Gene Reviews著者: Sara Huston Katsanis, MS and Ethylin Wang Jabs, MD
日本語訳者: 箕浦祐子(札幌医科大学大学院医学研究科修士課程遺伝カウンセリングコース),櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
AMED「医療現場でのゲノム情報の適切な開示のための体制整備に関する研究」班(研究開発代表者:小杉眞司)
Gene Reviews 最終更新日: 2016.10.13 日本語訳最終更新日: 2018.9.15
原文: Catecholaminergic Polymorphic Ventricular Tachycardia
疾患の特徴
カテコラミン感受性多形性心室頻拍(CPVT)は、心臓の構造的 異常 のない人 に、運動中または 激しい情動に よって 起こる一時的な失神を特徴とする。これらの 症状の発現の 根本的な原因は、速い心室頻拍( 二方向性または多形性)の発症 である。 これらの不整脈が自動的に収まれば、自然と回復する。別の事例として、心肺蘇生がすぐに出来ないような 場合、心室頻拍 が心室細動へと悪化し、突然死をもたらす事がある。最初に症状 が 起こる(通常 は失神) 平均年齢は、7歳から12歳であ るが、3 0歳代に入ってからの遅発性の発症も報告されている。CPVTは 未治療の場合、非常に致命的で、 罹患者の約30%は少なくとも1度は心停止を経験し、 1 回以上の失神経験者は 80%に およぶ。 初発症状が突然死であることもある。
診断・検査
発端者において、構造的には 正常な心臓で、 多くの場合、安静時心電図が正常であり、 運動負荷試験で次の結果を伴う場合、 確定診断となる。 運動負荷試験は、 急性のアドレナリン作 用中(運動、激しい情動など)におこる典型的な心室頻拍を再現性よく 誘発するため、最も重要な診断のための検査とされている。 二方向性頻 拍は、一拍ごとにQRS波の軸が180°変化する心室 不整脈として定義される。 患者の中には、 QRS波の軸の変化が「安定」していない、多形性心室 頻拍 の現れる者もいる。運動中の不整脈 は、 心拍が100-120回/分 を超えると発生し、 運動量が増加するにつれ 悪化する傾向がある。RYR2あるいはCALM1のヘテロ接合性の 病的バリアントないしは、CASQ2あるいはTRDNの 2アレルの 病的バリアントを同定した場合も 、 確定診断となる。
臨床的マネジメント
症状の治療:
β遮断薬の使用は、CPVT治療の主軸である。比較 研究はないが、国際 的な大規模病院 の大部分は、ナドロール(1日 2回 、1~2.5mg/kg/日 )または、プロプラノロール(1日 3~4回 、2-4mg/kg/日 )を使用している。非選択的なβ遮断薬は、禁忌(例:喘息)のない全ての患者 に薦められる。運動中の不整脈 が繰り返し誘発される場合は、β遮断薬の 量を調整し、経過をみる。β遮断薬 を服用していても、 保護作用が不完全(運動中の 失神あるいは複雑な不整脈の再発) である形跡があれば、フレカイニド( 100~300mg/日) を追加するべきである。β遮断薬やフレカイニド は、以前に突然死を免れた経験のある罹患者 に対しても指示される。植込み型除細動器(ICD)は、β遮断薬治療中 に心停止 が再発 した人、または β遮断薬を服用できない人に必要である。ICDの不必要な放電の可能性を軽減するために、ICDを装着している人で あっても、薬理学治療は持続 し、最大限に活用するべきである。左星状神経節切除術 (LCSD)は、他の治療 の効果がない、 あるいは、β遮断薬に不耐または 禁忌がある人 で考慮される。しかし、LCSDに関連する副作用と心 疾患イベントの再発の可能性があるため、LCSDを考慮する前に必ず薬理学治療を できるだけ効果的に利用すべきである。
初期 症状の予防:
この病気では、突然死が 初発症状となることがあるため、β遮断薬は、全ての臨床的な罹患者と、運動負荷試験が陰性で CPVTに関連する遺伝子の1つに 病的バリアントを 持つ人に 指示される。β遮断薬単剤では運動負荷試験中に不整脈 を抑制する事ができない場合、心停止の一次予防のために、フレカイニド を 追加する。
二次的な合併症の予防
アレルギー性喘息の悪化を避けるために、心臓 に特効のあるβ遮断薬の メトプロロールを使用してもよい 。用量は個人に合わせて処方されるべきである。 ICDを装着している人では 抗凝血療法が必要となることもある。
経過観察:
治療の 効果を 観察するため、6 ~12ヶ月に1回(病気の 重症度に応じて)、心臓病専門医 の 再診;すべての身体活動の制限は、病院 で実施される 運動負荷試験 に基づき 決定される。スポーツに参加するため に市販の心拍計を使用する事は、運動中、安全域で心拍を維持するために は有用である が、医療 機関への再診の代わりとして考えられるべきではない。
避けるべき薬剤と環境:
競争的なスポーツや他の 激しい運動。ジギタリス製剤。
リスク のある血縁者の評価:
治療と 経過観察 により 有病率と死亡率を減少させる事が可能 であるため、家族特 有の 病的バリアントが確認されていれば、発端者の第一度近親者には分子遺伝 学的検査を 提案するべきである。家族特 有の 病的バリアントが確認されていなければ、罹患者の第一度近親者は、安静時心電図、ホルター心電図、そして最も重要な 運動負荷試験を用いて評価されるべきである。
遺伝カウンセリング
常染色体優性CPVT:
