若年性ポリポーシス症候群
(Juvenile Polyposis Syndrome)

[Synonyms: Juvenile Polyposis Coli. Includes: BMPR1A-Related Juvenile Polyposis, SMAD4-Related Juvenile Polyposis]

GeneReviews著者: Joy Larsen Haidle, MS, CGC and James R Howe, MD.
日本語訳者:下山麻友(浜松医療センターゲノム診療センター),岩泉守哉(浜松医科大学医学部臨床検査医学講座)

GeneReviews最終更新日: 2022.2.3. 日本語訳最終更新日: 2022.5.18

原文 Juvenile Polyposis Syndrome


要約

疾患の特徴 

を表現しているのではなく、ポリープの形態を表現した用語である。JPSの患者の多くは20歳までにポリープを発症しているが、生涯で4個から5個のみのポリープ数の人もいれば、同じ家系であっても100個以上認められる人もいる。もし、ポリープに対して治療されなかった場合、ポリープからの出血や貧血の原因となり得る。ほとんどの若年性ポリープは良性であるが悪性化することもある。JPS家系での消化器癌発症リスクは11%~86%である。中でも大腸がんの発症リスクが最も高いが、胃や上部消化管、膵臓がん発症例も報告されている。SMAD4の病的バリアントを保有している人の多くに、JPSと遺伝性出血性毛細血管拡張症の合併症候群(JPS/HHT)が認められる。

診断・検査 

臨床的にJPSは、以下のうちいずれか1項目が当てはまる場合に診断される。

  • 大腸に5つより多くの若年性ポリープが認められる。
  • 全消化管に多数の若年性ポリープが認められる。
  • 個数を問わずに若年性ポリープが認められ、かつ、若年性ポリープの家族歴が認められる。

臨床的特徴が不明確であっても、SMAD4もしくはBMPR1Aに病的バリアントがヘテロ接合性で確認された場合には、確定診断となる。

臨床的マネジメント 

症状の治療
がん、出血、腸閉塞の発症リスク軽減目的の下部消化管内視鏡検査および内視鏡的ポリープ切除術が行われる。ポリープの数が多い場合、全て、あるいは一部の大腸および胃の切除が必要な場合がある。必要に応じて貧血に対する鉄分の補充と赤血球の輸血を行う。HHTの症状として動静脈奇形、大動脈障害、心臓弁膜症出現時には心臓専門医および心臓外科医による治療が必要。

一次症状の予防:
直腸出血や貧血、腹痛、便秘、下痢や便の大きさ・形・色の変化を評価し、症状に応じて必要な場合は末梢血による検体検査で血算を測定する。下部消化管内視鏡検査、上部消化管内視鏡検査を15歳から、あるいは症状が出現した場合や以前の内視鏡でポリープがあった場合にはその時点から開始し、3年毎行う。
外科的切除後の患者の場合、残りの結腸、直腸、回腸嚢の内視鏡的評価を行う。 SMAD4関連のJPSを患っている患者(またはそのリスクがある人)では、HHTサーベイランスガイドラインに従ってフォローを行う、また経胸壁心エコー検査を検討する。

リスクのある近親者の評価:
早期からのサーベイランスと介入により早期発見ができるように、罹患者の血縁者である高齢・若年の無症状のat risk者に対する評価を行うことが適切である。評価には分子遺伝学的検査が含まれ(家系内の病的バリアントが同定されている場合)、また家系内の病的バリアントが不明の場合には、消化管および血液の評価が含まれる。

遺伝カウンセリング 

JPSは常染色体顕性(優性)遺伝の遺伝形式とる。
JPS罹患者の最大半数の者が親も罹患者である。JPS発端者のおよそ50%は家族内にポリープの既往がなく、de novoの病的バリアントによるものかもしれない。罹患者の子どもはそれぞれ50%の確率で病的バリアントを受け継ぎJPSを発症する可能性がある。リスクが高い妊娠の出生前診断や着床前遺伝学的検査は、家系内での病的バリアントが同定されている場合に限っては可能である。


GeneReviewの適応範囲

若年性ポリポーシス症候群:臨床症状を含む
・若年性ポリポーシス症候群
・若年性ポリポーシス症候群/遺伝性出血性毛細血管拡張症(JPS/HHT)

 同義および古い名称については、命名法を参照。


診断

疑うべき所見

若年性ポリポーシス症候群(JPS)は、発端者に以下の臨床的、組織病理学的特徴が見られた場合に疑われるべきである。

臨床像

  • 貧血、直腸出血や直腸ポリープの脱出
  • 複数の若年性ポリープ
  • 1つ以上の若年性ポリープが認められ、かつ、JPSの家族歴が認められる。

注)ここでの“若年性”という用語はポリープ発症年齢を表現しているのではなく、ポリープの形態を表現した用語である。

病理組織

若年性ポリープは、周囲と同一の正常組織成分が過剰増殖する過誤腫の形態をとる。若年性ポリープは密な間質組織を伴う正常上皮組織の所見を呈し、炎症細胞浸潤を伴い、ポリープ頭は表面平滑で粘液に充満されのう胞状に拡張した腺管が粘膜固有層に広がる。筋線維や腺腫に通常認められる細胞増殖の形態は若年性ポリープでは認められない。

注:JPS/HHTに伴うポリープの形態に関しては典型的な若年性ポリープに比べ、形態様式が多岐にわたるとの報告がある。(臨床像の項参照)〔Aretz et al 2007〕

確定診断

JPSの診断は、発端者に下記の臨床的特徴のいずれかが存在する時に確定する

  • 結腸や直腸に5つ以上の若年性ポリープがある
  • 上部および下部消化管に多数の若年性ポリープ
  • 個数を問わず若年性ポリープがあり、かつ、若年性ポリポーシスの家族歴がある
  • Table1にリストされている遺伝子のいずれかに病的バリアントがヘテロ接合性に同定されている

