[Synonyms:Anhidrotic Ectodermal Dysplasia, Christ-Siemens-Touraine Syndrome]
Gene Reviews著者: J Timothy Wright, DDS, MS, Dorothy K Grange, MD, and Mary Fete, MSN, RN, CCM.
日本語訳者: 佐藤康守 (たい矯正歯科),櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
GeneReviews最終更新日: 2022.10.27 日本語訳最終更新日: 2023.1.6
原文: Hypohidrotic Ectodermal Dysplasia
疾患の特徴
低汗性外胚葉形成不全症(HED)は、減毛症(疎な頭髪や体毛)、乏汗症(発汗減少)、無歯症(歯の先天欠如)を特徴とする疾患である。古典型HEDの主要症候は、小児期に明瞭に認められるようになる。頭髪は薄く、低色素で、成長が遅い。発汗は、全くないわけではないが、非常に少なく、患者や家族が体温維持のための環境調節に慣れるまでは、しばしば高体温症を起こす。歯は、形態異常を伴ったものが数本萌出するのみで、萌出時期も平均的萌出年齢より遅くなる。これらの点を除き、身体発育や精神運動発達は正常範囲内にある。軽度型HEDは、上記の特徴的症候の一部ないし全部が軽度な形で現れることを特徴とする。
診断・検査
古典型HEDについては、ほとんどの場合、身体的特徴をもとに乳児期以降に診断がなされる。診断の確認は、男性でEDAの病的バリアントのヘミ接合、あるいは男女を問わず、EDAR、EDARADD、WNT10Aの両アレル性の病的バリアントを確認することで行われる。
女性における軽度型HEDの診断は、EDA、EDAR、EDARADD、WNT10Aの病的バリアントのヘテロ接合を同定することで確定する。男性における軽度型HEDの診断は、EDAR、EDARADD、WNT10Aの病的バリアントのヘテロ接合を同定することで確定する。
臨床的マネジメント
症候に対する治療:
疎で乾燥した髪への対処としては、かつらや特別なヘアケア法が有効な場合がある。必要な水分をいつでも補給できる環境、ならびに暑い時期には涼しい環境を確保できるようにする。円錐歯に対するレジン修復、必要に応じ矯正歯科治療、年長の小児に対する下顎前歯部のデンタルインプラント、必要に応じ2年半に1度程度の割合で補綴物の作り替え、成人に対するデンタルインプラント、口腔の湿潤を維持することによる齲蝕のコントロール、咀嚼・嚥下障害を有する例に対する食餌のカウンセリングといった歯科的な治療を早期から行う。鼻腔や耳の凝固物については、必要に応じ、耳鼻科医の手で吸引ないし鉗子で除去することがある。鼻石の予防には空気の加湿が有効である。乾燥肌を増悪させる環境や湿疹に対しては、スキンケア用品を使用する。
二次的合併症の予防:
唾液分泌量が顕著に低下している例の齲蝕予防には、人口唾液やフッ化物の適切な使用が有効なことがある。
定期的追跡評価:
1歳までに歯科的評価を行い、その後は6-12ヵ月ごとにフォローアップの歯科的評価を行う。
避けるべき薬剤/環境:
極端に暑い環境を避ける。
リスクを有する血縁者の評価:
家系内に存在する病的バリアントが同定されている場合には、リスクを有する血族に対し、早期診断・早期治療(特に高体温症の回避)に向け、分子遺伝学的検査を行うべきである。
遺伝カウンセリング
HEDは、常染色体顕性、常染色体潜性、X連鎖性のいずれかの遺伝形式をとる。HED罹患者の大多数を占めるのはX連鎖性のものである。遺伝形式の確定は、家族歴により行われる例もあれば、分子遺伝学的検査で行われる例もある。X連鎖性ないし常染色体潜性のタイプの場合の保因者の検査は、家系内の病的バリアントが同定された場合のみ可能となる。
タイプの如何を問わず、家系内に存在する病的バリアントが既知の場合は、高リスクの妊娠に備えた出生前検査が可能である。
低汗性外胚葉形成不全症:ここに含まれる表現型 |
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現在のところ、低汗性外胚葉形成不全症の診断基準に関するガイドラインは作成されていない。
本疾患を示唆する所見
以下のような症候を有する例については、低汗性外胚葉形成不全症(HED)を疑う必要がある。
注:HEDにおいては、人類学的計測値(顔面形態の計測値や歯の大きさ)の特徴はごくわずかで、臨床的有用性はないことがわかっている。
X連鎖性HEDの保因者の特定
診断の確定
古典型HED
古典型HEDの診断は、上記の減毛症、乏汗症、無歯症といった特徴から、乳児期を過ぎた頃に診断に至ることが多い。
