽度の頭部外傷や血管造影で誘発される可能性がある)
  • 外傷をきっかけとした遅発性脳浮腫8
  • EA2を持つ1家系では、運動失調発作中に罹患した構成員は片麻痺も呈し、1人の罹患した構成員は片頭痛を呈した9
  • CACNA1Aミスセンスバリアントを持つ1家系において、SCA6とFHMの両方の表現型が観察された10

EA=episodic ataxia(発作性運動失調症)

  1. Baloh et al [1997]
  2. ある研究では、CACNA1AのCAGリピート数が21以上である人の最大で33%までが、EA2の診断を正当化するほど顕著な挿間的特徴を有していた [Geschwind et al 1997a].CAGリピートが伸長したある家系では、幾人かは挿間的運動失調で、他の人は進行性運動失調を呈した。すべての罹患者において異常なアレルは23回のCAGリピートであった [Jodice et al 1997]。
  3. Cricchi et al [2007]
  4. Jodice et al [1997]
  5. これらの病的バリアントは、C末端の伸長したポリグルタミン鎖の核内転位によって作用するものではないため、異常なアレルによって引き起こされるカルシウムチャネルの機能障害によって疾患が発生すると推定される [Chen & Piedras-Renteria 2007, Kordasiewicz & Gomez 2007]。
  6. Yue et al [1997], Tonelli et al [2006], Cricchi et al [2007]
  7. FHMの2つの臨床型がある: (1) 純粋なFHM(罹患家系の80%にみられる)で、家族全員において発作間欠期の検査は正常である。(2)永続的な小脳症状を伴うFHM(罹患家系の20%に認められる)で、家族の一部が発作間欠期に眼振および/または運動失調を示すものである。
  8. 外傷をきっかけとした遅発性脳浮腫は、CACNA1Aのミスセンスバリアントp.Ser218Leuと関連している [Kors et al 2001]。
  9. Jen [1999]
  10. Alonso et al [2003]

CACNA1Aのヘテロ接合性の病的バリアントは、早期乳児てんかん性脳症との関連も知られている(OMIM 617106参照)。


鑑別診断

脊髄小脳失調症6型(SCA6)を持つ人は、遺伝性と後天性の運動失調の、より大きな鑑別診断の一部である、説明できない運動失調を呈するかもしれない(遺伝性運動失調症概説を参照)。

脊髄小脳失調症6型(SCA6)と他の遺伝性運動失調症との鑑別は難しく、しばしば不可能である(遺伝性運動失調症概説を参照)。また、鑑別診断にはパーキンソン病や後天的な小脳性運動失調の原因も含める必要がある。

SCA6に関連するCACNA1Aの病的バリアントは、成人発症の散発性進行性運動失調、多系統萎縮症(MSA)の鑑別診断に含まれるべきである。

表4 SCA1、SCA3およびSCA2を持つ人と比較した、表現型特徴を現すSCA6を持つ人の割合

表現型特徴 SCA2 SCA1 SCA3 SCA6
小脳機能障害 100% 100% 100% 100%
衝動性眼球運動の速度低下 71%-92% 50% 10% 0%-6%

ミオクローヌス

0%-40% 0% 4% 0%
ジストニアもしくは舞踏運動 0%-38% 20% 8% 0%-25%
錐体路病変 29%-31% 70% 70% 33%-44%
末梢神経障害 44%-94% 100% 80% 16%-44%
知的障害

31%-37%

20% 5% 0%

割合はGeschwind et al [1997a], Geschwind et al [1997b], Schöls et al [1997a],および Schöls et al [1997b]から修正された。


 

臨床的マネジメント

最初の診断に続いて行う評価

脊髄小脳失調症6型(SCA6)と診断された人の病気の程度とニーズを確認するために、表5にまとめた評価(診断に至った評価の一部として実施されていない場合)を推奨する。

