PIK3CA関連過成長スペクトラム
(PIK3CA-Related Overgrowth Spectrum)

[Synonyms:PROS]

Gene Reviews著者: Ghayda Mirzaa, MD, FAAP, FACMG, John M Graham, Jr, MD, ScD, and Kim Keppler-Noreuil, MD, FAAP, FACMG.
日本語訳者:佐藤康守(たい矯正歯科)、櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)

GeneReviews最終更新日: 2023.4.6.  日本語訳最終更新日:  2023.12.15.

原文: PIK3CA-Related Overgrowth Spectrum


要約


疾患の特徴

PIK3CA関連過成長スペクトラム(PROS)の臨床所見には広い幅がみられ、その中核となる症候は、先天性あるいは幼児期に発症する分節型/局所性の過成長で、これに細胞異形成が伴う場合と伴わない場合がある。原因遺伝子としてPIK3CAが同定される以前、PROSは、病変の現れる組織/器官に従って、複数の別個の症候群に分けられていた(例えば、巨脳症-毛細血管奇形症候群[MCAP症候群;megalencephaly-capillary malformation syndrome]やCLOVES症候群[congenital lipomatous asymmetric overgrowth of the trunk, lymphatic, capillary, venous, and combined-type vascular malformations, epidermal nevi, skeletal and spinal anomalies syndrome])。過成長の生じやすい部位は、脳、四肢(指趾を含む)、体幹(腹部・胸部を含む)、顔で、いずれの部位も分布はふつう非対称的である。脳の特定の構造に続発性の過成長が生じると同時に脳全体にも過成長が生じ、脳室拡大、脳梁の厚みの顕著な増大、後頭蓋窩の重積を伴う異所性小脳扁桃といったものに至る場合がある。脈管奇形としては、毛細血管奇形、静脈奇形、それより低頻度ながら動脈奇形、混合(毛細血管-リンパ管-静脈もしくは動静脈)奇形などがある。リンパ管奇形の部位はさまざまで(深在性,表在性)、腫脹、疼痛、そして時には外傷に伴う二次性の局所出血など、さまざまな臨床的問題を引き起こすことがある。脂肪腫性過成長が存在する場合、それは脈管奇形と同側に生じることもあれば、反対側に生じることもある。知的障害の程度は、多くの場合、癲癇発作、皮質形成異常(例えば、多小脳回)、水頭症の存否ならびにその程度と関連している模様である。子どもの多くに摂食障害がみられるが、これは多因子性であることが多い。一部には内分泌の問題を有する罹患者もみられ、最も多くみられるのは、低血糖(主として低インスリン血症性低ケトン性低血糖)、甲状腺機能低下、成長ホルモン分泌不全である。

診断・検査

発端者におけるPROSの診断は、これを示唆する所見を有することに加え、PIK3CAにヘテロ接合性でモザイク(まれに非モザイクの場合あり)、機能獲得型の病的バリアントが同定されることをもって確定する。遺伝学的検査にあたっては、病変組織のサンプル(できれば、病変部直上の新鮮皮膚検体,外科的に切除した過成長組織,皮膚線維芽細胞その他の非培養組織)を用いたDNAの配列解析を優先させるべきである。体細胞バリアントの検出のためには、PIK3CAのコーディング領域全体のターゲットキャプチャーを行った後、シーケンス深度を大幅に高めて次世代シーケンサーにかけるというやり方が推奨される。こうすることで、遺伝子全体にわたって極低レベルモザイクの検出が可能となる。

臨床的マネジメント

治療 ― 標的療法
2歳以上18歳未満のPROS罹患者には、アルペリシブ(VIJOICE®)50mgを1日1回、食餌とともに毎日ほぼ同じ時間帯に経口投与する。6歳以上の例については、24週間経過後は、用量を1日1回125mgまで増やすことができる。18歳以上の例については、1日1回、毎日ほぼ同じ時間帯に、食餌とともに開始用量250mgの経口投与が承認されている。
アルペリシブは、過成長、血管病変、その他の機能的合併症の軽減に特化した形で承認がなされている。今のところ、本薬がPROSにおける神経症候(例えば、MCAP症候群でみられるようなもの)の治療に有効かどうかは不明である。

治療 ― 支持療法
重度あるいは脂肪腫性の過成長に対しては減量術、脊柱側彎や脚長差には整形外科的ケアと外科的介入が必要な場合がある。神経学的合併症(例えば、閉塞性水頭症、頭蓋内圧亢進、進行性ないし症状を伴う異所性小脳扁桃ないしChiari奇形、脳の過成長/奇形を伴う例における癲癇発作)がみられる場合は、脳神経外科的介入を要することもある。脈管奇形のタイプによっては、硬化療法、レーザー療法、シロリムスの経口投与といったことが行われることがある。同様に、リンパ管奇形については、内服薬あるいは減量術(できれば血管奇形チームの手で)を慎重に行う形での治療が行われることになろう。疼痛を伴う例については、疼痛の根源を評価し、背景にある原因に対する治療が推奨される。成長ホルモン分泌不全を伴う例については、視床下部-下垂体-副腎軸の評価が必要となり、線的成長と過成長のモニタリングを慎重に行いつつ、成長ホルモン治療を試みることも検討対象になろう。
これまでに重度の持続性低血糖の報告がみられ、そうした場合は評価やコーンスターチ投与をはじめとする継続的治療が必要となる。心臓・腎臓の異常、知的障害と行動の問題、多指趾と足の変形、凝固障害あるいは血栓症、Wilms腫瘍、甲状腺機能低下などがみられる場合は、それぞれに対する通常の治療が必要となる。

定期的追跡評価
来院ごとに行うべきこととしては、頭囲・腕・手・下肢・足などの成長パラメーターの測定、新たな神経学的症候(癲癇発作,筋緊張の変化,Chiari奇形のその他の徴候/症候)に関する評価、発達の進行状況や行動に関するモニタリング、運動技能の評価、脊柱側彎に関する臨床的評価、臓器肥大や腹部腫瘤を調べる腹部の診査などがある。最初の評価時点でみられた所見の重症度、ならびに脳の成熟度に応じた間隔で、頭部MRIを連続的に撮影していくことが推奨される。中枢神経系の過成長あるいは異形成を有する例については、進行性の水頭症とChiari奇形に特化したモニタリングを目的として、2歳までは6ヵ月ごと、その後、8歳までは年に1度、脳のMRIを撮影する。臨床的必要性に応じて行うものとしては、何らかの血管/リンパ管奇形がみられないかを調べる評価とモニタリング、肢または肢の一部の過成長を呈する例については四肢のX線写真撮影、体幹の過成長を有する例については超音波あるいはMRIによるフォローアップ、脊柱側彎あるいは脊椎に影響を及ぼす変形をもつ例については脊髄のMRI、持続性低血糖の例、特に低血糖に対する継続的治療を要する場合には、血糖値のモニタリングと視床下部-下垂体-副腎軸の評価などがある。

特にCLOVES症候群の表現型を示す例や、脈管奇形を有する例については、何らかの外科的介入を行った後に血栓症や凝固障害が生じるリスクを評価する観点から、血液内科の診察を受けてもらうようにする。8歳に達するまでは、3ヵ月ごとに腎超音波検査を行うことを検討する(Wilms腫瘍を対象とした腫瘍スクリーニングは議論のあるところである)。

遺伝カウンセリング

PROSは、同定されている病的バリアントの大部分が体細胞性(モザイク)であり、継承例は知られていない。現在のところ、確認のなされた垂直伝播あるいは同胞への再発の例は報告されていない。発端者がPIK3CAの病的バリアントを体細胞モザイクで有する場合の、同胞の有するリスクは、一般集団の場合と同等と考えられる。わずかな例外を除き、PROS罹患者はすべて、PIK3CAの病的バリアントを体細胞モザイクの形で有することから、受精後、多細胞期にある胚の中の1つの細胞に生じた変異であることが示唆される。したがって、子にこれを伝達するリスクは、50%より低くなるものと考えられる。


GeneReviewの視点

PIK3CA関連過成長スペクトラム(PROS):ここに含まれる表現型1,2
  • 巨脳症-毛細血管奇形(megalencephaly-capillary malformation;MCAP)症候群
  • 形成異常性巨脳症(dysplastic megalencephaly;DMEG),片側巨脳症(hemimegalencephaly;HMEG),局所性皮質形成異常(focal cortical dysplasia;FCD)
  • 先天性脂肪腫性過成長-血管奇形-表皮母斑-脊柱側彎骨格脊椎(Congenital lipomatous overgrowth, vascular malformation, epidermal nevi, scoliosis/skeletal and spinal;CLOVES)症候群
  • Klippel-Trenaunay症候群
  • CLAPO症候群
  • 単発性組織異形成-過成長表現型:リンパ管奇形,血管奇形,静脈奇形,脂肪腫症
  • 線維脂肪過形成もしくは過成長(fibroadipose hyperplasia or overgrowth;FAO)
  • 半側過形成性多発性脂肪腫症(hemihyperplasia multiple lipomatosis;HHML)
  • 巨指趾症
  • 線維脂肪浸潤性脂肪腫症/顔面浸潤性脂肪腫症

