[Synonyms:CSNK2A関連神経発達症候群]
Gene Reviews著者: Wendy Chung, MD, PhD, FACMG, Volkan Okur, MD, FACMG.
日本語訳者:沼部博直 (JCHO東京山手メディカルセンター)
GeneReviews最終更新日: 2022.6.9. 日本語訳最終更新日: 2024.8.7.
原文: Okur-Chung Neurodevelopmental Syndrome
疾患の特徴
Okur-Chung神経発達症候群(OCNDS)の患者は多くの場合,非特異的臨床症状,言語発達遅滞,運動発達遅滞,知的障害(通常は軽度〜中等度),乳児期にはじまる全身性筋緊張低下,摂食障害,非特異的な顔貌特徴を呈する.発達遅滞は全ての発達領域で生じるが,ほとんどの患者では粗大運動能力に比して言語能力の障害が大きい.知的障害は患者の約3/4で報告されている.より頻度の低い症状としては,脊柱後側弯症,生後の低身長,概日リズム(訳註 サーカディアンリズム: 体内時計による約1日の周期を持つリズム)障害による睡眠障害,痙攣発作,協調運動障害などがある.
診断・検査
OCNDSの診断は,疑わしい症状を有する発端者に分子遺伝学的検査を行うことによりCSNK2A1遺伝子のヘテロ接合性の病的バリアント(訳註: DNAの配列の変化をバリアントと呼び,そのうち病気の原因となる変化を病的バリアントと呼ぶ)が検出されれば確定する.
臨床的マネジメント
症状に対する治療:
摂食障害が持続する場合,摂食療法ならびに胃瘻チューブの留置を考慮する; 低身長で成長ホルモン分泌不全がある場合には(内分泌科医の指導のもと)成長ホルモン療法を検討する;抗てんかん薬による標準的痙攣治療(神経科医の指導のもと); 低ガンマグロブリン血症を認める場合は(免疫専門医の指導のもと)免疫グロブリン経静脈投与を検討する; 筋緊張低下および/または運動協調性障害を有する患者には理学療法/作業療法/リハビリテーション; 標準的な発達支援療法; 脊柱弯曲,便秘,先天性心疾患,腎奇形/腎盂拡張,睡眠障害に対する標準治療
サーベイランス :
診察毎に: 成長指標,成長速度,栄養状態の測定; 持続中の摂食障害/経口摂取の安全性ならびに便秘の兆候の監視; 新規の神経症状(痙攣発作,筋緊張の変化,運動障害,協調運動障害)の評価; 発達,行動ならびに教育支援の必要性の評価; 頻回もしくは異常な感染の形跡ならびに睡眠障害の兆候の監視.
1〜3年毎: 眼科学的評価
遺伝カウンセリング
OCNDSの症状は常染色体顕性遺伝形式で発現し,通常はCSNK2A1遺伝子の新生の(訳註: 親からの遺伝ではない)病的バリアント(訳註: 遺伝子が発症するように変化する)による.従って,他の家系員のリスクは低いと推定される.まれに,OCNDSと診断された患者が罹患した親もしくは血液では低レベルのモザイクである非罹患の親からCSNK2A1遺伝子の病的バリアントを受け継いだ結果として罹患することがある.罹患した家系員にCSNK2A1遺伝子の病的バリアントが確認されれば,出生前検査や着床前遺伝学的検査が可能となる.
診断
Okur-Chung神経発達症候群(OCNDS)の合意が得られた臨床診断基準は発表されていない.
疑い診断症状: 以下の臨床症状を認めた場合にはOCNDSを考慮すべきである.
臨床症状
ならびに,
家族歴 OCNDSは通常,新生の病的バリアントにより生ずるため,ほとんどの発端者(訳註: 最初に発症した患者)は孤発例(すなわち,家族内で1例のみ)である.
