[Synonyms:OFD1,OrofaciodigitalSyndromeⅠ]
Gene Reviews著者: V Reid Sutton, MD.
日本語訳者:佐藤康守(たい矯正歯科)、清水健司(静岡県立こども病院遺伝染色体科)
GeneReviews最終更新日: 2023.6.15. 日本語訳最終更新日: 2023.11.16
原文: PORCN-Related Developmental Disorders
PORCN関連発生障害は、皮膚、四肢、眼、顔面を中心に、中胚葉・外胚葉構造物の発生異常に起因して、複数の器官系にきわめて多様な障害が1つのスペクトラムとして現れる疾患である。症候の現れ方は罹患者間で大きく異なり、臨床症候の一部のみを呈する例が多い。出生時にみられる皮膚症候としては、皮膚の萎縮性ないし低形成性領域、皮膚欠損、軟らかく黄色ないしピンク色の皮膚結節として現れる真皮内の脂肪結節、色素性変化などがある。後の段階になると、皮膚・粘膜の疣状乳頭腫がみられることもある。爪は、線状隆起、異形成ないし低形成であったりする。毛髪は疎ないし欠損することがある。四肢の奇形としては、乏指と合指、ならびに裂手裂足がある。眼の発生異常としては、無眼球/小眼球、虹彩や脈絡網膜のコロボーマ、鼻涙管奇形などがある。頭蓋顔面所見としては、顔面非対称、鼻翼の切れ込み、口唇口蓋裂、尖ったオトガイ、小さく折れ曲がりの少ない耳輪などがある。歯の異常としては、無歯症、エナメル質の欠損、形態異常歯などがある。時にみられる症候としては、腹壁の欠損、横隔膜ヘルニア、腎奇形などがある。精神運動発達は正常であることが多いものの、認知機能障害や行動の問題を伴う例が一部にみられる。
診断・検査発端者におけるPORCN関連発生障害の診断は、特徴的臨床症候がみられることに加え、分子遺伝学的検査にてPORCNにヘテロ接合性病的バリアントが同定されることをもって確定させることが可能である。
臨床的マネジメント症状に対する治療:
疼痛や痒みを伴い、易感染性を示す糜爛性病変に対し、皮膚科医による管理を行う。萎縮性の部位や肉芽組織に対しては、レーザー治療が有効な場合がある。痒みのある病変にはローションを使用する。手術前には、耳鼻咽喉科医により、下咽頭や扁桃の乳頭腫に関する評価を行う。喉頭・気管・食道の大きな乳頭腫については、耳鼻咽喉科医あるいは消化器専門医による管理を行う。手足の奇形に関しては、理学療法/作業療法士や手の外科医へ紹介を行う。眼・腎の構造異常や、横隔膜ヘルニア、腹壁欠損については、標準的管理を行う。視覚障害に対しては、視覚補助具あるいはその他の資源を活用する。歯科的ケア、良好な口腔衛生の維持、摂食のカウンセリングを行う。齲蝕予防の観点からフィッシャーシーラントを検討する。咬合異常については必要に応じ矯正歯科治療、また、必要に応じべニアを装着する。必要に応じ、補聴器や地域の聴覚サービスを利用する。発達サービスや教育支援を受ける。行動の問題については、標準的管理を行う。
定期的追跡評価 :
皮膚科医とともに年に1度の評価を行う。胃食道逆流症、嚥下困難、閉塞性睡眠時無呼吸の症状のモニタリングを来院ごとに行う。特に肋椎分節異常を有する例について、脊柱側彎に関する身体の診査を年に1度行う。眼の検査を年に1度行う。歯科的診査を6ヵ月ごとに行う。必要に応じ、聴覚評価を年に1度行う。栄養面での介入の必要性を判断するための成長と体組成の評価を来院ごとに行う。認知、情動、行動、適応等の問題に関するスクリーニングを年に1度行う。
避けるべき薬剤/環境:
乏汗症を有する例については、極端な暑さへの曝露を避ける。
遺伝カウンセリング
PORCN関連発生障害はX連鎖性の遺伝形式をとる。女性(罹患者全体の90%を占める)は、PORCNの病的バリアントをヘテロないしモザイクで有し、生産男児(罹患者全体の10%を占める)の大多数は、PORCNのde novoの病的バリアントをモザイクで有する。モザイクでないヘミ接合の男性については、大半が生存不能と考えられている。PORCN関連発生障害を有する女性の約95%がde novoの病的バリアントに起因するもので、5%近くが片親からの継承例である。ヘテロ接合の女性罹患者からPORCNの病的バリアントが子に伝達されるリスクは50%であるが、PORCNの病的バリアントを有する男性胎児の大多数は自然流産に至ると考えられている。したがって、分娩の段階で予測される児の性比は、非罹患女児が33%、罹患女児が33%、非罹患男児が33%となる。PORCNの病的バリアントをモザイクで有する女性罹患者の場合、女児にその病的バリアントが継承される確率は、生殖細胞系列に存在するモザイクの比率に応じて、最大で50%になる可能性がある。家系内に存在する病的バリアントが既知の場合は、出生前検査や着床前遺伝学的検査を行うことが可能である。
本疾患を示唆する所見
以下に述べる特徴的外胚葉・四肢所見、ならびにその他の多くみられる臨床所見を有する例については、PORCN関連発生障害を検討する必要がある。
特徴的外胚葉症候(図1参照)
図1:外胚葉症候
黄色味を帯びたピンク色の脂肪ヘルニアの部位(白△)、限局性の皮膚欠損(黒▲)、Blaschko線に沿った高色素沈着/低色素沈着部位(黒→で境界部を示す)、多型皮膚萎縮の低色素領域(○囲み)などがみられる。
爪の表現型は、縦方向の線状隆起がみられるもの(1)から低形成のもの(2)まで幅がみられる。
皮膚の萎縮性ないし低形成性領域の形で現れる。
しばしばBlaschko線に沿って現れ、ピンクないし白色の陥没を呈し、しばしば線維性を思わせる質感を示す。
注:Blaschko線は、胚や胎児における皮膚の発生過程における細胞遊走の経路に一致して現れる線である。
皮膚分節と同様、Blaschko線は、四肢においては線状、体幹においては円周状に現れる。
これは、多くBlaschko線に沿う形で現れる。
顔面、体幹、四肢にこれがみられることがある。
これは、皮膚上の黄色からピンク色の柔らかい結節(本態は真皮内に形成される脂肪性の結節)の形で現れ、体幹や四肢に多くみられる。
特徴的な四肢の奇形[Smith & Hunt 2016](図2ならびに図3参照)
