Gene Review著者: James Y Garbern, MD, PhD, Grace M Hobson, PhD
日本語訳者: 富永牧子、羽田野ちひろ, 黒澤健司(神奈川県立こども医療センター 遺伝科)
Gene Review 最終更新日:2013.2.28. 日本語訳最終更新日: 2016.7.29
疾患の特徴
PLP1関連中枢神経系ミエリン形成障害の表現型は,ペリツェウス・メルツバッハー病(PMD)から痙性対麻痺2型(SPG)まで多岐にわたる.PMDの典型症例は,乳児期,もしくは小児期早期に,眼振,筋緊張低下,および認知障害を伴って発症する.こうした症状は進行して重度の痙縮と運動失調を呈する.寿命は短縮する.SPG2の症状は痙性不全対麻痺であるが,中枢神経症状を伴う場合もあれば伴わない場合もあり,通常,寿命は短縮しない.表現型は家系内でもばらつきがあるが,通常,同一家系内の徴候にはかなりの一貫性がみられる.女性保因者が軽度から中等度の疾患徴候を示すことがある.
診断・検査
PLP1関連疾患の臨床診断は,典型的な神経学的所見やX連鎖性の遺伝形式に基づいて行われる.また,広汎なミエリン異常を呈するMRI所見に基づいて診断されることも多い.PLP1遺伝子の分子遺伝学的検査は臨床的に行われている.
臨床的マネジメント
症状の治療:
神経内科,内科,整形外科,呼吸器科,胃腸科の専門家からなるチーム医療を行うべきである.治療としては,重度の嚥下障害を呈する患者には胃瘻を造設する.発作には抗てんかん薬を投与する.痙縮には,理学療法,運動,薬物療法(バクロフェン,ジアゼパム,チザニジン,ボツリヌス毒素),装具などによる定期的な管理を行う.また,関節拘縮には手術を行う.脊柱側弯症を有する患者には,車椅子の座席を患者にあったものにしたり,理学療法を行ったりすることも有効である.重症例では手術が必要となることがある.一般には,特別な教育や評価が必要であり,コミュニケーション支援機器が有益である.
続発的合併症の予防:
脊柱側弯症の予防には,車椅子の座席を患者にあったものとしたり,理学療法を行ったりするとよい.
経過観察:
小児期には半年から1年に1回,神経内科的評価と理学的評価を行い,発達速度や,痙縮,整形外科的合併症への経過観察を行う.
遺伝カウンセリング
PLP1関連疾患の遺伝形式はX連鎖性である.新生突然変異が報告されている.PMDの表現型を有する男性は妊孕力がない.SPG2の表現型を有する男性には妊孕力を認めることがある.男性発端者の娘は全員が保因者となるが,息子は変異を受け継がない.女性保因者の息子は50%の確率で変異を受け継ぎ発症する.女性保因者の娘は50%の確率で保因者となる.リスクのある血縁者の保因者診断と,リスクの高い妊娠に対する出生前診断は,家系内のPML1遺伝子の病原性遺伝子変異が同定されていれば可能である.
臨床診断
PLP1関連疾患は,ペリツェウス・メルツバッハー病(PMD)から痙性不全対麻痺2型(SPG)までを含み,幅の広い神経内科学的所見を呈する.表現型は家系内でもばらつきがあるが,通常,同一家系内の徴候にはかなりの一貫性がみられる.
Boulloche & Aicardi [1986],Hodes et al [1993],およびCailloux et al [2000]は,各自が実施した調査におけるPMD患者の臨床徴候をまとめている.この疾患に含まれる表現型を明確な症候群にわけて厳密に分類することは不可能であるが,医学論文で多く用いられている病名を用いてまとめられている(表1).
表1.PLP1関連疾患の範囲
表現型 | 発症年齢 | 神経学的所見 | 歩行 | 会話 | 死亡年齢 |
---|---|---|---|---|---|
重度「先天性」PMD | 新生児期 | 出生時の眼振・咽頭筋力低下・喘鳴・筋緊張低下・重度痙縮±発作・認知障害 | 歩行不能 | なし.しかし,非言語的コミュニケーションや会話への理解は可能である. | 乳児期から20歳代まで. |
古典的PMD | 生後5年間 | 生後2カ月間の眼振・初発症状としての筋緊張低下・痙性四肢不全麻痺・運動失調性のよろめき±ジストニー,アテトーゼ・認知障害 | 歩行可能となる場合でも介助が必要.小児期/青年期に歩行不能となる. | 通常会話可能 | 20歳代から60歳代 |
機能喪失型のPLP1 null症候群 | 生後5年間 | 眼振なし・軽度の痙性四肢不全麻痺・運動失調・末梢性ニューロパチー・軽度から中等度の認知障害 | 歩行可能 | 会話可能であるが,通常,青年期以降に悪化 | 40歳代から60歳代 |
複合型痙性不全対麻痺(SPG2) | 生後5年間 | 眼振・運動失調・自律神経失調症1・痙性歩行・認知障害はわずか,もしくはなし. | 歩行可能 | 会話可能 | 30歳代から60歳代 |
純粋型痙性不全対麻痺(SPG2) | 通常生後5年間.20歳代から30歳代の場合もある. | 自律神経失調症1・痙性歩行・認知障害なし | 歩行可能 | 会話可能 | 正常 |
画像検査
磁気共鳴画像(MRI).中枢神経症状を有する患者の診断には,磁気共鳴画像(MRI)が最も有益である[Nezu et al 1998]
磁気共鳴検査(MRS).磁気共鳴検査(MRS)では,とりわけ機能喪失型のPLP1 null症候群患者において,白質内のN-アセチルアスパラギン酸(NAA)値の減少を認めることがある[Bonavita et al 2001, Garbern & Hobson 2002, Plecko et al 2003].対照的に,PLP1遺伝子重複型では白質内のNAA値が増加することがあり,カナバン病と誤診されることがある[Takanashi et al 2002].PLP1遺伝子重複型では,代謝産物異常がNAAだけでなくグルタミン,イノシトール,クレアチンの値の上昇で現れることが特徴的であり,この特徴はPMDをその他の白質ジストロフィーや脱髄疾患と鑑別する際に有益なことがある[Hanefeld et al 2005].
