Gene Reviews著者: Shane C Quinonez, MD, Jess G Thoene, MD.
日本語訳者: 和田 宏来 (国際親善総合病院小児科/しんぜんクリニック小児科)
Gene Reviews 最終更新日:2016.9.1. 日本語訳最終更新日: 2020.6.8.
疾患の特徴
シトルリン血症Ⅰ型(CTLN1)の臨床スペクトラムには、急性新生児型(”古典”型)、軽症遅発型(”非古典”型)、症状/高アンモニア血症を伴わない病型、女性が妊娠期/分娩後に重篤な症状で発症する病型がある。臨床的な病型の分類は臨床所見に基づくが、クリアカットではない。
急性新生児型の患児は出生時には正常にみえる。それから間もなく、高アンモニア血症を呈し、
次第に活気不良、経口摂取不良、しばしば嘔吐を認めるようになり、頭蓋内圧亢進(ICP)の徴候が出現することもある。迅速な介入が行われないと、高アンモニア血症およびその他の毒性代謝物質(グルタミンなど)の蓄積によって頭蓋内圧亢進、筋緊張亢進、痙縮、足クローヌス、けいれん発作、意識消失を認め、死に至る。迅速に治療を受けた重症患児の生存期間は予測できないが、通常は著しい神経学的な障害を伴う。
遅発型は急性新生児型より軽症である可能性があるが、その理由は不明である。高アンモニア血症のエピソードは急性新生児型と同様であるが、患児の年齢が高いため初期の神経学的所見はより軽微なことがある。
診断・検査
CTLN1は、血漿アンモニア濃度上昇(>150μmol/L、場合によっては≧2000-3000μmol/L)および血漿シトルリン濃度上昇(通常は>1000μmol/L)および/もしくは分子遺伝学的検査でASS1遺伝子両アレル変異の同定によって診断される。
診断・検査
症候の治療:
高アンモニア血症の急性期治療では、迅速に血漿アンモニア濃度を下げるために、窒素捕捉療法(安息香酸ナトリウム・フェニル酢酸ナトリウム・アルギニン)を、それに反応しない場合は血液透析を行う。可能であれば、グルコースや脂肪乳剤の静注もしくは蛋白フリーの経腸栄養によって異化を防止する。また、頭蓋内圧のコントロールを行う。
慢性期の治療として、血漿アンモニア濃度を100μmol/L未満および血漿グルタミン濃度を正常値近くに維持するため、生涯にわたる食事管理を行う。フェニル酪酸ナトリウムもしくはフェニル酪酸グリセロールを内服する。低カルニチン血症予防のためL-カルニチンを投与する。唯一の根治療法として知られる肝移植は、合併症の減少や生存率上昇のため、生後3ヶ月(および/もしくは体重5kgに達した時点)~1歳が最適な施行時期となる。肝移植では施行時に存在していた神経学的後遺症が改善することはない。
二次合併症の予防:
感染症合併時には高アンモニア血症を予防する治療を行う。年1回のインフルエンザワクチンを含むルーチンの予防接種を施行する。
経過観察:
代謝内科でルーチンのフォローアップを行う。高アンモニア血症や二次的な必須アミノ酸の欠乏をモニタリングする。高齢者では、切迫する高アンモニアの兆候(すなわち気分変調・頭痛・活気不良・嘔気・嘔吐・経口摂取不良・足クローヌス)や血漿グルタミン濃度の上昇を認めないかモニタリングする。新生児期および乳児期には疾患重症度に応じて頻回にモニタリングを行うべきであるが、年長児では安定していれば6ヶ月~1年に1回でよいかもしれない。
避けるべきもの/環境:
蛋白質の過剰摂取、感染症への罹患を避ける。
リスクのある血縁者の評価:
家族内で病原性変異が判明している場合、出生前診断によって初回哺乳から適切な経口治療を行うことができる。判明していない場合、同胞は生後初日に血漿アンモニア濃度およびシトルリン濃度の測定による評価を行うべきである。いずれかの許容レベルを超える場合(アンモニア>100μmol/Lもしくは血漿シトルリン>~100μmol/L)は治療を開始するのに十分な根拠となる。
遺伝カウンセリング