図2:手
合指(黒→)、左手は指が4本しかない乏指で裂手奇形(黒▲)を呈する。
なお、左手は、一部、外科的修復がなされ、外観がいくぶん変化している。
図3:大きな多様性を示す四肢の奇形
足に、合趾(黒→)、裂足(黒▲)、乏趾(3,6,7,8,10,11,12)、横断型遠位四肢欠損(13)などが現れる。
Bostwickら[2016]より引用。
欠手症、半肢症など、四肢の中の手・手首・前腕・肘といった部分より遠位の部分が先天的に欠損した状態。
その他、多くみられる臨床所見
無歯症,エナメル質の欠損/縦方向の裂溝形成,栓状歯
玉砂利状の肌質,光感受性
虹彩コロボーマ,脈絡網膜コロボーマ,小眼球,無眼球,白内障,眼振,斜視
診断の確定
女性発端者
女性発端者におけるPORCN関連発生障害の診断は、これを示唆する所見がみられることに加え、分子遺伝学的検査にてPORCNにヘテロ接合性の病的バリアント(pathogenicとlikely pathogenicの両方を含む)が同定されることをもって確定する(表1参照)。
男性発端者
男性発端者におけるPORCN関連発生障害の診断は、これを示唆する所見がみられることに加え、分子遺伝学的検査にてPORCNにヘミ接合性の病的バリアント(pathogenicとlikely pathogenicの両方を含む)が同定されることをもって確定する(表1参照)。
注:現在までに確認されている男性罹患者の大多数は、PORCNの病的バリアントのヘミ接合を体細胞モザイクで有する例である[Lombardiら2011]。
しかしながら、近年、PORCNのハイポモルフィックバリアントを非罹患者である母親から継承した非モザイクの男性例が複数報告されている[Happle 2021]。
注:(1)アメリカ臨床遺伝ゲノム学会(ACMG)/分子病理学会(AMP)のバリアントの解釈に関するガイドラインによると、「pathogenic」のバリアントと「likely pathogenic」のバリアントとは臨床の場では同義であり、ともに診断に供しうるものであると同時に、臨床的な意思決定に使用しうるものとされている[Richardsら2015]。
本セクションで「病的バリアント」と言うとき、それは、あらゆるlikely pathogenicのバリアントまでを包含するものと理解されたい。
(2)PORCNにヘテロ接合性あるいはヘミ接合性の意義不明バリアントが同定された場合、それは、本疾患の診断を確定するものでも否定するものでもない。
分子レベルの検査は、単一遺伝子検査(配列解析、ならびに遺伝子標的型欠失/重複解析)、染色体マイクロアレイ解析(CMA)、マルチ遺伝子パネル、網羅的ゲノム検査を組み合わせながら、順を追って段階的に進めることになる。
血液サンプルを用いて、PORCNの配列解析を行う。
そこで病的バリアントが検出されなかった場合は、PORCNを含む大きな欠失/重複を検出するためのCMA(もしそれまでに行っていないようであれば)を行う。
あるいはまた、CMAの結果が正常であれば、PORCNの遺伝子標的型欠失/重複解析を行う。
ただ、この方法で遺伝子内の欠失が検出された例は、これまでほとんど報告されていない(表1参照)。
注:(1)女性罹患者の一部、ならびに男性罹患者の大多数が、PORCNの病的バリアントないしPORCNの欠失を体細胞モザイクで有する。
したがって、配列解析を行うにあたっては、モザイクの可能性を頭に入れておく必要がある(「第2段階の検査」を参照)。
(2)47,XXYの核型をもつ男性で、2本のX染色体の一方のみにPORCNの病的バリアントがみられるヘテロ接合の1例が報告されている[Alkindiら2013]。
第1段階の検査でPORCNの病的バリアントないし欠失が検出されなかった場合は、体細胞モザイクの検出感度が上がるようなサンプル、例えば、唾液や罹患組織(皮膚,乳頭腫,外科的切除標本)を用いて、配列解析と欠失/重複解析を行う[Maasら2009]。
第1段階の検査でも第2段階の検査でもPORCNの病的バリアントや欠失が検出されなかった場合は、下記の検査も検討対象になろう。
注:(1)パネルに含められる遺伝子の内容、ならびに個々の遺伝子について行う検査の診断上の感度については、検査機関によってばらつきがみられ、また、経時的に変更されていく可能性がある。
(2)マルチ遺伝子パネルによっては、今このGeneReviewで取り上げている状況と無関係な遺伝子が含まれることがある。
したがって、どのマルチ遺伝子パネルを用いれば、現況の表現型と関連のない遺伝子の意義不明バリアントや病的バリアントの検出を抑えつつ、疾患の遺伝学的原因を特定できる可能性が高いかという点について、臨床医の側であらかじめ検討しておく必要がある。
(3)検査機関によっては、パネルの内容が、その機関の定めた定型のパネルであったり、臨床医の指定した遺伝子を含み表現型を基盤とした定型のエクソーム解析であったりすることがある。
(4)ある1つのパネルに対して適用される手法には、配列解析、欠失/重複解析、ないしその他の非配列ベースの検査などがある。
マルチ遺伝子パネル検査の基礎的情報についてはここをクリック。
遺伝子検査をオーダーする臨床医に対する、より詳細な情報についてはここをクリック。
この場合、臨床医の側で疑わしい遺伝子の目星をつけておく必要はない。
エクソームシーケンシングが広く用いられているが、ゲノムシーケンシングを使用することも可能である。
網羅的ゲノム検査の基礎的情報についてはここをクリック。
ゲノム検査をオーダーする臨床医に対する、より詳細な情報についてはここをクリック。
表1:PORCN関連発生障害で用いられる分子遺伝学的検査
遺伝子1 | 手法 | その手法で病的バリアント2が検出される発端者の割合 |
---|---|---|
PORCN | 配列解析3 | 91%近く4,5 |
CMA 6 | 9%近く4,7 | |
遺伝子標的型欠失/重複解析8 | 稀4,7,8 |
バリアントの種類としては、遺伝子内の小欠失/挿入、ミスセンス・ナンセンス・スプライス部位バリアントなどがあるが、通常、エクソン単位あるいは遺伝子全体の欠失/重複については検出されない。