CPVTに関連 するCALM1とRYR2は、常染色体優性遺伝形式で 受け継がれる。常染色体優性CPVTの罹患者の 子供が 病的バリアントを受け継ぐ 可能性は、それぞれ50%である。
常染色体劣性CPVT:
CPVTに関連する CASQ2とTRDNは、常染色体劣性 遺伝形式で受け継がれる。罹患者である子供の両親は、 必然的 にヘテロ接合 体であることになる(例: 1つの 病的バリアント の保因者)。 軽症の異常(稀で 良性の不整脈) が ヘテロ接合体 でみられたという事例報告がある。 受胎時に、罹患者の 同胞が このバリアントを受け継ぐ可能性はそれぞれ 25%であり、ヘテロ接合体となる 可能性は50%、 バリアントを受け継がない 可能性は25%である。
CPVT関連の 病的バリアントが罹患家族 で同定されれば、リスク の高い妊娠に対して出生前検査や着床前の遺伝学的診断を提供することは可能な選択肢である。
訳注:日本では,本症に対する出生前診断や着床前診断は行われない.いずれにしても次世代への遺伝に関しては細心の遺伝カウンセリングが必要である。
診断
カテコラミン感受性多形性心室頻拍が疑われる所見
下記のものに1つ以上当てはまる者に対しては、カテコラミン感受性多形性心室頻拍(CPVT)が疑われるべきである(Priori et al 2013a):
*注釈:CPVT罹患者の安静時心電図は通常正常であるが、 研究者によって、安静時の正常値よりも低い心拍を報告 する者もあれば(Postma et al 2005)、 顕著なU波の高い発生率を観察した という報告もある(Leenhardt et al 1995, Aizawa et al 2006) 。全体的なこれらの特徴は 矛盾しており、診断を可能にする には特異性が十分でない。それゆえ 多くの実例で、 失神の起因 が 誤って 神経 疾患とされる事がある。 運動負荷試験は、診断のための 唯一の最も重要な 検査である。 執筆者の 研究 では、初 発症状の後、診断 されるまでの 期間の平均は 2±0.8年であった(Priori et al 2002)。
確定診断
心臓突然死 の最新版 国際ガイドラインによると(Priori et al 2015)、CPVTの診断は 以下の状態で確定される:
分子検査の 方法には、 一連の単一遺伝子検査、 マルチジーンパネルの使用、より包括的なゲノム検査を含む。
表 1
カテコラミン感受性多形性心室頻拍で使用される分子遺伝学的検査
遺伝子1 | この遺伝子の病的バリアントに原因があると考えられるCPVTの割合 | 検査方法によって発見できる病的バリアント2の割合 | |
配列解析3 | 対象となる遺伝子の欠失 /重複解析4 | ||
CALM1 | <1%5 | ~100% | 不明6 |
CASQ2 | 2%-5%7 | ~100% | 不明6 |
RYR2 | 50%-55%8 | ~99% | 不明6,9 |
TRDN | 1%-2%10 | ~100% | 不明6 |
不明11 | 35%-45%12 | NA |
臨床像
カテコラミン感受性多形性心室頻拍(CPVT)は、アドレナリン作動神経系の激しい 興奮により悪化する、心臓の電気的不安定性 を特徴とする遺伝性不整脈疾患である。未治療 の場合、非常に致命的であり、罹患者の約30%は少なくとも一度は心停止を経験し、 1回以上の 失神発作を経験している者は80%にのぼる。
CPVTの自然史を理解するためには、2つの臨床研究(Leenhardt et al 1995, Priori et al 2002)が その一助となる。
CPVTの主な臨床的 症状は、運動中または激しい情動によって起こる 一時的な 失神である。これらの 症状の発現の 根本的な原因は、速い心室頻拍の 発生である(二 方向性または多形性)。この症状では、下記の帰結が想定される。
事前の症状がなく(失神またはめまいの既往歴なし)、運動中または 激しい情動があった際に突然亡くなった人 では、突然死がこの 疾患の初 発症状となることもある(Priori et al 2002, Krahn et al 2005, Watanabe et al 2013)。
注釈:心筋の 構造的異常はな く、 多くの人は めまいや失神のような軽い症状だけであるため、不整脈を 軽くみがちである。 このような症状が 運動中に 繰り返し再発する場合、CPVTのさらなる臨床 検査 が必要となる。
CPVTの症状(通常は 失神発作)の 症状が現れる平均年齢は、7 ~12歳である(Leenhardt et al 1995, Priori et al 2002, Postma et al 2005)。遅く 発症した 30代のケースが報告されている。
SIDS(乳児突然死症候群)の症 例は、RYR2の 病的バリアントに関連してい た(Tester et al 2007)。
40歳よりも若い親族内での突然死の家族歴は、CPVTを罹患する発端者の約30%に みられる(Priori et al 2002, Watanabe et al 2013)。
その他。
単独の症例報告では、インスリン負荷試験(ITT)によって誘発される代謝不均衡から二次的に生じる、深刻な低カリウム血 症とアドレナリンの活性化が、 催不整脈作用をもたらす可能性が強調されている (Binder et al 2004)。 注目点として、RYR2 がインスリン分泌 を担 う膵β細胞の中に 発現することは、 糖代謝の変化 がRYR2関連CPVT の特徴を説明しうる 事を示唆している(Santulli et al 2015)。
遺伝型−表現型の 相関