表5.脊髄小脳失調症6型を持つ人における最初の診断後の推奨評価

系統/関心事 評価 コメント
神経学的 神経学的診察 進行度を評価するための評価尺度の年1回の使用も含む
脳MRI 小脳または他の構造の萎縮の程度を評価するために
嚥下造影検査 最も安全な行動と誤嚥を誘発しにくい食物の硬さを確認するために
理学療法の評価 転倒リスクの評価、歩行補助が必要かどうかの判断、および運動に関するアドバイスのために
眼科学的 眼科医を受診  
その他 臨床遺伝専門医および/または遺伝カウンセラーとの相談  
家族へのサポート/資源 患者やその家族は、自然歴、治療法、遺伝形式、他の家族構成員への遺伝的リスク、消費者の好みに合わせた情報源について知るべきである。

症状の治療

SCA6を持つ人のマネジメントは支持的である。

表6.脊髄小脳失調症6型を持つ人の症状の治療

症状/関心事

治療

考慮事項/その他

運動失調

アセタゾラミド

運動失調の発作をなくすことはできるが、全体的な進行を先延ばしにしたり、遅らせたりすることはできない。

物理療法学、リハビリテーション/PT/OT

  • 杖、ステッキ、歩行器は転倒防止に役立つ。
  • つかみ棒、補高便座、電動車椅子に対応したスロープなど、補助具を使った住宅の改修が必要な場合がある。
  • 重みのある食事用器具(訳者注:振戦に対して)およびリーチャー(dressing hooks)は、自立感を維持するのに役立つ。
  • 定期的な身体活動
  • PTとバランスと体幹を強化する運動

しかし、運動療法や理学療法では、協調運動障害や筋力低下の進行を食い止めることはできない。

栄養

ビタミン補給剤

特にカロリー摂取量が減少した場合

摂食療法士による推奨される栄養/OT

 

体重管理

肥満は、歩行や移動の困難を悪化させる可能性がある。

めまい/動揺視

ジフェンヒドラミン、バクロフェン、ガバペンチン

  • めまいや動揺視を軽減する
  • 前庭症状に対する4-アミノピリジンを支持する文献がある。1

複視

眼科医による屈折矯正または外科的管理

眼振の抑制に4-アミノピリジンを支持する文献がある。1

構音障害

言語療法

必要に応じて、(電子)筆記パッドやコンピュータを使った機器などのコミュニケーション機器を使用する。

レム睡眠行動障害

クロナゼパム

鎮静作用が朝の平衡障害を増加させない限り

睡眠時無呼吸

持続気道陽圧

 

OT=作業療法士/療法、PT=理学療法士/療法

  1. Jayabal et al [2016]

サーベイランス

表7.脊髄小脳失調症6型を持つ人に推奨されるサーベイランス

系統/懸念

評価

頻度

運動失調

神経学的な評価

6-12か月ごと

リハビリテーション医、並びに理学療法士および/または作業療法士の受診

12か月ごとに歩行補助具や住宅改修の必要性を検討する

栄養

  • 栄養面の評価
  • ビデオ食道造影法
  • 嚥下障害が問題になったときの摂食評価

必要に応じて(例えば、栄養状態や摂食状況の変化があった場合など)

複視

プリズムや手術のための眼科医および/またはオプトメトリストの評価

必要に応じて(例えば、他の介入策が失敗した場合など)

専門家による運転能力の評価

定期的に

避けるべき薬剤/状況

エタノールやある一定の薬物のような、鎮静/催眠の性状を持つ薬剤は、協調運動障害の顕著な増加を生じるかもしれない。

リスクのある血縁者の評価

遺伝カウンセリングの目的でリスクのある血縁者の検査に関連する問題については遺伝カウンセリングを参照。

妊娠の管理

この疾患は、妊孕性のある期間にはまれにしか現れないが、症候性の妊婦にとって、平衡異常を支持する手段は強化されるべきである。

研究中の治療

Gazulla & Tintore [2007]は、将来の可能性のある治療薬としてガバペンチンとプレガバリンを示唆している。
広い範囲の疾患と健康状態に対する臨床研究情報にアクセスするためには、米国のClinicalTrials.govおよび欧州のEU Clinical Trials Registerを検索のこと。注:この疾患における臨床試験はないかもしれない。