配列解析の結果の解釈に際して留意すべき事項についてはこちらをクリック。
配列解析を用いた場合、モザイクの病的バリアントは結果が偽陰性となる可能性がある[Grzeschikら2007,Wangら2007,Bornholdtら2009,Maasら2009,Fernandesら2010,Vreeburgら2011,Yoshihashiら2011]。
欠失/重複の大きさに関する判別能力は、使用するマイクロアレイのタイプ、ならびにXp11.23領域のプローブの密度により変わってくる。
最近のCMAは、Xp11.23領域を標的にした設計になっている。
具体的手法としては、定量的PCR、ロングレンジPCR、MLPA法、あるいは単一エクソンの欠失ないし重複の検出を目的に設計された遺伝子標的型マイクロアレイなど、さまざまなものがある。
臨床像
PORCN関連発生障害は、主として皮膚、四肢、眼、顔の中胚葉・外胚葉性組織に発生異常が生じる多系統疾患で、非常に広い表現型の幅を有するスペクトラムである。
症候の現れ方は罹患者によってばらつきがあり、本疾患の特徴的症候をすべて有するような例はほとんどみられない。
PORCN関連発生障害罹患者の90%を女性が占める。
表現型は、組織モザイクのため、男女ともきわめてばらつきが大きい。
どういうことかと言うと、女性についてはX染色体にランダムな不活化(機能的モザイク)がみられ、一方、男性の場合は、その大多数が接合後に生じた体細胞モザイクである。
表2:PORCN関連発生障害:代表的症候の出現頻度
症候 | 出現割合 | コメント | |
---|---|---|---|
皮膚 | 限局性の先天性皮膚欠損 | 95% | |
皮膚の先天性低色素沈着あるいは高色素沈着 | 90%-100% | ||
毛細血管拡張症 | 80%近く | 顔,体幹,四肢 | |
先天性の結節状脂肪ヘルニア | 60%-70% | ||
疣状乳頭腫 | 65% | 皮膚と粘膜(口腔・鼻腔・喉頭・食道・膣・直腸粘膜) | |
玉砂利状の肌質 | 58% | ||
光感受性 | 40% | ||
爪 | 先天性の線状隆起・異形成・低形成の爪 | 80%-90% | |
毛髪 | 走査電子顕微鏡でみられる毛幹の異常 | 80%-90% | |
頭皮の限局性脱毛症 | 80% | ||
針金状の毛髪 | 65% | ||
四肢奇形 | 合指趾 | 70%-90% | |
裂手裂足 | 75% | ||
乏指趾 | 20%-40% | 中央列に多くみられる。 | |
長管骨短縮型欠損 | 50%-80% | ||
横断型四肢欠損 | 15% | ||
歯 | 無歯症 | 80% | |
エナメル質の欠損/縦方向の裂溝形成 | 65% | ||
栓状歯 | 50% | ||
眼 | 虹彩コロボーマ | 50% | |
脈絡網膜コロボーマ | 60% | ||
小眼球 | 45% | ||
無眼球 | 5%-10% | ||
白内障 | 10% | ||
眼振 | 30% | ||
斜視 | 20% |
Bostwickら[2016],Breeら[2016],Gisseman & Herce [2016],Smith & Hunt [2016],Wrightら[2016]
女性罹患者
外胚葉症候
PORCN関連発生障害で最も特徴的な症候は、皮膚の症候である(図1参照)。
皮膚の症候は、Blaschko線に沿う形でみられることが多く、限局性の皮膚欠損/低形成、皮膚の高色素/低色素沈着、結節性脂肪ヘルニアといった形で現れる。
Blaschko線は、細胞遊走経路に基づく線で、四肢では線状、体幹では円周状に現れる。
その形状は、上部脊椎直上ではV字形、腹部では横S字形、胸から上腕までの間は逆U字型と形容される。
皮膚症候は、通常、出生時には明らかにみられるものの、分布状況や重症度については、経時的変化がみられることがある。
体の半側のみに症候が現れた例の報告もみられる[Breeら2016]。
その他の外皮系の異常としては、針金状の毛髪、疎な毛髪、頭皮の部分性脱毛、爪の異常などがある。
爪については、欠損(無爪症)、矮小(小爪症)、時に縦方向の線状隆起・亀裂・V字欠損などを伴う低形成や異形成などの異常がみられる[Breeら2016]。
乳頭腫症
通常、乳頭腫や毛細血管拡張は出生時にはみられず、年齢とともに出現する。
喉頭に大きな乳頭腫ができると、麻酔の際の換気障害や閉塞性睡眠時無呼吸の原因になることがある。
食道や喉頭に乳頭腫が生じると、重度の胃食道逆流症(GERD)の原因ないし増悪因子になるようなこともある。
歯の異常や眼の症候は、どちらも外胚葉付属器の発生異常に起因するもので、これらについては別に後述する。
四肢ならびに骨格の症候
PORCN関連発生障害罹患者の大多数は、出生時に、合指趾、乏指趾、裂手裂足奇形などの四肢奇形を呈する(図2ならびに図3参照)。
こうした奇形は、経時的に変化していくことがなく、中には機能障害を伴うものもある。
これに加え、下肢長の不均衡から橈骨/尺骨あるいは脛骨/腓骨の横断型遠位四肢欠損に至るまで、さまざまな程度の長管骨短縮型欠損が多くみられる。
これより少ない四肢奇形で、出生時からみられ機能障害をもたらすものとしては、屈指症(指趾の拘縮型変形)や短指(指趾の短小化)などがある。
癒合肋骨、二分肋骨、半椎、蝶形椎など、肋椎骨の分節異常が出生時から存在したとしても、こうしたものは身体的診査では発見できないことが多く、胸部ないし脊椎のX線写真を撮って初めて確認が可能となる。
こうした奇形は、乳幼児期には特段問題にならないことが多いものの、成長とともに脊柱側彎を引き起こしていくようなことがある。
脊柱後彎や脊柱後側彎は罹患者の約10%にみられる[Smith & Hunt 2016]。
ただ、こうした分節異常があっても、健康上、特段の問題を引き起こさないことのほうが多い。
恥骨結合離開、これは恥骨結合が異常な形で分離するものであるが、偶発的に発見されることもあれば、思春期や成人期に痛みが生じて明らかになるといったこともある。
左右恥骨間の間隙は、妊娠していない成人で平均4-5mmである。
