Gene Reviews著者: Ray E Hershberger, MD and Ana Morales, MS, CGC
日本語訳者: 真里谷奨(札幌医科大学医学部産婦人科学,NGSDプロジェクト)
AMED「医療現場でのゲノム情報の適切な開示のための体制整備に関する研究」班(研究開発代表者:小杉眞司)
Gene Reviews 最終更新日: 2016.7.7 日本語訳最終更新日: 2019.1.7
原文: LMNA-Related Dilated Cardiomyopathy
疾患の特徴
LMNA関連拡張型心筋症(DCM)は、LMNAの病原性変異によって引き起こされ深刻な不整脈によって進行する(ないしは不整脈を併発する)、左室拡張や低下した心収縮能によって特徴付けられる。LMNA関連DCMは、通常、成人期の初期から半ばに有症状性の不整脈、もしくは、心不全や左室壁在血栓由来の塞栓症を伴うDCMとして発症する。突然心臓死が起き得るが、収縮不全が極めて少ないもしくは全く認められずに突然心臓死が起きることもある。
診断・検査
LMNA配列解析により、LMNA関連DCMの罹患者の大部分において病原性変異体が確認される。刺激伝導障害は、12誘導心電図(ECG)により確認する。不整脈は、ECG・ホルター心電図ないしはイベントモニターにより確認する。左心室の拡大は、画像検査により診断される。心収縮能の低下は、心エコー、血管造影検査、RI検査およびMRIによって評価される。
臨床的マネジメント
症状の治療:
慢性心房細動の初期治療は、正常な洞調律への復帰、抗凝固療法および心拍コントロールに重点を置く。症候性上室性不整脈に対しては、通常薬物療法またはアブレーション治療が行われる。症候性徐脈性不整脈あるいは深刻な心ブロックは、ペースメーカーを用いて治療される。症候性心室性不整脈、心室頻拍、心室細動、蘇生後の突発性心停止は、必要に応じて植込み型除細動器(ICD)や薬物療法により治療される。心ブロックや徐脈性不整脈を伴ったLMNA関連DCMについては突然心臓死のリスクに対し、ペースメーカー単独よりむしろICDの使用が全症例に対し推奨されてきた。心不全を含む症候性DCMの治療は、ACE阻害薬、β遮断薬、抗アルドステロン薬による薬物療法を行う。左室機能の進行性の増悪に対してはICDを用いて加療され、専門家は抗凝固療法を推奨している。心臓移植や他の先進治療は、循環器疾患の専門家による包括的加療にも関わらず難治性である症例に考慮される。
経過観察:
心電図で異常が見られるLMNAの病的バリアント保持者は、少なくとも年1回は、疾患の進行状況を確認する目的で心血管評価を受けるべきである。無症状のLMNAの病的バリアント保持者は、1~2年毎に1回、あるいは新たな症状が出てきた時はいつでも、心血管評価(病歴、身体検査、心エコーおよびECG)を受けるべきである。LMNAの病的バリアントを持つ家系において、遺伝子検査が可能ではないリスクのある人は、毎年心血管スクリーニングを提案されるべきである。新たな症状が出現した際には、遺伝学的情報によらずDCMや刺激伝導障害異常の即時評価が推奨される。
リスクのある血縁者の検査:
迅速な診断を促進するために、家系の病的バリアントが確認されている場合、そこを標的としたLMNA遺伝子検査を行う。他に、循環器系の定期スクリーニングによる経過観察が行われる。
妊娠管理:
