NTHL1腫瘍症候群
(NTHL1 Tumor Syndrome)

[Synonyms:NTHL1関連ポリポーシス]

Gene Reviews著者: Roland P Kuiper, PhD, Maartje Nielsen, MD, PhD, Richarda M De Voer, PhD, and Nicoline Hoogerbrugge, MD, PhD.
日本語訳者:箕浦祐子,櫻井晃洋 (札幌医科大学医学部遺伝医学)

GeneReviews最終更新日: 2020.4.2.  日本語訳最終更新日:  2023.8.11.

原文: NTHL1 Tumor Syndrome


要約


疾患の特徴

NTHL1 腫瘍症候群は,大腸癌(CRC),乳癌,大腸ポリポーシスの生涯リスクが上昇することを特徴とする.大腸ポリープは,腺腫,過形成および/または無茎性鋸歯状のものがある.十二指腸ポリープも報告されている.NTHL1腫瘍症候群では,子宮体癌,子宮頸癌,膀胱尿路上皮癌,髄膜腫,非特異的な脳腫瘍,基底細胞癌,頭頸部扁平上皮癌,造血器悪性腫瘍など,他のがんも報告されている.大腸以外のがんの60歳までの累積発症リスクは35%~78%と推定されている.

診断・検査

発端者において,分子遺伝学的検査でNTHL1に生殖細胞系列両アレル性病的バリアントが同定されれば,確定診断となる.

臨床的マネジメント

症状に対する治療:
大腸ポリープは,ポリペクトミーだけではポリープの大きさと密度に対処できない状態になるまでは切除するべきである.対処できなくなった場合,ポリープの形態や場所に基づき,大腸亜全摘術または全結腸切除術を行う.大きかったり異形成や絨毛性変化を示す十二指腸ポリープは,内視鏡検査時に切除するべきである.

サーベイランス
罹患者に関する報告が限られているため,サーベイランスの推奨事項は今後発展していくと考えられる.現状:2年ごとのポリープ切除を伴う大腸内視鏡検査を18~25歳の間に開始;30~60歳の間,1年ごとの乳房MRI検査を実施;マンモグラフィは40~50歳の間は毎年,50~75歳の間は2年ごとに実施;子宮体癌のための経腟超音波検査および子宮内膜細胞診を40~60歳の間に2年ごと実施;25歳以降5年ごとに上部内視鏡検査と側視型十二指腸鏡検査を実施.

リスクのある血縁者に対する評価:
 NTHL1関連腫瘍に対する適切なサーベイランスと早期診断,治療を受けることのメリットのある人をできるだけ早く特定するために,生殖細胞系列両アレル性NTHL1病的バリアント保持者の一見無症状の同胞について,遺伝学的状態を明らかにすることは適切である.

遺伝カウンセリング

NTHL1腫瘍症候群は常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)形式をとる.受胎時点で,罹患者の同胞は25%の確率で罹患し,50%の確率で保因者となり,残りの25%は罹患せず保因者にもならない.家系内における病的バリアントが同定されていれば,リスクのある家系員の保因者検査やリスクの高まる妊娠に対する出生前診断は可能である.
訳注:日本では,本症に対する保因者検査や出生前診断は行われない.いずれにしても次世代への遺伝に関しては細心の遺伝カウンセリングが必要である.


診断

NTHL1腫瘍症候群に対する正式な診断基準は確立されていない.

NTHL1腫瘍症候群が疑われる所見

以下の臨床所見や家族歴および/または腫瘍組織での分子遺伝学的所見のある人では,NTHL1腫瘍症候群を疑うべきである.

臨床所見

家族歴は,常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)形式をとる様々ながんがみられる(特に,乳癌,大腸癌,あるいは尿路上皮癌,脳腫瘍,頭頸部扁平上皮癌,造血器悪性腫瘍,子宮体癌や前癌病変,および/または基底細胞癌).