別名、ならびに過去に用いられた名称については、「疾患名について」の項を参照。

  1. これらの表現型をもたらすその他の遺伝学的原因については、「鑑別診断」の項を参照。
  2. Sadickら[2018]

診断

PIK3CA関連過成長スペクトラム(PROS)の臨床所見には広い幅がみられ、その中核となる症候は、先天性あるいは幼児期に発症する分節型/局所性の過成長で、これに細胞異形成が伴う場合と伴わない場合がある。同様の症候を呈する罹患者は家系内にみられない(すなわち、家系内で唯一の罹患者)。原因遺伝子としてPIK3CAが同定される以前、PROSは、病変の現れる組織/器官に従って、複数の別個の症候群に分けられていた(「GeneReviewの視点」の項を参照)。

本疾患を示唆する所見

以下のような臨床所見、脳MRI所見、家族歴を示す例については、PROSの可能性を検討する必要がある[Keppler-Noreuilら2015,Mirzaaら2016,Kuentzら2017]。

臨床症候

脳MRI所見

以下のようなものを含む脳の局所性過成長(皮質形成異常を伴う場合と伴わない場合がある)

家族歴

PIK3CAにみられる病的バリアントは、通常、de novoのモザイクであるため、大多数の発端者は孤発例(すなわち、家系内で1人だけの発症例)である。稀に、常染色体顕性遺伝に一致した家族歴(すなわち、複数世代にわたって男女の罹患者が現れる)を有する例がみられる。

診断の確定

発端者におけるPROSの診断は、これを示唆する所見を有することに加え、PIK3CAにヘテロ接合性でモザイク(まれに非モザイクの場合あり)、機能獲得型の病的バリアントが同定されることをもって確定する[Keppler-Noreuilら2015](表1ならびに「分子遺伝学」の項を参照)。

分子診断

分子遺伝学的検査のアプローチとしては、通常、標的型検査(単一遺伝子検査あるいはマルチ遺伝子パネル)が用いられるが、網羅的ゲノム検査(エクソームシーケンシング,ゲノムシーケンシング)を用いることも可能である。報告されているPIK3CAの病的バリアントの大多数は接合後のもの(したがって、モザイクということになる)であるため、検体としては、複数の組織(多くの場合、血液以外の複数の組織)を用いる必要があるように思われる。

こうしたことから、現時点の検査技術からは、血液あるいは血液から抽出したDNAを使用して行う検査は推奨されない[Rivièreら2012]。

遺伝子標的型検査の場合は、臨床医の側で関与が疑われる遺伝子の目星をつけておく必要があるが、ゲノム検査の場合、その必要はない。「本疾患を示唆する所見」に記載した特徴的所見を有する例については遺伝子標的型検査(「方法1」参照)で診断がつくものと思われるが、PROSを頭に入れるところにまで至らない例については、適切なサンプルが確保できるようなら、ゲノム検査(「方法2」参照)で診断がなされることになろう。

方法1

表現型とX線写真所見からPROSが示唆されるようであれば、使用する分子遺伝学的検査のアプローチは、単一遺伝子検査、あるいはPIK3CAを含むマルチ遺伝子パネルの使用といったものになろう。

適切なサンプル(前記)を用いてPIK3CAの配列解析を行うことで、ミスセンスバリアント(低レベルのモザイクを検出するための検査技術については、「分子遺伝学」の項でその概要を述べている)を検出できることがある。
注:(1)PROSで確認されている病的バリアントは、すべて機能獲得型である。したがって、遺伝子標的型欠失/重複解析は推奨されない。
(2)罹患者の多くが低レベルのモザイクであることが報告されている[Kurekら2012,Leeら2012,Lindhurstら2012,Jansenら2015,Mirzaaら2016]。そのため、仮にPROSを示唆する所見を有する例においてPIK3CAに機能獲得型の病的バリアントが検出されなかったとしても、それによりPROSの可能性が否定されるわけではない。

適切なサンプル(前記)を用いて行うPIK3CAその他の関連遺伝子(「鑑別診断」の項を参照)を含むマルチ遺伝子パネルも検討対象になりうる。
注:(1)パネルに含められる遺伝子の内容、ならびに個々の遺伝子について行う検査の診断上の感度については、検査機関によってばらつきがみられ、また、経時的に変更されていく可能性がある。
(2)マルチ遺伝子パネルによっては、このGeneReviewで取り上げている状況と無関係な遺伝子が含まれることがある。
(3)検査機関によっては、パネルの内容が、その機関の定めた定型のパネルであったり、表現型ごとに定めたものの中で臨床医の指定した遺伝子を含む定型のエクソーム解析であったりすることがある。
(4)ある1つのパネルに対して適用される手法には、配列解析、欠失/重複解析、ないしその他の非配列ベースの検査などがある。
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遺伝学的検査をオーダーする臨床医に対する、より詳細な情報についてはここをクリック。

方法2

表現型が典型的なものでないため、PROSの診断までは頭に入れにくいといった場合は、適切なサンプル(前記)を用いて行うゲノム検査も検討対象になりうる。

網羅的ゲノム検査の場合、臨床医の側で関与の疑われる遺伝子の目星をつけておく必要はない。エクソームシーケンシングが広く用いられているが、ゲノムシーケンシングを用いることも可能である。
網羅的ゲノム検査の基礎的情報についてはここをクリック。
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表1:PIK3CA関連過成長スペクトラムで用いられる分子遺伝学的検査

遺伝子1 方法 その手法で病的バリアント2が検出される発端者の割合
PIK3CA 配列解析3,4 100%5
遺伝子標的型欠失/重複解析6 報告例なし7
  1. 染色体上の座位ならびにタンパク質に関しては、表A「遺伝子とデータベース」を参照。
  2. この遺伝子で検出されているバリアントの情報については、「分子遺伝学」の項を参照のこと。
  3. 配列解析を行うことで、benign、likely benign、意義不明、likely pathogenic、pathogenicといったバリアントが検出される。バリアントの種類としては、遺伝子内の小欠失/挿入、ミスセンス・ナンセンス・スプライス部位バリアントなどがあるが、通常、エクソン単位あるいは遺伝子全体の欠失/重複については検出されない。配列解析の結果の解釈に際して留意すべき事項についてはこちらをクリック。
  4. PIK3CAの体細胞バリアントの検出法(「分子遺伝学」の項を参照)として何を用いるかは、いくつかの要因により変わってくる。癌で多くみられるPIK3CAのバリアントを検出するPCRベースのアッセイを、いくつかの会社が開発している。こうしたバリアントの多くは、PROSでも同定されている。データからは、変異のホットスポット(例えば、PIK3CAのコドン542,545,1047)が存在する一方で、稀な病的バリアントも相当数存在することが示唆されている。
  5. ほとんどの罹患者がPIK3CAの病的バリアントを体細胞モザイクで有しているため、実際の検出率は、使用したサンプルの種類や分子遺伝学的検査の手法により変わってくる。
  6. 遺伝子標的型欠失/重複解析では、遺伝子内の欠失や重複が検出される。具体的手法としては、定量的PCR、ロングレンジPCR、MLPA法、あるいは単一エクソンの欠失/重複の検出を目的に設計された遺伝子標的型マイクロアレイなど、さまざまなものがある。
  7. PROSで同定されている病的バリアントは、すべて機能獲得型のものである。したがって、PIK3CAの部分欠失/重複や全欠失/重複でPROSの表現型が生じることはないように思われる。

臨床的特徴

臨床像

PIK3CA関連過成長スペクトラム(PROS)では、幅広い組織に過成長がみられ、これに細胞異形成が伴う場合もある。PROSの背景に分子レベルの変化が存在することが判明する以前の段階では、臨床レベルでは、互いに表現型の一部が重なり合う数多くの独立した疾患として捉えられ、そのそれぞれに病名が与えられていた(「GeneReviewの視点」の項を参照)。
一般に、PROSは、単発型(局所性の病変が1つの組織あるいは体の中の1つの部分だけに現れるもの;表2参照)と症候群型(過成長に加えて、2つ以上の器官系に2つ以上の症候が現れるもの;表3参照)に分けることができる。PI3K関連経路の過成長を阻害することを目的とした標的療法が、すでにFDAの承認を受けている(表6参照)。