妊娠は、DCMの女性には禁忌となる。DCMを患う妊娠中の女性は、ハイリスク妊娠に対応可能な産科医により経過フォローされるべきである。遺伝学的状態が不明であるリスクのある女性は、循環器系の評価を受けるべきであり、理想的には妊娠前に遺伝カウンセリングを提案されるべきである。
遺伝カウンセリング
LMNA関連DCMは、常染色体優性遺伝の遺伝形式をとる。LMNA関連DCMと診断された何人かは、片親も罹患している。de novoの病的バリアントにより生じた症例の割合は不明である。LMNA関連DCMの罹患者の子供は、50%の確率で親の病的バリアントを受け継ぐ。病的バリアントが家計内で確認されている場合、LMNA関連DCMの出生前診断は、技術的に可能である。
訳注:日本では、本症に対する出生前診断や着床前診断は行われない。いずれにしても次世代への遺伝に関しては細心の遺伝カウンセリングが必要である。
LMNA関連拡張型心筋症が疑われる所見
LMNA関連DCM(DCM)は、原因不明のDCMと臨床診断された罹患者に疑われるべきであり(冠動脈疾患、器質的心疾患、DCMを引き起こす可能性のある他の状況などが原因ではない病因:拡張型心筋症概説を参照)、大抵は、刺激伝導障害や上室性あるいは心室性の不整脈が背景にある。
DCMの診断は、主症状として左心室拡大や心収縮能の低下(他の原因の除外後)を元に行われる。:
注釈:LMNA関連DCMは、大抵、心不全の症状の進行よりも先に刺激伝導障害や不整脈を呈する。臨床医はまた、刺激伝導障害がDCMの症状に先行することがあることに留意するべきである(臨床像を参照)。
確定診断:LMNA関連DCMの診断は、特発性DCMや収縮機能不全、ないしは原因不明の左心室の拡大を伴う発端者において、LMNA遺伝子の病的バリアントを分子遺伝学的検査によって同定することで確定診断される(表 1参照)。
分子遺伝子検査のアプローチには、単一遺伝子検査、多重遺伝子パネルの使用あるいはより包括的なゲノム検査が含まれる。
DCMの遺伝的多様性により、単一遺伝子検査は、発端者には勧められない。その代わり、アメリカで最も一般的な分子遺伝学的検査のアプローチは、LMNAや他の重要な遺伝子を含む多重遺伝子パネルの使用である(鑑別診断を参照)。注釈:(1)パネルに含まれる遺伝子及びそれぞれの遺伝子に使用される検査の感度は、ラボによって差異があるだけでなく、時を経ても変化してゆく。(2)多重遺伝パネルに含まれる遺伝子は、GeneReviewで論議された症状と関連しない遺伝子を含む可能性がある。したがって臨床医は、表現型に関わる遺伝学的要因を最も適正な値段で同定できる、VUS(Variants of uncertain significance)や表現型との関連がはっきりしない遺伝子の病的バリアントの検出が極力制限された最善の方法を選択決定する必要がある。(3)ラボによっては、パネルのオプションとしてカスタムされたパネルを提供したり、あるいは臨床医によって選別された、表現型に着目したエクソーム解析を含んでいる。(4)パネルで使用される方法は、配列解析、欠失・重複解析および他の非配列解析を含む。
より包括的なゲノム検査:全エクソーム解析(WES)や全ゲノム解析(WGS)を含むより包括的なゲノム検査(可能な場合)は、LMNAを含む多重遺伝子パネルにより、疑いのあるLMNA関連DCMの罹患者における診断を得られなかった場合に考慮される。このような検査は、これまでに考慮されなかった診断を提供ないしは示唆することがある。(例:異なる遺伝子または、類似の臨床像を示す遺伝子の変異)。包括的なゲノム検査に関する詳細は、ここをクリック。
表 1.