腫瘍組織における分子遺伝学的所見腫瘍組織で,高い割合の体細胞C>T置換による特異的変異シグネチャー(COSMICシグネチャー30など)が同定される [Grolleman et al 2019].

確定診断

発端者において,分子遺伝学的検査でNTHL1に両アレル性の生殖細胞系列病的バリアントが同定されればNTHL1腫瘍症候群の確定診断となる ( 表1参照).

分子遺伝学的検査には,標的遺伝子検査 (多遺伝子パネル検査,単一遺伝子検査)や,包括的ゲノム検査(エクソームシークエンス,ゲノムシークエンス)の組み合わせがある.
遺伝子標的検査を行う場合は,臨床医がどの遺伝子に関連がありそうか判断する必要があるが,ゲノム検査の場合はその必要はない.NTHL1の表現型は幅広いため,疑わしい所見に記載のあるような特徴的な所見があれば,遺伝子標的検査で診断がつくかもしれないが( Option 1参照),NTHL1腫瘍症候群の診断が考慮されていない場合は,ゲノム検査で診断される可能性が高い( Option 2参照).

Option 1

表現型がNTHL1腫瘍症候群の診断を示唆するものであれば,分子遺伝学的検査は多遺伝子パネル検査単一遺伝子検査が利用可能である.

マルチジーンパネルに関する概論はここをクリック.遺伝学的検査を発注する臨床医向けのより詳細な情報についてはこちらを参照のこと.

Option 2

表現型が非典型的でNTHL1腫瘍症候群の診断が考慮されない場合,包括的ゲノム検査(医師が関連のありそうな遺伝子を判断する必要がない)はよい選択肢となる.エクソームシークエンスが一般的に用いられるが,ゲノムシークエンスも可能である.
エクソームシークエンスで診断がつかない場合,(臨床的に可能であれば)シークエンス解析では検出できない(複数)エクソンの欠失や重複を検出しうるエクソームアレイを検討してもよい.これまでのところ,NTHL1腫瘍症候群患者において,NTHL1のコピー数変化は報告されていない.
包括的ゲノム検査に関する概要は ここをクリック.ゲノム検査を発注する臨床医向けのより詳細な情報についてはこちらを参照のこと.

表1. NTHL1腫瘍症候群に用いられる生殖細胞系列分子遺伝学的検査

遺伝子1 方法 この方法により検出可能な病的バリアント2
有する割合
NTHL1 配列解析 3 23/23 4
遺伝子標的欠失/重複解析 5 報告なし 6
  1. 染色体座位とタンパク質については表A. 遺伝子とデータベース 参照
  2. この遺伝子で同定されるアレルのバリアントに関する情報は,分子遺伝学の項参照
  3. 配列解析で検出される変異は非病的バリアント,おそらく非病的バリアント,意義不明なバリアント,おそらく病的バリアント,病的バリアントがある.バリアントには小規模な遺伝子内欠失/挿入やミスセンス,ナンセンス,スプライス部位バリアントが含まれる.一般的には,エクソンや全遺伝子の欠失/重複は検出されない.配列解析の結果に対する解釈は ここをクリック.
  4. Rivera et al [2015]Weren et al [2015]Chubb et al [2016]Belhadj et al [2017]Fostira et al [2018]Altaraihi et al [2019]Belhadj et al [2019]Grolleman et al [2019]Groves et al [2019]
  5. 標的遺伝子の欠失/重複解析では,遺伝子内の欠失や重複が検出される.検査方法は,定量的PCR,ロングレンジPCR,MLPA(multiplex ligation-dependent probe amplification)法,単一エクソンの欠失や重複の検出を目的とする標的遺伝子マイクロアレイなどがある.標的遺伝子欠失/重複検査では,単一エクソンから全エクソン欠失まで検出される.
  6. 標的遺伝子の欠失/重複解析の検出率についてはデータがない.