検査
細胞遺伝学的検査.通常の細胞遺伝学的検査では,PMDの臨床徴候を呈する患者の1%未満にX染色体の腕内重複,もしくはより複雑な再構成を認める[Hodes et al 2000].
分子遺伝学的検査
GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能であるとする. GeneTestsは研究機関から提出された情報を検証しないし,研究機関の承認状態もしくは実施結果を保証しない.情報を検証するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.―編集者注.
遺伝子
PLP1関連疾患 は、PLP1遺伝子の変異によってもたらされる。
臨床検査
注:PLP1遺伝子は約20 kbpほどの長さであるが,FISH法で用いられるプローブは通常,極めて長く(40 kbp),PLP1遺伝子以外の配列も含まれているため,FISH検査でPLP1遺伝子の重複だと考えられたものが,実際はPLP1遺伝子自身は含まれない隣接領域での重複である可能性もある[Lee et al 2006].このため,典型的なPLP1関連疾患の臨床症状が現れている場合には,(PLP1遺伝子の隣接領域に対する発現量測定ではなく),PLP1遺伝子そのものに対する発現量測定を行うべきである.
PLP1遺伝子発現量の変化はアレイCGH法により検出できるが,PCR検査を用いた場合と同様,アレイCGH法では重複したPLP1遺伝子の転座や隣接領域以外で生じた挿入は同定できない.長いDNAプローブ(BACアレイなど)を用いたアレイCGH法では,FISH法と同様,偽陽性や偽陰性が出ることがあるが,これらの方法と比べるとオリゴヌクレオチド・アレイを用いたアレイCGH法は,感度と特異度が高いことが多い.しかし,アレイCGH法で陽性結果が出た場合の確証にはPCR法を用いた解析を用いるべきである.
表2.PLP1関連疾患に対する分子遺伝学的検査
遺伝子1 | 検査方法 | 検出変異2 | 検査方法ごとの変異検出率3 | 検査の利用 | |
---|---|---|---|---|---|
罹患者男性 | 保因者女性 | ||||
PLP1 | FISH法や欠失/ 重複解析4,5 |
欠失/ 重複 |
50%6 | 50~75% | 臨床 |
シークエンス解析7 | 配列変異体 | 30%8 | 脚注9を参照 |
検査結果の解釈
臨床所見がPLP1-関連疾患と合致する男性患者の約20%は、PLP1遺伝子での同定可能な変異を持っていない。このことは、かなずしも常には解析されない領域で変異が起きていることを示唆している(たとえば、もっと上流もしくは下流の領域やイントロン領域など)。もしくは、PLP1関連疾患と臨床症状のよく似た異なる疾患である可能性がある。検査手順
発端者の診断目的
a.臨床的に高い確率で罹患者と思われる患者にコピー数変化を検出した時には、直接の重複なのか挿入によるものか確かめるために、間期核FISHを行う。間期核FISHでは、時折みられる、重複が 異なる遺伝子座に挿入されている場合を同定することができる。また、重複の体細胞モザイクについても同定することができる。
Note: FISHプローブは通常かなりサイズが大きく(>40kbp)約20kbpのPLP1遺伝子の領域外の配列を含むので、FISH検査でPLP1重複の可能性は示すことができるが、実際にはPLP1遺伝子自体を含まないPLP1遺伝子隣接領域の重複を検出することになる[Lee et al 2006]。そのため、もし臨床的に典型的なPLP1関連疾患と考えられるなら、隣接配列ではなくPLP1遺伝子の遺伝子発現量を調べる検査を行うべきである。
b.重複や欠失が同定できなければ、PLP1配列解析を行う。
保因者女性の確定.
保因者女性を確定する場合には,家系内で 病因となっている遺伝子変異が予め同定されていて、その家系特異的変異を検出する必要がある .
もし罹患者男性への検査ができなければ
出生前診断と着床前診断(PGD).リスクのある妊娠に対する出生前診断と着床前診断(PGD)に際しては,家系内で 病因となっている遺伝子変異が予め同定されていなければならない.