表2:罹患器官/組織ごとにみた代表的な単発性PIK3CA関連過成長

器官あるいは組織 表現型 コメント
脳/頭部 片側巨脳症(HMEG):皮質形成異常を伴うことのある片側の半球のみの脳過成長
  • 認知と発達の障害。
  • 癲癇発作が多くみられる。
  • 局所神経障害がみられる場合あり。
  • 顔の非対称をきたす可能性あり。
局所性皮質形成異常1
  • Ⅰ型,Ⅱ型,Ⅲ型2
  • 過成長は、HMEGの場合ほど顕著ではない。
  • 癲癇発作を引き起こすことがあり、小児期発症の場合は投薬に対して難治性のことがある。
  • 高次脳機能障害
形成異常性巨脳症:皮質形成異常を伴う脳の局所性過成長;皮質形成異常は両側性の場合あり。
  • 発達遅滞
  • 生後数ヵ月以内での重度の癲癇発作3がしばしばみられる。
  • 局所神経脱落症状がみられる場合あり。
顔面浸潤性脂肪腫症
  • 顔面軟部組織(最も多いのは頰)の片側性の肥大で、内部に脂肪浸潤を伴う4,5
  • 骨の肥大を伴う場合あり。
四肢 半側過形成
  • 肢全体、肢の一部、手のみ、足のみ(末端性過成長)などがある。
  • 軟部組織、筋、骨などが関与する。
巨指趾
  • 手足の1指趾以上に影響が現れる。
  • 軟部組織、筋、骨などが関与する。
線維脂肪性脈管奇形
  • 筋線維が静脈拡張(phlebectasia)を伴う線維脂肪組織に置き換わる。
  • 低流量性の静脈やリンパ管の奇形6
  • 有痛性の瘤がみられる場合あり(主として腓腹筋)。
  • 足首の背屈とふくらはぎの拘縮がみられる場合あり。
巨指趾あるいは脂肪腫性巨大ジストロフィー
  • 1つの神経支配領域(例えば、上肢,下肢,手,足)内にある脂肪組織の拡大と骨の過成長で、末梢神経の長さと周長の拡大を伴う。
  • 成長で比率が変わらない(一定の比率のままの)ものと、変わっていく(不均衡の度合いを増していく)ものがある。
リンパ管7 単発性リンパ管奇形:リンパ管上皮細胞の裏打ちをもつ拡張した血管 罹患者の成長に比例して拡大する液性の嚢胞;浸潤性の場合は、疼痛や病的状態に発展する可能性あり。
脈管 脈管奇形 毛細血管性,静脈性,混合性奇形など。
皮膚
  • 良性苔癬様角化症
  • 表皮母斑
  • 脂漏性角化症
皮膚病変は通常、良性。

過成長は、各組織・器官内でのPIK3CAの病的バリアントの分布状態によって、影響は体のどの部分についても生じる可能性がある。

  1. 組織学的には、形成異常性ニューロン、気球細胞、層構造の乱れがしばしばみられる。
  2. Ⅰ型:構築異常を伴う単発性の局所性病変
    Ⅱ型:構築異常とともに異形成も伴う単発性の局所性病変
    Ⅲ型:皮質の層構築異常とともに、あるいはその背景に、他の大きな病変が関与しているもの
  3. 癲癇発作は通常、部分発作であるが、点頭癲癇、強直性発作、大田原症候群の電気臨床的症候を呈する場合もある。
  4. 歯の発生の早発化、巨大歯、半側巨舌、舌・頰粘膜の突出、粘膜神経腫を伴う場合がある。
  5. Coutoら[2017]
  6. 過度の筋層を有する静脈に起因する稀な高血流型奇形。血栓の器質化がみられる場合もある。
  7. 毛細血管、リンパ管、静脈の過成長は、時にCLVM(capillary lymphatic venous malformation)と呼ばれる。 CLVMでは、拡張したリンパ管が静脈や毛細血管の構成要素と結合している。

表3:代表的な症候群性PIK3CA関連過成長

表現型 過成長の種類 奇形/異常
皮膚と血管 筋骨格 内臓 神経

CLOVES症候群(図1参照)

  • 非対称性
  • 四肢や体幹の先天性脂肪腫性過成長
  • 手ないし足
  • 掌蹠過成長
  • 過成長部位は、通常、リンパ流量低下
  • 線状の表皮母斑
  • 病的な傍脊柱高血流性病変と静脈拡張(phlebectasia)
  • 脊柱側彎
  • 二分脊椎
  • 胸の変形
  • 足趾のサンダルギャップ
  • 裾広がりの足と足趾
  • 巨指趾,多指趾,合指趾
  • 膝蓋軟骨軟化症
  • ・膝関節脱臼
  • 腎無発生/低形成
  • 脾病変
  • Wilms腫瘍
  • 半側巨脳症
  • 癲癇発作

CLAPO症候群

軟部組織と骨の部分性/全身性過成長

  • 非進行性の下口唇毛細血管奇形
  • 顔面/頸部と上半身のリンパ管奇形

 

 

 

線維脂肪過形成もしくは過成長

  • 皮下と内臓線維脂肪組織の分節型で進行性の過成長
  • 時として骨格の過成長
  • 不均衡型の線的過成長
  • 脈管奇形
  • 表皮母斑
  • 進行性の骨格過成長(構築は保存されている)
  • 多指趾
  • 筋の脂肪腫浸潤
  • 精巣あるいは精巣上体の嚢胞と水瘤
  • 脾/胸腺以外の内臓過成長

 

半側過形成多発性脂肪腫症

  • 体の一部あるいは一分節の非対称性過成長
  • 過成長は非進行性か緩徐進行性

多発性脂肪腫

 

 

 

Klippel-Trenaunay症候群

片側の1つの肢の骨と軟部組織の過成長

  • 低流量性の静脈やリンパ管の奇形
  • ポートワイン母斑(毛細血管奇形)

指趾の拡大

 

 

MCAP症候群(図2,3参照)

  • 巨脳症と片側巨脳症2
  • 全身性の過成長(巨軀)

皮膚の血管奇形、特に顔面の大理石用皮膚と毛細血管奇形

  • 皮膚性合指趾と、軸後性多指趾あるいは多合指趾
  • 皮下の脂肪腫

Wilms腫瘍(稀)

  • 筋緊張低下
  • 癲癇発作
  • 自閉症の症候
  • 軽度から重度の知的障害
  • 行動の問題
  • 髄膜腫関連の臨床症候(稀)

MPPH症候群

脳の過成長4

 

  • 合指趾
  • 低い鼻梁

 

  • 発達遅滞
  • 知的障害
  • 筋緊張低下
  • 癲癇発作
  • 髄膜腫関連の臨床症候(きわめて稀)

CLAPO=下口唇の毛細血管奇形,顔面・頸部のリンパ管奇形,非対称,部分性/全身性過成長(capillary malformation of the lower lip, lymphatic malformation of the face and neck, asymmetry and partial/generalized overgrowth);MPPH=巨脳症-多小脳回-多指趾-水頭症(megalencephaly-polymicrogyria-polydactyly-hydrocephalus)

  1. 最も多くみられる症候;詳しくは本文参照。
  2. 皮質形成異常、多小脳回、Arnold-Chiari奇形、脳室拡大を含む場合あり。
  3. この表現型の罹患者は、目立つ額、眼間開離、眼瞼裂斜下、耳介低位、耳前瘻孔、上向きの鼻孔、高く狭い口蓋などの顔面の形態異常を併せて呈する場合がある。
  4. 具体的には、巨脳症、水頭症、多小脳回など。

図1:CLOVES症候群の子どもの1例
(A)体幹に大きな脂肪腫様の腫瘤が周囲組織にまで広がり、その上部には毛細血管奇形がみられる。
(B)左足の巨趾

図2:MCAP症候群の症候
MCAP症候群の1例の写真。
目立つ額を伴う明らかな大頭症(D);広範囲にみられる毛細血管奇形(A-F1);両側性の第2-3-4趾の合趾(G,H);第3-4指の合指(F1,F2);右手の軸後性多指(F1)
Mirzaaら[2012]より許可を得て転載。

図3:MCAP症候群の症候
40ヵ月のMCAP症候群の男児(左)と非罹患者である双生児の女性同胞(右)。
左側の半側肥大、特徴的顔面症候、両側性の第2-3趾の合趾、弛緩してだぶついた皮膚を伴う結合組織の異形成に注目されたい。

Conwayら[2007b]より許可を得て転載。

過成長

PIK3CAの機能獲得型病的バリアントでは、ほぼあらゆる種類の組織に過成長が現れる可能性がある。過成長は、乳児期後期から小児期にかけて発症するタイプのものとは異なり、通常、先天性もしくは出生後早期の発症である。
病変の生じる部位は、主として、脳、四肢(指趾を含む)、体幹(腹部や胸部を含む)、顔面で、いずれの部位も病変の分布はふつう非対称的である。
過成長をきたした組織は「風船」状、すなわち、病変部位が風船のように膨らんだ状態になることがある(こうなることが多いのは、指趾、手背、足背)。
病変は、両側性に現れることより、片側性のことのほうが多い。
過成長をきたす組織は、以下のものの一部あるいはすべてである。

脳の成長

脳の特定の構造に続発性の過成長が生じると同時に脳全体にも過成長が生じ、脳室拡大、脳梁の厚みの顕著な増大、後頭蓋窩の重積を伴う異所性小脳扁桃といったものに至る場合がある[Conwayら2007b,Mirzaaら2012]。
成人の頭囲は平均値に対し、+2SDから+10SDの範囲となる。

巨脳症

大多数の罹患者は、巨脳症(MEG)に起因する大頭症を出生の段階ですでに有しているが、一部、出生時の頭の大きさは正常で、その後、満1歳までの1年間に進行性にMEGが生じて、次第に大頭症になっていくような例もみられる[Mooreら1997,Conwayら2007a,Conwayら2007b,Mirzaaら2012]。
閉塞性の脳室拡大や水頭症により脳外科的シャント手術を受けた子どもでも、頭の成長は加速度的に続いていくことから、PROSの部分症状としてMEGを有する例について言うと、MEGは原発性の性格をもっていることがわかる。