臨床的特徴

臨床像

NTHL1腫瘍症候群は,33人の罹患者を含む20家系が報告されている [Rivera et al 2015Weren et al 2015Belhadj et al 2017Broderick et al 2017Fostira et al 2018Altaraihi et al 2019Belhadj et al 2019Grolleman et al 2019Groves et al 2019].この病態に関連する以下の表現型については,これらの報告書に基づく.

結腸ポリープ. Grolleman et al [2019]が報告した24人の患者では,大腸内視鏡検査で全員に腺腫性ポリープ(1~100個)が見つかった.そのうち7人は,過形成性/無茎性鋸歯状ポリープがあった.

大腸癌(CRC).33人中19人でCRCの発症が報告されている.発症年齢中央値は61歳(33-73歳)だった.9人は50歳未満でCRCと診断された[Fostira et al 2018Belhadj et al 2019Grolleman et al 2019].NTHL1腫瘍症候群におけるCRCは多くが右側だったが,直腸から盲腸まで大腸全体から見つかっている[Rivera et al 2015Weren et al 2015Belhadj et al 2017Grolleman et al 2019].異時性または同時性腫瘍は6人で同定されている[Grolleman et al 2019].家系数が限定的であり,これまでに報告された症例では選択バイアスがあるため,正確ながんリスク解析の妨げとなっている.適切なサーベイランスを実施しない場合,NTHL1腫瘍症候群におけるCRCの生涯リスクは高いと考えられる.

乳癌は15人の NTHL1腫瘍症候群の女性のうち9人で報告され,発症年齢中央値は49歳(38-63歳)だった[Grolleman et al 2019].3人は両側性乳癌だった.報告されたサブタイプは,乳管癌,小葉癌,乳管/乳頭癌の混合型であった.ホルモン受容体の状態については1例について報告されている(トリプルネガティブ).

十二指腸ポリープおよびがん.複数の十二指腸ポリープがNTHL1腫瘍症候群患者の2人に報告されている[Weren et al 2015Fostira et al 2018].

その他のがん.これまでに報告された17人の NTHL1腫瘍症候群の女性のうち5人が子宮体癌と診断され,発症年齢中央値は57歳(47-74歳)だった.NTHL1腫瘍症候群で他に報告されているのは,子宮頸癌,膀胱尿路上皮癌,髄膜腫,非特異的な脳腫瘍,基底細胞癌,頭頸部扁平上皮癌,造血器悪性腫瘍がある [Rivera et al 2015Weren et al 2015Belhadj et al 2017Grolleman et al 2019]. Grolleman et al [2019].複数の原発癌は29人中16人(55%)で報告されている.これらの所見に基づくと,大腸以外のがんを60歳までに発症する累積リスクは35%~78%(95%CI)と推定される[Grolleman et al 2019].

良性の消化管外所見は以下のようなものが報告されている:皮膚血管腫,脂漏性角化症,皮膚内母斑,卵巣嚢腫,肝嚢胞,乳房乳頭腫など.これまでのところ,これらの所見のある患者に関する報告は少数であり,NTHL1腫瘍症候群との関連はまだ不明である.

NTHL1ヘテロ接合体.ヘテロ接合性の生殖細胞系列NTHL1病的バリアントのある人のCRC発症リスクは不明である.Grolleman et al [2019]が報告した11家系では,ヘテロ接合が確認されている3人が癌を発症している.以前報告されている乳がん患者で, 生殖細胞系列ヘテロ接合性NTHL1病的バリアント(p.Gln287Ter)および腫瘍組織においてヘテロ接合性の欠損(LOH)が見つかっている [Nik-Zainal et al 2016Drost et al 2017].

遺伝型-表現型相関

遺伝型と表現型の関連は見つかっていない.