注:GeneTests Laboratory Directoryに掲載されている検査機関で検査が臨床的に検査が行われている場合に限り,臨床的に実施されているとするのがGeneReviewsの方針である.こうした掲載には著者,編集者,査読者の意向は必ずしも反映されていない.
遺伝的に関連のある疾患
PLP1遺伝子変異に関連する表現型は,本疾患以外に存在しない.
自然経過
ペリツェウス・メルツバッハー病(PMD)とX連鎖性痙性対麻痺2型(SPG2)は,PLP1遺伝子の変異から生じる臨床像の両極に位置している.PLP1遺伝子変異により中枢神経系の髄鞘形成に異常が生じる.同一家系内にPMDに罹患した男性とSPG2に罹患した男性が観察されている[Hodes et al 1993, Sistermans et al 1998].
重度,もしくは「先天 型」のPMD.重度,もしくは「先天 型」のPMDの発症は出生時,もしくは生後数週間以内である.このような症例では振子様眼振,筋緊張低下,咽頭脱力,および喘鳴を認める.罹患した乳児には 痙攣が生じることがあり,運動障害は重度である.
その後,重度PMDの患児は低身長となり,体重はあまり増えない. 筋緊張低下は後に 四肢の痙性四肢麻痺 に進展するが,極めて重度となる場合が多い.患児は歩行不能であり,上肢をうまく使えないままである.言語表現は極めて限られているが,理解力が優れていることもある.嚥下困難のため経管栄養が必要となることがある.
乳児期,もしくは小児期に死亡することもあるが,多くの場合,誤嚥によるものである.注意深いケアを行えば,20歳代以降まで生存することもある.
古典型PMD.古典型PMDは,Pelizaeus [1885]とMerzbacher [1910]によって初めて報告された.古典型PMDの罹患者男性には眼振が生じることが多いが,生後数カ月まで認識されないこともある.眼振が生じない場合もまれにある.患児には筋緊張低下を認め,4歳までに ふらつき(頭頚部の振戦),運動失調,痙性四肢不全麻痺が生じる.何らかの目的を持った両腕の随意運動がみられることが多い.後天性の場合,歩行には通常,杖や歩行器などの支援機器が必要となるが,小児後期や青年期に痙 性が悪化すると,一般に歩行不能となる.
認知障害もみられるが,重症度の高い患児ほどには悪化せず,言語能力と会話能力の発達がみられることが多い.ジストニア姿勢やアテトーゼのような錐体外路障害が生じることがある.
50歳代や60歳代までの生存が報告されている.
移行型.発症時は中等度であるが,先天性PMDや古典型PMDの重症度となる移行型もみられる.
機能喪失型のPLP1 null症候群.眼振を認めず,主に両下肢を侵す比較的軽度の痙性四肢不全麻痺と,運動失調と,軽度の多発性脱髄性末梢性ニューロパチーを伴う場合,機能喪失型のPLP1 null症候群とされる.PLP1 null症候群の患者では,一般に古典型PMD患者と比較して歩行機能は良好であるが,磁気共鳴分光法から推定される軸索変性のため,進行が速くなる.軸索変性は白質内N-アセチルアスパラギン酸(NAA)の減少によって示される[Garbern et al 2002].
複合型痙性不全対麻痺(SPG2).複合型痙性不全対麻痺(SPG2)では,自律神経失調症(神経因性膀胱など),運動失調,眼振がみられる場合が多い.複合型痙性対麻痺と比較的軽度のPMD(PLP1 null症候群など)を客観的基準で明確に区別することはできない.
純粋型痙性不全対麻痺(SPG2).定義上,このほかの顕著なCNS徴候を認めない痙性不全対麻痺(SPG2)を純粋型とするが,神経因性膀胱などの自律神経失調症が生じることもある.寿命は正常である.
SPG2の男性患者には妊孕能があるが,PMDの男性患者にはない.
神経生理学的検査
視覚,聴覚,体性感覚による誘発電位検査では,それぞれの感覚モダリティの潜時は末梢側で正常~正常付近であるが,中枢側では重度の延長,もしくは消失する.
PLP1遺伝子の機能喪失型アレルや,PMP1特異的領域に影響を及ぼす変異や,幾つかのスプライス部位変異を有する家系を除き[Shy et al 2003, Vaurs-Barrie`re et al 2003],末梢神経伝導速度は正常である.末梢性ニューロパチーを認める場合には中枢神経系障害と比較して軽度であり,伝導速度が軽度に遅延する.伝導速度は手首や肘など,肢の圧迫されやすい部位で顕著に遅延することがある.
ヘテロ接合体.PLP1変異を有する女性では,症状が現れる場合と現れない場合がある.重度の罹患男性のいる家系ではヘテロ接合体の女性にPLP1関連疾患の臨床症状が生じにくいのに比べて,軽度の罹患男性のいる家系ではヘテロ接合体の女性に症状が生じやすいことが幾つかの治験で観察された[Sivakumar et al 1999, Hurst et al 2006].このため,男性での症状の重症度と,ヘテロ接合体の女性での神経症状の生じやすさには逆相関が存在する.