MCAP症候群

21人の子どもについて行ったレビューで、出生時の頭囲は、通常、妊娠週齢相当の平均値に対し、+2SDから+7SDの範囲にあった[Mirzaaら2012,著者の未公表データ]。
大多数の子どもは、頭囲のZ値が生後1年の間に増加を示した。
幼児期に頭の成長が横ばいになる例もみられはするものの、多くは、平均値に対し+3SDあるいはそれ以上のレベルを維持する。

血管奇形
血管奇形としては、毛細血管奇形と静脈奇形、それより低頻度のものとしては動脈奇形や混合性(毛細血管-リンパ管-静脈,あるいは動静脈)奇形がある。低流量性の血管(リンパ管,静脈)奇形が、体幹や四肢の過成長部位を覆う形でみられることがある。血管奇形は、表在性のこともあれば深在性(内臓性)のこともある。こうした病変の多くは、MRA/MRV画像でのみ同定可能である(「血管奇形のISSVA分類-2018」を参照されたい)。

リンパ管奇形

リンパ管奇形は、さまざまな部位(内部・外表)に生じる可能性があり、腫脹、疼痛、そして時には外傷に伴う局所出血など、さまざまな臨床的問題を引き起こすことがある。中には、複雑リンパ管奇形、その中でも特に広汎性リンパ管奇形を有するような例もみられる[Rodriguez-Lagunaら2019]。複雑リンパ管奇形は侵襲性の経過をとることがあり、特に前方頭頸部の重要構造物に近接して存在する場合などは、治療が難しく、予後不良となる。

骨格所見

手に現れる特徴的所見としては、指が末広がりもしくは尺側に偏位し、1本ないし複数の指が過成長となった、幅広で鋤状の手などがある。
足に現れる特徴的所見としては、拇趾と第2趾との間の大きな「サンダルギャップ」を伴う過成長、大きく球根状の趾、足背・足蹠両方にみられる脂肪腫様の腫瘤、中足骨頭間の大きく離れた先広がりの足などがある。
パターン形成異常としては、軸後性、軸前性、中央列の多指趾と皮膚性合指趾がある。これは足趾に多くみられるものの、手指に現れることもある。皮膚性合趾は、第2-3趾、第2-4趾、サンダルギャップを伴う第2-5趾といったパターンで現れる。
膝関節脱臼、脚長差、膝蓋軟骨軟化症がみられることもある。
特にCLOVES症候群の表現型においては、脊柱側彎、脊椎奇形、二分脊椎、胸の奇形が一部の例でみられる。
線維脂肪過形成/過成長の表現型では、これまでに進行性の骨格過成長が報告されている。
MCAP症候群の表現型では、結合組織の異形成に起因して関節の過度可動性がみられる場合がある。

局所の脂肪組織の減少を伴うことがある脂肪腫性過成長

脈管奇形が存在する場合、脂肪腫性過成長は、脈管奇形と同側に現れることもあれば、対側に現れることもある。体幹の脂肪腫の腫瘤は、周囲組織に浸潤し、しばしば外科的切除が必要になるという特徴がある。積極的あるいは予防的な医学的介入を要する重大な病的問題の例としては、重度の脊柱側彎、体幹の大きな腫瘤、脊髄虚血を伴う傍脊柱高血流性病変、リンパ管奇形、皮膚の小水疱、手足の整形外科的問題、中枢性静脈拡張/血栓塞栓症などがある(「臨床的マネジメント」の項を参照)。

例えば、下半身あるいは下肢/足の顕著な過成長を呈した一方で、上肢、胸、上腹部の脂肪組織の減少がみられた例がこれまでに報告されている。

発達遅滞と知的障害

知的障害(ID)の程度は、多くの場合、癲癇発作、皮質形成異常(例えば、多小脳回)、水頭症の存否ならびにその程度と大きく関連している模様である(「神経画像」の項を参照)。
罹患者にみられる粗大運動の遅延には、おそらく、巨脳症、皮質奇形、筋緊張低下、四肢の非対称や過成長、結合組織異形成の存否など、複数の要因が関与しているものと思われる。

MCAP症候群

その他の神経発達面の諸症候

筋緊張低下
多小脳回(特に前頭野の多小脳回)を有する幼い子どもは、筋緊張低下を有し、痙縮はみられず、時に情動調節障害がみられる。年長の子どもには、しばしば痙縮と情動調節障害がみられる[Mirzaaら2012]。

乳児の摂食障害
多くが摂食障害を有するものの、その多くが多因子性(例えば、筋緊張低下や胃食道逆流症に起因するもの)で、栄養チューブを要するようなことはほとんどない。

てんかん
PIK3CA
の病的バリアントを有する例の30%-40%がてんかんを有すると推定される。これまでに報告されている発作のタイプは、焦点発作、強直間代発作などであるが、発作のタイプ、重症度、発症年齢、ならびにそれに伴ってみられる脳波や神経画像上の異常は、主としてPIK3CAの病的バリアントの組織内の分布状態、ならびに関連する皮質奇形の存否によって変わってくる。

異所性小脳扁桃(Chiari奇形)の諸症候

乳児では、癇症、過度の流涎、嚥下困難、呼吸の問題(中でも特に中枢性無呼吸)がみられる場合がある。小児では、頸部痛や頭痛、運動機能低下、感覚の変化、視覚の問題、嚥下障害、行動の変化がみられることがある。

行動の問題ならびに自閉症の諸症候

MCAP症候群の子どもの中の1サブセット(21人中6人)が、自閉症の症状を有するか、もしくは自閉症の臨床診断を受けている状態であった[Mirzaaら2012]。このことは、PROSの部分症状として巨脳症を有する少数の罹患者においては、神経認知プロフィールの一部として自閉症が存在する可能性を示唆したものである[McBrideら2010]。その他の、1例あるいは数例でみられた行動の異常としては、次のようなものがある。

神経画像

大頭症を有するPROS罹患者は、通常、出生後ほどなく、あるいは1歳未満の段階で脳の画像診断を受けることになるため、結果として、以下の神経画像症候が早期に同定されることにつながる(図4参照)[Vogelsら1998,Nybergら2005,Conwayら2007a,Conwayら2007b,Martínez-Lageら2010,Mirzaaら2012]。

図4:MCAP症候群の特徴的脳MRI
これらは3人の罹患者のもの(それぞれA-D,E-H,I-L)である。
注:目立つ額を伴う巨脳症(A,E,I);大きな小脳と後頭蓋窩の重積を伴う異所性小脳扁桃(A,E,I);脳室拡大(G);水頭症(J,K,L);両側の傍シルビウス裂多小脳回(B,D,F,G,H,K,L)。
Mirzaaら[2012]より許可を得て転載。

巨脳症[Clayton-Smithら1997,Vogelsら1998,Robertsonら2000,Nybergら2005,Costeら2012]
時として、出生前の超音波検査で、脳梁の厚みの増大とともに巨脳症(これに脳室拡大が伴う場合あり)が検出されることがある。罹患者の90%超が先天性の巨脳症を有し、全例が進行性である。

脳室拡大と水頭症
大多数の罹患児は、初期の脳画像診断で脳室拡大が確認される。

異所性小脳扁桃(CBTE)
小脳の拡大と小さな後頭蓋窩とがあいまって、特にMCAP症候群罹患者については、合併症としての異所性小脳扁桃(Chiari奇形)や脊髄空洞症が多くみられる。

脳の皮質奇形ならびに多小脳回(PMG)
PMGは、罹患児の50%超に現れる可能性があり、最も多くみられるのは、MCAP症候群の表現型である[Conwayら2007b,Grippら2009,Mirzaaら2012,著者らの未公表データ]。

腫瘍

良性腫瘍
最も多くみられるのは血管の腫瘍で、(海綿状)血管腫、血管腫、血管筋脂肪腫、血管腫瘤など、さまざまなものが報告されている[Clayton-Smithら1997,Mooreら1997,Martínez-Glezら2010]。

これ以外の良性腫瘍の例としては、髄膜腫を生じたMCAP症候群罹患者(21ヵ月と5歳)の2例(髄膜腫は拡大・拡散・転移を示さなかった)、脊髄と大神経に神経線維腫を生じたPROSの2例、卵巣の嚢胞腺腫、子宮筋腫、脂肪腫などの数例がみられる[Keppler-Noreuilら2014]。

悪性腫瘍
腫瘍があったとしても、たいていの罹患者は良性腫瘍であり、悪性腫瘍の報告は数種にとどまる[Kurekら2012,Keppler-Noreuilらら2014,Luksら2015,Grippら2016,Hucthagowderら2017,Kuentzら2017,Petermanら2017,Postemaら2017]。
Wilms腫瘍の推定発生頻度は、1.4%から3.3%の範囲である。
PROSの臨床診断を受けた例で、Wilms腫瘍あるいは腎芽腫症がみられた例として報告された12人の内訳は、CLOVES症候群が8人、MCAP症候群が2人、Klippel-Trenaunay症候群が2人である。