軽度型HED
分子レベルの検査としては、直列型の単一遺伝子検査、ならびにマルチ遺伝子パネルがある。
直列型の単一遺伝子検査
直列型の単一遺伝子検査が検討対象になるのは以下の場合である。
EDA、EDAR、EDARADD、WNT10Aの分子遺伝学的検査で病的バリアントが検出されなかった場合は、他のタイプの外胚葉形成不全症を検討すべきである(「鑑別診断」の項を参照)。
マルチ遺伝子パネル
EDA、EDAR、EDARADD、WNT10Aその他の関連遺伝子(「鑑別診断」の項を参照)を含むマルチ遺伝子パネルも検討対象になりうる。
注:(1)パネルに含められる遺伝子の内容、ならびに個々の遺伝子について行う検査の診断上の感度については、検査機関によってばらつきがみられ、また、経時的に変更されていく可能性がある。
(2)マルチ遺伝子パネルによっては、今このGeneReviewで取り上げている状況と無関係な遺伝子が含まれることがある。そのため、どのマルチ遺伝子パネルを用いれば、意義不明のバリアントや今ある表現型と無関係な病的バリアントの検出を抑えつつ、疾患の遺伝的原因の同定に近づけるかという点を、臨床医の側であらかじめ検討しておく必要がある。
(3)検査機関によっては、パネルの内容が、その機関の定めた定型のパネルであったり、表現型ごとに定めたものの中で臨床医の指定した遺伝子を含む定型のエクソーム解析であったりすることがある。
(4)ある1つのパネルに対して適用される手法には、配列解析、欠失/重複解析、ないしその他の非配列ベースの検査などがある。
マルチ遺伝子パネル検査の基礎的情報についてはここをクリック。
遺伝子検査をオーダーする臨床医に対する、より詳細な情報についてはここをクリック。
表1:低汗性外胚葉形成不全症で用いられる分子遺伝学的検査
遺伝子1 | 遺伝形式 | その遺伝子の病的バリアントに起因するHEDの割合 | その手法で病的バリアント2が検出される割合 | |
---|---|---|---|---|
配列解析3,4 | 遺伝子標的型欠失/重複解析5 | |||
EDA | XL | 65%-75%近く | 85%-90%近く6 | 10%-15%近く6 |
EDAR | AD,AR | 10%-15%近く | 99%超7 | 脚注8参照 |
EDARADD | AD,AR | 1%-2%9 | 8/810 | 報告例なし11 |
WNT10A | AR | 5%-6%12 | 100%近く | 報告例なし |
不明13 | 10%近く | 対象外 |
バリアントの種類としては、遺伝子内の小さな欠失/挿入、ミスセンス・ナンセンス・スプライス部位バリアントなどがあるが、通常、エクソン単位あるいは遺伝子全体の欠失/重複については検出されない。
配列解析の結果の解釈に際して留意すべき事項についてはこちらをクリック。
具体的手法としては、定量的PCR、ロングレンジPCR、MLPA法、あるいは単一エクソンの欠失/重複の検出を目的に設計された遺伝子標的型マイクロアレイなど、さまざまなものがある。
臨床像
古典型HED
古典型の外胚葉形成不全症(HED)を呈するのは、X連鎖性外胚葉形成不全症(XLHED)の男性、ならびに、EDARないしEDARADDの病的バリアントに起因して生じる常染色体潜性外胚葉形成不全症(ARHED)の男女である。
HEDの新生児は、過熟児にみられるような表皮剥脱や、眼窩周囲の高色素沈着により診断がなされることがある。乳児期になると、熱に耐えられないため易刺激性となり、体温上昇をきたすことが珍しくない。ただ、多くの場合は、歯が通常の時期(6-9ヵ月)に生えてこない、あるいは生えてきた歯が円錐形をしているといったことが判明する時期まで、診断がずれ込む。この段階までに、患児は、慢性湿疹、眼窩周囲の皮膚の皺といった症状を呈することがある。
HEDの主要症候は、小児期に明確化する。
古典型HEDにみられるその他の症候には、以下のようなものがある。
それ以外の体の成長や精神運動発達は正常範囲内にある。
軽度型HED
XLHEDの女性、ならびに常染色体顕性HED(ADHED)の男女は、通常、軽度型HEDとなる。
XLHEDの女性については、いくぶん疎な髪、斑状に分布する汗腺機能不全領域、数本の矮小歯ないし先天欠如歯といった形で、主要症候の一部あるいは全部が軽度な形で現れる。
また、授乳期間中における乳汁産生量の低下、乳頭の低発達を示す例もみられる。
ADHEDの罹患者は、XLHEDの女性で記したような軽度な症候を示すものの、汗腺機能不全領域が斑状に現れることはない。
WNT10A関連HED