OCNDSの診断は,疑わしい症状を有する発端者に分子遺伝学的検査によりCSNK2A1遺伝子のヘテロ接合性の病的(もしくは病的可能性の高い)バリアントが検出されれば確定する(表1参照).
註: (1) ACMG/AMP のバリアント解釈ガイドラインによれば,「病的バリアント」と「病的可能性の⾼いバリアント」という⽤語は臨床上,同義語であり,どちらも診断に使⽤され,臨床上の意思決定に使用いられる [Richards et al 2015].本稿における「病的バリアント」は,全ての病的可能性のあるバリアントを含むものとする. (2) 病的意義不明(訳註: VUS)のヘテロ接合性CSNK2A1バリアントが検出されても,診断は確定も除外もされない.
発達遅滞(DD)の小児や知的障害(ID)の年長者に対する分子遺伝学的検査は,染色体マイクロアレイ解析(CMA: chromosomal microarray analysis)から開始されることが多い.他の検査としては,多遺伝子解析パネルやエクソームやゲノム配列解析が含まれる.註: 単一遺伝子解析(CSNK2A1遺伝子の配列解析と,それに続く遺伝子を標的とした欠失/重複解析検査)は有用であることはまれであり,通常は推奨されない.
ゲノム配列解析も可能となっている.
表1. Okur-Chung神経発達症候群に用いられる分子遺伝学的診断
遺伝子1 | 方法 | 検出される病的バリアント2を有する発端者割合 |
---|---|---|
CSNK2A1 | シーケンス(配列)解析3 | 100%4 |
遺伝子標的 欠失/重複解析5 | 不明6 |
臨床的マネジメント
Okur-Chung神経発達症候群(OCNDS)の患者は,しばしば,非特異的な臨床所見,言語発達遅滞,運動発達遅滞,知的障害,乳児期からの全身性筋緊張低下,摂食障害,ならびに非特異的な顔貌特徴を呈する.
現在までに,51名のCSNK2A1遺伝子の病的バリアントを有する患者が確認されている [Okur et al 2016, Trinh et al 2017, Akahira-Azuma et al 2018, Chiuet al 2018, Colavito et al 2018, Owen et al 2018, Angione et al 2019, Duan et al 2019, Nakashima et al 2019, Martinez-Monseny et al 2020, Wu et al 2020, Seo et al 2020, Wu et al 2021].以下に示す本症候群の表現型の特徴に関する記述は,これらの報告中の36名の臨床データに基づくものである.
表2. Okur-Chung神経発達症候群の代表的特徴
症状 | 割合 | 備考 |
---|---|---|
発達遅滞/知的障害 | 35/351 | 一般的に軽度〜中等度,言語発達遅滞が中心 |
特徴的顔貌 | 29/36 | 丸い顔と短く広い鼻尖 |
行動の問題 | 27/36 | |
筋緊張低下 | 22/36 | 一般的に軽度 |
脳MRI異常 | 11/202 | 非特異的 |
筋骨格系異常 | 15/36 | 脊柱後側弯症,関節弛緩,ヘルニア |
摂食障害 | 14/36 | 乳児期〜小児期 |
生後の低身長 | 14/36 | 一般的に -2〜-3 SD |
体重増加不良 | 13/36 | |
睡眠の問題 | 13/36 | 概日リズムの障害 |
小頭(絶対的/相対的) | 12/36 | |
痙攣発作 | 11/36 | 特定の発作型なし |
運動失調/歩行障害/協調運動障害 | 9/36 |
SD=標準偏差
発達遅滞(DD)と知的障害(ID)
多くの患者は発達全般において遅滞を認める.しかし,言語発達の方が粗大運動発達に比べて遅滞が強い.知的障害も約3/4の患者で報告されている.早期の代表的発達指標の平均的獲得月齢は以下の通りである (図1).
図1.患者が3つの発達指標を達成する平均月齢: 支えなしの定座,独歩,有意の初語.棒グラフ下部のnはそれぞれの指標についてデータが得られた人数を示す.データは以下の文献より得られている.
