GeneReviews著者: Joseph J Orsini, PhD, Maria L Escolar, MD, MS, Melissa P Wasserstein, MD, and Michele Caggana, ScD.
日本語訳者:清水 日智(社会福祉法人恩賜財団済生会支部済生会長崎病院 小児科)
GeneReviews最終更新日: 2018.10.11 日本語訳最終更新日: 2021.1.26
クラッベ病 (Krabbe病) には、乳児期発症の乳児型 (生後12ヶ月よりも前に、易刺激性の亢進、痙縮、発達遅滞を発症する) から晩期発症の遅発型 (生後12ヶ月以降から60歳台の間に発症する) まで臨床症状に幅がある。歴史的には、酵素活性のみで診断されたクラッベ病の症状を持つ患者のうち、85~90%が乳児型クラッベ病、10~15%が遅発型クラッベ病であるとされてきたが、新生児スクリーニング (NBS: newborn screening) が開始された結果、遅発型クラッベ病の可能性のある者の割合が、以前考えられていたよりも高いことが示唆された [訳注1: 日本では乳児型 (生後6か月までに発症)、遅発型として後期乳児型 (生後 7か月~3歳で発症)、若年型 (4~8歳で発症)、成人型 (9歳以降に発症) と分類されている。頻度はそれぞれ41%、20%、10%、29%とされている [酒井則夫. ライソゾーム病4: Krabbe病,異染性白質ジストロフィー. 小児科診療 2018; 81(suppl): 555-556]。訳注2: 2021年1月現在、日本において、クラッベ病は一般的な新生児マススクリーニングの対象疾患ではない]。乳児型クラッベ病は、最初の数ヶ月間は正常な発育を示し、その後急速に重度の神経学的悪化が起こることが特徴である。平均死亡年齢は24ヶ月 (8ヶ月から9歳) である。遅発型クラッベ病は、臨床症状および症状経過の差が非常に大きい。
診断・検査
診断に至るまでの流れは以下の2通りである。
臨床的マネジメント
症状に応じた治療:
生後6ヶ月までに症状が出ている患者の治療は、生活の質の向上と合併症の回避に重点を置いた支持的な治療となる。年長者の場合、造血幹細胞移植による治療は、疾患の負担や症状に応じて個別に判断される。
一次症状の予防:
コンセンサス (合意の得られた)・ガイドラインでは、クラッベ病の家族歴があるか、または新生児スクリーニングの結果が陽性であり出生前/新生児期における評価でクラッベ病と診断された無症状の新生児に対し、乳児型クラッベ病であるかどうかを確認するための追加検査を受けることを推奨している。乳児型クラッベ病と合致する検査結果であった者は、生後30日よりも前に造血幹細胞移植を受ける適応となる。
定期検査 (サーベイランス):
クラッベ病の症状を有する患者に対して、水頭症、嚥下障害、慢性的な微量誤嚥 (マイクロアスピレーション)、脊柱側弯症、股関節亜脱臼、骨量減少、視力低下、角膜潰瘍などの症状がないかをモニタリングする。
避けるべき薬物/状況 非定型抗精神病薬やてんかん発作に対する複数の薬剤は、過鎮静 (認知機能低下、呼吸抑制、神経機能の低下率に影響を与える) を引き起こす可能性がある。小児期の定期的な予防接種は、病気の進行を促進させる可能性がある。
リスクのある血縁者の評価:
分子学的に確定された乳児型クラッベ病を持つこどもを1人産んだことのある夫婦は、その後の妊娠の際、出産した新生児に対して、適切であれば造血幹細胞移植を実施できるよう、すみやかに両アレル性に (biallelic) GALCの病原性バリアントを有しているかを確認するための周産期分子遺伝学的検査を選択することができる。
遺伝カウンセリング
クラッベ病は常染色体劣性遺伝 (autosomal recessive) 疾患である。受胎時点において、罹患者の同胞 (兄弟姉妹) はそれぞれ25%の確率で罹患し、50%の確率で無症候性キャリア (carrier) であり、25%の確率で罹患しておらずかつキャリアでもない。ひとたび、GALCの病原性バリアントが患者の家系内で同定されると、リスクの高い血縁者に対する分子遺伝学的キャリア検査 (carrier testing)、リスクの高い妊娠のための出生前検査 (prenatal testing)、着床前遺伝子検査 (preimplantation genetic testing) が可能となる [訳注:米国においては]。
クラッベ病 (ガラクトセレブロシダーゼ [GALC: galactocerebrosidase] 欠損症としても知られる) には、2つの主要な表現型があり、それらは連続して繋がりあっている。
疑うべき所見
発端者 (proband) においてクラッベ病が疑われる異なる2つのケース
シナリオ1
クラッベ病は、発端者 (proband) に症状がある場合、臨床所見 (年齢によって異なる) および、その他の参考となる臨床検査所見、神経画像検査所見、電気生理学的検査所見に基づいて疑われるべきである。
臨床所見
月齢<12ヶ月 (乳児型クラッベ病)
年齢>12ヶ月 (遅発型クラッベ病)
その他の診断の参考となる所見
注:乳児型クラッベ病の患者では、ステージIの時点ですでにCSF蛋白濃度が上昇している (臨床所見の稿を参照)。
シナリオ2
無症状の新生児において、新生児スクリーニングが陽性の場合にはクラッベ病を疑う必要がある。