CASQ2とRYR2。 現存のエビデンスでは、CASQ2とRYR2に関連するCPVT の臨床像 は、 ほとんど同 じである事を示 している。Lahat et al(2001)は 最初の論文で、 軽度のQT間隔延長を報告した が、次の報告で は確認されなかった(Postma et al 2002)。CASQ2-CPVTは β遮断薬に対して より深刻 な抵抗性 がある が、大規模な比較調査は行われていない。 QRS 波の軸の変化が「安定」していない多形性心室頻拍の罹患者は、CASQ2 に 病的バリアントを持つ可能性が より高い。
Priori et al (2002)とLehnart et al (2004)は、RYR2の 病的バリアントの有無によって罹患者の臨床像を比較 し、遺伝 型−表現型の 相関について報告した。これらのデータを次に示 す。
・ 疾患の自然 歴は、RYR2の 病的バリアントの有無によって比較しても違いはなかった。
・両 研究グループにおいて、 発症平均年齢(すなわち、初回失神時の年齢)は、7~12歳である。
CPVTの バリアント特異的な臨床経過については、Lehnart et al (2004) が分析 したが、 RYR2の 病的バリアントp.Pro2328Ser, p.Gln4201Arg, p.Val4653Pheを 持つ罹患者の小さなコホート では、死亡率や 不整脈のパターンには重要な違いはなかった。
浸透率
RYR2の 病的バリアントの平均浸透率は、83%である(執筆者、非公開データ )。従って、RYR2に関連するCPVTで 無症状の 人は 少数派である。現在までのところ、CASQ2, CALM1,および TRDN の病的バリアントを持つ人は、浸透率 をきちんと推定 できるほどは報告されていない が、全ての 対象者は 臨床的表現型を示している。
学名
CPVTはまた、 家族性多形性心室頻拍(FPVT)とも称される。
頻度
CPVTの実際の頻度は不明である。CPVTの 頻度の推定では 10,000人に1人である。
孤発例(すなわち一家族において、一人のみ発症)が高頻度であることと若年層の 高い致死率 をみると、CPVTの全体の 頻度が QT延長症候群( 5,000~7,000人に1人)のような他の遺伝 性不整脈 疾患 よりも著しく低い事 が示唆 される。
CALM1 の病的バリアントは 、QT延長症候群(LQTS)、てんかん、神経発達障害 の原因にもなる(Crotti et al 2013)。この表現型はCALM1の広範 な 発現パターンと一致し、このことはCALM1の 病的バリアントが、しばしばQT延長を伴うカテコラミン感受性多形性心室頻拍(CPVT)の非典型的波形を引き起こすこと を示唆する 。
CASQ2. CASQ2の病的バリアントに関連する表現型で、このGeneReviewで 取り上げたもの以外はわかっていない。
RYR2. 心臓リアノジン受容体のバリアントは、運動誘発 性不整脈を伴う「軽度」の不整脈原性右室心筋症(ARVC)に関連している(Tiso et al 2001)。64人のARVC 罹患者 の中で、 主なデスモゾームのARVC関連遺伝子に病的バリアントが同定されなかった人の9%に、RYR2の病的バリアントが確認されている(Roux-Buisson et al 2014)。
RYR2の 大規模な欠失は、CPVTを伴う(Campbell et al 2015) または伴わない(Ohno et al 2014)左室緻密化障害(LVNC)と関係している。実験データ によれば、心筋症や心室緻密化障害に関連するRYR2 の病的バリアントは、それぞれ異なる病態生理学的なメカニズム(Tang et al 2012)または特異的 座位(Amador et al 2013) がある事を示唆している。
TRDN の病的バリアントは、LQTSを引き起こす可能性がある。5つのTRDN のバリアントが、 劣性遺伝の可能性のある33の遺伝学的 素因がわからなかったLQTSの家族において同定された(Altmann et al 2015)。2つの付加的な病的バリアントが、運動中の心停止の再発を経験し、 境界域のQT間隔の延長と 非典型的なCPVTが現れた2人のきょうだい で同定されている(Walsh et al 2016)。
不整脈原性右室心筋症(ARVC)は、心室頻拍 や、若年者およびアスリートの突然死 をまねく、心筋の進行性の線維化脂肪 組織への置換を特徴とする。主に右心室 で発症し、時として左心室にも影響することもある。ARVCに関連する遺伝子の大部分は、デスモゾームのタンパク質 をコードする。CPVTの罹患者には 心臓の構造異常はない。表現型が同様の部分もあるため、(Genetically Related Disorders参照)、全てのCPVT 罹患者において注意深い画像評価(心エコー 図、MRI) が求め られる。
短連結性心室頻拍(SCトルサード・ド・ポワント(Tdp))は、CPVTの罹患者に観察される不整脈のパターンの 一つに類似する、重篤な多形性心室 不整脈 が表れる臨床像 である。SC-TdPでは、多形性心室頻拍(VT)が、 構造的に正常な心臓で、 ベースラインの心電図の明白な異常が何も見られない環境で起きる 。しかし、SC-TdPの 発症は、アドレナリンの刺激(運動あるいは感情の高まり) との関連ははっきりしておらず、CPVT関連の頻拍 に典型的な 二方向的 の波形に関連しない。SC-TdPの効果的な治療は不明な一方、CPVTは通常β遮断薬に反応するので、2つの 疾患を 鑑別する事は重要である。
