Gene Review著者: Ming Hui Chen, MD, MSc and Christopher A Walsh, MD, PhD.
日本語訳者: 清水 日智(社会福祉法人恩賜財団済生会支部済生会長崎病院
Gene Review 最終更新日: 2015.9.17. 日本語訳最終更新日: 2020.11.19.
原文 FLNA-Related Periventricular Nodular Heterotopia
要約
疾患の特徴
FLNA関連脳室周囲結節状 (結節性) 異所性灰白質 (PVNH: Periventricular Nodular Heterotopia) は神経細胞の遊走障害により生じ、側脳室表面に沿った異所性、石灰化を伴わない神経細胞結節が特徴である。この疾患は、ヘテロ接合性の女性に多く認められ、男性は早期に致死的となることが多い。女性は平均14~15歳でけいれん発作を発症する。知能は正常から境界域までの範囲で幅がある。心血管疾患、脳卒中、およびその他の血管障害、凝固機能障害のリスクは増加するようである。
診断・検査
FLNA関連PVNHの診断は以下の同定により確立される:
臨床的マネジメント
症状に応じた治療:
てんかんの治療は、一般に、既知の脳構造異常によって引き起こされるてんかん発作の治療原則に従う。抗てんかん薬は通常、特定の属性 (例えば、妊娠中の催奇形性のリスク、忍容性、有効性) に基づいて選択される。大動脈または頸動脈解離のリスクが存在するため、良好な血圧コントロールを保つことは賢明であろう。大動脈解離や頸動脈解離、先天性心疾患、弁膜症などに対しては標準的な治療を行う。
サーベイランス:
FLNAに関連した心血管系病変のスクリーニングのためには、心エコー検査および心臓MRIが使用されることがある。先天性心疾患、心臓弁膜症、および上行大動脈の拡張の有無に特別な注意を払う必要がある。
リスクのある血縁者の評価 神経学的に無症状な人の血管疾患のリスクを考えると、治療や予防措置を開始することで利益を得ることができる人をできるだけ早期に特定するために、リスクの高い高齢者および若年者の親族を評価することが適切である。
妊娠管理:
妊娠中の抗けいれん薬使用に伴う胎児への催奇形性のリスクは、使用する抗けいれん薬の種類、用量、胎児の週数によっても異なる。現在までのところ、妊婦に対する心臓病変、血管病変、結合組織の問題についての最適なサーベイランスおよび管理に関するガイドラインは存在しない。
遺伝カウンセリング
FLNA関連PVNHはX連鎖性の遺伝形式を取る。この疾患は、ほとんどの男性では胎児期または新生児期に致死的となる。したがって、罹患者の大部分は女性である。罹患した女性の約50%は母親から病原性バリアントを受け継いでおり、少なくとも50%は新生の (de novo) 病原性バリアントを有している。FLNA関連PVNHを持つ女性の場合、子供のそれぞれに病原性バリアントを引き継ぐリスクは50%である。男性は周産期死亡率が高いため、FLNA関連PVNHに罹患した女性から生まれたほとんどの男児は罹患していない。[訳注:米国においては] 分子遺伝学的検査による出生前診断は、罹患した親族で病原性バリアントが同定されている場合には可能である。脳室周囲の結節状病変は、妊娠24週の時点で画像検査により可視化できるが、PVNHの出生前診断のための画像検査の感度は不明である。
診断
臨床診断
疑うべき所見
以下の臨床所見、神経画像検査所見、家族歴を有する患者に対して、FLNA関連脳室周囲結節状異所性灰白質 (PVNH: Periventricular Nodular Heterotopia) を疑うべきである。
臨床所見 臨床所見は診断的なものではない。罹患者は、通常、てんかん発作を起こし、知的機能は正常である。
神経画像検査所見 経験豊富な神経放射線科医による神経画像検査では、以下のことが明らかとなる:
注:CTではMRIのように脳の構造をはっきりと見ることができないため、CT画像では異常所見を見逃すことがある。
図1.