現在、7つの州 (イリノイ州、ケンタッキー州、ミズーリ州、ニューヨーク州、オハイオ州、ペンシルベニア州、テネシー州) では、乾燥ろ紙血を使用したGALC欠損症の新生児スクリーニングを実施している。検査の方法や新生児スクリーニングの陽性を示すカットオフ値は州によって異なるが、GALC欠乏を示唆するすべての結果は、直ちに追跡調査を行う必要がある (診断の確立、シナリオ2を参照)。
診断の確立
シナリオ1
症状がある発端者 (proband) においてクラッベ病の診断を確立するために必要な検査。乳児型クラッベ病または遅発型クラッベ病のいくつかまたはすべての疑うべき所見を有する患者においては、白血球におけるGALC酵素活性の低下が検出されることにより、クラッベ病の診断が確立される。検査結果が異常であった場合には、続けてGALCの分子遺伝学的検査が必要となる。乳児型クラッベ病の小児患者の場合は、乾燥ろ紙血検体中のサイコシン値の上昇が有れば診断が確定するが、遅発型クラッベ病の患者の場合や、乳児型クラッベ病患者のうちステージが後期にまで進行した患者の場合には、サイコシン濃度が一貫して上昇しているかどうかについてまだ分かっていない。
ガラクトセレブロシダーゼ (GALC: galactocerebrosidase) 酵素活性は、ヘパリン化された全血から単離された白血球、または培養皮膚線維芽細胞において測定される。使用される基質 (すなわち、放射性基質、蛍光基質、または質量分析基質) は、研究室によって異なる。
サイコシン値
分子検査では、単一遺伝子検査が行われる。GALCのシーケンス解析 (sequence analysis) および典型的に認められるGALCの30キロ塩基対の欠失 (deletion) (30kb 欠失) を標的とした解析が行われる[Luzi et al 1995、Rafi et al 1995]。遺伝子を標的とした欠失/重複解析 (deletion/duplication analysis) も、少なくともクラッベ病の疑いが高く、シーケンス解析によりGALC病原性バリアント (pathogenic variant) が1つのみ検出されている場合には、実施すべきである。表1を参照のこと。
表1.
クラッベ病 (ガラクトセレブロシダーゼ欠損症) に用いられる分子遺伝学的検査
遺伝子1 | 検査手法 | 各検査手法によって、病原性バリアントが発端者において同定される割合2 |
---|---|---|
GALC | シーケンス解析3 | 55%-65%4 |
30kb欠失標的解析 | 35%-45% 5 | |
標的遺伝子における欠失/重複解析 (deletion/duplication analysis ) 6 |
脚注 7 を参照のこと |
シナリオ2
新生児スクリーニングで同定された無症候性の乳児に対する、クラッベ病の診断を確定するために必要な検査。クラッベ病の新生児スクリーニング (newborn screening) 結果が陽性であると推定された場合には、緊急で、スピードが重視される、生化学的および分子遺伝学的検査を実施しなければならない。というのも、造血幹細胞移植 (HSCT: hematopoietic stem cell transplantation) による早期治療が必要となる乳児型クラッベ病の生化学的所見および分子遺伝学的検査所見を新生児が有していないか、生後14日以内に特定しなくてはならないためである (管理、一次症状の予防の稿を参照)[Wasserstein et al 2016, Kwon et al 2018]。
GALC酵素活性測定検査にどの手法を用いたかにかかわらず、無症状の新生児における乾燥ろ紙血および/または白血球中のGALC活性低値は、クラッベ病の診断には十分に特異的ではなく、乳児型クラッベ病と遅発型クラッベ病を区別することはおろか、クラッベ病の診断にも十分に特異的ではないことに注意する必要がある。GALC活性の低値は、特定の環境因子の影響に加えて、偽欠損アレル (in vitroで酵素活性を低下させるが、病気を引き起こさない良性のGALCバリアント) を持つ場合、GALC病原性バリアント1つをヘテロ接合性に有する場合 (すなわち、キャリア [carrier] の状態)、および、遅発型クラッベ病において認められるGALCバリアントを持つ場合に生じる可能性がある。
注:(1) 典型的に認められる30kb欠失 (deletion) は、初めに行われるシーケンス解析の一部として、アレル (allele) 特異的PCRまたは断端 (breakpoint) PCRを用いて検査することができる [Luzi et al 1995, Rafi et al 1995]。(2) このシナリオにおいて、シーケンス解析および欠失/重複解析の結果は、診断目的で通常提供されているものよりも短い時間で判明しなくてはならない。したがって、迅速な検査を確実に行うために特別な手配を行う必要がある。
乳児型クラッベ病と関連することが知られている、または「病原性のある」または「病原性のある可能性が高い」と分類されているGALC病原性バリアントが両アレル性に (biallelic) 同定された場合、乳児型クラッベ病の診断をさらに確かなものにする [Orsini et al 2016]。
注目すべきことは、ニューヨーク州の新生児スクリーニング計画によって同定された、GALC酵素活性が低値であり、病原性があると推定されるGALCバリアントを両アレル性に有する乳児の大多数は、乳児型クラッベ病の徴候や臨床症状を有しておらず [Wasserstein et al 2016]、したがって、遅発型クラッベ病のリスクであったとみなされているという点である。現在検討中の、サイコシン値およびGALC分子遺伝学的検査の結果に基づく乳児型クラッベ病リスクの定義 (改訂版) によって、新生児スクリーニングにより検出され乳児型クラッベ病のリスクがあると判定される乳児の割合が大幅に減少されることが期待されている [著者、個人的な知見]。