Okur et al [2016], Trinh et al [2017], Vissers et al [2017], Akahira-Azuma et al [2018], Chiu et al [2018], Colavito et al [2018], Owen et al [2018], Angione et al [2019], Duan et al [2019], Nakashima et al [2019], Martinez-Monseny et al [2020], Miller et al [2020], Quaio et al [2020], Seo et al [2020], van der Werf et al [2020], Wang et al [2020], Wu et al [2020], Stranneheim et al [2021], Wang et al [2021], Wu et al [2021].
行動症状
患者はコミュニケーションが取れれば,優しく幸せであると報告されている.最も一般的な行動の問題は以下の通りである.
痙攣発作/てんかん
患者の約1/3が少なくとも1回の痙攣発作を来したと報告されている.単発発作のみの患者は抗痙攣剤の投与による治療は受けていないが,非誘発性の複数回の発作のある患者は治療を受けている (臨床的マネジメントを参照)
その他の神経症状
胃腸
成長
出生時に小さな患者もいるが,真正子宮内発育不全はまれである.患者の約1/3は低身長 (14/36; 38%)か発育不全 (13/36; 36%)と報告されており,身長と体重の成長指標はいずれも通常 -2〜-3SDである.
1例のみが先天性小頭症であったと報告されている.新生児期を除けば,ほとんどの患者は年齢や性別を問わず後頭前頭頭囲は平均値を下回るものの,正常範囲である.
筋骨格系症状
筋骨格系の最も一般的な問題は,筋緊張低下に関連する脊柱側弯/後弯症と関節弛緩/過伸展である.臍ヘルニアならびに鼠径ヘルニアも報告されている.
睡眠
主として小児期早期の概日リズムの撹乱に起因する睡眠の問題は,家族にとっての課題となりうる.まれに睡眠時無呼吸も来すことがある [Chiu et al 2018, Nakashima et al 2019].
神経学的画像検査
脳MRI検査の所見が得られた患者の半数以上に,非特異的な異常が認められた.複数で報告された異常としては,髄鞘化の遅延(n=3),下垂体前葉の矮小化(n=2)と脳梁の菲薄化(n=2)がある.他に報告された異常な脳所見としては,単純脳回,小脳虫部低形成,大脳萎縮,巨大大槽,小さな嚢胞状封入体を伴う松果体内固形病変,下垂体重複,ラトケ嚢胞,嗅球欠損がある.
その他の関連症状(まれ)
予後
OCNDSは一般的には進行性の疾患ではなく,患者は多くの発達指標を達成する; しかしながら,言語発達障害は長期にわたって残存する可能性がある.OCNDSの寿命が異常であるかは知られていない; 現在のデータに基けば,寿命は本疾患により制限されない.疾患の進行の可能性に関するデータはいまだに限定的である.
遺伝型と臨床型の関連
CSNK2A1遺伝子の病的バリアントの大部分はタンパク質の機能性ドメイン(図2)に位置している; しかしながら現在のデータは遺伝型と臨床型の連関を裏付けるには不十分である.
CSNK2A1バリアントのロリポップ プロット(n=51)と,CSNK2A1 タンパク質(x軸)におけるそれらの位置の2次元表示.⻘く塗りつぶされた円はミスセンスバリアントであり,赤く塗りつぶされた円は機能喪失病的バリアントである.⾦色で塗りつぶされた円は,予測される病的スプライスバリアントである.バリアントの番号はNM_177559.3 に準拠している.
有病率
OCNDSは希少疾患であり,正確な有病率は知られていない.51名の患者のみが文献で報告されており,他の患者も診断はされているが,まだ文献には記載されていない.
遺伝子レベルでの関連疾患
本GeneReviewsで考察されている以外に,生殖細胞系列のCSNK2A1遺伝子の病的バリアントに関連する表現型は知られていない.
