Gene Review著者: Edward G Neilan, MD, PhD
日本語訳者: 佐藤亜位 (信州大学医学部附属病院加齢総合診療科)
Gene Review 最終更新日: 2006.3.7.日本語訳最終更新日: 2006.7.31
疾患の特徴
コケイン(Cockayne)症候群は、以下に分類される。
”古典型”とされるコケイン症候群(CS)I型、出生時より症状が出現し、重症型とされるコケイン症候群(CS)II型(cerebro-oculo-facial syndrome(COFS),またはPena-shokeir 症候群II型としても知られる)、より軽症のコケイン症候群(CS)III型、そして色素性乾皮症-コケイン症候群(XP-CS)である。 CSI型は胎生期および出生直後の成長は正常であるが、2歳までに成長障害が出現する。次第に疾患の特徴は明らかとなり、身長、体重、頭囲は正常の5パーセンタイルを遙かに下回る。視力障害、聴力障害、中枢神経および末梢神経障害の進行により重度の身体障害を来たし、10~20歳代で死亡する。CS II型(“先天性”)CSは、出生時からの成長障害を特徴とし、ほとんど神経学的な発達を伴わない。先天性の白内障あるいは眼の構造異常を認め、出生早期から脊柱の側彎、後彎、関節の拘縮がみられる。多くは7歳までに死亡する。CSIII型は、ほぼ正常の成長・認知機能発達あるいは遅い時期の発症を特徴とする。XP-CSは顔面の雀斑、若年で発症する皮膚癌などのXPの特徴と、知的障害、筋緊張の亢進、低身長、性腺機能低下症といったCSの特徴を併せもつが、CSに特異的な骨格異常や特徴的な顔貌、中枢神経系の脱髄や石灰化はみられない。診断・検査
古典型CSは、他の副徴候に加えて、出生後の成長障害、進行性の神経障害を含んだ臨床所見から診断される。非典型的な症例は遺伝学的検査が必要かもしれない。CSにおいてはERCC6 (75%の症例)とERCC8(25%の症例)の2つが責任遺伝子である。両方とも臨床的にシークエンス分析が可能である。
臨床的マネジメント
個人個人に応じた教育プログラムと支援計画が必要である。関節拘縮の予防や歩行の維持には理学療法が有用である。胃瘻による経管栄養は低栄養を予防する。筋緊張の亢進は薬剤によって軽減される。聴力障害、白内障あるいはその他の眼科的合併症、齲歯などは一般的な治療と同様である。日焼け止め、サングラスなどを用い過剰な日光に曝露されないよう予防することも必要である。経過観察には1年ごとの高血圧、腎機能・肝機能障害、視力・聴力障害などの合併症評価も含まれる。
遺伝カウンセリング
CSは常染色体劣性遺伝性疾患である。患者の両親はどちらも遺伝子変異をもつキャリアである。ヘテロ接合体は症状を呈さない。患者の同胞が罹患する確率は25%,無症候性保因者となる確率は50%,罹患せず保因者にもならない確率は25%である。CSの患者で生殖が可能であった報告はない。患者の遺伝子異常が同定されているのであればその家族が保因者であるか否か同定することは臨床的に可能である。出生前診断は検査を提供している施設において可能である。
臨床診断
ケイン(Cockayne)症候群は、様々な速度で進行する成長障害と全身性の変性疾患として特徴づけられ、3つの臨床型に分類される。
CSI型についてのみ、正式な診断基準が提唱されている。
CSは進行性が特徴であるため、時間経過により徴候や症状が徐々に明らかになるにつれて臨床的な診断が確定される。
いずれの病状の進行状態においても臨床検査は臨床的診断を確定する上で有用であると思われる。
古典的”コケイン症候群(CS I型)が疑われる場合
主徴候
副徴候
家族歴
同様の徴候をもつ同胞の存在は診断に有用である。
先天性Cockayne 症候群(CS II型)が疑われる場合
検査
細胞表現型のアッセイ
皮膚の繊維芽細胞を用いてDNA修復アッセイが行われる。CSの繊維芽細胞において最も重要な所見は、紫外線に高感受性を示すことであり、紫外線障害によるRNA合成の回復がおこらず、転写された遺伝子の損傷修復、又は“転写と共役した修復”がみられない。DNA修復アッセイは研究ベースでのみ行われている。
CSの患者から得られた細胞は、DNA修復欠損をもとにもどす蛋白により2つの相補性群に分類される。コケイン症候群A(患者の25%)でみられるWDリピート蛋白であるCSAと、コケイン症候群B(患者の75%)でみられる除去修復蛋白であるERCC6である。相補性検査は研究ベースでのみ行われている。
分子遺伝学的検査
遺伝子 コケイン症候群に関連する遺伝子としては以下の2つが知られている。
分子遺伝学的検査:臨床的利用
分子遺伝学的検査:臨床的検査法
シークエンス解析
図1に分子遺伝学的検査のまとめを示した。
図1 コケイン症候群において用いられる分子遺伝学的検査
分類 | 出現頻度 | 検査法 | 検出できる変異 | 変異検出率 | 利用可能度 |
---|---|---|---|---|---|