PROS罹患者では、その他にもいくつか癌の報告がみられ、その内訳は以下の通りである[Mooreら1997,Schwartzら2002,Millsら2018]。

こうした種類の腫瘍の発生とPROSとの間に間違いなく関連があるのか、それとも、こうした症例報告がPROSと腫瘍がたまたま同時に生じた稀な例だったのかという点を判断するには、系統立ったデータが不足している現状である。

その他


腎奇形は、PROS(より具体的にはCLOVES症候群の表現型)罹患者でしばしば見受けられ、腎盂拡張、尿管拡張、水腎症、重複腎動脈、腎嚢胞、腎肥大などがある。

皮膚
PROSで報告されている異常としては、以下のようなものがある。

内分泌異常
罹患者の少数に内分泌の問題が現れ、最も多くみられるのは低血糖(多くは、低インスリン血症性低ケトン性低血糖)、成長ホルモン分泌不全、甲状腺機能低下である[Mirzaaら2016,Leiterら2017,Davisら2020,Mainesら2021,Douzgouら2022]。

心異常
MCAP症候群罹患者の一部で、構造的心疾患(例えば、心房・心室中隔欠損)や大血管の異常が報告されている[Mirzaaら2016]。

遺伝型-表現型相関

PIK3CAには、変異のホットスポットがいくつか存在するが(「分子遺伝学」の項、ならびに表9を参照)、これらは局所性の強い表現型(CLOVES症候群,線維脂肪過形成,リンパ管/血管奇形,片側巨脳症,局所性皮質形成異常)の形で現れることが多い。具体的には、p.Glu542Lys、p.Glu545Lys、p.His1047Arg、p.His1047Lysなどである[Mirzaa et al 2016]。同時に、こうしたホットスポットの変異が脳内に現れた場合は、より重度の癲癇を伴う表現型となって現れる[Pirozziら,印刷中]。これと同じPIK3CAのミスセンスバリアントは、PROS罹患者だけでなく、PIK3CA関連の癌を有するPROS非罹患者においてもみられることがある(表8ならびに表9を参照)。
さらに、PROS罹患者の分析から、特にMCAP症候群でみられるPIK3CAのバリアントは、変異のホットスポットに集中することなく、遺伝子全体に広く分布することが示唆されている[Mirzaaら2016](「分子レベルの病原」の項を参照)。

疾患名について

PIK3CAの体細胞性病的バリアントに起因して生じる疾患は、表現型の幅がきわめて広いことから、2013年に開かれたNIHの作業部会で、それらを統括する用語として、PIK3CA関連過成長スペクトラムの使用が提唱された[Keppler-Noreuilら2015]。PIK3CA関連過成長スペクトラムという名称は、臨床的にはっきり区別しうる各表現型のすべてを包含するものであるが、同時にそれらの表現型が連続体を成すものであって、かつ、互いに重なり合うものであることを強調するものとなっている。

発生頻度

PIK3CA関連過成長スペクトラム(PROS)は、確認法がまちまちで、かつ、表現型の幅も広いため、発生頻度を推定することは困難である。MCAP症候群については、これまでに200人を超える罹患者が報告されている。


遺伝学的に関連のある疾患(同一アレル疾患)

PIK3CAの生殖細胞系列の病的バリアントとして、本GeneReviewで述べたもの以外の表現型は知られていない。

散発性の腫瘍

PROSでみられるその他の所見を全く有することなく、単独の形で現れる腫瘍中に、しばしばPIK3CAの体細胞性バリアントが検出される(生殖細胞系列に病的バリアントはみられない)。
詳しくは、「癌ならびに良性腫瘍」の項を参照されたい。


鑑別診断

過成長と巨脳症を呈し、PIK3CA関連過成長スペクトラム(PROS)と表現型の重なる疾患は多数に上る。それらを表4にまとめた。

表4:PIK3CA関連過成長スペクトラムとの鑑別診断に関係してくる遺伝子

遺伝子 鑑別対象疾患 遺伝形式 鑑別対象疾患の臨床症候
PROSと重なる症候 PROSと異なる症候
AKT1 Proteus症候群 体細胞性 局所性の体細胞性過成長,表皮母斑,血管奇形,異形成性脂肪組織 脳回状の結合組織母斑と出生後に発症する過成長(PROSの場合、発症は先天性)。
CLOVES症候群で特徴的にみられる体幹の脂肪-血管の腫瘤,脊椎-傍脊柱領域の高流量性病変,末端の異常はみられない。
AKT3
CCND2
PIK3R2
巨脳-多指趾-多小脳回-水頭症(MPPH)症候群 AD(de novo)もしくは体細胞性 脳の過成長(MEG),多小脳回,水頭症,多指趾,結合組織や関節の弛緩 血管/リンパ管奇形や重度の局所性体細胞性過成長は一貫してみられる所見ではない。
HRAS
KRAS
NRAS
線状脂腺母斑症候群(LNSS)(OMIM 163200) 体細胞性 皮膚所見(表皮母斑,血管奇形など) 重度の過成長や広範囲の血管/リンパ管奇形はみられない。
MTOR Smith-Kingsmore症候群(SKS)(OMIM 616638) AD(de novo)もしくは体細胞性 脳の過成長(MEG),多小脳回,皮膚所見(色素性母斑など) 血管/リンパ管奇形は一貫してみられる所見ではない。
PTCH1
SUFU
基底細胞母斑症候群 AD 脳の過成長(MEG),多指趾,合指趾 異所性石灰化,基底細胞癌,顎骨の嚢胞,表皮嚢胞,幅広の肋骨,他にも数多くの骨格その他多器官の症候あり。
PTEN PTEN過誤腫症候群(PHTS) AD 脳の過成長(MEG),血管奇形(毛細血管奇形など),脂肪腫 腸の過誤腫,陰茎の色素斑がみられる一方、重度の局所性体細胞性過成長,末端の変形,特定のタイプの発癌リスク上昇などはみられない。
SOLAMEN症候群(PHTSの表現型上のサブタイプ) 脚注1参照 分節型過成長,脂肪腫症,動静脈奇形,表皮母斑 発癌リスク(卵巣嚢胞腺腫,多発性乳腺腫瘍,甲状腺腫)の上昇,線維嚢胞性乳腺症,歯肉丘疹,多結節性甲状腺腫
TSC1
TSC2
結節性硬化症(TSC) AD 脳の過成長(MEG,HMEG,FCD) 顕著な局所性過成長はみられず、血管/リンパ管奇形も一貫してみられるわけではない。
白斑,シャグリンパッチ,多器官の発癌リスク上昇

AD=常染色体顕性;AR=常染色体潜性

  1. SOLAMEN症候群は、PTENの生殖細胞系列の病的バリアント1つに加えて、PTENにもう1つ体細胞モザイクのバリアントが生じることで、表現型に分節的性格が加わった症候群である。(訳注:「SOLAMEN」は「Segmental Overgrowth-Lipomatosis-Arteriovenous Malformation-Epidermal Nevus」の略)

臨床的マネジメント

PIK3CA関連過成長スペクトラム(PROS)と診断された罹患者については、疾患の範囲やニーズを把握するため、診断に至る過程ですでに実施済でなければ、表5にまとめた評価を行うことが推奨される。
注:本疾患は、多様な所見がみられるため、評価は複雑なものとなる。
他の臨床症候についても同様ではあるが、特に血管奇形の評価については、正確で詳細な病歴の評価が必要である。