Okur-Chung神経発達症候群(OCNDS)により患者の表現型として生じる症状だけでは本疾患を診断するには十分ではないため,鑑別診断としては他の特徴的所見を有しない知的障害を伴う全ての疾患を考慮する必要がある.
Okur-Chung神経発達症候群(OCNDS)の診療ガイドラインは発表されていない.
最初の診断時における評価
OCNDSの診断を受けた患者の病状とニーズを確立するために,(診断の一環として評価が行われていない場合には)表3にまとめた評価を行うことを推奨する.
表3.Okur-Chung神経発達症候群の初期診断後に推奨される評価
器官/懸念項目 | 評価 | コメント |
---|---|---|
体格 | 体重,身長,頭囲測定 | 体重増加不良/発育遅延,小頭症の評価 |
神経系 | 神経学的評価 |
|
筋緊張低下/協調運動障害 | 整形外科/理学療法とリハビリテーション/PTとOTの評価 | 以下の評価を含む:
|
発達 | 発達評価 |
|
精神的/行動 | 神経精神医学的評価 | 月齢12カ月以上: 睡眠障害,ADHD,不安および/またはASDを示唆する所見を含む行動上の懸念のスクリーニング |
筋骨格系 | 整形外科 | 特に成人期の脊柱側弯の評価を含む |
胃腸/摂食 | 胃腸科/栄養科/摂食チーム評価 |
|
眼 | 眼科学的評価 | 斜視と屈折異常の評価 |
心血管系 | 心エコー検査 | 先天性心疾患の有無の評価 |
泌尿生殖器系 | 腎エコー検査を考慮 | 腎奇形と腎盂拡大の有無を評価 |
免疫系 | 免疫グロブリンのベースラインでの定量評価を検討 | 反復性感染および/または異常な重症感染症に罹患している場合 |
呼吸器/睡眠 | 睡眠不足および/または睡眠時無呼吸の兆候や症状の評価 | 睡眠障害外来および/または睡眠解析に紹介することを検討 |
遺伝カウンセリング | 遺伝医学専門家1による | 患者ならびに患者家族にOCNDSの特性,遺伝形式,影響の情報提供を行い,医学的ならびに自発的意思決定の促進に供する. |
家族支援ならびに資源 | 以下の必要性を評価する:
|
ADHD=注意欠如・多動症,ADL=日常生活動作,ASD=自閉スペクトラム症,OT=作業療法,
PT=理学療法
症状に対する治療
表4.Okur-Chung神経発達症候群の症状に対する治療
症状/懸念 | 治療 | 考慮すべきこと/その他 |
---|---|---|
体重増加不良/発育不良 |
|
嚥下障害の兆候や症状がある場合には,臨床的摂食評価および/または嚥下造影検査を早めに行う |
低身長 | 成長ホルモン欠乏症である根拠のある場合には成長ホルモン治療を考慮 | 内分泌科医と協議 |
てんかん | 経験ある神経科医による標準的抗痙攣剤治療 |
|
筋緊張低下/協調運動の問題 | 整形外科/理学療法とリハビリテーション/PTとOT | PTの必要性を考慮 |
DD/ID/行動の問題 | 発達遅滞/知的障害の管理を参照 | |
脊柱側弯症 | 整形外科学的標準治療 | |
便秘 | 必要に応じて,便軟化剤,腸管運動促進剤,浸透圧剤,または下剤 | |
斜視/屈折異常 | 眼科医による標準的治療 | 屈折異常および/または斜視の治療 |
先天性心疾患 | 循環器科医による標準的治療 | |
腎奇形/腎盂拡張 | 泌尿器科医による標準的治療 | |
低ガンマグロブリン血症 | 免疫学専門医による標準的治療 | 免疫グロブリン欠乏症が判明した場合にはIVIG治療を考慮 |
睡眠障害 | 睡眠医学専門家による標準的治療 | |
家族/コミュニティ |
|
アダプテッド・スポーツ(訳註: 個人の発達状況や身体の状態に適応させたスポーツ)やスペシャルオリンピックへの参加を考慮 |
ASM=抗痙攣剤,DD=発達遅滞,ID=知的障害,IVIG=経静脈投与免疫グロブリン製剤,
OT=作業療法,PT=理学療法
発達遅滞/知的障害の管理
以下の情報は、米国における発達遅滞/知的障害のある人に対する一般的な管理推奨事項を示している.標準的な推奨事項は国により異なる場合がある.(訳註: 本項,以下は米国の個別教育プランindividualized education plan (IEP) を中心とした記載のため省略)
運動障害
粗大運動障害
微細運動障害
摂食,身づくろい,着替えや書字などの適応機能に影響を与える微細運動能力の障害には作業療法が推奨される.