FLNAのヘテロ接合性病原性バリアントを有する患者におけるPVNHの解剖学的所見。頭部MRIでは特徴的な脳室周囲の結節状異所性灰白質が認められる。
家族歴 男性が致死的となっているX連鎖遺伝形式と合致する家族歴は強く示唆される。
診断の確立
女性発端者
FLNA関連PVNHの診断は、特徴的な頭部MRI所見と分子遺伝学的検査によるFLNAのヘテロ接合性病原性バリアントの同定により、女性の発端者において診断が確立される (表1を参照)。
男性発端者
通常、男性の罹患者は致死的である。しかしながら、頭部MRIの特徴的な所見を認めることと、分子遺伝学的検査によりFLNAのヘミ接合性の病原性バリアントが同定されることによって (表1を参照)、男性の発端者においてFLNA関連PVNHの診断が確立される。
分子遺伝学的検査のアプローチには、単一遺伝子検査もしくはマルチ遺伝子パネル (multigene panel) の使用がある。
マルチ遺伝子パネルの詳細については、こちらを参照のこと。遺伝子検査をオーダーする臨床医のためのより詳細な情報は、ここをクリックのこと。
表1.
FLNA関連脳室周囲結節状異所性灰白質に用いられる分子遺伝学的検査
遺伝子 1 | 検査手法 | 各検査手法によって、病原性変異が発端者において同定される割合2 |
---|---|---|
FLNA | シーケンス解析 3,4 | 93% 5,6 |
標的遺伝子における欠失/重複解析 (deletion/duplication analysis ) 7 |
3/338 |
臨床所見
FLNA関連脳室周囲結節状異所性灰白質 (PVNH: Periventricular Nodular Heterotopia) は、ほとんどの男性は、胎生致死ないし新生児致死となる。すなわち、患者のほとんどは女性である。
以下の臨床的特徴がFLNA関連PVNHにみられる。
てんかん発作
FLNA関連PVNHと診断された患者の約88%が、てんかん発作を有している [Guerrini & Carrozzo 2001]。発症年齢は生後1年以内の場合もあるが、一般的には小児期に発症することが多い。てんかん発作の重症度は、軽度 (頻度が低く、抗てんかん薬を必要とせずに寛解する) から難治性発作まで様々である。
放射線画像検査でみられる結節状異所性灰白質の程度や重症度と、臨床症状との間には相関関係がない。異所性灰白質は異常な神経細胞活動の病巣となる。解剖学的研究では、脳室周囲異所性灰白質から伸びる異常な突起が示されている。深部電極による記録からは、これらの結節からのてんかん原性発射の存在を証明している [Kothare et al 1998]。このように、てんかん発作はほとんどの患者において、異所性灰白質から生じているようである。
心血管系の所見 過去10年の間に、FLNA関連PVNHを有する患者においていくつかの重篤な心血管系の異常が報告されている。最も重要な異常は、胸部大動脈拡張または動脈瘤形成であり、突然の大動脈破裂または大動脈解離につながる可能性がある [Feng & Walsh 2004]。
PVNH患者のコホートにおける心血管系の病変を解析した研究では、FLNAのヘテロ接合性 (女性) またはヘミ接合性 (男性) の病原性バリアントを持つ6名のうち5名が1つ以上の心臓病変を有していた。病変には、動脈管開存症、胸部大動脈瘤、心房中隔欠損、心室中隔欠損、僧帽弁および大動脈弁の異形成などがあった [de Wit et al 2011] (分子病態を参照)。
5名の男性がFLNA関連PVNHを有する1家系を対象とした研究では、5名の男児のうち4名が1つ以上の心血管疾患 (動脈管開存症が2名、心房中隔欠損症が1名、僧帽弁異形成が2名) の診断を受けており、FLNA関連PVNHを有するすべての男性が周産期に死亡するわけではないことが明らかとなった [Oegema et al 2013]。