ヘテロ接合体の女性が神経学的徴候を発症するリスクは,家系内の罹患者男性がPLP1 null症候群である場合が最も高く,その次に罹患 男性がSPG2症候群である場合となっている[Hurst et al 2006].神経学的徴候の発症リスクが最も低いのは,PLP1重複のヘテロ接合体を有する場合であり,このような場合には通常,軽症のほうにかたよったX染色体の不活化を認める[Woodward et al 2000].
以下の解釈がなされている.
Hurst et al [2006]はSPG2,もしくはPMDを有する家系を解析し,罹患男性の表現型の重症度と,ヘテロ接合体の血縁者との間にみられる逆相関に対して,統計的な裏付けを見出した.こうした観察は遺伝カウンセリングに際して重要な意義を持っており,この点については「血縁者のリスク」,「男性発端者の同胞」の項で議論する.
症状が現れているヘテロ接合体が発端者であることは少なく,罹患者男性の血縁者を調べていくうちに同定される.
遺伝子型と臨床型の関連
遺伝子型と臨床型の関連が存在する場合がある.
重複を有する患者のほとんどが古典型PMDとなるが,なかには先天性PMDに分類される者もおり,PLP1遺伝子座のコピー数が3つ以上である場合もある[Wolf et al 2005].重複の程度や,切断点や再挿入部位はさまざまであり,ここから臨床像の多様さが説明されると考えられる.多様性を生じさせると考えられるこのほかの原因には,患者の遺伝的背景なども挙げられる.
最重度の臨床症状を生じさせるのは,通常,ミスセンス変異(非保存的アミノ酸置換)やその他のPLP遺伝子の点変異や挿入欠失である.
重症度の低い痙性対麻痺症候群の原因として最多なものは,蛋白構造のうちそれほど重要でないと考えられる部位での保存的アミノ酸置換である.これらの変異部位からアミノ酸の位置と臨床型との間に明瞭な相関関係が示されるわけではない.しかし,アミノ酸残基117-151によってコードされる PLP1遺伝子の特異的部位における変異によって,重症度が低下する傾向がある[Cailloux et al 2000].
これまでPMDは中枢神経系に限った疾患であるとみなされていたが,PLP1遺伝子の欠失などの機能喪失型変異[Raskind et al 1991]や,フレームシフト変異,および開始コドンに影響を及ぼすミスセンス変異を有する患者では,比較的軽度の脱髄性の末梢性ニューロパチーが生じることから,ミエリンプロテオリピド蛋白質(PLP)やDM20(選択的スプライシングによる転写産物,以下の段落を参照のこと)が中枢神経系と同様に末梢神経系でも機能していることが示された.さらに,機能喪失型の表現型では,典型的なPMDにおける表現型と比べると,中枢神経系徴候の重症度は低くなる.機能喪失型の表現型では,主要な運動系と感覚系の中枢神経経路における長さ依存性の変性と,大脳白質でのN-アセチルアスパラギン酸の減少との間に相関がみられる.
PLP1遺伝子は2種類の大きな選択的スプライシング転写物をコードしている.すなわち,完全長の遺伝子によってコードされるミエリンプロテオリピド蛋白質(PLP1)と,117~151の残基をコードするPLP1特異的ドメインをもたないDM20である.末梢性ニューロパチーは比較的軽度の中枢神経系障害と同様,PLP1特異的領域のみに影響を与える変異から生じる[Shy et al 2003].中枢神経系の障害は,機能喪失型の患者でみられるよりも軽症となることがある.浸透率
PLP1遺伝子変異は,男性において完全な浸透度を示す.PLP1はげっ歯類からヒトに至るまでアミノ酸配列が完全に保存されていることから,正常配列からの変異はどのようなものであれ有害である可能性が示されている.
表現促進現象
PLP1遺伝子変異に関しては,表現促進現象の報告はない.
病名
Perizaeus-Merzbacher病は、ズダン親和性白質ジストロフィーとしても知られている。
プロテオリピド蛋白1はこれまでプロテオリピド蛋白と呼ばれていた.主に消化管に類似した遺伝子が発現していることがわかってから,番号がつけられるようになった.
1番目のメチオニンは翻訳後に切断されるため,以前の文献では通常,アミノ酸番号が2番目のコドンでコードされるグリシンから始まっていることに注意すること.
頻度
米国では,全人口におけるPMLの有病率は約20~50万人に1人と推定されている.
ドイツにおける白質ジストロフィーの調査では,PMDの発症率は10万件の生児出産のうち約0.13件であった[Heim et al 1997].
Seeman et al [2003]らは,チェコ共和国において9万人の生児出産のうち1人にPLP1遺伝子の変異が検出されたと報告した.これはチェコ共和国特有の状況を反映していると思われるが,PMDの有病率は一般に認識されているよりも高い可能性があることが示されている.
本稿で扱われる疾患に対する遺伝学的検査の実施可能性に関する最新情報は,GeneTests Laboratory Directoryを参照のこと.―編集者注.
PLP1関連疾患の患者は,初診時に脳性麻痺や非進行性脳症と診断されることが多い.
