[Synonyms:Hereditary Leiomyomatosis and Renal Cell Cancer (HLRCC: 遺伝性平滑筋腫症および腎細胞癌症候群), Multiple Cutaneous and Uterine Leiomyomatosis (MCL/MCUL), Reed's Syndrome]
Gene Reviews著者: Junne Kamihara, MD, PhD, Kris Ann Schultz, MD, and Huma Q Rana, MD, MPH
日本語訳者:入部康弘(横浜市立大学大学院医学研究科泌尿器科学)、古屋充子(市立札幌病院病理診断科)
GeneReviews最終更新日:2025.5.8. 日本語訳最終更新日: 2026.3.30
原文: FHTumor Predisposition Syndrome
疾患の特徴
FH腫瘍易罹患性症候群は皮膚平滑筋腫、子宮平滑筋腫(子宮筋腫)及び/または腎腫瘍を特徴とする。褐色細胞腫とパラガングリオーマも特定のFH病的バリアントを有する少数の罹患家系で報告されている。皮膚平滑筋腫は体幹や四肢、まれに顔面に皮膚色~薄茶色の丘疹または結節として現れ、10代から30代にかけて発症し、年齢とともにサイズや数は増えていく。子宮筋腫は多発する傾向があり、サイズも大きい傾向がある。診断時の平均年齢は30歳以下で、ほとんどの女性が月経不順、過多月経、骨盤痛を経験する。腎腫瘍は通常片側性かつ単発性で進行が速い。臨床的にみて進行が激しく、原発巣が小径でも転移しやすい傾向があるため予後不良である。診断時年齢の中央値は約40歳である。
診断・検査
FH腫瘍易罹患性症候群の診断は、発端者に分子遺伝学的検査でFH遺伝子のヘテロ接合性病的バリアントが同定されれば確定する。
臨床的マネジメント
症状に対する治療:
膚平滑筋腫の治療には外科的切除、炭酸ガスレーザー、凍結療法、または電気凝固法がある。鎮痛のための薬物療法として血管拡張剤(ニトログリセリン、ニフェジピン、フェノキシベンザミン、ドキサゾシンなど)及び/または神経障害性疼痛治療薬(ガバペンチン、プレガバリン、デュロキセチンなど)が使用される。子宮筋腫に対する治療には、ゴナドトロピン放出ホルモンアゴニスト、プロゲステロン放出型子宮内避妊具、筋腫核出術、子宮摘出術がある。手術を受けた場合は組織診断で異型平滑筋腫なのか平滑筋肉腫なのかを鑑別すべきである(訳注:平滑筋肉腫については議論があり、臨床像の欄を参照)。腎腫瘍については、本疾患に精通した泌尿器腫瘍外科医にコンサルトすべきである。状況によっては腎摘除術とワイドマージンの腎部分切除術のいずれかを慎重に選択できることがある。さらにエルロチニブ+ベバシズマブか、カボサンチニブ+ニボルマブによる治療は腎腫瘍に有効かもしれない(訳注:本疾患における腎細胞癌に対するベバシズマブ+エルロチニブ併用療法の第2相試験が既に報告されている)。
サーベイランス :
1~2年毎に全身皮膚の診察を行い、病変の範囲や変化を調べる;有症状の子宮筋腫や妊娠相談について必要に応じ産婦人科にコンサルトする; 8歳から毎年1~3mmスライスの腎MRI撮像する;腎病変が疑われる場合は速やかに精査する。褐色細胞腫やパラガングリオーマのリスク上昇と関連がある特定のFH病的バリアント保持者に対しては、毎回の受診時に血圧を測定し、年に1回血中または尿中メタネフリン分画を測定し、10歳から全身MRI(頸部・胸部・腹部・骨盤)を2年毎に施行する。
リスクを有する血縁者の評価:
家族性FH病的バリアントが同定された罹患者の血縁者のうち、at risk者を見定めるならば、無症状にみえても分子遺伝学的検査を行うことは適切である。そうすることで早期サーベイランス開始と治療の恩恵にあずかれる人を可能な限り早く同定でき、病的バリアントを受け継いでいない人に対する高コストなスクリーニングを減らせる。
遺伝カウンセリング
