Gene Review著者: Siddharth Srivastava, MD and Sakkubai Naidu, MD
日本語訳者: 吉田誠克(京都府立医科大学 神経内科)
GeneReview 最終更新日: 2015.1.8.語訳最終更新日: 2015.12.22
アレキサンダー病は主に幼児,学童にみられる進行性の大脳白質疾患で平均余命は様々である.遅発型はより緩徐な臨床経過をとる.乳児型が発症者の約42%,若年型が約22%,成人型が約33%である.新生児型も知られている.
診断・検査
アレキサンダー病の診断は臨床所見に基づき,MRI所見およびグリア線維酸性蛋白をコードするGFAPのヘテロ接合体病原性バリアントの決定により確定する.
臨床的マネジメント
症状に対する治療:治療は対症療法が中心で,全身ケアや栄養管理,併発する感染症に対する抗生物質の投与,痙攣のコントロールのための抗痙攣剤(AEDs)の投与,学習障害や認知機能障害に対する評価,必要に応じた理学療法や作業療法が主なものである.
二次性合併症の予防:栄養状態,嚥下機能,側彎の早期徴候に注意する
経過観察:定期検査は成長,消化管機能/栄養補給,整形外科的および神経学的状態,筋力および動作性,会話技能,心理学的合併症に対する詳細な観察を多職種専門分野からなるチームで行う.
遺伝カウンセリング
アレキサンダー病は常染色体優性遺伝形式をとる.発端者の同胞のリスクは発端者の両親の遺伝学的状態による.いずれかの親が患者の場合,あるいはGFAP病原性バリアントをもつ場合は,同胞がGFAP病原性バリアントを受け継ぐリスクは50%である.変異がde novo(通常はde novoである)であれば,発端者の同胞がアレキサンダー病を発症するリスクは低い;しかし,性腺モザイクの可能性は考えられる.出生前の分子遺伝学的検査は家族内で病原性バリアントが明らかな場合は可能である.
診断
アレキサンダー病の臨床症状は非特異的で発症年齢により異なる.
示唆に富む所見
アレキサンダー病の診断は以下に示す臨床および神経放射線学的所見を呈する者に対して疑われべきである.
発症年齢による臨床所見
神経画像所見 白質脳症患者217名に対するMRIの他施設後ろ向き研究[van der Knaapら(2001)]から,MRI所見にて下記の5項目の基準のうち4項目を満たす場合にアレキサンダー病の診断を確立できることが提唱された.
Rodriguezら(2001)はこれらの典型的なMRI所見を示すが,分子遺伝学的検査によるアレキサンダー病の確定診断をされていない患者に対して診断を確定した.
分子遺伝学的に確定されたアレキサンダー病患者を対象にした最近の研究から以下に示すような非典型的なMRI所見が示されている[van der Knaapら2005,van der Knaapら2006]:
注:(1)延髄あるいは頚髄の信号異常または萎縮はGFAPの分子遺伝学的検査を行う根拠となる十分な所見と考えられている[Salviら2005,van der Knaapら2006].(2)非典型的なMRI所見は若年型,成人型アレキサンダー病でみられることが多く,これらの型はより多様な症状が観察されることが示唆される.
診断の確立
アレキサンダー病の診断は発端者のGFAPのヘテロ接合体病原性バリアントの決定により確立される.
分子遺伝学的検査に対するアプローチとして以下のことが挙げられる:
注:複数遺伝子パネルに含まれる遺伝子や利用方法は研究施設や時代に応じて様々である.
WESとWGSに関する注意.(1)偽陰性の確率がゲノム領域により様々である;したがって,ゲノム検査は標的単一遺伝子検査や複数遺伝子検査パネルほど正確ではない可能性がある;(2)ほとんどの研究室では二次的な,より確立された方法を用いて陽性結果を確定している;(3)塩基反復配列伸長やエピジェネティック変化は決定できない;(4)8-10塩基以上の欠失/重複は事実上決定できないであろう[Biesecker & Green 2014]
WMitoSeqに関する注意.(1)血液で低レベルのヘテロプラスミーの病原性mtDNAバリアントは血液から抽出したDNAからは決定が困難であり,骨格筋から抽出されたDNAが必要となるかもしれない;(2)mtDNAの欠失/重複は事実上決定できないであろう.