分子遺伝学的検査によるアプローチは、BMPR1ASMAD4の同時解析、連続的な単一遺伝子検査、多遺伝子パネル検査の使用、そしてより網羅的なゲノム解析が含まれ得る。

BMPR1ASMAD4遺伝子の同時解析. JPSの臨床的特徴が疑われる者に考慮される。まず、BMPR1ASMAD4について、プロモーター領域の解析や標的遺伝子の欠失/重複解析を含む塩基配列の解析を行う。もし、病的バリアントが見つからなければ、PTENやその他の関連のある遺伝子を含む多遺伝子パネルを考慮する。(鑑別診断、Table3参照)

連続的な単一遺伝子検査 JPS/HHTの臨床的特徴が疑われる者に考慮される。(Table2と遺伝性出血性毛細血管拡張症を参照)

  1. まず、SMAD4の配列解析と欠失/重複解析が行われる
  2. SMAD4に病的バリアントが同定されなかった場合に、次にBMPR1Aの配列解析と欠失/重複解析が考慮される。
  3. SMAD4BMPR1Aの両方に病的バリアントが同定されなかった場合に、その他のHHT関連遺伝子の分子遺伝学的検査を考慮する

多遺伝子パネル. BMPR1ASMAD4やその他の関連のある遺伝子(鑑別診断を参照)、特にPTEN*を含んだ多遺伝子パネル検査は、JPSに考慮される。
注:

  1. 含んでいる遺伝子や多遺伝子パネル検査の感度は検査室によって異なり、経時的に変化しやすい。
  2. いくつかの多遺伝子パネル検査では、このGenereviewsで説明のない疾患の遺伝子が含まれている可能性がある。そのため臨床医は、VUSや対象とする症状と関連しない病的バリアントが同定される確率を抑えつつ、どの多遺伝子パネルが遺伝的要因を同定する可能性が高いかを判断する必要がある。
  3. 検査室によってパネル選択は、臨床医が指定した遺伝子が含まれた検査室によって選択されたパネルや症状に焦点を当てたエクソーム解析が含まれるかもしれない。
  4. パネルに使用されているメソッドは、配列解析や、欠失/重複解析、およびその他の配列解析では無い検査が含まれるかもしれない。
  5. パネルの限界を理解することは、陰性という結果を解釈したり、追加の検査が必要かどうかを判断したりする際に重要である。そのパネルが臨床的に最も疑わしい遺伝子をカバーしており、プロモーター領域の解析を含んでいるかを確認することは大切である。

BMPR1AまたはBMPR1APTENの両方を含んでいる染色体マイクロアレイ検査で検出可能な10q22-q23の欠失は、若年性ポリポーシスの有無に関わらず、または重度の早期発症JPSを伴う、別の臨床像と関連しているかもしれない。[Delnatte et al 2006, Salviati et al 2006, van Hatten et al 2008,
Calva-Cerqueira et al 2009, Breckpot et al 2012, Oliveira et al 2013, Alimi et al 2015]. Hamartomatous
polyposis and 10q22-q23 deletions have been reviewed by Dahdaleh et al [2012]過誤腫ポリポーシスと10q22-q23の欠失についてはDahdalehらによってレビューされている〔2012〕。

*もし、病的バリアントが見つからなかった時、その人がPTEN過誤腫症候群なのかJPSなのかを見極めるために、PTENの分子遺伝学的検査を行うのが適切である。

マルチジーンパネルについての概論はこちら(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK279899/?report=reader#app5.Multigene_Panels )。遺伝学的検査を発注する臨床医向けのより詳細な情報についてはこちら(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK279899/?report=reader#app5.Comprehensive_Genomic_Testing_1 )。

網羅的ゲノム解析 (可能な場合は)エクソーム解析やゲノム解析が行われる。このような検査は、これまでに考えられていなかった診断を提供、または示唆する可能性がある。(例えば、異なる遺伝子や同様の症状をもたらす遺伝子でのバリアント)

Table1. 若年性ポリポーシス症候群で実施されている分子遺伝学的検査

遺伝子¹ この遺伝子の病的バリアントに原因があると考えられるJPSの割合 この方法により検出可能な病的バリアント²を
有する割合
配列解析³ 欠失/重複解析⁴
BMPR1A 28%⁵ 69-85%⁵,⁶ 15%⁵
SMAD4 27%⁵ 83%⁵ 17%⁵
Unknown⁷ 45% 該当なし
  1. Table A参照。遺伝子と染色体座位とタンパク質についてのデータベース参照。
  2. 分子遺伝学の項の、この遺伝子上のアレルのバリアント検出情報参照。
  3. 配列解析で検出される変異には、良性、おそらく良性、意義不明なバリアント、おそらく非病的バリアント、病的バリアントがある。バリアントには、小規模な遺伝子内欠失/挿入やミスセンス、ナンセンス、そしてスプライスサイトバリアントが含まれ、典型的には、エクソンや全遺伝子の欠失/重複は検出されない。配列解析結果に対する解釈はこちら(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK6851/?report=reader)。
  4. 標的遺伝子の欠失/重複解析では、遺伝子内の欠失や重複が検出できる。検査方法は、定量的PCR、ロングレンジPCR、MLPA(multiplex ligation-dependent probe)法、単一エクソンの欠失や重複の検出を目的とする標的遺伝子マイクロアレイなどである。
  5. Aretz et al(2007),van Hattem et al(2008),Calva-Cerqueira et al(2009),Latchford et al(2012)
  6. BMPR1Aのプロモーター領域の配列解析においては、コーディング領域の配列や欠失/重複解析でBMPR1AもしくはSMAD4の病的バリアントが検出されなかったJPSの体質をもつ65人中6人で病的バリアントが検出された〔Calva-Cerqueira et al 2010〕。プロモーター領域を含む配列解析によって、シークエンシングで検出する病的バリアントが増える。
  7. 若年発症JPS患者の2人において、ENGの病的バリアントが検出されている。どちらも、ENG病的バリアントによるものであると知られているHHTの臨床所見がなかった。しかし、どちらもまだHHTの症状が典型的に現れる年齢に達していない状態であった。〔Sweet et al 2005, Howe et al 2007〕