FH腫瘍易罹患性症候群は常染色体顕性遺伝の形式をとる。FH腫瘍易罹患性症候群と診断された人はヘテロ接合体である親からFH遺伝子の生殖細胞系列病的バリアントを受け継いでおり、その親はFH腫瘍易罹患性症候群の症候を呈していることも無症候のこともある。FH腫瘍易罹患性症候群罹患者の子はそれぞれ独立に、50%の確率でFH遺伝子の病的バリアントを受け継ぐ。FH遺伝子の病的バリアントを継いだ子孫における症候発現確率、発現年齢、重症度、どの特性が出現するか、進行速度を正確に予測することはできない。家系員のFH遺伝子の病的バリアントがわかっていれば、at risk血縁者の発症前検査や着床前診断/出生前診断は可能である出生前診断が可能となる。(訳注:日本では本症候群に対する着床前診断/出生前診断の前例はない。)
可能性が高い、あるいは疑わしいと診断する臨床診断基準が提唱されたが [Smit et al 2011]、前向きに検証された臨床診断基準はまだ発表されておらず、確定診断には分子遺伝学的検査が推奨される。臨床的に強く疑われるが分子遺伝学的にFH腫瘍易罹患性症候群と確定していない家系の人たちをどのようにフォローするのが最善かをより良く理解するには、更なるデータが必要である。体細胞性モザイクも報告されている [Ma et al 2022]。
疑わしい所見
本人あるいは家系員の病歴に以下に示す臨床所見のいずれの組み合わせがある場合でもFH腫瘍易罹患性症候群を疑うべきである。特徴的な組織所見の腫瘍の患者にも例外なくFH腫瘍易罹患性症候群の可能性を精査すべきである。
皮膚平滑筋腫
・体幹や四肢、時に顔や首にも分布する肌色~薄茶色/赤色の丘疹または結節
・大抵は多発で、群発性、分節性、あるいは播種性に広がる。
・組織学的には、細胞中央に棍棒状の核を有する平滑筋線維束が観察される [Toro et al 2003, Schmidt & Linehan 2014]。
子宮平滑筋腫(子宮筋腫)
・多発性でサイズも大きくなりやすい。
・FH染色消失、S-(2-スクシニル)システイン染色が細胞質陽性となることが多い [Martínek et al 2015, Andrici et al 2018, Muller et al 2018]。
・組織学的に異型平滑筋腫に分類されるものが多く、鹿角様血管、奇怪核、胞巣状浮腫を呈する[Nathanson 2025]。
腎腫瘍
・通常は単発性で極めて高悪性度の腎細胞癌が多く、早期から転移をきたす。
・スペクトラムには2型乳頭状腎細胞癌(訳注:WHO尿路・男性生殖器腫瘍分類第5版ではこの呼称は廃止されている)、分類困難な乳頭状腎細胞癌、分類不能型、管状嚢胞状腎細胞癌、集合管癌が含まれる[Wei et al 2006, Muller et al 2017]。
家族歴は常染色体顕性遺伝形式と一致する(例えば多数世代にわたって男女ともに罹患者がいる)。De novo病的バリアントがありえること、表現型の多様性、低浸透率のため、家族歴がないことを以て診断を除外することはできない。
確定診断
FH腫瘍易罹患性症候群の診断は、発端者に分子遺伝学的検査でFHヘテロ接合性病的(pathogenicまたはlikely pathogenic)バリアントが同定されれば確定する(Table 1参照)。
注釈:(1) ACMG/AMPのバリアント解釈ガイドラインで、pathogenicとlikely pathogenicは臨床上同義で、両者とも診断の根拠にでき、臨床的意思決定に用いてよいとしている[Richards et al 2015]。このGeneReviewにおいて「病的バリアント」と述べるときは、likely pathogenicバリアントも含む。(2) 意義不明の(uncertain significance) FHヘテロ接合性バリアントの同定は診断を確定も除外もしない。
分子遺伝学的検査の手法には、標的遺伝子検査(単一遺伝子検査または多遺伝子パネル)と網羅的ゲノム解析 (エクソームシークエンス、ゲノムシークエンス)の組み合わせがある。標的遺伝子検査を用いる場合は、どの遺伝子が関与しているか医療者が決定する必要があるが(Option 1参照)、網羅的ゲノム解析ではその必要はない(Option 2参照)。
Option 1
表現型や組織所見からFH腫瘍易罹患性症候群の診断が示唆される場合は、分子遺伝学的検査の手法として、多遺伝子パネル検査や単一遺伝子検査が用いられる。
多遺伝子パネル検査に関する序論はこちら。遺伝学的検査を出検する臨床医向けのより詳細な情報についてはこちらを参照のこと.