病名

この病態はNTHL1ポリポーシスおよび家族性腺腫性ポリポーシス3 (OMIM 616415)と呼ばれており,この用語はMUTYHポリポーシスとの類似性を強調している [Belhadj et al 2017Groves et al 2019Valle et al 2019].両アレル性NTHL1病的バリアントを持つ人において広範な腫瘍スペクトラムが報告されており,CRCおよび/または(疑い含む)ポリポーシスがない人でも診断されている事実を考慮すると,NTHL1腫瘍症候群という用語が好ましい.

頻度

NTHL1腫瘍症候群の頻度は不明である.人口中のNTHL1病的バリアントに頻度に基づくと,ヨーロッパ人ではNTHL1腫瘍症候群は、MUTYHポリポーシス(19,079人に1人)の約5分の1の頻度(114,770人に1人)で存在すると推定される[Weren et al 2018].


遺伝学的に関連のある疾患

GeneReview に記載されている疾患の他に,NTHL1の生殖細胞系列病的バリアントに関連する表現型は知られていない.


鑑別診断

表2.NTHL1腫瘍症候群の鑑別診断を考慮する疾患

遺伝形式 遺伝子 1 鑑別にあがる疾患

鑑別疾患の臨床的特徴

NTHL1 腫瘍症候群と重なる所見 NTHL1 腫瘍症候群と異なる所見
AR MSH3 家族性腺腫性ポリポーシス4(OMIM 617100)
  • CRCリスクの上昇
  • 10-100 個の腺腫
  • 十二指腸腺腫
その他のがんのリスクは報告がない
MUTYH MUTYH ポリポーシス
  • CRCリスクの上昇
  • 通常は10-100 個の腺腫
  • 鋸歯状ポリープの報告もある
  • 十二指腸腺腫
AD APC 軽症型 家族性腺腫性ポリポーシス
  • CRCリスクの上昇
  • 通常は10-100 個の腺腫
  • 十二指腸腺腫
大腸外病変 (デスモイド腫瘍,胃底腺ポリープ,先天性網膜色素上皮肥大 ,歯牙異常,線維腫,脂肪腫,骨腫)
BMPR1A
SMAD4
若年性ポリポーシス症候群 CRCリスクの上昇
  • 消化管過誤腫 (若年性) ポリープ
  • 上部消化管癌および膵癌のリスク上昇
  • 遺伝性出血性毛細血管拡張症 (SMAD4-関連)
EPCAM
MLH1
MSH2
MSH6
PMS2
Lynch 症候群
  • CRCリスクの上昇
  • 子宮体癌
  • 通常,10個未満の腺腫
  • 卵巣癌のリスク上昇
  • 皮膚脂腺腫瘍
  • ミスマッチ修復欠損腫瘍
Duplication upstream of GREM1 遺伝性混合ポリポーシス症候群 (OMIM 601228)
  • 腺腫性ポリープ
  • CRCリスクの上昇
混合型ポリポーシス(過形成,非典型若年性および腺腫性ポリープ)
POLD1 CRC, 易罹患性, 10 (OMIM 612591)
  • 10-100個の腺腫
  • CRCおよび子宮体癌のリスク上昇
星細胞腫のリスク上昇
POLE CRC, 易罹患性, 12 (OMIM 615083)
  • 10-100個の腺腫
  • CRCおよび子宮体癌のリスク上昇
卵巣癌,胃癌,星細胞腫のリスク上昇
PTEN PTEN 過誤腫症候群 CRC,乳癌および子宮体癌のリスク上昇
  • 消化管の多発過誤腫および混合型ポリープ
  • 巨頭症,皮膚脂肪腫および多結節性甲状腺腫
  • メラノーマ,甲状腺癌,腎癌のリスク上昇
STK11 Peutz-Jeghers症候群 CRCおよび乳癌のリスク上昇
  • 消化管の過誤腫性ポリープ,多くは小腸
  • 典型的な粘膜皮膚色素沈着
  • 肺がん,胃癌,膵癌,性器癌のリスク上昇
TP53 Li-Fraumeni 症候群 CRCおよび乳癌のリスク上昇 肉腫,肺癌,副腎皮質癌,脈絡叢癌およびその他のがんのリスク上昇