シトルリン血症Ⅰ型は常染色体劣性遺伝性疾患である。罹患者の同胞はそれぞれ、受胎時には25%の確率で罹患者であり、50%の確率で無症候性保因者であり、25%の確率で罹患者でも保因者でもない。家族内の病原性変異が判明しているのならば、疾病リスクがある家族に対する保因者診断および疾病リスクがある妊娠における出生前診断を行うことができる。
シトルリン血症Ⅰ型(CTLN1)は、尿素回路の第3段階でシトルリンとアスパラギン酸を縮合しアルギニノコハク酸を合成するアルギニノコハク酸合成酵素の欠損によって起こる(尿素サイクル異常症概説 図1を参照)。
示唆的な所見
シトルリン血症Ⅰ型(CTLN1)は、患者で以下のような新生児スクリーニング結果、臨床的特徴(年齢による)、支持的な検査所見を認める場合に疑うべきである。
新生児スクリーニング結果
タンデム型質量分析計(MS/MS)による新生児スクリーニングで、乾燥ろ紙血中のシトルリン上昇を認める場合。注:執筆時において、すべての州の新生児スクリーニング対象疾患にCTLN1は含まれている。
臨床的特徴
新生児期の症状 蛋白質の制限を行わない場合、徴候や症状は古典的には生後1週間以内に起こるとされる。
非古典型の症状 徴候および症状はいつでも起こる可能性があり、新生児期ほど急速に出現しないことがある。
支持的な検査所見
血漿アンモニア濃度
定量的血漿アミノ酸分析
尿中有機酸分析 正常であるが、ガスクロマトグラフィー質量分析法による尿中有機酸分析の一環としてオロト酸が検出されることがある。しかし、感度は抽出方法による。
診断の確定
CTLN1の診断は、発端者で血漿アンモニア濃度の上昇(>150μmol/L、場合によっては≧2000-3000μmol/L)や血漿シトルリン濃度の上昇(通常>1000μmol/L)を認める場合、および/もしくは分子遺伝学的検査でASS1遺伝子両アレル変異を同定することにより確定する(表1を参照)。
注:表現型が生化学的には合致するが臨床的に重症かどうか分からない患者において、予後を予測することは困難なものになりうる。
分子遺伝学的アプローチには、単一遺伝子検査や複数遺伝子パネルの利用などがある。
表1 シトルリン血症Ⅰ型で用いられる分子遺伝学的検査
遺伝子1 | 方法 | この方法で同定される病原性変異2を有する発端者の頻度 |
---|---|---|
ASS1 | シークエンス解析3 | 96%4,5 |
標的遺伝子の欠失/重複解析6 | 脚注7を参照 |
アルギニノコハク酸合成酵素(ASS)活性 放射標識されたシトルリンのアルギニノコハク酸への取り込みを培養線維芽細胞で測定する(「出生前検査および着床前診断」の項を参照)。ASS活性は、放射標識された(C14)-アスパラギン酸から(C14)-アルギニノコハク酸への変化に基づく方法によっても測定される。
遺伝子型と表現型の相関
一部の表現型は病原性変異が同定されているものの、すべての例で表現型を予測できるわけではない。
命名法
アルギニノコハク酸合成酵素欠損症を表す用語として、“シトルリン血症Ⅰ型”および“古典型シトルリン血症”が好まれている。これらは、遺伝学的に異なる疾患でありシトリン欠損症としても知られるシトルリン血症Ⅱ型との混同を避けるために用いられている。
頻度
シトルリン血症Ⅰ型は57,000出生に1人と推定されている。
以下のように、新生児スクリーニングプログラムによってCTLN1が見つかっている。
このGeneReviewで述べている他に、ASS1遺伝子変異と関連することが知られている表現型はない。
新生児スクリーニングでシトルリン上昇を認めることがある疾患には、シトルリン血症Ⅱ型、アルギニノコハク酸尿症、ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症がある。
シトルリン血症Ⅱ型(CTLN2)の原因は、SLC25A13遺伝子の両アレル変異によるシトリンの欠損である。SLC25A13遺伝子はミトコンドリアの促進拡散を担うキャリア(solute carrier)蛋白であるシトリンをコードする。シトリン欠損症では、アスパラギン酸およびグルタミン酸はミトコンドリア内外に輸送されず、軽度の高アンモニア血症とシトルリン血症を呈する。SLC25A13遺伝子両アレル変異は新生児期に肝内胆汁うっ滞もきたす。成人シトルリン血症Ⅱ型患者の臨床経過はCTLN1よりも軽症で、おそらく軽症遅発性のシトルリン血症Ⅰ型とも鑑別可能できる。なぜCTLN2がCTLN1より軽症で遅発性であるのかは不明である。2つの疾患の鑑別は難しい。シトルリン血症Ⅱ型の頻度は報告されていない。