臨床像

自然経過

若年性ポリポーシス症候群(JPS)

PSは胃、小腸、結腸、直腸を中心とする消化管に過誤腫性ポリープが発生することが特徴である。“generalized juvenile polyposis”とは上部および下部消化管にポリープを認めるもので、“Juvenile polyposis coli”とはポリープが結腸のみに存在するものをいう。

ポリープは平坦なものから有茎性なものまであり、肉眼的形態的においても大きさにおいても様々である。JPS症例に認めるポリープの数も生涯にわたり4-5個しか認めない例から同一家系内の症例でも100個以上認める例までさまざまである。

出血はポリープ全体あるいは一部の上皮が便の通過とともに脱落することで生じる。もし、ポリープを治療せずに放置したままにしておくと、出血や貧血の原因になり得る。

幼少期から成人になるまでの期間に若年性ポリープは発育する。ほとんどのJPS症例では20歳までに何個かのポリープを認める。

BMPR1APTENの連続的な欠失に関連する乳児期の若年性ポリポーシスでは、生後数年以内にポリープが発症し、低タンパク血症、タンパク漏出性腸症、下痢貧血、全身浮腫、および成長障害を伴う[Tayloretal 2021]。

JPS関連癌リスク. ほとんどの若年性ポリープは良性であるが悪性化することがある。JPS家系における消化管の癌を発症する推定生涯リスクは11-89%と報告されており、地域や観察期間、関連する遺伝子によってばらつきがある[Latchford et al 2012、Aytac et al 2015、Ishida et al 2018、
Blatter et al 2020、MacFarland et al 2021]。SMAD4/BMPR1Aの病的バリアントによって引き起こされたJPS罹患者に対するこれまでの最も大きな研究では、15%が癌を発症した。これは他の最新の研究とも一致している[Blatteretal2020]。外科的に治療されている人やサーベイランスによってフォローされている者では、SMAD4の病的バリアントを持つ27人のうち4人でがんを発症したが、BMPR1Aの病的バリアントを持つ8人ではひとりも癌を発症しなかった〔Aytac et al 2015〕。癌化するほとんどの症例は大腸癌であるが、胃癌その他の上部消化管癌および膵臓癌の報告もある。

  • 大腸癌の発生頻度は35歳までに17-22%であり、60歳までに68%に達する。中央値は42歳である。
  • JPS症例でかつ胃ポリープを認める症例における胃癌の発生頻度は21%である。
  • JPSをもつ人の大腸癌の相対リスクは34.0%である。大腸癌と診断される平均年齢は43.9歳で、生涯の累積リスクは38.7%である。〔Brosens et al 2007〕

報告によると、SMAD4の生殖細胞変異を認める1つの大家系において、大腸癌のリスクはほぼ40%であり、上部消化管癌のリスクは20%であった〔Howe et al 1998〕。しかしこれら癌の発生頻度は若年時の高リスク群のスクリーニングや発癌前のポリープ切除実施により、この先徐々に変化する可能性がある。

若年性ポリポーシス症候群/遺伝性出血性毛細血管拡張症の複合症候群(JPS/HHT)

JPS/HHTの患者では、若年性ポリポーシスと遺伝性出血性毛細血管拡張症の様々な所見が見られる(Table2参照)。SMAD4の生殖細胞系列病的バリアントをもつJPS患者の多くは、HHTの臨床的特徴を1つ以上もつ。HHTの所見は幼児期に現れる可能性がある。SMAD4関連のHHTでは一貫して肺動静脈奇形、(ばち指)、鼻出血は高頻度に出現することが知られている。反対に毛細血管拡張は常に認める症状ではないようである。JPS/HHTの患者の合併症として報告されているものには他に、貧血、片頭痛、運動不耐性がある。

Table 2. SMAD4の病的バリアントを持つ患者で報告のある毛細血管拡張症の臨床的特徴

しばしば 30 歳以降4
臨床的特徴 臨床的特徴を持つ割合 発症年齢
鼻出血 61%-71%1,2 幼少期3
毛細血管拡張症 57%2 しばしば 30 歳以降4
粘膜皮膚毛細血管拡張症 48%3 5-65 歳3
肺動静脈奇形 53%-81%2,3 生後- 52 歳3
肝動静脈奇形 38%3 21-52 歳3
脳動静脈奇形 4%3 22 歳;  11 歳 ±7の範囲1
大動脈障害 38% 4 24 歳;  21-48 歳の範囲5,6
心エコー検査での肺内シャント 61%3 5-59 歳3
  1. .Nishida et al [2012]
  2. O’Malley et al [2012]
  3. Wain et al [2014]SMAD4病的バリアントを有する34人の個人のコホートにおけるHHT関連症状の頻度を報告した。
  4. See Hereditary Hemorrhagic Telangiectasia.
  5. Heald et al [2015]
  6. Jelsig et al [2016]

SMAD4病的バリアントを有する者において、胸部大動脈疾患(例:大動脈根拡張、動脈瘤、大動脈解離)および僧帽弁機能障害が報告されている [Heald et al 2015]。

表現型の拡大 網膜色素変性症、網膜剥離、関節弛緩、およびマルファン様体型を呈するSMAD4病的バリアント保有者がいることが報告されている。これらの調査結果のデータは限られており、これらがSMAD4関連のJPS/HHT表現型の特徴であるかどうかは不明である。医学管理の推奨事項として決定するためにこれらの報告の頻度を評価するには、さらなる調査が必要である。医療提供者はこれらの報告を認識し、ケースバイケースで個人を評価することを望むかもしれない。

