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スミス・マゲニス症候群
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検査法 |
検出される異常 |
異常の占める割合1 |
検査実施 |
FISH2 |
17p11.2 欠失 |
〜90% |
臨床 |
シークエンス解析 |
RAI1の配列変異 |
5%〜10% |
注:臨床的にSMSであるが欠失およびRAI1変異を確認できない患者はまだ明らかにされていないSMS様症候群である可能性がある。
発端者の検査手順
遺伝学的に関連する疾患
PMP22遺伝子を含む大きな欠失を持つ人では遺伝性圧脆弱性ニューロパチー(HNPP)のリスクもある。
17p11.2領域の重複のある人ではSMSの欠失の相互組み換えを持ち、表現型、行動がSMSとは異なる。臨床像
自然経過
Smith-Magenis 症候群は身体面、発達面、行動面に特徴的な表現型を臨床上認める(表2)。発症に性差はない。顔貌特徴として、大きく四角い顔、短頭、前額の突出、眉毛叢生、瞼裂斜上、くぼんだ目、広い鼻梁、顔面正中部低形成、短く、低く、鼻尖が大きい鼻、乳児期には小顎であるが、年齢と共に顎は前突し、厚く、テントのように上唇がめくれあがった特徴的な口を認める。
年齢と共に、顔面正中部低形成、相対的に前突した顎、しっかりした眉を伴い、顔貌の特徴は特徴的で粗になる。歯牙異常の頻度は増加する。歯の形成不全(特に小臼歯と長髄歯)は最近報告されている。
SMSは認知および適応機能の程度は様々であり、SMSの患者のほとんどは軽度から中程度の精神遅滞を認める。
行動面の表現型では、睡眠障害、常同、不適応、自傷が含まれ、一般的には18ヶ月以降まで認識されず、幼児期から成人期を通して変化し続ける。睡眠障害は、細分化され短縮した睡眠サイクルによって特徴付けられ、頻繁な夜間活動と早朝覚醒、昼間の過剰な眠気を伴う。SMSの異常な(反転した)メラトニンの日概リズムは、メラトニン合成および分解の異常が睡眠障害の原因の根底にあることが示唆される。
表2. Smith-Magenis 症候群の臨床的特徴
頻度 |
組織 |
所見 |
患者の75%以上 |
頭蓋顔面/骨格 |
-短頭 |
耳鼻科 |
-中耳、咽頭の異常 |
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神経/行動 |
-認知障害/発達遅滞 |
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一般的な特徴 |
-難聴 |
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頻度の少ない |
-心臓欠陥 |
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時々 |
-腎臓/尿路異常 |
乳児期
身体的特徴
胎児期に約50%に胎動の減少を認める。SMSの乳児は一般に正期産で出生時体重、身長および頭囲は正常である。身長、体重増加は乳児期早期から徐々に減少していく。SMS の約20%の子供では、頭囲は年齢に対して3パーセンタイル以下である。
顔面正中部低形成、短く上向きの鼻、テント状の厚くめくれた上唇、小顎症などを特徴とするわずかな顔貌異常は乳児期早期に認めことが可能かもしれない。成長障害の原因となる摂食困難は一般的で、哺乳、嚥下の弱さを伴う口腔運動機能障害、食物嫌悪、胃食道逆流が含まれる。乳児期の筋緊張低下はほぼ全例で報告されており、反射の減弱(84%)および全般的に不活発、無頓着さを伴い、ダウン症候群で認めるものと類似している。
神経行動学的特徴
粗大、微細運動機能は生後一年で遅れていく。感覚統合に関する問題は頻繁に認める。啼泣はめったに見られずしばしば嗄声である。大多数の乳児では年齢の割に喃語や発声の著しい減少がみられる。
両親は通常、生後12-18か月以前には明らかな睡眠障害を認識していない。両親は自分の子供を、ほとんど泣かずに「よく寝り」、「にこにこ」した気質の「完璧」な赤ちゃんであると述べる。しかしながら、最近のアクティグラフィーによる睡眠評価では、睡眠パターンの乱れは早くて9カ月に始まり、乳児期から小児期を通して進行していくことが示唆されている。
幼児期/学童期
身体的特徴
SMSの顔貌は幼児期よりも認識されるようになり、行動面での表現型が出現する。斜視、進行性近視、虹彩異常、小角膜を含む眼球異常が通常認められ、年齢とともに進行する可能性がある。通常は、軽度から中程度の側弯症は胸椎中部に最も多く、4歳以上の患者の約60%に見られる。椎骨異常はほとんど見られない。手や足は小さいままで、低身長(身長<5パーセンタイル)が頻繁に認められる(67%)。著しく扁平かアーチの高い足と異常な歩行運動が通常に観察される。便秘は頻繁に報告されている。
耳鼻科の問題は小児期を通して一般的である。中耳炎は頻繁に起こり(1年に3回以上)、しばしばチューブ留置(85%)や伝音性難聴(65%)のリスクとなる。ポリープ、小結節、浮腫、または部分的な声帯麻痺を含む咽頭の異常は一般的である。鼻咽腔閉鎖機能不全および、音声の機能亢進のを伴わない構造的声帯異常はSMS患者の大多数に見られる。舌の脱力、非対称または限定された運動、両唇の弱い密着(64%)、口蓋異常(64%)、舌突出を伴う開口の姿勢、常習的な流涎を含む口腔の感覚運動機能障害は主な問題点である。抗生物質治療を必要とする副鼻腔炎がしばしば報告される。