Option 2
患者の表現型が非典型的であるためFH腫瘍易罹患性症候群との診断が考えられない場合でも、包括的ゲノムプロファイリング検査を利用すれば、関連しそうな遺伝子を臨床医が決定する必要はない。エクソームシークエンス解析が最も一般的に利用される。ゲノムシーケンス解析を利用することもある。
表1.
FH腫瘍易罹患性症候群の診断で使われる分子遺伝学的検査
| 遺伝子1 | 検査法 | 病的バリアント検出率2 |
|---|---|---|
| FH | シークエンス解析3 | ~90%4 |
| 遺伝子標的型欠失/重複解析5 | ~10%4 |
表2.
FH腫瘍易罹患性症候群:病変の頻度
| 病変 | 頻度1 | コメント |
|---|---|---|
| 皮膚平滑筋腫 | ~50-80% | 通常多発性で、群生/クラスター状、分節状、あるいは播種性に認められる。 |
| 子宮平滑筋腫(子宮筋腫) | 女性の~40-90% | 早期発症、多発性、大型の傾向がある。 |
| 腎腫瘍 | ~10-15% | 通常は単発性の、かなり進行の速い腎細胞癌で、早期から転移をきたす。 |
皮膚平滑筋腫
臨床的に皮膚平滑筋腫は皮膚色あるいは薄茶色の丘疹や結節として現れる。このような皮膚病変は10代から30代にかけて認められる[Scharnitz et al 2023]。小児期発症例もあり、加齢とともにサイズも数も増加していく傾向がある。皮膚病変は症候性のことがあり、罹患者はしばしば痛みや冷感あるいは触覚への過敏性を訴える[Scharnitz et al 2023]。
皮膚平滑筋肉腫
FH遺伝子病的バリアント保持者における平滑筋肉腫の例が報告されているが、診断基準や命名法の問題により、かつて平滑筋肉腫とよばれていた病変は非定型的平滑筋新生物/平滑筋腫であった可能性がある[Kraft & Fletcher 2011, Muller et al 2017, O'Connor et al 2024]。
子宮筋腫
FH腫瘍易罹患性症候群の女性は一般集団の女性よりも子宮筋腫をより多く、より若年で生じる。筋腫を同定する年齢の平均はおよそ30歳である[Scharnitz et al 2023]。多発子宮筋腫はFH腫瘍易罹患性症候群の女性でしばしば認められ、腹痛、月経不順、過多月経と関連している[Lehtonen 2011]。FH腫瘍易罹患性症候群の女性はしばしば症候性子宮筋腫に対する子宮全摘術や筋腫核出術を比較的若い年齢で受ける[Nathanson 2025]]。ある報告ではFH腫瘍易罹患性症候群の女性114人中59人(52%)が筋腫核出術か子宮全摘術を中央値35歳(範囲:25-58歳)で受けていた[Muller et al 2017]。従ってカウンセリングや家族計画のため、場合によっては早い段階で生殖医療の専門家を紹介するのがよい。
子宮平滑筋腫2,060例のコホートでは、前向きのスクリーニングプログラムで30例(1.4%)にフマル酸ヒドラターゼ(FH)欠損性子宮筋腫様形態の腫瘍が同定された。FH欠損性子宮筋腫様形態の組織診断基準には、弱拡大での胞巣状浮腫や鹿角状血管増生、強拡大での核周囲明庭や好酸性核小体を伴う巨大核をもつ平滑筋細胞がある[Rabban et al 2019]。この形態の腫瘍を発症した女性10人は生殖細胞系列におけるFH遺伝子の分子遺伝学的検査へ進んだ。このうち5人に生殖細胞系列におけるFH遺伝子の病的バリアントが認められ、子宮筋腫の組織像がFH腫瘍易罹患性症候群の診断の手がかりとなることが示唆された[Rabban et al 2019]。
非定型的な子宮平滑筋腫もまた遺伝学的検査の適応となることがある。ある大型施設では、後方視的レビューで子宮平滑筋腫144例のうち12例(8.3%)で生殖細胞系列におけるFH病的バリアントを認めた。しかし、このうち遺伝学的検査を受けていたのは34%にとどまり、腫瘍の組織像に基づいてさらなる精査を行うことの必要性が示唆された[Kipnis et al 2024]。FH欠損性子宮平滑筋腫の患者に遺伝学的検査を考慮すべきことを支持する研究はもう一つある。その研究でも前述研究と同様40%以下の患者しか遺伝学的検査を受けていなかった[McHenry et al 2025]。
子宮平滑筋肉腫
以前は子宮平滑筋肉腫が稀ながら報告例されていたが、診断基準と命名法は変化しているので、かつて平滑筋肉腫とよばれていた病変は、実際には非定型的平滑筋新生物/平滑筋腫だったのかもしれない[Muller et al 2017]。