WNT10Aの病的バリアントを有する罹患者については、表現型のばらつきの幅が大きいことが報告されている。中には、歯-爪-皮膚異形成症(odonto-onycho-dermal dysplasia)に一致した重度の症候を呈する例もみられる[Krøigårdら2016]。一方で、WNT10Aの病的バリアントは、軽度型HEDで歯の異常を伴う例にもみられることがある。WNT10Aの病的バリアントを有する例については、他のタイプのHEDを有する例に比べ、出生時に指趾の爪が欠損している割合が高い。また、乳歯列は、形態異常を伴いつつも歯の数が揃っているが、永久歯列のほうにはしばしば重度の無歯症が現れるという点も、他のタイプのHEDと異なる点である。また、体の他の部位は乏汗症を呈するのに、手掌と足底だけは多汗症を示すことがある。
遺伝型-表現型相関
EDA
EDAの病的バリアントによって生じる表現型には、古典型のHEDから非症候群性の無歯症まで幅がみられる。最近の研究から示唆されていることとして、非症候群性無歯症関連のEDAの病的バリアントは、多くの場合、腫瘍壊死因子ドメインをコードする領域に生じたミスセンスバリアントだということがある。X連鎖性HEDを引き起こす病的バリアントの多くは、ナンセンスバリアント、挿入、ならびにEDAを含む領域の欠失であると考えられている[Zhangら2011]。
EDAR
EDARの病的バリアントに伴う表現型は、軽度のものから重度のものまで多様であるが、遺伝型-表現型相関の報告は一部に過ぎない[Chassaingら2006]。HEDの症候に無乳房症と掌蹠角化症を加えたものとEDARの病的バリアントとの関わりについての報告が、これまでに2つ存在する。1つは、新規バリアントであるNM_022336.3:c.803+1G>A(IVS9+1G>A)のホモ接合で[Mégarbanéら2008]、もう1つは、こちらも新規のミスセンスバリアントであるNM_022336.3:c.338G>A (p.Cys113Tyr)のホモ接合である[Haghighiら2013]。
WNT10A
WNT10Aの病的バリアントを有する例については、さまざまな表現型が報告されている。
多くみられるc.321C>A(p.Cys107Ter)のナンセンスバリアントのホモ接合は、歯-爪-皮膚異形成症を含めた重度型の例において、より高頻度に同定される[Krøigårdら2016]。WNT10Aの病的バリアントはまた、歯の異常に加えて軽度の外胚葉症候がみられる例、あるいは選択的な歯の無発生を伴う例においてもみられることがある[Muesら2014,Bergendalら2016]。WNT10Aの病的バリアントを有する例については、他のタイプのHEDを有する例に比べ、出生時に指趾の爪が欠損している割合が高い。また、他のタイプのHEDと違って、乳歯列は、形態異常を伴いつつも歯の数はほぼ揃っているが、永久歯列のほうにはしばしば重度の無歯症が現れるということが多い。そして、手掌や足底は多汗症を示す一方で、他の部位は乏汗症を示すといった例がみられる。
病名
歴史的に、「無汗性」というという言葉は、発汗機能が完全に失われた状態とされ、「低汗性」のほうは発汗機能が障害された状態とされる。HEDの罹患者については、少なくとも一部は発汗機能が残存しているため、「低汗性」という用語のほうが状況を的確に反映する用語であると考えられる。
頻度
正確にはわかっていないものの、HEDの発生頻度は、少なくとも5,000-10,000人に1人と推定されている。この数字はおそらく過少に評価された値と思われる。それは、主要症候が明確に現れる前の乳児期においては、多くの例が見過ごされている可能性があるからである。罹患者の報告は、あらゆる人種、民族に及んでいる[Feteら2014]。
遺伝子の上で関連のある疾患(同一アレル疾患)
EDA
EDAの病的バリアントにより、非症候群性の無歯症(hypodontia*)が生じることがある[Rasoolら2008]。
EDAR
EDARの病的バリアントに関連するものとしては、本GeneReviewで述べたもの以外の表現型は知られていない。
EDARADD
EDARADDの病的バリアントにより、非症候群性の無歯症(oligodontia*)が生じることがある[Bergendalら2011]。
(*訳注:「hypodontia」と「oligodontia」は、日本語ではどちらも「無歯症」であるが、GeneReviewsにおいては、前者は智歯を除く永久歯5本以下の無歯症、後者は智歯を除く永久歯6本以上の無歯症を指すことになっている。)
WNT10A
WNT10Aの両アレル性の病的バリアントにより、Schopf-Schultz-Passarge症候群(OMIM 224750)や歯-爪-皮膚異形成症(OMIM 257980)が生じることが知られている[Castoriら2008,Nagyら2010,Castoriら2011]。また、ヘテロ接合性の病的バリアントにより、選択的歯無発生(OMIM 150400)が生じる場合がある[Muesら2014]。