その他

振戦をコントロールする薬剤は、通常は小脳性振戦の軽減に効果がない。
カンナビジオール(CBD)への関心が高まっており、さらなる実証的な経験や臨床試験が必要である。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

脊髄小脳失調症6型(SCA6)は、常染色体顕性の遺伝形式をとる。

家族構成員のリスク

発端者の両親

発端者の同胞 

発端者の同胞のリスクは両親の遺伝的状態によって異なる。

発端者の子

他の家族構成員

他の家族構成員のリスクは、発端者の両親の遺伝的な状態に依存する:もし親がSCA6を引き起こすCACNA1Aアレルを持っていれば、その家族構成員はリスクを有する。

関連する遺伝カウンセリング上の諸事項

リスクのある個人

SCA6の発症年齢、重症度、特異的症状および進行は様々であり、家族歴や分子遺伝学的検査の結果で予測することはできない。

予測的な検査(すなわち、無症状でリスクのある人を対象にした検査)

未成年者の予測的な検査(すなわち、年齢が18歳未満で無症状のリスクのある人の検査)

SCA6の診断が確立している家系では、年齢に関係なく、症状のある人の検査を検討することが適切である。

見かけ上、新規の病的バリアントを持つ家系での検討事項.常染色体顕性遺伝疾患を持つ発端者の両親のどちらもが、発端者に同定された病的バリアントを持たないか、もしくは疾患の臨床的根拠を持たない時、その病的バリアントは新規の可能性がある。しかしながら、生物学的父親や母親が異なる場合(例えば、生殖補助医療を伴う)と非公表の養子縁組を含む、医学的ではない説明も探索されうる。

家族計画

DNAバンキングとは、将来の使用の可能性のために(通常は白血球から抽出した)DNAを保存しておくことである。検査手法や、遺伝子、アレルバリアント、疾患への理解は将来向上する可能性があり、罹患者のDNAを保存しておくことは考慮されるべきである。

出生前検査および着床前遺伝学的検査

罹患した家族構成員にCACNA1AのCAGリピート伸長が確認されれば、SCA6の出生前検査や着床前遺伝学的検査が可能である。しかし、一般に、発症年齢、疾患の重症度、特異的症状および疾患の進行速度は様々であるため、分子遺伝学的検査で正確に予測することはできない。
出生前検査の使用に関して、特に早期診断ではなく、妊娠の終了を目的として検査が検討されている場合、医療関係職種間や家族内で見解の相違が存在することがある。ほとんどの施設では、出生前検査の使用は個人的な決定であると考えているが、これらの問題について議論することは有益であろう。


関連情報

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分子遺伝学

分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。

表A 脊髄小脳失調症6型 : 遺伝子とデータベース

遺伝子 染色体座位 タンパク質 Locus-Specific Databases(座位特異的データベース) HGMD ClinVar
CACNA1A 19p13​.13 Voltage-dependent P/Q-type calcium channel subunit alpha-1A Calcium channel, voltage-dependent, P/Q type, alpha 1A subunit (CACNA1A) @ LOVD CACNA1A CACNA1A

データは、以下の標準的な参考文献を編集したものである:HGNCによる遺伝子;OMIMによる染色体座位; UniProtによるタンパク質。リンクが提供されているデータベース(Locus Specific、HGMD、ClinVar)の記述については、ここをクリック。

表B. OMIM に登録されている脊髄小脳失調症6型(OMIMですべてを参照のこと)