ペリツェウス・メルツバッハー病(PMD).とりわけX連鎖性疾患の家族歴がある場合,2歳までに生じる眼振,筋緊張低下の初発症状,および脳MRIでの白質異常(内包後脚,中小脳脚と上小脳脚,および内側毛帯と外側毛帯での異常信号など.正常な新生児では,これらはすべて髄鞘化している)が併発していれば,PMDの診断を疑うべきである.神経画像によって同定される白質の遺伝性疾患をもつ児に対する最近の調査では、7.4%がPMDに罹患しており、2番目に多い 白質ジストロフィーであった[Bronkowsky et al 2010]。このことは、PMDが比較的よくみられる疾患であることを示唆している。
PLP1関連疾患に一致する臨床所見を有する男性患者の約20 %では,PLP1遺伝子変異が同定できない.臨床検査で解析が行われない非コード領域にあるPLP1遺伝子変異が発症原因の場合もあるが,別の遺伝子座が原因で類似の臨床症状が生じていることもある.最近,SLC16A2(別名:MCT8)遺伝子の変異によっても,新生児期の筋緊張低下,眼振,発達遅滞,および広汎な低髄鞘化を呈するX連鎖性症候群が生じることが示された[Vaurs-Barrie`re et al 2009].「MCT8変異による甲状腺ホルモン輸送障害」を参照のこと.
FAM126A(別名:HYCC1,HCC,DRCTNNB1A)遺伝子の変異から,先天性白内障,発達遅滞,びまん性の白質ジストロフィーを伴う緩徐進行性の運動失調,脱髄性末梢性ニューロパチーを呈する常染色体劣性の症候群が発症する.このような場合,白質ジストロフィーが生じる領域では,T2強調画像での高信号域とT1強調画像での低信号域が描出され,(このような領域における水分含有量の増加が示されている)[Biancheri et al 2007].
コネキシン46.6をコードするGJC2(旧名:GJA12)遺伝子の変異により,早発性の眼振,運動機能の発達遅滞,運動失調,進行性痙縮,部分発作,軽度末梢性ニューロパチー,びまん性白質ジストロフィーを示すMRI所見を特徴とする常染色体劣性症候群が生じることがわかった[Uhlenberg et al 2004, Bugiani et al 2006, Orthmann-Murphy et al 2007, Salviati et al 2007, Wolf et al 2007,Henneke et al 2008, Sartori et al 2008, Ruf & Uhlenberg 2009].
このほか,イスラエルのベドウィン家系でも常染色体劣性症候群が報告されている.この重度PMDに類似した症候群は,後天性小頭症との相関しており,HSPD1(旧名:HSP60)遺伝子変異により発症する[Magen et al 2008].
このほか,異染性白質ジストロフィー,X連鎖性副腎白質ジストロフィー,クラッベ病,カナバン病などの白質ジストロフィーでは通常,眼振はみられず,MRIに病変の好発部位を認める.X連鎖性副腎白質ジストロフィーでは後頭葉の白質,異染性白質ジストロフィーでは前頭葉の白質に病変が生じることが多い.
こうした白質ジストロフィーでは,神経伝導速度(NCV)や誘発電位が異常となることが多い.中枢神経系の低髄鞘化/白質消失を伴う小児期の運動失調(CACH/VWM)は,運動失調,痙直など,さまざまな視神経萎縮を呈する常染色体劣性疾患である[Pronk et al 2006, Scali et al 2006, van der Knaap et al 2006].表現型には亜急性の乳児型(発症年齢:1歳未満),小児初期発症型(発症年齢:1~5歳),小児後期/若年発症型(発症年齢:5~15歳),成人発症型がある.
経過は慢性進行性であるが,発熱性疾患や頭部外傷後に急激に悪化することがある.CACH/VWMの診断は,臨床所見,頭部MRIでの特徴的な異常所見,および真核細胞翻訳開始因子(eIF2B)の5つのサブユニットをコードしている5つの遺伝子(EIF2B1, EIF2B2, EIF2B3, EIF2B4, and EIF2B5)のうち1つに変異が同定されることに基づいて行われる[Leegwater et al 2001].
アレキサンダー病は,グリア線維酸性タンパク質(GFAP)をコードする遺伝子の変異によって生じる常染色体優性疾患である[reviewed in Johnson 2002].患者には発達遅滞,進行性の痙縮,認知障害,大頭症が現れる.MRIでは特に前頭葉の白質において,T2強調画像で高信号域が示されるが,脳室周囲にはT1強調画像での高信号とT2強調画像での低信号がみられる[van der Knaap et al 2001].
メロシン欠損型先天性筋ジストロフィーの乳児では,大脳白質のT2信号が顕著に増強する.重度の脱力と筋緊張低下を認めるが,眼振はない場合,医師はミオパチーを検討するべきである[Mercuri et al 1995].
進行性多発性硬化症に臨床像が類似している成人発症型の常染色体優性の白質ジストロフィーは,ラミンB1をコードするLMNB1遺伝子の重複によって生じることが示された[Padiath et al 2006].
PRPS1遺伝子の変異によって生じるアーツ症候群は,重度の先天性感音難聴,若年発症型の筋緊張低下,運動発達の遅延,軽度から中等度の知的障害,運動失調,および感染リスクの増大を特徴とするX連鎖性疾患である.視神経萎縮を除くすべての症状は,2歳までに発症する.小児初期に末梢性ニューロパチーの徴候が現れる.MRI画像に白質ジストロフィーを示す所見はみられない.アーツ症候群と報告された2家系の15人の少年のうち12人は,感染症を合併して6歳前に死亡した.保因者女性には,遅発性(20歳以降)に難聴その他の症状が生じることがある.