外胚葉形成不全症にはいくつものタイプが存在する。鑑別診断において、特に頻繁に直面し、かつ厄介な問題になることがあるのは、無歯症があることに加え、熱に弱いという経験を何となくしたような気がする、毛髪も少し疎な感じがするといった例である[Hoら1998]。
爪甲形成不全(爪の先天的な発生異常)や、他の発生異常を伴うものについては、低汗性外胚葉形成不全症(HED)以外の疾患である可能性が高い。検討を要する他のタイプの外胚葉形成不全症には、以下のようなものがある。
最初の診断に続いて行う評価
低汗性外胚葉形成不全症と診断された罹患者については、疾患の範囲やニーズを把握するため、次のような評価を行うことが推奨される。
症状に対する治療
罹患者に対する管理は、主要3症候に的を絞って、最適な心理社会的発達の誘導、良好な口腔機能の育成、高体温症の予防を目標として行われる。
減毛症
疎で乾燥した毛髪に対応するためのかつらや特別なヘアケア法が有用なことがある。HEDと脱毛症を有する小児に対して、頭皮にミノキシジルを使用して発毛促進が得られたとする報告がみられる[Leeら2013]。
乏汗症
暑い季節には、いつでも水分補給や涼しい環境(エアコン、濡らしたTシャツ、水の出るスプレーボトル等)が得られる状態にしておく必要がある。人によっては「冷却ベスト」が有用な場合もある。
暑さをコントロールして、重大な結果を招かないようにするための対処は、罹患者自身でだんだん学び取れるようになるが、それでも、医師や家族のほうで積極的に動くべき特殊な状況も考えられる。例えば、学区のほうが動く前に、医師のほうからエアコンの稼働を指示したり、液体の持ち込みが禁止されている場に液体を持ち込めるよう親のほうから交渉するといったことが挙げられる。
無歯症
その場合は、齲蝕の危険性が増すことになり、口腔の湿潤性を維持し、齲蝕のコントロールを行うための対策が必要になる。
その他
鼻腔や外耳道の凝固物については、通常、吸引器や鉗子で除去する必要がある。
再発を防止するため、周りの空気の加湿を推奨することもある[Mehtaら2007]。
二次的合併症の予防
唾液分泌が低下している罹患者の齲蝕予防には、人口唾液や適切なフッ素の使用が有効である。小窩裂溝にシーラントを行うといった齲蝕予防処置も有用な場合がある。
定期的追跡評価
歯や上下顎骨の発育評価、ならびに両親に対する予備的ガイダンスを目的として、1歳までに歯科への最初の受診を済ませておく必要がある。処置済の修復物のチェックのため、ならびに、必要に応じて介入を継続するために、6-12ヵ月に1度の割合で、発育途上にある歯列の評価を行う必要がある。
避けるべき薬剤/環境
重度の乏汗症を有する罹患者は、熱に対する顕著な不耐性を呈する可能性がある。そのため、過度の高温への曝露や熱性痙攣の発生防止のための対応が必要となる
リスクを有する血縁者の評価
早期診断・早期治療による利益のみならず、高体温症を回避するといった観点で利益が得られる人を可能な限り早期に特定するため、リスクを有しながらも一見無症状と思われる血縁者については、評価を行っておくことが望ましい。
具体的な評価の内容は以下の通りである。
XLHEDのリスクを有する血族については、発汗試験を行うことが可能である。
リスクを有する血族に対して行う遺伝カウンセリングを目的とした検査関連の事項については、「遺伝カウンセリング」の項を参照されたい。
妊娠に関する管理
HEDの保因者もしくは罹患者である妊婦については、出産前の栄養状態を最適化しておくことが推奨される。高体温症のリスクを有する罹患女性については、妊娠中に過熱状態に至らないよう特に注意が必要である。その他の点については、妊娠管理に関する特別な注意点はない。乳腺の低形成のため、母乳栄養で子を育てることが困難な女性もいる。
研究段階の治療
Edimer製薬の開発したEDI200の評価を目的とした第Ⅱ相臨床試験が、アメリカとヨーロッパのいくつかの医療機関で行われた[Huttnerら2014]。その結果は、明確に結論づけることまではできないというものであった。EDI200は、EDA-A1受容体(EDAR)に特異的に結合して正常な外胚葉発生を誘導するシグナル伝達経路を活性化することがわかっているエクトジスプラシンA1(EDA-A1)の組換えタンパク質である。EDI200はX連鎖性低汗性外胚葉形成不全症のマウスモデルやイヌモデルにおいて、死亡率や罹病率の減少とともに、症候の永続的改善にも寄与することが明らかになっている[Huttnerら2014]。
この臨床試験に関するその他の情報についてはこちらをクリック。