CSA | 25% | シークエンス解析 | 点変異、小さな挿入/ ERCC8の欠失 | ~70% | 臨床利用可能 |
CSB | 75% | シークエンス解析 | 点変異、小さな挿入/ ERCC6の欠失 | >95% | 臨床利用可能 |
検査結果の解釈
シークエンス分析結果の解釈については、こちらを参照のこと。発端者に対する検査手順
コケイン症候群の75%の原因はERCC6の変異であり、残りの25%がERCC8の変異であることからERCC6のシークエンスをまず行う。異常が認められなかった場合、次にERCC8シークエンスを行う。
遺伝学的に関連する疾患
ERCC6 ERCC6の変異は、以下の疾患においても同定される。
自然経過
コケイン(Cockayne)症候群の分子遺伝学が明らかになるまでは、“古典的コケイン症候群”というひとつの独立した表現型のみだと考えられていた。現在ではコケイン症候群にはCS I型(古典型)、出生時より症状が出現する重症型(以前はCOFS,またはPena-shokeir 症候群II型と呼ばれていた)のCSII型、より軽症のCSIII型、色素性乾皮症-コケイン症候群(XP)-CS が含まれることが知られている。
DNA 修復機能に対する生化学的な分析や、DNA修復遺伝子の分子遺伝学的検査を用いても同疾患を完全に分類するには至っていない。同じ遺伝子の同じ変異があっても表現型は軽症にも重症にもなり、臨床的な表現型が似ていても生化学的な特徴は異なっていたりする。ある患者は表現型はCOFS であるが相補的性群である色素性乾皮症-D(XP-D)と色素性乾皮症-G(XP-G)の生化学的な特徴をもっており、このことから生化学的にはCOFSとコケイン症候群は完全にはオーバーラップしないことが示唆される。これらの診断上の矛盾はRapin らの文献で詳細に検討されている。
CSI型
出生前の成長は正常である。出生時体重、身長、頭囲は正常であるが2歳までに成長発達の遅れがみられるようになる。疾患が明らかになる頃には体重、身長、頭囲は5パーセンタイルを遙かに下回る。視力、聴力、中枢および末梢神経系の障害が進行し、重度の身体障害をきたす。86%以上の患者で重症の齲歯がみられる。日光過敏性も高度であるが、皮膚癌は発症しない。
10%以上の患者に以下の付随する臨床的症状が認められる
多くは10~20歳代で死亡する。平均寿命は12歳であるが、30歳代まで生存した症例も報告されている。
CSII型
“先天性”CSの患者は、出生時からの成長障害を特徴とし、神経学的発達がほとんどない。30%に先天性の白内障あるいは眼の構造異常を認める。関節の拘縮、出生直後からの脊柱の変形(側彎、後彎)が認められる。患者の多くは7歳までに死亡する。CSII型は臨床的にCOFS(cerebro-oculo-facial syndrome),またはPena-Shokeir 症候群II型として知られる疾患と臨床的にオーバーラップしている。あるCOFSの家系でERCC6の変異が同定されたことによって、それまでCOFSまたはPena-Shokeir 症候群Ⅱ型とされていた患者で、ERCC8またはERCC6の変異または特徴的なDNA修復障害をもつ場合の正しい診断はCSⅡ型であるとされるようになった。
CSIII型
近年、CSの臨床的な特徴をもつ複数の患者でDNAシークエンスが施行され、CSII型の診断が確定されたが、CSI型に比し成長・認知機能は保たれていた。
色素性乾皮症-コケイン症候群
CSの原因遺伝子が同定されたことによって、遺伝子型、細胞の表現型、臨床的な表現型の区別は完全でないことが明らかになった。色素性乾皮症はDNA修復障害に関連した疾患であるが、顔面の雀斑と皮膚癌の早期出現というコケイン症候群にはみられない特徴がある。XPの亜型であるDeSanctis-Cacchione は、知的障害、筋緊張の亢進、低身長、性腺機能低下症といったCSにみられる特徴を備えているが、骨格の異常やCSに特徴的な顔貌、中枢神経系の脱髄、石灰化は認められない。XPの臨床的な表現型を示すある患者では、CSの細胞性表現型とERCC6遺伝子の変異がみられた。反対にCSの臨床的特徴をもち、XPのような皮膚癌はみられない患者において、生化学的な特徴(異なったDNA修復障害をもつ細胞系を元に戻す)により相補的性群であるXPB,XPD,XPG が原因であることが報告されている。CSの特徴をもつ患者で、日光過敏性のない症例も報告されている。Malleryらはこの疾患の分類上遺伝子型と表現型はあまり相関がないと示唆している。
神経病理学:脳の白質皮質下の特徴的な“虎斑”状の脱髄、多発性のカルシウム沈着がみられるが
比較的神経細胞は保たれている。
老人斑、アミロイド、ユビキチン、タウ蛋白の沈着はみられない。
遺伝子型と臨床型の関連
コケイン症候群に遺伝子型と臨床型の関連が存在するか否かは今のところ明らかではない。
最近の報告ではERCC8およびERCC6の変異のいずれにも明らかな遺伝子型と臨床型の関連を認めないとしており、このことは遺伝子変異のみではCSの臨床的な多様性は説明できないということをしめしている。