腎癌
ほとんどの腎腫瘍は片側性かつ単発性であるが、少数の患者では多発性あるいは両側性の腎癌がみられる。腎癌の症状として血尿、腰背部痛、触知可能な腫瘤が出現することがある。しかし、大多数の腎癌患者は無症状である。
さらに、すべてのFH腫瘍易罹患性症候群の人が腎癌を生じるわけではない。最新の推定では当初の報告よりも頻度は低く見積もられており、これは過去に研究における確認バイアスの存在を示唆するとともに、FH病的バリアントのヘテロ接合体の頻度が以前の認識よりもはるかに高いことを示唆している[Shuch et al 2020]。
これまでの報告をまとめたレビューによると、HLRCC関連腎細胞癌(FH病的バリアントの状態は問わない)672例のうち、診断時年齢がわかっている51例の平均は36.1歳(範囲11-79歳)であった[Chayed et al 2021]。最近報告された英国の69家系185人の研究では、23人(12.4%)で腎腫瘍を生じたとされている。腎細胞癌の症状出現時の平均年齢は44歳で、生存期間中央値は21ヶ月であった。平均生存期間はステージⅢ~Ⅳの腎細胞癌例(15.8ヶ月)はステージⅠ~Ⅱ(80.7ヶ月)に比べ有意に短かく、早期発見に向けたスクリーニングの意義を支持するものだった[Forde et al 2020]。
FH腫瘍易罹患性症候群関連腎細胞癌は分子病態的に定義されたサブタイプであり、組織学的な表現型には幅がありうる[Degenhardt et al 2025]。FH腫瘍易罹患性症候群関連腎細胞癌はしばしばFH染色陰性でS-(2-サクシニル)システイン染色陽性である。免疫組織化学ではFH腫瘍易罹患性症候群による腫瘍と、両アレル体細胞性FH病的バリアントによる腫瘍とを区別することはできない。
特異的なCpG island methylator phenotype (CIMP)がFH腫瘍易罹患性症候群関連腎細胞癌で報告されている[Sun et al 2021, Ricketts et al 2022]。FH欠損性腎細胞癌ではPD-L1高発現T細胞が腫瘍内に浸潤していることが示されている[Sun et al 2021]。
褐色細胞腫およびパラガングリオーマ
褐色細胞腫/パラガングリオーマ患者において、生殖細胞系列におけるFH病的バリアントが報告されている(遺伝子型と表現型の関連の項を参照)。
その他の腫瘍
生殖細胞系列におけるFH病的バリアントを有する人には、その他の腫瘍も報告されているが、これがFH腫瘍易罹患性症候群と関連する腫瘍であるかを決めるにはさらなるデータが必要であろう[Lehtonen et al 2006, Ylisaukko-oja et al 2006]。
遺伝子型と表現型の関連
褐色細胞腫/パラガングリオーマ
最近のデータでは、特定のFH病的バリアントが褐色細胞腫/パラガングリオーマのリスク上昇に関連していることが示唆されており、以下の主にミスセンスバリアントが含まれる:c.157G>A (p.Glu53Lys), c.220A>T (p.Arg74Ser), c.268-2A>G, c.349G>C (p.Ala117Pro), c.580G>A (p.Ala194Thr), c.700A>G (p.Thr234Ala), c.816_836del21 (p.Ala273_Val279del), c.908T>C (p.Leu303Ser), c.986A>G (p.Asn329Ser), c.1142C>T (p.Thr381Ile), and c.1301G>A (p.Cys434Tyr) (表6参照)[Fuchs et al 2023, Zavoshi et al 2023]。これらのバリアントを有する人は遺伝性平滑筋腫症および腎細胞癌症候群(HLRCC)やフマラーゼ(FH)欠損症の可能性は低いとされているが[Zavoshi et al 2023]、オーバーラップも報告されており、パラガングリオーマを生じるとともに母親から受け継いだFH病的バリアントを有していて、その母親は30歳で子宮平滑筋腫を患っていた例(免疫染色できず)[Fuchs et al 2023]、腎細胞癌(FH欠損性腎細胞癌かは不明)家族歴を有する例がある[Richter et al 2019]。FH欠損症患者が両アレル性FH病的バリアントを有し、そのなかにp.Leu303Serが含まれていた例もある[Richter et al 2019]。
フマラーゼ (FH)欠損症