これが1cm以上になると異常とされ、時に、左右の骨の配列が少し揃わない状況に至る。
罹患者の中には、恥骨結合離開により、歩行時に痛みがあったり、恥骨結合部、下肢、鼠径部、下腹部に痛みを覚えたりする例もみられる。
部位や年齢を問わず、線維性骨異形成(髄腔の骨が、線維マトリックスの中に貯留液を内包する嚢胞が存在する形の線維性骨組織に置き換わる疾患)が生じることがある。
このときの骨は、X線写真では透過像として現れ、従来より「擦りガラス様」と表現されてきた特徴的外観を呈する。
線維性骨異形成は無症状で経過することもあるが、病的骨折を起こして初めてその部位に線維性骨異形成があることがわかるといったこともある。
長管骨の類巨細胞腫が時に報告されている。
これは小児期、思春期、成人期のいずれかに発生する。
これが存在する部位に病的骨折が生じて初めて、その存在が明らかになるというのが一般的である[Selzerら1974,Joannidesら1983,Tanakaら1990]。
この腫瘍は、報告数は少ないものの、現在のところ悪性化した報告はない。
線条性骨症(単純X線写真で多数の線条がみられる状態)が多くみられる。
これは小児期、思春期、あるいは成人期にみられる。
これを示す罹患者が、全身の骨粗鬆症に関して高リスクであるかどうかという点に関しては、今のところよくわかっていない。
注目すべきものとして、PORCN関連発生障害罹患者の1人に、骨粗鬆症に関連して膝蓋骨に自然骨折が生じた例の報告が存在する[Altschulerら2012]。
眼の症候
眼の発生異常が多くみられ、それは出生段階で明瞭に認められる。
PORCNは、眼杯の発生に重要な役割を果たしている[Fuhrmannら2022]。
視力については、症候の重症度により、20/20(訳注:日本で言う1.0のこと)から光覚なしまで、幅がみられる。
報告されている眼の異常としては、無眼球/小眼球、小角膜、虹彩・脈絡網膜・眼瞼のコロボーマ、鼻涙管の異常、白内障(皮質白内障や嚢下白内障)などがある[Gisseman & Herce 2016]。
乳児期に重度の視覚障害があるような例については、斜視や眼振がみられることがある。
頭蓋顔面の症候
顔面の症候には幅がみられ、具体的には、顔面非対称、鼻翼の切れ込み、尖ったオトガイ、小さく折れ曲がりの少ない耳輪などがある。
こうした顔貌の特徴は、出生時にははっきりと認められないことが多いものの、経時的に明らかになっていく(図4)[Gorlinら1963,Goltzら1970]。
図4:顔の症候
尖ったオトガイ、小さな右耳といった顔の症候に注目されたい。
口唇口蓋裂がみられることがあり、その場合、摂食障害につながることがある。
より重度の顔面裂を有する例になると、摂食障害、呼吸障害、視覚障害だけでなく、美容的問題も大きな懸念材料になる[Aschermanら2002]。
口腔や歯の症候
口腔の症候は罹患者の過半数にみられ、硬軟両組織に異常が生じうる。
最も多くみられる問題はエナメル質形成不全で、これがあると齲蝕罹患性が高まることになる。
その他の症候としては、無歯症、過剰歯、叢生(これらが乳歯列、永久歯列の両方について咬合異常の原因となる)、歯の縦方向の裂溝形成、小歯症(小さな歯)、タウロドント(台状根の大臼歯)、癒合歯、歯根形態異常などがある[Balmerら2004,Tejaniら2005,Murakamiら2011]。
また、本症罹患者は歯の萌出状況や、萌出位置に問題が生じることもある。
口腔軟組織の異常としては、広範性歯肉炎、口腔内に生じる脂肪腫や乳頭腫などがある[Wrightら2016]。
消化器ならびに栄養
体重増加不良(罹患者の77%)、低身長(65%)、口腔運動機能障害(41%)、GERD(24%)、胃不全麻痺(35%)、便秘(35%)などの問題がみられる[Motilら2016,Hsuら2019]。
牛乳、大豆、貝類を中心とした食物アレルギーが、罹患者の12%にみられる。
それ以外の発生異常は、消化器系では稀であるが、中には重大な結果を引き起こすものがある。
腹壁欠損や横隔膜ヘルニアがそれである(「先天性横隔膜ヘルニア概説」のGeneReviewを参照)。
乳児期、小児期に重度のGERDがみられ、嘔吐の頻発、不快感/苦痛を伴う摂食障害をきたした例の報告がみられる。
GERDは、食道の乳頭腫に起因することが多い[Brinsonら1987]。
腎尿路生殖器
女性罹患者の大多数に陰唇の低形成がみられる[Adeyemi-Fowodeら2016]。
双角子宮を含むミュラー管奇形を有する罹患者の報告が時にみられる[Reddy & Laufer 2009,Lopez-Porrasら2011]。
腎の構造的異常はそれほど多くはない。
認知ならびに心理
多くの罹患者については、認知面、心理面の発達や知能は正常である。
これまでに、知的障害(罹患者の15%-20%)、行動の問題(20%近く)、情動不安定(40%-50%)、引きこもり行動(65%)などの報告がみられる[Deidrickら2016]。
情動障害、行動障害、適応障害、知的障害を有する例について言うと、その重症度のばらつきの幅は非常に大きい。
脳の構造的異常や二分脊椎の報告[Goltzら1970,Almeidaら1988]もみられるものの、こうしたものはそれほど多くはない。
癲癇の報告もみられる[Kanemuraら2011]。
その他
混合性難聴の報告が時にみられる。
複数の皮膚基底細胞癌を有する1成人女性例が報告されている。
PORCN関連発生障害罹患者に基底細胞癌が多くみられるかどうかは、現時点では不明であるが、今後、この病変への監視の強化を図るとともに、適切な治療を進めていくことが求められている[Patriziら2012]。
家系内における最初の罹患者である女性よりも、次世代の罹患女性のほうが症候の現れ方が重度であるような場合[Heinzら2019]は、最初の罹患女性がPORCNの病的バリアントのモザイク、もしくはX染色体不活化の偏りのどちらかを有している可能性が高い。
別の理由として、重度の症候を有する女性は生殖能力が低下し、自然と、症候の軽度な女性にのみ子どもが生まれるといったことも、可能性としては考えられる。
