[Synonyms:OFD1,OrofaciodigitalSyndromeⅠ]
Gene Reviews著者: Marie-Louise Henry, MS, CGC, Jenae Osborne, MS, CGC, Tobias Else, MD.
日本語訳者:田辺記子(埼玉医科大学総合医療センター)、平田真(国立がん研究センター中央病院)
GeneReviews最終更新日: 2022.3.10. 日本語訳最終更新日: 2023.8.16.
疾患の特徴
POT1腫瘍易罹患性素因(POT1-TPD)は、多発性皮膚黒色腫、慢性リンパ性白血病(CLL)、血管肉腫(特に心臓血管肉腫)、および神経膠腫の生涯リスクが高いことを特徴とする。その他のがん(例えば、大腸がん、甲状腺がん、乳房血管肉腫)についても、POT1-TPDを持つ個人で報告されているが、そのエビデンスは非常に限られている。最初の原発性皮膚黒色腫の発症年齢は、15~80歳である。POT1関連がんの大部分は、成人期に診断される。
診断・検査
POT1-TPDの診断は、(POT1-TPDを)示唆する臨床所見がある発端者で、遺伝学的検査によってPOT1のヘテロ接合性の生殖細胞系列病的バリアントが同定された場合に確定される。
臨床的マネジメント
症状に対する治療:
POT1-TPD腫瘍の治療は、(発症した腫瘍の)標準的な治療法に従う。
サーベランス:
18歳から少なくとも6ヵ月ごとに皮膚科医による全身皮膚の精密検査を行い、黒色腫が疑われる病変はすべて切除する。複数の異型母斑、黒色腫の既往歴、および/または黒色腫の家族歴がある人は、3ヵ月ごとの検査を考慮する。CLLをスクリーニングするために、18歳から毎年、分画を含む血算測定を実施する。リンパ節の検査を含む年1回の総合的な身体検査を行う。Li-Fraumeni症候群またはLi-Fraumeni様基準を満たす家族は、18歳から毎年全身MRIを実施する。皮膚および脳以外の悪性腫瘍の既往歴および家族歴に応じて、18歳から1~2年ごとの全身MRIを考慮する。神経膠腫の家族歴に応じて、18歳から1~2年ごとに脳のMRIを考慮する。
回避すべき物質や環境:
日焼けマシーンの使用および無防備な日光浴を避ける。診断手順における放射線を避ける(訳注:本邦ではコンセンサスを得らえていない)。
リスクのある血縁者の評価:
家系で認められているPOT1病的バリアントの遺伝学的検査を第一度近親者(親、きょうだい、子)に提供し、早期からの監視と介入が有益な人を特定すべきである。POT1-TPDの遺伝学的検査は、一般的に18歳未満のリスクのある血縁者には推奨されないが、家族に早期がんの病歴がある場合には、18歳以前の発症前遺伝学的検査が必要になることがある。
遺伝カウンセリング
る。de novoの病的バリアントによって引き起こされるPOT1-TPDの割合は不明である。POT1-TPDの個人の子供は、50%の確率でPOT1の病的バリアントを受け継ぐことになる。POT1-TPDの完全な表現型スペクトラム(どのような症状が出るか)および浸透率が不明であるため、ヘテロ接合の家系員においてPOT1-TPDの臨床症状を予測できないことに注意することが重要である。POT1関連腫瘍のタイプは、同じ家系の異なる家系員間で異なる可能性があり、現在のエビデンスは疾患に焦点を当てた研究に限られている。罹患した家族の中で生殖細胞系列POT1病的バリアントが同定されると、POT1-TPDのリスクが高い妊娠に対する出生前検査や着床前遺伝学的検査が可能になる(訳注:本邦ではコンセンサスを得らえていない)。
本疾患を示唆する所見
POT1腫瘍易罹患性素因(POT1-TPD)は、以下のような個人において疑われるべきである。
診断の確定
POT1-TPDの診断は、示唆される臨床所見があり、遺伝学的検査によってPOT1のヘテロ接合性生殖細胞系列病的バリアントが同定された発端者において確定される(表1参照)。
注:病的意義不明なPOT1のヘテロ接合性バリアントが同定された場合、この疾患の診断が確定したり、除外されたりするわけではない。しかし、現在までのところ、ACMGの分類基準によると、データが不十分なため、ほとんどのPOT1バリアントは病的意義不明のバリアントに分類されている。現在入手可能なエビデンスが限られているため、家族内での既往歴、家族歴、バリアントの分離解析、in silico解析をもとにバリアント評価を決定する。