尿素回路の障害によって起こる高アンモニア血症と、有機酸血症でN-アセチルグルタミン酸合成酵素の阻害によって起こる二次性高アンモニア血症を鑑別することが非常に重要である(「尿素サイクル異常症概説」図2を参照)。
ジヒドロリポアミドデヒドロゲナーゼ(DLD)欠損症でもシトルリン、アンモニア、グルタミンの上昇を認めることが報告されている。DLD欠損症はDLD遺伝子両アレル変異によって起こる。
古典型シトルリン血症Ⅰ型では、他の原因によって尿素回路における最初の4段階に障害を起こした場合にみられるような典型的な急性新生児高アンモニア血症を呈する。軽症のタイプは、遅発性のオルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)欠損症のように発症時期は遅い。「尿素サイクル異常症概説」図3では、高アンモニア血症患者で尿素回路のどの段階で障害を受けているかを調べる診断戦略が提示されている。
初期診断に続く評価
シトルリン血症Ⅰ型(CTLN1)であると診断された患者において、疾患の広がりやニーズを把握するため、以下のような評価が推奨される。
病変に対する治療
CTLN1と診断した場合、
確立している治療ガイドラインに基づいて急性期(必要であれば)および慢性期の治療を開始すべきである。ACMG-ACTシート、ACMGアルゴリズムを参照のこと。
高アンモニア血症の急性期治療
治療の要点は、血漿アンモニア濃度の迅速な低下、異化の防止および/もしくは頭蓋内圧亢進に対する加療である。
血漿アンモニア濃度の迅速な低下 高アンモニア血症を認めた場合もしくは疑われる場合、最長で24-48時間は蛋白質の摂取はすべて控えるべきである。この間、窒素捕捉療法および/もしくは透析にて血漿アンモニア血症を低下させながら異化を亢進させる必須アミノ酸欠乏を回避する。
・薬物による窒素捕捉療法(安息香酸ナトリウム・フェニル酪酸ナトリウム・アルギニン)は、CTLN1患者で高アンモニア血症を認めた場合可及的速やかに経静脈的に行うべきである。(この治療の作用機序に関する情報については、「捕捉療法」の項を参照)
シトルリン血症Ⅰ型[GeneReview] 捕捉療法 捕捉療法 |
異化の防止 グルコース(および高血糖が起こればインスリン)やイントラリピッドの静注によって同化を促進するべきである。
頭蓋内圧のコントロール 輸液バランス、イン/アウト、体重の経過をみていくことが重要である。
慢性期治療
CTLN1の慢性期治療として、生涯にわたる蛋白質制限、薬物療法(窒素捕捉療法やカルニチン)、および食事管理や薬物療法による代謝コントロールの程度によっては肝移植を行う。
蛋白質制限 生涯にわたる食事管理が必要であり、代謝栄養士の協力が不可欠である。
窒素捕捉療法
患者が固形食を摂取することができる場合、フェニル酪酸ナトリウム(ブフェニール[Buphenyl]®、アンモナップス[Ammonaps]®)450-600mg/kg/日を1日3回に分服し、またアルギニン遊離塩基400および700mg/kg/日の内服を開始する。患児の成長とともに、フェニル酪酸ナトリウムなら9.9-13g/㎡/日、アルギニンなら8.8-15.4g/㎡/日に用量を変更する。治療の詳細については、Brusilow & Horwich[2001]、Häberleら[2012]の文献を参照されたい。
肝移植は知られる中で唯一の尿素サイクル異常症に対する根治療法である。移植によって食事蛋白制限を行う必要はなくなるが、移植を行う時点で認めていた神経学的後遺症は回復しない。
理想的には、合併症を減らし生存率を上げるため、肝移植は生後3か月を過ぎ体重も5kgを超えた(神経認知障害が認められる前の)1歳未満の患児に行うべきである。