QT延長症候群(LQTS)。運動に関連する失神は 、一般的にLQTSの中のLQT1 型 でもみられる。 LQT1は不完全浸透を示すことがあるため、 QT間隔が 正常で、CPVTに似た 既往歴を 示す人もいる(運動に関連する 失神 および正常な 心電図)。CPVTとは違い、LQT1は、 多段階負荷運動中には( 運動負荷試験) 誘導性不整脈が現れない。Philippe CoumelによるCPVTの初期の記述では、 境界域 または軽度にQT間隔が延長した 症例が含まれていた 。
アンデルセン ・タウィル症候群(ATS, LQTS type 7)は、KCNJ2の 変異によって 起こる遺伝性催不整脈疾患である。ATSは 心臓の特徴(QT延長、著明な U波)と心 臓以外の特徴( 特異的顔貌、周期性四肢麻痺)がある。執筆者 ら(Postma et al 2006, Tester et al 2006)は、ATS 罹患者の中に CPVTに似た 二方向 性心室頻拍を 発症する人がいることを観察した。しかし、ATSは、稀 にCPVTと重なる症状を伴う ことがある別の疾患であると考えられている。 心臓以外の症状が 表れるATS は、突然死のリスクが低いあるいは ない事、不整脈とアドレナリン活性化の直接な関係性がない事から、CPVTと区別できる。
初回診断後の評価
カテコラミン感受性多形性心室頻拍(CPVT)と診断された 人は、病気の程度と必要 な治療法 を確 かめるために、下記の評価が 推奨される:
症状の治療
CPVTの マネジメントは、 米国不整脈学会(HRS)と 欧州不整脈学会(EHRA )(Priori et al 2013b)(全テキスト)からの特定の合意文書に要約され、 最新版の欧州心臓病学会 ガイドラインの 心室不整脈の項にも まとめられている(Priori et al 2015)(全テキスト)。
β遮断薬は、CPVT 罹患者の約60%に 効果が証明されている 第一選択療法(class Ⅰ )である(Leenhardt et al 1995, Priori et al 2002)。CPVT 罹患者において β遮断薬が効果を発揮するメカニズムとして提唱されているのは、アドレナリン依存性の誘発活性の阻害作用 である。この効果は、心拍数の減少と筋小胞体からのカルシウム放出への直接的な効果の両方によると考えられる。高用量のβ遮断薬 を服用する 長期間の治療は、罹患者 の大部分において 失神の再発を予防する。
運動中の不整脈の誘導が再現 可能 であれば 、有効な服用滴定とモニター の見通しが立つ。 推奨される薬は、ナドロール(1日2回計1~2.5mg/kg服用)またはプロペラノロール(1日3~4回計2~4mg/kg服用)である。ナドロールは、 選択的β遮断薬よりも効果があると報告されている(Leren et al 2016)。しかし、 選択的β遮断薬は、喘息や他の呼吸 器疾患の罹患者に使用 できる。 大切なことは、β遮断薬の服用量は 運動負荷試験 の結果により、常に個々に応じて 処方されるべきである。薬理効 果は 定期的に再検査 する必要がある 点に注意する事が 重要である(Heidbuchel et al 2006)(Surveillance参照)。
フレカイニド。臨床的(van der Werf et al 2011)及び実験的(Liu et al 2011)データによれば、不整脈コントロールを改善するために、運動中 の 失神や複雑な不整脈の再発が見られる人 に対して、 フレカイニド を(1日に100~300mg)β遮断薬と共に投与しても よい事を示している(Class Ⅱa)。 コントロール をおいた臨床的試験は不十分ではあるが、β遮断薬 の不整脈 コントロールが不十分な 場合の、フレカイニドの使用が効果的であることを示唆するエビデンスは十分 ある。β遮断薬とフレカイニドの併用は 、植込み型除細動器(ICD)の不必要な放電 の可能性 も軽減 することが、以前に突然死を免れた経験のある罹患者により示唆されている(class Ⅱb)。フレカイニドの抗不整脈 効果は、特定のCPVTの遺伝的サブタイプに依存 することなく 発揮される(Watanabe et al 2013)。
フレカイニドの投与の有無に関わらず、β遮断薬に加えて植込み型除細動器の移植をすることは、CPVTの診断を受け、最適な治療を受けているにもかかわらず、心停止、 失神あるいは 多形性 / 二方向性心室頻拍の再発を経験 した罹患者に対して 推奨される。さらに、β遮断薬を 最大耐量で投与し ていても適切に不整脈を 制御する事が出来ない場合において(Priori et al 2002, Sumitomo et al 2003)、心停止や突然死の 一次予防のためにICDの使用が検討される(Zipes et al 2006)。ICD装着者はICDの不必要な放電の可能性を低減するためにも、薬理学的治療を可能な限り維持し、最適化を図るべきである。
左星状神経節切除術 (LCSD)はCPVTと診断された人で、β遮断薬やフレカイニドの投与中に、 失神の再発、多形性 / 二方向性心室頻拍、幾度かの適切なICDの放電を経験した人や、β遮断薬治療 の不耐性あるいは禁忌である人に検討される(ClassⅡb)。しかし、LCSDには 副作用がない わけではない。副作用には眼瞼下垂、左片側横隔膜の上昇、左 腕や左顔面からの発汗 の減少などが含まれる。心 イベントの再発はLCSDを実施した 人にも報告されている。それゆえ、LCSDを検討する前に必ず薬理学的治療の最適化を図るべきである。
初期症状の予防