臨床初見
歴史的に、酵素活性のみでクラッベ病と診断された、症状がある患者の85~90%は乳児型のクラッベ病 (すなわち、生後12ヶ月以前に極度の過敏性、痙縮、発達遅延の発症) であり、10~15%は遅発型のクラッベ病 (すなわち、生後12ヶ月~60歳台までに症状が出現する) であった。[訳注: 日本では乳児型 (生後6か月までに発症)、遅発型として後期乳児型 (生後 7か月~3歳で発症)、若年型 (4~8歳で発症)、成人型 (9歳以降に発症) と分類されている。頻度はそれぞれ41%、20%、10%、29%と報告されている [酒井則夫. ライソゾーム病4: Krabbe病,異染性白質ジストロフィー. 小児科診療 2018; 81(suppl): 555-556]。] 対照的に、ニューヨーク州の新生児スクリーニング計画を通じて見つかった、GALC酵素活性が低値であり、病原性があると推定されるGALCバリアントを2つ有する乳児の大多数は、乳児型クラッベ病の徴候または症状を有していなかった [Wasserstein et al 2016] [訳注: 2021年1月現在、日本において、クラッベ病は一般的な新生児マススクリーニングの対象疾患ではない。] 。 したがって、遅発型クラッベ病を有する患者の割合は、以前に考えられていたよりも高い可能性がある [著者、個人的な知見]。
乳児型クラッベ病 (Infantile-Onset Krabbe Disease)
乳児期発症のクラッベ病の進行には、通常4つのステージ (段階) がある。
乳児型クラッベ病の小児の平均死亡年齢は24ヵ月であるが、感染症や呼吸不全により生後8ヵ月までに死亡する場合もあれば、9歳まで生存する場合もある。
症状や徴候は神経系に限局している。内臓の肥大は伴わない。頭囲については拡大することも小頭となることもあり、頭蓋内圧上昇を伴う水頭症が報告されている。患者1名において黄斑にチェリーレッドスポット (桜実紅斑) が認められた。
胎内でGALC欠損症と診断された1名の乳児は、生後2ヵ月間は正常な精神運動発達を認めていたが、生後5週目までには深部腱反射が消失しており、生後7週目には神経伝導速度が著しく低下していた。生後3ヵ月目になって頸部の筋力低下が出現した [Lieberman et al 1980]。これらの所見は、詳細な検査を行うことで、報告されている発症年齢よりも早く、乳児型クラッベ病の臨床症状が明らかになる可能性を示唆している。
新生児スクリーニング陽性の乳児 (その後、乳児型クラッベ病と確認された) の中には、生後数週間で、以下のうち少なくとも1つの症状がみられたものがある: 下肢のクローヌス、哺乳困難、神経伝導速度の異常、脳脊髄液蛋白濃度の上昇、脳MRIの異常。
遅発型クラッベ病 (Later-Onset Krabbe Disease)
12ヵ月~3歳までの間に発症した小児患者は、歩容の異常、片麻痺/両麻痺、視覚障害、熱性けいれん、および/または振戦が出現するまでは、臨床的に正常である。出生後から2歳までの間に急速に髄鞘化が生じるため、2歳以降の発症よりもこの年齢の発症の方が、症状の進行が早いと考えられている。
生後24ヵ月から4歳の間に発症した小児では、初発症状として獲得していた発達指標の喪失 (退行)、視力低下 (急速な視力低下を含む)、あるいは歩容の変化やけいれん発作がみられることがある。
症状の進行程度は様々であるが、生後9ヵ月から4歳の間に症状を発症した小児では、発症後まもなく症状が急速に悪化することがある。ほとんどの場合、発症から約4~6年後に死亡する [M Escolar, 個人的知見]。
6歳以上で発症した小児における初期症状は、行動障害 (注意欠如・多動性障害 [AD/HD] および気分障害) であり、続いて運動障害が現れることがある。これらの症状は発症直後から、急速に進行することが多い [Fiumara et al 2011]。
思春期および成人期に発症した患者の中には、手の巧緻性の喪失、四肢末端の焼けるような知覚異常、および知的退行を伴わない衰弱を認める者もいるが、寝たきりになり、精神的所見および身体的所見が増悪し続ける者もいる [Kolodny et al 1991, Satoh et al 1997, Jardim et al 1999, Wenger 2003]。成人発症の臨床所見を呈する者の中には、片側性の上肢筋力低下と下肢感覚鈍麻が現れることもある [Debs et al 2013]。疾患の進行は一般的に、成人発症の者の方が思春期発症の者よりも遅い。
成人発症のクラッベ病患者の中には、成人期になって初めて診断された人 (初期に出現した症状が微細であったため生化学的検査を実施されなかったことによる) と、20歳以降に症状が出現するまでは完全に正常であったと考えられる人が含まれる [Kolodny et al 1991, Satoh et al 1997, Wenger 2003]。前者の例としては、Kolodnyら[1991]によって報告された女性 (症例15) があるが、この女性は幼少期より「手が震えている」状態であり、こわばった状態のガニ股歩行でゆっくりと歩き、40歳以降に進行性の全身性神経学的異常所見を呈した。73歳で肺炎のため死亡した。後者の例として、38歳でゆっくりと進行する痙性不全対麻痺を発症した女性例がある。MRIで同定された脱髄病変は皮質脊髄路に限局していた [Satoh et al 1997]。