遺伝型と表現型の相関

同一のJPS家系内で同一の遺伝子変異を認めるにもかかわらず、認めるポリープの数が数個の症例から100個以上の症例まで存在するように、JPSの家系での遺伝型と表現型の相関は一般的には弱い。ポリープは発育する年齢は同一家系内であっても10歳代から40歳代以降までさまざまである。
時として以下のように一般化されている

  • SMAD4関連JPSの患者は、BMPR1Aの病的バリアントを持つ患者や病的バリアントが知られていない患者と比較して、上部消化管ポリープの既往歴または家族歴を持つ可能性が高い。SMAD4病的バリアントを持つ人の胃の表現型は、著しいポリポーシス、貧血、胃癌の高リスクを伴い、それらの所見がより顕著である傾向がある。[Aytac et al 2015, Blatter et al 2020,MacFarland et al 2021]。胃がんは、SMAD4関連JPSにおいてのみその発症が報告されている。(SMAD4関連癌の27% vs BMPR1A関連癌の0%)[Blatter et al 2020]
  • BMPR1A関連JPSでは、大腸がんが他のがん種よりも高頻度に発生する(BMPR1A関連がんの88% vs SMAD4関連がんの58%)[Blatter et al 2020]。
  • SMAD4またはBMPR1Aのいずれかの病的バリアントを持つ人は、病的バリアントが特定されていない人に比べて、下部消化管ポリープが10個以上多くあり、消化管癌の家族歴を持つ可能性がより高いと考えられる[Burger et al 2002, Friedl et al 2002, Sayed et al 2002, MacFarland et al 2021]。また、彼らは診断時に高齢であり、大腸切除術を必要とするリスクが高い[MacFarland et al 2021]。
  • 生殖細胞系のBMPR1AまたはSMAD4の病的バリアントを持たない者では、ポリープの数は成人期に減少し、がんリスクは低くなる可能性があることがいくつかのエビデンスにより示唆されているが[MacFarland et al 2021]、さらなる研究が必要である。
  • JPS/HHTは、SMAD4の病的バリアントと関連している。

浸透率
20家系、34人のSMAD4病的バリアントを有する患者を調査したある研究では、31/32(97%)が結腸ポリープ(4歳から51歳の間で診断)を発症し、21/31(68%)が胃ポリープを発症し、76%にはHHTのいくつかの特徴がみられた[Wainet.al2014]。場合によっては、SMAD4病的バリアントを有する患者のHHT関連症状がポリープの発症前に存在する可能性がある[著者の個人的な見解]。 BMPR1A病的バリアントを有する患者については、同様の数値ではない。しかし、Aytac et al [2015]は、ポリープの数と位置、および手術率において、SMAD4またはBMPR1Aの病的バリアントを有する患者間で同様の結腸および小腸の表現型を報告した。

命名法
家族性若年性ポリポーシスは、孤発例と家族性の例を区別するために使われる古い用語である。

頻度 
JPSの発症率は16, 000-100, 000人に1人と推定される。


遺伝的な関連疾患

BMPR1A

BMPR1A生殖細胞病的バリアントが、遺伝性混合ポリポーシス症候群の特徴を持つ者のいる6家系で確認された。ポリープは、腺腫性、過形成性、および非定型的な若年性の組織が混在していると報告されている[Cao et al 2006, Cheah et al 2009, O'Riordan et al 2010, Miyahara et al 2020](鑑別診断の欄を参照)。

PTENBMPR1A を含む 10q22-q23 の欠失が若年性乳児ポリープ症の個体で同定されている。
ポリープは生後数年以内に発生し、低タンパク血症、タンパク漏出性腸症、下痢、貧血、全身浮腫、成長不全を伴う。

遺伝子内BMPR1A欠失の1人は、特異的顔貌、房室中隔欠損、低身長、思春期遅延を有すると報告されている[Breckpot et al 2012]。

成長障害、心房中隔欠損、気道異常(喉頭軟化症、声門下狭窄)、発達遅滞を有する患者にホモ接合性のBMPR1Aミスセンスバリアント(p.Arg406Lys)が確認された[Russell et al 2019].。

SMAD4

496番目または500番目のアミノ酸に影響を及ぼすヘテロ接合性機能獲得型SMAD4病的バリアントは、Myhre症候群と関連している。Myhre症候群は、心血管疾患、呼吸器疾患、消化器疾患、皮膚の肥厚、増殖性線維症と瘢痕、認知障害、顔面異形症、低身長などの多系統の関与を伴う結合組織疾患である。現在までのところ、Myhre症候群の患者では、典型的な若年性ポリポーシス症候群(JPS)の表現型と一致する癌は報告されていない。 しかし、Myhre症候群では若年発症の子宮内膜がんや良性脳腫瘍が報告されている。

JPSの他の所見がなく、単発で発生する散発性腫瘍(大腸がん、膵腫瘍を含む)は、生殖細胞系には存在しないSMAD4の体細胞変異を保有していることが多い[Chen et al 2014].。このような状況において、これらの腫瘍に対する素因は遺伝しない。より詳細な情報はがんと良性腫瘍の欄を参照。