表5:PIK3CA関連過成長スペクトラム罹患者の最初の診断に続いて行うことが推奨される評価

系/懸念事項 評価 コメント
体格(過成長) 頭囲,身長,腕長,脚長,手足の長さ等の成長パラメーターの測定 全身的・分節的過成長(脚長差を含む),ならびに大頭症に関する評価
体全体のMRIを検討 体幹の過成長を有する例
四肢のX線写真の後、四肢のMRIを検討 1つの肢全体の過成長あるいは分節型過成長の例
乳児では脊椎の超音波、それより年長者では脊椎のMRI(とMRA)を検討 脊椎の病変を伴う例(本表中の「心血管/血管」の欄を併せて参照)
疼痛と機能障害に関する臨床的評価  
体格(低成長あるいは全身の発育不全 インスリン様成長因子1とインスリン様成長因子結合タンパク質3の測定 低値の場合は、内分泌医への紹介と、場合によっては成長ホルモン分泌不全に関する評価を検討。
神経 神経学的評価
  • 巨脳症を有する例については、皮質奇形、脳室拡大/水頭症、Chiari奇形に関する評価を目的とした脳のMRI
  • 癲癇発作の懸念がある場合は脳波を検討。
発達 発達評価
  • 運動、適応、認知、言語の評価を含むものとする。
  • 早期介入/特別支援教育に向けた評価。
精神/行動 神経精神医学的評価 12ヵ月超の例:睡眠障害、注意欠如多動性障害、不安、自閉症スペクトラム障害を示唆する所見等を含む行動上の懸念に関するスクリーニング。
筋骨格 整形外科/物理療法とリハビリテーション/理学療法/作業療法的評価 以下の評価を含むものとする:
  • 1つの肢あるいは1つの肢の中の一部分の過成長、足の異常、裾広がりの趾、脊椎の異常(脊椎彎曲を含む)
  • 粗大運動技能と微細運動技能
  • 可動性、日常生活動作、障害者用機器の必要性
  • 理学療法(粗大運動技能の改善目的)や作業療法(微細運動技能の改善目的)の必要性
消化器 臓器肥大や腹部腫瘤を調べるための腹部の診査 超音波やMRI等による腹部の画像診断を検討。
心血管/血管 外表部の血管奇形を中心に身体の診査を行い、分布状態と、考えられるタイプを書き留める。 血管奇形が四肢に及んでいるかどうかを調べる腕や脚の主要血管に対するドプラ超音波を検討。
異常ありの場合は、追加でMRI(場合によってはMRAも)を検討。
脊椎のMRIとMRA 脊椎-傍脊柱領域の高流量性血管病変に関する評価。
心電図と心エコー 不整脈、先天性心疾患、大血管の異常に関する評価を、臨床的必要性に応じ、また、MCAP症候群の表現型を示す例に対し行う。
リンパ管/脂肪腫 腰周辺、脊椎周辺を中心に、非対称的あるいは非定型的な浮腫や脂肪腫に関する診査 乳児ではドプラ超音波、それより年長の人にはMRI/MRA/MRVを検討。
腎尿路生殖器 腎超音波 Wilms腫瘍/腎奇形/水腎症に関する評価。
皮膚 すべての皮膚の評価 血管奇形と色素異常の有無を調べるため。
内分泌 乳児と小児について、血糖値の測定1 低血糖の有無に関する評価のため。
インスリン様成長因子1とインスリン様成長因子結合タンパク質3の測定 発育不全や線的成長の不良がみられる例について、成長ホルモン分泌不全に関する間接的評価。
甲状腺刺激ホルモンとフリーT4 甲状腺機能低下の評価のため。
血液 ベースラインの評価を推奨する観点から血液内科への紹介。
  • 血栓症(特に静脈奇形を有する例)と凝固障害のリスク上昇を示すデータの評価のため。
  • 血管奇形を有する例については、Dダイマーとフィブリノーゲンの値が血栓症スクリーニング用として有用と思われる。
感染症 感染症に関する評価 リンパ管血管奇形を有する例については、抗生剤の予防投与が検討対象になりうる;血管外科医、ならびに血管の画像下治療専門医の手で。
遺伝カウンセリング 遺伝の専門医療職2の手で行う。 医学的、個人的な意思決定の用に資するべく、本人や家族に対し、PROSの本質、遺伝形式、そのもつ意味についての情報提供を行う。
家族への支援/情報資源   下記の必要性に関する評価:
  • 地域あるいはParent to Parentのようなオンラインの情報資源
  • 親への支援を目的としたソーシャルワーカーの関与
  • 在宅看護への紹介
  1. 低血糖発作の初発は、もっと後の小児期であることもある。
  2. 臨床遺伝医、認定遺伝カウンセラー、認定上級遺伝看護師をいう。

治療 ― 標的療法

PIK3CA関連過成長スペクトラム(PROS)に対する根本的治療法は存在しない。最近、FDAの承認を得た標的型薬物治療を表6に示す。

表6:PIK3CA関連過成長スペクトラムの標的治療

治療 用量 適応 機序
アルペリシブ(VIJOICE®)1 2歳以上18歳未満の例への投与:
  • 初回用量50mgを1日1回2食物とともに経口摂取。
  • 6歳以上の例については、治療開始から24週を超えた時点から用量を1日1回125mgまで増やすことが可能3
全身療法が必要なPROSの重症の症候を呈する成人ならびに2歳以上の子どもの治療。 PI3K阻害剤
  1. この薬剤は、過成長、血管病変、その他の機能的合併症の軽減に特化した形で承認を受けている。PROSの神経症状(例えば、MCAP症候群でみられるような神経症状)の治療に関する有効性は、現時点では不明である。
  2. この錠剤は、毎日ほぼ同じ時間に服用する必要がある。
  3. 用量を増やしたことで有害反応がみられた例については、1日50mgまで用量を減らすことも考えられる。

治療 ― 支持療法

支持療法は、理想的を言えば、外科医、放射線科医、遺伝医、皮膚科医、病理医、血液/腫瘍科医から成る多職種チームの手で、調和のとれたケアを提供する形が望ましい。このうち血液/腫瘍科医は、長期フォローの間に新たに生じてくる問題の医学的な管理や調整に対応していく上で不可欠である[Adams & Ricci 2019,Dekeuleneerら2020,Canaudら2021,Douzgouら2022]。

表7:PIK3CA関連過成長スペクトラム罹患者の症候に対する支持療法

形/水腎症
症候/懸念事項 治療 考慮事項/その他
分節型過成長 減量術が必要になる可能性。 機能制限や疼痛が中等度から重度の場合。
脚長差 整形外科医による標準治療。 脚長差が2cm超のときは、靴の補高が必要になる可能性あり。
巨脳症/脳室拡大 脳神経外科医による標準治療;脳室腹腔シャントや第三脳室開口術など。
  • 閉塞性水頭症や頭蓋内圧亢進の徴候・症候がみられたとき。
  • MCAP症候群の水頭症については、第三脳室開口術のほうが治療成績が良好[著者の個人的意見]。
異所性小脳扁桃あるいはChiari奇形 脳神経外科医による標準治療;後頭蓋窩減圧術など。
  • 異所性小脳や脊髄空洞症の徴候・症候がみられたとき1,2
  • モニタリングだけで特に処置を要しないような軽度の異所性小脳扁桃を有する罹患者が多数に上る(「定期的追跡評価」の項を参照)。
てんかん3 経験豊富な神経内科医もしくはてんかん専門医の手で行う抗痙攣薬を用いた標準治療。
  • 多くの抗痙攣薬が有効;本疾患への特異的有効性が示された薬剤は存在しない。
  • 両親/介護者への教育4
半球離断術あるいはてんかん焦点の外科的切除を検討 神経画像、脳波、発作性障害の臨床症候などから、局在所見ないし裏づけとなる所見がみられた例について行う。
発達遅滞/知的障害 発達遅滞/知的障害の管理に関する事項」の項を参照。  
精神/行動 精神科医や発達小児科医による標準治療。 社会性/行動上の懸念事項」の項を参照。
多指趾 過剰指趾の切除を検討。 整形外科医の手で行う。
足の変形/裾広がりの趾 整形外科医の手で外科的介入を行うことが検討対象となる。 靴が履けて機能改善につながることを目的として行う。
脊柱側彎 整形外科医による標準治療。  
血管奇形 硬化療法、レーザー療法、薬剤の経口投与(例えば、シロリムス)等を、血管奇形のタイプに従って。
  • 研究段階の治療」の項を併せて参照。
  • 毛細血管奇形の場合は治療を要することはほとんどない;経時的に消退していくことが多い。
構造的心疾患/不整脈 心臓病専門医による標準治療。  
リンパ管奇形 血管奇形チームによる標準治療。 減量術を慎重に行うことや薬剤の経口投与などが考えられる(「研究段階の治療」の項を参照)。
脂肪腫 浸潤組織の腫瘤に対する減量術を慎重に行う。
通常、多職種チームによる管理が必要
傍脊柱や脊柱内へ拡大することで、脊髄、硬膜嚢、神経根の圧迫リスクが高まる。
腎奇 泌尿器科医や腎臓専門医による標準治療。  
Wilms腫瘍 腫瘍専門医による標準治療。  
凝固障害あるいは血栓症 凝固の問題に従って行う血液内科医による標準治療;血栓症に備えた抗凝血療法や、凝固障害に向けた新鮮凍結血漿の注入などがある。 CLOVES症候群の表現型を有する例は、術後に凝固亢進状態を招いて血栓症に至るリスクが特に高い。
疼痛 疼痛の源を評価し、背景にある原因、例えば、血管奇形、過成長の二次的影響(神経絞扼や内臓圧迫)、機能障害などに対する治療を行う。  
甲状腺機能低下 内分泌医による標準治療。 PROSの中でも、MCAP症候群をはじめ脳の病変を伴うタイプのものに多い
低血糖
  • 治療は、重症度に応じ、ブドウ糖静注から糖分を含む飲料やスナックの摂取、さらにはコーンスターチ療法まで幅広い。
  • 持続性低血糖を呈する一部の例については、グルカゴンの注入も検討対象になりうる。
  • 問題になるのは主として新生児であるが、一部、それより後の時期に低血糖を発症する例もみられる。
  • 重度で持続性の低血糖については、成長ホルモン軸や視床下部-下垂体-副腎軸の評価が必要となる。
成長ホルモン分泌不全に起因する低血糖の場合は、成長ホルモン療法を検討。 本疾患に関して成長ホルモンが有効か禁忌かという点に関しては、データが不足している現状である。
成長ホルモン分泌不全 成長ホルモンの試行を検討7。
  • 線的成長ならびに過成長の推移を注意深く追跡する。
  • 脳の活発な発育時期を避ける意味合いで、成長ホルモン療法を2歳以降に遅らせることが推奨されている。
  • 成長ホルモン分泌不全を伴うPROS罹患者に対する成長ホルモン療法のリスク・有益性の相対比を判定するには、さらなるデータが必要である
家族/地域社会
  • 家族を地域の情報資源、息抜き・支援活動へと導くため、ソーシャルワーカーが適切な形で関与する体制を確保する。
  • 複数のサブスペシャルティの予約、機器、薬、物品を管理するケアコーディネーション
  • 緩和ケアや在宅看護の必要性に関する継続的評価
  • 障害者スポーツやスペシャル・オリンピックスへの参加を検討する。
  1. 乳児の場合は、癇症、過度の流涎、嚥下困難、中枢性を中心とした呼吸の問題がみられることがある。
  2. 小児の場合は、頸部痛や頭痛、運動機能低下、感覚の変化、視覚の問題、嚥下困難、行動の変化がみられることがある。
  3. てんかんの重症度は、皮質奇形の性質と範囲、PIK3CAの病的バリアントの種類、モザイクのレベルにより変わってくる。
  4. 両親/介護者に対し、癲癇発作の一般的な現れ方に関し、教育しておくことが望ましい。 癲癇と診断された子どもに対する非医療的介入と対処法に関する情報については、「Epilepsy Foundation Toolbox」を参照されたい。
  5. Di Roccoら[2006],Kwanら[2008],Jansenら[2015]
  6. Alomari [2009]
  7. Douzgouら[2022]