末梢神経障害の出現は、遅発型クラッベ病の患者 (罹患者の約半数が罹患する) の方が、乳児型クラッベ病患者 (罹患者のほぼすべてが罹患する) よりも少ない [Husain et al 2004, Siddiqi et al 2006, Debs et al 2013]。
生存期間は遅発型クラッベ病の患者の間でも大きく異なり、生存期間の中央値は症状発現後8年である [Bascou et al 2018]。
神経生理学的所見 遅発型クラッベ病における神経生理学的所見には、以下のようなものがある。
MRI検査 一般的に、遅発型クラッベ病の初期段階では、脳MRIは脳幹および小脳の脱髄病変をCTよりもはっきりと検出できる。しかしながら、生後6ヵ月未満の乳児の中には、脳の発達上、この時期には灰白質と白質のコントラストが低いため、MRI所見が一見正常と思われることもある。中脳萎縮についてスコアリングを行うことは、全般的な疾患の進行度を評価するために役立つことに、注目すべきである [Zuccoli et al 2015]。
脳の拡散テンソル画像 (DTI: Diffusion tensor imaging) DTIは、新生児スクリーニングで検出された、無症候性のクラッベ病を有する乳児を評価するための、望ましい撮画手段である [Gupta et al 2014] (管理、一次症状の予防の稿を参照)。
遺伝型と表現型の相関
乳児型クラッベ病 乳児型クラッベ病はガラクトセレブロシダーゼ活性の重度の喪失に起因する。
遅発型クラッベ病 遅発型クラッベ病患者では、以下の遺伝型が認められている。
イタリアのカターニア (Catania) でよく見られる創始者バリアント (a founder variant) p.Gly57Ser は、ホモ接合型(homozygous) と複合ヘテロ接合型 (compound heterozygous) の両者の状態で遅発型クラッベ病と関連している [Lissens et al 2007]。
p.Gly286Aspは、より軽度の表現型 (phenotype) を持つ患者で報告されているが、現在までのところ、特定の個人の臨床経過を予測することはできない。
他の名称
GALCによってコードされるタンパク質は、GeneReviewsの標準的参考資料であるUniProtでは、ガラクトセレブロシダーゼと呼ばれている (表Aを参照)。このタンパク質に対する他の用語が、公表中の文献で使用されているため、クラッベ病は、以下のように呼ばれることもある。
有病率
クラッベ病患者は、米国では約25万出生に1名、ヨーロッパでは約10万出生に1名の割合で出生している [Wenger et al 2013]。
イスラエル北部のドゥルーズ派のコミュニティーと、エルサレム近郊の2つのイスラム教徒アラブ人の村では、クラッベ病の発症率が非常に高く、キャリアの割合 (carrier rate) は6名のうち1名であると推定されている [Rafi et al 1996]。
遺伝子に関連する (対立遺伝子) 疾患
本GeneReviewに記載されている表現型以外には、GALCの病原性バリアントと関連している表現型は知られていない。
クラッベ病は、生後数ヶ月間は正常な発達を示し、その後精神運動機能が低下していることから、先天性 (congenital) または周産期由来の進行性ではない中枢神経系疾患と区別できるが、クラッベ病と他の変性疾患との鑑別は困難であることが多い。中枢神経系の所見または末梢神経系の所見が進行性に増悪している患者では、年齢にかかわらず、ガラクトセレブロシダーゼ (GALC) 欠損症についての評価を受けるべきである。
鑑別診断としては、以下の疾患を遺伝形式別に検討する必要がある。
常染色体劣性遺伝疾患
アリルスルファターゼA欠損症 (Arylsulfatase A deficiency 、異染白質ジストロフィー[MLD: metachromatic leukodystrophy]) アリルスルファターゼA欠損症は、遅発型クラッベ病に近似した3つの臨床サブタイプによって特徴づけられる。
ARSA遺伝子の両アレル性病原性バリアントが原因となる。
ヘキソサミニダーゼA欠損症 (Hexosaminidase A deficiency) は、特定のスフィンゴ糖脂質であるGM2ガングリオシドのライソソーム内貯留に起因する神経変性疾患である。ヘキソサミニダーゼA欠損症の原型であるテイサックス病 (Tay-Sachs disease) は、てんかん発作、黄斑のチェリーレッドスポット (桜実紅斑)、失明などの進行性の神経変性徴候を伴う、生後3~6ヶ月の間に発症する運動機能の喪失が特徴である。通常、4歳までには完全に寝たきりとなり、死亡する。ヘキソサミニダーゼA欠損症のうち、若年発症、慢性型、および成人発症の亜型では、発症が遅く、進行性ジストニア、脊髄小脳変性、運動ニューロン疾患を含む、より変化に富んだ神経学的所見を呈する。成人発症の一部の患者では、双極性障害を含んだ
神症状を呈することもある。HEXA遺伝子の両アレル性病原性バリアントが原因となる。
カナバン病 (Canavan disease) 新生児型/幼児型 (重度) のカナバン病では、3~5ヵ月齢までに認められる重度の筋緊張低下および、座位保持・歩行・発語といった発達を獲得できない発達遅滞によって特徴づけられる。筋緊張低下はいずれ痙縮へと発展し、食事介助が必要となる。平均寿命は、通常、10歳台までである。Canavan病のほとんどの患者に大頭症がみられるが、これはクラッベ病患者にも様々な程度でみられることがある所見である。MRI検査では皮質下白質に著明な病変が認められる。ASPA遺伝子の両アレル性病原性バリアントが原因となる。