さまざまな疾患・状況に対して進行中の臨床試験に関する情報については、アメリカの「Clinical Trials.gov」、ならびにヨーロッパの「EU Clinical Trials Register」を参照されたい。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
低汗性外胚葉形成不全症は、常染色体顕性、常染色体潜性、X連鎖性のいずれかの遺伝形式を示す。発端者については、家族歴の調査、ならびに血族に対する低汗性外胚葉形成不全症(HED)の臨床症候の有無に関する診査といった形で評価を行う。遺伝形式については、家族歴ないし分子遺伝学的検査で確定可能であろうと思われる。
血縁者の有するリスク ― X連鎖性低汗性外胚葉形成不全症(XLHED)
男性発端者の親
注:1人の母親に複数の罹患児があり、かつ血族内にそれ以外の罹患者がいない場合、ならびに、母親の白血球DNAからEDAの病的バリアントが検出されないといった場合であれば、その母親は生殖細胞系列モザイクを有する。
女性発端者の親
男性発端者の同胞
男性発端者の同胞の有するリスクは、母親の遺伝的状態によって変わってくる。
その病的バリアントを継承した男性同胞は罹患者となる。
その病的バリアントを継承した女性同胞はヘテロ接合者となり、ごく軽微な症候を示すことが考えられる(「臨床像」の中の「軽度型HED」の項を参照)。
女性発端者の同胞
その病的バリアントを継承した男性同胞は罹患者となる。
その病的バリアントを継承した女性同胞はヘテロ接合者となり、ごく軽微な症候を示すことが考えられる(「臨床像」の中の「軽度型HED」の項を参照)。
男性発端者の子
罹患男性は、EDAの病的バリアントを以下のような形で伝達することになる
女性発端者の子
EDAの病的バリアントを有する女性は、子に対して、50%の確率でこれを伝達する。
他の血族
他の血族の有するリスクは、発端者の両親の状態によって変わる。仮に片親が罹患者である、もしくは病的バリアントを有していれば、その血族にあたる人はすべてリスクを有することになる。
ヘテロ接合者(保因者)の特定
家系内に存在するEDAの病的バリアントが同定されている場合は、リスクを有する女性血族に対して、保因者の特定を目的とした分子遺伝学的検査を行うことが可能となる。臨床所見に基づいてヘテロ接合者を特定しようとする試みは、不正確になることが多い。汗腺の分布が斑状である、あるいは、多数歯の欠如がみられるということであれば、保因者の特定は比較的容易である。しかし、それ以外の状況について言うと、ごく軽度な症候は、一般集団でもみられることが多い。例えば、無歯症は一般集団でも比較的多くみられ、仮に罹患男児の母親に1本ないし2本の無歯症がみられたとしても、それは偶然の一致である可能性がある。加えて、毛髪の密度に関しては信頼に足る基準というものが確立されておらず、発汗機能不全についても、これは熱に対する不耐性をもとに判断が行われるわけであるが、きわめて不正確である。
血縁者の有するリスク ― 常染色体潜性低汗性外胚葉形成不全症(ARHED)
発端者の親
WNT10Aの病的バリアントのヘテロ接合者については、特にそれが言える。
発端者の同胞
WNT10Aの病的バリアントのヘテロ接合者については、特にそれが言える。
発端者の子
ARHED罹患者の子は、EDAR、EDARADD、WNT10Aのいずれかの病的バリアントに関して絶対ヘテロ接合者(絶対保因者)となる。
他の血族
発端者の両親の同胞は、EDAR、EDARADD、WNT10Aのいずれかの病的バリアントの保因者であることに関し、50%のリスクを有する。
保因者(ヘテロ接合者)の特定
リスクを有する血族に対して保因者の検査を行うためには、事前に、家系内に存在するEDAR、EDARADD、WNT10Aの病的バリアントを同定しておくことが必要である。
血縁者の有するリスク ― 常染色体顕性低汗性外胚葉形成不全症(ADHED)
発端者の親
ただ、血族の有する疾患を見逃してしまった、問題の親が症状発症前に早逝してしまった、親の発症が非常に遅かったといった理由で、見かけ上、家族歴陰性と思われる場合がある。
発端者の同胞
同胞の有するリスクは、発端者の両親の遺伝的状態によって変わってくる。
発端者の子
ADHED罹患者の子が、EDAR、EDARADD、WNT10Aの病的バリアントを継承する可能性は50%である。
他の血族
他の血族の有するリスクは、発端者の両親の状態によって変わってくる。仮に、片親がEDAR、EDARADD、WNT10Aのいずれかの病的バリアントを有していたということになれば、その血族にあたる人はすべてリスクを有することになる。
関連する遺伝カウンセリング上の諸事項