発達遅滞/知的障害の管理に関する事項

以下に述べる内容は、アメリカにおける発達遅滞者、知的障害者の管理に関する一般的推奨事項を挙げたものである。ただ、そうした標準的推奨事項は、国ごとに異なったものになることもあろう。

0-3歳
作業療法、理学療法、言語治療、摂食治療、乳児のメンタルヘルスサービス、特別支援教育、感覚障害支援といったものが受けられるよう、早期介入プログラムへの紹介が推奨される。これは、アメリカでは連邦政府が費用を負担して、罹患者個人の治療上のニーズに応じた在宅サービスが受けられる制度で、すべての州で利用可能である。

3-5歳
アメリカでは、地域の公立学区(訳注:ここで言う「学区」というのは、地理的な範囲を指す言葉ではなく、教育行政単位を指す言葉である)を通じて発達保育園に入ることが推奨される。入園前には、必要なサービスや治療の内容を決定するために必要な評価が行われ、その上で、運動、言語、社会性、認知等の機能の遅れをもとに認定された子どもに対し、個別教育計画(IEP)が策定される。通常は、早期介入プログラムがこうした移行を支援することになる。発達保育園は通園が基本であるが、医学的に不安定で通園ができない子どもに対しては、在宅サービスの提供が行われる。

全年齢
各地域、州、(アメリカの)教育関係部局が適切な形で関与できるよう、そして、良好な生活の質を最大限確保する支援を親に対してできるよう、発達小児科医とよく話をすることが推奨される。押さえておくべき事項がいくつかある。

運動機能障害

粗大運動機能障害

微細運動機能障害
摂食、身だしなみ、着替え、筆記などの適応機能に問題が生じる微細運動技能の障害に関しては、作業療法が推奨される。

コミュニケーションの問題
表出言語に障害をもつ罹患者に対しては、それに代わるコミュニケーション手段(例えば、拡大代替コミュニケーション[AAC])に向けての評価を検討する。AACに向けた評価は、その分野を専門とする言語治療士の手で行うことが可能である。この評価は、認知能力や感覚障害の状況を考慮に入れながら、最も適切なコミュニケーションの形を決めていこうというものである。AACの手段としては、絵カード交換式コミュニケーションシステムのようなローテクのものから、音声発生装置のようなハイテクのものまで、さまざまなものがある。一般に信じられていることとは反対に、AACはスピーチの発達を妨げるようなものではなく、むしろ理想的な言語発達に向けた支援を与えてくれるものである。

社会性/行動上の懸念事項
小児に対しては、応用行動分析(ABA)をはじめとする自閉症スペクトラム障害の治療で用いられる治療的介入の導入に向けた評価を行うとともに、実際にそれを施行することがある。ABA療法は、個々の子どもの行動上の強みと弱み、社会性に関する強みと弱み、適応性に関する強みと弱みに焦点を当てたもので、ふつう、行動分析に関する学会認定士との1対1の場で行われる。
発達小児科医を受診することで、両親に対し、適切な行動管理の指針を指導したり、必要に応じ、注意欠如/多動性障害の治療薬を処方したりといったことも可能になる。
深刻な攻撃的、破壊的行動に関して懸念があるときは、小児精神科医への相談という形での対応が考えられる。

定期的追跡評価

表8:PIK3CA関連過成長罹患者で推奨される定期的追跡評価

系/懸念事項 評価

実施頻度

体格(過成長ならびに全身の発育不全)

頭囲,腕長,脚長1,手足の長さ等の成長パラメーターの測定2

来院ごと。

  • 体幹の過成長を有する例については、超音波あるいはMRIによるフォローアップ2。
  • 1つの肢全体の過成長あるいは肢の一部の過成長を示す例については、肢のX線写真。
  • 脊柱側彎や脊椎の関係する変形を有する例については、脊椎のMRI。

臨床的必要性に応じて。

神経

一連の頭部MRI撮影

初回評価時点における所見の重症度、ならびに脳の成熟度に従って3

  • 癲癇発作を有する例について、臨床的必要性に応じたモニタリング。
  • 癲癇発作,筋緊張の変化,その他のChiari奇形の徴候/症候等の新たな症候の出現状況の評価4,5

来院ごと。

発達

発達の進行状況、ならびに教育上のニーズに関するモニタリング。

精神/行動

不安,注意力,攻撃的ないし自傷的行動に関する行動評価。

小児、思春期の人、成人について来院ごと。

筋骨格

  • 可動性と自助能力に関する物理療法,作業療法/理学療法面での評価。
  • 脊柱側彎に関する臨床的評価。

来院ごと。

消化器

臓器肥大と腹部の腫瘤に関する腹部の触診。

血管奇形とリンパ管奇形

臨床的評価とモニタリングを、できれば血管奇形チームの手で6

臨床的必要性に応じて。

腎尿路生殖器

腎超音波検査を検討。

8歳まで3ヵ月ごと7

血液

血液内科への紹介と、血栓症と凝固障害のリスク評価の推奨。

CLOVES症候群の表現型、ないし血管奇形を有する例について、手術の内容を問わず、術後に。

内分泌

血糖値のモニタリング;低血糖が明らかになった場合は、成長ホルモン軸と視床下部-下垂体-副腎軸の評価が必要。

持続性低血糖、特に低血糖の継続的治療を要する例について、臨床的必要性に応じて。

家族/地域社会

ソーシャルワーカーの支援(例えば、緩和/息抜きケア,在宅看護,地域の情報資源)とケアコーディネーションに関する家族側の必要性の評価。

来院ごと。

  1. 脚長差を含む。
  2. 体の特定の部位に急速な成長がみられた場合は、その部位に焦点を当てたフォローアップを検討する。その場合は、別のモニタリング手段、例えば体積の評価や血管造影などを含めて行うことになろう[Douzgouら2022]。
  3. 中枢神経系の過成長や異形成を有する例については、進行性水頭症とChiari奇形に特化したモニタリングを目的とした脳のMRIを、2歳までは6ヵ月ごと、その後8歳までは年に1度行う[Douzgouら2022]。
  4. 乳児の場合は、癇症、過度の流涎、嚥下困難、中枢性を中心とした呼吸の問題がみられることがある。
  5. 小児の場合は、頸部痛や頭痛、運動機能低下、感覚の変化、視覚の問題、嚥下困難、行動の変化がみられることがある。
  6. チームの構成は、皮膚科、画像下治療、血液/腫瘍科の各専門医といったものになろう。
  7. Wilms腫瘍については、発生頻度が1.4%から3.3%の間にとどまるとの研究が存在することから、腫瘍スクリーニングを疑問視する向きもある。アメリカにおいては、腫瘍リスクが3%以上の場合に腫瘍スクリーニングを行うということが多い。PROS罹患者におけるWilms腫瘍のスクリーニングの妥当性を評価する上では、さらなる縦断的研究が必要である。

リスクを有する血縁者の評価

リスクを有する血族に対して行う遺伝カウンセリングを目的とした検査関連の事項については、「遺伝カウンセリング」の項を参照されたい。

研究段階の治療

リンパ疾患に対する哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)阻害薬シロリムスの有効性を明らかにした研究が存在する[Padillaら2019,Zennerら2019]。今後、PI3K/AKT/mTORシグナル伝達経路、ならびにPROSの自然経過に関する理解がさらに深まっていくことで、新たな標的型治療戦略の開発に向けた基盤が構築されていくはずである。現在、研究段階にある全身治療薬は、PI3Kシグナル伝達経路を構成するさまざまな要素を標的とするものとなっている。具体的には、以下のようなmTOR、AKT、PI3K遺伝子の阻害薬がある。

シロリムスは、複雑型のリンパ管奇形、血管奇形、過成長を呈する疾患(PROSを含む)の罹患者を対象に、いくつかの臨床試験が行われてきた[Adamsら2016,Hammerら2018,Adams & Ricci 2019,Parkerら2019,Van Dammeら2020](「Clinical Trials.gov」を参照)。シロリムスは、現在、これらの疾患の治療に認可外使用の形で用いられている[Serontら2019,Dekeulencerら2020]。シロリムスは、複雑型の血管奇形の例、ならびにPROSで進行性の過成長がみられる例に対し、複数の第Ⅱ相臨床試験で有効性が明らかとなっている[Adamsら2016,Ericksonら2017,Hammerら2018,Parkerら2019,Ricciら2019]。