口腔運動機能障害は診療毎に評価する必要があり,摂食中の窒息やむせ,体重増加不良,頻回の呼吸器疾患,あるいは他に説明のつかない摂食拒否では,臨床的摂食評価および/または嚥下造影検査を行う必要がある.経口での摂食が安全と評価された児では摂食療法(通常は作業療法士もしくは言語聴覚士により行われる)が,協調性もしくは感覚関連性の摂食障害を改善するために推奨される.食物は安全のためにとろみをつけたり,冷却することもある.摂食機能障害が重度な場合には,経鼻胃管や胃瘻チューブが必要となる可能性がある.
コミュニケーションの問題 表出言語に問題のある患者に対しては,代替コミュニケーション(例: 補助代替コミュニケーション[AAC])の評価を検討する.AACの評価はこの分野の専門知識を有する言語聴覚士が行うことができる.評価では認知能力と聴覚障害を考慮して最も適切なコミュニケーション方式を決定する.AACの器具は絵カード交換コミュニケーションのようなローテクのものから,音声生成機器のようなハイテクのものまで様々である.世間で信じられていることとは逆に,AAC器具は発語の言語発達を妨げるものではなく,むしろ適切な発語と言語の発達を支援するものである.
社会性/行動の問題
子どもたちは,自閉スペクトラム症の治療に用いられている応用行動分析(ABA)を含む介入により評価を受け,恩恵を受けることができる.ABA治療は個別の小児の行動,社会性,適応強度と脆弱性を対象としており,通常は認定行動分析士(訳註: 日本では該当する資格はない)と一対一で実施される.
発達小児科医に相談することにより,適切な行動管理手法を通じた両親への指導や,必要に応じて注意欠如・多動症の治療薬として用いられるような処方薬の提供を受ける助けとなる.
深刻な攻撃的あるいは破壊的行動の懸念には,児童精神科医が対処することができる.
表5.Okur-Chung神経発達症候群患者に推奨されるサーベイランス
器官/懸念 | 評価 | 頻度 |
---|---|---|
摂食/成長 |
|
診療毎 |
神経系 |
|
|
発達 | 発達の進捗と教育ニーズのモニター | |
精神/行動 | 不安,注意力,および攻撃性または自傷行為に関する行動評価 | |
筋骨格系 | 理学療法,運動機能のOT/PT評価,自助スキル | |
胃腸系 | 継続的な摂食の問題および便秘の兆候/症状のモニター | |
免疫系 | 頻回のあるいは異常な感染症罹患事実のモニター2 | |
呼吸/睡眠 | 睡眠障害の兆候/症状のモニター | |
家族/コミュニティー | 家族への社会事業支援の必要性の評価(例: 緩和ケア/レスパイトケア,在宅看護,その他の地域資源)およびケア調整 | |
眼科 | 眼科学的評価 | 1〜3年毎 |
OT=作業療法,PT=理学療法
リスクのある親族の検査
リスクのある親族を遺伝カウンセリング目的で検査することに関する問題は,遺伝カウンセリングの項目を参照のこと.