表1 アレキサンダー病に用いられる分子遺伝学的検査のまとめ
遺伝子 | 検査法 | 本法により決定される病原性バリアントを保有する発端者の割合 |
---|---|---|
GFAP | シークエンス解析1 | 98%2 |
欠失/重複解析3 | 報告なし | |
不明 | NA |
遺伝学的に関連する疾患
GFAP変異に関連する表現型はアレキサンダー病以外には現時点ではない.
臨床記述
アレキサンダー病は主に幼児,学童にみられる進行性の大脳白質疾患である.平均余命は多様である.大部分のアレキサンダー病罹患者は非特異的な神経学的徴候を示す.
典型的には乳児型,若年型,成人型の3つの病型が知られている.新生児期(生後30日以内)に発症する症例は別に「新生児型」として分類することが提唱されている[Springer et al 2000].
乳児型アレキサンダー病はGFAP病原性バリアントが証明された報告例の42%(124/293)を占める.若年型は22%(63/293)を占め,成人型は33%(96/293)を占める.
GFAP病原性バリアントが決定された293例のうち10例(3%)は無症候と報告されている[Stumpf et al 2003, Shiihara et al 2004, Yoshida et al 2011, Messing et al 2012, Wada et al 2013].これらの症例の現在の臨床状態は不明である.
新生児型 Splingerら[2000]は次のような特徴をもつ新生児型の存在を提唱した.
乳児型 乳児型は生後2年未満に発症する.罹患児の生存期間は数週から数年であるが,通常は10代前半を超えることはない.さまざまな症状を呈するが,頻度順に並べると以下のとおりである.
若年型 若年型は通常4歳から10歳の児にみられ,時に10代半ばに認められる.初発症状は時に脳腫瘍のような脳幹の巣症状を思わせるものもある.生存期間は様々で,10歳代前半から20~30歳代までである.罹患児は下記の症状の一つ以上を呈する.頻度順に示すと以下のとおりである.
成人型 成人型アレキサンダー病は最も多様な症状を呈する.若年型に類似するが,より遅発性で緩徐進行性である[Martidis et al 1999,Namekawa et al 2002,Okamoto et al 2002,Brockmann,Meins et al 2003,Kinoshita et al 2003,Stumpf et al 2003].生存期間は発症数年から数十年と様々である.病理解剖にて偶然診断される症例もある.分子遺伝学的に確定された家族内発症例の報告からは無症候性のアレキサンダー病成人例の存在が示唆される[Stumpf et al 2003,Shiihara et al 2004, Messing et al 2012, Wada et al 2013].
遅発型のアレキサンダー病患者13症例の後方視的研究によると脳幹および/もしくは脊髄病変が最も一般的で,症状としては個人間や家族間で多様性はみられるが,眼振,嚥下障害,構音障害,痙性/反射亢進,バビンスキー陽性,歩行障害,筋力低下が出現しうる[Graff-Radford et al 2014].患者で多様にみられる症状をまとめると以下のものが挙げられる:
脳波 脳波所見は非特異的であるが,通常,前頭部優位の徐波を認める.焦点性のてんかん原性放電もみられうる[Gordon 2003].
脳脊髄液検査 アレキサンダー病患者の脳脊髄液検査にてαB-クリスタリンと熱ショック蛋白27の上昇が認められるとされる.分子学的に確定診断された患者の脳脊髄液中にはGFAPの上昇が証明される[Kyllerman et al 2005].
その他 GFAP病原性バリアントをもつ患者にみられる以下に示すその他の所見の因果関係については不明である.
無症候例では,関連のない症状(眼外傷や低身長など)の評価のために施行したMRI所見から偶然本病が疑われ,GFAP病原性バリアントが判明することがある[Gorospe et al 2002,Guthrie et al 2003].フォローアップ研究がないため,これらの症例が無症候のままなのか時間と共に症状が徐々に生じるのかは明らかではない.
組織学的検査 アレキサンダー病の分子遺伝学基盤が定義される以前は,脳生検あるいは剖検にて多数のローゼンタル線維を証明することが確定診断のための唯一の方法であった.ローゼンタル線維はグリア線維酸性蛋白質,ビメンチン,αBクリスタリン,熱ショック蛋白27の凝集体からなる細胞内封入体でもっぱらアストロサイト内に認められる.ローゼンタル線維は病気の進行に応じて大きさと数が増加する.
遺伝子型と臨床型の関連
GFAP病原性バリアントで確定診断された患者数が少数であるため遺伝子型と臨床表現型の関連を結論付けることはできない.現時点では以下の観察があてはまるが,種々の疾患表現型があり,例外は生じうる:
浸透率
浸透率は乳児型と若年型ではほぼ100%と推測される[Li et al 2002,Messing & Brenner 2003a].