FLNA関連PVNHの中には、古典型のエーラス・ダンロス症候群 (classic Ehlers-Danlos syndrome) に見られるものと同様の結合組織や血管の異常を示す患者もいる [Sheen et al 2005]。FLNAの病原性バリアントに関連した血管および結合組織の異常に関する最近の総説では、患者11名中10名に1つ以上の先天性の心臓または血管の異常が認められた。この研究では、胸部大動脈瘤が最も頻度の高い病変として挙げられたが、これは致死的となりうる可能性を考えると重要な所見である [Reinstein et al 2013]。異常には他に、関節過動性 (hyper mobility; 関節可動性亢進)、大動脈拡張およびその他の血管系の異常、脳の結節状異所性灰白質がある。近年では、エーラス・ダンロス型PVNHは、FLNAの病原性バリアントによって引き起こされるX連鎖性PVNHの一種であろうと考えられている [Reinstein et al 2013]。
肺所見 FLNA関連PVNHを有する患者に肺疾患が合併する症例がいくつか報告されている。男女ともに、1歳前に心肺不全を呈した症例も報告されている。きちんとは定義されていない、気管支肺異形成症に類似している、この呼吸器疾患の重症度は、幼い子供たちのうち何名かに肺移植を必要とするほどである [Masurel-Paulet et al 2011, Clapham et al 2012, Lord et al 2014]。
その他 FLNA関連PVNH患者において認められるその他の臨床所見には、胃運動不全(1/11)、斜視 (2/11)、および短指症 (1/11) があった。
注:最初の報告では2名の患者において繰り返す感染症罹患を伴う免疫不全が報告されているが、他の患者では免疫不全は認められておらず、PVNHとの関連は不明である。
知能は正常から境界域である。FLNAの病原性バリアントを持つ12名の患者を対象とした公式な認知検査では、平均IQは95であったが、失読症を有する患者が非常に多かった [Chang et al 2005, Chang et al 2007]。
FLNA関連PVNHを有する女性は、罹患した男児を自然流産する結果として、妊娠損失の発生率が上昇する可能性がある。
男性罹患者 既報のヘミ接合性FLNA 病原性バリアントを有する 2 名の弧発例の男性 (simplex males: PVNH の家族歴のない罹患男性) がてんかん発作を呈した。そのうちの1名は36歳で突然の大動脈破裂により死亡した [Sheen et al 2001]。
別の5名の男性は、生後5日から5ヵ月の間に突然、予期せず死亡した。すなわち、これらの男性の死亡は、心血管系もしくは血球系の突然の破綻により生じたとして矛盾はしなかったが、実際の死因は不明であった [Parrini et al 2004, Parrini et al 2006]。
ヘミ接合性FLNA完全機能喪失型バリアントを持つ1名の罹患男性もまた、圧倒的なほどの出血症状を呈し、骨髄における骨髄球および赤血球の発育が停止していた [Huttenlocher et al 1994]。
2名の罹患した二卵性双生児の男性が報告されており、1名は早期に死亡し、もう1名は知的障害を呈したがてんかんは発症しなかった [Gérard-Blanluet et al 2006]。
モザイク イントロン11のスプライスアクセプター部位にA>G置換を有する体細胞モザイクの症例が、Parriniら [2004] により、両側性のPVNHを有する男性において報告された。複数の毛根、単一の毛根、および白血球より抽出したゲノムDNAのシーケンス解析と変性高速液体クロマトグラフィー検査を行ったところ、毛髪および血液のサンプルのうち、それぞれ42%および69%のみがこの病原性バリアントを有していた。さらに、罹患した男性の娘には、男性の表現型の原因と考えられるこの病原性バリアントは遺伝していなかった。他の体細胞性病原性バリアントについても近年報告されている [Jamuar et al 2014]。
注:ウエスト症候群/ヒプスアリスミアを有する3名の罹患した兄弟例は、当初、ヘミ接合性FLNA病原性バリアントを持つと報告されたが[Masruha et al 2006]、この報告された配列変異は、その後、まれな多型であろうと考えられた [Robertson 2006]。
遺伝型と表現型の相関