高頻度に認める耳鼻科的所見は声の機能障害(嗄声)の生理学的な解釈や、著しい表出言語の遅れの原因となる可能性がある。適切な介入およびサイン/ジェスチャー言語を含む総合的なコミュニケーションプログラムによって、発話は学齢期までに発達する。一方で、構音の問題は残る。鼻音の強さや粗く嗄れた声質を伴うが、発話強度は、急速、またはある程度爆発的にであるが少しずつ上昇するかもしれない。難聴は患者の2/3以上で認める。高コレステロール血症はSMSの患者の50%以上で認められる。
神経行動学的特徴
発達遅延は幼児期には明白となり、年長および成人の大多数は軽度から中等度の精神遅滞がある。認知の分析結果では、順次処理と短期記憶が相対的に弱く、長期記憶および知覚の閉合は相対的に強いことが分かっている。(すなわち、不完全な視覚刺激が完全であると認識される過程:「全体の部分」)
SMSの行動の表現型は幼児期/就学年齢までに明白になり年齢とともに増大する。しばしばライフサイクルの段階である、18-24か月、就学年齢、思春期の開始、と一致する。頭の打ち付けは早くて18カ月に始まることもある。感覚統合問題は小児期を通して存在し持続する。ほとんどのSMSの患者は活動亢進のあるなしにかかわらず不注意が見られる。
不適応行動は一般的であり、家族や介護者にとって主な管理問題である。これらには、頻繁な爆発/癇癪、注意探知(特に大人からの)、衝動性、散漫性、不服従、攻撃性、自傷、および排泄訓練困難などが含まれる。年齢と発達遅延の程度は不適応行動と相関すると同時に、睡眠障害の程度が不適応行動の最も強い予測因子となるようである。
自傷行為(SIB)は2歳以上のほとんどのSMSの患者に起こる。最もよく見られるのは、自分自身を打つ(71%)、自咬(77%)、および皮膚をつまむ(65%)である。全般的なSIBの有病率は年齢とともに増加し、異なるタイプのSIBの数も増加する。異なるタイプのSIBの数およびSIBの程度と知的な機能には性の相関がある。SMS特有の2つの行動、爪を強く引っ張る(onychotillomania 爪甲損傷癖)と体の開口部に異物を挿入する(polyembolokoilamania)は患者の25−30%に観察される。爪を引っ張ることは一般的に小児期後期まであまり問題にならない。手や物を口にするのは小児期初期から持続するようである。
2つの常同行為、痙攣性の上半身圧迫または“自分自身の抱擁”、および、手を舐めてページをめくる(“lick and flip”)
行為は、この症候群の臨床的な診断マーカーとして有効である。さらなる常同症には、物を口にすることや手を口の中に入れること(54%−69%)、歯ぎしり(54%)、貧乏ゆすり(43%)、物を回転させたり振り回す(40%)などがある。
睡眠障害は介護者にとって、自身の睡眠が奪われる可能性のある大きな問題である。睡眠の乱れは幼児期の主な問題となる。SMSの患者調査によると、就眠困難、頻回で遷延する夜間覚醒および日中の過剰な眠気が確認された。年齢が高くなるのに伴い、うたた寝の回数と頻度が増加し、夜の総睡眠時間は減少する。REM睡眠の減少が、睡眠ポリグラフ検査を受けた半数以上で実証された。乳児(<1歳)から8歳までのアクティグラフィーによる睡眠評価は、健康な小児の対照と比較して、SMSにおける睡眠は24時間中夜間の睡眠時間が少ないことを示した。
自傷行為によるけがや身体の開口部への物体の挿入(たとえば膣への挿入)のために、性的および児童虐待を間違って疑われる可能性がある。
青年期
身体的特徴
顔貌はより角ばり、顔面正中部低形成および相対的な顎前突は持続し、眉毛叢生を伴う前頭隆起、太い眉(しばしばボクサーのような)、全体的に粗になる。思春期は一般的に正常期間内に起こるが、思春期早発症および性成熟の遅れも確認されている。
神経行動学的特徴
行動は一般に思春期の始まりとともにエスカレートし、睡眠障害は依然として懸念事項である。開口部異物挿入癖および爪甲損傷癖はよりより一般的になる可能性がある。
成人期
平均余命を正確に決定するための長期的なデータは不十分であるが、生存している最も高齢のSMS患者は現在80代半ばである。主な臓器に合併症がない場合、その平均余命は知的障害の個体群全体のものと変わらないと予想される。
身体的特徴
顔貌は顔面正中部低形成、とがった顎のため相対的な下顎前突を伴い、粗である。側弯症は年齢とともに重症化する。低身長は持続する場合もしない場合もある。行動の爆発、攻撃性および自傷行為は持続する可能性があるが、多くは成人期で行動が比較的「落ち着く」ことが指摘されている。
遺伝型―表現型の相関
17p欠失の親由来が表現型に影響することは証明されておらず、インプリンティングが典型的なSmith-Magenis症候群の表現型の発現において役割を果たさないことを示唆される。
これまで報告されたRAI1変異を持つ患者は、肥満で、低身長を示さず臓器系の合併症を持たないとされる。その他のSMSに関連する全ての典型的な症状はRAI1変異の患者にも認める。17p11.2内に存在する修飾遺伝子の効果は知られていない。
罹患率
出生頻度は1/25,000と推定されているが、恐らく過小評価されている。実際の罹患率は1/15,000に近いかもしれない。患者の大多数は細胞遺伝学の技術の進歩の結果としてこの5-10年間に確認された。
この疾患は世界のすべての民族に確認されている。
鑑別診断
本稿で扱われる疾患に対する遺伝学的検査の実施可能性に関する最新情報は,GeneTests Laboratory Directoryを参照のこと.―編集者注.