サラ病(遊離シアル酸蓄積症)の患児には,筋緊張低下,眼振,運動機能や認知機能の発達遅延が生じることがある.PMDでは発作が生じることが多くなるが,サラ病の患児では改善がみられることが多い.臨床症状の重症度は,小児期での死亡の多い永続的な四肢不全麻痺や言語獲得不能を呈する症例から,会話や歩行の開始遅延や軽度の知的障害を伴うが寿命は正常な相対的にみて軽度の症例まで,多岐にわたる.重症児のMRIでは,T2強調画像で必ず高信号を呈する白質に広汎な髄鞘形成異常がみられる.これよりも軽症児では,とりわけ脳室周囲で髄鞘形成が遅延する[Sonninen et al 1999].
先天性の末梢神経の髄鞘低形成,中枢神経の髄鞘形成不全,ワールデンブルグ-ヒルシュスプルング病を伴う症候群であるPCWHは,SOX10遺伝子の切断変異により生じる[Touraine et al 2000,Inoue et al 2002b, Inoue et al 2004].
痙性対麻痺2型(SPG2).L1遺伝子のある種の変異によりL1症候群が生じる.L1症候群にはX連鎖性の痙性対麻痺1型(SPG1),MASA症候群(知的障害,失語症,ひきずり歩行,内転母指),X連鎖性水頭症など,さまざまな臨床型が含まれる.このような疾患患者のMRIでは脳室腫大や脳梁無形成を認めるが,白質ジストロフィーは生じない.
コネキシン47 蛋白質をコードするGJC2(旧名はGJA12)遺伝子の変異により,痙性対麻痺症候群が生じる[Orthmann-Murphy et al 2009].
最初の診断時における評価
PLP1関連疾患と診断された患者の疾患の程度を測るためには,以下の評価が推奨されている.
症状に対する治療
神経内科,内科,整形外科,呼吸器,胃腸科の専門家からなるチーム医療による治療が最適である.
特に重症度が高い患者に対しては,早期から嚥下困難や気道保護へ注意しておくことが肝心である.重度の嚥下障害を有する患者には胃瘻栄養が必要となることがある.
発作は最も重症度の高い(先天性の)患者に限られる.このような患者では常時,脳波所見にてんかん波形が示されるわけではないが,一般にカルバマゼピンなどの抗てんかん薬によって奏効がみられる.
痙直は理学療法や定期的なストレッチ運動などの運動などで管理する.理学療法,運動,装具その他の支援機器と併用して,バクロフェン(髄腔内投与など),ジアゼパム,チザニジンなどの鎮痙薬を使用すると効果的な場合がある.進行した症例では,関節拘縮を軽減する手術が必要となることがある.
重度の脊柱側弯症の結果,とりわけ体位変換時に,肺の合併症や呼吸窮迫が生じることがあり,肺機能を維持するために是正手術が必要となることがある.座席(なかでも車椅子の座席部分)を患者に合うものにしたり,理学療法を行うことで,手術の必要性が低減したり,手術が不要となる場合がある.
PLP1関連疾患の患児には特別な学校教育が必要となることが多い.発達評価を行うと,子どもができることは何かを正確に評価することができる.重度の運動障害があるわりには,実際の子どもの能力が高いこともある.とりわけ視覚障害や聴覚障害のある子どもとのコミュニケーションに際しては,電気的なコミュニケーションツールなどを用いると容易になることがある.
一次病変の予防
車椅子の座席を患者に合うものにしたり,理学療法を行うことにより,脊柱側弯症が予防できることがある.言語や嚥下機能の評価を行えば,誤嚥を予防したり軽減したりすることが可能であり,また,適切な栄養や水分の補給をより安全に行うために,経管栄養が必要な患者がわかる場合がある.
経過観察.
小児期の発達の進行を観察したり,必要に応じて痙直や整形外科的合併症の治療や監視を行うため,半年から1年に1回,神経内科的評価や物理医学的評価を行うとよい.
回避すべき薬物や環境
長期的な疾患経過を促進させる薬剤や環境は特定されていない.
多発性硬化症患者と同様,発熱時などの体温上昇により,神経内科的徴候や症状が一時的に増悪することがある(ウートフ現象).リスクの高い親族への検査
遺伝カウンセリング目的のリスクのある血縁者に対する検査に関連する問題は,「遺伝カウンセリング」を参照のこと.
妊娠期の管理
基底細胞母斑症候群の患者の頭囲は大きいため,罹患している胎児を妊娠している女性は,児頭骨盤不適合のため,早期の誘発分娩,もしくは帝王切開の必要がないかを検査すべきである.
研究中の治療法
米国食品医薬品局が認可した第Ⅰ相試験において、中枢神経組織の幹細胞が近年PMD患者の脳に移植された[Gupta et al 2012]。その手順は許容されうるものであり、髄鞘化が移植領域で確認 されている。
PLP1遺伝子のコピーを過剰に有する患者や重症型の点変異を有する患者では,理論的に,PLP1遺伝子の発現を抑制する薬剤が有効であると考えられる.このタイプの薬剤について,前臨床試験が進行中である.