サポシンA欠損症 (OMIM 611722) 近親婚 (consanguineous) により誕生した乳児はクラッベ病に似た異常な髄鞘化を示しており、サポシン前駆体をコードするPSAP遺伝子のサポシンA領域に病原性バリアント (pathogenic variant) をホモ接合性 (homozygous) に有している事が判明した。サポシン前駆体とは、天然脂質基質の加水分解を触媒するためにGALC酵素と相互作用する熱安定性のタンパク質である [Spiegel et al 2005]。サポシンA欠損症では、GALC酵素活性の低下およびサイコシン濃度の上昇とも関連している可能性がある。PSAP遺伝子の両アレル性病原性バリアントが原因となる。
X連鎖性疾患
X連鎖性副腎白質ジストロフィー (X-ALD: X-linked adrenoleukodystrophy) では、神経系の白質と、副腎皮質が侵される疾患である。X-ALDの小児大脳型は、クラッベ病の鑑別疾患である。小児大脳型の発症は4~8歳の間が最も多い。最初期の症状は注意欠如障害に似ているが、続いて、認知機能、行動、視力、聴力、運動機能の障害が出現・進行し、多くの場合、2年以内に全介助状態となる。ヘミ接合性 (hemizygous) のABCD1遺伝子の病原性バリアント (pathogenic variant) が原因となる。
ペリツェウス・メルツバッハー病 (PMD: Pelizaeus-Merzbacher disease) は、中枢神経系ミエリン形成における、PLP1関連疾患 (PLP1-related disorders) の一連の表現型の中の1つである。この疾患を有する男性で認められる表現型は、PMDから痙性対麻痺2型 (SPG2: spastic paraplegia 2) まで幅がある。すなわち、同一家系内においても、広い範囲の表現型が観察される。PMDは通常、乳児期または小児期早期に眼振、筋緊張低下、および認知機能障害を伴って発症し、重度の痙縮および運動失調へと進行する。寿命は短縮する。ヘミ接合性 (hemizygous) のPLP1遺伝子の病原性バリアント (pathogenic variant) が原因となる。
常染色体優性遺伝疾患
アレキサンダー病 (Alexander disease) は進行性の大脳白質疾患であり、乳児や小児が主に罹患し、平均寿命は様々である。遅発型では臨床経過はゆっくりと進行する。罹患者の約42%が乳児型、約22%が若年型、約33%が成人型である。新生児型も認められる。新生児型は、2 年以内に重度の障害または死の転帰をとる。乳児型は、典型的には生後2年以内に、獲得していた発達のマイルストーンを喪失し (退行)、大頭症、前額部の突出、およびけいれん発作を伴う進行性の精神運動発達遅滞を呈する。罹患者の生存期間は、数週間から数年である。若年型は通常、4~10歳の間に発症し、時に10歳台半ばに発症することもある。生存期間は、10歳台前半から20~30歳台までと幅がある。罹患した患者では、球/仮性球麻痺の徴候、巧緻運動の障害 (運動失調)、徐々に進行する知的障碍、けいれん発作、正常頭囲~大頭症、および呼吸障害を呈することがある。GFAP遺伝子のヘテロ接合性 (heterozygous) 病原性バリアント (pathogenic variant) が原因となる。
自律神経障害を伴う常染色体優性白質ジストロフィー (Autosomal dominant leukodystrophy with dysautonomia) は、ゆっくりと進行する中枢神経系白質の障害であり、30~40歳台から自律神経機能障害が発現し、数ヵ月から数年後に錐体および小脳の病変が出現することが特徴である。自律神経機能障害には、膀胱機能障害、便秘、起立性低血圧、摂食障害、勃起障害、そして (頻度は低いが) 発汗障害などがある。錐体路徴候は、しばしば下肢でより顕著である (すなわち、痙性脱力、筋緊張低下、クローヌス、深部腱反射亢進、および両側のバビンスキー徴候)。小脳失調の徴候は、典型的には錐体路徴候と同時に出現し、歩行失調、拮抗運動反復不全 (dysdiadochokinesia)、企画振戦、測定障害 (dysmetria)、および眼振を含むことがある。通常、認知機能は疾患の初期の頃には保たれるか、軽度の障害しか認められないが、疾患の後期の症状として、認知症や精神症状が出現することがある。患者は、発症後数十年間生存するものと思われる。LMNB1遺伝子の重複 (duplication)、または (ごくまれに) LMNB1プロモーターの上流における大規模な欠失 (deletion) がヘテロ接合性 (heterozygous) に生じることが原因となる。
初期診断後の評価
クラッベ病と診断され、症状がある患者 (すなわち、シナリオ 1) の疾患の程度と治療介入の必要性を評価するために、本節にまとめられている評価 (診断に至った評価の一部として実施されていない場合) を行うことを推奨する。
症状に対する治療
症状のある患者 乳児型クラッベ病のステージIIまたはIIIにある、生後6ヶ月未満の小児 (臨床所見の稿を参照) に対する治療は、支持的であり、生活の質の向上と合併症の回避に重点を置いた治療が行われる(表2参照)[Escolar et al 2016]。
表2.