最近のデータから、両アレル性(ホモ接合性あるいは複合ヘテロ接合性)に特定の病的バリアント(c.521C>G (p.Pro174Arg), c.923C>G (p.Ala308Gly), c.1127A>C (p.Gln376Pro), c.1431_1433dupAAA (p.Lys477dup)など、表6参照)がある場合はFH欠損症をきたすかもしれないが、HLRCC関連腫瘍リスクが上昇することはない[Shuch et al 2020, Kamihara et al 2021]。
浸透率
浸透率は現在のところ不明である。ほとんどの研究は臨床症候が現れた家系にフォーカスを当てている。それゆえ、浸透率の推定値は集団ベースの検査が増えていくにつれて更新されていくだろう。
命名法
歴史的には、皮膚平滑筋腫を発症する素因を、多発性皮膚平滑筋腫multiple cutaneous leiomyomatosis(MCL/MCUL)と呼んでいた。
Reedら[1973]は、複数の家系員が皮膚平滑筋腫と子宮平滑筋腫を呈し、常染色体顕性遺伝形式での遺伝がみられる2家系について記述した。この論文では、彼らは子宮筋肉腫と転移性腎癌になった20歳の女性についても述べている。それ以降、皮膚平滑筋腫と子宮平滑筋腫の合併は、Reed症候群と呼ばれるようになった。
皮膚および子宮の平滑筋腫と腎癌の関連はフィンランドの2家系についての記述が最初である[Launonen et al 2001]。その病態には遺伝性平滑筋腫症および腎細胞癌症候群(HLRCC)という名称が定められた。
生殖細胞系列におけるFH病的バリアントは今では様々な腫瘍の易罹患性と関連していることが知られている。“FH腫瘍易罹患性症候群”という用語はこうした関連を認めるものである。
頻度
BRAVOおよびgnomAD集団データベースによると一般集団におけるFH病的バリアント保持者の頻度は2,563人に1人から3,247人に1人の範囲であると推定されている[Popp et al 2020]。The Exome Aggregation Consortium (ExAC) および1000 Genomes Projectのデータを用いると頻度は901人に1人から1,252人に1人の範囲となる[Shuch et al 2020]。FH腫瘍易罹患性症候群は見逃されやすいようである。
フマラーゼ(FH)欠損症(フマル酸尿症)
FH欠損症は稀少な常染色体潜性遺伝代謝疾患であり、生殖細胞系列における両アレル性FH病的バリアントにより引き起こされる。FH欠損症は新生児期~乳児早期の重篤な脳症で特徴づけられ、摂食不良、体重増加不良、成長障害、筋緊張低下、不活発、けいれん、重度の発達遅滞、脳の発達異常をきたすのが特徴である。フマル酸尿も認められる。
最近のデータでは特定のFH病的バリアントがFH欠損症を引き起こすことがある一方でHLRCC関連腫瘍のリスクは上昇しないことが示唆されている。
両アレル性FHバリアントによる散発性腫瘍
他のFH腫瘍易罹患性症候群所見がみられないなかで生じた散発性腫瘍(例:FH欠損性子宮平滑筋腫[Liu et al 2020, Kipnis et al 2024])において体細胞系列に両アレル性FHバリアント(生殖細胞系列にはない)が認められたことがある。
皮膚病変
皮膚平滑筋腫は稀であり、FH腫瘍易罹患性症候群を強く示唆する。平滑筋腫は臨床的に様々な皮膚病変と似ているため、組織学的診断が必要である。
子宮筋腫
子宮平滑筋腫は、一般集団において最も一般的な女性の骨盤部良性腫瘍である。子宮筋腫の大半は他の腫瘍リスク上昇には関連しない。非定型的組織像があり、免疫染色でフマル酸ヒドラターゼ(FH)消失およびS-(2-サクシニル)システイン細胞質陽性を示す場合(疑わしい所見の項参照)は、生殖細胞系列におけるFH遺伝子の遺伝学的検査を勧めるべきである[Harrison et al 2016, Kipnis et al 2024, McHenry et al 2025]。
腎腫瘍
家族性腎癌症候群は通常、特異的な腎病理像と関連する。代表的な家族性腎癌症候群とその特徴的腎病理像を表3にまとめた。これらは全て常染色体顕性遺伝形式をとる。進行性腎細胞癌(ステージⅢ~Ⅳ)の患者を対象とした研究では、高い割合(16%)で生殖細胞系列に病的バリアントが認められ[Carlo et al 2018]、その多くはそれまで腎細胞癌との関連が知られていなかったものであった。単一遺伝子疾患で、症候群性で、疾患概念が確立されているものを以下の表に示す。
表3.