さまざまな疾患や病態に対する臨床試験に関する情報へアクセスしたい場合には, ClinicalTrials.govを参照のこと.
その他
PMDやSPG2に対する治療に関しては,成功の有無を問わず,比較試験の報告はない.
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
PLP1関連疾患の遺伝形式はX連鎖性である.
患者家族のリスク
男性発端者の両親
男性発端者の同胞
男性発端者の子
典型的なPMD男性には妊孕性がないが,痙性対麻痺の患者男性は子どもをもつ可能性がある.罹患者男性はPLP1遺伝子変異を娘全員に伝えるが,息子には伝えない.
その他の男性発端者の血縁者
発端者の母方の伯/叔母とその子どもに保因者リスク,もしくは発症リスクがある場合がある(発端者の母親の性別,家族関係,保因者状態に基づく).罹患者男性の重症度が低い場合には,ヘテロ接合体の女性に神経徴候(通常,成人発症型の痙性不全対麻痺)が現れる可能性が高くなる.
保因者診断
ヘテロ接合体の神経機能は通常,正常であるが,軽度から中等度の疾患徴候が現れることがある.
家系内で病原性PLP1遺伝子変異が同定されている場合,分子遺伝学的検査を通じて保因者の同定が可能である.
遺伝カウンセリングに関連した問題
表現型の多様性.リスクのある男女は同一の親族や同胞間でもさまざまな表現型が共存していることに留意することが肝要である.このため,男性の表現型が軽症化している家系では,子どもの表現型が重症化するリスクがある.
遠位部に挿入された重複.まれに遠位部に挿入された重複からPLP1関連疾患が生じることがあるが,遺伝形式がX連鎖でない場合もあるため,遺伝カウンセリングで困難な問題が生じやすい[Hodes et al 2000, Inoue et al 2002a].
家族計画
DNAバンキング.DNAバンキングは,将来の使用のために,通常は白血球から調整したDNAを貯蔵しておくことである.検査手法や,遺伝子,変異,疾患への理解は将来改善する可能性があり,患者のDNAを貯蔵しておくことは考慮されるべきである.DNAバンキングを行っている機関一覧を参照のこと.
出生前診断
家系内でPLP1遺伝子の変異が同定されている場合,保因者である妊娠女性に対する出生前診断が可能である[Woodward et al 1999, Regis et al 2001].通常の方法では,胎生週数約10~12週の絨毛生検(CVS),もしくは通常胎生週数約15~18週に行われる羊水穿刺で採取した胎児細胞のDNA解析,もしくは細胞遺伝学的検査を行って,胎児の性別を判定する.胎児が男性ならば,既知の病原性遺伝子変異に対して,胎児細胞のDNAの解析を行うことができる.同一の親族や同胞間でもさまざまな表現型が共存していることが多いため,罹患者胎児の表現型を正確に予測することはできない.このため,男性の表現型が軽症化している家系では,子どもの表現型が重症化するリスクがある.変異を受け継いだ女性同胞は保因者となり,軽度から中等度の疾患徴候が現れることがある.
注:胎生週期とは最終月経の第1日から換算するか,超音波による計測によって算出される.
着床前診断(PGD)
着床前診断(PGD)は原因遺伝子変異が同定されている家系で可能である.
着床前診断は性別の判断に有用であるだけでなく[de Die-Smulders et al 1998],PLP1遺伝子の病原性点変異の選別にも有用である[Verlinsky et al 2006].これまでPLP1遺伝子の重複がある家系で出生前診断が行われたことはないが,連鎖マーカ-や接合点断片を用いて,異常なX染色体を正常なX染色体から区別することは可能であろうと考えらえる.(PCR法を用いた解析で新たに複製されたDNAと重複を区別することは困難であろう.)
注:GeneTests Laboratory Directoryに掲載されている検査機関で検査が臨床的に検査が行われている場合に限り,臨床的に実施されているとするのがGeneReviewsの方針である.こうした掲載には著者,編集者,査読者の意向は必ずしも反映されていない.