男性罹患者
男性罹患者の報告は比較的少ないため、男性の「典型的な」症候を示せるだけの包括的なデータは存在しない。
男性罹患者には、女性罹患者に現れるいずれの症候も、出現の可能性がある。
具体的には、特徴的皮膚症候、疎で脆い髪、爪の形成不全、小眼球、合指、裂手裂足奇形、肋椎分節異常、線条性骨症、恥骨結合離開などがある[Wangら2007,Bornholdtら2009,Maasら2009,Lasockiら2011,Lombardiら2011,Vreeburgら2011,Yoshihashiら2011]。
男性罹患者はPORCNの病的バリアントを体細胞モザイクで有する場合が多いため、一般的には女性罹患者より症候が軽度である[Grzeschikら2007,Wangら2007,Lombardiら2011]。
罹患者である父親は、一般に娘より軽症である[Burgdorfら1981]という報告は注目に値する。
この違いは、男性がモザイクであることに起因する。
病理
皮膚の病理組織学的、電子顕微鏡的検討により、以下が判明している。
遺伝型-表現型相関
PORCN関連発生障害の遺伝型-表現型相関に関する情報は少ない。
注:PORCNの欠失を有する女性はすべて、極端に偏ったX染色体不活化を示すが、1塩基バリアントを有する女性については、X染色体不活化がランダムに生じるものもあれば、偏りがみられるものもあるといったことがあるようである[Grzeschikら2007,Wangら2007,Lombardiら2011]。
そのため、一般に、男性のほうが女性より症候の現れ方が軽微である。
しかし、一部、重度の症候を示した男性の例が報告されている[Maasら2009,Bornholdtら2009,Lombardiら2011]。
これらの男性と同じ家系のヘテロ接合女性は、いずれも無症候、あるいは軽度の症候にとどまっていたことから、おそらくこれはハイポモルフィックなPORCNのバリアントであったものと思われる[Bradyら2015,Madanら2017,Happleら2021,Wawrockaら2021]。
浸透率
女性におけるPORCN関連発生障害の浸透率は典型的にはかなり高いが、X染色体不活化の偏り、あるいはハイポモルフィックなバリアントであることにより、時に表現型の重症度が軽症になることがありうる。
男性の大多数はPORCNの病的バリアントのヘミ接合の体細胞モザイクであり、そのため、成人に達するまで特段の医学的注目を引くこともないような軽症例にとどまることも多い。
疾患名について
著者自身は、本GeneReviewのタイトルとした「PORCN関連発生障害」のほうが「巣状皮膚低形成」より好ましいと考えている。
それは、本疾患を有する例すべてに皮膚の低形成がみられるわけではないこと、ならびに、本疾患の有する多器官にきわめてばらつきの幅の大きな症候がみられるという特徴を、「PORCN関連発生障害」のほうがより正確に表現していると考えるからである。
なお、「Gorlin-Goltz症候群」は母斑基底細胞癌症候群の別名である。
訳注:「PORCN関連発生障害」の別名は、「Goltz-Gorlin症候群」であることに注意。
発生頻度
PORCN関連発生障害は、これまでの全世界での報告が約300例と、稀少な疾患である[Goltz 1992,Tadiniら2015]。
そのため、正確な発生頻度は不明である。
PORCNの病的バリアントに関連するものとしては、このGeneReviewで述べたもの以外の表現型は知られていない。
表3:PORCN関連発生障害との鑑別診断に関連してくる遺伝子
遺伝子 | 疾患名 | 遺伝形式 | 鍵となる症候 |
---|---|---|---|
ANAPC1 |
Rothmund-Thomson症候群(RTS) |
AR |
RTSの疹は、生後3-6ヵ月の顔の紅斑・腫脹・水疱形成に始まり、その後、臀部・四肢へと広がる。 |
COX7B |
線状皮膚欠損を伴う小眼球(MLS)症候群* |
XL |
PORCN関連発生障害で悪化していくことが多いのとは好対照である。
|
IKBKG |
色素失調症 |
XL |
|
TP63 |
TP63関連疾患 |
AD |
|
AD=常染色体顕性;AR=常染色体潜性;XL=X連鎖性
*訳注:「MIDAS症候群」と呼ばれることが多いようである。
眼大脳皮膚症候群(oculocerebrocutaneous syndrome)(OMIM 164180)
これは遺伝学的原因が不明の疾患で、小眼球/無眼球、眼窩嚢胞、皮膚の線状色素沈着、皮膚の低形成を特徴とする。
この疾患は、主として男性が罹患し、前頭葉の多小脳回、脳室周囲結節性異所性灰白質、脳梁無形成などの特徴的脳奇形がみられることで、PORCN関連発生障害との鑑別が可能である[Moogら2005]。
その他
生殖器・肛門領域の乳頭腫は、広く一般にみられる。
これを性器疣贅(genital warts)と混同しないようにする必要がある。
注
PORCN関連発生障害罹患者で、蛇行性血管腫と診断される例がみられる[Blinkenbergら2007,Hougeら2008,Happle 2009]。
PORCN関連発生障害の臨床的管理のガイドラインは、今のところ公表されていない。
最初の診断に続いて行う評価
PORCN関連発生障害と診断された罹患者については、疾患の範囲やニーズを把握するため、診断に至る過程ですでに実施済ということでなければ、表4にまとめたような評価を行うことが推奨される。
表4:PORCN関連発生障害:最初の診断後に行うことが推奨される評価
系/懸念事項 | 評価 | コメント |
---|---|---|
外胚葉症候 | 皮膚欠損や皮膚の糜爛に関する皮膚科医による評価。 ドレッシング材やローションが有効な場合あり。 |
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乳頭腫症 |
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四肢・骨格症候 | 肋椎分節異常や横隔膜ヘルニアの有無を調べるための胸部X線写真。 | |