LMNA関連の拡張型心筋症に用いられる分子遺伝子検査
遺伝子1 | 検査法 | この検査法により発見される病原性変異体2の発端者の割合 |
---|---|---|
LMNA | 配列解析3 | >99%4 |
LMNA遺伝子の欠失解析・ 重複解析5 |
不明6 |
臨床像
LMNA関連拡張型心筋症(DCM)は、左室の拡大や、深刻な刺激伝導障害を頻繁に併発する心収縮能の低下により特徴付けられる。
発症年齢
LMNA関連DCMは、通常、一般的には不整脈と併発する刺激伝導障害または、症候的なDCMのどちらかを伴い(心不全または、左室壁在血栓からの塞栓を含む)、成人期に現れる疾患であるが、また無症状の場合もある。DCM、刺激伝導障害、不整脈は、他の理由で実施された医学的検査(例:ルーチンの手術前ECG)、あるいはリスクのある親族の臨床検査の間に発見される事がある。
発現する症状およびその時期と進行について
本疾患家系の研究では、刺激伝導障害は、一般的に、数年から10年以上前までにDCMの進行に先行する事が示唆されている。LMNAの病的バリアントを持つ64人を含む研究で、ECGで異常が見られてから左室の機能障害を観察するまでの差異の中間値は、7年間であった(Brodt et al 2013)。
LMNA病的バリアント保因者の自然史を定義するための、大規模前方視的縦断的研究はいまだに報告されていない。
LMNA関連DCMの心筋症の症候についての臨床的説明は、ここをクリック(PDF)。
遺伝子型・表現型の相互関係
特定の遺伝子型と表現型の相互関係は、LMNA関連DCMにおいて確立されていない。
病的バリアントの型に焦点を当てたいくつかの研究では、スプライス部位と突然心臓死の増加したリスクの相関性と(Pasotti et al 2008)、非ミスセンス変異(インデル、切頭、スプライス部位)と悪性心室性不整脈のリスクの相関性を示唆している。
浸透率
LMNA関連DCMは年齢に伴った浸透を示し、30代と40代から発症が始まる。そのため、70代までの浸透率は、90%~95%より多くなると考えられる。
頻度
原因不明DCMの人口に基づく疾患頻度の推定は不可能である。DCMの頻度は、肥大型心筋症の頻度に等しい(500人に1人の割合)ないしはそれより多いとしているレビューがある(Hershberger et al 2013)。
原因不明DCM(また、特発性拡張型心筋症(IDC)として言及される)の罹患者におけるLMNA関連DCMの頻度は、家族発生のDCMの5%~10%、また家族発生ではないDCMの2%~5%の範囲であった(Arbustini et al 2002, Karkkainen et al 2006, Parks et al 2008, Perrot et al 2009)。
LMNAの病的バリアントは、不整脈原性右室心筋症(ARVC)に一致する表現型を持つ人に報告されている(Quarta et al 2012)。病的バリアントはまた、横紋筋、神経、脂肪、脈管組織のいくつかの障害に確認されており、正しくは、ラミノパチーとして言及される。ラミノパチーは、短い挿入あるいは削除と同様に、病的ミスセンス変異、時々ナンセンス変異、スプライス部位変異から主に起きる。着目すべき例外は、早老症を引き起こすLMNAコドン608(GGCが、Gly608残留物を変えないGGTに変わる)における同義の変異体(アミノ酸を変えないヌクレオチドの変化)である。同義の変異体はまた、肢帯型筋ジストロフィー1B型の原因とされている(Todorova et al 2003)。
ラミノパチーの型は、下記のものを含む。
LMNA関連拡張型心筋症(DCM)の鑑別疾患は、原因不明DCMの一般的な表現型と関連する。最近のエビデンスは特発性のDCM(例:原因不明のDCM)は、症例の20%~50%は、家族性(そのため遺伝性の可能性があるもの)かもしれないことを示している(Burkett & Hershberger 2005)。
明らかな家族性疾患のパターンを伴うことで、DCMの遺伝的原因は、確立される(Dilated Cardiomyopathy Overview参照)。LMNA関連心筋症は、著明な刺激伝導障害(頻度 参照)を示す家族性のDCMの原因として最も一般的に知られている。
遺伝子検査によってLMNAの病的バリアント、あるいは、DCMに関連する他の遺伝子を確認できなかった人において、心以外の特徴(特に神経筋の問題)を評価するための身体検査あるいは、循環器系の所見の追加検査により、DCMを引き起こす他の診断や、刺激伝導障害(CSD)の診断に至る事がある。