分子学的病態生理学とPelizaueus-Merzbacher病(PMD)の遺伝学を振り返るには、Garbern [2007], Woodward [2008], Hobson & Garbern [2012]を参照。
Yool et al [2000] によってヒトと動物モデルでのPLP1変異の特徴がまとめられている。遺伝子内の小さい変異によってもたらされる臨床症状にはかなり幅があり、軽度の形成麻痺と失調から重症痙性四肢麻痺、発作、喘鳴、小児期での致死へと多岐にわたっていた。異なるPLP1変異の臨床的な重症度における多様性を説明づける仮説は、Gow and Lazzarini [1996] とSouthwood & Gow [2001] によって提示されている。ミスセンス変異と遺伝子内の微細欠失は、ミエリンプロテオリピド蛋白質(PLP1)やPLP1アイソフォームのDM20の異常な折り畳み構造の原因となると推定されている。これらの異常な折り畳み構造の蛋白質は細胞内処理経路を通過することができず、小胞体(ER)に蓄積され、細胞質内に到達できず折りたたまれていない蛋白の応答を活性化することができない(UPR)[Southwood et al 2002]。乏突起膠細胞が軸索を髄鞘化しようとするにつれ、もしPLP1とDM20の両方がERに蓄積されていれば、UPR-活性化細胞死が引き続いて起こる。しかし、もしDM20がなく、PLP1のみがERに蓄積されていれば、乏突起膠細胞はいきのびて髄鞘化をおこし、痙性麻痺のようなより重症度の低い状態をひきおこすことになる。
PLP1蛋白の過剰発現は、PLP1遺伝子発現量の増加がきっかけとなっておこるメカニズムと考えられている。実験段階での報告だが、PLP1蛋白発現の増加によって、コレステロールと脂肪がエンドソームとリソソームの構成成分となることとともに、PLP1蛋白の誤った局在がもたらされると示唆されている [Simons et al 2000]。これに加えて、PLP1の遺伝子発現量の増加は、髄液中のN-アスパラグルタミン酸(NAAG)の増加とも関連している[Mochel et al 2010]。このことは、PMDではびまん性の軸索損傷がおきていることを示唆する。このPMDにおける髄鞘化不全と軸索損傷との関連と、他の白質ジストロフィーについては、Mar&Noetzelがまとめている[2010]。
PLP1の欠失と、おそらくPLP1の発現をさまたげるいくつかのスプライス変異によって、軽度の髄鞘欠損とより重度の軸索変性がもたらされている。
いくつかの家系内で多様な表現型がみられているが、これは、まだ解明されていない遺伝的背景もしくは環境要因の結果と推測されている。遺伝的背景の効果に焦点をあてた、興味深い動物モデルの例がある。C3Hマウスの家系では、187番目のイソロイシンがスレオニンとなったミスセンス変異(rumpshaker)によって、寿命が正常(2年未満)な軽症例となった。しかし、C57BL/6の家系では、致死的な症状をもたらすこととなった[Al-Saktawi et 2003]。
遺伝子構造
PLP1は7つのエクソンからなる約15kbpの遺伝子である。2つの主な選択的スプライスによる転写産物をコードしている。完全長の転写産物はミエリンプロテオリピド蛋白(PLP1)をコードしており、転写多型産物はDM20をコードしているが、DM20は117-151残基によってコードされるPLP1特異的領域を欠いたものである。遺伝子の詳細な要約と蛋白の情報については、Table AのGene Symbolを参照のこと。
良性のアレル多型
PLP1における選択的良性(非病原性)のアレル多型は以下にまとめた。
正常な遺伝子産物
ミエリンプロテオリピド蛋白1(PLP1)は、中枢神経組織の髄鞘を構成する主な蛋白質であり、約50%の髄鞘蛋白を形作っている。哺乳類の間では、PLP1は高い保存性を示しており、マウスやラットやヒトのPLP1配列は276のアミノ酸配列で完全に同一である。他の哺乳類でのPLP1でも、ほんの少しの配列が異なるのみである。ミエリンプロテオリピド蛋白に加えて、少なくとも1つの遺伝子産物、アイソフォームDM20がPLP1遺伝子によってコードされている。PLP1とDM20はどちらも4回脂質二重膜を貫通する膜透過蛋白であると予想されている。加えて、この蛋白は、脂肪酸への共有結合のアシル結合を通じて、細胞膜にまで固定されている。PLP1はおそらく、髄鞘の隣接部位を固定していると考えられる。しかし、さらなる機能、選択的機能が存在する可能性もある[Griffiths et al 1998]。
選択的スプライスによる産物である、DM20アイソフォームは、末梢神経組織や他の組織でも確認されている。スプライス多型はエクソン3でみられるが、ここではエクソンの3'側の半分がDM20のmRNAから切り取られており、アミノ酸残基117-151のフレーム内欠失をもたらしている。
PLP1/DM20での、転写後の蛋白質分解切断は、生体内でおきているようである[Bizzozero et al 2002]。PLP1由来のペプチドによって、乏突起膠細胞の有糸分裂誘発が促されているという報告がある[Yamada et al 1999]。加えて、最近、DM20ではなくPLP1では細胞内のシステイン残基において二量体を形成していることが示された[Daffu et al 2012]。この二量体形成は、挿入/欠失と重複いずれの場合でも、PMDの分子的な疾患発症機序に関与している可能性がある。
異常な遺伝子産物
PLP1の重複はミエリンプロテオリピド蛋白(PLP1)の過剰発現をもたらし、中枢神経組織で髄鞘を形成する乏突起膠細胞の機能不全や細胞死をひきおこすと推定されている。正常なミエリンプロテオリピド蛋白を過剰発現したトランスジェニックマウスでは、髄鞘形成不全と中枢神経の脱髄どちらの現象も観察されていた[Griffiths et al 1998, Yool et al 2000]。
Gene Review著者: James Y Garbern, MD, PhD, Grace M Hobson, PhD
日本語訳者: 富永牧子、羽田野ちひろ, 黒澤健司(神奈川県立こども医療センター 遺伝科) Gene Review 最終更新日:2013.2.28. 日本語訳最終更新日: 2016.7.29(in present)