SMSは、発達遅滞、乳児期の筋緊張低下、低身長、特有の顔貌および行動的表現型を持つ他の症候群と区別しなければならない。これらの最も一般的なのものは以下であり、細胞遺伝学的(FISH)および分子解析を用いて識別することができる。
・22q11.2欠失症候群(velocardiofacial [VCF] 症候群、DiGeorge症候群を含む)
・プラダー・ウィリー症候群(PWS)
・ウィリアムズ症候群
・ダウン症候群(21トリソミー、新生児期)
・Fragile X syndrome
臨床的には、SMSの多くの子供たちは、言葉の遅れおよび不適応で常同的な行動によって、自閉症または注意欠陥多動性障害(ADHD)、強迫性障害(OCD)、および気分障害などの精神科診断を受けている。
SMSの診断の遅れは一般的である。SMS特異的プローブによるFISHを用いた細胞遺伝学的分析は、以前に染色体検査で「正常」となったSMSの疑いのある患者において必要である。SMSの乳幼児はしばしば、乳児期の筋緊張低下、ダウン症の診断を示唆する顔の徴候(短頭、平坦な顔面正中部、眼瞼裂斜上)および先天性心疾患の所見に基づきダウン症候群であると考えられることがある。示唆的な所見のある子供で21トリソミーが確認できなかった場合はさらにSMS特異的プローブを用いたFISHによる分析が必要である。
臨床的マネジメント
最初の診断時における評価
治療
経過観察
毎年推奨される
・個別教育プログラム(IEP)を補佐するための総合的チーム評価(理学、作業、言語療法の評価および小児科の診察を含む)。定期的な神経発達評価や発達・行動の小児科診察は、チーム評価の重要な補助となりうる。
研究中の治療法
様々な疾患のための臨床試験の情報は ClinicalTrials.gov を検索。
その他
薬物治療は、ある薬物が睡眠や行動の問題を悪化させる可能性があることおよび体重増加を起こすことがあることを認識した上で、個々の基準を熟考するべきである。
遺伝カウンセリング
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
Smith-Magenis症候群は染色体17p11.2上のRAI1遺伝子の欠損または変異により発現する。.
患者家族のリスク
発端者の両親
実質的にSMSの全症例は新生突然変異である。両親の年齢が欠失に関与することを示唆する明らかな証拠はない。
母親のdel(17)(p11.2)モザイクが同定された症例が報告されている。他にも親のモザイク症例が知られているが報告はされていない。
del(17)(p11.2)とSMSを引き起こす家族性の複雑な染色体再構成は稀であるが報告されている。したがって、新規に診断された患者では全例両親の染色体検査を行うべきである。
発端者の同胞
発端者の子
他の家族
発端者の他の家族のリスクは発端者の両親の遺伝的状態に依る。両親に染色体異常があるなら、彼または彼女の家族はリスクがあり染色体検査及びFISHを受けるべきである。
家族計画
遺伝的リスクの評価や出生前診断の利用に関する話し合いは妊娠前に行われるのが望ましい。
保因者診断
発端者の両親に均衡型染色体再構成がある場合、リスクのある家族は染色体検査及びFISHを受けるべきである。
出生前診断
高リスク
通常SMSは17p11.2のde novo欠失の結果であるので、SMSの患者はほぼ単一症例である(すなわち、家族に一人)。家族性の複雑な染色体再構成のまれな例では、妊娠10-12週での絨毛検査(CVS)または通常妊娠15-18週で行われる羊水穿刺により得られる胎生細胞を用いた通常の細胞遺伝学的検査とFISHの併用によってリスクのある妊娠に対する出生前診断が可能である。
注:妊娠週数は最終月経の第1日から換算するか、超音波による計測によって算出される。
低リスク
他の理由による羊水穿刺を受けた女性で予想外の出生前のdel(17)(p11.2)検出が報告されている。通常スクリーニングで母体血中AFP(MSAFP)が低値であったために行われた羊水穿刺によって、出生前に検出された例が少なくとも2例ある。