無症候性すなわち神経学的異常を認めない若年型アレキサンダー病患者が,以下に示す3症例のように関連のない症状に対する評価の際に診断されることがある.しかし,長期的なフォローアップは報告されていない.
いくつかの症例では,発現度の多様性により不完全浸透のような浸透を示したかもしれない.
アレキサンダー病はまれと考えられている;実際の有病率は報告されていない.最初の患者が報告されて以来,550症例以上の報告がある.GFAP病原性バリアントは293の報告例で確認されている.
本病は多種多様な人種・民族において発症することが知られている[Gorospe & Maletkovic 2006].
アレキサンダー病の臨床症状はしばしば他の神経疾患と重複する.一般的には,大頭症,発達遅滞,痙性と痙攣を示す乳児,および大頭症や痙攣の有無に関係なく脳幹症状と痙性を優位に認める患者では鑑別診断を検討する.
アレキサンダー病の症候は非特異的であるため,有機酸尿症,ライソゾーム蓄積病,ペルオキシソーム生合成異常症,ツェルベーガー症候群スペクトラムで認められる症候と紛らわしい.グルタル酸尿症Ⅰ型(有機酸血症の項参照)や50%のL-2ヒドロキシグルタル酸尿症では,早期に進行する頭部発達が神経学的退行に先行する.痙攣を欠く場合でも,カナバン病は除外すべきではない.アレキサンダー病患者ではこれらの疾患に対する生化学検査が正常である.
白質ジストロフィー.
MRIは白質ジストロフィーを区別するために有用である.アレキサンダー病患者の一連の画像所見における吻尾側方向のミエリン喪失の進展を伴う著明な前頭部優位の白質病変は他の白質ジストロフィーと大頭症をもつ患者のMRI所見と対照的である.アレキサンダー病患者では脳幹と小脳の病変とともに基底核の高信号がみられることがある.X連鎖性の副腎白質ジストロフィー患者の白質病変は頭頂葉および後頭葉で最も強く認められ,前頭部に向かって進展する.白質病変の求心性の拡大はアリルスルファターゼA欠損症(異染性白質ジストロフィー),クラッベ病,カナバン病で認められ,弓状束で始まる.
皮質下嚢胞を伴う巨脳症性白質脳症(MLC).
MLCは生後1年以内の頭部の急激な増大を示す巨脳症(頭囲は4-6SD以上)と緩徐進行性の失調と痙性対麻痺に続く粗大運動発達の軽度遅延を特徴とする疾患である.痙攣はよくみられるが軽度である.認知機能は正常下限から正常である.ジストニア,構音障害,およびアテトーゼは20~30歳代でみられる.頭部MRIでは特に前頭側頭部にみられる皮質下嚢胞の出現を伴うびまん性の脳白質の腫脹を示す.年齢が上がると脳室拡大とびまん性の皮質萎縮がみられる.MLC1に2対立遺伝子の病原性バリアントを認めた場合,その古典的なMLC表現型はMLC1として知られる;HEPACAMの2対立遺伝子の病原性バリアントが原因の場合はMLC2Aとして知られる.MLC1とMLC2Aは常染色体劣性遺伝形式を示す.HEPACAMのヘテロ接合体変異に関連する軽度の表現型はMLC2Bとして知られ,常染色体優性遺伝形式を示す.De novo変異が一般的である.MLC1変異は典型的なMRI変化を示すMLC患者の約75%で認められる;HEPACAM変異は約20%で認められる.
その他
アレキサンダー病に類似した臨床症状を呈する症例として報告された女性において,白質ジストロフィーに対する分子学的検査にて複合体Ⅰのミトコンドリア酵素をコードする核遺伝子であるNDUFV1においてホモ接合体変異が認められた[Schuelke et al 1999].しかし,この患者の脳標本からはローゼンタル線維の存在は認めなかった.この患者は関連のない常染色体劣性神経変性疾患の可能性がある.
ローゼンタル線維はアレキサンダー病に特異的な所見ではない.ローゼンタル線維はアレキサンダー病の神経学的異常所見や明らかな脱髄所見を伴わない患者の剖検例 [Messing et al 2001,Jacob et al 2003]や悪性腫瘍(リンパ腫,卵巣癌),心不全あるいは呼吸不全,糖尿病といった全身疾患患者の剖検例でも認められる.また,陳旧性のグリア瘢痕,毛様細胞性星細胞腫,あるいは空洞壁でも観察される.しかし,アレキサンダー病患者の脳におけるローゼンタル線維の優勢さは他の状態でみられるローゼンタル線維と比べて際立っている.