ヘテロ接合性 (女性) またはヘミ接合性 (男性) のFLNA病原性バリアントを有することが判明している者は、無症状の者を含めて、異所性灰白質が脳MRIまたはCTによって同定される [Fox et al 1998, Poussaint et al 2000, Sheen et al 2001, Moro et al 2002]。
遺伝型と表現型の相関性を示すより多くの研究が必要とされてはいるが、病原性を有する短縮型バリアントはN末端付近に集積する傾向があり、おそらく重度の機能喪失およびより重度の表現型 (男性の致死) につながると考えられる。病原性ミスセンス変異はFLNA遺伝子の全体に見られ、これらの病原性バリアントを持つ男性は正期産まで生存することができるため、幾名かは、より穏やかな表現型を持つようである。おそらく、これらのより軽い病原性バリアントは、部分的には機能が残存するタンパク質の合成につながると考えられる[Sheen et al 2001]。
ヘミ接合性の病原性FLNAスプライスバリアントは、PVNH、顔面異形症、および重度の便秘症と関連している [Hehr et al 2006]。
浸透率
浸透性は不明である。既知の病的な機能喪失型FLNAバリアントを有するすべての罹患者は、脳室周囲結節状異所性灰白質が認められる。
他の名称
よく使用される用語には、脳室周囲異所性灰白質 (PVHまたはPH: periventricular heterotopia) または脳室周囲結節状 (結節性) 異所性灰白質 (PNHまたはPVNH: periventricular nodular heterotopia) がある。
有病率
PVNHの有病率は、軽度の表現型を持つ人が医学的な評価を受けないことがあるため、算定が困難である。
耳口蓋指症候群 (Otopalatodigital spectrum disorders) FLNAにおける病原性バリアントに関連する他の4つの表現型は、主に骨格の異形成によって特徴づけられ、耳口蓋指症候群と呼ばれている [Robertson et al 2003]。耳口蓋指症候群には以下が含まれる:
男性では、OPD1にみられる軽度の発現から、FMDおよびOPD2でみられるより重度の表現型まで、様々な重症度をとる。MNSを有する男性では周産期致死となることが最も一般的である。女性においては多様な表現型を示す。OPD1では、ほとんどの症状は出生時からみられ、女性は罹患した男性と同様の重症度を示すことがあるが、一部の女性においては軽度の症状しか呈さないこともある。OPD2およびFMDでは、女性における疾患重症度は、罹患した男性よりも軽度である。OPD2を有する男性のほとんどは生後1年以内に死亡するが、通常は呼吸不全をもたらす胸郭低形成が原因となる。生後1年を超えて生存した男性では、通常、発達遅滞を伴い、摂食や呼吸のサポートが必要である。FMDでは、男性は骨格異形成の進行は認められないものの、関節拘縮、脊柱側弯症、および手足の奇形を認めることがある。MNSでは、幅広い表現型が認められる。すなわち、成人期になってから診断される患者もいれば、人工呼吸器補助を必要とし、生存期間が短縮する患者もいる。
脳室周囲結節状異所性灰白質においては、通常、これらの表現型は認められず、これらの表現型に関連するFLNAの病原性バリアントは機能獲得につながるものと考えられている。一方で、機能喪失型のFLNA病原性バリアントでは、脳における異所性灰白質が形成される可能性が高い。
X連鎖性心臓弁膜症 (XCVD: X-linked cardiac valvular dystrophy) 男性では、FLNAにおけるヘミ接合性の病原性変異が弁膜形成不全に関与しており、最も典型的には、僧帽弁逸脱症を引き起こす。4つの心臓弁すべてにおいて形成不全が確認されている [Bernstein et al 2011, Aalberts et al 2014]。ヘテロ接合性に変異をもつ女性では、典型的には弁膜症はみられない。
家族性または非家族性の脳室周囲結節状異所性灰白質 (PVNH: periventricular nodular heterotopia) が、FLNAの病原性バリアントを認めない男性・女性でも頻繁に認められることは、複数の原因によって生じる疾患であることを示唆している.