LMNA関連DCM罹患者の臨床的マネジメントのガイドラインは公開されている(Hershberger et al 2009)。
初期診断後の評価
LMNA関連DCMと診断された罹患者において、疾患の程度と個人のニーズを確立するために、下記の評価が推奨される。
包括的な心血管系の評価
ミオパチーを評価するための血清CK濃度の測定
ミオパチーのサインと徴候についての病歴聴取と身体検査
ミオパチーの証拠がある場合、評価のための神経筋疾患の専門家に問い合わせる。
他:臨床遺伝専門医や遺伝カウンセラーとの相談が推奨される
症状の治療
DCMを処置するための一般的なアプローチへは、拡張型心筋症概説, 臨床的マネジメント参照。
Pasotti et al (2008)の報告(Clinical Description参照)は、LMNA関連DCMにおける最も縦断的なデータを提供している。LMNAの病的バリアントを伴う94人に対し、57ヶ月間(中央値)の追跡をおこなった(追跡期間の範囲:36~107ヶ月)。Brodt et alの報告で、最初の観察された刺激伝導障害から心室の機能障害の徴候までの進行は、64人のLMNA病的バリアントを有した集団において7年間(中間値)であった(Brodt et al 2013)。LMNA関連DCMの大規模な前方視的縦断的研究は、いまだに報告されていない。
米国心不全協会とハートリズム協会(ヨーロッパハートリズム協会との連合)は、LMNA関連DCMに関すると特別提言を含んだ、遺伝性心筋症のマネジメントにおけるガイドラインを制定した(Hershberger et al 2009, Ackerman et al 2011)。ガイドラインの内容として、下記を含んでいる。
LMNA関連DCMの管理は、刺激伝導障害、不整脈およびDCMの治療に焦点を置く。
心臓の刺激伝導障害と不整脈
LMNA関連DCM
続発する合併症の予防
従来の医療治療(例:ACE阻害物質、β遮断薬)は、LMNA関連DCMのDCMや心不全を改善もしくは予防できるかは、正式には検証されていないため、不明である。
植込み型除細動器あるいはペースメーカーは、突然心臓死を予防するために非常に効果的である。
サーベイランス
症状が出る前にDCMのスクリーニングと確認をする事で、病気の進行を遅らせるための治療を開始する事ができる。
避けるべき薬剤と環境
ペースメーカーが植え込まれている場合以外は、心ブロックを悪化させる薬剤(例えばβ遮断薬、カルシウムチャネル遮断薬など)は心ブロックがある場合はLMNA関連DCMの罹患者への投与は避けられるべきである。
リスクのある血縁者の診断
LMNAの病的バリアントが家系内に確認されている場合、LMNAの病的バリアントが発見されている人の迅速な診断、監視、処置を促進するためにリスクのある親族に分子遺伝学的検査が提案される。
分子遺伝学的検査が可能ではない際に、LMNA関連DCMの発端者の第一度近親者は、発見できるDCMや刺激伝導障害があるかどうか決定するために、病歴聴取、身体検査、心エコーおよびECGにより毎年評価されるべきである。
注釈:症候の現れる年齢は様々であり、浸透率は減少しているので、分子遺伝学的検査を受けていない第一度近親者が正常な心エコーやECGを呈した場合も、その個人におけるLMNA関連DCMを除外せず、定期的なサーベイランスの継続を推奨するべきである。
LMNAの病的バリアントを持つ発端者の親族において、循環器系の検査結果において何か異常を認めた場合は、後天的な疾患の有無(例:冠動脈疾患)を評価するために、一連の循環器系の評価を伴い、フォローアップされるべきである。DCMの基準に適合しない検査結果であったが、異常を認める場合(例:正常に機能しない左室の拡大。左心室が正常な大きさではなく減少した駆出率)は、その親族のLMNA関連DCMの症状の多様性を反映していると思われる。このような人については、診断を得るために変異を標的とした遺伝子検査行うことは、循環器疾患の進行についての密接なサーベイランス(例:1~2年毎の循環器系検査)と同様に、推奨される。
遺伝カウンセリング目的でリスクのある親族の検査をすることに関連した問題については、遺伝子カウンセリングの項を参照。
妊娠中のマネジメント
DCMを伴う妊娠では死亡率が有意に上昇するため、妊娠は、DCMの女性には禁忌となる。DCMを患う妊娠中の女性は、ハイリスク妊娠に対応可能な産科医により経過フォローされるべきである。遺伝学的状態が不明であるリスクのある女性は、循環器系の評価を受けるべきであり、理想的には妊娠前に遺伝カウンセリングを提案されるべきである。