眼の所見 | 虹彩コロボーマ、脈絡網膜コロボーマ、眼振、斜視、白内障の評価を目的とした眼科的検査。 | |
口腔・歯の所見 |
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聴覚 | 聴覚評価。 | |
消化器・栄養 |
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腎尿路生殖器 |
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発達・認知・行動 | 発達、認知、行動の問題に関する神経発達評価。 | |
遺伝カウンセリング | 遺伝の専門医療職1による対応。 | 医学的、個人的な意思決定支援のため、本人や家族に対し、PORCN関連発生障害の特性、遺伝形式、遺伝的影響についての情報提供を行う。 |
家族への支援・情報資源 | 以下の必要性に関する評価:
|
症候に対する治療
生活の質を改善し、機能を最大限に引き出し、合併症を減少させることを目的として、支持療法を行うことが推奨される。
これは関連各科の専門家で構成された多職種チームにより行われることが望ましい(表5参照)。
表5:PORCN関連発生障害:症候に対する治療
症候/懸念事項 | 治療 | 考慮事項/その他 |
---|---|---|
皮膚 | 皮膚欠損の面積が広い例:皮膚科医による定期的ケア,閉鎖ドレッシングや抗生剤のクリームが続発性の感染症予防につながる場合がある。 萎縮性の部位や肉芽組織に対して、レーザー治療が一定の成果を収めたとの報告あり1。 |
糜爛性病変は痛みや痒みを伴い、感染も起こしやすい。 |
搔痒性糜爛:ローションによる管理が有効な場合あり。 | ||
麻酔前の評価 | 全身麻酔に先立ち、耳鼻咽喉科医により、下咽頭・扁桃部の乳頭腫に関する術前評価を行う。 気管内挿管時に合併症を起こす可能性がある乳頭腫は、事前の切除もしくは麻酔科医との連携が必要になる。 |
注:乳頭腫の状態は経時的に大きく変化するため、評価は、処置の直前数ヵ月以内に行う必要がある。 乳頭腫は脆く、出血しやすいことがある。 そのため。乳頭腫がある場合は、気道の扱いを可能な限り丁寧に行う(具体的には、直達喉頭鏡ではなくファイバー気管支鏡で挿管を用いる)2。 |
乳頭腫症 | 乳頭腫の解剖学的位置に従って、耳鼻咽喉科医もしくは消化器医へ紹介する。
|
疣状乳頭腫があることで、呼吸の問題(喉頭や気管の乳頭腫)や胃食道逆流症(食道の乳頭腫)などの重大な疾病を引き起こす可能性がある。 |
骨格 | 合指趾,乏指趾,裂手裂足奇形:機能改善を目的とした作業療法,補助具,外科的介入。 | |
長管骨短縮型欠損:適切な補装具。 | ||
屈指症:理学療法/作業療法。 | ||
肋椎分節異常に伴う続発性の脊柱側彎:追跡評価と管理を目的とした整形外科医への紹介。 | ||
恥骨結合離開に伴う疼痛:抗炎症薬の投与や理学療法。 | こうした対応が奏功しない例については、整形外科医へ紹介。 | |
眼 | 眼瞼コロボーマ;眼専門の形成外科医による修復手術。 | |
虹彩コロボーマ:
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網膜コロボーマ:視覚に急激な変化がみられるときは、眼科医へ即座に紹介。 | 網膜コロボーマは、網膜剥離から失明に至る合併症を招く可能性あり。 | |
小眼球:義眼技工士による補綴的介入で眼瞼裂を大きくすることが可能。 | 外科的処置を追加するかどうか、眼専門の形成外科医と話し合い。 | |
視力低下を有する子ども:視空間認知機能の発達を促すための早期介入プログラムの一環として、視覚教材その他の視覚的資料が有益な場合あり。 | ||
歯 |
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歯に構造的・数的異常があると、咬合異常や歯列の審美障害につながる可能性あり。 | |
聴覚障害 | 耳鼻咽喉科医のもとでの補聴器の使用が有用な場合あり。 | 早期介入サービスあるいは学区を通じて行う地域の聴覚サービス。 |
横隔膜ヘルニア,腹壁欠損 | 小児外科医による標準治療。 | |
腎,集尿系の奇形 |
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発達遅滞,知的障害,行動の症候 |
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定期的追跡評価
現在の症候、支持療法に対する反応、新たな症候の出現状況といったもののモニタリングを目的として、表6にまとめたような評価が推奨される。表6:PORCN関連発生障害:推奨される定期的追跡評価
系/懸念事項 | 評価 | 実施頻度 |
---|---|---|
皮膚 |
皮膚の問題を見越して管理していくことを目的とした皮膚科医の評価。 |
年に1度もしくは必要に応じ。 |
基底細胞癌に関する皮膚科学的評価。 |
必要に応じ。 |
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乳頭腫症 |
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来院ごと。 |
睡眠検査。 |
必要に応じ。 |
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脊柱側彎 |
特に肋椎分節異常を有する例について、脊柱側彎に関する身体的診査。 |
年に1度。 |
脊柱側彎の評価を目的とした脊椎のX線写真。 |
必要に応じ。 |
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眼 |
網膜コロボーマを有する例については、視力の変化と網膜剥離のリスクのモニタリングを目的とした眼の検査。 |
年に1度。 |
歯 |
歯科的評価。 |
6ヵ月ごと。 |
聴覚 |
聴覚評価。 |