古典的両側性PVNHを有する120名の女性のうち、弧発例の (simplex ; すなわち、PVNHの家族歴がない) 女性31名 (26%) は、FLNAにおけるヘテロ接合性病原性バリアントが同定された。全体として、Parriniら [2006] は、古典的両側性PVNHを有する患者においてFLNAの病原性バリアントが同定される確率は49%であり、別の表現型 (例えば、多少脳回、小頭症など) を有する患者においてFLNAの病原性バリアントが同定される確率は4%であることを明らかにした。
脳室周囲結節状異所性灰白質は、以下の症候群にも認められる (これらの各症候群が真に別個の疾患であるのか、FLNA関連PVNHに合併するものであるのかは、まだ決定されていない)。
X連鎖性皮質下帯状異所性灰白質 (X-linked subcortical band heterotopia) では、深部白質に生じる層状の異所性灰白質と、大脳皮質と脳室表面の間に生じる帯状の異所性灰白質がみられる。
PVNHははじめ、結節性硬化症 (tuberous sclerosis complex) と誤診されることがあるが、MRI所見で2つの疾患は区別可能である。
初期診断後の評価
FLNA関連脳室周囲結節状異所性灰白質 (PVNH: Periventricular Nodular Heterotopia)と診断された患者の疾患の重症度と患者のニーズを判定するために、以下の評価を行うことが推奨される。
合併症の治療
FLNA関連PVNHを有する患者の管理は、対症療法となる。
てんかんの治療は一般的に、既知の脳の構造的異常に起因するてんかん発作治療の基本原則に従う。以下が含まれる:
検査で新たな神経学的所見が認められた場合にのみ、画像検査を繰り返し行う必要がある。
大動脈・頸動脈解離のリスクがあるため、良好な血圧コントロールを確保することも賢明であろう。
大動脈・頸動脈解離、先天性心疾患、弁膜症に対する治療は一般的に行われる治療と同一である。
脳室周囲結節状異所性灰白質 (PVNH) を持つ患者の多くは失読症を伴っている。したがって、PVNHの家族歴がある者に対しては、幼少期に失読症の検査を受けることが適切であろう。
二次合併症の予防
二次的な合併症は、抗てんかん薬の長期使用に関連したものである。
サーベイランス
VNHでは大動脈または頸動脈解離の発症率が高くなるため、心エコー検査や心臓MRIによるスクリーニングを行うべきである。現在のところ、決定的なガイドラインを示すには十分なデータが存在していない。しかし、このような合併症が成人期早期に発生していることを踏まえると、初回は思春期後期に評価を行い、必要に応じてフォローアップを行うことが妥当である。結合組織所見と典型的なPVNHを有する患者に対しては、循環器的評価を行うことが堅実であろう。
リスクのある血縁者の評価
神経学的に無症状の患者においても血管疾患のリスクがあることを考慮すると、治療および予防を開始することにより利益を得ることができる人をできるだけ早期に特定するため、罹患者の血縁者のうち、高齢者および若年者でリスクが高い人の評価を行うことが望ましい。
遺伝子カウンセリングを目的としたリスクのある血縁者の検査に関する問題については、遺伝カウンセリングを参照のこと。
妊娠管理
理想的には、妊娠中の抗けいれん薬の服用に関連した胎児へのリスクについて、妊娠前に情報が得られるべきであり、(必要な場合は) 妊娠前に抗けいれん薬の変更ができるようにすべきである。妊娠前に行われなかった場合には、妊娠が確認されたらすぐに、妊娠中の抗けいれん薬の使用のリスクと利点についての話し合いが行われるべきである。妊娠中の抗けいれん薬の使用に関連した胎児への催奇形性のリスクは、使用する抗けいれん薬の種類、用量、胎児の在胎週数によって異なる。
現在のところ、PVNHを有する女性における、妊娠中の心臓病変、血管病変、結合組織の問題に対する最適なサーベイランスおよび管理に関するガイドラインは存在しない。妊娠中の管理に関する推奨事項となりうることについては、マルファン症候群 (Marfan syndrome ) および古典的なエーラス・ダンロス症候群 (classic Ehlers-Danlos syndrome) を参照のこと。
今後の導入が検討されている治療法
米国のClinicalTrials.govと欧州の EU Clinical Trials Registerを検索することで、幅広い疾患や症状の臨床試験に関する情報にアクセス可能である。注:この疾患に関する臨床試験が存在しない可能性もある。