研究中の治療
広い疾患および症状について、臨床試験に関する詳細のアクセスは、ClinicalTrials.gov(米国)およびClinicalTrialsRegister.eu(欧州)を検索。注釈:本疾患に関する臨床試験ではない可能性もある。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
LMNA関連拡張型心筋症(DCM)は、常染色体優性遺伝形式で受け継がれる。
患者家族のリスク
発端者の同胞
発端者の子
発端者の他の血縁者
遺伝カウンセリングに関連した問題
早期の診断と治療の目的のため、リスクのある親族を評価する詳細については、臨床的マネジメントおよびリスクのある親族の評価の項を参照。
家族歴
3~4世代の家族歴の詳細(心不全、DCM、心臓移植、ペースメーカーあるいは植込み型除細動器、原因不明の突然死、原因不明の心臓の刺激伝導障害や不整脈、原因不明の脳梗塞や他の血栓塞栓性の病気)は、家族性疾患の可能性を評価するために親族から聴取するべきである。特にペースメーカー装着の刺激伝導障害は、特にLMNA関連DCMを示唆する。
父方・母方の家系双方が原因となる可能性も考慮すべきである。父方と母方の両方の家系で拡張心筋症を患う家系が報告されており(Crispell et al 1999, Parks et al 2008, Liu et al 2015)、経験的にも、家系に明らかな遺伝性疾患のパターンが見受けられるにも関わらず、家系特有の拡張心筋症を引き起こす遺伝子について父方、母方いずれかの病的バリアントとして仮説を立てることは信頼性が低く、誤解を導く可能性がありうる。Parks et al (2008)の討論(PDF)を参照。
リスクのある無症状の成人親族における分子遺伝学的検査
LMNA関連DCM罹患者のリスクのある無症状の成人親族における分子遺伝学的検査は、分子遺伝学的に罹患親族に特定の病的バリアントが確認されている場合、可能である。このような検査は、正式な遺伝カウンセリングの下で実施されるべきであり、また病気の症候が現れる年齢、重症度、進行率などを予想する目的には有用ではない。無症状のリスクのある人における検査は、診断的検査ではなく、LMNA関連DCMの傾向の有無に関する予知的な試験と考えられる。
18歳以下のリスクのある無症状の血縁者における分子遺伝学的検査
小児科の事例において、臨床的にLMNA関連DCMを発見できる見込みは低いが(Rampersaud et al 2011; van Tintelen et al 2007a; 執筆者、未公開データ)、潜在する病気の改善に早期から取り組み、治療をすることで症候の発現や進展を抑える可能性もあることから、リスクのある子供を早期に把握する目的で遺伝子検査を勧めるべきである。病気の症候が早期に出た家系においては、家系特有の病的バリアントの同定をすることは、無症状でありながらも循環器系疾患を臨床的に発見できるより有用な臨床検査に繋がる可能性もある。
遺伝子検査と子供の集団検査における道徳上の政策課題の討論については、American Academy of Pediatrics と American College of Medical Genetics and Genomicsの政策論を参照。
家族計画
DNAバンクは、将来的に利用するために(一般に白血球から摘出される)DNAを保管しておくことである。検査方法論と遺伝子の我々の理解、対立遺伝子変異型、病気等は将来改善する見込みがあるので、罹患者のDNAバンキングは、考慮されるべきである。
出生前検査と着床前の遺伝的診断(訳注:日本では本疾患に対しては実施されていない)
LMNA関連の病的バリアントが罹患家族員に確認されれば、LMNA関連DCMのリスクが増加するため、妊娠に関連して出生前検査や着床前検査を提供する選択は可能である。
特に出生前検査が初期の診断よりもむしろ妊娠中絶の目的のために考慮される場合、医療従事者や家族内での見解の違いが起る傾向がある。大抵の医療機関では出生前検査については両親の判断に任せるとしながらも、この問題について話し合うことは適切である。
GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報については、ここをクリック。
下記の記述は最新の情報が含まれているため、GeneReviewsに記載されているほかの情報と異なる場合がある
表A.