鑑別診断

若年性ポリープは遺伝的素因あるいは偶然の結果生じる。一般人口の1-2%でJPSの診断基準を満たさない孤発性若年性ポリープを認める。

ポリープを特徴とする遺伝的素因による症候群をTable3にまとめる。

Table 3.
JPSとの鑑別診断を考慮する遺伝性ポリープ疾患

遺伝子/遺伝的メカニズム 疾患名 MOI ポリープ表現型 その他の特徴
APC 家族性大腸腺腫症 ポリポーシス(APC関連ポリポーシス参照) AD 消化管ポリポーシス;多発性 腺腫様ポリープ 骨腫、歯牙異常、網膜色素上皮の先天性肥大、デスモイド腫瘍、甲状腺がん、肝芽腫、髄芽腫のリスク、およびその他の関連癌
AXIN2 ポリポーシスと部分性無歯症
(OMIM 608615)
AD 消化管ポリポーシスと腺腫 欠歯・大腸癌
GALNT12 ポリポーシス (OMIM 608812) AD 消化管ポリポーシスと腺腫 大腸癌との関連を示唆する予備的証拠
GREM1
overexpression1
遺伝性混合型ポリポーシス症候群
(OMIM 601228)
AD 若年性ポリープと複数種類のポリープ;鋸歯状ポリープ、ポイツイェガースポリープ、腺腫 大腸がんのリスクが高い
MLH1
MSH2
MSH6
PMS2
EPCAM
リンチ症候群 AD 大腸ポリープ;少数の腺腫様ポリープ 大腸がんのリスクが高い
子宮内膜、卵巣、
胃、小腸、肝・胆道系
上部尿路、脳、皮膚癌
MLH1
MSH2
MSH6
PMS2
ミスマッチ修復欠損症(リンチ症候群、分子遺伝学参照) AR 大腸ポリープ、多くは早期 発症の腺腫様ポリープ   幼児期から始まる小児脳腫瘍、白血病/リンパ腫、大腸がんなどの発症リスク
MSH3 ポリポーシス(OMIM 616415) AR 消化管ポリポーシス、腺腫 大腸がん
MUTYH MUTYH-関連ポリポーシス AR 消化管ポリポーシス;複数の大腸腺腫性ポリポーシス;十二指腸腺腫;そのほかのポリープ:鋸歯状、過形成/無茎性鋸歯状、混合型 大腸がんのリスクが高い。
十二指腸、胃、卵巣、膀胱のがん。
NTHL1 ポリポーシス(OMIM 616415) AR 消化管ポリポーシス、腺腫 大腸がん
PTCH1
SUFU
母斑性基底細胞癌症候群 AD 胃ポリープ 多発性顎骨角化嚢腫、基底細胞癌、巨頭症、前頭部の突出、粗な顔貌、顔面稗粒腫
PTEN PTEN過誤腫症候群 AD ポリープの種類は様々で、主に過誤腫性ポリープや若年性ポリープ、また管状腺腫、後縦隔神経節細胞腫、鋸歯状ポリープなどがある 甲状腺、乳房、子宮内膜の良性・悪性腫瘍;血管奇形;ASD、DD;巨頭症、毛根鞘腫、乳頭腫様丘疹、脂肪腫、陰茎亀頭色素斑
RNF43 鋸歯状ポリポーシス 症候群(OMIM
617108)
AD 消化管ポリポーシス、過形成、無症状鋸歯状腺腫、腺腫 大腸がん
STK11 ポイツ・ジェガーズ症候群 AD 消化管ポリポーシス:ポリープは平滑筋の過形成を特徴的な所見とする。 乳房、大腸、膵臓、卵巣、胃、肺、小腸を含む粘膜色素沈着性のがん

AD=常染色体顕性(優性)遺伝、AR=常染色体潜性(劣性)遺伝、ASD=自閉症スペクトラム障害、DD=発達障害、GI=消化管、MOI = 遺伝形式

  1. 15q13-q14の重複は、GREM1の過剰発現につながる

ACVRL1ENGGDF2 に関連する遺伝性出血性毛細血管拡張症や、EPHB4RASA1 など血管異形成症候群に関連する遺伝子(毛細血管動静脈奇形症候群を参照)は、ポリポージスを持たない消化管出血や貧血のある人の鑑別診断に考慮することができる。

 


臨床的マネジメント

若年性ポリポーシス症候群の臨床実践ガイドラインが発表された[Achatz et al 2017、Cohen et al 2019、NCCN2021]。

最初の診断に続いて行なう評価

若年性ポリポーシス症候群(JPS)と診断された罹患者の疾患の程度とニーズを確立するために、表 4 に示す評価(診断に至った評価の一部として実施されていない場合)を行うことを推奨する。

Table4. 若年性ポリポーシス症候群の初診時に推奨される評価項目

検討項目 評価 コメント
消化器 腹痛、直腸出血。便秘、下痢、便の大きさや形、また色の変化を評価する。 診断時
  • 全血算
  • 下部消化管内視鏡検査
  • 上部消化管内視鏡検査
15歳までに、それより早くに症状がある場合は出現時から
血液/循環器
  • HHTに関連する合併症の有無を評価する。
  • 経胸壁心エコーを検討する。
  • SMAD4病的バリアントを持つ人の診断時
  • 注:最初の経胸壁心エコーを撮る推奨年齢は決定していない。
遺伝カウンセリング 遺伝の専門家によって実施 1 罹患者とその家族にそのJPSの自然歴や遺伝形式、影響について知らせ、医療的介入とその人の意思決定の促進をする

HHT=遺伝性出血性毛細血管拡張症、MOI=遺伝形式

  1. 臨床遺伝専門医、認定遺伝カウンセラー、遺伝看護専門看護師

症状に対する治療
Table5.若年性ポリポーシスの症状に対する治療

症状 評価 配慮事項/その他
消化管ポリープ 下部消化管内視鏡検査(内視鏡的ポリープ切除術を伴うもの) がん、出血、腸閉塞のリスクを下げることで、罹患率を下げる
・胃の部分切除術または胃の全摘術
・大腸部分切除術または全切除術(回腸直腸吻合術を含む大腸亜全摘術、 
または回腸嚢を含む直腸肛門切除術)1
ポリープが多い場合に、症状緩和およびがんのリスクの低減のために必要なことがある
貧血 ・鉄分の補給(必要に応じて経口または非経口投与)
・必要に応じた赤血球輸血
ポリープ切除や手術により改善されることがある(胃切除術/大腸切除術)
消化管出血 遺伝性出血性毛細血管拡張症のマネジメントを参照 SMAD4病的バリアント保有者の場合
鼻出血
動静脈奇形
大動脈疾患
弁膜症
循環器専門医・心臓外科医による治療
  1. 望ましい処置は議論されている。結腸・直腸ポリープの数は直腸切除の必要性と相関がないようである [Oncel et al 2005]。