AD = 常染色体顕性遺伝(優性遺伝);AR = 常染色体潜性遺伝(劣性遺伝);CRC = 大腸がん

  1. 遺伝形式別に掲載,遺伝子のアルファベット順

臨床的マネジメント

最初の診断に続いて行う評価

NTHL1腫瘍症候群と診断された人において,疾患の程度や必要とされるものを確かめるために,(診断のための評価として実施していない場合)以下の評価方法が推奨される.
NTHL1腫瘍症候群に関連する腫瘍は幅広く,生涯にわたってがんのリスクが上昇するため,がんに対する評価は継続的かつ包括的に行う必要がある(サーベイランスの項参照).NTHL1腫瘍症候群患者は,診断および医学的管理の推奨事項を検討するために,がん領域の遺伝相談を受けるべきである.

症状に対する治療

一般的には,消化管腫瘍に対する治療は家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)および軽症型家族性腺腫性ポリポーシス(AFAP)の治療と同様である.(APC-関連ポリポーシス参照)

結腸ポリープおよび結腸がん.大腸内視鏡は結腸癌のサーベイランスに効果的である;ポリープは,ポリペクトミーだけではポリープの大きさと密度に対処できない状態になるまでは切除するべきである.対処できなくなった場合,ポリープの形態や場所に基づき,大腸亜全摘術または全結腸切除術を行う[Lipton & Tomlinson 2006Sampson & Jones 2009].

乳癌,子宮体癌,その他のがん.NTHL1腫瘍症候群患者のこれらのがんに対する治療は,一般的な治療と同様である.

十二指腸ポリープ.ポリープの管理はFAP患者に対するそれと同様である.特に大きかったり異形成や絨毛性変化を示すポリープは,内視鏡検査時に切除するべきである.

サーベイランス

表3.NTHL1腫瘍症候群患者に推奨されるサーベイランス

懸念事項 評価方法 頻度
結腸癌 大腸内視鏡 18-20歳から開始し,2年ごと
乳癌 乳房MRI 30-60歳の間,毎年;MRIの感度はマンモグラフィよりもよい
マンモグラフィ
  • 40-50歳の間は毎年
  • 50-75歳の間は2年ごと
子宮体癌 経腟超音波検査および子宮内膜生検 40-60歳の間,2年ごと
十二指腸ポリープ/癌 上部消化管内視鏡 25歳から開始; 頻度はスピゲルマン基準による(少なくとも5年ごと) [Spigelman et al 1989]

ヘテロ接合性の生殖細胞系列NTHL1病的バリアント保持者. これまでのところ,NTHL1のヘテロ接合体においてがんのリスクが高まるというエビデンスはなく,特別なスクリーニングの推奨事項もない.NTHL1のヘテロ接合体に対しては,一般的な大腸癌や乳癌のスクリーニングを受けるようアドバイスするか,家族歴に基づいてスクリーニングを提案する(例えば,NTHL1の両アレル性病的バリアントを持たない家系員においてCRCおよび/または乳癌の発症など).

リスクのある血縁者の評価

NTHL1関連腫瘍に対する適切なサーベイランス(18歳から開始)や早期発見,治療をすることが有益な人をできるだけ早く見つけるために,両アレル性生殖細胞系列のNTHL1病的バリアントが同定された発端者の,一見症状のない同胞の遺伝的状態を明らかにすることは大切である.
一般的には,リスクのある人に対するNTHL1腫瘍症候群の分子遺伝学的検査は,18歳未満では推奨されない.しかし,家系員の中に若年発症がんの家族歴がある場合は,18歳未満でも保因者診断を考慮すべきである.両アレル性NTHL1病的バリアントを持つ非罹患者では,スクリーニングは18歳から,あるいは家系員で最も早くがんと診断された年齢よりも2~5年前から開始する[NCCN 2016].それゆえ,家系員に若年発症がんの家族歴があれば,検査は18歳より前に検討してもよい.