遺伝学的検査のアプローチには、表現型に応じて、遺伝子を標的とした検査(単一遺伝子検査、多遺伝子パネル)と網羅的なゲノム検査(エクソームシークエンス解析、全ゲノムシークエンス解析)の組み合わせがある。
遺伝子を標的とした検査では、どの遺伝子が関与しているかを臨床医が判断する必要があるが、網羅的なゲノム検査ではその必要はない。示唆的所見で述べたような特徴的所見を持つ人は、遺伝子を標的とした検査で診断される可能性が高く(選択肢1参照)、一方、診断が検討されていない人は、網羅的なゲノム検査で診断される可能性が高い(選択肢2参照)。
選択肢1
単一遺伝子を対象とした検査:POT1の配列解析と欠失・重複解析が行われる。
POT1 およびその他の注目すべき遺伝子(「鑑別診断」の項を参照)を含む遺伝性腫瘍多遺伝子パネルは、疾患の遺伝的要因を特定できる可能性が高く、また、病的意義不明バリアントや潜在的な表現型に適合しない遺伝子の病的バリアントの検出を制限することができる。 注:(1) パネルに含まれる遺伝子や、各遺伝子に用いられる検査の診断感度は検査機関によって異なり、時間の経過とともに変化する可能性がある。(2) 多遺伝子パネルの中には、本GeneReviewで取り上げられている疾患に関連しない遺伝子が含まれている場合がある。特に、POT1 腫瘍易罹患性素因の稀少性を考慮して、黒色腫、脳腫瘍、遺伝性腫瘍のパネルにはこの遺伝子が含まれていない場合がある。(3) 一部の検査室では、パネルのオプションとして、検査室がデザインしたカスタムパネルや、臨床医が指定した遺伝子を含む表現型に特化したカスタムエクソーム解析が含まれる場合がある。(4) パネルで使用される手法には、配列解析、欠失・重複解析、及びその他のシークエンスに依拠しない検査が含まれる。
マルチジーン・パネルの紹介はこちら。遺伝子検査を依頼する臨床医のためのより詳細な情報は、こちらをご覧ください。
選択肢2
網羅的なゲノム検査では、どの遺伝子が関与しているかを臨床家が判断する必要はない。エクソームシーケンスが最も一般的に使用されるが、全ゲノムシーケンスも可能である。
包括的なゲノム検査については、こちらをご覧ください。ゲノム検査を依頼する臨床医のための詳細な情報は、こちらをご覧ください。
表1. POT1腫瘍易罹患性素因に用いられる遺伝学的検査法
遺伝子1 | 検査方法 | 検査方法によって検出可能な病的バリアント2保有する発端者の割合 |
---|---|---|
POT1 | 塩基配列解析3 | 現在までに報告されたバリアント全て4,5 |
標的遺伝子の欠失/重複解析6 | 不明7 |
臨床像
POT1腫瘍易罹患性素因(POT1-TPD)は、多発性皮膚黒色腫、慢性リンパ性白血病(CLL)、血管肉腫(特に心臓血管肉腫)、および神経膠腫のリスク上昇と関連している。現在までに、POT1の生殖細胞系列病的バリアントが確認された家系は100に満たない。疾患に関連したPOT1バリアントは、当初、皮膚黒色腫[Robles-Espinoza et al 2014、Shi et al 2014]、慢性リンパ性白血病[Speedy et al 2016]、心臓および乳房の血管肉腫[Calvete et al 2015]、脳腫瘍[Bainbridge et al 2014]の家族で同定された。初期の研究は、単一の疾患に焦点を当てており、含まれるコホートによって偏っていた。生殖細胞系列のPOT1バリアントを有する個人では、その他のがんが報告されている。しかし、データが限られているため、これらのがんがPOT1生殖細胞系列病的バリアントと関連しているかどうかは不明である。
皮膚黒色腫は、POT1-TPD患者において最もよく報告される悪性腫瘍である。最初の原発性皮膚黒色腫の発症範囲は、15~80歳である[Robles-Espinoza et al 2014, Shi et al 2014]。複数の同時性または異時性の原発性皮膚黒色腫は一般的で、2つの原発性黒色腫から8つの原発性黒色腫までの報告がある[Robles-Espinoza et al 2014]。最初の黒色腫と2回目の黒色腫の診断の間の期間は、症例により大きく異なっていた(平均~9年)。