サーベイランス

Table6で推奨されるサーベイランスは、分子遺伝学的検査においてSMAD4またはBMPR1Aの病的バリアントを持つと同定された人、JPSの臨床診断を受けた人、またはJPSの家族歴があるが 分子遺伝学的検査を受けていない人、あるいは分子遺伝学的検査の結果が得られなかった人に対して推奨される。

Table6. 若年性ポリポーシス症候群に対して推奨されるサーベイランス

評価項目 評価 頻度
消化器系 直腸出血、貧血、腹痛、便秘、下痢、または便のサイズ、形状、および色の変化を評価する。 受診毎
血算 症状に応じて適宜
  • 下部消化管内視鏡検査
  • 上部消化管内視鏡検査
  • 注:外科的腸管切除術の後、残存した結腸、直腸、回腸嚢のスクリーニングを継続する。
15 歳から 3 年ごと、またはそれ以前に症状が現れた場合にはその時期から開始。 ・ポリープが見つかった場合:ポリープ治療後、ポリープがなくなるまで毎年検診を行い、その後
3年ごとのスクリーニング ・生殖細胞系のSMAD4またはBMPR1Aの病的バリアントを有する場合:ポリープがない場合には、成人以降5年後毎に実施
血液/心筋梗塞 遺伝性出血性毛細血管拡張症、サーベイランスを参照。
経胸壁心エコー図を検討する。
注)現在までのところ、大動脈疾患のモニタリングのための心エコー検査の実施頻度については決定していない。1
  1. Teekakirikul et al [2013, Heald et al [2015]

避けるべき方法や環境

SMAD4関連HHT

  • 著しい鼻出血のある人は、激しく鼻をかむこと、重い物の持ち上げること、排便時の力み、鼻の中を指で触ることを避けることが勧められる。HHTの中には、飲酒後に鼻出血が増える者もいる。
  • HHT患者の治療経験を持つほとんどの耳鼻咽喉科医は、再発性鼻出血の治療に対して、電気や化学的焼灼器や経カテーテル塞栓療法を用いないことを推奨している。
  • アスピリンなどの抗凝固剤、イブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症剤といった、正常な血液凝固を妨げるものは、他の病気の治療で必要な場合を除き避けるべきである。ある研究では、低用量薬剤、特に抗血小板剤は、罹患者の高い割合で出血との関連は認められなかった。これらの知見は、使用する優先度の高い適応症がある場合の、血小板剤または抗凝固剤の慎重な使用を支持している。 [Devlin et al 2013]
  • 過去5年以内に行った造影心エコー検査において、右左シャントが陰性であることが確認出来ていない限り、スキューバダイビングは避けるべきである。
  • 肝生検は避けるべき[Buscarini et al 2006]。

リスクのある血縁者の評価

早期のサーベイランスと介入が有用となる人々をできるだけ早く特定するために、罹患者の無症状のリスクのある親族を評価することは適切である。

所見がJPSを示唆する家族、または既知のBMPR1A病的バリアントを有する家族では、以下の評価が含まれうる。

  • 家族内の病的バリアントがわかっている場合は、15歳以前に分子遺伝学的検査を実施する。
  • 家族性の病的バリアントが不明な場合は、15歳以上を対象に血算(CBC)および下部消化管内視鏡検査を実施する。結果が陰性であっても、JPSの診断を否定するものではない(その他の推奨事項については、サーベイランス参照)。

若年性ポリポーシス症候群/遺伝性出血性毛細血管拡張症(JPS/HHT)を示唆する所見を有する家族
またはSMAD4の病的バリアントが知られている家族において;

  • 家族内にSMAD4病的バリアントが分かっているat riskの子供には、15歳以前に分子遺伝学的検査を行うべきである。なぜなら、HHT関連の所見のサーベイランスは、ポリープのサーベイランスよりも早い時期から始まるからである。
  • JPS/HHTを示唆する所見があるが、家系内の病的バリアントが不明な家族において。
    • 15歳以上ではCBCと下部消化管内視鏡検査、ポリポーシスの症状がある場合はそれより早くに検査を行う。結果が陰性でもJPSの診断を否定するものではない(そのほかの推奨事項については、サーベイランス参照)
    • 40歳以上の者では、病歴と臨床所見でHHTの特徴を確認する。軽度の再発性鼻出血と、注意深い検査を行い、特徴的な部位に見られる微小な毛細血管拡張がない場合、特段問題はないだろう(遺伝性出血性毛細血管拡張症を参照)。
    • 40歳以下では、病歴と臨床検査でHHTの特徴が特定されないことがあるため、HHTの特徴に的を絞った病歴と臨床所見の確認とともに脳と肺の動静脈奇形の初期評価を行う。

遺伝カウンセリング目的の、高リスクの近親者に対する検査に関しては、遺伝カウンセリングの項を参照のこと。

周産期管理

「遺伝性出血性毛細血管拡張症、妊娠中の管理」を参照。

研究中の治療法について

BMPR1APTENの両方が欠損している若年性乳児ポリープ症患者において、シロリムスが ポリープの量を軽減するための介入として研究されている [Busoni et al 2019]。小規模な症例集積の中では、シロリムス は、出血や腸症などの症状を軽減し、大腸切除の割合も減少させた [Taylor et al 2021]。