造血幹細胞移植 (HSCT) を受けていないクラッベ病患者における症状の治療
合併症/関連臓器 | 症状 | 治療 |
---|---|---|
消化器 | 嘔吐と胃食道逆流症 (GERD) |
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嚥下障害 |
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便秘症 |
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神経系 | 痙縮 (spasticity) |
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神経因性疼痛、てんかん発作 |
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筋骨格系 | 拘縮 |
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呼吸器 | 過剰な気道分泌 |
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尿生殖器 | 尿路感染症 |
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眼科 | 瞳孔反射の遅延、眼瞼下垂を伴った上方注視困難 | |
角膜潰瘍 |
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歯科 | 萌出遅延 |
表は、Escolar et al [2016]を基に作成されている。
軽度の症状のみを有する高齢者 治療 (標準的な慣例に基づく) は、患者それぞれの症状に合わせて行われる。
一時合併症の予防
Escolarら [2005] は、生後12日目から44日目までの間に造血幹細胞移植を受けた11名の無症状の新生児 (クラッベ病の家族歴があるため、出生前または出生直後に診断された) 全員について、GALC酵素の長期的な供給が可能となるドナー造血幹細胞が安定して定着していたことを報告している。4ヵ月から6年間の追跡調査の結果、ほとんどのこどもたちは正常な認知機能と受容性言語能を有していたが、最終的には言語障害および運動障害 (痙縮を含む) を発症していたことが、これまでのところ明らかになっている。
Wassersteinら [2016] は、ニューヨーク州の新生児スクリーニング (newborn screening) 計画で見つかった4家系5名の乳児について、転帰を報告している。5名のうち2名は同胞例であった。同胞例の第1子を除く、すべての乳児が、生後24日目から41日目までの間に造血幹細胞移植を受けた。造血幹細胞移植を受けた4名の成績は理想的ではなかったが、これは移植時の重症度が原因と考えられる。さらに最近では、他の州の新生児スクリーニング計画を通じて同定された何名かの新生児例の方が、より良好な転帰であったことが示されている [Orsini、個人的見解]。
Wrightら [2017] は、生後7週目までに造血幹細胞移植を受けた乳児型クラッベ病と推定される18名の転帰について、15年間の研究成果を報告している。早期造血幹細胞移植を受けた児の運動機能に関する長期的な転帰は、出生時における皮質脊髄路病変の重症度を反映していた。末梢神経障害は時間の経過とともに進行し、重度の筋萎縮と脊柱側弯症を引き起こした。乳児期に造血幹細胞移植の治療を受けていない小児と比較して、早期に造血幹細胞移植の治療を受けた小児は、病気が進行するであろう10歳台までの間、様々な程度の運動障害を抱えながらも、比較的正常な生活を送ることができていた。死亡率は25%で、非悪性疾患に対する造血幹細胞移植における一般的な死亡率よりもわずかに低かった。造血幹細胞移植後の転帰は、患者によって大きく異なる。すなわち、完全に正常な生活を送る者もいれば、障害を抱える者もいる (移動のために歩行器に頼る人から四肢麻痺に至るまで)。転帰は、疾患を早期に発見できたか、どの程度疾患が重症であるか、治療前にどの程度疾患が進行していたかによって異なる。
無症状の状態で診断を受けた乳児型クラッベ病の新生児 コンセンサス (合意の得られた)・ガイドラインでは、クラッベ病の家族歴がある (リスクのある血縁者の評価の稿を参照) または、新生児スクリーニング (newborn screening) の結果が陽性であったため、出生前/新生児評価のいずれかにより診断された無症状の新生児は、乳児型クラッベ病であるか否かを診断するための追加検査を受けることを推奨している (診断の確立、シナリオ2を参照)。従って、乳児型クラッベ病と合致する検査所見であった者は、生後14日よりも前に、造血幹細胞移植の候補となるかの判定を受ける [Kwon et al 2018]。
新生児スクリーニングの結果が陽性であり遅発型クラッベ病のリスクがあると推定されている無症状の新生児 これらのリスクのある患者のフォローアップに関するガイドラインは公表されておらず、現在のところ、遅発型クラッベ病の発症を予測できる有効なマーカーは存在しない [Wasserstein et al 2016]。
遅発型クラッベ病の症状がある患者 クラッベ病の臨床症状はよりゆっくりと進行する。したがって、遅発型クラッベ病の患者は、経過の中で十分早期に診断された場合、造血幹細胞移植の恩恵を受けることができるかもしれない。Lauleら [2018] は、単一の報告ではあるが、造血幹細胞移植により脱髄と軸索の喪失が停止することを明らかにした。
二次合併症の予防
症候性のクラッベ病患者
定期検査 (サーベイランス)
臨床症状を有するクラッベ病患者
以下の出現がないかに注意しモニタリングを行う:
避けるべき薬物/状況
臨床症状を有するクラッベ病患者
リスクのある血縁者の評価