早期診断・早期治療を目的としてリスクを有する血族に対して行う評価関連の情報については、「臨床的マネジメント」の「リスクを有する血縁者の評価」の項を参照されたい。
家族計画
DNAバンキング
検査の手法であるとか、遺伝子・病原のメカニズム・疾患等に対するわれわれの理解が、将来はより進歩していくことが予想される。そのため、分子診断の確定していない(すなわち、原因となった病原のメカニズムが未解明の)発端者のDNAについては、保存することを検討すべきである。
出生前検査ならびに着床前遺伝子検査
家系内に存在するEDAR、EDARADD、WNT10Aの病的バリアントが同定済の場合は、高リスクの妊娠に備えた出生前検査や、HEDに関する着床前遺伝子検査を行うことが可能である。
出生前検査の利用に関しては、医療者間でも、また家族内でも、さまざまな見方がある。
早期診断を目的とするのではなく、堕胎を目的としてこれを利用しようという場合は、特にそれが言える。現在、多くの医療機関では、出生前検査を個人の決断に委ねられるべきものと考えているようであるが、こうした問題に関しては、もう少し議論を深める必要があろう。
GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報については、ここをクリック。
分子遺伝学
分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。
表A:低汗性外胚葉形成不全症:遺伝子とデータベース
遺伝子 | 染色体上の座位 | タンパク質 | Locus-Specificデータベース | HGMG | ClinVar |
---|---|---|---|---|---|
EDA | Xq13.1 | エクトジスプラシンA | EDA@LOVD | EDA | EDA |
EDAR | 2q13 | 腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバーEDAR | EDAR database | EDAR | EDAR |
EDARADD | 1q42.3-q43 | エクトジスプラシンA受容体関連アダプタータンパク質 | EDARADD database | EDARADD | EDARADD |
WNT10A | 2q35 | タンパク質Wnt-10a | WNT10A database | WNT10A | WNT10A |
データは、以下の標準資料から作成したものである。
遺伝子についてはHGNCから、染色体上の座位についてはOMIMから、タンパク質についてはUniProtから。
リンクが張られているデータベース(Locus-Specific,HGMD,ClinVar)の説明についてはこちらをクリック。
表B:低汗性外胚葉形成不全症関連のOMIMエントリー(閲覧はすべてOMIMへ)
129490 | ECTODERMAL DYSPLASIA 10A, HYPOHIDROTIC/HAIR/NAIL TYPE, AUTOSOMAL DOMINANT; ECTD10A |
224900 | ECTODERMAL DYSPLASIA 10B, HYPOHIDROTIC/HAIR/TOOTH TYPE, AUTOSOMAL RECESSIVE; ECTD10B |
300451 | ECTODYSPLASIN A; EDA |
305100 | ECTODERMAL DYSPLASIA 1, HYPOHIDROTIC, X-LINKED; XHED |
604095 | ECTODYSPLASIN A RECEPTOR; EDAR |
606268 | WINGLESS-TYPE MMTV INTEGRATION SITE FAMILY, MEMBER 10A; WNT10A |
606603 | EDAR-ASSOCIATED DEATH DOMAIN; EDARADD |
614941 | ECTODERMAL DYSPLASIA 11B, HYPOHIDROTIC/HAIR/TOOTH TYPE, AUTOSOMAL RECESSIVE; ECTD11B |
分子レベルの病原
低汗性外胚葉形成不全症(HED)の分子レベルの病原は、完全には解明されていない。
X連鎖性HEDの原因遺伝子であるEDAは、エクトジスプラシンAを産生する。これは、毛髪、歯、感染などの外胚葉付属器の正常な発生に重要なタンパク質である。胚発生期間における外胚葉-中胚葉の相互作用に関与するいくつかの経路に、このエクトジスプラシンAが重要であることを示すデータが蓄積してきている。エクトジスプラシンAの分子構造に欠陥が生じることで、外胚葉の正常な発生や、下部の中胚葉との相互作用に必要な酵素の作用を阻害している可能性がある。