慢性リンパ性白血病(CLL)。家族性のCLLにおいて、疾患関連のPOT1バリアントが同定されている。POT1生殖細胞系列バリアントp.Gln376Argを持つ人では、CLLのリスクが3.6倍になることが報告されている[Speedy et al 2016]。また、このコホートは、散発性CLLに比べて、診断時の平均年齢が若かったことが報告されている(59歳 vs 70歳)。POT1バリアントはCLLの体細胞検査(腫瘍組織)で同定されている(分子遺伝学、がんと良性腫瘍を参照)。生殖細胞系列のPOT1遺伝子検査では、体細胞バリアントと生殖細胞バリアントを区別することができる。
血管肉腫。POT1生殖細胞系列バリアントp.Arg117Cysは、心臓血管肉腫に罹患した家系員がいる3つのLi-Fraumeni様(LFL)の家系で同定され[Calvete et al 2015]、家族歴が陰性の心臓肉腫の個人でも同定された[Calvete et al 2017]。他にも、家系員が血管肉腫を患っていたLFLの家族や、血管肉腫や心臓肉腫の孤発例(家族に同じ病気の人がいない)で、生殖細胞系列POT1バリアントが報告されている[Kunze et al 2014, Calvete et al 2017]。血管肉腫に罹患した家系員を持つTP53陰性のLFL家系の27.3%(6/22)に、生殖細胞系列POT1バリアントが見つかった[Calvete et al 2015, Calvete et al 2017]。また、肉腫の家族歴やLFL症候群を示唆する家族歴を持たない血管肉腫または心臓肉腫の人の11.4%(4/35)に生殖細胞系列POT1バリアントが見つかった[Kunze et al 2014, Calvete et al 2017]。血管肉腫のない34のLFL家系では生殖細胞のPOT1バリアントは報告されなかった[Calvete et al 2015, Calvete et al 2017]。
神経膠腫。神経膠腫を発症した個人が1人以上いる2つの家系が、生殖細胞系列POT1バリアントを持つことが判明した[Bainbridge et al 2014]。これらの家系の1人または複数の個人が乏突起膠腫を呈しており、これらの家系における神経膠腫タイプに特異的な感受性が示唆された。
生殖細胞系列POT1バリアントを有する個人で報告された他のがんには、特に分化型甲状腺がん(4家系、7人)および大腸がん(3人)が含まれる[Chubb et al 2016]。他にもいくつかの良性および悪性の新生物が生殖細胞系列のPOT1バリアントを持つ個人で報告されているが、POT1バリアントが原因となっているかどうかを判断するにはデータが少なすぎる。
遺伝子型と表現型の関係性
遺伝子型と表現型の関係性は確認されていない。
POT1バリアントp.Arg117Cysは、家系員が心臓血管肉腫に罹患したLFLの3家系、家系員が乳房血管肉腫に罹患したLFLの1家系、および家族歴のない心臓肉腫の1個人で報告されている[Calvete et al 2015, Calvete et al 2017]。
浸透率
POT1-TPDは 100家系未満しか報告されておらず、POT1-TPDの浸透率は現在のところ不明である。初期の研究では、非常に高い浸透率が示唆されているが、研究コホート/家族の選択バイアスがかかっている。報告された家族の半数以上は、発端者のみが検査されていた。生殖細胞系列POT1病的バリアントを持つ多くの人は、腫瘍特異的コンソーシアム(The Gliogene Consortium、UK National Study of Colorectal Cancer Genetics、UK Familial Melanoma Studyなど)から得られたがんの強い家族歴に基づいて確認されたものである。
有病率
POT1-TPDの有病率は現在のところ不明である。しかし、家族性黒色腫の患者を対象とした研究から得られたデータによると、2.4%が生殖細胞系列のPOT1バリアントを持っていることが示唆されている[Robles-Espinoza et al 2014, Shi et al 2014]。限定的なデータではあるが、家族性CLLを持つ家系の最大6%に生殖細胞系列POT1バリアントが確認されたことが示されている[Speedy et al 2016]。
POT1腫瘍易罹患性素因の病的バリアントとは現在のところ考えられていないp.Ser322Leuバリアントのホモ接合性が、Coats plus症候群(テロメア病)と診断された2人の同胞で報告されている[Takai et al 2016]。