年に1度もしくは必要に応じ。 |
消化器,栄養 |
栄養状の介入の必要性を把握する目的で、成長と体組成の評価1。 |
来院ごと。 |
発達,認知,行動 |
発達、認知、情動、行動、適応能力に関する評価。 |
年に1度もしくは必要に応じ。 |
避けるべき薬剤/環境
重度の皮膚症候を有する罹患者の中には、乏汗症(すなわち、耐暑性低下に関し高リスクの状態)を示す例があることから、酷暑環境を避けるための注意が必要となる。
リスクを有する血縁者の評価
リスクを有する血縁者に対して行う遺伝カウンセリングを目的とした検査関連の事項については、「遺伝カウンセリング」の項を参照されたい。
妊娠に関する管理
罹患女性について言うと、妊娠に関する管理は、PORCN関連発生障害で生じうる合併症を頭に入れつつ、産科の標準的原則に則って行うべきである。
ただ、罹患女性の中には、脊柱側彎や恥骨結合離開などの骨格異常を有する例があり、これにより分娩管理が変わってくる可能性がある。
重度の脊柱側彎を有する女性については、呼吸状態の評価や、硬膜外麻酔を行えるかどうかといった評価を行うことも必要であろう。
PORCN関連発生障害の女性の生殖器領域にみられる疣状乳頭腫は、ウイルス由来である可能性が低いことから、経腟分娩によって新生児を感染させてしまうリスクはないという点を、産科医は認識しておく必要がある。
研究段階の治療
さまざまな疾患・状況に対して進行中の臨床試験に関する情報については、アメリカの「Clinical Trials.gov」、ならびにヨーロッパの「EU Clinical Trials Register」を参照されたい。
注:現時点で本疾患に関する臨床試験が行われているとは限らない。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
PORCN関連発生障害はX連鎖性の遺伝形式をとる。
PORCN関連発生障害罹患者の90%を女性が占める。
罹患女性は、PORCNの病的バリアントをヘテロもしくはモザイクで有する。
男性はPORCN関連発生障害罹患者の10%である。
生産男児で分子遺伝学的検査済のほぼ全例が、PORCNの病的バリアントをモザイクで有する[Lombardiら2011]。
非モザイクのヘミ接合男性の大多数は生存不能と考えられている。
家族構成員のリスク
女性発端者の両親
発端者の母親が家系内における最初の罹患者で、かつ、次世代の罹患女性よりも症候が軽度という場合[Wechslerら1988,Kilmerら1993]、母親のほうは、PORCNの病的バリアントをモザイクで有しているか、もしくはX染色体不活化の偏りを示すかのいずれかである可能性が高い。
その場合、父親のPORCN関連発生障害は、娘より軽症であることが多い[Burgdorfら1981]。
発端者でPORCNに生殖細胞系列の病的バリアントが同定された場合*は、PORCN関連発生障害の症候を有するほうの片親に対して、分子遺伝学的検査を行うことが望ましい。
両親いずれのほうもPORCN関連発生障害の臨床症候を有しない場合は、両親に対して分子遺伝学的検査を行うことを検討する。
その理由は、次の通りである。
(1)父親・母親のいずれかが、低頻度モザイクである可能性が考えられるため。
(2)母親がヘテロ接合者ではあるものの、極端に好ましい形でX染色体不活化の偏りが生じた、あるいは、その家系で分離される病的バリアントの分類がそもそも軽症型のものであったといった理由で、母親の症候が軽度にとどまった可能性が考えられるため[Bradyら2015,Happle 2021]。
* 発端者が、PORCNの病的バリアントを体細胞モザイクで有し(すなわち、胚発生の期間に発端者に生じた変異に起因するバリアント)、その結果としてPORCN関連発生障害に至っている場合は、両親とも病的バリアントを有しないことになる。
注:末梢血由来のDNAを用いて両親の検査を行っても、体細胞モザイクの全例で検出可能というわけではない。
そのため、低頻度体細胞モザイクの検出に十分な感度を有する、高カバレッジ次世代シーケンサーやアレル特異的PCRなどの分子遺伝学的検査を検討する必要がある。
親の白血球DNAの検査では、生殖細胞系列のみに存在する病的バリアントは一切検出することができない。
男性発端者の両親
接合後のPORCNの病的バリアントを体細胞モザイクで有する男性発端者の母親が、その病的バリアントを有するということはない。
ハイポモルフィックと思われる病的バリアントを有していたり、好ましい形でX染色体不活化の偏りが生じたりといった理由で、母親のほうは無症候に見えても、その子であるヘミ接合の罹患男性はさまざまな幅の臨床所見を示すといったことが、これまでに報告されている[Bradyら2015,Happle 2021](「遺伝型-表現型相関」の項を参照)。
そのため、父親に対しては、それ以上の評価や検査は不要である。
女性発端者の同胞
女性発端者の同胞の有するリスクは、母親ならびに父親の遺伝学的状態によって変わってくる。
男性発端者の同胞
同胞の有するリスクは、母親の遺伝学的状態によって変わってくる。
PORCNの病的バリアントを継承した男性胎児の大多数は自然流産に至ると考えられるものの、ハイポモルフィックなバリアントであったことに、一部、好ましい形でのX染色体不活化の偏りも加わって見かけ上は無症候となった母親から、PORCNの病的バリアントが伝達されてヘミ接合の罹患男児が生まれた例が報告されている[Bradyら2015,Happle 2021]。
女性発端者の子
PORCN関連発生障害をもつ女性の子の有するリスクを考える上では、男児は胎生致死と予測されることを頭に入れておく必要がある。
したがって、分娩の段階で子に生じると予想される比率は、非罹患女児が33%、罹患女児が33%、非罹患男児が33%となる。
男性発端者の子
PORCN関連発生障害をもつ男性の大半は、PORCNの病的バリアントを体細胞モザイクで有している。
男性発端者の娘は、通常、男性発端者より症候がより重度となる[Burgdorfら1981]。
そのため、息子については、PORCNの病的バリアントを継承するリスクはない。