研究中の治療法
広範囲の疾患や症状に関する臨床試験に関する情報にアクセスするには,米国のClinicalTrials.gov,欧州のEU Clinical Trials Register を検索せよ.註: この疾患に関する臨床試験は⾏われていない可能性がある.
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
Okur-Chung神経発達症候群(OCNDS)は,一般にはCSNK2A1遺伝子の新生病的バリアントにより生じる常染色体顕性遺伝疾患である.
家族構成員のリスク
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の同胞のリスクは発端者の両親の遺伝学的状況に依存する.
発端者の子
OCNDS患者のそれぞれの子どもは50%の確率でCSNK2A1遺伝子の病的バリアントを受け継ぐ.
他の家族構成員
現在までに報告されている OCNDS 患者のほとんどの発端者は,CSNK2A1 遺伝子の新生病的バリアントを有する結果,本疾患に罹患しているため,他の家族へのリスクは低いと推定される.
関連する遺伝カウンセリング上の諸事項
家族計画
出生前検査ならびに着床前遺伝学的検査(訳註: 以下は米国における判断であり日本では状況が異なる)
発端者はCSNK2A1 遺伝子の新生病原性バリアントを有している可能性が高いため,将来の妊娠のリスクは低いと推定される.しかしながら,親の生殖細胞系列モザイクの可能性に基づくと,同胞への再発リスクを有する.このリスクを考慮すると,出生前および着床前遺伝子検査が考慮される可能性がある.
出生前検査の利用に関しては,医療専⾨家の間や家族の間でも見解の相違がある場合がある.ほとんどのセンターでは出生前検査の利用は個⼈の決定であると考えているが,これらの問題について話し合うことは有用かも知れない.
GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報については、ここをクリック。
分子遺伝学
分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。
表A.Okur-Chung神経発達症候群: 遺伝子とデータベース
遺伝子 | 染色体座位 | タンパク質 | 座位特異的データベース | HGMD | ClinVar |
---|---|---|---|---|---|
データは以下の標準的参照データベースより引用した: 遺伝子 HGNC; 染色体座位 OMIM; タンパク UniProt.
表B.Okur-Chung神経発達症候群のOMIM 登録項目
115440 | CASEIN KINASE II, ALPHA-1; CSNK2A1 |
617062 | OKUR-CHUNG NEURODEVELOPMENTAL SYNDROME; OCNDS |
分子遺伝学的病原性
CSNK2A1タンパク質は,セリン/スレオニンキナーゼファミリータンパク質のメンバーとして,500以上の遺伝子の下流発現を制御する[Borgo et al 2021].CSNK2A1遺伝子の病的バリアントは,神経発達を制御する遺伝子の発現レベルを撹乱すると推定される[ Dominguez et al 2021].
疾患発症のメカニズム キナーゼ活性の低下またはCK2αタンパク質の異常な局在を引き起こす機能喪失[Dominguez et al 2021].
表6.重要なCSNK2A1病的バリアント
参照配列 | DNA核酸変化 | 予測タンパク質変化 | コメント |
---|---|---|---|
NM_177559.3 NP_808227.1 |
c.593A>G | p.Lys198Arg | Mutational hot spot 1, 2 |
c.140G>A | p.Arg47Gln | Mutational hot spot 2, 3 |
本表に掲げたバリアントは著者によるもの.GeneReviewsのスタッフは変異の分類を独自には検証していない.
GeneReviews は,Human Genome Variation Society (varnomen.hgvs.org) の標準命名規則に従う.
Gene Reviews著者: Wendy Chung, MD, PhD, FACMG, Volkan Okur, MD, FACMG.
日本語訳者:沼部博直 (JCHO東京山手メディカルセンター)
GeneReviews最終更新日: 2022.6.9. 日本語訳最終更新日: 2024.8.7.[in present]