遺伝カウンセリングの目的に関する,リスクのある血縁者の検査の問題については, 遺伝カウンセリングの項を参照のこと.

現在研究中の治療

広範な疾患や症状の臨床研究に関する情報は,アメリカではClinicalTrials.govを,ヨーロッパではEU Clinical Trials Registerを参照のこと.注:この疾患に関する臨床試験は現在行われていない.


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

NTHL1腫瘍症候群は,常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)形式をとる.

家族構成員のリスク

発端者の両親

発端者の同胞 

発端者の子

発端者の生殖パートナーがNTHL1病的バリアントのヘテロ接合体でなければ,子は必然的にNTHL1病的バリアントのヘテロ接合体(保因者)となる. NTHL1病的バリアントの保因者頻度はとても低いため(頻度の項参照),近親婚のような要因がなければ,発端者の生殖パートナーがNTHL1病的バリアントの保因者である可能性は低い.

他の家族構成員

発端者の両親の同胞はいずれも50%の確率でNTHL1病的バリアントの保因者である.

ヘテロ接合体の発見

リスクのある血縁者に対する保因者検査をするためには,家系内のNTHL1病的バリアントがあらかじめ同定されている必要がある.
注:近親婚の場合,NTHL1病的バリアントを1つまたは2つ持つ人の生殖パートナーにNTHL1の配列解析を提供し,その子どものNTHL1腫瘍症候群のリスクを明らかにできる.

関連する遺伝カウンセリング上の諸事項

NTHL1関連腫瘍に対する適切なサーベイランスや早期診断,治療を目的とする,リスクのある血縁者の評価に関する情報は,臨床的マネジメントと リスクのある血縁者に対する評価を参照のこと.

家族計画

遺伝性腫瘍のリスク評価とカウンセリング

分子遺伝学的検査の実施の如何に関わらず,がんのリスク評価の過程でリスクのある者を同定することの,医学的,心理学的,倫理的影響に関する包括的説明は,がんの遺伝的リスク評価およびカウンセリング-医療従事者用(part of PDQ®,米国国立がん研究所)を参照すること.

保因者診断(症状のないリスクのある人に対する検査)

未成年者に対する保因者診断(18歳未満の症状のないリスクのある人に対する検査)

出生前診断および着床前の遺伝学的診断

発端者の生殖パートナーもNTHL1病的バリアントを1つあるいは2つ保持していることがわかっていれば,るリスクのある妊娠に対する出生前診断および着床前の遺伝学的診断は可能である.
医療の専門家の間や家族内においても,出生前診断に対する考え方の相違が存在しうる.ほとんどの施設では出生前診断を行うか否かの決断は両親に委ねているが, これらの問題を議論することは有益である.
(訳注:日本ではNTHL1腫瘍症候群における出生前診断および着床前診断は行われていない)


関連情報

GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報についてはここをクリック。


分子遺伝学

分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。

表A.NTHL1腫瘍症候群:遺伝子とデータベース

遺伝子 染色体座位 タンパク質 HGMD ClinVar
NTHL1

16p13.3(訳注:原文には記載なし)

Endonuclease III-like protein 1

NTHL1

NTHL1

データは以下の標準的参照資料をもとに作成した:遺伝子はHGNC,染色体座位は OMIM,タンパク質は UniProt.リンクが提供されたデータベース(座位特異性,HGMD ,ClinVar )の詳細についてはここをクリック.