[訳注: 米国においては] 分子学的に同定された乳児型クラッベ病のこどもを1名出産したことがある夫婦は、次子以降の妊娠に際し、出生前の分子遺伝学的検査 (molecular genetic testing) を選択することができる。これにより、両アレル性 (biallelic) にGALC病原性バリアントを持つ新生児を速やかに検出し (診断の確立、シナリオ2を参照)、もし適切である場合は、造血幹細胞移植へと進む(一次症状の予防の稿を参照)。
注意すべきこととして、同一家系内でも罹患者の症状にはばらつきがある (intrafamilial variability) ため、遅発型クラッベ病患者の同胞は、かなり早い年齢で発症する可能性があることが挙げられる。
遺伝子カウンセリングを目的としたリスクのある血縁者の検査に関する問題については、遺伝カウンセリングを参照のこと。
今後の導入が検討されている治療法
酵素補充療法、神経幹細胞移植、基質合成抑制療法、分子シャペロン療法など、他の治療法を検討するために、特徴のある動物モデルを用いた研究が行われている。今日までに、GALC欠損マウスモデルにおける実験的な「組み合わせ療法」 (遺伝子治療 [gene therapy] と共に造血幹細胞移植を行う) により、治療を受けたマウスの寿命を相乗的に延長させることに成功しており、GALC欠損症に対する治療のさらなる進展の可能性を示している [Reddy et al 2013、Rafi et al 2015、Ungari et al 2015]。
米国のClinicalTrials.govと欧州の EU Clinical Trials Registerを検索することで、幅広い疾患や症状の臨床試験に関する情報にアクセス可能である。注:この疾患に関する臨床試験が存在しない可能性もある。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
クラッベ病は常染色体劣性遺伝 (autosomal recessive) 形式をとる。
家族構成員のリスク
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の子
遅発型クラッベ病患者のこどもは必ずGALC病原性バリアント (pathogenic variant) のヘテロ接合体 (キャリア) である。
他の血縁者
発端者 (proband) の両親の同胞 (兄弟姉妹; 発端者の伯父・叔父および伯母・叔母) はそれぞれ、GALC病原性バリアント (pathogenic variant) のキャリアであるリスクが50%ある。
ヘテロ接合性に病原性バリアントを持つ者 (キャリア) の検出
リスクのある血縁者 リスクのある血縁者に対するキャリア検査は、家系内におけるGALC病原性バリアントを事前に同定する必要がある。
遺伝カウンセリングに関連した問題
早期診断と治療を目的としたリスクのある血縁者の評価に関する情報については、管理、リスクのある血縁者の評価の稿を参照のこと。
家族計画
DNAバンク DNAバンクとは、将来使用する可能性を考慮し、DNA (通常は白血球から抽出されたもの) を保管することである。検査の手法や、遺伝子に対する理解、アレル変異に対する理解、疾患についての理解は将来的に向上すると思われるため、患者由来DNAをバンク化することを検討するべきである。
出生前検査および着床前遺伝子検査
分子遺伝学的検査 (訳注:米国においては) 家系内で罹患者にGALC病原性バリアントが同定された場合、リスクの高い妊娠のための出生前検査 (prenatal testing) や着床前遺伝子検査 (preimplantation genetic testing) が可能となる。
遺伝生化学的検査 GALC酵素活性検査による出生前検査は、米国では行われていない。
GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報については、ここをクリック。
6368 West Quaker Street
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Krabbe Disease
224 North Second Street
Suite 2
DeKalb IL 60115
Phone: 800-728-5483 (toll-free); 815-748-3211
Fax: 815-748-0844
Email: office@ulf.org
www.ulf.org
Phone: 716-667-1200
Email: info@huntershope.org
Hunter James Kelly Research Institute Registry
Email: myelindisorders@cnmc.org
Myelin Disorders Bioregistry Project
分子遺伝学
分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの
他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。
表A.
クラッベ病 (Krabbe Disease): 遺伝子とデータベース
遺伝子名 | 染色体座 | タンパク質 | 遺伝子座特異的データベース< | HGMD | ClinVar |
---|---|---|---|---|---|
GALC | 14q31.3 | ガラクトシルセレブロシダーゼGalactocerebrosidase | GALC database BIPMed SNP Array - GALC GALC homepage - LOVD - Australian Human Variome Project |
GALC | GALC |
データは以下の標準的な参照サイトより収載した:遺伝子はHGNCから、染色体遺伝子座はOMIMから、タンパク質は UniProtから。リンク先のデータベース(Locus Specific, HGMD, ClinVar)の説明はこちらを参照のこと。
表B.