注:肝移植にてASS酵素の欠損は改善するが、アルギニンは肝外でも合成され移植後も低値にとどまるため補給が必要である。
一次病変の予防
高アンモニア血症を予防するため、生涯にわたる蛋白質制限、窒素捕捉療法、および代謝コントロールの状況によっては肝移植が行われる(「病変に対する治療」を参照)。
二次合併症の予防
間欠的な感染症(とくにウイルス性発疹症)では異化が誘発されることがある。そのような場合は注意深く患者を観察しなければならず、医学的には高アンモニア血症の予防に注意を払う。
インフルエンザワクチンを含め年齢に応じた予防接種を行うべきである。
経過観察
代謝栄養士や臨床生化学遺伝専門医とともに代謝内科で経過観察を行う。以下のモニタリングを行う。
回避すべき薬物や環境
以下を避ける。
・過剰な蛋白質摂取。
・流行疾患への明らかな曝露。
リスクのある血縁者の評価
シトルリン血症Ⅰ型患者の長期予後は初期およびピーク時の血漿アンモニア濃度によるため、疾患リスクのある同胞を可及的速やかに見つけ出すことが重要である。
評価として以下を行うことができる。
遺伝カウンセリングとして扱われるリスクのある血縁者への検査に関する問題は「遺伝カウンセリング」の項を参照のこと。
妊娠管理
妊娠中や分娩後に重篤な症状で発症した女性例が報告されているため、この期間の食事や投薬には細心の注意を払う必要がある。
研究中の治療法
遺伝子治療の可能性が示唆されているが現在まで成功していない。
肝移植の代替手段として、もしくは移植を待つCTLN1患者に対する一時的な治療法として、ヒト肝細胞移植の安全性および効果を評価する第Ⅰ相および第Ⅱ相試験が最近終了した。
疾患や病態の広範囲にわたる臨床試験に関する情報は、米国ではClinicalTrials.govを、欧州ではEUClinical Trials Registerを参照のこと。
その他
必須アミノ酸のケト酸は、窒素を処理する補助療法として早期に行われていたが、現在では「病変に対する治療」で述べた薬物に取って代わられている。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
シトルリン血症Ⅰ型(CTLN1)は常染色体劣性遺伝形式で遺伝する。
患者家族のリスク
発端者の両親
罹患者の両親は絶対保因者である(すなわち1つのASS1遺伝子病原性変異の保因者)。
・ヘテロ接合体保有者(保因者)は尿路サイクル異常症の表現型の症状を呈さない。肝硬変に至ったヘテロ接合体保有者の一例が報告されている。
発端者の同胞
・受胎時に、発端者の同胞が罹患している確率は25%、無症候性保因者である確率は50%、非罹患者かつ非保因者である確率は25%である。
・ヘテロ接合体保有者(保因者)は尿路サイクル異常症の表現型の症状を呈さない。肝硬変に至ったヘテロ接合体保有者の一例が報告されている。
・同胞は出生後すぐに評価を行うべきであり、診断的評価が完了するまで蛋白質制限を行うべきである(「臨床的マネジメント」を参照)。
発端者の子
CTLN1患者の子どもは1つのASS1遺伝子病原性変異の絶対保因者である。
発端者の他の家族
発端者の両親の同胞がASS1遺伝子変異の保因者であるリスクは50%である。
保因者(ヘテロ接合体保有者)診断
疾患リスクのある血縁者に保因者診断を行うには、事前に家族内のASS1遺伝子変異が同定されている必要がある。
遺伝カウンセリングに関連した問題
早期診断・治療目的で疾患リスクのある血縁者に対して行う検査に関する情報は「臨床的マネジメント」「リスクのある血縁者の評価」を参照のこと。
家族計画
DNAバンキング
DNAバンクは(主に白血球から調整した)DNAを将来利用することを想定して保存しておくものである。検査技術や、遺伝子・アレル変異・疾患に対するわれわれの理解が将来さらに進歩すると考えられるので、罹患者のDNA保存を考慮すべきである。
出生前診断および着床前診断
疾患リスクが25%ある場合、出生前診断を行うことができる。出生前診断の方法には以下がある。
注:羊水中のシトルリン/オルチニン比やアルギニン濃度を用いた診断精度の向上が報告されている。