表 B. NTHL1腫瘍症候群に関するOMIMの情報(OMIMですべてみる)

602656 ENDONUCLEASE III-LIKE 1; NTHL1
616415 家族性腺腫性ポリポーシス 3; FAP3

分子レベルの病原

NTHL1がコードするタンパク質は,塩基除去修復経路のDNAグリコシラーゼであり,DNA中の内因性損傷ヌクレオチドを除去する [Robertson et al 2009].様々なDNAグリコシラーゼが,酸化,脱アミノ化,アルキル化なによる異なるタイプの損傷を標的とする.NTHL1はDNA中の酸化ピリミジン残基を特異的に標的とし, アプリン/アピリミジン酸リアーゼ活性を持つ[Wallace et al 2012].最終的に,DNAポリメラーゼによって正しいヌクレオチドが組み込まれ,あるいは複数のヌクレオチドが伸長され,DNAリガーゼによって残りの切れ目が埋められ,修復プロセスは完了する [Svilar et al 2011Wallace et al 2012Krokan et al 2014].
NTHL1腫瘍症候群は,両アレル性NTHL1病的バリアントに起因する常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)性疾患である.同定された9つのバリアントすべてが,短縮型,フレームシフト,スプライス部位バリアントのいずれかであり,両アレルの機能を阻害していると考えられる.それゆえ,罹患者ではすべての細胞のNTHL1が欠損しており,緩徐ではあるが進行性に体細胞病的バリアントが集積し,この種の損傷に対して最も脆弱な組織での発癌リスクが高まる.

疾患発症メカニズム.現在,NTHL1腫瘍症候群で9つの異なるNTHL1病的バリアントが同定されており,早発停止コドンにつながる( 表4参照).

両アレル性NTHL1病的バリアントを持つ人では,主に非CpG部位において,体細胞病的バリアントがC>Tに置換する傾向が強い腫瘍を発症する[Weren et al 2015].NTHL1を欠損させたオルガノイドクローンと生殖細胞系列両アレル性NTHL1病的バリアントを持つ人の複数の腫瘍における体細胞変異パターンを解析した結果,NTHL1の機能喪失により特異的な変異シグネチャーが誘発されることが明らかになった[Grolleman et al 2019].その結果生じる変異過程は,増殖率の高い組織および/または酸化損傷率の高い組織で最も顕著であり,がんドライバー遺伝子に病的バリアントが生じる可能性が高まる.腫瘍組織における変異パターンを確認することは,(新規の)NTHL1バリアントの病原性を証明するのに有用である.

表4.NTHL1の特筆すべき病的バリアント

参照配列 DNA 塩基の変化 予測される
タンパク質の変化
備考 [参考文献]
NM_002528​.6
NP​_002519
c.268C>T p.Gln90Ter 創始者/反復バリアント 1 [Weren et al 2018Grolleman et al 2019]
c.235_236insG p.Ala79GlyfsTer2
c.390>A p.Tyr130Ter
c.545G>A p.Trp182Ter
NM_002528​.6 c.550-1G>A スプライスドナー部位の欠失
NM_002528​.6
NP​_002519
c.709+1G>A p.Gly201_Ile236del
c.733dup p.Ile245AsnfsTer28
c.806G>A p.Trp269Ter
c.859C>T p.Gln287Ter

表に掲載されているバリアントは著者らから提供された.GeneReviews のスタッフはバリアントの分類分けの検証はおこなっていない.
GeneReviews はHuman Genome Variation Societyの標準的な命名規則に従っている(varnomen​.hgvs.org).命名法の解説については, Quick Reference を参照のこと.


更新履歴:

  1. Gene Reviews著者: Roland P Kuiper, PhD, Maartje Nielsen, MD, PhD, Richarda M De Voer, PhD, and Nicoline Hoogerbrugge, MD, PhD.
    日本語訳者:箕浦祐子,櫻井晃洋 (札幌医科大学医学部遺伝医学)
    GeneReviews最終更新日: 2020.4.2.  日本語訳最終更新日:  2023.8.11.[in present]

原文: NTHL1 Tumor Syndrome

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