体細胞のPOT1病的バリアントは、腫瘍組織検査で慢性リンパ性白血病患者の3.5%で報告されており、疾患進行のドライバーとして機能していると考えられている[Ramsay et al 2013]。
表2. POT1腫瘍易罹患性素因の鑑別診断で注目される常染色体優性の遺伝性腫瘍症候群
がんの種類 | 遺伝子 | 関連疾患/参考文献 |
---|---|---|
皮膚黒色腫 | BAP1 | BAP1腫瘍素因症候群 |
BRCA2 | BRCA1およびBRCA2 関連遺伝性乳癌卵巣癌 | |
CDK4 | 皮膚悪性黒色腫易罹患性3 (OMIM 609048) | |
CDKN2A | 遺伝性黒色腫・膵がん症候群 (OMIM 606719) | |
MITF | 皮膚悪性黒色腫易罹患性 8 (OMIM 614456) | |
PTEN | PTEN 過誤腫症候群 (カウデン症候群を含む) | |
TERT | 皮膚悪性黒色腫易罹患性 9 (OMIM 615134) | |
慢性リンパ性白血病 | 不明 | 慢性リンパ性白血病 (OMIM 151400) |
血管肉腫 | TP53 | Li-Fraumeni 症候群 |
神経膠腫 | NF1 | 神経線維腫症1型 |
NF2 | 神経線維腫症2型 | |
TP53 | Li-Fraumeni 症候群 | |
EPCAM MLH1 MSH2 MSH6 PMS2 |
リンチ症候群 体質的ミスマッチ修復欠損症1 |
最初の診断に続いて行う評価
POT1-TPDと診断された個人の疾患の程度を確定するために、表4(訳注:表3の誤植)にまとめられた評価(診断に至った評価の一部として行われていない場合)が推奨される。POT1関連のがんの大部分は、成人期に診断される。したがって、スクリーニングは18歳から始めるべきである。
表3. POT1腫瘍易罹患性素因を持つ個人の初期診断後の推奨評価項目
系統/懸念事項 | 評価 | コメント |
---|---|---|
皮膚黒色腫 | 皮膚科医による全面的な皮膚検査 | 18歳以降 |
慢性リンパ性白血病 |
|
18歳以降(サーベイランス参照) |
リンパ節腫脹に対する全身MRIのレビュー | 血管肉腫のスクリーニングまたはその他の理由でMRIを受ける人の場合 | |
血管肉腫 (心臓および乳房を含む) |
全身MRIを考慮 | 18歳以降
|
脳腫瘍(神経膠腫) | 造影剤を使用した脳MRI | 18歳以降 |
LFS=Li-Fraumeni症候群、LFL=Li-Fraumeni様症候群
症状の治療
POT1-TPD腫瘍の治療は、標準的な診療で使用されている治療法に従う。
サーベイランス
POT1-TPDの個人に対するサーベイランスのための公表されたガイドラインはない。個々のサーベイランス方法に関する判断は、POT1-TPDの新たな表現型のスペクトラム、ならびに罹患者の病歴および家族歴に基づくべきである。さらに、個人は、悪性疾患の一般的な徴候や症状について教育を受け、気になる所見があれば医師の診察を受けるように助言されるべきである。Li-Fraumeni症候群(LFS)およびLi-Fraumeni様(LFL)症候群との類似性から、LFSで使用されるものと同様のスクリーニングを採用することが適切であると思われる。
表4. POT1腫瘍易罹患性素因を持つ個人に対する推奨サーベイランス
系統/懸念事項 | 評価 | 頻度 |
---|---|---|
皮膚黒色腫 | 皮膚の診察 |
|
慢性リンパ性白血病 | 血液検査(分画を含む血算) | 18歳以降、年1回 |
リンパ節を含む総合的な身体検査 | 年1回 | |
リンパ節腫脹に対する全身MRIの結果を評価する | 画像診断を行っている場合(例:LFL基準1を満たす家族の場合) | |
血管肉腫 (心臓および乳房を含む) |
全身 MRI |
|
脳腫瘍(神経膠腫) | 脳MRI2 | 18 歳以降、家族歴に応じて 1~2 年ごとに考慮する。 |
LFS = Li-Fraumeni症候群; LFL = Li-Fraumeni様症候群
(訳注:現在の日本の状況においては、全身MRI検査は実臨床では実施が難しい。)
避けるべき薬剤/状況
現在までのところ、紫外線がPOT1-TPD関連黒色腫の病因に寄与しているという証拠はない。しかし、POT1-TPDの個人は、日焼けマシーンの使用や無防備な日光浴を避けるように助言される必要がある。