β遮断薬は、全ての臨床的 な罹患者 や(Treatment of manifestions参照)、 運動負荷試験が陰性であり CPVT 関連 遺伝子に 病的バリアントを持つ人へ 、 一次予防のために 指示される(classⅡa)。 推奨される薬は、 ナドロール(1日1~2.5mg/kg服用)またはプロペラノロール(1日2~4mg/kg服用)である。CPVTの症状が見られる罹患者 は、最大耐量を 続けるべきである。 運動負荷試験中にβ遮断薬のみ では不整脈の 発生を 制御できない 場合は、フレカイニド を心停止の 一次予防のために 追加する。
二次的な合併症の予防
二次的な合併症は、主に治療と関連する。
β遮断薬は アレルギー性喘息を悪化させることがある。それゆえ、心臓 に特化したβ遮断薬 であるメトプロロールは、喘息の既往のあるCPVT 罹患者に指示される。メトプロロールの投与量は、罹患者の必要 量を基にしている(≦3mg/kg)。注釈:メトプロロールと新β遮断薬(例:ビソプロロール)は、ナドロール やプロペラノロールと同じ効 果 はないという点を覚えておく事が大切である。この理由は、現在調査中である。
ICD装着者に対しては、血栓の形成を防ぐ抗凝血剤の投与が必要 と考えられる(特に右室カテーテルのルーピングが必要な子供の場合)。
経過観察
6 ~12ヶ月ごと (臨床 症状の深刻さによる)の 心臓病専門医 の定期的な 再診は、治療の効 果を 継続的に観察するために 必要である。これらの 診察は、下記の項目を含むべきである。
すべての許容される身体活動の制限は、病院で実施される 運動負荷試験に基づいて 決める。スポーツに参加する際の市販の心拍計の使用は、身体活動中 に心拍数を安全な範囲に保つために 有用であるが、医療 機関の再診の代わりとして考慮されるべきではない。
回避すべき薬剤と環境
競争的なスポーツ および他の 激しい運動は、常に禁忌 となる。運動誘発 性不整脈が見られるすべての 患者は 運動を避けるべきであるが、治療中 で 運動負荷試験 において不整脈が きちんと抑制されている人の軽い運動は 除外される。 治療の効果は、定期的に再検査される必要がある 点に注意する事が大切である(Heidbuchel et al 2006)。臨床的表現型がなく(運動誘発性不整脈なし) CPVT 関連 遺伝子 に 病的バリアントを持つ 人の、運動中の不整脈のリスクは不明である 。従って、これらの人にとって激しい身体活動 は控えることが一番の安全策である。
ジキタリスは、遅延後脱分極(DAD)および引き金となる運動によって、心筋不整脈の発症 に助力する。従って、CPVTの全ての罹患者において、ジキタリスを避けるべきである。
リスクのある血縁者 の診断
治療と経過観察によって有病率と死亡率を軽減させる事が可能であるため、家族特有の病的バリアントが見つかっている場合、第一度近親者 に対して臨床的な精密検査や分子遺伝 学的検査を提案するべきである。実際、病的バリアントを持つ人が早くに診断されている場合、予防的治療の効果的な利用が可能である ため、致命的な不整脈イベントの数を減らす事ができる。
家族特有の病的バリアントが見つかっていない場合、罹患者の全ての第一度近親者は、安静時心電図、ホルター心電図、および最も重要な運動負荷試験を用いて評価されるべきである。
遺伝カウンセリング目的のリスクのある 血縁者の検査に関する問題については、遺伝 カウンセリングを参照。
妊娠中の マネジメント
罹患者の妊娠中には、β遮断薬(ナドロールまたはプロペラノロールを優先)を投与するべきである。
研究中の治療
広範囲の疾患と症状についての臨床試験情報の詳細のアクセスは、USにおいてはClinicalTrials.govを、ヨーロッパにおいてはwww.ClinicalTrialsRegister.euを検索。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
カテコラミン感受性多形性心室頻拍(CPVT)に関連するCALM1とRYR2は、常染色体優性 遺伝形式で受け継がれる。CPVTに関連するCASQ2は、一般的に常染色体劣性 遺伝形式で受け継がれる。CASQ2関連のCPVTの常染色体優性遺伝は、現在までに一つの家族 で報告されている(Gray et al 2016)。この報告 に基 づき、家族へのリスク評価において、CASQ2関連のCPVTの常染色体優性遺伝の可能性 を 考慮 するべきである。
TRDN関連のCPVTは、常染色体劣性 遺伝形式で受け継がれる。
1つ以上のCPVT関連 遺伝子 がおそらく存在し、病的バリアントは常染色体劣性または常染色体優性 遺伝形式で受け継がれる 。
患者家族のリスク
家族へのリスク−常染色体優性CPVT
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の子孫
常染色体優性CPVTの罹患者の 子供 が、 病的バリアントを受け継ぐ可能性はそれぞれ50%である。
他の家族
他の家族 へのリスクは、発端者の両親の遺伝的状態による。片親が罹患している場合、その家系の家族はリスクを抱える。
家族へのリスク−常染色体劣性CPVT
発端の両親
発端者の同胞
発端者の子孫
常染色体劣性CPVTの人の子孫は、 病的バリアントの必然的なヘテロ接合体(保因者)である 。
他の家族
発端者の両親の各々 の同胞が 病的バリアントの保因者になるリスクは、50%である。
保因者(ヘテロ接合体)検査
家族に 病的バリアントが確認されている場合、リスクのある家族の保因 者検査は可能である。
遺伝カウンセリングに関連した問題.