183086 SPINOCEREBELLAR ATAXIA 6; SCA6
601011 CALCIUM CHANNEL, VOLTAGE-DEPENDENT, P/Q TYPE, ALPHA-1A SUBUNIT; CACNA1A

分子学的病因論

CACNA1Aは2つの別個のタンパク質アイソフォームをコードする。1つは、電位依存性P/Q型カルシウムチャネルの孔形成サブユニットとしての機能を果たすα1Aサブユニット(Greenberg [1997]に論評されている)であり、もう1つは核へ転位し、神経細胞に発現するいくつかの遺伝子の発現を高める作用の転写因子、α1ACTである [Du et al 2013]。α1A(いくつかのスプライス型)とα1ACTの両方とも、脊髄小脳失調症6型(SCA6)では伸長している多型のCAGリピートを有する。
P/Q型カルシウムチャネルは、主に神経細胞に存在する高電位で活性化するカルシウムチャネルで、小脳皮質の顆粒細胞とプルキンエ細胞で高いレベルで発現している。その主な役割は、シナプス伝達と考えられている。α1Aサブユニットは、長さが約2,400アミノ酸からなる膜糖タンパク質で、P/Q型電位依存性カルシウムチャネルの主要な孔形成サブユニットである。
CACNA1Aの3´末端の多型CAGリピートの発見は、α1A mRNAの新しい長いスプライス型の同定に関連した [Zhuchenko et al 1997]。長いスプライス型では、エクソン46の末端の付加的ヌクレオチドの組み入れが、終止コドンをなくし、翻訳フレーム内で多型のCAGリピートを含んだ、3´配列の付加された237のヌクレオチドを据える。CAGリピートはグルタミン残基鎖をコードし、野生型アレルは4から18のグルタミン残基の長さの範囲に及ぶ。
α1ACTタンパク質は、α1AサブユニットmRNAの長いスプライス型の3'部位内に別のタンパク質としてコードされている。α1ACTポリペプチドは、細胞の内部リボソーム進入部位の制御下で、α1A mRNAから別個のタンパク質として翻訳される。α1ACTは、核に転位し、プルキンエ細胞で発現するいくつかの遺伝子上の保存されたATリッチモチーフを介して結合し、発現を増強する転写タンパク質である。α1Aサブユニットなしでα1ACTをα1Aノックアウトマウスで発現させると、培養神経細胞の神経突起伸長を促進し、プルキンエ細胞の樹状突起および神経支配を正常化する。α1ACTポリペプチドは多型のポリグルタミン鎖を持つ[Du et al 2013, Du et al 2019]。
CACNA1A内の伸長したCAGリピートは、α1Aサブユニットとα1ACTタンパク質の両方の長いスプライス型のカルボキシ末端に存在する伸長したポリグルタミン鎖をコードする [Zhuchenko et al 1997]。
 
疾患原因の機序

P/Qチャネル機能上の、伸長したポリグルタミン鎖の一貫した効果はないが、ポリグルタミンの伸長は遺伝子結合を変化させ、転写因子機能を損ない、α1ACTを発現する細胞に有毒である。
効果は機能喪失に一致する。

CACNA1A特有の実験室の技術的な考慮事項.

SCA6のDNAおよびタンパク質のバリアントに関する特定の命名法、およびその他のリピート伸長による疾患は、こちらで見られる。


更新履歴:

  1. Gene Reviews著者: Christopher M Gomez, MD, PhD
    日本語訳者: 藤田裕子、升野光雄、山内泰子、黒木良和(川崎医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 遺伝カウンセリングコース)
    Gene Reviews 最終更新日: 2013.7.18 日本語訳最終更新日: 2018.11.14
  2. Gene Reviews著者: Hannah L Casey, BS and Christopher M Gomez, MD, PhD
    日本語訳者:寺川千晴、升野光雄、山内泰子(川崎医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 遺伝カウンセリングコース)
    GeneReviews最終更新日: 2019.11.21.  日本語訳最終更新日:  2023.11.20.[in present]

原文: Spinocerebellar Ataxia Type 6

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