家族性腎癌症候群の比較
| 遺伝子 | 疾患 | 腎腫瘍 | 皮膚病変 | その他の一般的所見 |
|---|---|---|---|---|
FH |
FH腫瘍易罹患性 |
多様である。
|
皮膚平滑筋腫 |
子宮平滑筋腫(子宮筋腫)。早期発症で、病変は多発する。 |
BAP1 |
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FLCN |
多様である。
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MET |
遺伝性乳頭状腎癌 |
1型乳頭状腎細胞癌 |
なし |
なし |
VHL |
淡明細胞型腎細胞癌 |
なし |
|
小児におけるFH腫瘍易罹患性症候群のサーベイランスは、2023年米国癌学会(American Association for Cancer Research:AACR)小児遺伝性腫瘍ワークショップ報告に含まれている [Michaeli et al 2025]。またNCCNガイドラインにも遺伝性腎細胞癌に対するサーベイランスの推奨が含まれている(NCCNガイドライン:腎癌、2025年3月27日閲覧)。以下に詳述する追加の推奨事項には、筆者らが本症候群を有する人のマネジメントを行ってきた個人的経験に基づくものも含まれる。
最初の診断に続いて行う評価
FH腫瘍易罹患性症候群と診断された人において、疾患の程度と必要な対応を確定するため(診断に至った評価の一環として未だ実施されていない場合)、表4にまとめた評価が推奨される。
表4.
FH腫瘍易罹患性症候群:最初の診断時における推奨評価項目
| 器官系/懸念事項 | 評価 | コメント |
|---|---|---|
| 皮膚 | 詳細な皮膚診察 | 診断時1に病変の広がりと非典型的病変の有無を評価する。 |
| 泌尿生殖器 | 有症状病変がある場合および生殖カウンセリングが必要な場合は婦人科へのコンサルトの適応有。 | マネジメント上の必要があれば行う1。 |
| ベースライン評価としてthin-slice (1-3mm) 腎MRI |
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| 褐色細胞腫/パラガングリオーマ2 |
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10歳から褐色細胞腫/パラガングリオーマのリスクの高いFH病的バリアント保持者に対して行う(遺伝子型と表現型の関連参照) |
| 遺伝カウンセリング | 遺伝医療専門家が行う3 | 家系図を作成し、罹患者と家族にFH腫瘍易罹患性症候群の性質、遺伝形式、および将来的な影響について情報提供を行い、医学的および個人の意思決定を支援。 |
AACR = 米国癌学会(American Association for Cancer Research)
膚病変
皮膚平滑筋腫は皮膚科医によって検査される必要がある。
子宮筋腫
子宮筋腫は婦人科医によって評価されるべきものである。FH腫瘍易罹患性症候群の女性のほとんどは、生殖細胞系列のFH病的バリアントを持たない一般集団に比べて早い段階で内科的または外科的介入行為を必要とする。
腎癌
FH欠損性腎細胞癌は高悪性度で予後不良なため、FH欠損性腎細胞癌が疑われる初期兆候段階で早期発見および外科的切除を行うことが極めて重要である。
サーベイランス
FH腫瘍易罹患性症候群の臨床症状に精通した臨床医による、腎細胞癌の早期発見に重点を置いたサーベイランスが推奨される。サーベイランスガイドラインについては、できれば国際的多施設共同研究の枠組みの中での前向き検証が必要である[Michaeli et al 2025; NCCNガイドライン腎癌]。
表5.