その他
外科的切除が試みられているが、有効性は証明されていない [Li et al 1997]。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
FLNA関連脳室周囲結節状異所性灰白質 (PVNH: Periventricular Nodular Heterotopia) はX連鎖性遺伝形式をとる。
血縁者のリスク
女性発端者の両親
男性発端者の両親
発端者の同胞 (兄弟姉妹)
女性発端者の子
男性発端者の子
発端者の他の血縁者
発端者の母方叔母/伯母はFLNA病原性バリアントを受け継いでいるリスクがあり、叔母/伯母の子供は性別によっては病原性バリアントを受け継いでいるリスクがあり、罹患している可能性がある。
注:分子遺伝学的検査により、家系において新生 (de novo) 病原性バリアントが発生した者を特定できるかもしれない。この情報は、家系内の遺伝的リスクの状態を決定するために役立つ。
遺伝カウンセリングに関連した問題
早期診断および早期治療を目的としたリスクのある血縁者の評価に関する情報については、管理、リスクのある血縁者の評価の項目を参照のこと。
家族計画
遺伝的異質性 (genetic heterogeneity) PVNHの遺伝的異質性を示す文献が存在するため、PVNHを有する女性においてこの疾患の家族歴が知られていない場合には、未確認の別の遺伝子に病原性バリアントを有している可能性があり、常染色体劣性遺伝形式を取るPVNHである可能性があることから、女性患者は子孫が罹患するリスクが低くなる可能性があることの情報提供を受けるべきである。
DNAバンク
DNAバンクとは、将来使用する可能性を考慮し、DNA (通常は白血球から抽出されたもの) を保管することである。検査の手法や、遺伝子に対する理解、アレル変異に対する理解、疾患についての理解は将来的に向上すると思われるため、患者由来DNAをバンク化することを検討するべきである。
出生前検査および着床前遺伝子検査
分子遺伝学的検査 (訳注:米国においては) 家系の中で罹患者にFLNAの病原性バリアントが確認された場合、リスクの高い妊娠のための出生前検査 (prenatal testing ) や着床前遺伝子検査 (preimplantation genetic testing ) が可能となる。
超音波検査
胎児超音波検査は、妊娠後期までの脳室周囲結節状異所性灰白質 (PVNH)の検出には比較的感度が低い。PVNHは、妊娠24週の時点で胎児超音波検査やMRIで検出されることがある。胎児MRIは、胎児の動きを抑えるための鎮静を必要としないように、超高速MRIを使用して一部の施設で行われている。PVNHを検出するための出生前画像検査の感度は不明である。脳室周囲状異所性灰白質が画像検査によって妊娠初期にも検出されるかどうかは不明である。
注:妊娠期間は、最終月経の初日から計算した月経後胎齢、または超音波による測定値から決定される。
GeneReviews のスタッフは、本疾患を持つ患者とその家族のために、疾患特異的または包括的な支援を行う組織やレジストリーを、以下の通り抽出した。他の組織が提供する情報について、GeneReviewsが責任を負うものではない。選定基準については こちらを参照のこと。
Canada
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Molecular GeneticsおよびOMIMの表の情報は、GeneReviewの表の情報とは異なる場合がある。すなわち、GeneReviewの表にはより新しい情報が含まれている場合がある。-編集者。
表A.
FLNA関連脳室周囲結節状異所性灰白質 (PVNH: Periventricular Nodular Heterotopia): 遺伝子とデータベース
遺伝子名 | 染色体座 | タンパク質 | 遺伝子座特異的データベース | HGMD | ClinVar |
---|---|---|---|---|---|
FLNA | Xq28 | フィラミンA (Filamin-A) | FLNA @ LOVD | FLNA | FLNA |
データは以下の標準的な参照サイトより収載した:遺伝子はHGNCから、染色体遺伝子座はOMIMから、タンパク質は UniProtから。リンク先のデータベース(Locus Specific, HGMD, ClinVar)の説明はこちらを参照のこと。
表B.