最初の診断に続いて行なう評価
アレキサンダー病と診断された患者における疾患の程度を確かめるために以下の評価が推奨される
疾患の治療
現時点ではアレキサンダー病に対する特異的な治療法はない.
治療は対症療法が中心で,全身ケアや栄養管理,併発する感染症に対する抗生物質の投与,痙攣のコントロールのための抗痙攣剤(AEDs)の投与が行われる.
学習障害や認知機能障害に対してはアレキサンダー病以外の患者と同様である.
筋力と運動能力を最大限に保つために適切な対処が必要と判断した場合には運動療法ならびに作業療法を検討する.
二次病変の予防
以下を考慮する:
経過観察
年齢に応じて,成長,栄養補給,整形外科的および神経学的な状態,消化管機能,筋力および運動能,会話能力,心理学的合併症に対する詳細な観察を多職種専門分野からなるチームで定期的に行う.
リスクのある親族への検査
発症リスクのある親族への検査に関しては「遺伝カウンセリング」の項を参照.
研究中の治療法
大規模な疾患に対する臨床研究に対する情報についてはClinicalTrials.govを参照のこと.
注:本疾患に対する臨床試験は行われていない.
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
アレキサンダー病は常染色体優性の遺伝形式をとる.
患者家族のリスク
発端者の両親
注:成人型アレキサンダー病と診断された患者の親も罹患患者の可能性があるが,家族歴では明らかにならないことがある.これは家族内の疾患に対する認識欠如,発症前の死亡,患者が遅発発症型あるいは不完全浸透であったことが理由として挙げられる.
発端者の同胞
発端者の子
発端者の他の家族
遺伝カウンセリングに関連した問題
アレキサンダー病のリスクのある無症状の成人患者家族に対する検査は,分子遺伝学的検査にて家族に特異的な病原性バリアントを決定されていれば可能である.このような検査は正式な遺伝カウンセリングに沿って施行されるべきである.検査は無症候の個人に対する発症時期,重症度,臨床病型,進行速度を予測することには有用ではない.非特異的なあるいはあいまいな症候を呈する無症候のat risk者の検査は発症前診断であり,診断検査ではない.
治療法が存在しない成人期発症の疾患に対するリスクのある18歳未満の無症状である個人に対する分子遺伝学的検査は考慮すべきではない.その理由としてまず,やむを得ない利点もなく子供の自律性を否定することになることが挙げられる。さらに、そのような情報が家族内にいきわたることによる不健全な悪影響になりうること、将来の差別のリスクにありうること、そのような情報が引き起こしうる不安に関する懸念も存在する.ただし小児であっても症状があるならば,診断を確定することによる利点がある.
さらなる情報に関しては,成人発症の疾患に対する未成年者の遺伝学的検査に関する米国遺伝カウンセラー学会の基本方針,米国小児科学会,米国臨床遺伝・ゲノム学会の施政方針(小児の遺伝学的検査とスクリーニングにおける倫理と政策の問題)を参照.
家族計画
DNAバンク は(通常は白血球から調製した)DNAを将来の使用のために保存しておくものである.検査法や遺伝子,変異あるいは疾患に対するわれわれの理解が進歩する可能性があるため,罹患患者のDNAの保存は考慮すべきである.
出生前診断
罹患した患者家族においてGFAP病原性バリアントが決定された場合,リスクの高い妊娠に対する出生前診断は,この遺伝子検査あるいは習慣的な出生前検査を提供する臨床検査から利用可能かもしれない.
着床前遺伝子診断(PGD)はGFAP病原性バリアントが罹患した患者家族において決定された場合にその家族内の他の個人に対して利用可能かもしれない.
訳注:アレキサンダー病に対して出生前診断の適応があるとは考えられておらず,日本では行われていない.
Gene Review著者: Siddharth Srivastava, MD and Sakkubai Naidu, MD.
日本語訳者: 吉田誠克(京都府立医科大学 神経内科)
Gene Review 最終更新日: 2015.01.08.日本語訳最終更新日: 2015.12.22
Gene Review著者: Siddharth Srivastava, MD and Sakkubai Naidu, MD
日本語訳者: 吉田誠克(京都府立医科大学 神経内科)
GeneReview 最終更新日: 2015.1.8.語訳最終更新日: 2015.12.22(in present)