ミランセルチブはAKT1阻害薬で、これまでに拡大アクセスに向けた臨床試験、ならびに第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験での研究が行われてきている[Wassefら2015,Zampinoら2019]。
さまざまな疾患・状況に対して進行中の臨床試験に関する情報については、アメリカの「Clinical Trials.gov」、ならびにヨーロッパの「EU Clinical Trials Register」を参照されたい。
注:現時点で本疾患に関する臨床試験が行われているとは限らない。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

PIK3CA関連過成長スペクトラム(PROS)は、同定されている病的バリアントのほとんどが体細胞性(モザイク)であることから、継承性に関してはよくわかっていない。現在のところ、垂直伝播、あるいは同胞への再発が確認された例は報告されていない。

家族構成員のリスク

発端者の両親

発端者の同胞 

発端者の子

他の家族構成員

他の血縁者の有するリスクは、一般集団と同じである。

関連する遺伝カウンセリング上の諸事項

家族計画

出生前検査ならびに着床前遺伝学的検査

今日に至るまでPROSの垂直伝播例は報告されておらず、血族に罹患リスクの高まりがみられることは知られていないため、通常、血族に対する出生前診断や着床前遺伝学的検査が適応となることはない。それでも、生殖細胞系列のPIK3CAに病的バリアントを有する子どもの片親については、理論上、低レベルの生殖細胞系列モザイクである可能性が残る。そのため、そうした稀な家系については、出生前診断や着床前遺伝学的検査が1つの選択肢となりうる。
さらには、妊娠中の超音波検査でPROSの疑いありとされた場合には、出生前の分子遺伝学的検査が1つの選択肢となりえよう。

 


関連情報

GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報についてはここをクリック。


分子遺伝学

分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。

表A: PIK3CA関連過成長スペクトラム:遺伝子とデータベース

遺伝子 染色体上の座位 タンパク質 Locus-Specificデータベース

HGMD ClinVar
PIK3CA 3q26​.32 ホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸3-キナーゼ触媒サブユニットαアイソフォーム PIK3CA database PIK3CA PIK3CA

データは、以下の標準資料から作成したものである。遺伝子についてはHGNCから、染色体上の座位についてはOMIMから、タンパク質についてはUniProtから。
リンクが張られているデータベース(Locus-Specific,HGMD,ClinVar)の説明についてはこちらをクリック。

表B:PIK3CA関連過成長スペクトラム関連のOMIMエントリー(内容の閲覧はOMIMへ)

155500 MACRODACTYLY
162900 NEVUS, EPIDERMAL
171834 PHOSPHATIDYLINOSITOL 3-KINASE, CATALYTIC, ALPHA; PIK3CA
602501 MEGALENCEPHALY-CAPILLARY MALFORMATION-POLYMICROGYRIA SYNDROME; MCAP
612918 CONGENITAL LIPOMATOUS OVERGROWTH, VASCULAR MALFORMATIONS, AND EPIDERMAL NEVI
613089 CAPILLARY MALFORMATION OF THE LOWER LIP, LYMPHATIC MALFORMATION OF FACE AND NECK, ASYMMETRY OF FACE AND LIMBS, AND PARTIAL/GENERALIZED OVERGROWTH
615108 COWDEN SYNDROME 5; CWS5

分子レベルの病原

PIK3CA関連過成長スペクトラム障害は、通常、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)触媒サブユニットα(p110α)をコードする遺伝子に接合後に生じた体細胞性バリアントに起因するものである[Eggermanら2006]。このバリアントにより、AKTやmTORなど下流の複数のエフェクターを含め、PI3Kシグナル伝達経路の活性化が亢進され、さまざまな組織の成長の異常や血管奇形が生じることとなる。
PIK3CAタンパク質は、血糖値を低下させるインスリンの作用や、インスリン受容体ときわめて類似した受容体を通じて組織の成長を促進するインスリン様成長因子1(IGF1)の作用に決定的に重要な働きをしている。病的活性化を受けたPIK3CAは、細胞内でインスリンやIGF1類似の作用を発揮する可能性がある。ただ、こうしたメカニズムが実際に内分泌異常として臨床的に重要な形で発現する上では、標的組織中にバリアントが高レベルで存在することが条件となる。一部の罹患乳児に高インスリン症類似の臨床症候が現れる背景には、こうしたメカニズムが関与しているものと思われる。

疾患の発症メカニズム

機能獲得型である。

PIK3CA特異的な検査技術上の考慮事項

大多数の罹患者は、PIK3CAの病的バリアントをモザイクで有しているため、適切なサンプルを用いた上で、カスタム型の制限酵素断片長多型(RFLP)アッセイ、あるいはドロップレットデジタルPCRを行う必要があるように思われる。標準深度のエクソームシーケンシング、特に血液由来のDNAを用いて行うものについては、モザイク型のPIK3CAのバリアントを見逃してしまう可能性がある。

表9:PIK3CAの注目すべき病的バリアント

参照配列 DNAの塩基変化 予測されるタンパク質の変化 コメント 参考文献
NM_006218.4 c.1624G>A p.Glu542Lys これらは変異のホットスポットで、脳にこれがみられる場合は、局所性の強い表現型、かつ重度の癲癇の形で現れる1 D’Gamaら[2015]
c.1633G>A p.Glu545Lys

Rivièreら[2012]

c.3140A>G p.His1047Arg D’Gamaら[2015]
c.3141T>A p.His1047Lys Kuentzら[2017]

上記のバリアントは報告者の記載をそのまま載せたもので、GeneReviewsのスタッフが独自に変異の分類を検証したものではない。GeneReviewsは、Human Genome Variation Society(varnomen.hgvs.org)の標準命名規則に準拠している。
命名規則の説明については、Quick Referenceを参照のこと。

  1. CLOVES症候群,線維脂肪過形成,リンパ管/血管奇形,片側巨脳症,局所性皮質形成異常(「遺伝型-表現型相関」の項を参照)

がん、ならびに良性腫瘍

PIK3CAの体細胞変異は、結腸直腸がん、卵巣がん、乳がん、肝細胞がん、膠芽腫をはじめ、数多くのがんでみられる。PIK3CAのこうした病的バリアントの多くはキナーゼドメイン(エクソン20がこれをコードする)内のホットスポットに位置し、これにより催腫瘍性に関与する機能獲得が生じる[Samuelsら2004,Ikenoueら2005,Kangら2005]。
がん(表10)においてもPROS(表9)においても、PIK3CAの機能獲得型病的バリアントの大多数(80%超)は、3つのホットスポット(コドン542と545のグルタミン酸[Glu]残基,コドン1047のヒスチジン[His]残基)に集中して存在する。なお、がんにおけるPIK3CAの病的バリアントの分布状態は、「がん体細胞変異カタログ(Catalogue of Somatic Mutations in Cancer;COSMIC, v85, 2018年5月)」から得たものである。また、PROSにおけるPIK3CAの病的バリアントは、大規模コホート研究からの報告に基づくものである。

多くのがんでPIK3CAの体細胞変異あるいは過剰発現が生じていることから、理論上、腫瘍形成・悪性腫瘍発生リスクに関しては懸念のあるところである。がん、ならびにPROS(特に、CLOVES症候群、線維脂肪過形成、単発性巨指趾症の各表現型)の大規模コホートでみられたPIK3CAの病的バリアントは、ヘリカルドメイン内とキナーゼドメイン内のホットスポットに位置するものが大多数を占める。

がん体細胞変異カタログ(COSMIC)に掲載されている約160種のPIK3CAの病的バリアントのうち、3つのアミノ酸(エクソン9のp.Glu542Lysとp.Glu545Lys、ならびにエクソン20のp.His1047Argとp.His1047Leu)に生じるコモンバリアントが腫瘍関連PIK3CAバリアントの80%を占め、かつ、最も高い腫瘍形成能を示す[Samuelsら2004,Samuels & Ericson 2006,Jankuら2012]。
表10を参照されたい。

表10:COSMICデータベースにある一般的ながん関連PIK3CAバリアント

参照配列 DNAの塩基変化

予測されるタンパク質の変化

その病的バリアントが確認されたがん試料の数

PIK3CA ENST0000064187
NM_006218.4

c.1625G>A

p.Glu542Lys

633

c.1633G>A

p.Glu545Lys

977

c.3140A>G

p/His1047Arg

1680

c.3140A.T

p.His1047Leu

201

 


更新履歴:

  1. Gene Reviews著者: Ghayda Mirzaa, MD, FAAP, FACMG, John M Graham, Jr, MD, ScD, and Kim Keppler-Noreuil, MD, FAAP, FACMG.
    日本語訳者:佐藤康守(たい矯正歯科)、櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
    GeneReviews最終更新日: 2023.4.6.  日本語訳最終更新日:  2023.12.15.[in present]

原文: PIK3CA-Related Overgrowth Spectrum

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