FH腫瘍易罹患性症候群:推奨されるサーベイランス
| 器官系/懸念事項 | 評価 | コメント |
|---|---|---|
| 皮膚平滑筋腫 | 病変の広がりを評価して変化をみるための全身の皮膚の診察 |
診断を受けたときから1-2年毎1 |
| 子宮平滑筋腫 | 有症状病変がある場合および生殖カウンセリングが必要な場合は婦人科へコンサルト |
マネジメント上の必要があれば行う1 |
| 腎腫瘍 |
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前回検査で検出された疑わしい病変(判定しがたい病変、腫瘍である可能性のある、あるいは複雑性嚢胞)には、間をあけずにフォローアップを行うべきである5,7。 |
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| 褐色細胞腫/パラガングリオーマ8 | 血圧測定 |
At risk者の受診に毎回行う8 。 |
血中あるいは尿中メタネフリン分画 |
At risk者に対し10歳から毎年行う8 。 |
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(頸部・胸部・腹部・骨盤部評価を含む)限定的全身MRI |
At risk者に対し10歳から2年毎に行う8 。 |
At risk血縁者の評価
罹患者家系の FH病的バリアントに対する分子遺伝学的検査により、見かけ無症状のat risk血縁者の遺伝学的状態を明確にすることは以下の点で適切である。
・早期からのサーベイランスや治療の恩恵を受けられる人をできるだけ早く特定する。
・FH病的バリアントを受け継いでいない人に対する高コストなスクリーニングを減らす。
分子遺伝学的検査をまだ受けていない、または検査保留中のat risk家系員に対してもサーベイランスを考慮することはあるが、できるだけ早期に確定的な発症前検査を行うことが推奨される。
家族性FH生殖細胞系列病的バリアントに対する発症前遺伝学的検査施行の最適年齢について、推奨は一致していない。発症前検査は、サーベイランス開始時期に合わせて実施することが可能である。小児・思春期のがん易罹患性に関する米国癌学会(AACR)ワークショップによるコンセンサス推奨では、腎腫瘍サーベイランスは10歳開始が支持されている [Michaeli et al 2025]。
At risk血縁者の検査に関連する問題に関しては、遺伝カウンセリングを参照。
研究中の治療法
FH欠損性腎細胞癌
・腫瘍血管やグルコース輸送に対する標的治療として、ベバシズマブとエルロチニブを用いて試みられてきた。Park et al [2019]は、テムシロリムス、アキシチニブの後治療として成人のFH欠損性腎細胞癌にベバシズマブとエルロチニブの併用療法を用いて長期奏効が得られた例を報告している[Park et al 2019]。未治療例も既治療例も含む10例を対象とした本併用療法の後ろ向き解析では、全奏効率は50%であった[Choi et al 2019]。転移性HLRCC関連腎細胞癌42例を対象とした本併用療法(エルロチニブおよびベバシズマブ;NCT01130519)の前向き試験では、客観的奏効率は64%(42例中27例)(95%信頼区間:49–77)で、HLRCC関連腎細胞癌は散発性乳頭状腎細胞癌と比較して無増悪生存期間中央値が有意に長かった(21.1ヶ月 vs 8.7ヶ月) [Srinivasan et al 2014, Srinivasan et al 2020]。
(訳注:NCT01130519の最終結果は2025年に報告された[Srinivasan et al 2025]。)
フマル酸ヒドラターゼ(FH)欠損細胞におけるフマル酸の蓄積は、相同組換えによる二本鎖切断修復の障害を引き起こす可能性がある。このことは、ポリ(ADP リボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害に対する脆弱性を示唆しており、FH 欠損腫瘍の細胞株およびマウスモデルにおいて実証されている [Sulkowski et al 2018]。PARP 阻害薬と低用量化学療法併用の前臨床的有効性も報告されている[Ueno et al 2022]。HLRCC関連腎細胞癌を対象としたパミパリブとテモゾロミド併用療法の臨床試験は、登録症例数が少なかったため中止された(NCT04603365)。
幅広い疾患や病態に関する臨床試験の情報は米国ClinicalTrials.govおよび欧州EU Clinical Trials Register を参照とのこと。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
FH腫瘍易罹患性症候群は常染色体顕性遺伝をとる。
家族構成員のリスク
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の同胞のリスクは、親の遺伝学的状態による。