FLNA関連脳室周囲結節状異所性灰白質 (PVNH: Periventricular Nodular Heterotopia)に関連するOMIM項目 (OMIMで全てを見る)
300017 | フィラミンA; FILAMIN A; FLNA |
300049 | 脳室周囲結節状異所性灰白質1; PERIVENTRICULAR NODULAR HETEROTOPIA 1; PVNH1 |
分子病態
アクチン結合タンパク質のフィラミンは、様々な生態系において、細胞の安定性、細胞の突出、および細胞の運動を制御することが知られている [Ott et al 1998, Leonardi et al 2000, Stahlhut & van Deurs 2000]。フィラミンを欠損したメラノサイトでは、フィラミンを発現している細胞では遊走を誘発する因子に対して、応答し運動を行うことができなくなる。これらの細胞は、おそらくナトリウムチャネル活性の異常な調節に起因すると考えられる、持続的な全周性の突起物形成 (blebbing; ブレブ形成)、異常な貪食、および細胞サイズ調節の障害を示した。これらの結果から、FLNAは、細胞接着や神経細胞移動に関与しているインテグリン [Meyer et al 1997, Loo et al 1998, Dulabon et al 2000] と同様の影響を、中枢神経系の皮質形成期のニューロブラストの遊走に与えている可能性が示唆されている。最近の研究では、PVNHを引き起こす遺伝子変異は、細胞接着に関わるタンパク質の輸送に必要な小胞輸送に関連していることが示唆されている [Ferland et al 2009]。このプロセスの障害は、おそらく脳室周囲結節状異所性灰白質の形成につながると考えられている。
遺伝子の構造
FLNAは48個のエクソンから構成される (参照配列 NM_001110556.1)。遺伝子およびタンパク質に関する情報の詳細な要約については、表A 遺伝子を参照のこと。
病原性バリアント
これまでに同定されたFLNAの病原性バリアントは、一般に、機能喪失が想定される一塩基バリアントまたは欠失であった。弧発例 (simplex ; すなわち、家系内で他の罹患者が居ない) である各家系または患者個人には、他とは異なる特徴的な病原性バリアントが存在していた[Sheen et al 2001]。
正常な遺伝子産物
フィラミンAは、膜受容体とアクチン細胞骨格を連結し、シグナル伝達と細胞骨格の間の潜在的に重要な連携を務める、大きな (280 kDa) 細胞質アクチン結合リン酸化タンパク質をコードしている。このタンパク質は、N末端のアクチン結合ドメイン、2つのヒンジ領域 (hinge regions) で分断される免疫グロブリン様ドメイン (Ig-like domains) と類似した23個の繰り返し配列 (23 repeats) から構成される棒状構造 (rod-like structure)、および二量体化して膜受容体に結合する短縮したC末端の繰り返し配列 (a truncated C-terminal repeat) から構成されている。トランスクリプトバリアントNM_001110556.1 によってコードされるタンパク質アイソフォームの参照配列はNP_001104026.1である。
異常な遺伝子産物
FLNAにおける40種類以上の病原性バリアントは、タンパク質の短縮型 (truncating) バリアントまたはスプライスバリアントであり、重度の機能喪失をもたらすことが予測されている [Walsh & Engle 2010]。十数種類のFLNAミスセンスバリアントがPVNHと関連しており、さらに別の十数種類のミスセンスバリアントが他のFLNA関連疾患と関連している。短縮型バリアントは、タンパク質全体のいずれの場所にも生じうる。全てではないが、PVNHに関連するミスセンスバリアントの多くは、FNHのN末端アクチン結合ドメインに認める。軽度から中等度のバリアント、すなわちミスセンスバリアントまたはC末端付近での短縮型バリアントのどちらかであれは、女性ではより軽い臨床表現型を持つことがあり、このため診断されずに済むこともある。逆に、男性では、重度から中等度の機能喪失は胎児の生存能力の喪失につながることとなり、生き残った男性では部分的な機能喪失型バリアントのみが検出されている [Sheen et al 2001, Moro et al 2002]。
マウスモデル
Flnaノックアウトマウスでは、左室流出路、心房、心室、心臓の大血管の先天的な異常を含む、心臓と血管系の異常な発生が胎生学的に示された。また、Flnaノックアウトマウスの血管系には、粗い血管、拡張した血管、異常に分岐した血管が見られた。さらに、血管には異常な接着結合や細胞間の異常な接触が認められた [Feng et al 2006]。