クラッベ病 (Krabbe Disease) に関連するOMIM項目 (OMIMで全てを見る)
245200 | クラッベ病 (KRABBE DISEASE) |
606890 | ガラクトシルセラミダーゼ (GALACTOSYLCERAMIDASE; GALC) |
遺伝子構造 GALCは約57kbの長さで、17のエクソンから構成される。コードされているタンパク質は、16アミノ酸からなるシグナルペプチドが切り出された後に669アミノ酸のタンパク質となる、685アミノ酸からなる前駆体タンパク質である。歴史的な呼称 (nomenclature) としては、16少ない状態から始まるアミノ酸番号が付けられていた。 したがって、古い文献 [Wengerら1997] のコドン番号では、現在の標準的な呼称とは16アミノ酸だけ異なる場合がある。
良性のバリアント 3つの一般的なGALCバリアント (p.Arg184Cys、p.Asp248Asn、およびp.Ile562Thr) は、GALC酵素活性を低下させることが知られている[Saavedra-Matiz et al 2016]。これらのバリアントはクラッベ病の原因とはならないが、酵素活性低下の臨床的意義の解釈を複雑にする。しかしながら、p.Ile562Thr [古典的呼称: p.Ile546Thr] は、他の軽度の病原性バリアント (pathogenic variant)、例えばp.Thr112Ala [古典的呼称: p.Thr96Ala] [Wenger et al 2014, Saavedra-Matiz et al 2016] が同一アレル上に (in cis) 存在した場合には、クラッベ病を引き起こすことが示されている。さらに、無症状の新生児から、新生児スクリーニング (newborn screening) で見つかってきた他のバリアントは、試験管内で (in vitro) GALC酵素活性を低下させるが、クラッベ病の原因とはならないことが知られている。
病原性バリアント ナンセンス (nonsense) バリアント、フレームシフトバリアント、スプライス部位 (splice site) バリアント、およびミスセンス (missense) バリアントを含む200以上の病原性バリアントが同定されている。バリアントの位置やタイプから臨床症状を予測できないことが多い。
最も典型的に認められる病原性バリアントである 30kbの欠失 (deletion) は、大きなイントロンであるイントロン10の中から始まり、GALC遺伝子 (gene) の終末部を越えて広がっており、ヨーロッパ系の先祖を持つ者の病原性バリアントの約45%を占めている。この欠失は、メキシコ系、パキスタン系、インド系の祖先をもつ患者における病原性バリアントの中でもかなりの割合を占めている。この欠失をホモ接合性 (homozygous) または他の重度の病原性バリアントと複合ヘテロ接合性 (compound heterozygous) に有する場合、患者は乳児型クラッベ病を発症する。これまでのところ、新生児スクリーニング (newborn screening) で発見されたクラッベ病の患者は全員、この欠失が含まれるアレルを少なくとも1つ有している。
乳児型クラッベ病に関連する他のいくつかの病原性バリアント (p.Thr529Met、p.Tyr567Ser、およびc.1472delA) は、ヨーロッパ系の祖先を持つ患者において認められるアレルの異常のうち、15%を構成している [Kleijer et al 1997, Wenger et al 1997]。
7.4kbの欠失 (deletion) もまた、複数の患者で確認されている。
病原性バリアントp.Gly286Aspは、他方のアレル (allele) に30kbの欠失が存在する場合でも、遅発型クラッベ病をもたらす。
イタリアのカターニアでよく見られる創始者バリアント (founder variant) であるp.Gly57Serは、ホモ接合性 (homozygous) と複合ヘテロ接合性 (compound heterozygous) の両者の状態で、遅発型クラッベ病と惹起する [Lissens et al 2007]。一般に、クラッベ病患者の遺伝型は複雑であり、良性バリアントと病原性バリアントが混在している。
意義不明 (unknown significance) のバリアントが同定された場合、サイコシンの上昇 (乳児型クラッベ病の参照範囲内) とGALC酵素活性の低下は、乳児型クラッベ病を示唆する所見である。
報告されているGALCバリアントのより詳細な情報は、Wenger et al [2013] に掲載されている。
表3.
注目すべきGALCの多型および病原性バリアント
バリアント分類 | DNA ヌクレオチド変化 (別名 1) |
予測されるタンパク質の変化 (別名 1) |
参照配列 |
---|---|---|---|
良性 | c.550C>T | p.Arg184Cys (p.Arg168Cys) |
NM_000153.3 NP_000144.2 |
c.742G>A | p.Asp248Asn (p.Asp232Asn) |
||
c.1685T>C | p.Ile562Thr (p.Ile546Thr) |
||
病原性 | (30kb欠失[deletion])2 | -- | |
.169G>A (121G>A) |
p.Gly57Ser (Gly41Ser) |
||
c.334A>G (286A>G) |
p.Thr112Ala (Thr96Ala) |
||
c.560A>T (512A>T) |
p.Asp187Val (Asp171Val) |
||
c.857G>A (809G>A) |
p.Gly286Asp3 (Gly270Asp) |
||
c.953C>T (944C>T) |
p.Pro318Arg (p.Gly302Arg) |
||
c.1472delA (1424delA) |
p.Lys491ArgfsTer62 | ||
c.1586C>T (1538C>T) |
p.Thr529Met (Thr513Met) |
||
c.1700A>C (1652A>C) |
p.Tyr567Ser (Tyr551Ser) |
||
c.1901T>C (1853T>C) |
p.Leu634Ser4 (Leu618Ser) |
命名法についての説明は Quick Reference を参照のこと。GeneReviewsは、Human Genome Variation Society (varnomen.hgvs.org) の標準的な命名規則に従っている。
正常遺伝子産物 (gene product) 80kdの前駆体タンパク質は、6つの潜在的なグリコシル化部位を含み、タンパク質分解的に、活性を持つ50kdと30kdのサブユニットに切断される。これらのサブユニットは個々には活性を持たないが、非常に高い疎水性分子の複合体へと凝集する。
異常遺伝子産物 (gene product) ガラクトシルセラミダーゼ酵素活性の喪失または著しい低下は、クラッベ病の発症へとつながる。