発端者の子
他の家族構成員
上記以外の家系員リスクは発端者の親の遺伝学的状態による。片方の親がFH病的バリアントを有するなら、その親の家系員もat riskとなる。
関連する遺伝カウンセリング上の諸事項
早期診断・早期治療を目的としてリスクを有する血族に対して行う評価関連の情報については、上記「At risk血縁者の評価」の項を参照されたい。
At riskの無症状血縁者に対する検査
家族計画
出生前検査ならびに着床前遺伝学的検査
ひとたびFH病的バリアントが家系員に見つかったら、出生前/着床前遺伝学的検査を行うことができる (訳注:本邦では着床前遺伝学的検査を施行するにあたり日本産婦人科学会の承認が必要である。2026年3月現在で本疾患に関して承認された例はない。本疾患に関して出生前診断が行われた例もない)。
出生前/着床前遺伝学的検査の利用に関しては、医療専門職の間でも家族内でも考え方の違いが存在しうる。多くの医療専門職は、出生前/着床前遺伝学的検査の利用は個人の判断に委ねられるべきものであると考えている(訳注:どのような考え方が主流なのかは国ごとの違いや事情がある)が、話し合うことは有益かもしれない。
GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報については、ここをクリック。
分子遺伝学
分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。
表A:FH腫瘍易罹患性症候群:遺伝子とデータベース
| Gene | Chromosome Locus | Protein | Locus Specific | HGMD | Clin Var |
|---|---|---|---|---|---|
| FH | 1q43 | Fumarate hydratase, mitochondrial | TCA Cycle Gene Mutation Database (FH) | FH | FH |
データは次のレファレンスより集めた。
遺伝子 HGNC
遺伝子座 OMIM
蛋白 UniProt
リンクを貼ったデータベースの説明はこちら。
表B:FH腫瘍易罹患性症候群のOMIMエントリー (View All in OMIM)
FUMARATE HYDRATASE; FH |
|
HEREDITARY LEIOMYOMATOSIS AND RENAL CELL CANCER; HLRCC |
分子病態
FH はフマル酸ヒドラターゼ(fumarate hydratase:FH)(EC 4.2.1.2)という酵素をコードしている。本酵素の活性型はホモ四量体で、トリカルボン酸(TCA、Krebs)回路においてフマル酸を L-リンゴ酸に変換する反応を触媒する。
FH の生殖細胞系列病的バリアント、腫瘍組織における体細胞バリアントとヘテロ接合性消失は、FH 機能喪失がFH腫瘍易罹患性症候群における腫瘍形成基盤であることを示唆している [Tomlinson et al 2002]。
FH 欠損性腎細胞癌内部では、酸化的リン酸化が障害され、Warburg 効果として知られる好気的解糖系への代謝シフトが生じる。AMP 活性化プロテインキナーゼレベルは低下し、その下流で p53 レベル低下、細胞内鉄濃度低下、低酸素誘導因子(hypoxia-inducible factor:HIF)1α 安定化、VEGF や GLUT1 の発現増加など、さまざまな影響が生じる[Linehan & Rouault 2013]。
さらに別の研究では、FH 欠損細胞におけるフマル酸蓄積が、相同組換えによる二本鎖 DNA 切断修復の障害を引き起こすことが示唆されており、これは治療法探索における新たなアプローチとなる可能性がある(「研究中の治療法」を参照)。
疾患発症メカニズム 機能喪失
FH 特異的な検査室技術の留意点
FHは2種類の蛋白質アイソフォームをコードし、それぞれ異なる細胞内局在、すなわちミトコンドリアと細胞質に標的化されている。表6 に示されている参照配列は510 アミノ酸からなる長いミトコンドリア型アイソフォームに基づいているが、蛋白質バリアントの表記は、467 アミノ酸からなる短い細胞質型アイソフォームに基づいて行われる場合がある。これら2つの表記法はいずれも、表 6 のp.Arg101Proの別名(エイリアス)に見られるように、文献や遺伝子座特異的データベースで用いられる。2つのアイソフォームは、従来、翻訳開始点の違いによるものと考えられてきたが、Dik et al [2016]は別の転写開始機構を提唱している。この機構を支持するデータの詳細検討については、Dik et al [2016]を参照。
原文 FH Tumor Predisposition Syndrome(Hereditary Leiomyomatosis and Renal Cell Cancer)
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