EDA
遺伝子構造
EDAはX染色体上の遺伝子で、12のエクソンから成る。そのうちの8つが膜貫通型タンパク質であるエクトジスプラシンAをコードする[Bayésら1998,Fergusonら1998,Monrealら1998](参照配列NM_001399.4)。遺伝子とタンパク質の情報に関する詳細は、表Aの「遺伝子」の項を参照されたい。
病的バリアント
EDAにおいては、塩基置換(ミスセンス・ナンセンス・スプライス部位バリアント)、小欠失/挿入、大欠失など、数多くの病的バリアントが同定されている[Visinoniら2003,Hsuら2004]。
正常遺伝子産物
エクトジスプラシンAは、391個のアミノ酸残基から成り、短いコラーゲン様ドメイン(Gly-X-Y)を有する。このタンパク質は、マウスのEda遺伝子にコードされるタンパク質と相同関係にある。Ezerら[1999]は、エクトジスプラシンAが、細胞側面ならびに頂端面で細胞骨格構造と共局在する三量体Ⅱ型タンパク質であることを明らかにし、これが、初期における上皮-間葉間の相互作用に一定の役割を果たす腫瘍壊死因子(TNF)関連リガンドファミリーの新しいメンバーであることを示唆している。エクトジスプラシンのアイソフォームのいくつかは、角化細胞、毛包、汗腺において発現する(参照配列NP_001390.1)。
異常遺伝子産物
EDAに病的バリアントが生じることで、エクトジスプラシンA分子が上皮-間葉間の相互作用を制御する能力を失い、これにより外胚葉付属器に異常が生じることになる。EDAの病的バリアントのいくつかは、フーリンによる切断抵抗性エクトジスプラシンAの産生に関係するもので、その結果、活性型エクトジスプラシンAへの転換がなされず、外胚葉付属器の形態形成を制御する細胞間シグナル伝達の媒介ができなくなる[Chenら2001]。
EDAR
遺伝子構造
ヒトEDARは、12のエクソンを有する(NM_022336.3)。EDARは、マウスのEdar遺伝子とオーソログの関係にある。遺伝子とタンパク質の情報に関する詳細は、表Aの「遺伝子」の項を参照されたい。
病的バリアント
EDARには、これまでに、欠失、塩基のトランジション、大欠失など、いくつかの病的バリアントが確認されている[Monrealら1999,Shimomuraら2004,Chassaingら2006,Mégarbanéら2008,van der Houtら2008]。
表2:このGeneReviewで取り上げたEDARの病的バリアント
DNAヌクレオチドの変化 | 予測されるタンパク質の変化 | 参照配列 |
---|---|---|
c.803+1G>A |
NM_022336.3 NP_071731.1 |
|
c.338G>A | p.Cys113Tyr |
表中のバリアントは、著者の提供したものをそのまま載せたもので、GeneReviewsのスタッフが独立した立場でバリアントの分類を確認したものではない。
GeneReviewsは、Human Genome Variation Society(varnomen.hgvs.org)の標準命名規則に準じた表記を行っている。
命名法の説明に関しては、「Quick Reference」を参照されたい。
正常遺伝子産物
EDARは、448個のアミノ酸から成るタンパク質をコードする。このタンパク質は、1型膜トポロジーのシングルスパン膜貫通ドメインを含んでいる。このタンパク質は、おそらく、ポリペプチド受容体として機能し、TNF受容体ファミリーに属するものと考えられる。エクトジスプラシンとリガンド-受容体ペアを形成する。
異常遺伝子産物
EDARの病的バリアントによって生じた異常タンパク質は、エクトジスプラシンと結合できない。常染色体潜性HEDを引き起こす異常タンパク質は機能喪失型であり、常染色体顕性HEDを引き起こす異常タンパク質はドミナントネガティブ効果型である[Valcuende-Caveroら2008]。HEDの表現型を示さないドミナントネガティブの病的バリアントが少なくとも2つ存在する。
EDARADD
遺伝子構造
ヒトのEDARDDには2つのアイソフォームがあり、ともに6つのエクソンをもち、それぞれ205ならびに215のアミノ酸から成る(NM_080738.3ならびにNM_145861.2)。
EDARADDは、マウスの遺伝子Edaraddと相同関係にある。遺伝子とタンパク質の情報に関する詳細は、表Aの「遺伝子」の項を参照されたい。
病的バリアント