他の血縁者
発端者の母親もPORCNの病的バリアントを有していた場合、その女性血縁者にあたる人は、症候を伴う場合も伴わない場合も含め、すべてその病的バリアントを有するリスクをもつことになる。
また、発端者の母親の父親にあたる人は、その病的バリアントをモザイクで有するリスクをもつことになる。
関連する遺伝カウンセリング上の諸事項
家族計画
出生前検査ならびに着床前遺伝学的検査
分子遺伝学的検査
家系内に存在するPORCNの病的バリアントが同定されている場合は、PORCN関連発生障害に関する出生前検査や着床前遺伝学的検査を行うことが可能である。
超音波検査
PORCNの病的バリアントを有することが判明した11人の胎児に共通してみられた所見は、子宮内発育不全もしくは平均以下の体重、四肢の奇形、胸腹壁欠損あるいは横隔膜ヘルニアの組合せであった[Maryら2017]。
ルーチンに行われる出生前超音波検査でこうした症候の組合せがみられた場合は、もともとリスクが判明していなかった胎児において、PORCN関連発生障害の可能性が上昇することになる。
出生前検査の利用に関しては、医療者間でも、また家族内でも、さまざまな見方がある。
現在、多くの医療機関では、出生前検査を個人の決断に委ねられるべきものと考えているようであるが、こうした問題に関しては、もう少し議論を深める必要があろう。
GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報については、ここをクリック。
United Kingdom
Phone: 01242 261332
Email: info@edsociety.co.uk
www.edsociety.co.uk
Phone: 618-566-2020
Email: info@nfed.org
www.nfed.org
Email: info@nfed.org
Ectodermal Dysplasias International Registryy
分子遺伝学
分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。
表A:PORCN関連発生障害:遺伝子とデータベース
遺伝子 | 染色体上の座位 | タンパク質 | Locus-Specific データベース |
HGMD | ClinVar |
---|---|---|---|---|---|
PORCN | Xp11.23 | タンパク質-セリンO-パルミトイル転移酵素ポーキュパイン | PORCN @ LOVD | PORCN | PORCN |
データは、以下の標準資料から作成したものである。
遺伝子についてはHGNCから、染色体上の座位についてはOMIMから、タンパク質についてはUniProtから。
リンクが張られているデータベース(Locus-Specific,HGMD,ClinVar)の説明についてはこちらをクリック。
表B:PORCN関連発生障害関連のOMIMエントリー(内容の閲覧はOMIMへ)
300651 | PORCUPINE O-ACYLTRANSFERASE; PORCN |
305600 | FOCAL DERMAL HYPOPLASIA; FDH |
分子病態
PORCNは、広範な組織で発現し、さまざまなWnt蛋白をパルミトイル化するタンパク質であるタンパク質-セリンO-パルミトイル転移酵素ポーキュパイン(PORCN)をコードしている。
モデル生物にて、PORCNによるWnt蛋白のパルミトイル化は、Wnt産生細胞からの大多数のWnt蛋白分泌やシグナル伝達に必要であることがわかっており[van Amerongen & Nusse 2009,Chenら2012,Clevers & Nusse 2012]、Wntタンパク質のレベルを調整する役割を担っているものと考えられている。
Wntシグナル伝達は、大多数の器官の発生誘導、増殖、形態形成、維持に必要なものである。
Wnt蛋白は、分泌型モルフォゲンとして重要なもので、標的細胞上にある受容体や共受容体と相互作用を行う。
Wnt経路の活性化は、正常な発生の上で重要であり[Clevers & Nusse 2012]、他の非古典的Wntシグナル伝達を活性化する上でも必要である可能性がある[Proffitt & Virshup 2012]。
Porcnが不活化されると、Wnt-3aは培養細胞の小胞体内に留まることになる[Takadaら2006,Clevers & Nusse 2012]。
PORCN関連発生障害の女性の皮膚線維芽細胞を用いた研究では、細胞をリプログラミングする上で、PORCNによるWnt蛋白の活性化が不可欠であることが明らかになっている[Rossら2014]。
マウス細胞やショウジョウバエにおけるオーソログに機能喪失が生じると、Wnt蛋白がWnt産生細胞の小胞体から分泌されなくなり、その結果、下流のWntシグナル伝達に異常をきたす[Tanakaら2000,Takadaら2006]。
マウス胚においてPorcnの不活化は、胚初期における死亡という結果になることから、原腸胚形成や中胚葉・外胚葉由来構造物の正常な発生に、これが不可欠であることが判明している[Barrottら2011,Biecheleら2011,Liuら2012]。
発生中の皮膚においてPorcnを条件特異的に不活化すると、毛包が形成されないため脱毛症が生じ[Liuら2012]、発育中の四肢では、PORCN関連発生障害罹患者でみられるような骨格の欠損が生じる[Barrottら2011,Liuら2012]。
疾患の発症メカニズム
機能喪失型である。
PORCN特異的な検査技術上の考慮事項
現在までに確認されている男性罹患者の大多数は、PORCNの病的バリアントを体細胞モザイクで有している[Lombardiら2011]。
Gene Reviews著者: V Reid Sutton, MD.
日本語訳者:佐藤康守(たい矯正歯科)、清水健司(静岡県立こども病院遺伝染色体科)
GeneReviews最終更新日: 2023.6.15. 日本語訳最終更新日: 2023.11.16[in present]