早期 診断と治療の目的のための、リスクのある 血縁者 の評価 に関する詳細については、Management, Evaluation of Relatives at Riskを参照。
明白なde novo の病的バリアントを持つ家族 における 検討。常染色体優性の状態である発端者の親が、 どちらも病的バリアントを持た ず、 疾患の臨床的証拠がない場合、発端者は おそらくde novo の病的バリアントを持 つか、あるいは可能性は低いが、片親が生殖細胞系列モザイクである 。しかし、父親が異なる あるいは代理母(例:生殖補助医療によるもの)や開示されて いない養子縁組のような、 非医学的な説明による可能性も念頭におく必要がある 。
家族計画
DNAバンクは、将来的に利用するために (通常は白血球から抽出した)DNAを保管しておくことである 。検査方法 と遺伝子,アレルの変異,疾患への理解 は将来改善する可能性が高い ので、罹患者のDNAを保管しておくこと は 考慮されるべきである。
出生前検査と着床前の遺伝子診断
CPVT関連の 病的バリアントが罹患家族 に確認されれば、リスクの高い妊娠に対する出生前検査や着床前のCPVT遺伝 学的検査を提供することは可能である。
訳注:一般に本症に対して出生前診断の適応があるとは考えられていない.
特に出生前検査が 早期診断よりもむしろ妊娠中絶の目的のために考慮される場合、医療従事者や家族内での見解の違いが みられることがある。大抵の医療機関では出生前検査については両親の判断に任せるとしながらも、この問題については話し合うこと が適切である。
訳注:日本では行われない.
GeneReviewsの担当者は、 疾患を持つ個人やその家族のために、下記の疾患特異的 支持組織や登録所を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供された情報への責任は負わない。情報の選択基準の詳細は、ここをクリック。
下記の記述は最新の情報が含まれているため、GeneReviewsに記載されているほかの情報と異なる場合がある
表 A.カテコラミン感受性多形性心室頻拍:遺伝子とデータベース
遺伝子 | 染色体 座位 | タンパク質 | 座位特異的データベース | HGMD | ClinVar |
---|---|---|---|---|---|
CALM1 | 14q32.11 | カルモジュリン | CALM1 | CALM1 | |
CASQ2 | 1p13.1 | カルモケストリン-2 | CASQ2 データーベース | CASQ2 | CASQ2 |
RYR2 | 1q43 | リアノジン受容体2 | 心臓関連遺伝子 ーリアノジン受容体変異データベース RYR2データベース |
RYR2 | RYR2 |
TRDN | 6q22.31 | トリアジン | TRDNホームページ-ライデン筋ジストロフィーのページ | TRDN | TRDN |
データは、以下の 標準的参考資料をもとに作成した。 遺伝子はHGNC ;染色体 座位 はOMIM ;タンパク質はUniProt 。リンク先が提供された データベース( 座位特異、HGMD, ClinVar)の解説 は、ここをクリック。
表 B
OMIMにおけるカテコラミン感受性多形性心室頻拍 (OMIMを全て参照)
114180 | カルモジュリン1;CALM1 |
114251 | カルセケストリン2;CASQ2 |
180902 | リアノジン受容体2;RYR2 |
603283 | トリアジン;TRDN |
604772 | 心室頻拍、カテコラミン感受性多形性、1、心房性機能障害や拡張型心筋症を罹患する、ないしは罹患しない;CPVT1 |
611938 | 心室頻拍、カテコラミン感受性多形性、2; CPVT2 |
614021 | 心室頻拍、カテコラミン感受性多形性、3; CPVT3 |
614916 | 心室頻拍、カテコラミン感受性多形性、4; CPVT4 |
615441 | 心室頻拍、カテコラミン感受性多形性、5、筋力低下を伴う、ないしは伴わない;CPVT5 |
分子遺伝学的病因
CALM1、CASQ2、RYR2、TRDNは、細胞内 カルシウム 流入、筋小胞体のカルシウム放出、 細胞質 イオン化カルシウム濃度 に関連する。
CALM1の病的バリアントの作用は、1つの研究で しか 検証 されていない(Nyegaard et al 2012)。従って、CALM1関連 CPVTの病態生理 の大部分は不明である。現存するデータでは、 CALM1の変異は、 カルシウム結合親和性を低下させ、 低いカルシウム濃度になることで、カルモジュリン−リアノジン受容体の相互作用を 障害することを示唆している。これらの作用 は、リアノジン受容体(RYR2)チャンネルの不安定と、RYR2の 病的バリアント で見られる現象に似たCa2+「漏出」を引き起こす可能性がある。QT延長に関連するCALM1 の病的バリアント も、心 臓のカルシウム 動態の不活性化を 低下させる(Pipilas et al 2016)。
In vitroでのCASQ2の 病的バリアントの 発現は、RYR2の管腔 内Ca2+へ の反応性が高まることを一貫して 示している。そ の結果、 自発的なCa2+の 一過性の流入による期外収縮の誘発、細分化されたカルシウム波による遅延後脱分極(DAD)や不整脈 作用の 可能性を 導く。この 作用は、カルセケストリンポリマーのCa2+緩衝能 が変化した 結果であり、 あるいはその結果として CASQ2とRYR2の相互作用 を障害する(Viatchenko-Karpinski et al 2004, di Barletta et al 2006)。CASQ2 の病的バリアントはまた、電子顕微鏡でナノスケールのレベルで発見できる筋小胞体の超微細構造の異常 も引き起こす(Denegri et al 2014)。これが臨床 症状(例:心筋症の進行)に密接な関連があるか否かは不明である 。