放射線がPOT1-TPDの個人に(がん発症の)リスクを増加させるかどうかは、現在のところ不明である。生涯にわたるサーベイランスの必要性から、診断手順における放射線を避け、代わりにMRIまたは超音波検査を推奨することは妥当だと思われる。
リスクを有する血縁者の評価
POT1関連がんのスクリーニングで恩恵を受ける人を特定するために、家族内のPOT1病的バリアントの遺伝学的検査によって確定診断者の第一度近親者(親、きょうだい、子)の遺伝的状態を明らかにすることは適切である。POT1腫瘍易罹患性素因(POT1-TPD)に関連するがんを早期に発見することで、タイムリーな介入が可能となり、最終的な転帰が改善される可能性がある。
一般的に、POT1-TPDの遺伝学的検査は、18歳未満のリスクのある人には推奨されない。しかし、家族に早期発症のがんの病歴がある場合には、遺伝子の検査を検討すべきである。POT1の病的バリアントを持つ非罹患者については、18歳から(表3参照[訳者注:表4の誤植])または家族の中で最も早い診断よりも2~5年早くから、スクリーニングを開始すべきである。したがって、家族の中に早期がんの病歴がある場合には、18歳以前の検査も必要となる。
リスクのある親族の検査に関する課題については、「遺伝カウンセリング」を参照のこと。
研究段階の治療
米国ではClinicalTrials.govを、欧州ではEU Clinical Trials Registerを検索すると、さまざまな疾患や症状を対象とした臨床試験の情報が得られる。注:この疾患に対する臨床試験が行われていない場合もある。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
POT1腫瘍易罹患性素因(POT1-TPD)は、常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式で遺伝する。
家族構成員のリスク
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の同胞のリスクは、発端者の両親の遺伝的状況によって異なる:
発端者の子
他の家族構成員
他の血縁者へのリスクは、発端者の両親の状態によって異なる。親が生殖細胞系列のPOT1病的バリアントを持っている場合、その親の血縁者にリスクがある可能性がある。
関連する遺伝カウンセリング上の諸事項
早期診断・早期治療を目的としたリスクのある親族の評価に関する情報は、「管理」の「リスクのある親族の評価」を参照してください。
発症前遺伝学的検査(すなわち、無症候性で、リスクのある人における遺伝学的検査)
未成年者における発症前遺伝学的検査(すなわち、18 歳未満の無症候性のリスクのある人の検査)
POT1-TPDの診断が確立されている家系では、年齢に関係なく、症状のある人の検査を検討するのが適切である。
遺伝的腫瘍のリスク評価とカウンセリング。
遺伝学的検査の有無にかかわらず、がんのリスク評価を通じてリスクのある個人を特定することの医学的、心理社会的、倫理的影響についての包括的な説明については、Cancer Genetics Risk Assessment and Counseling - for health professionals(PDQ®の一部、米国国立がん研究所)を参照のこと。
家族計画
出生前診断と着床前の遺伝学的診断
家系内におけるPOT1病的バリアントが同定されていれば,出生前診断および着床前の遺伝学的診断は可能である。
医療の専門家の間や家族内においても,出生前診断に対する考え方の相違が存在しうる。ほとんどの施設では出生前診断を行うか否かの決断は両親に委ねているが、これらの問題を議論することは有益である。
(訳注:日本ではPOT1腫瘍易罹患性素因における出生前診断および着床前診断は行われていない)
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分子遺伝学
分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。
表A.POT1 腫瘍易罹患性素因: 遺伝子とデータベース
遺伝子 | 染色体座位 | タンパク質 | HGMD | ClinVar |
---|---|---|---|---|
POT1 | 7q31.33 | テロメア保護タンパク質 | POT1 | POT1 |