しかしながら更に近年、ERCC6遺伝子の完全欠損は、CSを発症せず、軽度のUV感受性症候群をきたすことが報告された。このことは少なくともERCC6に関与する症例においては遺伝子型と臨床型の関連があることを示唆しているかもしれない。
病名
COFS(cerebro-oculo-facio-skeletal syndrome)とその同義語であるPena-Shokeir 症候群Ⅱ型という呼称は先天性の神経性関節拘縮、小頭症、小眼球症、白内障といった特徴を持つ遺伝学的には異なった疾患群に用いられている。その表現型には少なくとも3つの遺伝子異常が関与しているが、より詳細な遺伝子学的診断が不可能な患者に対し、COFSという呼称は残しておくべきであろう。
頻度
CSの頻度は明らかではない。今まで報告されているのは個人あるいは1家系の報告である。稀な疾患の頻度として一般的に用いられる数字は1/100,000であるが、CSはより頻度が低いと思われる。1992年までの文献上は少なくとも140症例が報告されている。隔絶された集団または近親婚の多い集団で多い。遺伝子学的に関連疾患であるCOFSは最初にカナダのマニトバの隔絶された原住民族のなかで報告されている。
CSの鑑別診断は、その患者に認められる特徴による。他の疾患を示唆する異常としては、先天性の顔面奇形、四肢の奇形、心奇形、内臓奇形、反復性の感染症(中耳炎、呼吸器感染症以外)、代謝性または神経性のクリーゼ、血液学的異常(貧血、白血球減少など)そして各種の癌などが挙げられる。
しかし進行性の神経変性を認めず、DNAヌクレオチド除去修復が正常である点で異なる。
病像を把握するために最初の診断時に行う評価
病変に対する治療
一次病変の予防
白内障発症予防リスクを減らすため、サングラスを用いる。
二次病変の予防
経過観察
高血圧、腎機能障害、肝機能障害、視力・聴力の低下といっった出現する可能性のある合併症については1年ごとに評価を行う。
リスクのある親族の検査
乳幼児期にある同胞に対しては定期的な成長発達評価を行い、診断学的な臨床検査も行うほうがよいであろう。
回避すべき薬物や環境
過剰な日光曝露。
研究中の治療法
さまざまな疾患の臨床研究についてはhttp://clinicaltrials.gov/を参照のこと・・・
その他
コケイン症候群における成長ホルモン(GH)は、上昇あるいは低下しているかもしれない。GH欠損のある患者には理論的にはGH投与は有効である可能性がある。しかしこの治療法は確立されておらず、GHを投与したある患者の成長は改善しなかったという報告がある。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質、遺伝、健康上の影響などの情報を提供し、彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである。以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価、遺伝子検査について論じる。この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし、遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない。」
遺伝形式
コケイン症候群は、常染色体劣性遺伝性疾患である。
患者家族のリスク
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の子
コケイン症候群Ⅰ型、Ⅱ型においては生殖可能であったという報告はない。Ⅲ型の女性が出産したという報告が一例ある。患者の全ての子孫は必ず保因者となる。
発端者の他の家族
患者の両親の同胞は50%の確率で保因者である。
保因者診断
患者に遺伝子変異が同定された場合、リスクをもつ家族に対しキャリア診断が臨床ベースで可能である。遺伝カウンセリングに関連した問題
家族計画
遺伝的リスクの評価や遺伝カウンセリングは妊娠前に行われるのが望ましい.患者家族が遺伝子検査を受ける場合も同様である.
DNAバンキング
DNAバンクは主に白血球から調製したDNAを将来の使用のために保存しておくものである.検査法や遺伝子,変異あるいは疾患に対するわれわれの理解が進歩するかもしれないので,DNAの保存は考慮に値する.ことに現在用いられている分子遺伝学的検査の感度が100%ではないような疾患では特に重要である.
出生前診断
出生前診断は分子遺伝学的検査の項で述べた方法を用いて,技術的には可能である.DNAは胎生16-18週に採取した羊水中細胞や10-12週*に採取した絨毛から調製する.出生前診断を行う以前に,罹患している家族において病因となる遺伝子変異が同定されている必要がある.
注:胎生週数は最終月経の開始日あるいは超音波検査による測定に基づいて計算される.
着床前診断
訳注:日本では行われていない.