カテコラミン感受性多形性心室頻拍(CPVT)の罹患者に 見られるRYR2 の病的バリアントは、交感神経(カテコラミン)活性化の状態で、筋小胞体(SR)からのCa2+「漏出」を引き起こす事を示した(Priori & Chen 2011)。結果として生じる 細胞質ゾル に関連しないCa2+濃度の異常な増加は 、電気 的に不安定な 回路基板を作る。CPVT のノックインマウスモデルにおいて(Cerrone et al 2005, Liu et al 2006)、CPVT における不整脈の 病因は、DADsの 発生と関連し発作 を引き起こす事が 明確に示された。さらに、 ヒトのp.Arg4497Cys(典型的で比較的よくあるCPVTの原因となるバリアント)病的バリアントのオルソロガスを持つ マウスから 単離された心臓の細胞は、ベースラインでDADを表したことから、RyR2の機能は 無刺激下の環境でも変化することが示唆されている。
COS-7細胞内の ヒトTRDNp.Thr59Arg の 発現は、変化したタンパク質の細胞内保持や 分解という結果をもたらした。これは、ウイルス形質導入によるトリアディンの遺伝子欠損マウスにおける 変異の in vivoで の 発現によって確認された。トリアディンタンパク質の欠如は、CASQ2(管腔内カルシウムセンサー)によって開くRyR2の 制御不能を引き起こすと思われる 。
CALM1
遺伝子構造。CALM1(NM_006888.4, cDNA 4268 bp)は、染色体14q32.11上のゲノム DNAの約10kb以上 に広がった6つのエクソンを含む。2つの 付加的なホモログ遺伝子(CALM2とCALM3)は ヒトゲノム 内に あり、類似の機能を を示す。遺伝子とタンパク質の情報の詳細な概要については、 表 Aの遺伝子を参照。
病的バリアント。 CALM1 の病的バリアントは2つのみ 、単一の研究にて報告されている(Nyegaard et al 2012)( 表 2参照)。
表 2
GeneReviewに掲載された CALM1 病的バリアント
DNAヌクレオチド変化 | 予測されたタンパク質変化(別 表記)1 | 参照配列 |
---|---|---|
c.161A>T | p.Asn53Ⅰle | NM_006888.4 NP_008819.1 |
c.293A>G | p.Asn98Ser(Asn97Ser) |
バリアントの 分類についての注釈: 表に 記載されている バリアントは、執筆者によって提供された。GeneReviewsのスタッフは、バリアントの分類 を自主的に立証していない。
命名法 についての注釈:GeneReviewsは、the Human Genome Variation Society(varnomen.hgvs.org)の標準命名規則に従った。命名法 の説明については、Quick Referenceを参照。
正常な遺伝子産物。この遺伝子は、典型的なカルシウム結合 部位を含む149種のアミノ酸からなるタンパク質を コードする(EFハンド)。RyR2 の他にCALM1 もまた、電位依存性カルシウムチャンネルと相互に作用する(CaV1.3)。
異常な遺伝子産物。(Molecular Genetic Pathogenesis参照。)カルモジュリンは(特にCNS内で)広範に 発現し、心 臓以外の表現型 も予測される(ただし 今までのところ、調査は不十分である)。
CASQ2
遺伝子構造。CASQ2 のコード領域は、1197のヌクレオチドと11のエクソンを包含する。遺伝子とタンパク質の情報の詳細な概要については、 表 A, Geneを参照。
病的バリアント。22種のCASQ2 の病的バリアント がCPVTに関連しており、 優性CPVT表現型に関連するp.Lys180Arg を除き、すべてのバリアントが劣性表現型 の原因となる (Gray et al 2016)。 表 3参照。CASQ2 の病的バリアント
DNAヌクレオチド変化 | 予測されたタンパク質変化 | 参照配列 |
---|---|---|
c.62delA | p.Glu21GlyfsTer15 | NM_001232.3 NP_001223.2 |
c.97C>T | p.Arg33Ter | |
c.539A>G | p.Lys180Arg | |
c.919G>C | p.Asp307His |
バリアントの分類 についての注釈: 表に記録されている バリアントは、執筆者によって提供された。GeneReviewsのスタッフは、バリアントの分類 を自主的に立証していない。
命名法についての注釈:GeneReviewsは、the Human Genome Variation Society(varnomen.hgvs.org)の標準命名規則に従った。 命名法の説明については、Quick Referenceを参照。
正常な遺伝子産物。CASQ2は、カルセケストリンの心臓のアイソフォームとして、リアノジン受容体に機能的 ・物理的に関連するSRタンパク質である カルセケストリン2 をコードする。CASQ2タンパク質は、リアノジン受容体に 近接 したSRの 終末槽の 段階で ポリマーを形成する。その機能は、Ca2+イオン の緩衝である。
異常な遺伝子産物。唯一 のCASQ2 の病的バリアントは in vitroで機能的に 特徴付けられている。 現存するデータでは、CASQ2関連のCPVTの病態生理 は、 以下のメカニズムに関連する。CASQ モノマーの重合能 がなくなり、カルシウム緩衝 能 が損なわれることにより、RyR チャンネル開放過程の間接的な不安定化が起こる。
RYR2
遺伝子構造。RYR2 のコード領域は、14901のヌクレオチドと104のエクソンを包含する。遺伝子とタンパク質の情報の詳細な概要については、 表 A, Geneを参照。
病的バリアント。CPVTを引き起こす150種以上のRYR2 の病的バリアントが、現在までに報告されている(Priori & Chen 2011)。 病的バリアントの24%は KBP12.6結合領域、カルシウム結合領域、膜貫通領域(C末端)を コード する領域の外 に位置 しているため、全体の コード領域と イントロン領域の両端 の シークエンス が最適である(Priori & Chen 2011)。