米国ではClinicalTrials.gov、欧州ではEU Clinical Trials Registerを検索すると、様々な疾患や症状に対する臨床試験についての情報を入手することができる。

その他

若年性ポリープに対する化学予防策は知られていない。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

JPSは常染色体顕性(優性)の遺伝形式をとる。

家族構成員のリスク

発端者の両親

  • JPS症例の半数以上で両親もJPSに罹患している。
  • JPS発端者の約50%でポリープの家族歴がなく、de novo遺伝子変異の結果であろうと考えられている [Restrepo et al 1978, Coburn et al1995]。
  • 発端者が唯一の罹患家族である場合(すなわち、孤発例)、両親の遺伝的/臨床的状態を明らかにし、兄弟姉妹や他の親族におけるJPSのリスクを評価するために、両親の評価が推奨される。発端者の両親の評価に関する推奨事項は以下の通りである。
    • SMAD4またはBMPR1Aの病的バリアントが発端者に同定されている場合には、分子遺伝学的検査
    • 発端者で病的バリアントが同定されていない場合には、JPSのスクリーニング/サーベイランス (発端者の所見がJPS/HHTを示唆するものである場合は、遺伝性出血性毛細血管拡張症〔HHT〕のスクリーニング/サーベイランスも)
  • 発端者が、両親のどちらにも同定できない既知の病的バリアントを有し、両親の同定検査で生物学的親子関係が確認された場合、以下の可能性がある。
    • 発端者はde novo病的バリアントを有している。
    • 生殖細胞系列(または体細胞系列と生殖細胞系列)のモザイクを持つ親から病的バリアント
      を受け継いだ発端者である。注:親の白血球のDNA検査では、体細胞モザイクのすべての例
      を検出できない場合があり、生殖細胞のみに存在する病的バリアントを検出することはで
      きない。
  • 家族内で障害を認識できない、浸透率が低く症状が様々である、症状が出る前に親が早く死亡した、罹患した親の発症が遅かったなどの理由によって、JPSと診断された人の中には家族歴が否定的に見える場合がある。そのため、適切な臨床評価と分子遺伝学的検査が発端者の両親に対して実施されない限り、否定的な家族歴を確定することはできない。

発端者の同胞 

発端者の同胞のリスクは発端者の両親の遺伝的状態によって異なる:

  • 発端者の両親が罹患している場合や、発端者と同じ病的バリアントを認める場合に、発端者の同胞がその病的バリアントを受け継ぐ可能性は50%である。
  • 同じSMAD4またはBMPR1A遺伝子の病的バリアントをヘテロ接合で持つ家系内で、家族内変動(症状、発症年齢、がんリスクなどの変動)が報告されている。
  • 発端者がJPSの原因となる既知の病的バリアントを持っているが、両親の白血球DNAからは検出されない場合、親の生殖細胞モザイクの可能性があるため、同胞の再発リスクは一般集団より若干高くなる [Lamireau et al 2005]。
  • 両親の遺伝的状態が不明な場合(もしくは発端者の分子診断が確立されていない場合)、兄弟姉妹はJPSのリスクがあると考え(両親の発症の有無に関わらず)、分子遺伝学的検査とJPS(発端者の所見からJPS/HHTが示唆される場合にはHHTも)、のスクリーニング/サーベイランスを実施すべきである。

発端者の子

JPS患者の子供は、それぞれ50%の確率で原因となる病的バリアントを受け継ぎ、JPSの発症リスクをもつ。

他の家族構成員

発端者の他の家族のリスクは発端者の両親の遺伝的な状況次第である。親が罹患している場合や、発端者で同定された病的バリアントを有していることが分かっている場合、その家族はリスクを持つ可能性があり、分子遺伝学的検査やサーベイランスが有効である可能性がある。

遺伝カウンセリングに関連した問題

家族計画 

  • 遺伝リスクの決定や出生前検査の試行についての話し合いは妊娠前に行うのが適正である。
  • リスクのある若年の者に対し、遺伝カウンセリング(子孫に対するリスクや出産方法に関する話し合いを含む)を行うのが適当である。

癌リスク評価と遺伝カウンセリング.分子遺伝学的検査の有無にかかわらず、がんリスク評価を通じてリスクのある個人の同定することに関する医学的、心理的、倫理的な問題についての包括的な説明については、癌の遺伝リスク評価とカウンセリング(Elements of Cancer Genetics Risk Assessment and Counseling;NCIのPDQ®の一節)を参照のこと。

 
18歳未満の無症候例に対する分子遺伝学的検査家系内でJPSを引き起こす病的バリアントが家系内に確認された場合、早期スクリーニングの利益を受ける家族が誰なのかを同定するために分子遺伝学的検査が利用され得る。

  • BMPR1Aの病的バリアントが知られている家系.  JPSのリスクのある無症状者に対するサーベ
    イランスは15歳から開始することが推奨されているため、この年齢あたりかそれ以前にJPSの
    予測的遺伝子検査を検討することが適切であると考えられる。子どもの検査結果に対処する能力を親が心配する場合には、分子遺伝学的検査情報の開示は遅らせるが、サーベイランスは遅らせない。
     JPSの症状が15歳以前に現れた場合、その時点でサーベイランスを開始し、分子遺伝学的検査の結果を開示することは、妥当な選択肢である。このような情報を幼少期に知ることのリスクとメリットを考え、子どもたちと話し合い、子どもたちの疑問に答える方法を考えることが重要である。
  • SMAD4の病的バリアントが知られている家系.  15歳以前の予測的分子遺伝学的検査を提供すべきである。なぜなら、HHTに関連する所見のサーベイランスは、ポリープのサーベイランスよりも小児期の早い時期から始まるからである。
    家系内の病的バリアントが不明な場合のリスクのある血縁者の評価に関する情報は、「マネジメント」と「リスクのある血縁者の評価」を参照のこと。