LMNA関連DCM: 遺伝子とデータベース
遺伝子 | 染色体遺伝子座 | タンパク質 | 遺伝子座特定 | HGMD |
---|---|---|---|---|
LMNA | 1q22 | プレラミン-A/C | ヒト中間径フィラメントデータベースLMNA(ラミンC1) ヒト中間径フィラメントデータベースLMNA(ラミンA) ヒト中間径フィラメントデータベースLMNA(ラミンC2) LMNAホームページ・レイデン筋ジストロフィー ページ IPN突然変異, LMNA UMD-LMNA変異データベース |
LMNA |
データは、次に続く標準レファレンスから収集したものである。遺伝子情報をHGNCから;染色体遺伝子座除法をOMIMから;UniProtからのタンパク質情報。データベースの詳細(Locus Specific、HGMD、ClinVar)は、ここをクリック。
表B.
LMNA関連拡張型心筋症へのOMIMエントリー(全内容はOMIMを参照)
115200 | 心筋症、拡張型、1A;CMD1A |
150330 | ラミンA/C;LMNA |
遺伝子の構造
LMNAは、12のエクソンで構成される。エクソン10の選択的スプライシングにより、2つのタンパク質ラミンA、ラミンC(正常な遺伝子産物 参照)が産生される。遺伝子、スプライシングバリアントs、タンパク質情報の要約の詳細に関しては、表Aの遺伝子参照。
病的バリアント
LMNAにおいて200以上の配列変異が報告されている(Leiden Muscular Dystrophy site 又は ClinVar参照)。LMNA関連DCMはミスセンス変異によって起こり、時にナンセンス変異やスプライシングバリアント、短い挿入ないしはLMNAのdeletionによっても起こる。
正常な遺伝子産物
エクソン10の選択的スプライシングにより、2つのタンパク質である、572種のアミノ酸を伴うラミンC(NM_005572.3; NP_005563.1)とラミンA(NM_170707.2; NP_733821.1)がある。ラミンAは、初めの566種のアミノ酸はラミンCと一致するが、追加の98種の末端アミノ酸がある(合計664種)。
ラミンAとラミンCの両方は、核内膜の器質的タンパク質であり、多くの異なる組織の中に見つけられる(Capell & Collins 2006)。
異常な遺伝子産物
LMNA関連DCMを引き起こす細胞傷害のメカニズムについての理解、不完全なままである。ラミンA・Cが核膜の器質的タンパク質であるため、骨格や心筋の繰り返す収縮の背景で、核膜のもろさは、核傷害や細胞の自然死を起こしやすい事が示唆されている。他の仮説としては、異常なラミンA・Cのタンパク質は、クロマチン・ラミン関連のタンパク質複合体を崩壊し、それゆえ、遺伝子発現を阻害する事を示唆している。
Gene Reviews著者: Ray E Hershberger, MD and Ana Morales, MS, CGC
日本語訳者: 真里谷奨(札幌医科大学医学部産婦人科学,NGSDプロジェクト)
AMED「医療現場でのゲノム情報の適切な開示のための体制整備に関する研究」班(研究開発代表者:小杉眞司)
Gene Reviews 最終更新日: 2016.7.7 日本語訳最終更新日: 29019.1.8(in present)