変異の ホットスポットは、 今のところ報告されていない。
エクソン をまたぐ欠失 が報告されている(Marjamaa et al 2009, Medeiros-Domingo et al 2009, Campbell et al 2015, Leong et al 2015)。
表4
RYR2 の病的バリアント
DNAヌクレオチド変化 | 予測されたタンパク質変化 | 参照配列 |
---|---|---|
c.6982C>T | p.Pro2328Ser | NM_001035.2 NP_001026.2 |
c.12602A>G | p.Gln4201Arg | |
c.13489C>T | p.Arg4497Cys | |
c.13957G>T | p.Val4653Phe |
バリアントの分類 についての注釈:表 eに記録されている バリアントは、執筆者によって提供された。GeneReviewsのスタッフは、バリアントの分類 を自主的に立証していない。
命名法についての注釈:GeneReviewsは、the Human Genome Variation Society(varnomen.hgvs.org)の標準命名規則に従った。 命名法の説明については、Quick Referenceを参照。
正常な遺伝子産物。リアノジン受容体(RyR2)は、心臓内でのSRの主なCa2+放出チャンネルである(George et al 2003)。電気的活性化と心筋細胞の収縮期が連結する「カルシウム誘発性 カルシウム放出」プロセスと呼ばれる、中心 的役割を果たしている。細胞膜の電位依存性チャンネルを通ってCa2+ が流入すると、リアノジン受容体は 筋線維 を収縮 させるためにSRに蓄えられたCa2+イオンを放出する。
異常な遺伝子産物。SR(マイクロモルの範囲)と 細胞質ゾル(ナノモルの範囲)の間のカルシウム濃度勾配は 著しい。これゆえ、RyR2チャンネルが開いている時、Ca2+イオンは 濃度勾配に沿って簡単に流れ出る。電気化学 的なカルシウム勾配は 高いため、RyR2の構造を不安定にするすべての状況は、無制御の流動を引き起こす。 In vitro の研究では、不完全なRyR2タンパク質 では、アドレナリン(カテコラミン)刺激 による カルシウム放出過程を繊細に制御するための能力を失う事 が示 されている。「貯蓄過負荷誘発性カルシウム放出 」 仮説は、Jiang et al (2004)とJiang et al (2005)によって 提唱された。こ のモデルによると、RyR2の 病的バリアント があると、自発的な流出 を決定づけるSR 内のCa2+の量 が減少する事となる。これは、変化したリアノジン受容体タンパク質が、弱くなったドメインの相互作用(「アンジッピング:ジッパーを開ける」)と、チャンネルの過剰活性化 または過敏化を促進する事を論証したGeorge et al (2006)(と他の執筆者)により示されたように、分子内のドメインとドメインの相互作用による可能性がある。最後に、管腔 あるいは細胞質カルシウムに対する 感度の増加(与えられたカルシウム濃度における開放確率の増加)が 報告されている(Priori & Chen 2011)。
RDN
遺伝子構造。最も長いTRDN の 転写バリアントNM_006073.3は、41のエクソンを構成する。 あるいは、複数のアイソフォームを コードする スプライシングを受けた転写バリアント がこの遺伝子 に観察されている。遺伝子とタンパク質の情報の詳細は、 表 A Geneを参照。
病的バリアント。3つのTRDNの病的バリアントは、すべてホモ接合体および複合ヘテロ接合 体において臨床的表現型 の原因となり、 CPVTと関連する。 表 5参照。
表 5
TRDN の病的バリアント
DNAヌクレオチド変化 | 予測されたタンパク質変化 | 参照配列 |
---|---|---|
c.53_56delACAG | p.Asp18AlafsTer14 | NM_006073.3 NP_006064.2 |
c.176C>G1 | p.Thr59Arg | |
c.613C>T1 | p.Gln205Ter |
バリアントの分類についての注釈: 表に記載 されている バリアントは、執筆者によって提供された。GeneReviewsのスタッフは、バリアントの分類 を自主的に立証していない。
命名法についての注釈:GeneReviewsは、the Human Genome Variation Society(varnomen.hgvs.org)の標準命名規則に従った。 命名法の説明については、Quick Referenceを参照。
正常な遺伝子産物。TRDNは、機能的・物理的にリアノジン受容体に関連するSRタンパク質であるトリアディンを コード する(OMIM603283)。 トリアディンの不足は、CASQ2タンパク質レベルの減少と、CASQ2 ノックアウトで観察されたものに類似 するT 管の微細構造の異常と関連する。これは カルシウム放出過程に影響を与え、より具体的に言うと、RyR2 変異において観察されたものと類似する拡張期 のカルシウム 漏出を引き起こす。
異常な遺伝子産物。CPTV罹患者(二組の家族)に見られるTRDNの 病的バリアントは、タンパク質の 発現減少に関連している。機能的な研究は 不足しているが、トリアディンの 不足が、CASQ2の 病的バリアント で観察されたものと類似したRyR2チャンネルの開口過程の 間接的な不安定化を引き起こす 可能性がある。
Gene Reviews著者: Sara Huston Katsanis, MS and Ethylin Wang Jabs, MD
日本語訳者: 箕浦祐子(札幌医科大学大学院医学研究科修士課程遺伝カウンセリングコース),櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
AMED「医療現場でのゲノム情報の適切な開示のための体制整備に関する研究」班(研究開発代表者:小杉眞司)
Gene Reviews 最終更新日: 2016.10.13 日本語訳最終更新日: 2018.9.15(in present)