DNAバンキング
今後、検査方法や遺伝子、発症メカニズム、疾患に関する理解が進むと予測されるため、分子的診断が確定していない発端者(すなわち原因となる発症メカニズムが不明)のDNAを保管することを考慮すべきである。

出生前診断

家族にJPSの原因となる病的バリアントが同定された場合、リスクのある妊娠のための出生前検査や着床前遺伝子検査が可能である。
出生前検査の利用については、医療関係者や家族の間で考え方の違いが生じることがある。ほとんどの施設では、出生前検査の利用は個人の決断であると考えられているが、このような問題については議論の余地がある。


関連情報

GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報についてはここをクリック。

  • My46 Trait Profile

Juvenile Polyposis Syndrome

  • National Cancer Institute (NCI)

6116 Executive Boulevard
Suite 300
Bethesda MD 20892-8322
Phone: 800-422-6237 (toll-free)
Email: cancergovstaff@mail.nih.gov
Genetics of Colorectal Cancer (PDQ®)

  • American Cancer Society

Phone: 800-227-2345
www.cancer.org

  • International Society for Gastrointestinal Hereditary Tumours (InSiGHT)

www.insight-group.org


分子遺伝学

分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。

TableA. 若年性ポリポーシス症候群: 遺伝子とデータベース

遺伝子 染色体座位 タンパク質 座位特異的
データベース
HGMD ClinVar
BMPR1A 10q23.2 Bone morphogenetic protein receptor type-1A BMPR1A database BMPR1A BMPR1A
SMAD4 18q21.2 Mothers against decapentaplegic homolog 4 SMAD4 Database SMAD4 database SMAD4 SMAD4

データは、以下の標準的な文献から作成したものである:遺伝子はHGNC、染色体座位は OMIM、 タンパク質は UniProt。

TableB. 若年性ポリポーシス症候群のOMIM項目

174900 JUVENILE POLYPOSIS SYNDROME; JPS
175050 JUVENILE POLYPOSIS/HEREDITARY HEMORRHAGIC TELANGIECTASIA SYNDROME; JPHT
600993 SMAD FAMILY MEMBER 4; SMAD4
601299 BONE MORPHOGENETIC PROTEIN RECEPTOR, TYPE IA; BMPR1A

分子病態

SMAD4またはBMPR1Aの生殖細胞系列病的バリアントの結果として若年性ポリープが形成されるメカニズムは不明である。SMAD4はがん抑制遺伝子であるが、ヘテロ接合性の喪失がポリープの発生を引き起こすことは確定的に証明されていない。さらに、このような変化が上皮、固有層、あるいはその両方の細胞に影響を及ぼすかどうかも不明である。BMPR1Aは、がん抑制遺伝子であることは知られていないが、がんにおける検討はほとんど行われていない。

SMAD4は、TGF-βスーパーファミリーのシグナル伝達経路に共通する細胞内メディエーターである。
BMPR1Aは、BMP経路のI型細胞表面受容体をコードしている。TGF-βやBMPなどのリガンドは受容体に結合し、制御性SMADタンパク質を含むシグナル伝達経路を活性化し、SMAD4とタンパク質複合体を形成して核に移動し、DNA配列に直接結合して転写を制御する [Heldin et al 1997, Gómez Pinto et al 2018]。これらのシグナル伝達経路の制御下にある下流遺伝子については、現在も活発に研究されている。
BMPR1Aの病的バリアントは、ほとんどがプロテインキナーゼドメインに、まれに細胞外ドメインのシステインリッチ領域に発生する。膜貫通ドメインに病的バリアントは報告されていない[Howe et al 2004]。
In vitro研究により、JPSに関連するBMPR1Aの病的ミスセンスバリアントに由来するタンパク質は、細胞質に保持され、野生型タンパク質のように細胞膜に輸送されないことが示されている。[Howe et al 2013].

SMAD4の病因となる変異体の多くはMH2ドメインに存在し、このドメインは核内局在や他のSMADタンパク質との相互作用、転写活性化に重要な役割を担っている。In vitroの研究により 病的ナンセンスバリアントは、骨形成タンパク質のシグナル伝達を著しく低下させるが、ミスセンスバリアントではその影響が少ないことが分かっている。

疾病の発生機序. 不明

がんと良性腫瘍
生殖細胞系列には存在しないSMAD4の体細胞変異が、若年性ポリポーシス症候群の他の所見がなく、単一腫瘍として発生した大腸がん、膵臓がん、前立腺がんで報告されている[Chen et al 2014, McCarthy & Chetty 2018]。


更新履歴:

  1. Gene Review著者:Joy Larsen Haidle, MS, CGC, James R Howe, MD
    日本語訳者:岩泉守哉(ミシガン大学内科学講座 消化器内科部門 研究員)
    Gene Review 最終更新日: 2008.9.9. 日本語訳最終更新日:2010.08.27.
  2. Gene Review著者:  Joy Larsen Haidle, MS, CGC and James R Howe, MD.
    日本語訳者: 岩泉守哉(浜松医科大学医学部 内科学第一講座/附属病院遺伝子診療部)    
    Gene Review 最終更新日: 2011.9.29  日本語訳最終更新日:2014.3.3.
  3. GeneReviews著者: Joy Larsen Haidle, MS, CGC and James R Howe, MD. 日
    本語訳者:下山麻友(浜松医療センターゲノム診療センター),岩泉守哉(浜松医科大学医学部臨床検査医学講座)
    GeneReviews最終更新日: 2022.2.3. 日本語訳最終更新日: 2022.5.18 [ in present]

原文 Juvenile Polyposis Syndrome

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