常染色体潜性HEDを有する血族結婚の1家系で、p.Glu142Lysのミスセンスバリアントが同定されている[Headonら2001]。また、別の常染色体顕性HEDの1家系で、EDARADDのp.Leu112Argの病的バリアントのヘテロ接合が同定されている。このように、EDARADDの病的バリアントでは、潜性型、顕性型の両方が現れる[Balら2007]。また、HEDの1例で、6bpのインフレーム欠失(p.Thr135_Val136del)が報告されている。
表3:このGeneReviewで取り上げたEDARADDの病的バリアント
DNAヌクレオチドの変化 | 予測されるタンパク質の変化 | 参照配列 |
---|---|---|
c.335T>G | p.Leu112Arg | NM_080738.3 NP_542776.1 |
c.372_377del (402_407del)1 |
p.Thr125_Val126del (Thr135_Val136del) |
|
c.424G>A | p.Glu142Lys |
表中のバリアントは、著者の提供したものをそのまま載せたもので、GeneReviewsのスタッフが独立した立場でバリアントの分類を確認したものではない。
GeneReviewsは、Human Genome Variation Society(varnomen.hgvs.org)の標準命名規則に準じた表記を行っている。
命名法の説明に関しては、「Quick Reference」を参照されたい。
正常遺伝子産物
EDARADDによってコードされるタンパク質は、Toll/インターロイキン受容体シグナル伝達における細胞質シグナル伝達物質であるMyD88のデスドメイン類似のものである[Headonら2001]。このタンパク質は同時に、Traf結合コンセンサス配列を含んでいる。
そして、毛包や歯の形成期の上皮細胞において、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーのメンバーであるEDARと共発現する。EDARのデスドメインと相互作用し、これを下流のシグナル伝達経路にリンクさせる働きをする。
異常遺伝子産物
EDARADDの病的バリアントは、結果としてEDARADD中の1つのアミノ酸の電荷が変化することになり、多くの場合、EDARとの相互作用ができない状態に陥る。常染色体顕性HEDの1家系でみられた新規のミスセンスバリアントでは、EDARとEDARADDとの相互作用は阻害されなかったものの、NF-κBシグナル伝達の活性化障害が生じていた[Wohlfartら2016]。
WNT10A
遺伝子構造
WNT10Aは4つのエクソンをもち、WNT6に近い位置の2q25にマッピングされている。
病的バリアント
c.321C>A(p.Cys107Ter)のナンセンスバリアントは、WNT10Aの病的バリアントの中で最も一般的なものの1つである。また、c.682T>A(p.Phe228Ile)のミスセンスバリアントも非常に多くみられる。他にも複数のミスセンスバリアントやナンセンスバリアントが報告されている[Bohringら2009,Cluzeauら2011,Muesら2014,Bergendalら2016]。
表4:このGeneReviewで取り上げたWNT10Aの病的バリアント
DNAヌクレオチドの変化 | 予測されるタンパク質の変化 | 参照配列 |
---|---|---|
c.321C>A | p.Cys107Ter | NM_025216.2 NP_079492.2 |
c.682T>A | p.Phe228Ile |
表中のバリアントは、著者の提供したものをそのまま載せたもので、GeneReviewsのスタッフが独立した立場でバリアントの分類を確認したものではない。
GeneReviewsは、Human Genome Variation Society(varnomen.hgvs.org)の標準命名規則に準じた表記を行っている。
命名法の説明に関しては、「Quick Reference」を参照されたい。
正常遺伝子産物
WNT10Aは、417個のアミノ酸から成るペプチドをコードしており、2つのN結合型グリコシル化部位と、WNT間で保存された残基を含んでいる。このタンパク質は、シグナルペプチドとWntドメインという2つのドメインをもち、胚発生期の細胞運命や細胞パターニングの制御といった発生プロセスに関与する分泌型シグナル伝達分子をコードしている。
WNT10AとWNT10Bは胚の皮膚内、ならびに毛包の形態形成に係わるプラコード内で高度の発現を示す。WNT10Aはまた、正常な象牙質形成や歯の形態形成に重要な役割を果たしている。
異常遺伝子産物
WNTシグナル伝達経路は、外胚葉由来組織の発生に不可欠な役割を果たしている。そのため、WNT10Aに病的バリアントが生じることにより、歯の正常な発生に対する障害が最も多く生じることになるが、同時に、汗腺、毛髪、爪といった外胚葉構造物にも影響が現れることになる。