データは以下の標準的な文献から作成されている:遺伝子はHGNC、染色体座位はOMIM、タンパク質はUniProt。リンクが張られているデータベース(Locus Specific, HGMD, ClinVar)の説明はこちらをご覧ください。
表B. POT1腫瘍易罹患性素因に関するOMIMの情報(OMIMで全てを見る)
606478 | PROTECTION OF TELOMERES 1; POT1 |
615848 | MELANOMA, CUTANEOUS MALIGNANT, SUSCEPTIBILITY TO, 10; CMM10 |
616568 | GLIOMA SUSCEPTIBILITY 9; GLM9 |
分子生物学的病因
POT1は、テロメア保護タンパク質1(POT1)をコードしており、テロメア関連タンパク質複合体(シェルタリン)の他の構成要素と協働してテロメラーゼのテロメアへのアクセスを制御するとともに、DNA損傷反応を抑制している。POT1はテロメアDNAの一本鎖部分と相互作用するが、この相互作用はPOT1がTPP1と結合することで強化される[Gong et al 2020]。このタンパク質は4つの主要なドメインを含んでいる[Gong et al 2020]。
一本鎖DNA結合ドメインやTPP1結合ドメインが破壊されると、テロメアが長くなることが示されており、これが3つの推測されるメカニズムによって腫瘍化を促進すると考えられている。
POT1の病的バリアントは、テロメアを長くすることで、テロメラーゼの活性化(全癌の約85%に認められる)やテロメアの長くする代替手段を必要としなくなる可能性がある。これらの腫瘍発生のメカニズムはいずれも証明されていない。
疾患の原因となるメカニズム。機能喪失型。ハプロ不全が全体的なテロメア伸長とその結果生ずるテロメアの脆弱性と機能不全のメカニズムであると考えられている[Chen et al 2017, Rice et al 2017, Gong et al 2020]。
POT1に特化した実験室の技術的考察。テロメア長の検査は、POT1バリアントの特徴把握に使用できる可能性があり、将来の補助的な臨床検査アッセイを提供することができる可能性がある[Aoude et al 2014, Robles-Espinoza et al 2014]。しかし、この分析は現在のところ広く利用できない。
表5. 注目すべきPOT1バリアント
参照配列 | DNA塩基変化 | 予測される タンパク質の変化 |
コメント(参考文献) |
---|---|---|---|
NM_015450.2 NP_056265.2 |
c.349C>T | p.Arg117Cys | LFLおよび家族性心臓血管肉腫を持つ3家系で報告されている[Calvete et al 2015] |
c.809G>A | p.Ser270Asn | イタリアのロマーニャ地方での創始者バリアント[Shi et al 2014] | |
c.1127A>G | p.Gln376Arg | このバリアントを持つ人のCLLに対する3.6倍のリスク上昇が報告されている[Speedy et al 2016] |
CLL = 慢性リンパ性白血病、LFL =Li-Fraumeni様
表に記載されているバリアントは著者から提供されたものです。GeneReviewsのスタッフは、バリアントの分類を独自に検証していません。
GeneReviewsはHuman Genome Variation Society (varnomen.hgvs.org)の標準命名規則に従っている。命名規則の説明についてはクイックリファレンスを参照。
がんと良性腫瘍
POT1の体細胞バリアントは、アグレッシブな慢性リンパ性白血病(CLL)で頻繁に確認されている[Ramsay et al 2013]。POT1バリアントはCLLの発症初期に発生するため、疾患進行のドライバーとして機能していると考えられている。ヘテロ接合性の消失はほとんど起こらない[Ramsay et al 2013, Calvete et al 2015]。
Gene Reviews著者: Marie-Louise Henry, MS, CGC, Jenae Osborne, MS, CGC, Tobias Else, MD.
日本語訳者:田辺記子(埼玉医科大学総合医療センター)、平田真(国立がん研究センター中央病院)GeneReviews最終更新日: 2022.3.10. 日本語訳最終更新日: 2023.8.16.[in present]